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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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雨夜-レイニーナイト-part6/雨中の決戦

少女は、恵まれていた。暖かな故郷、優しい両親と家臣たち。そして自分たちを慕う民たち。自分もいつかこの領地を継ぐか、この地を継ぐ誰かの妻となって華やかな貴族生活を送りつつも、この愛する故郷や両親、民たちのために力を尽くそうと思っていた。

だが父が、ある日汚職事件を起こしたとして逮捕された。
それをきっかけにすべてが変わった。
軍の資金を父が着服したことが王室にばれたとされていた。少女は父をよく知っている。民たちから慕われ、愛する家族のために常日頃努力を重ね続けている貴族の鑑だった。そんな恥さらしもいいところな行為をするはずがない。
だが、誰の訴えも…無論父の訴えは王室に届かなかった。結果、父は獄中で自殺し、母もそのショックで後を追っていき…少女の家は没落した。
親も故郷も貴族の位もなくし、ただ一人さまよい続けた少女。彼女はこれまでの生活から一転して、金もないためロクに食事にありつくこともできなかった。
そんな時、父の友人を名乗る老貴族とである。彼だけは、父の無実を信じた。父の無念を晴らすために自分も全力で協力しよう、といった。まるで孫をいつくしむ祖父のような笑みで。
その日から彼女は、手を差し伸べてくれた彼のために、自分の両親を奪った王室への復讐を誓った。
だが…それは都合のいい駒を手に入れるための芝居だった。
奴こそが、自分の父に濡れ衣を着せることで死に追いやり、自分を地獄にたたき落として張本人だった。
少女は、理不尽にも自分が道化にされていたことを悟った。
両親の仇に踊らされていると気づかず、そいつの意のままに働いてきた自分が憎いくらいだ。そして…自分をこんな地獄の世界にたたき落としたあの男が憎い。

でも、せめて一矢報いたいと強く思った。両親の仇であるあの男を悔しがらせることをして見せたかった。一度くらい、誇るべきトリステイン貴族らしいことをもう一度やって見せたくなった。
この醜くて残酷なことだらけの世界を、必死になって守ろうとしてくれた、あのさえない少年…いや、守護神であるあの光の戦士が、常日頃そうしているように。

