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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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深淵-アビス-part1/安息無き戦士

「ぐぅ…」
アスカは森の中で、ダイナの姿から元の人間の姿に戻っていた。周囲を確認し、ここがどこかの森の中であることが想像がつく。皆の姿が見当たらない。
皆は無事だろうか。あの炎の空賊たちの船はティファニアたちを連れて行ってくれただろうか。
そして何より…あいつは?
森の中を歩いて、アスカは仲間たちを探しに向かう。
しばらく歩くと、誰かが倒れているのが目に入った。
「シュウ!」
そこに倒れていたのは、なんとシュウだった。駆け寄って彼を起こそうとするが、その時だった。アスカの前に白い炎が発生し、彼の行く手を阻んでしまう。
「そいつは、俺の獲物だ。手を出さないでもらおうか」
聞き覚えのある声が、炎の向こうで倒れているシュウのさらに向こうの闇の中から聞こえてきた。闇の中からさらに、一人の巨漢が姿を見せる。
「てめえ…」
奴の姿を直接見たのは初めてだ。だが、アスカはその男はが誰なのかすぐに想像できた。
こいつは、あの時の黒いウルトラマンだ!
「お前こそそいつに触んな!どうせロクでもねぇこと企んでるんだろ!」
「企む?俺はただ、少しばかり忘れていた仕事をやり直そうとしていただけだ。こいつとの殺し合いは仕事なんぞ忘れるほど楽しくて仕方がなかったからな」
アスカの怒鳴り声を流し、メンヌヴィルは意識のないシュウを肩に担ぐ。シェフィールドからの、虚無の担い手とその使い魔を誘拐…難しい場合は抹殺せよと言う依頼をようやく思い出したらしい。
「そろそろ戻らねば依頼主がうるさいからな。こいつはもらっていくぞ」
メンヌヴィルがそこまで言ったところで、彼の背後から奇妙な現象が発生する。後ろの空間が渦を巻くようにグニャリとねじ曲がり出した。その中に、シュウを担いだままメンヌヴィルは飛び込んでいく。
「待ちやがれ!」
それを見逃すアスカではなかった。メンヌヴィルの炎など意に返さず、自らもその歪みの中に飛び込む。アスカも飲み込んだあと、その歪みは跡形もなく消え去った。



あの雨の日…過去の悪事を暴露されたリッシュモンが逃亡した矢先、何者かに暗殺された。それが何かのきっかけとなったのか、彼のように悪事に身を染めていた貴族たちは、アンリエッタ主導の作戦によって全てに至らなかったものの、大半が逮捕・最悪の場合は処刑された。
サイトはあの日の雨の夜の中、ひとつの悲劇を目の当たりにし、危うく心が真っ黒に塗りつぶされるところだった。かつての経験のおかげだろうか、日を待たずになんとか立ち直ることができた。
怪獣もゼロに倒され、町の人たちに平穏がまた戻ってくる。
しかし、まだ彼らに平穏は戻らない。彼らの戦いはまだ、始まったばかりなのだから。

