英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第199話
~エルベ離宮~
「その……ごめんなさいね。もしかしたら局長……いえ、ヴァイスハイト陛下はオズボーン宰相に対する意趣返しの意味も込めてさっきの質問をしたのだと思うわ。」
ヴァイスとエルミナが退出するとエリィは申し訳なさそうな表情で謝罪した。
「え…………」
「宰相閣下に対する意趣返し……ですか?一体どういう事なのですか?」
エリィの言葉を聞いたリィンは呆け、クレア大尉は戸惑いの表情で尋ねた。そしてエリィはかつて特務支援課が”通商会議”の際オルキスタワーの警備についていた時休憩時間中オズボーン宰相に呼ばれ、クロスベルがどれだけもつかの”意識調査”をされた事を説明し、何故その意趣返しの相手がリィン達になったのかの推測も説明した。
「宰相閣下がエリィ殿達にそのような事を……」
「クロスベルを挑発している行為としか思えんな。相変わらず余計な火種を撒く事に関しては天才的だな。」
「………………」
「クレアさん…………」
エリィの話を聞いたラウラは複雑そうな表情をし、ユーシスは呆れた表情で呟き、辛そうな表情で肩を落としているクレア大尉をゲルドは心配そうな表情で見つめ
「……そしてオズボーン宰相への”意趣返し”として”特務支援課”と様々な共通点があるオレ達が選ばれたと言う訳ですか……」
「もしくはオズボーン宰相の息子と思われる俺がいるからかもしれないな……」
ガイウスとリィンは重々しい様子を纏って呟いた。
「えっと……私達はもう気にしていないし、貴方達を責めるつもりなんてないからそんなに罪悪感を感じる事はないわよ?―――勿論”鉄血の子供達”の一人であるクレア大尉。貴女にも責めるつもりもありません。」
「……寛大なお心遣いありがとうございます。それでその……先程ヴァイスハイト陛下が去り際に仰った事は本当なのでしょうか?」
エリィに会釈をしたクレア大尉は言い辛そうな表情でエリィとユーディットを見つめ
「皆さんが知りたいと思っている情報ですね。その情報とはクロスベルが情状酌量を認めてエレボニアに領土の一部を返還するつもりがあるかどうかでよろしいですか?」
「!はい。」
ユーディットの問いかけを聞いたリィンは気を取り直して頷いた。
「情状酌量の件ですが……結論から言いますとノルティア州の領土の一部に関しては返還しても構わないとヴァイス様達は仰っていました。」
「ほ、本当ですか!?」
「2国とも許してくれるかもしれない事がわかって、よかったね……」
「ああ、そうだな……」
「……だがノルティア州の領土の一部しか返還しないという事は……」
「残りのノルティア州の領土に加えてラマール州は返還するつもりはないも同然だな。」
「…………領土の一部が返還される可能性がわかっただけでも僥倖です。―――ユーディット様、ラマール州とノルティア州の領土の一部を返還しない理由はご存知ですか?」
ユーディットの答えを聞いたリィンやゲルド、ガイウスが明るい表情をしている中重々しい様子を纏っているラウラとユーシスの言葉を聞いたクレア大尉は静かな表情で答えた後ユーディットに問いかけた。
「ええ、勿論存じています。まずラマール州を返還しない理由は私と妹のキュア――――”カイエン公爵家”の存在だとの事です。」
「え……それは一体どういう事なんですか?」
ユーディットの答えの意味がわからなかったリィンは戸惑いの表情で尋ねた。
「ラマール州の統括領主であった”カイエン公爵家”に忠誠を誓わせる事ができたのですから、ラマール州の貴族達や民達も納得し、制圧後の統治がやりやすくなるからです。」
「それって、さっきリフィア皇女とエリゼから聞いた話に似ているわよね?」
「……言われてみればそうだな。」
ユーディットの説明を聞いて何かに気付いたゲルドの意見を聞いたラウラは静かな表情で頷いた。
「―――加えて今回の会議にカイエン公爵家の長女である私を同行させた事でラマール州の貴族や民達にカイエン公爵家がクロスベルに忠誠を誓った事を知らしめる為と、後は本来帝国貴族の中で一番厳罰が降されるはずだったカイエン公爵家を保護し、各国のVIP達が集まる国際会議に補佐役として同行させる程カイエン公爵家を重用している事も知らしめてラマールの貴族達や民達の反発を抑えると共に大人しく従っておけば、私達同様悪いようにはされないとラマールの貴族達に思わせる為でしょうね。貴族連合に加担していた貴族達にとっては考えようによってはクロスベルやメンフィルに寝返った方が彼らにとっても都合がいいはずです。もしエレボニア帝国に所属していた場合、貴族連合に加担していた彼らは厳罰を受ける立場だったのですから。」
