トスカ
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7部分:第一幕その七
第一幕その七
スカルピア 「アッタヴァンティ家の紋章だな。では奴の妹が手引きしたのか」
スキャルオーネ「おそらくは」
スカルピア 「そしてもう逃げた後か。大砲を撃ったのは失敗だったな。鼠に気付かれてしまった」
スキャルオーネ「申し訳ありません」
スカルピア 「まあいい。命じたのは私だしな。やはり妹の姿もないな・・・・・・いや」
ここで中央の絵に気付く。
スカルピア 「ここにいた。これはマグダラのマリアか」
警官達 「どうやらそのようです」
スカルピア 「描いているのは誰だ?」
スポレッタ 「確かマリオ=カヴァラドゥッシ子爵です」
スカルピア 「あのフランスかぶれのジャコビーニか。中々尻尾を出さないな」
スポレッタ 「はい」
スカルピア 「ふん。何か引っ掛かるものがあるが」
ここでゼッナリーノが通り過ぎる。スカルピアはふと彼を見て呼び止める。
スカルピア 「待て」
ゼッナリーノ 「(ぎくりとした様子で)な、何か」8
スカルピア 「その手に持っているものは何だ?籠のようだな」
ゼッナリーノ 「その籠ですが」
スカルピア 「何が入っている?見せてみろ」
ゼッナリーノ 「はあ」
おずおずと差し出す。しかしその中には何もない。
スカルピア 「何もないか。中には何を入れていた?」
ゼッナリーノ 「旦那様のおやつです」
スカルピア 「おやつか」
ゼッナリーノ 「はい、パンにいちじくにコールドチキン、そしてワインです」
スカルピア 「昼食か?子爵はいつもそんなに召し上がられるのか」
ゼッナリーノ 「いえ」
首を横に振ってそれを否定する。
ゼッナリーノ 「全くです。ましてや今日はお腹が空いていないと仰っていました」
スカルピア 「そうなのか」
ゼッナリーノ 「左様です。それが何か」
スカルピア 「いや、いい。聞いただけだ」
そう言って手で彼を下がらせる。それからエウゼッペにまた顔を向けて問う。
スカルピア 「おい、堂守」
エウゼッペ 「は、はい」
また怯える声で応える。また災難が降りかかったといった顔になっていた。
スカルピア 「子爵の他には誰か来られたか」
エウゼッペ 「子爵のお兄様が」
スカルピア 「伯爵殿か。あの方はいい」
エウゼッペ 「あの方はですか」
スカルピア 「オーストリアの方だしな。それに心も確かな方だ」
エウゼッペ 「はあ」
スカルピア 「だから間違いはないだろう。他には誰が来たのだ?」
エウゼッペ 「他は」
ここで絵に捧げてある花束に気付く。これを見てスカルピアに述べる。
エウゼッペ 「トスカさんが来られたようですね。花束があるところを見ると」
スカルピア 「トスカ!?フローリア=トスカか」
エウゼッペ 「はい」
その言葉に首を引っ込めるようにして頷く。スカルピアもその名を聞いて何かを考えたようであったがすぐにそれを厳しい顔の中に消していく。
スカルピア 「神と王家には忠実な女だがあの男の恋人でもあったな。目をつけておいて損はあるまい」
意味ありげに言う。そこで寺院の正門から枢機卿が行列を従えてやって来る。市民も聖歌隊も警官達も恭しく頭を垂れる。スカルピアもそれは同じだ。
スカルピア 「さて」
スカルピアはその中で独白する。
スカルピア 「これからどうするから。思わぬ方向へ話が行くかもな」
こう呟いてから側近の一人に声をかける。
スカルピア 「コロメッティ」
コロメッティ 「はい、何か」
スカルピア 「捜査は終わりだ。マレンゴの勝利への感謝を主とマリア様に捧げた後でファルネーゼに帰るぞ、いいな」
コロメッティ 「わかりました」
教会にいる全ての者が讃歌『テ=デウム』を歌い祈りを捧げる。厳粛なパイプオルガンと詠唱が教会の中を包み込む。その中で幕は降りる。
神である貴方を私達は誉め讃え
主である貴方を私達は信じます
全ての者は永遠の父である貴方を崇めます
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