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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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深淵-アビス-part2/奈落の底

「さあさあ、じゃんじゃん飲もうじゃないか!乾ぱーーーい!!」
「「「乾ぱーーーい!!」」」
魅惑の妖精亭は、舞台成功の打ち上げで貸切となっていて、大盛り上がりの様子だった。
しかし、盛り上がっているのは妖精亭の人たちとジュリオのみ。さっきからジュリオは酒の勢いでやたらと乾杯ばかりしている。
「いやぁ、なんていい店なんだ!そう思わないかい、ルイズ!?」
「え、ええ…そう思うけど、…さっきからあなた近すぎよ!」
「いいじゃないか、君と僕の仲だろう?」
この打ち上げが始まって早々、ジュリオは真っ先にルイズを自分の座席のすぐ脇に座らせ、甘いマスクを利用してはルイズににじり寄っていた。押し出すなどの抵抗はするものの、イケメンに耐性のないルイズは顔を思わず赤らめて力が抜けてしまう。
「いいなぁ、ルイズちゃん。ジュリオさん、私たちもいるんだから!はい、お酌」
「あぁ、ごめんごめん。ルイズに見とれすぎてたみたいだ」
こんないい男とお話できるきっかけなどめったにない。妖精さんたちも張り切ってジュリオからの株を上げようと必死だ。
「………ち」
そんなジュリオを恨めしげに、ギーシュ・マリコルヌ・レイナールの三人は別席から睨み付けていた。さっきからこちらに奉仕してくれる妖精さんが一人もいない。それでいて全員があちらのほうに集中している。キュルケもタバサもここにはおらず、せっかくのウハウハ気分が台無しだ。
「まったく、僕という紳士がいながら、ここの妖精さんたちは見る目がないのかね」
「僕は別にかまいやしないが、…なんだろう。すさまじく腹が立っているよ」
ギーシュとレイナールは嫉妬の念をつみ隠さす口にしている。
「なんだよ、そんなにイケメンがいいのか?生まれながらいい顔をしている男がそんなにいいのか」
マリコルヌに至ってはほかの二人よりも重い。ギーシュは残念な部分が大きすぎるが確かにいけているし、レイナールもそれなりだ。だが自分はどうだ?いつしか脂肪の塊のような体系になってしまって…肥満については自分の食生活における怠慢が原因だというのに、この一種の不平等さに満ちた運命を呪いたくなっていた。
「こらこら、男の嫉妬は醜いわよん」
しかし、そんな彼らについに誰かの救いの手が差し伸べられた。やった!ついに美女が来てくれたのか!?と三人は期待を寄せた…

…が、天へと昇る気持ちはすぐに地に落ちた。

「そ~んなに構ってほしいのなら、あたしが相手をしてあげるわよん♪」

目の前に現れた、いつもどおりオネェ言葉を話しながら思春期少年たちに迫るスカロンによって、その日の彼らはこの日自分たちに安息の時が来ないことを瞬時に悟った。

「だからジュリオ、そんなに引き寄せないでって…!」
そりゃ、女の子だから整った顔そのものは嫌いではないが、こうも積極的に言い寄られると帰って気が滅入るだけ。やたら自分によってくるジュリオを、ルイズはなんとか跳ね除けて席を立った。
サイトを探して、彼と適当に話して……べ、別にあの馬鹿犬の方がいいってわけじゃないんだからね!?ただ、その…ご主人様が使い魔をいつまでもほうっておいたら、かわいそうだし…
とか心の中で適当な言い訳を考えながら彼女はサイトの姿を探す。
…が、どうしてかサイトの姿が見当たらない。
「サイト?」
どこへ行ったのだ?ルイズはあたりをきょろきょろ見渡しても、やはり彼の姿は見当たらない。そういえばハルナも…と思ったときだった。
まさか、またか!!
またしても嫉妬の念に駆られたルイズは理想の妖精とは程遠い憤怒の表情に一変、そのときの自分の表情に恐れおののく周囲の視線を無視し、サイトを探しに向かった。