なぁ…サイ、ト…



「ふ、ふん…脅かしおって。これだから下賤の輩は困るのだ」
一瞬恐怖したことを覆い隠すように、勝ち誇った笑みを浮かべたリッシュモン。
だが次の瞬間、安心した隙をついてアニエスの銃がリッシュモンに向けて放たれた。
バン!!
アニエスの狙った先は、奴の杖を握る右手と、左足。その二か所の他、腹にも一発鉛玉がぶち込まれた。
「ぐあああああああ…!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
さらにここで、ダメ押しにサイトが駆けだした。そしてリッシュモンに近づいたところで、デルフを使ってリッシュモンの杖を叩き斬ってしまった。
杖を失い、右手と左足、わき腹を負傷したリッシュモンは3メイルほど先の位置まで後ずさった。
「はぁ…はぁ…ここまでだな、リッシュモン」
「おい糞爺、…てめえ、一番怒らせちゃならねえ奴を怒らせちまったぞ?」
アニエスが、銃口を向けたままリッシュモンを睨み付けた。デルフも怒りの気持ちを口に出していた。今、ルイズ達さえも怯えさせるほどの形相を浮かべている、サイトの心を代わりに代弁しながら。
(こんな奴のためにミシェルさんは…ずっと頑張ってきたっていうのか!!こんな、人間を人間とも思わない糞野郎に!!)
自分が重用した部下を、用済みとなった使い捨ての道具のように見下しているその態度。
サイトは、激しい激情に駆られていた。わかってはいた。こんな下種がこの国に潜んでいたことは。だが…実際に目の当たりにすると、それでも我慢してこの国や世界のために戦うことが正しいことと信じていた自分に対して、絶望と憤りさえも湧き上がりそうになってしまう。
「こ、このままでは…終わらんぞ…よくもこのわしに…!!」
しかし傷ついた胸の傷を押さえながらリッシュモンはアニエスたちを睨み付ける。
「もう容赦はせん!ムルチとやら、やってしまえ!!こいつらを殺してしまえ!この町を破壊してしまえい!!」
ゾアムルチに向けて叫ぶリッシュモン。すると、ゾアムルチはその命令を聞き入れ、ダウンしたグレンを放り出してサイトとアニエスの方に歩き出し、口から破壊光線を飛ばしてきた。その光線は直撃しなかったが、サイトとアニエスの周囲の建物を吹き飛ばした。
「そのまま薄っぺらい正義と共に死んでしまえ!!」
最後のそう吐き捨てると、リッシュモンはサイトたちの前から雨に隠れて姿を消していた。
「ま、待て!リッシュモン!」
リッシュモンを覆うとしたが、ちょうどその時に二人の周囲に瓦礫が飛び散り、二人は身を伏せてその衝撃を耐えぬく。
目の前の憎き仇をみすみす見逃してしまった。悔しさと自分のふがいなさに怒りを募らせるアニエス。
その時だった。
「サイ、ト…隊、長…」
すると、サイトたちの名前を呼ぶ声がかすかに聞こえてきた。その声をたどるサイト。
「ミシェルさん!?」
リッシュモンの抵抗で、胸に風穴をあけられてしまったミシェルが、目を覚ましたのだ。
「ミシェル、お前…」
アニエスが片膝を付いてミシェルの顔を覗き込もうとしたとき、街で爆発が起こり、地面を通してサイトたちの体にも衝撃を与える。
「アニエスさん、ここはいったん離れた方が!」
悔しいがサイトの言うとおり。サイトとアニエスはミシェルを抱えていったんこの場を離れた。
路地裏についたところで、二人はミシェルを建物の壁の傍に座らせる。
「ミシェルさん…」
サイトはミシェルの姿を見る。その姿はあまりに痛々しくて…目を当てるのもやっとだった。体のあちこちからは血がおびただしく流れ落ち、彼女自身の血だけでも水たまりが出来上がるほどだった。
「どうして、あんな無茶を…!?」
さっきリッシュモンに考えなしで突撃したことを尋ねる。すると、彼女は握っていた手をサイトに見せる。そこに握られていたものに、サイトは目を見開いた。
「それは…!」
そこに握られていたのは、ウルトラゼロアイだった。
(まさか、さっき掴み掛った時に、リッシュモンからくすねて…!)
そうとしか思えない。ミシェルを通してリッシュモンに奪われていたゼロアイを、今度は彼女自身の手でサイトの元へ奪い返されていたのだ。
「なんだ、その眼鏡は?」
アニエスはそれを見て目を丸くする。眼鏡の意匠はあまり眼鏡としての機能を求めているとは思えなかった。
「…俺の大事な宝物です。でも、どうして…?」
ミシェルはあの男の配下で、恩人でもあった。それに今のトリステインを強く憎んでおり、それに味方するウルトラマンに対してもよい感情を持っていなかったのも事実だ。
「…サイト…」
ミシェルはかすれた声でサイトを見る。だが、その目は虚ろだ。すでに意識が薄れ始めているのだ。
「すまない…私は…情けない女だ…恩人と信じていた人こそが、仇だとも…知らず…に…ごほっ!!」
「ミシェルさん、もう喋ったらだめだ!すぐに治療しないと!!」
サイトに向けて言葉を綴ろうとした彼女だが、言おうとするたびに血が吐き出される。あまりの姿にサイトはすぐに口を閉ざすようにミシェルに言う。
『サイト…もうだめだ。彼女はどのみち…』
ゼロの、無念の思いが込められた声が聞こえる。この傷だらけのミシェルを見れば、誰でも一目瞭然でわかるだろう。

