ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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雨夜-レイニーナイト-part5/裏切りの代償
前書き
完結記念ということで、もう一話追加します。
…今日帰り際に書店に行きましたが、財布をわすれていたせいで買えなかった!ちくしょう!!(涙)
チャリジャは、とにかくむしゃくしゃしていた。
以前は、とある世界でとある戦士たちに一度はヤナカーギーを倒されてしまった。貴重な能力を持っていてもったいなかったので、金を浪費してでも復活させたときはどれほどの持ち合わせを浪費したことか。
長い間、宇宙を旅してまわりながら、怪獣を売ることで知名度と富を得てきた。これからも怪獣を時に拾ったり買い取ることで手に入れ、そして高く売りさばいてがっぽり稼いでいくつもりだった。
そして彼は、『惑星エスメラルダ』と名付けられたこの星のハルケギニア大陸という場所に目を付けた。ここではある組織が怪獣を手に入れ、戦争に用いているという。なら自分もその片棒を担いでがっぽり稼いでやろうと企み、レコンキスタに取り入った。
これにより、レコンキスタは怪獣バイヤーである彼の協力を得て、さらなる怪獣を生物兵器として手に入れ、ウェールズたち王党派を圧倒的に上回ることに成功した。
だが、この世界でもまた邪魔が入ってしまった。噂では、一度ヤナカーギーを倒した『光の戦士』の同胞たちがこの世界にもいるという。邪魔をされてはかなわないと見たチャリジャは、レコンキスタ所属の商人として、怪獣を本来の価格よりも安く売る代わりにある条件を、レコンキスタに内通していたトリステイン貴族であるリッシュモンに持ちかけたのだ。
『ウルトラマンが変身に使う道具』を、割引券代わりに持ってきてほしい…と。
しかし、今度こそ邪魔が入らずに商談が成立するところで、今度は現地の女王一派の邪魔が入ってしまった。
一度ならずに度までも、邪魔をされた腹いせをぶちまかなければ気が済まない。
「宇宙一の暴れん坊ヤナカーギー!私の商談を台無しにした報いを与えてやれ!」
チャリジャが地上から、ゴモラと戦うヤナカーギーに向けて命令する。
「キシャアアアアアア!!」
「ニャアアアア!!」
雨の中、自身の体に触れる雨水を弾き飛ばすほどのゴモラの咆哮が轟く。それに対し、ヤナカーギーもゴモラを敵と認識、襲いかかった。
二体もの怪獣が互いに争うというケースは、少なくともこの町では初めてのことだった。恐ろしい巨大な怪物が暴れまわるという光景は、街の人たちからすれば恐ろしいこと以外になんと表現すべきかもわからない。
ゴモラはヤナカーギーに掴み掛ると、その顔に向けて拳を一発叩き込み、そこから同じように連撃を叩き込む。3発ほど叩き込むと、今度はヤナカーギーがゴモラの角を両手でつかみ、ゴモラを投げ倒した。倒れこんだところで、ヤナカーギーはゴモラの背中にのしかかり、角をつかんでゴモラの顔を地面に数度叩きつけた。
「ギシャアアアア!!」
ゴモラはヤナカーギーを振りほどこうと奇声を上げながら、顔を中心に体を大きく揺すった。かなり乱暴に動かされたことでヤナカーギーの拘束を解いて立ち上がり、頭突きを一発食らわせ、さらに尾を鞭のように振るってヤナカーギーの顔を攻撃した。
顔に鋭い一撃を受けたヤナカーギーはダメージこそ受けたが、すぐにお返しに自分もゴモラの顔に尾を振るって攻撃、ゴモラはダウンしてしまう。
「ゴモラ、立ち上がれ!」
ジュリオが大声で強く命じた。彼の気合入れに応え、ゴモラはすぐに立ち上がった。立ち上がると同時に、ゴモラはヤカナーギーに再び突進する。真正面からゴモラの体当たりが直撃、腹を押さえて怯んだヤナカーギーに、ゴモラは後ろ蹴りを食らわせてダウンを誘う。
さらに追撃しようと近づくが、ヤナカーギーは立ち上がると同時に二度目の尾の攻撃でゴモラの顔を攻撃した。それが、偶然にも彼の目に当たってしまう。
視界を一時的に封じられてしまい、大きく怯んだところで、ゴモラは膝を付いてしまう。ヤナカーギーが、隙だらけとなったゴモラに接近する。
「ゴモラ!」
敵が近づいていることを知らせるジュリオ。ゴモラは匂いと気配をたどって、正面から近づいてきたヤナカーギーに蹴りを食らわせようとした。だが、その一撃は簡単に受け止められてしまい、ゴモラは羽交い絞めの形で捕まってしまう。首を絞められ、ゴモラはもがくが、ヤナカーギーは決して離そうとしない。
そして恐るべきは次の減少だった。ゴモラの、鼻の先にある角から赤い光のようなものが、ヤナカーギーの口の中へ吸い取られ始めたのだ。そのせいなのか、必死に抵抗するゴモラの鳴き声に元気がなくなり始めた。
ヤナカーギーには、相手のエネルギーを吸い取る能力があり、今もゴモラのエネルギーを吸収し始めているのである。
「ちぃ…」
敵につかまってしまったゴモラを見て、ジュリオは舌打ちした。
「ヤナカーギー!そうだ!そのままエネルギーを吸い上げてしまえ」
ゴモラを捕まえ、エネルギーを吸い上げ始めたヤナカーギーを見て、チャリジャは勝ち誇った。
「しかし、ゴモラか…なかなかいい怪獣ではないか。かつてはウルトラマンさえも苦しめたほどだというからな。せっかくだ。あの怪獣を十分に弱らせたら、今度は私の手で手懐けてやるか!」
さすがは怪獣バイヤー。ゴモラを新たな商品として強奪する算段を企て始めた。
「待ちな。そこの変顔怪人」
しかしそうは問屋が許さないとばかりに、チャリジャの後ろから男の声が聞こえてきた。
「変顔とはなんだ!」
人がいい気になっているところに水を差してきたことが気に食わなかったのか、不満げに声を荒げならチャリジャは背後を振り返る。