そのサイトはというと、屋根裏部屋のベッドに寝転がっていた。
「ふぅ…」
「どうした相棒。せっかくの打ち上げだってのに、なんだってこんなとこに?」
壁に立てかけてられているデルフから指摘を受け、サイトは体を起こした。
「いや、なんだか気分が乗らなくってさ」
本来の調子のいい笑みがそこにない。デルフは彼が変身して戦っているときも含め、共に過ごしてきた経験からの勘で当ててみる。
「…まだ気にしてんのか?あの騎士の娘っ子のことが」
「…まぁな」
どうやらサイトは、まだミシェルの死を過去のことにできていなかった。まだ彼女がなくなってからほとんど日が経過していない。近しい人の死の経験はあっても、どうしても慣れそうにないサイトは引きずるばかりだ。いや…引きずらないほうがおかしいかもしれない。
『ミシェルの件は、俺にも責任がある。サイト、今の俺たちは一心同体だ。一人で思いつめるなよ?』
頭の中に、ゼロが慰めの言葉をかけてくる。
「大丈夫だ、ゼロ。ただ…嫌な野郎ばっかり良い思いをする現実にイラついてるんだ」
『…そうだな。よくある話だが、納得できなくて当然だ』
地球を狙ってきた侵略者たちと同レベルの邪悪さで己の母国を裏切り、ミシェルやアニエスの人生を狂わせ、あまつさえミシェルを目の前で殺した。そんな男のいいようにされ、自分たちの手で最上級の結末を迎えられなかった。自分たちにはそれをつかみ取れるだけの力も心もあるはずだった。それができなかったから、自分に苛立ちを覚えていた。
「平賀君」
そんなときだった。ハルナがサイトのいる屋根裏部屋に上ってきたのは。
「ハルナ?どうしたんだよ。打ち上げは?」
「平賀君の姿が見えなかったから、ちょっと気になって抜けてきたの。隣、いい?」
「あ、うん…」
特に断る理由はないので隣に座らせたが、思ってみれば女の子と二人きりの状況に気がついて、奇妙な緊張感が生まれる。逆に、ルイズとはよく遠慮のない言い合いをするようになっているからそんな気が起きていない。
「元気ない?舞台で疲れちゃった?」
「ま…まぁ、ね。慣れないことだったから。ハルナはどうだった?」
顔を覗き込んできるハルナに緊張を覚えつつも、サイトは問い返した。
「私もちょっと疲れてて…打ち上げを抜けたのもそれがあるの。
でも、残念だったな…せっかくウェザリーさんがヒロインに選んでくれたのに」
そうだ、ハルナはリッシュモンの事件の直前に足を切ってしまったのだ。演技中に影響を及ぼす可能性があるという指摘で、ルイズが代役でノエルを演じたのである。
「でも、ルイズが思った以上にヒロインやってくれたのが救いだったな。目的のバックも取り戻せたし」
「…うん」
ルイズは自分たちでも、ウェザリーさえもほぅ、と関心を寄せたほどの演技力だった。自分でも鼻を高くしているくらいの自信もあり、ハルナは元から彼女がノエル王女を演じるべきだったのではないか?舞台の目的はウェザリーが預かっていたハルナのバックだが、そんなことも考えていた。
でも、それでも演じてみたかった。あの大舞台で、隣にいる、ちょっと鈍感で抜けているけど、勇敢で頼もしくて、誰よりもかっこいい…この少年と一緒に。
「ねぇ、平賀君」
「ん?」
「ここで、やってみない?」
「やるって、何を?」
「劇。ノエル王女とケイン王子の二人きりのシーンだけでも。せっかく練習したんだもの、ルイズさんに敵わなくても、やりたいの」
「…ああ、わかった。やってみるよ」
サイトは彼女の姿を見て、頷いた。少しでも、この暗い気持ちを晴らしておきたいと思っていたからかもしれない。
二人は、二人だけの『双月天女』を演じた。
演じたのは、最後の…ノエルがケインからの告白の返事をしようとしたところで、彼女の母国の兵士が攻めてきた、あのやり取りだ。