もう、ミシェルは…助からないのだ、と。

「隊長…もうしわけ、ありません…私は、みんなを…騙していました…すべて、あの…男が口に…していた、トリステイン…を始祖の名…に恥じな…い神聖な…国にする…という甘言に……」
サイトの忠告を断り、ゴホゴホと血を口から吐き流しながらも、ミシェルはアニエスにも謝り続けた。
「…たとえ、お前の境遇に悲劇性があっても、お前のしたこともまた許されることではない」
「アニエスさん!」
確かにミシェルは元々リッシュモンが放ってきたスパイだった。でも、この人自身が悪だったわけではないし、彼女もまた騙されていたのだ。そんな言い方はないだろ!と言い返したくなった。
「いいん…だ…サイト…私がこうなったのも、…自業…自得だ」
ミシェルはサイトをなだめながら言った。自分がことによってはこうなることを…いつかこうなることを覚悟していたのだ。最も、信頼していたリッシュモンから裏切られるという事態までは想像もしていなかった。
ミシェルは、改めてサイトの方に向き直り、リッシュモンから奪い返したウルトラゼロアイをサイトの手に握らせながら続けた。
自分の体から熱が消えていくのを感じているせいか、雨の中で体が冷えているはずのサイトの手が温かく感じる。
羨ましいものだ…とミシェルはサイトに対して改めて思った。まっすぐな心を持ち、誰かのために戦う、光に満ちた情念。リッシュモンの企みで闇に落ち、暗き情念でトリステインへの復讐と改革へ突き進もうとしていた自分が掴みたくても掴めなかった光がそこにある気がした。
サイトは彼女の顔を見る。今にでも消え入りそうな…儚い笑みだった。それが、よりサイトの心に悲しみを催した。
「そんな顔を…するな……私のような…薄汚れた…女…の…ために……
以前…星人共の屋敷…で…私に言ったことを…思い…出せ…」
悲しみの表情を浮かべるサイトに、ミシェルは首を横に振りながら言った。
星人の屋敷…ケムール人が発端となって発覚した魔法学院生徒の誘拐事件で再度訪れたモット伯爵の屋敷での戦いで、サイトは言った。
『恩人たちの恥じない人間でありたいから』『守りたい人たちがいるから』。
そんな、どこまでもまっすぐな理由で進もうとするサイトは、
間違いではないか?とどこかで疑問に思うことがあってもそこから抜け出せない自分と違い、正しい白の中にいるサイトは、
裏社会の人間となったミシェルにはまぶしくて…そして羨ましいものだった。
「サイト……私と違って……お前は……自分に…正直で、まっすぐな…男だ………だから、一時の曇った感情で……自分の…誓ったことを…曲げるな…お前まで…私と…同じ、道を…たどるな…」
さっきよりも息が弱弱しくなりつつある。もう命の灯が消え入ろうとしている。
「ミシェルさん…俺…」
買いかぶらないでほしい。そう言いたかった。
俺は使い魔としての力をルイズからもらったただの高校生で、ゼロはまだ未熟さの残る新米のウルトラ戦士だ。ミシェルが言うような大層な男などではない。自分の黒歴史といえるヘマをしたことだってある。
それに…今の自分は、悲しみの影にリッシュモンのような貴族に対するどす黒い…
メビウスが地球で戦っていたあの頃、自分の過去をハイエナのように掘り探ろうしたのはまだよかったが、ウルトラマンへの恩を仇で返し生き延びようとしたあの悪徳ジャーナリストに対する者と同じ、『憎しみ』が湧き上がっていた。
「こんなこ…とを…言う…資格はない…のはわかっ…ている…
…だが、お前は……今の…お前の…ままでいろ……
どこまでも、まっすぐで…青臭い…でも、その分だ…け…誰か…の…ため…に戦う…ことの…できる…優しさを持った…お前のままで……さもなければ…私のように、なる…ぞ…」
彼女は空を見上げた。まだ雨が降り続いている。でも、たとえ雨がなくてもミシェルは自分の体がだんだんと氷のように冷たくなっていくのを感じた。…いや、感覚すら抜け出始めていたからそれが本当かどうかも知る由もない。
「でも、願うなら…もう一度…この世界で……時間を…巻き戻したいものだ…」
最期にミシェルはサイトの方を見た。
もう少し時間があれば、この少年からたくさんのことを…大切なことを知ることができたかもしれない。こいつから多くのことを学ぶことができたかもしれない。でも…もうそんな時が来ないことを痛感した。
「サイト……お前のような…男と…は……早く…知り合い…たかった………」

それが、ミシェルの最期の言葉だった。

サイトにゼロアイを握らせる形で返したと同時に、彼女の手はずるっと地に落ちた。

………ッ!!!