そこに立っていたのは、人間体のグレンだった。しっかりフードをかぶって雨をしのぎながら、チャリジャを突き止めたのだ。
「今すぐあの怪獣を止めな。でねえと、一生残る火傷じゃすまねぇぜ?」
両こぶしをパキパキ鳴らしながら、グレンはチャリジャに近づいていく。チャリジャは、ゴモラを捕まえるという今回の自分の失敗分の取り返しもできなくなったことを悟った。ヤナカーギーがこっちに来る前にはタイムラグがどうしても出る。その間にこいつの手にかかる可能性が高い。
せっかくなかなか生きのいい怪獣を見つけたと思ったのだが…仕方ない。
「こんなところでお前のような脳みそが筋肉でできてるような乱暴者にやられるわけにいかん。さらばだ!」
チャリジャは杖を頭上に掲げると同時に、煙のようにその身を消してしまった。
「あぁ!?誰が脳筋だゴラ…ってくそ、逃げやがった…」
犯人をまんまと取り逃がしてしまったグレンは地面に蹴りを入れる。奴はレコンキスタ側にいた怪獣商人。ウェールズの国の滅亡の一員でもあるのだ。友のためにも奴をしとめるかふん捕まえるかしておきたかったのだが、逃げられてしまったのではそれもかなわない。
だが、さらなる危機がグレンたちに襲いくる。
さらにもう一体、雨の中に…怪獣と思われる巨大な影の姿を見た。
「な…もう一体!?」
グレンは振り返ったとたんに見つけた、その魚類に似た怪獣の姿を見上げる。まるで悲鳴とも取れるような悲痛な叫び声だ。
こうしちゃいられない。このままではアンリエッタたちにも被害が出るかもしれない。だが…。グレンは一瞬躊躇った。
自分は…いうなれば存在そのものが炎だ。雨に濡れるということは…。
いや、何を怖気づいている!こんな雨、体に触れた途端に蒸発させてやるまでだ。
グレンは雨への恐怖を拭い去り、フードを脱ぎ捨てた。そして、変身の掛け声を叫ぶのだった。
「ファイヤああああああああああ!!!」
リッシュモンはいつの間にか先回りしていたアニエスを見て、妙にほっとした。相手が元々魔法が使えない平民の出の人間だからである。リッシュモンもかつてのギーシュやルイズのように、平民は貴族に勝てないと認識していた。とはいえ、アニエスはこの時点で何人ものメイジを相手にし、勝利を飾ってきた凄腕の剣士でもあった。所詮メイジを倒してきたというアニエスの功績もただの根拠のない噂だと断じ、完全にリッシュモンはアニエスを平民の成り上がり風情と見下していたのだ。
「元々あの劇場は貴様の管轄。こんな逃げ道も今のような非常事態に備えて設置していたというわけか」
剣を引き抜くアニエスを見て、ミシェルは口を開いた。
「隊長…そこをどいてください」
「…離反してなお私を隊長と呼ぶか」
アニエスは表情こそそのままだが、目の前の元部下が自分を今でも隊長と呼ぶことに意外性を感じた。
「ふん、所詮は平民だな。自分の部隊にスパイが潜り込んでいたことも見ぬけんとは」
「金と権力に目がくらみすぎた貴様が言うか」
鼻で自分を笑ってくるリッシュモンに対し、アニエスは汚物でも見るような目でリッシュモンを睨み返した。
するとそこへもう一人、ミシェルたちの後ろから誰かが駆け出してくる音が聞こえてきた。
「ミシェルさん!!」
ぎりぎり、リッシュモンの隠し通路に飛び込むことに成功したサイトだった。彼もまた、雨にぬれ始めていた。
「サイト、お前までここに…!?」
アニエスは目を丸くする。彼女にとってサイトが来ることは予想外だった。
「ちぃ、厄介な…」
レコンキスタ側の関係者からこの日のために聞いていたウルトラマンゼロの変身者である彼まで来たことに、リッシュモンは歯噛みする。
「ミシェルさん、もう一度言います。ここで降参してください」
剣を構えながら、サイトはミシェルに言った。例え今更だとしても、剣を交えたくはない。例えどれほど甘いと言われようとも…。
ミシェルは、サイトを見る。そのまっすぐさはどこまでそのままだろうか。
レコンキスタから情報で、彼がこれまでハルケギニアに現れ人類の危機を救ってきた救世主の一人だと知ったときは驚いた。普段はこんなにも冴えない小僧にも見えるというのに、こんな少年がウルトラマンだなんて思いもしなかった。だが、彼は他の人間と違って、正しい白の中に居続けている。それが…どことなく羨ましく思ってしまう。
だからこそ…もうこれ以上自分に情を移してはならないのだ。
こんな、生きるために手段を選ばなくなった、薄汚い裏切り者などに。
「今の私はお前たちの敵だ。いや…それ以前に、私は元々女王の内情を探るために主の手によって送り込まれたスパイだ。そんな女に心を許そうとするな」
「ッ…!」
サイトはそれを聞いて悔しげに顔を歪ませた。
『…サイト、もう覚悟を決めろ、彼女は…』
『わかってる。わかってるけど…』
無駄だとは、心のどこかで既に分かっていた。でも、サイトの知っている彼女は、彼女なりにこの国を正しい方向に向けようとしていた。そう思うと、このまま彼女を悪と断じるのは気が進まなかった。
「お前の父君の汚職事件が原因で家を取り潰され、貴族の名を失ったことがそんなに許せないか…」
「私の父は無実だ!」
アニエスがミシェルの過去の一部を口にし、その怒りの具合を問うと、ミシェルはそれを聞いた瞬間、自分の中から凄まじいほどの怒りと憎しみが湧き上がるのを感じた。
「私の父は、王室のでっちあげた事件のせいで職を追われ、自殺した!母もその後を追って逝った!たった一人私を残して!トリステインそのものが私の家族を殺したも同然だ!!」
「ッ!」
サイトはそれを聞いて驚愕する。ミシェルはそのまま怒りをアニエスにぶちまけるように己の不幸な過去を告白し続けた。
「孤独になった私は生きるためにはなんだってやった!殺人だろうと、強盗だろうと!
