英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第198話
~エルベ離宮~
「”エレボニアが国として存続できた時の意識調査”?」
「……一体どういう意味でしょうか。」
リィンの問いかけに答えたヴァイスの話を聞いたゲルドは不思議そうな表情をし、クレア大尉は探るような視線でヴァイスを見つめて問いかけた。
「遠回しな言い方は止めて、直截に尋ねる。”ハーメルの悲劇”と”百日戦役”に加えて”貴族派”と”革新派”を纏めきれず内戦を勃発させ、その挙句エレボニアを存亡の危機に陥らせてしまったユーゲント三世を皇帝の座から引き摺り下ろさないのか?」
「なっ!?」
「……それは一体どういう意味でしょうか。」
不敵な笑みを浮かべるヴァイスの問いかけにラウラは驚き、ユーシスは厳しい表情で尋ねた。
「逆に聞きますが先程ヴァイスハイトが口にした数多くの不祥事を起こしてしまったユーゲント三世が皇帝であり続ける事にエレボニアの民達は納得すると思っているのですか?確かにメンフィル帝国が提示した”戦争回避条約の救済条約”を実行すればエレボニア皇家の信頼は一応ある程度回復すると思われますが……内戦が起こった際幽閉の身であり続けたユーゲント三世を始めとしたエレボニア皇族達に対して怒りや不満を持つ者達はこう考えるかもしれませんよ。エレボニアの”英雄”と”英雄”達と共に内戦終結に向けて積極的に活動し、”英雄”と結ばれた事でエレボニアを救ったアルフィン皇女の子供こそがエレボニアの皇帝に相応しいと。」
「!!」
「それは………………」
「……ユーゲント陛下達に対して怒りや不満を持つ者達が将来リィンとアルフィン殿下の子供を旗印にしてユーゲント陛下達に対してクーデターを起こす可能性があると仰りたいのですか……」
「その可能性は十分にありえると思います………それどころか最悪の場合アルフィン殿下を娶ったリィンさんかアルフィン殿下自身を次の皇帝にするべきだとの意見が出る事も考えられます。」
「リィン…………」
「………………」
エルミナの指摘にリィンは血相を変え、エルミナの指摘が実際にありえそうな話である事にラウラは複雑そうな表情をし、ユーシスの推測にクレア大尉は疲れた表情で頷き、ゲルドとガイウスは心配そうな表情でリィンを見つめていた。
「ま、待ってください。エレボニアにはアルフィン殿下同様内戦終結の為に活動していたオリヴァルト殿下がいらっしゃるのですから、さすがにリィンさんとアルフィン殿下やお二人の子供を旗印にしたクーデターは起こらないと思うのですが。」
その時エリィが慌てた様子でヴァイス達に意見した。
「それでも内輪揉めが起こると思うぞ。”庶子”の身の為本来なら皇位継承権が無かったオリヴァルト皇子をエレボニア皇帝にすべきだとの考えを持つ者達と正当な皇位継承権を持つセドリック皇子がエレボニア皇帝になるべきだとの考えを持つ者達との対立も十分考えられる。」
「あ………………」
「その身に流れる”尊き血”を誇りにしている帝国貴族達はほぼ間違いなくセドリック殿下がユーゲント陛下の跡を継いでエレボニア皇帝になる事に反論しないと思いますが……民達はわかりませんね。」
「そして最悪”貴族派”と”革新派”の対立のようにまた内戦が起こるかもしれませんね。」
ヴァイスの答えを聞いたエリィは呆けた声を出し、複雑そうな表情で語ったユーディットの後にエルミナは静かな表情で推測を口にした。
「………………その可能性はないと思います。エイドスさんに今回の会議に出席してもらう条件の一つにユーゲント陛下が退位する事があり、ユーゲント陛下が退位した後のエレボニアの今後を考えた結果ある”結論”を出し、その”結論”にユーゲント陛下を含めた”アルノール家”の方々と残りの”四大名門”である”ログナー侯爵家”と”ハイアームズ侯爵家”の当主達に納得してもらいました。」
「「ええっ!?」」
「ほう?お前達が会議が開催されるまでの空いた日数を利用してログナー侯とハイアームズ侯に会っていた報告は聞いていたが…………それにしてもいいのか、”空の女神”の件まで口にしてしまって。」
真剣な表情で自分を見つめるリィンの言葉を聞いたエリィとユーディットが驚いている中、ヴァイスは興味ありげな表情で問いかけた。
「………ユミルにはエイリーク皇女殿下率いるメンフィル軍が駐留しているのですからエイドスさん達のユミル滞在中に俺達が現れた事も既にわかっている為、当然陛下達も俺達がエイドスさん達に接触し、今回の会議に出てもらうように説得した事を察していると思うので問題ありません。」
「フッ、まあそうだな。どのような交渉で未来の出来事に介入するつもりがなかった空の女神を今回の会議に出席させたのかは気になるが……別にその点について指摘するつもりはない。空の女神と接触する事や彼女を今回の会議に出席させる交渉をする事等は特に禁じていないし、それもまた今回の会議でエレボニアを存続させる為に必要な戦略だろうしな。」