と、その前に…

「ここなら、しばしの時間を稼げよう」
「王子、私はやはり帝国に戻りましょう。私が戻りさえすれば、この戦は収まるはずです。王子のお命も、お父様たちにお願いしてご助命を申し出ます」
「だめだ、姫。それでは僕は君を失うことに…」
なぜかサイトたちは、リッシュモンの謀反事件でうやむやになったウェザリーの舞台に再び役者として立っていたのだ。アンリエッタが、自分たち貴族のいざこざに巻き込んでしまった侘びとして、ウェザリーのためにも一度劇をやってほしいと、ルイズたちに無理を承知で頼み出たのである。少し渋っていたところもあるが、せっかく稽古を真面目にこなしていたのに、ここで中止にしたままだと後味が悪いと考えたルイズが自らやると答え、それに対抗してキュルケ…やがて全員が結局舞台をもう一度やってあげようということになったのである。
すでに今、クライマックスのシーンに入っていた。
サイトの演じるケイン王子はある日、ヒロインにしてこの劇の主人公であるノエル王女に愛の告白をすでに交わしていたが、姫はその返事を長らく答えないままうやむやにしていた。
その間、王子以外にもノエルに求婚を申し出るが、ケイン以外誰もがノエルが課した求婚の条件を突破できずに破滅していった。
それでも二人は恋人同然の関係のまま、互いに楽しい日々を過ごしていたのだが、ノエル王女の祖国が宣戦布告し、ケイン王子の国に攻め入ってきたのだ。そして、王子の国はついに首都の防衛網を破られ、城に敵国の兵が押し寄せてしまった。
今、ノエルとケインは城にある塔の最上階にいるという設定だ。セットも城の塔をしっかり再現しており、高い位置にまで高くそびえている。
シリアスかつ悲壮感に満ちた雰囲気が、劇場内を漂う。
「ですが、このままでは王子は国とお命…すべてを失ってしまいます!」
ノエルが、自らの身を祖国に差し出すことで、なんとしても愛するケインとその国を守ろうと提案するが、ケインは首を横に振る。
「王国がなんだというのだ…死がなんだというのだ!僕にとって君を失うことは…死や亡国よりも恐ろしい!」
ケインは、たとえノエルが祖国に戻り、皇帝に口添えしたところで自分が助かる可能性はないことは察していた。なにせ殺し合いをした敵国の王子を、みすみす生かしておくはずがない。むしろ、敵国の王子を愛したという疑惑を周囲に知らしめ、ノエルを危険に追いやることになる。だからケインは、自分のことは見捨ててノエルに生きることを促した。
「あぁ、王子!ですが…」
国よりも、愛する人の未来を取る。その選択に悲しみを覚えつつも嬉しさを覚え、ケインの手を取るノエル。まっすぐ見つめられるケインはノエルに向けて言葉を続ける。
「愛しい人…君への愛はそれだけの価値があった。
だが、せめて最後に…君の返事を聞きたかったが…もう時間がない。城は時期に崩壊する。僕のことは忘れ、去りたまえ。君はあの兵たちに迎えられ、女王として生きるんだ」
まだこの時点で、ノエルからの返事を聞いてなかったケインはそれを惜しむが、これ以上愛するノエルをこんな危険な場所に置いておきたくない。城から去るように言うが、ノエルは去らなかった。
「王子、いつぞやの求婚の約束を覚えていますか?今宵のように、美しい双月が輝いていた、あの夜を。今、あのときのご返事をいたしましょう」
「ノエル?」
突然、ノエルの口から、ケインから告白を受けたときの返事を答えると聞き、ケインは静かに驚いた。
「ノエルは…王子の妻として、ここで死を」
ウェザリーの脚本どおりだ。ここでノエルは、敵国の姫だったことを思い出したが故にずっと言えなかった告白を…ケインの妻となることを選んだ。しかし、このままだとケインはノエルの国の兵たちに殺され、永遠に離別する。もう自分たちの幸せな未来は訪れない。ならばせめて…ノエルはここで死後の世界もケインとともにあり続けることを選んだのだ。
「姫がおられたぞ!」
「王子は殺してもかまわん!だが姫は無傷で保護するのだ!」
しかし、ここでギーシュ、レイナール、ジュリオたちが演じるノエルの祖国である帝国兵が押し寄せてきた。
「ありがとう…ノエル。僕はどこまでも、君と共に…」
兵が自分たちの下に来る直前、塔から二人は共に身を投げた。そこで劇場が一度暗転し、再びスポットライトが照らされる。
二人が落ちた塔のすぐそばで、白い花が二つ、寄り添うように咲いていた。
素人がまさかのメインキャストという前代未聞の舞台『双月天女』はこれで終幕となった
「それでは皆様、最後に盛大な拍手をお願いします!」