だが、父のご友人だったリッシュモン様は私を孤独から救ってくださったのだ!
私が家を取り潰され、生きるために手を汚したことを知ってて、父の無実をたった一人信じてくださった!
だから私は、この腐ったトリステインを破壊し再建することで、始祖ブリミルの名に恥じない本来の栄誉ある国に変えるために、リッシュモン様のお力になると決意したのだ!
この方の、トリステインを正しい国にするという理想を叶えるために!
この国をあるべき姿にするためならば、私は悪魔にでも魂を売ることも、仲間を裏切ることもいとわない!」
その声には、幼い頃から溜め込んできた理不尽な現実に対する怒りと悲しみ、憎しみが込められていた。彼女の口だけでは想像もしえない壮絶で過酷な人生だったのだろう。
ミシェルは、自分たちの後ろに立っているサイトの方を振り返った。
「サイト…お前は言ったな。自分を守ってくれた人たちに恥じない人間でありたいと。
だったら、私の気持ちだってわかるはずだ!今の私がこうして立っていられるのも、リッシュモン様がいたからこそだ!
私を救ってくれた恩人よりも、こんな腐った貴族共が上を占める国を助けるというのか!?」
「……」
ミシェルの悲しみに満ちた叫びが、サイトの心を揺さぶった。
腐った貴族…思い起こせば何人か思い当たる。愛人としてシエスタを狙ったモット伯爵。重税をかけて代金を1ドニエも払わず街を牛耳ったチュレンヌ徴税官。若き日からの婚約者だったルイズや祖国を裏切って、ウェールズとアンリエッタを一度は引き裂いた卑劣な裏切り者、ワルド。思い出してみれば、ギーシュも貴族の身分に胡坐をかいて同級生二人に二股をかけたりと好き放題。ルイズも自分を召喚した当初は、自分の貴族としてのプライドと魔法が使えないコンプレックスに囚われすぎて傍若無人な振る舞いをサイトにぶつけてきた。
貴族は…ろくでなしばかりだった。
ルイズやギーシュたちは変わった。だが、この世界が本当に平和を勝ち取らなければならないというなら、間違いを犯した貴族たちをどれほど助けなければらないだろうか。いや、考えたところできりがない。一人の人間を改心させたところで、また別の人間が悪事を働く。悪人の悪事に巻き込まれた被害者もまた悪に落ちてしまうこともあり得なくない。
そして一度悪に落ちた人間とは、たとえ正義の味方に命を救われても改心する可能性が著しく低い。またどこかで、悪事を働くことがほぼ当たり前といえる。地球にいた頃、ニュース番組で過去に罪を犯した容疑者が別の事件を起こして逮捕されたという話をなども耳にした。それどころか、ウルトラマンの正体を世間に暴露することで自分が助かろうとした、恩知らずで卑劣なジャーナリストもいた。
延々と続く負のスパイラル。
俺がいくら頑張っても…無駄なのか?
誰かを助けたところで、ミシェルさんのような苦しみを抱え込まされる人間が増えていく。命を救っても、罪なき人たちが悪人に苦しめられる時間ときっかけを増やすだけでしかないのか?