「それにしてもよく女神様がいらっしゃる場所がわかりましたね……?一体どこで知ったのですか?」
リィンの説明を聞いたヴァイスが静かな笑みを浮かべている中、ユーディットは驚きの表情でリィン達を見つめた。
「それは…………」
「「「………………」」」
ユーディットの疑問に対してラウラはエリィに一瞬視線を向けた後困った表情で答えを濁し、ガイウスとゲルド、ユーシスはそれぞれ黙り込み
「大方ロイド達にでも教えてもらったのだろう?別に誤魔化す必要はないぞ。そんな些細な事であいつらを罰するつもりはないしな。というかそんな些細な事で罰しようとしたらどこかの腹黒天使に手痛い反撃を喰らいそうだしな。」
「え、えっと……一体どなたの事でしょう?」
「……ルファディエルさんなら本当にやりかねませんから、冗談になっていませんよ……」
「こちらとしても可能な限り彼女を敵に回したくありません。なんせあのルイーネ様ですらもよほどの事が無い限り彼女を敵に回すような事はしない――いえ、”したくない”と仰っていたくらいです。」
静かな笑みを浮かべるヴァイスの言葉を聞いたユーディットが戸惑いの表情で疑問を呟いたその時、疲れた表情で指摘したエリィとエリィの意見に同意したエルミナの答えを聞き、あらゆる意味で”強敵”であるヴァイス達―――”六銃士”からも恐れられているルファディエルの凄まじさを改めて思い知ったリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「それで話を戻すがユーゲント三世が退位した後の事を考えているような事を言っていたが、一体どうするつもりだ?」
「……さすがにそれを今この場では話せません。”後半の会議”にも関わって来ますので。」
「ほう?ならこれ以上聞くのは野暮というものか。―――さてと。エルミナ、休憩時間も残り少ないがまだ挨拶をしていない空の女神に挨拶をする時間くらいはあるだろう。行くぞ。」
リィンの答えを聞いたヴァイスは興味ありげな表情をした後エルミナに視線を向けた。
「了解しました。それでは私達は失礼します。」
「あ…………」
そして同時に立ち上がったヴァイスとエルミナの行動を見たリィンは自分達がまだ聞きたい事が聞けていない為制止しようとしたが制止する理由が見つからず、言葉が出て来なかった。
「おっと、そうだ……一つ言い忘れていた。―――”鉄血宰相”の遺体が葬られた場所がようやく判明したからこれを機会に伝えておく。」
「え…………」
「何だと!?」
「!!宰相閣下の遺体はどこに葬られてあったのですか!?」
ヴァイスの口から出た驚きの事実にリィンは呆け、ユーシスは驚き、クレア大尉は血相を変えて尋ねた。
「鉄血宰相の遺体はジュライ市国最後の市長の墓の隣に簡素な墓があり、そこに葬られてある。」
「ジュライ市国最後の市長の墓という事は……!」
「クロウのお祖父さんの!?一体何故そこにオズボーン宰相の遺体が…………―――!まさか……クロウの仕業ですか?」
ヴァイスの答えを聞いたラウラは目を見開き、リィンは信じられない表情で声を上げた後ある事に察しがついて血相を変えた。
「―――はい。貴族連合がまだ健在だった時、お酒に酔った父が得意げにオズボーン宰相が葬られた場所について”C”―――クロウ・アームブラスト自身の希望によって先程出た場所に葬ってあると語っていました。」
「カイエン公が………………その、本当に閣下の遺体がそこに埋められてあったのでしょうか……?」
「クレアさん…………」
身体を震わせながら尋ねるクレア大尉をゲルドは心配そうな表情で見つめていた。
「遺体は腐敗していたが、暗殺された際の爆発の衝撃によって取れた生首は塩漬けをされていた為判別することができた。」
「なっ!?」
「生首を塩漬けする等カイエン公は死人をも侮辱する行為を行ったのですか!?」
ヴァイスの答えを聞いたリィンは信じられない表情で声をあげ、ラウラは怒りの表情で尋ねた。
「ああ。不幸中の幸いなのか実際にそれを行ったラマールの領邦軍の生き残りがいてな。そいつ自身からも証言が取れたから間違いないだろう。」
「……そう……ですか……閣下の遺体が葬られた場所を教えて頂き、本当にありがとうございます…………」
ヴァイスの話を身体を震わせながら聞いていたクレア大尉はヴァイスを見つめて頭を下げた。
「…………伝えるべき事は伝えた。俺達はこれで失礼する。ユーディ、エリィ。俺達の代わりにそいつらの話相手をしてやってくれ。」
「「―――かしこまりました。」」
ヴァイスの指示にユーディットとエリィはそれぞれ会釈をし
「その二人にはお前達が知りたいと思われる情報も話しておいたから、遠慮なく聞くといい。―――後半の会議、楽しみにしているぞ。」
ヴァイスはエルミナと共に部屋から退出した。
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