「ここなら、しばしの時間を稼げよう」
「王子、私はやはり帝国に戻りましょう。私が戻りさえすれば、この戦は収まるはずです。王子のお命も、お父様たちにお願いしてご助命を申し出ます」
本番と異なり、ハルナが演じるノエルが言うと、サイトの演じる王子が首を横に振る。
「だめだ、姫。それでは僕は君を失うことに…」
「ですが、このままでは王子は国とお命…すべてを失ってしまいます!」
「王国がなんだというのだ…死がなんだというのだ!僕にとって君を失うことは…死や亡国よりも恐ろしい」
「あぁ、王子!ですが…」
ケインはノエルに向けて言葉を続ける。
「愛しい人…君への愛はそれだけの価値があった。
だが、せめて最後に…君の返事を聞きたかったが…もう時間がない。城は時期に崩壊する。僕のことは忘れ、去りたまえ。君はあの兵たちに迎えられ、女王として生きるんだ」
城から去るように言うが、ノエルは去らなかった。
「王子、いつぞやの求婚の約束を覚えていますか?今宵のように、美しい双月が輝いていた、あの夜を。今、あのときのご返事をいたしましょう……」
妻として、ここで死を。それがウェザリーの脚本の流れだ。思えば、ハルナにしては少々空気の読めないところを感じるシーン選びだ。今のサイトは救いたかった人の死を回避できなかったことへの自身の無力さを痛感している。
だが、直後にハルナの口から放たれた台詞は、サイトの予想を越えた。
「…王子、私の返事を受ける前に一つ、約束をしてくださいませ」
「え…!?」
「私は、これから王子のお願い通り、国に戻ります。ですが…どうか誓ってくださいませ」
脚本になかった台詞がいきなり飛んできて、サイトは驚くが、さらにハルナは続ける。

「私を、どうか…帝国から連れ去りに来てください。そして、二人で遠い田舎へ向かい、一緒に生きて下さい」

更なる改編された台詞。サイトは戸惑った。いきなりこんなことを言ってくるなんて。
しかし、ハルナは返事を待ってその場で立ち続けている。でも、どうしてこんなことを?
『…ほら、応えてやれよ。待ってるぞ』
『わ、わかった…』
同じように戸惑いながらも、ゼロからも背中を押され、サイトは覚悟を決め、足りない頭でアドリブを考え、それを口にした。
「…ああ、もちろんだ。僕はどこまでも、君のもとへ駆けつけよう」
それは、サイト自身の気持ちでもあった。この子は絶対に守らなくてはならない。それをハルナが出してきた問いに対する答えだ。
「ありがとう、平賀君。付き合ってくれて」
ささやかながらも、自分の我が儘に付き合ってくれたサイトに、ハルナは礼を言った。
「ま、まあ…これくらいなら」
それなりに気分転換にもなったし、決意をより固めるきっかけにもなった。
「お陰で、私もちょっと不安が抜けたみたい」
「不安?」
「前に言ったよね?平賀君がこの世界に馴染んで、地球に帰るのを止めちゃうんじゃないかって」
ハルナの言葉に、サイトはあぁ、と漏らした。ホーク3号を案内したときの会話で、そんなことを彼女は言っていた。それを見てサイトは心が痛くなったのも覚えている。
「今ので、平賀君が傍にいてくれているんだって、改めて実感できたの」
「そっか…」
彼女のあの時の不安が払えたのなら、やった価値があったと言うものだ。
「んじゃ、俺も打ち上げに途中参加するか。ハルナ、行こうぜ」
「うん。…ねぇ平賀君」
サイトが下の階に続く梯子を降りようとした際、少し赤くなりながらもハルナはいたずらっぽく言う。
「ん?」
「なんか、さっきの返事なんだけど、本気に聞こえちゃった」
「え?本気だよ」
それを聞いた途端、ハルナは「え…?」と声を漏らしながらサイトを見ようとしたが、既にその時、サイトは下に降りた後だった。
聞き間違いじゃ、ないんだよね…そうとって良いってことだよね?
嘘のようだけど、本当のことであってほしい。そんな期待が彼女の中で膨れ、高鳴りを早めた。
そんな彼女をよそに、サイトは下に降りていった。
ふと、彼は二階のどこかから、誰かの視線を受けていたような感覚を覚えた。
「ん?今、誰かいたのかな?」
しかし、人影と見られる何かは見られない。気のせいだったのだろうか。あまり気に留めることなく、サイトは下の階に降りていった。