悩み始めるサイト。だが、アニエスがミシェルに向けて口を開いてきた。
「その痛みは分かる。私は、かつて故郷を貴族に焼かれたことがあるからな」
「「え…!?」」
それを聞いて、サイトとミシェルはアニエスの方を見た。
「20年前…まだ私が1桁の子供だった頃だ。私の故郷は何の咎もなかったにもかかわらず、炎の中に消された。後に調べたところで新教徒狩りのためだと聞いた」
瞳の中に映る景色は、この雨の夜ではなかった。
アニエスがまだ子供だった頃にみた、故郷が火の海に包まれるという地獄絵図。その中でただ一人、家族を呼びながら泣き叫ぶ少女がただ一人。
(アニエスさんも、失っていたのか…)
サイトは、自分と同じような過去をアニエスまでも持っていることに驚いた。
「だが、だからといって私は陛下に逆恨みはせん」
一方で、アニエスはミシェルとは逆の意思を示した。それを聞いてミシェルは声を荒げ、剣を抜いてアニエスに飛びかかった。アニエスも剣を抜いてミシェルの一太刀を防ぎ、土砂降りの雨の中にもかかわらず、剣と剣がぶつかる金属音が鳴り響いた。
「一体女王が何をしてくれたというのだ!今の王政を叩き潰し、何もない状態からやり直さない限りこの国は腐ったままだ!」
「やめてくれミシェルさん!」
サイトは一歩前に出てミシェルに向けて叫んだ。だが、ミシェルは剣をふるうのをやめようとしない。
剣をふるうミシェルに対し、アニエスは一つ一つの剣撃を受け止めていく。ミシェルは元は貴族、つまりメイジだ。だがさっきから呪文を唱えようともせず、正面から自分に県の勝負を挑んできている。恐らく、魔法を使おうとすればその隙を突いてくると予想しているのだ。ミシェルはアニエスの戦いを傍で見てきたから、彼女の戦法も理解していないわけがない。
数度目の撃ち合いの後、再び彼女たちの剣が互いに鍔迫り合いに入り込む。
「ミシェル…哀れだな」
互いの件を押し合う中、アニエスは憐れみの視線を向けながらミシェルに対して口を開いた。
「哀れだと?私を哀れむな!」
激高するミシェル。同情する気持ちがあるのなら、どうして王室は今まで自分を助けてくれなかったのか。
しかし、次の瞬間…ミシェルにとって衝撃的な言葉がアニエスの口から言い放たれた。
「お前の父君の汚職事件…その真犯人こそが貴様の恩人だ」
「………え………」
今、なんて言ったんだ?この人は。
私の恩人こそが…父の汚職事件の…何?
「すでに証拠は掴んでいる。父君は軍資金の着服の容疑を懸けられたそうだな。だが、実際にはリッシュモンがお前の父に着服するよう命令したのが真実だ」
「嘘だ……」
「お前の父からそれを断られたことを根に持ったリッシュモンは、雇ったスクウェアクラスのメイジに『フェイスチェンジ』でお前の父に化けさせ、軍資金を着服したのだ」
「でたらめだ…でたらめを言うな!」
激情に駆られ、ミシェルはアニエスに向けて剣先を突出し、彼女を刺し殺そうとする。だが、怒りに身を任せた攻撃は、剣のみでここまで突き進んできたアニエスには簡単に避けられる攻撃でしかなかった。
「証人ならいるぞ。その時の事件でリッシュモンに同伴した貴族がいた。それもサイト、お前も会ったことがある男だ」
「え?」
いきなり名指しされ、サイトは目を丸くした。
「チュレンヌだ。奴が私の拷問に耐えかねて真実を吐いたのだ」
もう聞くことがないと思っていた名前を聞いて、サイトはぎょっとする。確か、アンタレスを使って街の人たちや魅惑の妖精亭の皆を苦しめてきた悪代官じゃないか。まさか、奴がミシェルの実家の取り潰しの件に関わっていたとは。だがそれだけではなかった。
「チュレンヌが雇ったスクウェアメイジも、ワルドだったことが判明している。奴も若い頃からスクウェアクラスの力を持ったことでグリフォン隊の隊長を務めたほどだからな」
しかも、なんとワルドまで絡んでいたのだという。ミシェルの家が取り潰された正確な年月はいつなのかはわからないが、それでも今よりずっと前のことであるのは予想できる。ただ、それほど以前からワルドが、ルイズが憧れてきた形と大きく外れた男に成り下がっていたとは。
「そうなんだろう、リッシュモン?何せ20年前のダングルテール事件…私の故郷を、新教徒狩りの報奨金狙いで滅ぼしたのだからな。大方、ミシェルのケースも同じだろう?」
推理小説で犯人を名指しするかのように、アニエスはギロッと、ミシェルとサイトの間にいるリッシュモンにに向けて槍のような視線を傾けた。
「嘘だ、嘘に決まってる!!そうでしょう!リッシュモンさ…」
ミシェルは自分の主に向けて、アニエスと剣の押し合いを続けたまま問いかけた。信じられるはずもない。自分を救ってくれたはずの人が、自分や父親を嵌めた元凶だなんて思いたいはずがない。
アニエスが嘘をついている、そう思うことで揺さぶられる心を固めようとする。
だが次の瞬間、誰よりも彼女にとって信じられない現実が待ち受けていた。
ニヤリ…
下卑た笑みを浮かべた悪魔の微笑と共に、人間の欲望のごとく渦巻く灼熱の炎が、アニエスとミシェルに向けて襲いかかった。雨の中でも、その身に触れる雨粒さえも蒸発させるほどの炎が彼女たちに一直線に向かっていく。
「アニエスさん!ミシェルさん!!」
手に握っていたデルフを持って、いち早くサイトが駆けだす。 二人の前に立ち、彼はデルフで縦一直線に、彼女たちに襲いかかってきた炎を切り伏せる。切り裂かれた炎は、そのままデルフの刀身に吸い込まれていった。
「な、何!?わしの炎が…!?」
それを見たリッシュモンが声を漏らす。
そう、今の炎を放ったのは他ならぬリッシュモンだった。たかが平民ごときの剣に、自分の自慢の魔法の炎が吸収されたという予想もしなかった事態に動揺した。
(まさか、これもウルトラマンとしての能力なのか…!?)