監督であるウェザリーの声とともに、客席から盛大な拍手がサイトたちに送られた。

その後の楽屋…
「はい、これ。約束のバックよ」
ウェザリーは、以前拾ったというハルナのかばんを、約束どおり彼女に返してあげた。
「あぁ!ありがとうございます!!
ほら、平賀君!ここの隠しポケット、私のものだってわかるように、財布を入れておいてたの」
故郷から偶然持ってきた貴重な私物を取り戻せたハルナは満面の笑みを浮かべた。証拠として、彼女はサイトにバックの中の隠しポケットに入れていた財布を見せた。
「なるほど、色々悪かったわねハルナ」
「いえ、いいんです。ちゃんと戻ってきてくれたんですから。
平賀君、ルイズさん。みんな…本当にありがとう!」
バックがちゃんとハルナのものだとわかり、ウェザリーも偶然とはいえ、彼女の財布を私物化しかけたことを詫びたが、ハルナは気にしないでほしいといい、サイトたち全員にお礼を言った。
「けど、私もハルナだけじゃなく、みんなにお詫びを入れないといけないわね。私もまた、ハルナと同じであなたたちを自分のわがままに付き合わせたのだから」
「いやいや、ミス・ウェザリー。素敵な女性の願いを叶えるのもまた紳士の役目」
相変わらずキザッたらしくギーシュがウェザリーに言葉を寄せる。その一言にまたか…とモンモランシーが目くじらを立てていたのは相変らずだ。
「それじゃあ、舞台の成功を祝って、魅惑の妖精亭に直行よ~ん♪」
ここで忘れてはならない方々。スカロンやジェシカたち、ジュリオ…舞台の成功に力を貸したみんながいる。
「「「はい!ミ・マドモアゼル!!」」」
スカロンは舞台成功を祝って、みんなで打ち上げを行うことを提案すると、妖精さんたちは当然ながら全員参加の希望を示した。
「サイト、ルイズ。せっかくだからあんたたちも来なさいよ」
すると、ジェシカがサイトとルイズに寄って打ち上げへの動向を勧めてくる。
「い、いいわよ。これからみんなで学院に戻らないと…」
「え…断るのかよ?せっかくスカロンさんたちが祝ってくれるのに」
「気持ちはわかるけど、だめよ。私たちはあくまで…」
しかし自分たちは貴族の学生だし、ここへ来たのはアンリエッタからの任務のため。今回のリッシュモン逮捕のための作戦はすでに終わっている。ここにいつまでも居座るべきじゃないと考えたルイズは申し訳なく思いつつも断ろうとしたが、ジェシカはルイズにNoと言わせなかった。
「サイトの言うとおり。人の厚意は無碍にしないの。第一主役が打ち上げをボイコットしたら盛り上がらないじゃない。ほらほら~」
「わ、わかったよ!行くからそんな強引に引っ張らないでよジェシカ!」
強引に引っ張ってきたジェシカによって、そのままルイズは女子更衣室へと連れ込まれてしまう。
「なら僕も是非に!」
「僕も僕も!!」
ギーシュとマリコルヌ…この思春期真っ盛りの男二人は積極的な参加の意思を示した。平民だろうが、美少女たちの華やかな癒しの場へ行かないなど男ではない。彼らの本能がそう語っていた。
「君たち…貴族が平民の店に寄ることに抵抗はないのか…」
そんな二人にレイナールが諫言を入れるが、すかさずジュリオがからかうように口を開く。
「かたいことは言うものじゃないさ。一緒に舞台をやった仲なんだから。レイナール君だってそれなりに楽しんでいたじゃないか」
「それは…まぁ、悪い気はしなかったけど…」
悪気はないと思うが、このスカシ野郎にしか思えないイケメンに、それを突かれてなんとなくムカつき感を覚えてしまうレイナール。
「君は行きたくないのか!数多の妖精たちが僕らのために奉仕してくれる癒しの場所へ!」
「……っ!あああもう!わかったよ!僕も行くよ!行ってやるよ!これでいいんだろ!?」
マリコルヌの指摘で、貴族としてのプライドで隠していたムッツリな心を刺激され、ついにレイナールも折れてしまった。
「ギーシュが参加するんじゃ、私も行くしかないわね…はぁ」
モンモランシーも、この後はすぐ学院に帰る予定だったのだが、またこの破廉恥野郎とその同士たちが羽目をはずし過ぎないように見ておかなければ習いという奇妙な使命感が生まれていたこともあり、打ち上げに参加することにした。
しかし一方で、タバサがそそくさに出ようとしているのが目に入った。
「…あら、タバサ。あなたは?」
「…外せない用事があるから」
そのはずせない用事と聞いて、キュルケはただ一人だけ、それに思い当たる節を思い出す。おそらく…ガリア政府からの危険な任務の手紙がそろそろ来るのだろう。それを知っているのはこの中でタバサを除けば自分だけだ。なら、以前のように自分ももう一度手を貸してあげなくては。双思って足を動かす。
「う~ん、それは残念ねぇ。タバサちゃんの大好きなご飯をたっぷり用意するつもりだったのに」
スカロンのその一言に、タバサが思わずピタッ足を止めた。
「…タバサ、あなた今、ちょっと揺らいだでしょ」
「…」
キュルケの突っ込みに違う、と言い返したかったが、タバサがこのタイミングでそんなことを行っても信じてもらえないことはわかる。
「…後日にお願い」
少し恥ずかしげに、タバサはスカロンに…今回の打ち上げ不参加の分のご馳走は、別の日に、という形で予約した。
「ちゃっかりしてるわね」
ちょっと照れている様子のタバサに、キュルケはくすくすと笑っていた。
ハルナのかばんも取り返し、こうしてサイトたちのトリスタニアでの任務は今度こそ幕を下ろしたのである。ちなみに結構な出演料ももらったのは予断である。