自分を救った恩人に騙され生きてきた一人の女性は、その根本にある、自分なり国を思う気持ちを胸に戦い続けてきた。今その生涯という悲劇に、静かに幕が下ろされた。
サイトは、完全にぬくもりを失ったミシェルの手の冷たさで、認めたくないその現実を思い知らされ、俯いた。
「………」
「…サイト、何をしているんだ。街が大変なことになっているんだぞ」
ミシェルに黙祷し、立ち上がったアニエスは現実に引き戻すようにサイトに言った。


アニエスの言う通り、まだ町ではリッシュモンが残したゾアムルチが残っていた。現在もリッシュモンの意思に従い、街を破壊していた。
「ガアアアアア!!」
吠えながら街に乱射魔のごとく破壊光線を放ちながら、トリスタニアの町を地獄に変えていく。
「ぐ、ンの野郎おおおおおお!!!」
いつまでもぶっ倒れて、ウェールズが愛したアンリエッタの住むこの町を破壊されつくされては、彼に顔向けできない。グレンは闘志を再燃させてゾアムルチに向かい、背中から奴に飛び掛かって捕まえる。グレンに捕まったゾアムルチは彼を振りほどこうと暴れだす。
暴れた末に彼を振りほどいたゾアムルチはグレンに向けて自慢の破壊光線をくれてやった。
「グアアアア!!あぐ…!」
四つん這いに地面に手を付き、グレンはその場に再びダウンしてしまう。


「…大丈夫です」
その耳に、グレンが苦戦している戦闘の音を聞き、サイトは立ち上がってアニエスの方を振り返った。
「…俺は、俺の成すべきことをします。ミシェルさんの願いに、みんなの思いに応えるために。だから…アニエスさんは自分がなさなければならないことを優先してください」
「ミス・ヴァリエールたちには何も言わないのか?」
「それは、全部終わらせてからです。行ってください。ミシェルさんのためにも、きっとあいつのせいで苦しめられた人たちのためにも、リッシュモンを捕まえてください」
「…無論だ」
アニエスは、サイトがミシェルの死で悲しむあまり、腑抜けたのではないかと一瞬考えてしまったが、どうやら杞憂だったようだ。サイトの目に戦う意志を見出した彼女は、リッシュモンを追うためにその場を離れた。
「…ミシェルさん」
アニエスを見送り、もう目覚めることのないミシェルを見ながら、サイトは折りたたまれたウルトラゼロアイを開いた。
『サイト…』
『…大丈夫だよ、ゼロ。今までのことを、この人が死んだからって無視する気はない』
これまでも、サイトは幾度も困難に見舞われた。でもその度に乗り切ることができた。ルイズたち仲間たち、自分の思い…それらと向き合って、彼らのために何ができるかを考えてきたから、ここで折れることはなかった。
それでも…
『…泣いてるじゃねぇか』
ゼロが指摘を入れると、サイトは自分の目尻を指先で拭った。塩でも混じらせたようなしょっぱさが指先の水滴に含まれている。
「こいつは…ただの汗だっての」
『…そうか』
それ以上ゼロは何も言わなかった。言わずともわかっているのだ。サイトが強がって嘘をついているのが。
戦う意志がたとえ本物でも…サイトがミシェルの死を悲しんでいるのが。一体化しているから手に取るようにサイトの心を感じ取れるが、たとえそうでなかったとしても、ゼロは同じことが起きていたら、きっとサイトは悲しみで心を一杯にしていると、確信を持っていた。
(相棒…)
デルフも何か言おうとしたが、ゼロと同様何も言わずにいることにした。
開いたウルトラゼロアイは、ミシェルの血が付着し固まっていた。それをふき取ることなく、サイトはウルトラゼロアイを装着した。