「それは…………」
「……ヴァイスハイト陛下自身がそう仰ったのですか?」
ユーディットの推測を聞いたリィンは複雑そうな表情をし、ユーシスは真剣な表情で尋ねた。
「いえ、そこまでは。今の話は私の推測です。」
「……恐らくユーディット様の推測は的中しているかと思われます。クロスベルは新興の国家です。制圧した地域の貴族や民達の反発はできるだけ抑えたいというのが本音でしょうから、ラマールの領土を治めている貴族達を纏めているカイエン公爵家に忠誠を誓わせる事ができれば多くのラマールの貴族達も従うと思われます。」
「政治の世界にも踏み入れていないのにそれ程のご慧眼をお持ちとは……噂以上の方ですね。」
「正直兄上と互角かそれ以上だと思われます。」
ユーディットの推測にクレア大尉が同意している中、ラウラとユーシスは感心した様子でユーディットを見つめ
「フフ、持ち上げすぎですよ。」
二人に感心されたユーディットは苦笑しながら答えた。
「次にノルティア州の件だけど……”ルーレ市”を始めとした”ラインフォルトグループ”の大きな規模の工場がある領土は返還するつもりはないとの事よ。ここまで言えば理由は大体察する事ができるでしょう?」
「……狙いはやはり”ラインフォルトグループ”ですか。」
エリィに問いかけられ、すぐに察しがついたクレア大尉は真剣な表情で推測を口にした。
「はい。言うまでもなく”ラインフォルトグループ”は帝国最大の重工業メーカーにしてゼムリア大陸全土からしても大企業。新興の国家であるクロスベルにとって兵器や武器の量産を含めた様々な面で”ラインフォルトグループ”は喉から手が出る程欲しい企業です。」
「そうなると……どの道ルーレは返還されないからクロスベル領のままなのか……」
「アリサ、大丈夫かな……?」
「…………………………」
エリィの答えを聞いたガイウスは重々しい様子を纏って呟き、アリサを心配しているゲルドの言葉を聞いたリィンは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「それとクロスベルが情状酌量を認める余地が残っている理由は先程挙げた件だけでもなく他にもある事をヴァイスハイト陛下は仰っていたわ。」
「他の理由……ですか?一体どのような理由なのでしょうか。」
エリィの言葉が気になったクレア大尉は不思議そうな表情で尋ねた。
「メンフィルと共に二大国を制圧し、自国の領土と化したクロスベル帝国は世間から見れば簒奪者の国として見られていると思うわ。だけど相応の理由があれば滅ぼす予定だった国が存続する事を認め、制圧した領地の一部を返還する事でクロスベル帝国には慈悲深さや寛大な心を持っている事を世間に印象付ける事ができる……―――それがヴァイスハイト陛下の”真の狙い”よ。」
「それは…………」
「あの”鉄血宰相”すらをも超える狡猾さだな。」
(……世界は違えど”簒奪王”と恐れられている一方”賢王”と称えられている所も同じなのですね……)
エリィの答えを聞いたリィンは真剣な表情をし、ユーシスは厳しい表情で呟き、メサイアは複雑そうな表情をし
「……思う所はあるがエレボニアを存続させたい我らにとっては朗報だな。」
「はい。クロスベル、メンフィル共に本気でエレボニアを滅ぼすつもりはなく、納得できる理由さえあれば情状酌量を認め、制圧した領地の一部を返還してくれるつもりがある事がわかっただけでも僥倖です。」
ラウラの言葉に頷いたクレア大尉は静かな表情で答えた。
「………………貴重な情報を教えて頂き、ありがとうございました。お蔭で”本番”である後半の会議に向けての参考になりました。」
「フフ、そう。後半の会議、頑張ってね。」
「私は立場上皆さんの味方をする事はできませんが、かつての帝国貴族としてエレボニア帝国の存続ができるよう心からお祈りしています。」
そして客室を後にしたリィン達はオリヴァルト皇子達がいる客室に戻り、二国の思惑を伝えた後後半の会議に向けて話し合い、その後時間が来るとオリヴァルト皇子やリィン達は後半の会議に向かい、アリサ達は再び待機場所に備え付けてある端末で会議の様子を見守り始めた。
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