トスカ
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28部分:第五幕その二
第五幕その二
トスカ 「私の愚かな嫉妬が貴方を苦しめてしまって」
カヴァラドゥッシ「いや」
だがカヴァラドゥッシはあらたまって言う。
カヴァラドゥッシ「謝るのは僕の方だ。いつも君を惑わせて酷いことも言ってしまった。君との最後の別れの時になってそれが大いに悔やまれる」
トスカ 「これが最後のお別れではないのよ」
カヴァラドゥッシの腕の中で首を横に振って述べる。
カヴァラドゥッシ「(その言葉に大いに驚いて)えっ!?」
トスカ 「スカルピア総監に私が頼み込んだの。それで貴方の命が助かったのよ」
カヴァラドゥッシ「彼が!?まさか」
ここでスポレッタはカヴァラドゥッシに対して無言で頷いてくる。
カヴァラドゥッシ「本当なのか」
トスカ 「貴方は銃殺にされるわ。けれど安心していいのよ。銃には火薬だけ詰めて貴方を撃つ真似をするだけ。処刑場で兵隊さん達が銃を撃ったらそれに合わせて倒れて。兵隊さん達が引き揚げたら私達はローマを出られるのよ」
カヴァラドゥッシ「(いぶかしむ顔で)そんなことが本当に」
トスカ 「これが証拠よ」
旅券を取り出してカヴァラドゥッシに見せる。
トスカ 「ほら、見て」
カヴァラドゥッシ「(旅券を受け取って)フローリア=トスカと」
トスカ 「(一緒になって読んで)同行の騎士の自由通行証」
カヴァラドゥッシ「じゃあ本当に」
トスカ 「そうよ、貴方は自由の身なのよ」
カヴァラドゥッシ「スカルピアのサインに印まである。まさか」
トスカ 「そう、そのまさかよ」
カヴァラドゥッシ「警部」
まだ信じられずスポレッタに顔を向けて問う。
カヴァラドゥッシ「信じて宜しいのでしょうか」
スポレッタ 「は、はい」
答えはするが不自然で目が泳いでさえいる。言葉もぎこちない。
スポレッタ 「私も保証しますので。御安心下さい」
カヴァラドゥッシ「(何かと悟った目と声で)そうですか」
スポレッタ 「そうです。では私は準備を進めに行きますので。夜が明けないうちが御二人にとって宜しいでしょう」
スポレッタは二人から視線を逸らしている。カヴァラドゥッシはそれに気付いているがトスカは気付いてはいない。そうしてやり取りを続ける。
トスカ 「警部さん、有り難うございます。貴方に神の御加護がありますように」
スポレッタ 「いえ、そんな。それでは私はこれで」
二人から目を合わせないようにしてそそくさと礼拝堂を後にする。カヴァラドゥッシはあらためてトスカに問う。
カヴァラドゥッシ「しかしこれはどういうことなんだい?あの男が僕達にはじめて恩恵を与えるなんて」
トスカ 「あの男は私に詰め寄ってきたの。貴方の命か私の愛かを」
カヴァラドゥッシ「そうだったのか。そして君は」
トスカ 「拒もうとしたけれど無駄だったわ。そして遂に私は彼と約束をしたの」
カヴァラドゥッシ「(その言葉に顔を青くさせて)それじゃあ君はまさか」
トスカ 「けれどそこで私の目に光る刃が目に入ったわ。あの男はこの旅券を手に私を抱き締めに来たけれどその刃であの男の胸を」
カヴァラドゥッシ「刺し殺したのか」
トスカ 「(こくりと頷いて)ええ、そうよ。この手で」
カヴァラドゥッシ「君がその手で。僕の為に」
トスカの手を取り言う。
カヴァラドゥッシ「その為にこの手が血に塗れたのか。白く美しいこの手が」
トスカ 「貴方の為になた私は血に塗れても構わないわ」
カヴァラドゥッシ「そこまで言うのかい」
トスカ 「ええ、だって貴方は私が愛するただ一人の人だから」
カヴァラドゥッシ「フローリア・・・・・・」
その言葉に感動してトスカを強く抱き締める。
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