『終わっちまうと、なんだかあっという間な気がするな』
「そうだな…」
ゼロの一言に、サイトはそう返す。
すでに舞台の片付けが終わり、客もいなくなった劇場。すっかりガランとしている。
なんとなくそれを見ていて、サイトは一種の寂しさを覚える。でも気にすることはない。またこの劇場には、感動を求めて新たな客が訪れることだろう。
『にしても、光の国じゃ見られないもんだったな。俺もせっかくだから出てみたかったぜ』
(まだ言ってる…)
ゼロの故郷、光の国では舞台とかは見られないようだ。それもあってゼロはサイトよりも役者に興味があったらしい。…結局どこかに隠れているかもわからない異星人にボロを出す危険があるからということで、入れ替わることなく終わってしまったが。
「舞台、楽しめたかしら?」
後ろからウェザリーの声が聞こえ、サイトは振り替える。
「そりゃ、確かに貴重な体験だったし結構楽しかったって思ってますけど、無茶苦茶ですよ。メインキャストが素人だなんて」
サイトの舞台の敬虔だなんて、せいぜい学校や保育園などの行事程度。まさか本場をやるだなんて思いもしなかった。当然、貴族であるルイズたちも同様である。
「毎日同じ役者だと、お客さんも飽きてしまうからね。思い切ってみたのよ。思っていた以上の効果で、お客さんたちも大満足だったわ」
ハルナのバックのためとはいえ、舞台に立たされたことにちょっと文句を言ってやりたくなるが、リッシュモンの事件でもこちらは彼女に迷惑をかけてしまったこともあるし、ウェザリーの満足そうな笑みを見ると何も言えなくなる。
「本当に、舞台が好きなんですね」
「当然よ。好きじゃないとやっていけないもの。あなたもそうだから、あの貴族の娘の奉仕を続けているのでしょう?」
「…俺の場合、半ば無理やりですけどね」
「そう?私から見れば結構楽しそうにしているわよ。まるであなたもまた魔法学院の生徒の一人のように見えたわ」
魔法学院の生徒…か、思えばあいつらと過ごす日々は、地球で友達と馬鹿やっていた頃のよう…いや、それ以上な気がする。
「最も、私もこの道以外でしか生きられなかった身だけどね」
伏し目がちに語るウェザリーに、サイトは「どういうことですか?」と尋ねる。そんな彼に、ウェザリーは自分の頭から生えている獣の耳を指差しながら言った。
「人ならざる者の耳が生えているけど、私はこれでもトリステインの貴族の生まれなのよ。家は取り潰されてしまったけどね…理由は、わかるでしょう?」
サイトはなにも言わなかった。なんとなくわかったのだ、この人の親は…おそらくウエストウッド村で出会ったテファと同じなのだ。
「親御さんのどちらかが…だから、ですか?」
「ええ。私の母は獣人だったのよ」
サイトから、空になった舞台を見つめながらウェザリーは語りだした。
「人間に近い姿であるけど、獣と同じ耳や牙…そして獣にも匹敵する身体能力…遥か昔はもっと数が多かったみたいだけど、人間たちの迫害で次第に数が減らされていた。私の母はその生き残りの一人で、それを哀れに思った父が愛人として保護したのが馴れ初めだった。けど私が幼い頃、誰かの告げ口で取り潰された。当然、父と母は殺された。
それからは、生きる術を見失った私は流れ者が行き着く演劇の道に入った。だからこうして生き繋ぐことができたの」
「……」
「サイトーー!もう帰る支度が済んだわ。早くいらっしゃい!」
ウェザリーの話を聞いて黙り込んでいるサイトの耳に、ルイズの声が聞こえる。そろそろ打ち上げの時間なのだろう。
「みんなには、この話は内緒にして頂戴。せっかく舞台を成功させたんだもの。特に貴族にとって、この話は余計に気分が悪くなるでしょうから」
「あれ?ウェザリーさん、打ち上げには来ないんですか?」
「次の舞台のための脚本を書かないといけないの。スカロンさんにも言ってあるから気にしないで頂戴」
「わかりました。でも、気が向いたら来てあげてください。そのほうがみんな喜びますよ」
「えぇ、考えておくわ」
それじゃ、とサイトは一言言い残して、劇場を後にした。
サイトたちや妖精亭のみんなが去って言った後、ある女は誰もいない劇場内で、窓から去っていくサイトたちを見ながら、ポツリとつぶやいた。
「ごめんなさいね。次の脚本は…もう考えてあるのよ。それもとびきりの…」