だが、実はサイトのあの言葉を聞いていたのはハルナだけじゃなかった。
ちょうどサイトを探しに来ていたルイズに…恐らく最も聞かれてはならない人物に聞かれてしまった。
彼のご主人様であるルイズである。
さっきのサイトとハルナの会話の際、ついにサイトがほかの女子と話しているのを不快に思った彼女。ちなみにサイトの「僕はどこまでも、君のもとへ駆けつけよう」という言葉のあたりから二人の会話を聞いていた。それから二人の会話は、言葉だけなら十分に交際関係とも取れる会話だった。しかも極めつけは…

『本気だから』

その一言が、ルイズの心に決定的な何かを突き出した。
「…何よ、それ…」
納得できない何かが、彼女の中にあふれ出す。
と、そのとき、サイトが屋根裏部屋から降りて雇用しているのが目に入った。ルイズはそれを見て、反射的に近くの空き部屋に飛び込んで隠れた。
「ん?今、誰かいたのかな?」
降りてきたサイトは、少なくとも誰かがいたということだけはわかったが、それが誰なのかは結局わからなかった。いや、実際は透視で確かめることはできたが、さほど興味を持たなかったので、そのまま打ち上げ中の一階の店舗へ降りていく。サイトが一階に降りたのを足音で確認したルイズだが、外に出ようとはしなかった。
「……」
彼女は黙り込み、空き部屋のベッドに、わなわなと崩れ落ちるように腰掛けた。さっきのサイトとハルナの会話…どう考えてもそうとしか聞こえなかった。

サイトは、自分のことを見ていない。


あいつが好きな女の子は…『私じゃない』。


なんで…あんなことを言ったのよ。


あんたは私の使い魔でしょ…!

ご主人様を見てくれないなんて…使い魔としての自覚が足りないんじゃないの…!


ルイズの頭の中が、ぐちゃぐちゃになっていく。

いや、そもそもなぜこんなに動揺しているのだ。どうして使い魔が好いている女の子が自分じゃないということに、ここまで動揺している?
何度も考えていたことだし、指摘もされていたことじゃないか。サイトたちは元々地球と呼ばれる星の人間だ。本来この世界にとどまるべき存在じゃない。それを自分が、サイトを使い間として契約を交わしたことで無理やりこの世界に留めてしまっているだけ。しかも当初は酷くこき使ってしまったし、いらないことで彼に癇癪を立ててしまうこともしばしばだ。そんな自分ではなく、ハルナのような女の子らしい性格と素直な優しさを出せる子がいいのでは?
やっぱり、故郷に帰りたいの…やっぱりハルナみたいな女の子の方がいいの?
私みたいに、変なことで怒ってばかりのご主人様よりも?
そうだ、考えてみれば当たり前といえるじゃないか。それなのに…どうしてこんなに胸が苦しくなっているのだ。
いや…言わずとも答えはわかっている。なぜなら…