サイトがレコンキスタからの情報でウルトラマンの変身者であることを知っていたリッシュモンは、それがその要素と関係があると予想した。実際には違うが…。
「り、リッシュモン様…!?」
ミシェルは、アニエスに押し返そうとしていた剣を下して、主とあがめている男の方を振り返る。奴は、明らかに杖をこちらに向けていた。
「ミシェルさん、あなたの言った通りだ…」
サイトは顔を上げながら、リッシュモンの姿を見る。
「腐った貴族がこの国の上層部を占めている。でも…」
もう自分たちの目は誤魔化せない。この男についてはすべてアニエスが言っていた通りだ。
「そのうちの一人には、この糞爺も混ざっていたんだな」
隙だらけとなった邪魔者、アニエスを…こともあろうか自分の部下もろとも消し炭にしようとしたのだから。
「…ばれてしまっては仕方ないな」
「!?」
自分に向けて、開き直ったかのようにも取れる態度で、下卑た笑みを浮かべながらリッシュモンは告白した。
「そう、あの小娘の言うとおり、20年前のダングルテールをとある1部隊に命令して焼却処分させたのも、ミシェルの父に無実の罪をかぶせ家を取り潰したのもこのわしだ」
それを聞いた瞬間、ミシェルの中で何かがガラスのように破壊され、彼女はその場で膝を付いた。
ずっと信じてきた。幼い頃、家を取り潰されて以来流浪の生活を送ってきたミシェル。あらゆる犯罪を冒してでも命をつないできた。だがそんな生活に人間が耐えきれるはずもなく、ミシェルは心身ともに疲弊し限界に達する。その矢先のこと、彼女はリッシュモンに出会った。
『父と母の無念を晴らしたくはないか?』
その一言からだった。父と母と殺し、自分の幸せを奪ったトリステインへの報復と、自分を孤独と貧困の淵から救ってくれたリッシュモンへの恩返しのための人生が始まった。
あの方のために命を懸け、トリステインを再誕させるための活動を開始した。
一度腐った国は一気に掃除をしなければならない。
リッシュモンは、圧倒的力で今のトリステインを叩き潰すことで、新たなトリステインを誕生させ、その王となる。それにより今まで貴族の権力争いで苦しんできた者たちを二度と生み出すことがない国となる。そのために、リッシュモンはレコンキスタと内通し、奴らの側にいる商人から強力な怪獣を買った。その力で一気にトリステイン王家を潰す。
ミシェルはリッシュモンのためにずっと戦い続けてきた。親を奪った国を破壊し、トリステインを本来のあるべき姿とするために生き続けてきた。
だが……
「所詮、位を落とされた下賤な小娘よ。まんまと騙されおって…」
恩人だと思っていた男は、そんなミシェルを…たとえその身を闇に落としてでも国のために、両親のために、恩人のために戦ってきた彼女を鼻で笑い飛ばした。
「…なんで、あんたみたいな人間がいるんだ…あんたみたいな…あんたみたいな奴が!!」
サイトは、声を荒げながらリッシュモンに向かって叫んだ。
「わしはただ裕福に暮らしたいだけよ。尽きることのない財力と、脅かされることのない権力…これこそがこの世における絶対的幸福だ。だが、一人の人間が幸福になるには、常に誰かを犠牲にせねばならん。その犠牲がたまたまそこの小娘共と、それに纏わるものだっただけのことよ」
これがリッシュモンの本性なのだ。ミシェルが考えているような男でもなかった。自分が幸福に…贅沢になるために、他者を平気で利用し、虐殺行為まで働かせる卑劣な男だったのだ。
「銃士隊隊長、貴様にも教えてやろう。貴様の故郷…ダングルテールのこともな」
それを聞いてアニエスの眉がピクリと動いた。
「あの村には新教徒…つまりブリミル教と異なる宗教が信仰されていた。だがそれはブリミル教徒にとって、始祖の意思に背く無神論者と同じ。ブリミル教の総本山であるロマリアがそやつらを消すために莫大な報奨金を用意したのだ。そしてわしは莫大な金を手に入れるために、あの村を消させたのだよ。
ミシェルの家も同じよ。あやつの父は生意気にもわしに逆らったのだ。おとなしく奴が管理している軍資金をわしに献上しておれば、奴も娘を一人置いて死ぬこともなかったというのに…。
そうとも知らずにミシェルは父の無実を信じていると言っただけで、わしを恩人と崇め働いてくれたよ。実に役に立ってこれた…役に立ってくれたよ…。
ふははははは!!愚かすぎて笑わずにはおれんわ!」
「……ッ!!!!!!」
なんの詫びれもなくリッシュモンは言い切った。
酷過ぎる。自分のぜいたくな暮らしのために、同じ人間を利用し殺し、傷つけるなんて…。
サイトはミシェルを見る。彼女は、信じていた人からも裏切られ、自失ともいえるような絶望の表情を浮かべて座り込んだままだ。怒りで身を震わせた。ミシェルさんもアニエスさんも、こんな男の醜い野望と欲望のために、人生をめちゃくちゃにされたというのか。
侵略星人クラスの非道で残虐だ!
許さない…!!