悲劇をね。



妖精亭に向かう中、サイトはアンリエッタからの任務期間の間、ハルナのかばん以外にも、一度もシュウから連絡がなかったことを気にしていた。あの生真面目そうな男が、自分と同じウルトラマンでもある彼が、これまで事件が何度も多発していたのに一度も連絡をよこしても来ないというのが気がかりだった。
これまでの事件のことだけじゃない。まだリッシュモン事件の際に来た、あの不気味なメッセージのことも…


               ア レ ハ 警 告 ダ


まるでホラー映画の一幕で見られるような着信メッセージに、サイトもゼロも、思い出すだけで嫌な予感がした。
また何か、ミシェルのときのような悲劇が来ないことを祈るばかりだった。



その頃……。

あれからまだ数えるほどの日数しか経っていない。しかし、『彼』がいなくなってからの日々が長く感じるようになっていた。
今、自分たちはアルビオンから遠く離れ、地上のとある場所に身を隠している。ここは本来のウエストウッドと同じ、地図にも詳しく載せられていない、名前さえもない森の中だ。
「……」
ティファニアは、森の切り株に腰掛け、一緒に遊んでいる子供たちや空賊たちの姿をただボーっと眺めていた。
「食えよ、坊主。こいつはうまいぞ~?」
「ありがとうおじちゃん!」
「くらえ!えあ・かったー!」
「ぐわああ!や~ら~れ~た~!」
今自分たちは、アルビオン大陸からの脱出に力を貸してくれた空賊の人たちのおかげで、生活に関しては特に問題はなかった。空賊の人たちは、賊とは思えないほど気のいい人たちが多かった。子供たちと一緒に遊んでくれたり、ご飯をくれたり…。
でも、何かが足りない。何かが不足しているのを感じていた。いつもなら自分も子供たちの輪に入って彼らと遊んでいるはずなのに…。
「シュウ…」
アルビオンから脱出したあの日、彼は…シュウはダークメフィスト=メンヌヴィルとの戦いの果てに姿を消していた。そして、あの旅路で自分たちに同行していたウルトラマンダイナ=アスカともまだ再会していない。
今、自分たちがシュウから助けてもらった恩を返すという名目で、世話をしてくれている。空賊らしからぬ世話焼きっぷりに、いつしか子供たちは炎の空族たちの努力の甲斐もあってシュウのいない寂しさを紛らわすことができている。だが、テファの場合はそうもいかなかった。
「テファ」
自分に声をかけてきた女性の声を聴いて、テファは振りかえる。
「マチルダ姉さん…」
「シケた面しちゃって…原因はまぁ、わかるけどさ」
「…」
ずっと長く暮らしていなくても、今回テファの元気のない理由などすぐに浮かぶ。いつしか日常の一部となっていたシュウの存在への喪失感。それがわかららないわけがなかった。
極めつけは、別れ際に彼がテファに言ったという、「足手まとい」という冷たい言葉。
しかし、前々からおかしいところはあったとは思うが、シェフィールドの魔の手から逃れるためにアルビオンから脱出した時期から、シュウはおかしくなっていた。会ったばかりの頃から暗い一面を覗かせていたが、それでもまだ堅実かつ的確な戦いができていたはずだし、子供たちへの世話も欠かさなかった。変身して戦い、怪獣らの脅威から多くの人たちを守っていたのだから。