私は……あいつのことを………





シュウを攫って来たメンヌヴィルは久方ぶりにシェフィールドと、彼女の執務室で対面した。
「まさか、戻ってターゲットの一体を捕まえて戻ってくるなんてね。時間がやたらかかっていたみたいだから、戦いに溺れて仕事を忘れたと思っていたわ」
「ふん、俺とて傭兵の端くれよ」
戻ってきたメンヌヴィルに、シェフィールドが嫌みっぽく言うと、対するメンヌヴィルはそう言い返した。
「まあ、虚無の娘が最優先だったのだけど、あの小僧を回収しただけでもよしとしてあげましょう」
「奴は今どうしてる?捕まえろと言ったのだ。当然利用するつもりだろう?」
「もちろんよ。手こずらされたとはいえ、せっかくのサンプルよ。利用しない手はないわ。今、ちょうど実験にかけているところよ」
シェフィールドは、魔法文化に特化した世界の人間とは思えないマッドサイエンティストな一面を出しながら言った。以前ムカデンダーを差し向けたときに彼から受けた恐怖と屈辱を、実験にかけると言う形で何倍にも返すつもりだった。例の実験には、命の危険が考えられるほどの苦痛を伴うことは確認済だ。今頃、あの小僧は悶え苦しんでいるに違いない。
ウルトラの力を得ただけのイカれた小僧なんかに、虚無の…あのお方の使い魔である自分がなめられてたまるものか。
「…殺すなよ」
どんな実験かは詳しくは聞かなかったが、シュウとの更なる戦闘を求めるメンヌヴィルが忠告じみた言い方で言った。まだこいつとは戦い足りないのだ。
「人間だった頃から命ごいをする相手にさえ情け容赦なく焼き殺してきたあなたが言う?心配しなくてもまだ殺さないわ。手にかけるだけなら、あなたに任せても構わないし、あなたたちから寝首をかかれたくないもの」
メンヌヴィルの一言にそう返事するシェフィールドだが、逆にメンヌヴィルは思った。この女がむしろ寝首をかこうとしている、と。何せ、この女は手を組んでいる相手にも決して知らせていない、何かを企んでいるのだから。
「シェフィールド様、報告!」
扉の向こうから扉をノックする音と声が聞こえる。クロムウェル-おそらく星人の擬態-だ。シェフィールドが入りなさいと命じると、クロムウェルは執務室に入ってきた。
「何事?」
「地下に、侵入者があったようです」
「侵入者ですって?正体と場所は?」
「まだつかめていません。巡回中の兵の一人が、身包みをはがされた状態で発見されたのを目撃したということですが…」
それを聞いてシェフィールドは目を細める。地下は、レコンキスタが生物兵器として利用している怪獣たちを保管している施設がある。当然セキュリティもこの世界の人間では決して突破できない万能のものを用いており、機密中の機密となると、シェフィールド以外は決して入れない場所となっている。おそらくそこまでの場所ではないが、侵入者がいると言う話に、シェフィールドはメンヌヴィルを睨んだ。
「あなた、まさか部外者を連れ込んだのかしら?」
「そう目くじらをたてるな。おそらく、あのダイナとか言う奴だ。俺たちが捕まえたあの小僧を追ってな」
「ダイナですって?」
確か、あの小僧がゼットンに止めを刺されかけた時、突如乱入してきたあのウルトラマンか!
「相手がウルトラマンならば、いかに高度なセキュリティでも突破されかねんな」
「ち…」
シェフィールドは舌打ちする。ウルトラマンたちは常に常識破りな奇跡を起こすから、メンヌヴィルの言い分にも信憑性がある。
「まあ、奴の侵入は俺の不始末だ。俺が行ってやろう」
「貴様、まだ彼女の許可を…おい、待て!」
メンヌヴィルはシェフィールドにそう言うと、彼女の許可も得ずにそのまま部屋を出ようとする。それを快く思わないクロムウェルが彼の肩を掴んできたが、振り返ったメンヌヴィルが、見えないはずの白い目でクロムウェルを見る。
その白く濁った瞳から、触れたものを燃やし尽くす炎のような殺気がほとばしっていた。邪魔をするな、したら貴様を消し炭にしてやる。無言でメンヌヴィルはそう語っていた。
「う…」
