トスカ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
29部分:第五幕その三
第五幕その三
カヴァラドゥッシ「君は・・・・・・」
トスカ 「チヴィタヴェッキアから海に出ましょう」
カヴァラドゥッシ「うん」
トスカ 「その前に大きなお仕事があるけれど」
カヴァラドゥッシ「処刑場だね?」
トスカ 「そう。その時これを持ってて」
あの十字架を出してくる。
トスカ 「これをね」
カヴァラドゥッシ「それは?」
十字架を見て怪訝な顔になる。
トスカ 「ファルネーゼ宮殿である方から頂いたの」
カヴァラドゥッシ「ある方に?」
トスカ 「ええ。緑の目をした紅い服の方にね。何かあった時に必ず護ってくれるだろうからって。貴方はこれから銃の前に立たないといけないし」
カヴァラドゥッシ「持っていろってことかな」
トスカ 「御願い」
カヴァラドゥッシを見上げて言う。
トスカ 「これを持っていて」
カヴァラドゥッシ「けれど僕は」
困った顔になる。
カヴァラドゥッシ「いや、もらうよ」
考えをあらためた顔で述べる。
カヴァラドゥッシ「それでいいよね」
トスカ 「是非。お願い」
カヴァラドゥッシ「わかたよ。それじゃあ」
トスカ 「ええ」
こうしてカヴァラドゥッシはトスカの十字架を受け取って上着の胸のところにしまう。そこにスポレッタが看守と共に礼拝堂にやって来る。
スポレッタ 「閣下、申し訳ありませんが」
カヴァラドゥッシ「(スポレッタに顔を向けて微笑んで」わかっている。用意はできているよ」
スポレッタ 「それでは」
カヴァラドゥッシ「うん、行くよ」
行こうとするところでトスカがそっと近付く。そうして小声で囁く。
トスカ 「上手くやってね。最初の銃声で倒れるのよ」
カヴァラドゥッシ「うん」
トスカ 「そして私が呼び掛けるまでは立たないぜ」
カヴァラドゥッシ「わかったよ。舞台でのフローリアみたいにすればいいんだね」
トスカ 「そうよ、そうすればいいから」
カヴァラドゥッシの言葉にこくりと頷く。
カヴァラドゥッシ「わかったよ、それじゃあ」
トスカ 「御願いね、それだけは」
カヴァラドゥッシは礼拝堂を出ようとする。ここでトスカはスポレッタに行ってきた。
トスカ 「私も一緒に来ていいでしょうか」
スポレッタ 「貴女もですか」
トスカ 「宜しいでしょうか」
じっとスポレッタを見て問う。真摯な顔である。スポレッタはそれを見てトスカに対して答える。しかし深刻な顔であまり嬉しそうではない。
スポレッタ 「いいですが。宜しいのですね」
トスカ 「!?」
スポレッタ 「本当にそれで」
トスカ 「何がでしょうか」
わからないといった顔であった。
トスカ 「一体どうして」
スポレッタ 「もう一度御聞きします」
怪訝な顔でまたトスカに問う。
スポレッタ 「本当にそれで宜しいのですね、それで」
トスカ 「はい」
こくりと頷いてくる。
トスカ 「それで御願いします」
スポレッタ 「わかりました。ではこちらへ」
トスカ 「ええ、それでは」
トスカは処刑場について行く。場所はサン=タンジェロ城の屋上である。
屋上は実に殺風景な石造りとなっている。舞台の中央の一際高い場所に今剣を収めんとするミカエルの像がある。まるで今から起こる光景を見守らんとするかのようにそこに立っている。
スポレッタ 「それでは閣下」
処刑場に着くとカヴァラドゥッシに声をかける。
スポレッタ 「あちらへ」
カヴァラドゥッシ「うん」
スポレッタの言葉に頷いて舞台の右端へ行く。トスカは中央のミカエル像のすぐ下に立つ。やがて舞台左手から銃を持つ兵士達がやって来る。その中にいる下士官がカヴァラドゥッシに歩み寄り目隠しを渡そうとするが彼は微笑んでそれを拒む。
ページ上へ戻る