ゾアムルチが、いい加減負けが確定していると思っているグレンが未だに邪魔をしてきていることに不快感を覚えたのか、止めの光線を食らわせようと口にエネルギーを充填し始めていた。
「エクスプロ―ジョン!」
だが、その時一発の爆発が巻き起こる。それに続いて、風の刃など魔法による攻撃がゾアムルチに炸裂する。ルイズたちの魔法だ。
「怪獣!何度もこの町を荒らしてくれて…許さないわよ!
ほら、グレン!あんたも立ちなさいよ!」
空からルイズの声が轟く。
(今のは…嬢ちゃん…か?)
グレンが顔を上げると、雨に打たれながらも魔法で援護してくれたルイズとタバサ、そしてキュルケが魔法で援護することで、グレンの窮地を最悪の事態から救い出した。
以前、彼には借りを作ったまま別れていた。ラグドリアン湖のことでもアンリエッタの救出にも一枚買ってくれたこともある。少しでも借りを返すためにもルイズは、新たに詠唱を開始する。
現在の彼女たちはリッシュモンとミシェル、そして彼らを追ったサイトの行方を追っていたのだが、そのさなかにヤナカーギー、そしてゾアムルチが現れたために捜索を一時中断せざるを得なかった。
「た、助けてくれえ!」
ヤナカーギーはジュリオのゴモラによって倒されたものの、リッシュモンがチャリジャから購入したゾアムルチがまだ残っている。ゴモラに変わり、グレンファイヤーが戦っているのだが、雨の中という悪条件のせいで苦戦を強いられている。グレンの出現には街の人たちはウルトラマンとはまた異なる異形の巨人が現れたことに驚いたものの、彼もまた町の人たちを守るべく戦っている姿に、きっとウルトラマンと同じように自分たちを足すに来てくれたのだと確信した。だが苦戦している彼を見て、街の人たちは自分たちがいかに身の危険にさらされているかを思い出し、逃げまどい始める。
「こっちだ!落ち着いて怪獣の反対側へ避難しろ!」
避難誘導も貴族として、そしてUFZの仕事の内だ。レイナールやマリコルヌ、ギーシュらが街の人たちを怪獣の反対側へ避難を呼びかけ続ける。
「けが人はいる!?すぐ見てあげるから慌てないで!」
モンモランシーも水魔法による救護活動を積極的に行っていた。厄介ごとに首を突っ込みたがらない彼女だが、だからと言って目の前で傷ついた人を放っておくことはできなかった。
(もう…サイトの奴、いったいどこに行ったのよ…)
しかし、詠唱中のルイズはサイトの姿がないことに、苛立ちもあるがそれ以上に不安が募っていた。離れてから彼の姿を一度も見ていない。もしや何かあったのだろうか?そんな猛烈な不安ばかりが湧き上がってくる。
「ルイズ、ボーっとしないで!」
キュルケの呼びかけにルイズがはっとなる。
「下!」
タバサが自分たちを乗せているシルフィードに向かって命令を下す。間一髪、シルフィードはゾアムルチの攻撃を素早い動きで回避した。
「集中」
「ご、ごめん…」
タバサが短くも的確な言葉でルイズに注意を促す。タバサの反応が遅かったら、今の会費でルイズは振り落とされていたかもしれない。
「ダーリンがいないからって、落ち着きがないわよ。しゃんとしなさいな」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!」
キュルケが若干からかいじみたことを言うと、ルイズはいつも通りというべきか、顔を赤らめて否定した。
「…!」
すると、タバサは雨空の彼方から、一筋のが飛んできた。その青い光には覚えが誰にもあった
「ダアアアアアア!!!」
その轟く叫びと同時に、ゾアムルチは青い球体から体当たりを食らって倒れた。

ついに、この日もやってきたのだ。

我らがヒーロー、ウルトラマンゼロが!
「ゼロ!」「ついに来てくれたか!」
「ったく、遅いぞ!」
ゼロの姿を見て、街の人たちの目に希望の光が戻ってきた。
地上にいるギーシュたちも笑みをこぼし、キュルケもほっとしていた。タバサもこれで安心できる…と無表情ではあるが、もう大丈夫だろうと確信した。

だが、この日の彼の心に満ちていたのは、深い悲しみだった。その悲しみを…この場でただ一人、ルイズだけが察していた。
(何…?胸が…)
胸が苦しい。どうしてか、胸がひどく締め付けられたような感覚がある。
まるで、大事な誰かと引き裂かれてしまったような、張り裂けるような痛みが彼女の胸に伝わった。