クロムウェルは思わず後ずさりし、手を離す。それを確認したメンヌヴィルは部屋を出て行く。彼が立ち去った後、クロムウェルは屈辱を覚えるあまり、シェフィールドに思わず文句を言い放つ。
「く、くそ!あの男…いい気になりおって!今更だがシェフィールド殿、あの男をこのままにしておいて本当に大丈夫なのですか?今、トリステインに潜伏させているあの女のことも…」
「…私もできればあのような危険分子と手を組みたいとは思っていないわ。でも…これは『あの方』の意思でもあるのよ」
「あの方の…ぬぅ」
あの方、と聞いてクロムウェルは押し黙る。『あのお方』とは、二人を黙らせるだけの強い存在感があるようだ。
「最も、こちらの意思に思いのまま従う駒も必要なのも確かね。けど、問題はないわ。
私とあなたが、それぞれ進めている計画があるじゃない」
「…そうですね。だが、奴らもまた同じように計画を練っている節があります」
「なら、やはり虚無を早いうちにこちらに引き込む必要がありそうね」
二人は、自分たちの目的達成のため、自分たちが常に優位に立つためにも戦力を増強する計画を常に練っていた。その中のひとつとしても、ルイズやティファニアが持つ虚無の力もまた含まれている。
「しかし、今回狙っていた娘は取り逃がされ、トリステインの虚無はウルトラマンゼロが常時守っています。隙を突くにも素材が足りません」
「トリステインのはガーゴイルで監視し、奴を引き込む要素を探らせているわ。
アルビオンの担い手の方も、あの男さえいればどうにかできるはずよ。使い魔と主は必ず何かしらの繋がりができるもの。たとえばそう…
視界の共有とかね」
「視界の共有?」
召喚された使い魔とその主のつながりに関する事情には、クロムウェルは疎いようだ。本物のクロムウェルも元をたどれば、実際は平民出身の司教だったのだから無理もないかもしれない。
「それは、あの娘が使い魔の居場所を掴む事ができると?」
「ええ」
シェフィールドはクロムウェルの問いを肯定する。それは事実だ。実際、サイトもルイズがワルドの裏切りで危機を迎えようとした時、一時的に彼女の視界が映った事もある。その逆に、以前テファはシュウがネクサスに変身した際、メタフィールド内で戦っているはずの彼の視界と自分の視界が繋がったことがある。それが彼の正体を知るひとつのきっかけにもなったほどだ。
「それにあの娘は、どうやら自分の使い魔さえも身を挺して守ろうとする意思も備わっていると思われるわ。現にあのちっぽけな村をムカデンダーに襲わせたとき、無謀にもあの娘は魔法でムカデンダーに立ち向かおうとした。それを利用するわ」
そこまでシェフィールドが言いかけたところで、クロムウェルは彼女がその先に何を考えているのか、大方の予想をつけた。すでに策を二手先以上まで考え付いていたシェフィールドに、思わずほくそ笑む。きっと、他にも誰にも教えていない策をいくつも巡らせているはずだ。
「…さすがシェフィールド殿だ。そのあくどさには敵いそうにない」
「ふふ、ほめ言葉と受け取っておくわ」
その時だった。突然、魔法文化に特化した世界に似合わない、SF映画によく出てきそうな電子モニターが、シェフィールドたちの目の前に出現した。
『ドクター!大変です!』
モニターに映ったのは、青いスーツのような服を着た若い研究者の男だった。
『実験にかけていたウルトラマンの男が…うああアアアアア!!』
しかし、男かシェフィールドたちに報告しようとした途端に、画面が暗転した。
「どうしたの!!応答なさい!」
シェフィールドが喚くが、闇のような真っ黒の画面に切り替わった電子モニターが映っているだけだった。直後にガタン!!と、たった一瞬だけだが、激しい地鳴りが二人のいる執務室に…いや、この建物全体全体に伝わった。
「い、今のは…?」
クロムウェルが間違いなく、シュウを実験にかけている最中に、何か良からぬことが起きたことだけは理解したが、一体何が起きた?
「…奴らもまた、同じってことね」
皮肉を込めながらシェフィールドは呟いた。
いや、たとえ今の自分たちの行いが失敗したとしても、どのみち自分たちが最後に笑うのだ。なぜなら…