ところが、村がシェフィールドの使役する怪獣に襲われたあたりから一変した。まるで血に飢えた怪物のような獰猛かつ凶暴な動きで敵を屠りだした。
しかも、テファが幼い頃に親交があったヤマワラワまであの戦いで姿を現した。しかも、彼のように暴走してダイナに変身したアスカを襲い、シュウの救出を妨害するという信じられない行動をとってきた。
一体何があったというのだろうか。これ以上テファのこんな姿も見てられないし、シュウを結果的にこの世界に引き込んだ責任が自分にもあることを自覚しているマチルダは、いつかシュウを探してつれて変えるためにも、とりあえずテファから何かを聞き出そうと考えた。もっとも、今はそっとしておくべきとも思っていたが、ウルトラマンでもあるシュウという後ろ盾がない。空賊たちも、所詮は自分と同じ裏社会の存在である賊だ。どこまで信用するべきかといわれると迷う。だから、テファのためでもあるがシュウを一刻も早く見つけ出してやらなければならない。
今は、地下水がアルビオン兵であるヘンリーの体を無理やりお借りして、この辺りがどこなのか、同時にシュウやアスカがどこに消えたのかを探ってもらっているが、ここにきてしばらく日が経っているが成果はない。今日はどうだろうか…。
「テファ、そういえばあいつ…アルビオンから出航しようって直前のときに、いきなり別行動をとってなかったかい?」
ふと、マチルダはシュウが、脱出目前というところで突如町の中に向かったときのことを思い出した。その場における最善の手を捨てるようなシュウではないはずだ。それだけ彼の気を引く何かがあったのか。
「姉さん…」
顔を上げたときのテファの顔は、それはマチルダにとって見たくなかったものだった。きれいな青い瞳さえも赤く見えるほど、泣き疲れた果てに目が真っ赤になっていた。
「私って、やっぱり足手まといなのかな…」
マチルダの質問の答えにもならない、卑屈さに満ちた返答だった。
「足手まといだって…!?何を言い出すんだい!」
「だって…私…私のせいで、姉さんはお屋敷を取り潰されて貴族の名を失ったし……あのガーゴイルを操っている人からも狙われるし…そのせいでシュウやヤマワラワまで…」
「テファ、やめな。それ以上は聞かないよ?」
無理やり黙らせようとするが、テファは黙らない。次々と卑屈さに満ちた言葉をつぶやき続ける。
「私がハーフエルフだから…虚無なんて変な力を持ったから…」
ガーゴイルを通してシェフィールドは言っていた。自分には虚無の力があるということを。それを狙ったがために、怪獣ムカデンダーを使って村を襲撃したのだと。
今回の逃避行…すべての要因は自分じゃないか。みんなが辛い目にあったのは…。
「もういや…こんなのいやだよ…私のせいで誰かが傷つくの…」
父と母が死ぬまで、屋敷の中で暮らしてきた。マチルダに養ってもらうようになり、シュウと会うまでは、森の中で一生を過ごすと思っていた。テファの人生はほぼどこかに閉じ込められた状態だった。だから外の世界や、未知なる物に対する憧れがあった。いつか外の世界を見てみたいという願望をひそかに抱いていた。
けど、シュウを召還してからどこか運命の歯車がきしみ始めたのかもしれない。いざ起こったのは、彼女の心に抱かれた願望とは程遠い残酷さに満ちた現実!