「ぜ、ゼロ……」
顔を上げたグレンは、ゼロの姿を確認する。
「助かったぜ…でも、ここは俺の喧嘩だ。俺がカタを付け…ぐぅッ」
立ち上がって自分がもう一度戦うというが、すでに満身創痍の彼に戦闘を続行するだけの力は残っていなかった。それを一目でわかったゼロは背を向けたままグレンに言う。
「…ここは俺がやる。お前は変身を解いて下がってろ。今のお前はまともに戦えないだろ」
「んなことは…!」
意地を張ってそこまで言いかけたところで、グレンはゼロの背中から伝わる何かを感じた。
まるで、自分とゼロの間に見えない壁でもあるかのような感覚だ。何もないはずなのに近づくことができない。
ここは自分の手で決着をつけたい。ひしひしと伝わるその思いと、背を向けたまま自分を見ているゼロの目を見て、グレンは何かを察し何も言わなかった。
ゼロはゾアムルチの方を振り返る。
「ア゛アアアアアア!!!」
ゾアムルチの鳴き声は、まるで泣いているようにも聞こえた。まるでミシェルの、トリステインの…リッシュモンから受けた非道な仕打ちに対する悲しみと怒りが乗り移ったような声だ。
ゼロは、雨に濡れながらその右拳をギリッと握りしめた。
「デアアア!!」
彼の悲しみを込めた一発のパンチが、ゾアムルチに炸裂した。ダウンしたゾアムルチの上に飛び掛かり、馬乗りの状態でゾアムルチを取り抑える。だが、ゾアムルチはゾロを押し返すと、今度は自らがゼロにのしかかろうとする。そうはさせまいと、ゼロはゾアムルチを蹴って立ち上がる。
互いを押し合おうと取っ組み合いが始まると、ゾアムルチは右手のヒレでゼロの顔をなぐりつけ、両手で彼の首を絞める。猛烈な力があった。
その時、雨の中だというのに激しく燃え上がる一発の巨大な火炎弾が、ムルチの顔に直撃した。
「!」
ゼロは火炎弾が飛んできた方角に視線を向ける。
そこには片膝を支えに立っていたグレンが、両手を突き出した構えを取っていた。今の火炎弾は、紛れもなく彼の攻撃によるものだった。
「これくらい…返しておかねぇと、かっこ悪いからな…」
そういって、グレンはその身を縮ませていき、元の人間の少年の姿に戻って行った。
(無茶しやがって…)
そう思いながらも、ゼロはグレンの支援に感謝した。また一つ借りができてしまい、余計に負けられなくなってきた。
さらに、今のゼロはその力にも勝る心が…もうミシェルの身に起きたような悲しみを起こしたくないという強い思いが力となって、緩んでいたゾアムルチの拘束を解く。
今度は自らがゾアムルチを捕まえる番だ。ゼロはゾアムルチの両手のヒレを捕まえると、がら空きになった腹に向けて膝蹴りを叩き込で押し出し、さらにもう一撃必殺の蹴りをお見舞いする。
〈ウルトラゼロキック!〉
「ダァッ!!」
「ガァッ…!!」
ゼロの心の震えが、ゾアムルチを圧倒した。
ゾアムルチが最後のあがきに、ゼロに向けて自慢の破壊光線を放った。だが、それに対してゼロは頭につけていたゼロスラッガーを手に取り、左手のガンダールヴのルーンを青く強く輝かせながら、ゾアムルチの光線に向けて投擲する。高速回転しながら向かっていくゼロスラッガーは、ゾアムルチの光線とぶつかる。互いに鍔迫り合いのように押し合うが、二本のスラッガーはついにゾアムルチの光線を二つに切り裂きながらゾアムルチに近づく、奴の体をバツ印に切り裂いた。
「グガアアアア!!」
旋回しながらゼロスラッガーが彼の頭に戻ってくる。
これで…最後だ!
〈ワイドゼロショット!〉
「ジュア!!」
ゼロの、ミシェルの過去の因縁に決着をつける必殺光線がゾアムルチの体を貫いた。
光線をもろに受けたゾアムルチは倒れると同時に、木端微塵に砕け散った。


ここまでくれば、もう安全だ。ゼロが怪獣と戦っている間、リッシュモンは雨に打たれ続けながら、一人トリスタニアからの脱出を図っていた。
「しかしおのれ…アンリエッタ共め」
たかが女王を名乗っているだけと思っていた小娘に恥をかかされ、平民の成り上がり風情共に一杯食わされ、挙句の果てに自分が配下に加えた小娘にも…。
「ミシェルも駒の分際で、最後の最期でわしに抵抗しおって…あの小娘は適当に慰み者として売り飛ばすつもりだったが…」
自分の手で実家を取り潰されたミシェルを自分の配下に引き入れた理由には、都合のいい駒を手に入れる他にも明らかに下劣な目的が含まれていた。
だが、その失敗も一時の屈辱しかもたらすだけのものでしかない。
今はゾアムルチが適当に町で暴れている頃だろう。今のうちにこの町を脱出し、アルビオンに亡命すれば、少なくともこの日をやり過ごすことができる。たとえあの怪獣が倒されたとしても、どのみちこの喜劇は自分の勝利だ。大団円なのだ。
そう思っていたその矢先だった。

ドン!!