(私には『あの方々』かいるのだからね)





一方…。
窓一つない、ある施設の暗がりの廊下の中。そこで、メンヌヴィルに連れさらわれたシュウを奪還すべく、アスカが暗闇の中を突き進んでいた。
「くっそぉ、やっぱここにはいないか」
奴が発生させた空間の歪みの中へ飛び込んだ後、彼はいつの間にかここに転移されていた。そこにメンヌヴィルもシュウもいなかった。すでに移動したのか、それとも違う場所に自分が転移したのか、なんにせよここから移動して彼を探さなければ。
アスカは、まだ会って間もないが、シュウが少なくとも戦士としてはまだ未熟な面があると見切っていた。それは主に実力というよりも…精神面。一見心が強そうに見える彼だが、少し触れただけでも粉々になる壊れかけのガラスのような脆さがあると見た。未熟さゆえの脆さ、という点に置いては自分も覚えがある。同じウルトラマン同士である、ということもあるが、どうも放っておけないのだ。放っておけば、あいつが危なっかしさばかりを押し出し、どこかで身を滅ぼすことになる。そうなっては、ティファニアたちも嘆き悲しむに違いない。まだあいつのことをよく知らないが、だからこそ知らなければならない。なぜあいつが、あそこまで自分の体に、まるで自分自身を虐待するように鞭を打つのか。
「待ってろよ…!」
アスカは手に、かつて自分の世界の防衛チーム『スーパーGUTS』に所属していた頃から所持している銃『ガッツブラスター』を構えながら移動する。
突き当たりの廊下に明かりが灯っている。誰かがいるようだが…アスカは見つからないように、角から突き当たりの廊下を観察する。視線の先に、こちらにやってくる兵の姿が目に入った。あの黒っぽい鎧は、確かアルビオン兵か?シュウたちと会った大陸の兵たちがちょうどあの鎧を着ていたのを覚えていたアスカはそう思った。となると、ここはアルビオンなのか?いや、あのメンヌヴィルという男が、マチルダたちから聞いていた、ウエストウッド村を怪獣に襲わせテファをさらおうとした『シェフィールド』とかいう女と関係があると考えると、奴がこの国へシュウを連れ戻したことも納得できる。
視線の先の兵士が、こちらに近づいてくる。まずい、このままではあの兵士に見つかってしまう。どうする…。
「…いや、待てよ…?」
少しピンチに陥ったアスカだが、すぐに逆転の手を思いついた。どういうつもりか、彼は逃げようとしなくなり、そのまま兵士が来るのを待ち始めた。例の兵士が、近づいてくる。そして、ちょうどアスカが隠れている廊下の角の辺りに来たところで、アスカは勢いよく飛び出した。
「よぉ!」
「な、何だ貴様!?」
ドガッ!!
「うぐ…!」
突然、見慣れない怪しい男が目の前に現れたことで気をとられたそのアルビオン兵は、アスカに思い切り顔面を殴られた後、手刀を首筋に叩き込まれた。
「悪いな…ちょっと借りるぜ。あらよっと…」
アスカの不意打ちにより、その兵は気絶し倒れこむ。すると、アスカはその男をずるずると暗闇の方へ連れ込むと、その男の鎧や服を剥ぎ取り始めた。
アスカが思いついた提案、それはアルビオン兵の鎧を拝借し、ここの警備兵の不利をするという方法だった。いってしまえば追剥行為だし、さすがに長時間働いているせいか、その兵士の鎧は汗の臭いがきつかった。だが背に腹は変えられない。これもシュウを助けるためだ。
「くっせ…それにちょっとぶかぶかだな…」
何とか着替え終わったアスカ。だが、モワッと漂う臭いと嫌な温もりが自分の体を包み込むのを感じた。嫌なハンディを感じるが、兜は顔が見えない仕様になっており、これで先へ進みやすくなる。アスカはなるべく他の兵に態度でばれないよう、自分なりに毅然としながら施設の奥へ歩き出した。道中、何人か他のアルビオン兵と遭遇したが、鎧のカモフラージュが効いたらしく、誰もアスカを侵入者と気づかなかった。
しかし、奇妙な施設だった。アスカはこの世界が地球から見て数百年ほど前の文明を現実にしたような世界であることはなんとなくわかった。だが、故におかしいと思った。自分がこうして歩いている、この謎の施設の中の設備の整いように。この世界にはやってきて間もないが、アスカは、非戦闘時はスーパーGUTS基地での勤務に勤しんでいた。だから、高度な設備が整っている施設の建物がどんな素材でできているかはなんとなくわかる。この施設はどうだろう。どう考えても、この世界の文明レベルでこの…宇宙金属で構成されているような鉄製の壁が出来上がるものだろうか?もはやオーパーツのレベルである。
(もしや、ここは…誰かが別の星から運んできた素材で作られた施設なのか?)
異性人とも戦ってきた経験を持つアスカならではの勘。実際大当たりだった。シェフィールドがこの世界とは別の星とコンタクトを取り、一部の異星人をこの世界に呼び寄せていたのだから。怪獣もまた例外ではない。最も、星人の中には自らの利益のために飛来する者、どういうわけかこの世界に元からいた怪獣もまた存在しているが。
それを決定的な証拠とするものを、アスカは目にした。
「なんだこれ…!?」
思わず声を上げそうになった。
施設内のあるエリアにたどり着いた彼は、鎖でぶら下げられた足場の真下中に、ありえないものを目の当たりにした。
巨大なシリンダーが…それもダイナに変身した自分さえも十分に入りきれるほどの大きなものがいくつも設置されている。その中には、アスカも見たことがあったり、そうでないものを含めた怪獣たちが収められていた。ここは、レコンキスタがアルビオン各地やトリステインに侵攻する際に利用した怪獣たちが収められている、まさに生物兵器格納室だった。
なんだってこんな大規模なものを…それに、なによりアスカは、この施設を作った人物の人格が、命を弄ぶ許しがたい存在であることを容易に想像した。怪獣だって生きているのだ。それを、兵器として扱うなど、そうとしか思うしかない。一体何者なのだ、この施設を作り上げた者は。
…いや、この施設がどんな場所とか、今は関係ない。それよりもシュウを探さなければ。