サイトは前を見て、殺意ともいえる激情に駆られそうになった。すると、彼の後ろからアニエスが肩をつかんできた。
「…サイト、お前は手を出すな。この男は…私が殺す」
アニエスは銃口を向けながらサイトの前に立つ。
「ダングルテールを滅ぼしたこと、罪を着せられたミシェルの父君を控訴した見返りに、ロマリアの宗教庁から一体いくらの金をもらった?」
「お前が神を信仰することと、わしが金を慕うことにどんな違いがあるのだ?教えてもらおうか?」
やはりこいつは浅ましい奴だと思った。金しか信じれないとは。金と金銀など、人の命と比べればいつでも何度でも手に入る…そう、比べるまでもない。だがこいつは金の魅力に取りつかれた愚かな男。こんな奴に、ミシェルが苦しめられ、自分も親や故郷を奪われたのか。そう思うと、20年間溜め込んできた憎しみの炎が身を焦がしてしまうほどに燃え上がる。
これが…長年トリステインで高等法院長として居座り続けておきながら、その役目の裏側で国を食いつぶし、滅びに導いていた売国奴の正体なのだ。
「貴様に殺された父と母…そして村の皆の痛みを…ミシェルの分も含めて貴様に還してやる。貯めた金は地獄で使うんだな」
リッシュモンは自らの勝利に揺るぎがないと悟っていた。さっきはあの小僧の魔法吸収能力に驚かされたが、まだこっちには切り札があるのだ。彼は、チャリジャからもらっていた、あの怪獣の入ったカプセルを取り出した。アニエスは一歩でも動いたら撃つ姿勢を取り、リッシュモンに銃口を向ける。
「ふん、地獄に行くのは貴様らだけよ」
だがリッシュモンは、余裕の態度を崩さない。
すると、突如爆発を起こす。その煙が集まっていき、やがて一体の魚類のような怪獣となってサイトたちのすぐ傍に降り立った。
「あれは…ゾアムルチ!!」
その怪獣の姿を見てサイトは叫んだ。
『巨大魚怪獣ムルチ』。それはかつて、ウルトラマンジャックが戦った怪獣の一体。後にウルトラマンエースの時期にも出現した怪獣だ。サイトが地球にいた頃は、その亜種であるこのゾアムルチが現れ、メビウスと雨の中の激闘を繰り広げたとされている。
「まさかあんた…すでにあのカプセルを開封していたのか!」
「ふふ、その通りだ。せっかく高い金を払って手に入れた商品だ。購入者として買ったものがどんなものか確かめるのは当然であろう?」
卑劣な笑みを浮かべながらリッシュモンは言う。
杖を振りかざすと、その意志に呼応するようにゾアムルチはサイトとアニエス、そしてミシェルに向かい始めた。
「おのれ、リッシュモン…!」
ここにきて、逆に追い詰められてしまうとは。今日この時のために生きてきたというのに!アニエスは膨れ上がるばかりの憎悪と怒りをぶつけるべき相手にぶつけることもできない現実を呪った。
(くそ…変身さえできたら…!)
あの男はこんな事態に備えてミシェルに盗ませていたのだ。あらゆる手段を使ってでも自分の野望にウルトラマンなんて邪魔でしかない。こんな時にまんまとウルトラゼロアイを盗まれた自分が情けない。
しかし、彼らを守ろうとするように、彼方から炎の塊がゾアムルチの前に降り立ち、炎の巨人となった。
「グレン!」
本来の姿である巨人の姿となったグレンファイヤーは、サイトたちを守るべくゾアムルチに立ち向かっていった。
「ぬぅ…またしても、邪魔が入るか」
それを見てリッシュモンはまた邪魔が入ったことに顔を歪ませた。だがなんとしても逃げ切らなければ。目の前の下賤な二人組をしのがなければ。
「グレン…」
一方でサイトは、久しぶりに見たグレンを見て、ある懸念を抱いた。
雨の中という悪条件下での戦い。炎そのものである彼にとって…。
「アアアアアッ!!」
ゾアムルチの口からの破壊光線がグレンに向けて放たれる。それをバック転で回避したグレンだが、もう一発の光線が彼を襲う。二発目も回避したグレンに向かってゾアムルチが向かっていく。ヒレのついた片腕を突き出しグレンを攻撃すると、グレンはその手を掴み、ムルチの脇腹に蹴りを叩き込む。
しかし、思ったほどのダメージがゾアムルチにはなかった。
(だめだ…雨の中じゃ、俺の炎が…!)