「こんなことなら、召喚の魔法なんて使わず、ただひっそりと森の中で外の世界を知らないまま生きていればよかっ…」
シュウも傷つくことはなかったし、ウルトラマンにもならずにすんだかもしれない。村の子供たちを辛い目に合わせることもなかったし、アスカにも迷惑がかかることも…。
しかし、ついにマチルダがぷちんと切れて、テファに向かって怒鳴り散らした。
「いいかげんにおし!」
バシン!と、乾いた音とともに、テファの頬にマチルダのビンタが放たれる。
「う…」
叩かれた頬を押さえながら、目じりに涙をためたままテファはマチルダを見返す。
「気持ちはわかるよ。確かに、辛いことばっかりさ。けど、自分を含めて誰かのせいにし続けたって、何も変わらない。だからあたしは、辛くてもずっと頑張ってこれたんだ。自分の意志で決めたことだし、そのことであんたを恨んだことなんてこれっぽっちもない。
だから、もうそんなこと…言うんじゃないよ」
「……ごめんなさい。姉さんたちが必死になってがんばってくれているのに、こんな弱音ばっかり…」
俯きながら謝罪するテファ。そんな義妹にマチルダは困るしかない。ようやく口を開いたときに発せられた声は、それはもう弱々しい声だった。
「…」
これ以上きつく言っても、テファの心をいたぶるだけ。そう思ったマチルダは、一度テファをそっとしておいてやることにした。
「姉さん、譲ちゃん。取り込み中かい?」
そんな彼女らを見かね、一人の男がアバンギャルド号の方から歩いてくる。空賊団の一人の男だ。
「今、切り上げたところだよ。なんだい?」
「いやぁ、あのアルビオンの正規軍の兄ちゃんだけどよ、うちらに引き取られて以来なんかピリピリしててよ、俺たちのいうこと聞こうとしなくてな」
それを聞いて、マチルダはあぁ…と、自分たちが抱え込んでいるもうひとつの問題を思い出した。脱出の際、地下水の器役としてアルビオンの若い兵士を一人、結果的に連れてきてしまったのだ。正規の軍人ということもあり、空賊たちとは折り合いが悪かったようだ。もしウェールズが彼らと仲がよかったと知ったら、どれほど目を飛び出すことだろう。
「こっちに来てとりなしてくれねぇか?」
「…はぁ、わかったよ。テファも着いて来て」
あの男を連れてきてしまったのは自分たちの責任でもある。テファや子供たちも一緒の状態で厄介なやつを連れてきた以上、無視はできない。かといって、まだこの炎の空賊たちに心を許したわけではないので、ここにテファを一人で置くのは心もとなかった。マチルダはテファも連れて例のアルビオン兵の下へ向かうことにした。
黙ってついていく中、テファは森の中のほうを振り返る。顔を見たいはずの人がそこにいない、それどころか誰もいない寂しさがこみ上げる。
(シュウ……)
傷ついてほしくない、その一心で訴えたというのに、彼はそれを聞き入れようとしなかった。それどころか、自ら修羅の道を行こうとし、姿を消した自分の使い魔。
なぜ、彼はああまで自ら傷つくこと前提で戦うのか…
いまだ聞き出せない、彼の故郷における過去の出来事に…自分たちと離れ離れとなったあの日の戦いで姿を見せた、一人の少女の幻に秘密があるのだろうか…。
結局、自分は何もしてやれず、それどころか…