ドオオン!!

アスカの耳に、大きな物音が聞こえた。何かが爆発したような、激しい物音だ。その音を追って、アスカは怪獣たちを詰め込んだシリンダー保管エリアの奥へと進んでいく。
しばらく通路の先を進むと、さっきのエリアとは異なる場所にたどり着いた。野球場のような、円形の客席がエリア内を円で囲み、中央にはまっさらな広場が広がっている。
これは…闘技場?中央のそれと思われる場所は、怪獣が何匹も収まるほどの広々としている。もしや、さっきの怪獣保管場所の怪獣たちをここで戦わせて、その力を試す用途でもあるのか?
しかし注目すべきはそこではない。闘技場のゲートの片方の扉が、粉々に砕けている。さっきの爆発したような音の発生源があそこらしい。もしかしたら、あそこにシュウが?
アスカは客席から闘技場へ飛び降り、破壊された扉の方へと駆け込む。
「な…!?」
そこで見たのは…何かの惨劇のあとのような有様だった。
周囲には、アルビオン兵の死体があちこちに転がっていた。それはまさに屍の山といってもいい。血が絵の具のように床を赤く染め、死体は引き裂かれていたり体の一部がもぎ取られていたりと酷い。グロテスク描写が濃いめの映画さえもかわいく見えそうだ。一体ここで何が?まさか、さっきの場所の怪獣が一匹脱走して暴れたのだろうか?
そう思いながら闇の奥に視線を向ける。そこに、捜し求めていた人物が立っているのが見つかった。
「シュウ!」
アスカは、闇の奥で背を向けた状態で立っていたシュウの元に駆け寄った。
「よかった、お前が無事で。にしてもこの周りの有様、たぶん怪獣が暴れたんだろうな。怪我はなかったか?」
おそらくここで怪獣が暴れ、そこにシュウがちょうど居合わせていたとアスカは予想した。
「シュウ、さっさとここから出ようぜ。ティファニアやマチルダたちも心配してるだろうし…」
それに、そろそろシュウから話を聞きたいと思っていた。テファたちの話によると、これまで無茶を繰り返してきたというシュウ。そしてアスカもまた彼が無理をしていることを察した。その理由を聞き出して何とかしてやらなければならない。そうしなければ彼は…。
そう言って手を伸ばすアスカ。

だが、アスカは誤解をしていた。

この場所で起きた虐殺は、この施設内に保管されていた怪獣が脱走したことによるものではなかった。

「………」

無言のまま振り返るシュウ。そのとき、アスカは見た。

背を向けたまま振り返るシュウの瞳が、


血のような紅く禍々しい光を解き放っていたのを。
 
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