やはり雨の中では自分の力が半減される。いくら自分の身にかかってくる雨が彼の体に付着した途端蒸発するとしても、この土砂降りの中だ。小雨程度ならまだしも、この激しい雨の中ではどれほど激しく燃え上がらせようとしても時間がほとんど立たないうちに炎は消えてしまう。
彼の灼熱の体と蒸発した雨の影響で、周囲に恋い水蒸気が発生し、景色が白くなっていった。
「はぁ、はぁ…!!ファイヤあああ!!」
だが、心の炎までは鎮火させるわけにいかない。グレンは根性を入れなおしてゾアムルチに炎の鉄拳をお見舞いし、さらに続けてニーキックと飛び蹴りを食らわせた。だがそれでも、雨のせいでグレンのパワーが半減してしまいゾアムルチにダメージが通らない。ゾアムルチはグレンの腹に膝蹴りを叩き込んで怯ませると、その顔面を思い切りその手のヒレではたきつける。立ち上がることも許さず、片膝を着いたグレンを、脳天からヒレを叩き落としてもう一度ダウンさせた。
「ガハァ!!」
うつぶせに倒れてしまうグレン。さらにゾアムルチは、倒れたグレンの背中を乱暴に踏みつけ始めた。
そしてその一方…サイトたちがリッシュモンと対峙しているときだった。
「ギシャアアア!!」
ジュリオが呼び出したゴモラが、ヤナカーギーとちょうど交戦中だった。ヤナカーギーにエネルギーを吸われ、体力も限界に近づきつつあったゴモラ。
「ゴモラ!!」
それを近くで見ていた、ゴモラの主であるジュリオがゴモラに向かって奮い立たせるように叫んだ。すると、彼の右手に刻まれし『ヴィンダールヴ』のルーンと、彼が握っているネオバトルナイザーが緑色の輝きを放ち始める。
それに呼応し、ゴモラは自分の首を絞めているヤナカーギーの両腕を握りだす。メキメキメキ!!と音を立ててヤナカーギーは悲鳴を上げながら手を放してしまう。
「止めを刺せ!〈超振動波〉だ!」
ジュリオの命令を聞き、ゴモラはヤナカーギーに突進し始めた。そして、ドスッ!と音を立てながら、ヤナカーギーの胸をその自慢の角で突き刺した。瞬間、ヤナカーギーの体が赤く輝き始め、ヤナカーギーがもだえ苦しみ始めた。そして、最後にゴモラはヤナカーギーがを突き刺したまま顔を乱暴にあげ、ヤナカーギーを宙に放り出した。
そして…雨夜の空に吹っ飛ばされたヤナカーギーは大爆発を起こして木端微塵に砕け散った。
「ち…手こずらされたな」
かろうじて勝利を収めたジュリオだが、ゴモラの体力はすでにオーバー。もはや、グレンへの援護は望めなかった。ジュリオはやむを得ず、バトルナイザーを掲げる。ゴモラは光のカードに変換され、彼のバトルナイザーの中に戻って行った。
「がははははは!!なんだあの巨人は!いきなり現れたので驚かされたが、見かけ倒しで大したことないではないか!」
「グレン、戻れ!この状況じゃお前は…!」
苦戦を強いられるグレンを見て、リッシュモンはグレンを嘲笑った。サイトはすぐに変身を解いて引くべきと考えた。
しかし同時に、その後はどうすれば?と疑問を抱いた。
今の自分は変身できない。グレンの支援をするには、ウルトラガン程度では無理だ。
すると、アニエスからの怒声が飛ぶ。
「よそ見をしている場合か!?」
「!」
彼女の声に反応し、サイトはとっさに横に回転しながら避けた。それと同時に放たれた風の刃が、サイトの立っていた場所の大理石を砕いた。
「ちぃ…死にぞこないが。おとなしく焼かれてしまえばいいものを」
リッシュモンが忌々しげにサイトを見る。どうせこいつは変身できない。なぜなら彼が変身に使う道具は自分が持っているのだ。
「今すぐ怪獣を止めろ!」
サイトがリッシュモンに向けて怒鳴りつける。それを聞いてリッシュモンは一瞬眉をひそめた。変身能力を失ってなお闘志を失わず、生意気な口を叩いてくる小僧に対して明確な不快感を抱いた。
だが、ここで一つ…リッシュモンは外道らしいある一つの考えを思いついた。
「そうだ、せっかくだから一つ追加注文でもしておこうか」
「追加注文だと?」
アニエスが目を細める。
「貴様らは虚無の担い手を味方につけているであろう?そいつを私に引き渡せい!」
「何!!?」
ルイズを引き渡せだと!?耳を疑うリッシュモンの要求にサイトたちは目を見開いた。
「レコンキスタ共はそやつもほしがっていてな。虚無の担い手を手に入れたとなれば、奴らも黙ってはおるまい。わしに対して高値を払ってでもほしがるであろうな」
そしてその金を使って自分はアルビオンで豪遊生活を続ける…という算段なのだ。
さっきの舞台の上では、
「ふざけんな!なんでルイズをてめえみたいな奴に渡さないといけないんだ!」
サイトは当然反対した。こんな男にルイズを…女の子を引き渡すなど男の風上にも置けない。
「立場をわかっておらんようだな。今の貴様らに何ができる?」
逆にリッシュモンも、強気な姿勢を崩さないサイトとアニエスを見て苛立ちを募らせる。
「その気になればこの町を跡形もなく消し去り、そしてあの炎の巨人も殺してしまえるのだぞ?どうやら貴様らは、あの巨人のことをよく知っておるようだならな」
「く…」
ゾアムルチという絶対的な盾と剣を手にしたリッシュモンに、変身能力を失っている今のサイトに勝ち目はなかった。
「はっはっは!残念だったな!!わしの野望は、もはや何人たりとも止めることは出来ぬ!」
トリステイン人である以上、自分がウルトラマンに守られてたことにまったく恩義も感じず、自分の富を得ることばかりを考え、自分の引き込んた部下さえも貶める。