足手まとい

そのたった一言が、重く彼女の心にのしかかった。


そのシュウはというと…。
「く…」
ある場所へと連れてこられていた。彼は今、真っ暗な闇に包まれた部屋中央に設置されている手術台のようなベッドの上に寝かされ、両手両足をベルトで拘束されていた。メンヌヴィルに連れてこられてからだいぶ立つが、未だ意識が戻っていない。されるがままの状態だった。
その部屋は、レコンキスタが隠している怪獣保管庫と同じように、ハルケギニアの文明のものとは決して思えない高度な技術で作られていた。
「実験の準備が整いました」
すると、闇の中からシュウを見ていると思われる誰かの声が聞こえてきた。
「よし、シェフィールド様からの命令だ。実験を開始するぞ。この男のデータの記録を怠るな」
「はっ」
その声は命令を受け、闇の中で、シュウの寝ているベッドと繋がっている装置の一つのレバーをカチッと下ろす。すると、眠っている彼に向けて、ベッドの真上から赤黒い光が照射され始めた。
「うぐ…!?」
意識はないが、その光を浴び始めた途端、シュウは呻き声をあげ、やがて固定された体を激しく揺すりながら悶え苦しみ出した。彼が苦痛の声を漏らしていくうちに、壁に埋め込まれていたディスプレイに、ハルケギニアとも地球とも全く異なる電子文字が早送り再生されているスタッフロールのように流れていく。
「なんて数値…『セブン』も高かったが、それ以上か…!?」
実験にかけている研究者と思われる者の一人が声を漏らす。
実験は彼の苦痛など意に返されずに続いていく。
「あ、あ……あああああああ…」
「プラズマエネルギー、さらに上昇!これ以上人間形態のまま『人工ビースト振動波』を浴びせ続けるのは危険です!」
「構わん、続けろ!これもシェフィールド様からの命令だ」
研究スタッフのリーダーと思われる男は、部下の忠告をはねのけて続行命令を下した。
「あああああああアアアアア゛!!」
まるで悪霊に憑依されたような悲鳴が、シュウの口からほとばしった。




シュウは苦しむ中、脳裏に奇怪なヴィジョンを見た。





暗闇の中でただ一人、ポツンと立っている小さな子ども。彼は最初は俯いていたが、何かの気配を感じたのか、顔を上げる。
一人の少女がそこに立っていた。
(愛梨…)
シュウが取り乱してしまうほどの要素を持つ、茶色の髪の少女だった。彼女を見て、無表情ばかりだった彼の表情は悲しみに満ちたものに変わる。

「済まない…
俺は……君を…守ってやれなかった…
君だけじゃない…地球にいた頃も、この世界に来てからも………たくさんの人々を…」

彼女に近づいていきながら、シュウは贖罪の言葉を述べていく。
と、彼女の姿が、可憐な少女の姿から一変する。

「!?」

そこに立っていたのは、愛梨ではなくなっていた。




ウルトラマン…か?















――――委ねろ
















いや、違う。

こいつは確かに、姿自体は俺が変身するウルトラマンだ。だけど…









――――受け入れろ







なんだこの邪悪な気配は!?

気味の悪い声が聞こえる。








――――お前の意思を





「や、やめろ…来るな!」



あとずさるシュウ。だが、ウルトラマンの姿をした何がかが手をかざすと、途端にシュウの胸に電流が走ったように激痛が走る。

「うぐ…!?」

彼の胸部から、禍々しい赤い光がほとばしる。次第にそれは、ウルトラマンの胸に埋め込まれた宝珠『エナジーコア』の形を成していく。




――――力を




どす黒い何かが、自分の自我を




――――全てを





「う、うああ…がぁ…」





何もかもを。







――――お前を全ての苦しみから救ってやる






「うああアアアアアアア!!!」





内側から、飲み込もうとしていた。










――――だめ!







最後に、誰かの必死の叫びが聞こえたが、シュウの意識はただ遠くなるばかり。









やがて彼の意識は、闇の中に落ちた。







 
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