「は…!?」
リッシュモンは、今何が起きたのか理解できなかった。ただわかったのは…

自分の胸に、自分がミシェルにくれてやった時のような風穴があいていたのだ。一瞬でそこからおびただしい血が流れ落ちる。
まさか、あの銃士隊隊長が自分を!?たかが平民の成り上がり風情に!?
しかし、彼を打ったのは…アニエスではなかった。
リッシュモンは顔を上げると、今自分を撃った存在の姿を確認し、絶句する。
「き、貴様…」
リッシュモンの視界がだんだんとぼやけ始める。
やがて意識も朦朧とし、そのままリッシュモンは街の道に溜まっていた水たまりの中に身を投げ…そのまま二度と目覚めることはなかった。
己の欲望にどこまでも忠実で、己の欲望の赴くままにあらゆる人間を利用し切り捨て、長年自分が仕えてきた祖国を裏切り蝕んできた愚かな男が…人知れず雨の夜の中にその命を無残に散らしたのだった。

「……」

物言わぬ屍となったリッシュモンを……


ウルトラマンと対を成す闇の戦士……『ダークファウスト』がゴミでも見るような目で見下ろしていた。



事件後…。
ミシェルの遺体は、彼女の故郷とされていた領地に運ばれ、彼女の両親が埋葬されている墓の傍らに埋葬された。
墓石に刻まれたミシェルの名を、サイトとアニエスの二人が見ていた。
「…ミシェル、お前は銃士隊を…トリステインを裏切った裏切り者であることに、変わりない。だが…一歩間違えれば、私もお前と同じになっていただろうな。言うなれば、お前はもう一人の私だった」
ミシェルの墓を見てアニエスはそう呟いた。
もし、ダングルテールの事件の後、すべてを失ったあのころに、リッシュモンのような悪党に拾われていたら、自分もミシェルのようになっていたかもしれない。アニエスはそう思えてならなかった。
「私は誓おう。いつかお前のような者を出すことのない国を、陛下たちと共に作り上げて見せる。そのためにも…」
リッシュモンには、次に会うときは自分と彼女が受けた痛みを全部まとめてくれてやる。
アニエスは胸に手を当て、かつての部下に誓いを立てた。
(だが、その前に…)
それと同時に、暗き情念の炎が、かつてリッシュモンの企みの犠牲となった故郷を焼き尽くしたような炎のように、心の中で燃え上がる。
アニエスは、殺された家族や故郷にいた人々の復讐のために、ダングルテールを滅ぼした犯人を捜し続けていた。だがそれは、リッシュモン一人だけではない。
彼女が復讐の対象として、最後に求めていたのは…あの事件で自分の故郷を直接焼き払った『実行犯』だ。
(残った仇は、実行犯だけだ。そいつを殺さねば…)
国の未来を見ることはできても、自分の未来を進むことはできない。そう確信していた。
「……」
サイトもまた、ミシェルの墓参りに訪れていた。
(どうして…自分の星で生きることもできない人が居るんだろう…俺なんて、異世界人なのに…)
自分にもっと力があれば、彼女を救うことができたのではないか?そんな自惚れじみた考えを、ウェールズや王党派の人たちを救えなかったときと同じように抱いてしまう。
でも、もう折れるわけにいかない。ミシェルも最後の最期で背中を押してくれたのだ。今のお前のままでいろ、と。
(ミシェルさん、見ててくれ…)
あなたを救えなかった自分の無力さを忘れず、そして彼女のような悲劇のヒロインを二度と生み出さないためにも…サイトは改めて決意を胸に、アニエスと共にミシェルの墓を後にした。