まるで…サイトに強引なインタビューを申し込んできた…。
(あのくそったれジャーナリストを思い出すぜ…)
(くそ…リッシュモンめ)
ミシェルへの仕打ちに対するもの。故郷を奪い挙句の果てに自国さえも地獄に変えてしまおうとするもの。
二人はどれほど数えても足りない罪を重ねておきながら全く反省も悔い改めもしない、侵略者に勝るとも劣らない邪悪さを持つリッシュモンへの怒りを燃え上がらせる。だがゾアムルチの前では、今の二人は無力だった。すぐに殺されてもおかしくない状況、絶体絶命のピンチだ。
サイトは自分の中にいるゼロに解決策が何かないかを尋ねる。
『ゼロ、何か手はないのか!?』
『だめだ…あの爺、腐っても只者のメイジじゃねえ。こっちの指先の動きさえも見逃そうともしちゃいない』
リッシュモンは今、サイトとアニエスの動きをしっかり観察していた。自分の手口に勘付いた者を証拠もろとも闇に葬り去ってきたほどだ。あらゆる手口で権力争いに打ち勝ってきた彼はかなり用心深くもあった。
アニエスもそれに気づいていた。
(できればサイトだけでもここから逃がしておきたかったが…)
そう思っていたが、リッシュモンはサイトに対しても明確な殺意を見せている。逃げた瞬間に背中ががら空きになった彼を魔法やら怪獣の攻撃やらで抹殺しにかかるに違いない。
『こうなったら…できれば避けたかったが一つしかないな』
『何かあるのか!?』
殺気の口ぶりからしてもう決定打はないと思っていた。だがゼロはまだ何か策があるという。サイトはゼロの話に耳を傾ける。
『ウルトラ念力だ。それしかねぇ』
『念力…でもそれって確か…』
サイトはゼロと一体化しているから、ゼロのいうウルトラ念力について思うところに気付いていた。
ウルトラ念力…それはウルトラマンとして誕生した者、ウルトラマンと一体化した者が使用できる特殊な超能力。それは物体を浮かしたり、物体を破壊することも可能。怪獣の動きを封じることもできる。ただ、これには重いリスクがあった。それは使用する頻度が多かったり、用途の難易度が高ければ、その分だけ使用者の寿命が縮まる危険があるのだ。
それに、ここにはアニエスがいる。彼女ほどの抜け目ない戦士が、サイトが超能力を使えば怪しむに違いない。
グレンも雨の中という悪条件のせいでゾアムルチに圧倒され、ゴモラもヤナカーギーとの戦闘で勝利こそしたが満身創痍。
『いや、でもこの手しかないなら…!』
やるしかない。ここで自分たちは倒れるわけにいかないのだ。
『わかった。やるぜ、サイト!』
意を決し、ウルトラ念力による逆転を試みたサイトとゼロ。
だが、その時だった。
一つの人影がサイトとアニエスを通り越し、リッシュモンに向かっていった。
「ミシェル!?」「ミシェルさん!?」
その人影はミシェルだった。
「うああああああああああああああああ!!!」
驚く三人をよそに、ミシェルはリッシュモンに向かって突進する。その手に、剣を握って。
「ぬ、貴様!?」
予想外にもミシェルが現れ、こちらに全速力で向かってくるミシェル。銃士隊の多いんとしても鍛えられたために、ずっと胡坐をかき続けていたリッシュモンにとって彼女の速度はすさまじく速く見えた。
真実を告げられ、今度こそ自分を憎むか。リッシュモンは杖をふるうと、業火の炎を燃え上がらせてミシェルにその炎を差し向けた。ミシェルの体が炎に包まれていく。だがリッシュモンはそこで魔法を終わらせなかった。何せ今は雨。炎の魔法の威力が限定される。次に彼が放ったのは風魔法『エア・カッター』。切り裂く風の刃が彼女の体を切りつけていく。彼女の服のあちこちが切れていき、彼女もまた傷だらけになっていく。
「ミシェルさん!」
このままではミシェルが危ない。サイトはデルフを握り直し、彼女の援護に回ることにした。彼女の傍でデルフを振り回し、リッシュモンの魔法を吸収しようとするが、突然ミシェルがサイトを殴り飛ばしてしまう。
「ぐあ!」
「サイト!」
アニエスが水たまりだらけの地面に転がされるサイトを受け止める。一方でミシェルはリッシュモンへと向かい続ける。そして、走り抜けた果てにリッシュモンの眼前にまでたどり着いた。
「この役立たずの人形風情が!わしに逆らうな!!」
リッシュモンは、これまで重用してきた配下であるミシェルのことを完全に見限り、魔法で彼女の殺害を図る。風魔法が彼女の体を切り傷まみれに変え、彼女の体からは大量の出血が流れ落ち、雨と共に町の地面にしみ込んでいく。だが、ミシェルは自分の体の傷を顧みずにリッシュモンの胸ぐらをつかむ。
その時の、リッシュモンに向けていた彼女の視線は……まるで一つのブラックホールのような底の見えない深淵を孕んでいた。それを見たリッシュモンは恐怖した。
「え、ええい!よるな!!汚らわしい!!」
恐怖に駆られ、リッシュモンは杖の先を彼女に向けて…
ドスッ!!!
生々しい音が、雨の中でも聞こえた。
「な、ああ…」
サイトは、開いた口を塞ぐことができなかった。アニエスも衝撃的なものを目の当たりにするあまり目を見開いていた。
リッシュモンの杖が、ミシェルの胸を貫いていた。
「ミシェルさああああああん!!!」
杖が引き抜かれると同時に、ミシェルは今度こそ崩れ落ちた。胸に大きすぎて塞ぎようのない穴から血が、おびただしく流れ落ちた。
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