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岩清水健一郎という存在

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2部分:第二章


第二章

 それが何かというと弱さでしょう。倫子はどう見ても非常に気の弱い女の子です。あの学園の設定から見て成績は非常に優秀で顔立ちもいいものです。その他の性格は本来は何処にでもいるような女の子でこれまでいじめにも遭ったことがなかったのでしょう。親からも先生からも勉強のできるいい娘だったと思います。そうした娘が気が強い筈もありません。
 その弱さが醜悪さを助長させたと思います。今僕の手元には一冊の漫画があります。『仮面ライダーSPIRITS』ですがその三巻で『人は弱いから』という言葉があります。弱いからこそ争いいがみ合うのだと。倫子は弱いからこそ歩を身代わりに仕立てて自分が率先していじめる立場になりました。彼女はこの時は気付いてなかったのですがそれは何も変わってはいなかったのです。ただいじめられっ子がいじめっ子になっただけです。何も変わってはいなかったのです。
 歩をかなり酷くいじめ歩は途中羽鳥未来がいなければ自殺してしまうところまで追い詰められています。そこからも歩を執拗にいじめていきました。
 その彼女に転機が訪れるのは園田優樹が彼女達が歩をトイレに連れ込もうとした時です。これは二回あり園田は最初は見ているだけしかできませんでした。しかし二度目で意を決した彼は立ち上がり歩を助けだします。
『誰も止めないからっていい気になるなよ』
 この言葉と共に止められました。これが転機になっています。
 ここでもし彼女が歩を再びトイレでリンチにしたらです。歩はこの時親友の未来を庇っています。未来がそれを知れば激怒していたでしょう。そして倫子を仲間達を含めて絶対に許さなかったでしょう。倫子自身もここで完全に冥府魔道に堕ち、それこそ人間・失格での武藤和彦や宮崎、何よりも新見といった存在と同じ輩になっていたでしょう。園田は歩を救っただけでなく計らずも倫子も止めています。
 そこから安西愛海の悪事も知ったりしていますがそこでトイレで歩くと話しますがこれは完全に居直りでした。要するにいじめられていたから自分がいじめて何が悪い、御前が先にやったんだ、という論理でした。原作の漫画でもこの場面はありましたが大体同じ様な感じでした。原作でも名前は違いますが醜悪さは同じでした。口元は笑っていて目は蔑みに満ちている、そうした醜悪な顔でした。ドラマでは全体的に歪みそのうえドス黒さに満ちた顔でした。その違いはありますがやはり醜悪な顔でした。
 その醜悪な心のまま居直りを見せましたがそれで納得する人がいるでしょうか。聞いていて御前は最低だ、と返す人が殆どではないでしょうか。僕も実際にそう思いました。そして全部言って歩の言葉を聞いてです。倫子はその顔を変えてきました。原作でもそうですがそれまでの己の醜さに気付いてきたからでしょう。
 そしてそのことに気付きましたが愛海にそれを知られまた追い詰められていきます。その結果仲間達にも見捨てられ完全に再び孤立してです。いじめの標的に戻りそうになり歩が止めるのも振り切って飛び降り自殺を計ります。
 この時注目するべきは歩が追い詰められていた時にあざ笑ってです。
『飛び降りじゃ済まないよね』
 この言葉を言っていることです。それがそのまま自分にはね返ってきたのです。その彼女は何とか命は取り留めました。
 しかし自分が馴れ合っていた友人と思っていた面々は誰も来ませんでした。これも原作と同じです。そして歩が見舞いに来ましたがそれは彼女にとっては自分の醜さと向かい合うものに他ならず絶対に会いたくない相手でした。
『あんたの顔なんか見たくない』
 こう言いました。顔を背けてです。ですが歩は何度も見舞いに来て遂に倫子も自分のことを言って涙ながらに謝罪します。この時の顔はまるで取り憑いていたものが消えたかの様なものでした。原作でもあった場面ですがこの時の顔はそれまでの醜さが全く消えていました。
『馬鹿で御免・・・・・・』
 本当に心から涙を流しそのうえで謝罪しました。僕はこのドラマでこの場面が最も好きなのですが心から悔恨し謝罪したからです。己の醜さと弱さを見てそのうえで改心したのです。最後は彼女は必死にリハビリをしていますがそれはこれまでの弱さや醜さから何とか立ち直ろう、前に進もうとしているかの様でした。愛海に全ての罪をかぶせさせられてもそれでも彼女は最後はそれを選んだように見えました。倫子のしたことは絶対に許されないことですし誰もがそれを知れば糾弾するものです。しかし彼女は明らかに闇の中から光明を見出しました。『人間・失格』では誠は死にましたが歩は生きていることもあり好意的な評価になっていると思います。しかしそれでも倫子は何とか光を見出せましたし救われました。
 『ライフ』では倫子は歩、愛海に次いで重要なキャラクターだったと思います。第三の主人公と言っていいでしょう。いじめられる立場がいじめる立場になるとどういうものか、そして弱さに基づく醜さがどういうものか、非常によく描き出したキャラクターだと思います。彼女がこれからどうなっていくのか、そのことに非常に興味があります。
 三番目のドラマは『小公女』になりますがここではミンチン先生を取り上げたいと思います。このキャラクターはアニメにおいても非常に不人気で世界名作劇場でのアニメ版ではラビニア共々視聴者の集中豪雨的なバッシングを受け演じておられた中村妙子さん、ラビニア役の山田栄子さんは剃刀を含めた抗議の手紙を多量に受けファンの人達から降板してくれと言われ精神的にかなり追い詰められました。そうした過去があります。
 このドラマでは三村千恵子と名前で樋口可南子さんが演じておられました。樋口さんは最初はセーラ役の志田未来さんに対して『いじめるわよ』と笑いながら言っておられたようですが話が進むにつれ精神的に追い詰められていったことがサイトでの御本人のインタビューからも窺えます。
 ここでいじめ役についてお話させてもらいますと先に『人間・失格』での役者さん達への尋常ではないバッシングについて述べさせてもらいましたが『ライフ』でもバッシングがありましたし星井七瀬さんもドラマの収録最中ストレスで身体の調子が悪かったそうです。熱演が結果としてそうした精神状況に至らせていたのでしょう。
 『小公女』においてもアニメ版の山田さんや中西さんは『もうこんな役は二度としたくない』と言っておられたそうです。実際に御二人は今に至るまでああした役は演じておられません。そして樋口さんも精神的な負担はかなりのものだったようです。
 このミンチン先生はドラマ版では確かに生真面目なのですが精神的余裕が全くなく、そうした意味では後述の『泣かないと決めた日』の佐野チーフと同じですがそのうえお世辞にも経営能力はありません。教師としては熱心で優れているのでしょうがその精神的余裕のなさと周りが見えない視野の狭さ、そしてコンプレックスの強さを見ても経営者には不向きです。その彼女がセーラの家の没落を知った時に結果として最悪の事態となりました。
『ええ、大嫌いよ!』
 セーラに返したこの言葉は彼女の心をそのまま出してしまったものでした。セーラを集中的にいじめそれはもう虐待と言っていいレベルでした。アニメ版でもそうでしたがよくもここまでできるものだと思いました。これは剃刀も来るだろうな、とアニメ版での同じ感想を抱きました。
 しかし最後でセーラはもう一度豊かさを取り戻します。ここでセーラはミンチン先生を容赦なく地獄に叩き落すことができました。殆どの人がそうするでしょう。僕も同じです。
 
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