救うことができなかった。ならせめて…安らかに…。



「…アニエスさん、あの糞爺はどうなったんですか?」
ミシェルの墓を去る途中、サイトはアニエスに気になっていたことを尋ねた。それはミシェルを利用した挙句に切り捨てた、あの卑劣な老貴族の行方だった。
出来ればもう二度と思い出したくなかった。その度に、あの悪徳ジャーナリストとどうしてもダブって見えてしまう。
しかし、次にアニエスの口から明かされた事実にサイトは驚かされることとなる。
「リッシュモンは死んだ」
「え!?」
サイトは目を丸くした。あの夜ミシェルを裏切り、自分たちの目の前から逃亡したあの男が、死んだ?
「奴の遺体が、あの日の夜の数時間後の翌朝、水路に落とされていたところだ。胸には風穴が開けられていた状態だったよ」
アニエスが詳細を教える。それは、あの夜のうちに、逃亡したはずのリッシュモンが殺されたということになる。だが、腑に落ちない。なぜ、自分たちの前から逃げ延びることができた奴が、あの夜から間もないうちに殺されたのだ。
まだ、自分たちの戦いは、始まったばかりということなのかもしれない。
「サイト、これから私たちや陛下にはあらゆる危険が降りかかるだろう。ミシェルもお前に期待を寄せたんだ。驕ることなく、そしてしくじることがないようにな」
「はい」
アニエスは、繋いでいた馬にまたがり、一足先にトリスタニアへと戻って行った。

アニエスと別れたサイトは歩き出す。
その先で、シルフィードと、その傍らにいるルイズ、ハルナ、タバサの三人の姿があった。
墓参りのためにと、タバサが意外と協力的にシルフィードで送ってくれたのだ。そして、ルイズとハルナも、あの夜のショックでサイトが沈んでいるのではと思って着いてきた。
今回の件は、ルイズたちには内緒だが、最初はミシェルに盗まれたウルトラゼロアイの奪還だった。だがいつしか、アンリエッタが目をつけていた裏切り者を捕まえる任務に発展していた。
サイトが自分たちの前に来たと同時に、ルイズが口を開く。
「あれからウェザリーにもあの夜の舞台が台無しにされたことを憤慨されたし、散々だったわ。おまけにあんたは、ミシェルやあの高等法院長を追ってどこかに行っちゃうし」
ルイズは恨み節をサイトにぶつける。
「ごめん…」
「でも、ま…」
ルイズは一時言葉を切り、そして少しの間をおいてから再びサイトに言った。
「ミシェルのことは、正直私たちを騙してリッシュモンに力添えしていたのは許せないけど、残念だったわね。」
「もしかして、ミシェルさんのことも訊いたのか?」
「ええ。だからあいつを単に真っ向から非難することはしないわ」
「ルイズ…ありがとう」
サイトは、それを聞いて少し安心した。ルイズのことだから、ミシェルのことを決して許さないと思っていたが、彼女が少し寛容になって、ミシェルのことについて理解を示してくれたことを嬉しく思った。
「ハルナも、心配かけてごめん」
サイトは、傍らにいたハルナにも謝った。
「うぅん、無事に戻ってくてくれたから、いいの」
ウルトラゼロアイを盗まれたというサイトの秘密の事情など知る由もなかったために、ルイズとハルナはてっきり、サイトがミシェルのことを一人の女性として意識しているのではと懸念していた。でもそれは単なる杞憂だったから、サイトが戻ってきたこともそうだが、そのことに関してもほっとした。
「でも、もう無茶しないでね?お願い」
「…わかった」
可能ならば、だけど。そう心の中でサイトは言った。
自分は…ウルトラマンだ。どうしても無茶をしなければならないことだって、この先はあるかもしれない。そしてその度に、今回のような悲劇を見ることになってもおかしくはない。
それでも…サイトは立ち止まることは決してしないと誓った。
今回のような悲劇を、もう二度と起こさないために。
「乗って」
最後に、タバサが三人にシルフィードに乗るように伝える。

シルフィードの背中から、また新しい朝日と心地よい風を浴びながら、サイトたちは帰って行った。


しかしこの時のサイトには、新たな悲劇のフラグがすでに立っていた。





ア レ ハ 警 告 ダ




その言葉の意味を、そう遠くない未来で思い知ることになる。
 
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