ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第48話勃発、《影妖精》VS《火妖精》
三人称side
《アルヴヘイム》・中立域・《蝶の谷》
現在この谷で、《風妖精》と《猫妖精》の領主とその他12人の妖精達による同盟を結ぶための極秘会談が行われようとしていた。だがそこには、招かれざる客も訪れていた。赤き鎧を纏った最強種族、《火妖精》。その数ーーー68人。
《風妖精》の裏切者が流した情報を下に翼を羽ばたかせここへ来た理由は、金銭目当てのーーー領主殺害。
《火妖精》の一人の戦士が腕を上げ、降り下ろした瞬間にーーー怪鳥が舞い落ちる。その衝撃で大気には砂塵が舞い、怪鳥の姿を隠す。その砂塵が薄れた中に怪鳥の影はなく、見えた物はーーー七つの人影。
金髪の《風妖精》の少女、リーファ。少数精鋭の《小さな巨人》。そして、剣の世界を生き抜いたーーー《二人の英雄》。
「双方、剣を引け!!」
乱入者、《影妖精》キリトがこの地にいる妖精達を唖然とさせる。突然見たこともない集団が現れて、戦場になろうとする場に割り込むのだから。
紫色の帯で纏った薄緑色の着物を絞めて、大きな胸の谷間を露出させた《風妖精》の領主ーーーサクヤは自分の目の前に立つ少年達に、自分の納める種族の運命を訳が分からないまま託す事になってしまう。
「指揮官に話がある!」
キリトはこの大部隊の指揮官を呼び出した。そして部隊全員の前に出てきた男を認識して、同じく《影妖精》の少年ライリュウを引き連れて空に浮かんでいく。
「《スプリガン》がこんな所で何をしている?どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう」
《火妖精》部隊隊長、ALO最強プレイヤー、ユージーンが自分達と同じく招かれざる客である《影妖精》の少年達に問う。その答えはーーー
「俺の名はキリト。《影妖精》・《水妖精》同盟の大使だ」
「同じく《影妖精》・《水妖精》同盟。大使キリトの護衛人、ライリュウだ。この場を襲うからには、我々4種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」
この言葉に《風妖精》・《猫妖精》・《火妖精》の全員が騒然とする。小麦色の肌と少しウェーブのかかった金髪の《猫妖精》領主・アリシャ・ルーはサクヤと顔を見合わせ、サクヤは信頼をおく同種族のリーファに顔を向ける。だが彼女は知らないと否定し、同じく同種族のライトに顔を向けるがリーファと同じ反応をされる。
当然これは嘘、大胆すぎるその場しのぎのでっち上げである。そして、この集団の一角に問題を起こす。《影妖精》と《水妖精》の同盟という事はーーー
(この場にいる《ウンディーネ》・・・《ウンディーネ》の大使って私!?)
《水妖精》の大使と疑われる危険のある少女、アリー。彼女はまだ自分が注目される前にサクヤの後ろに隠れる。突然すぎて自分と似ている格好のサクヤの後ろに隠れる以外に他の方法が思い付かなかったのだろう。
「《スプリガン》と《ウンディーネ》が同盟だと?その重要人物である大使の護衛がたったの一人か?一応もう一人いるみたいだが」
「ああ、そうだ。この場には《シルフ》・《ケットシー》両陣営との防疫交渉に来ただけだからな。だが会談が襲われたとなれば、それだけじゃ済まないぞ。四種族で同盟を結んで、《サラマンダー》に対抗する事になるだろう」
「オレとキリトと一緒に来た四人はレネゲイドとして《シルフ》にて雇われていた者達だ。《スプリガン》の彼にはこの瞬間に間に合うように協力を頼んだ。《シルフ》の領主サクヤ殿の後ろに隠れている《ウンディーネ》は大使という訳ではない」
アリーが大使だと疑われる危険はなくなり、ホッと安心し溜め息を吐いた。だがそんな事は今はどうでもいい。この男、《サラマンダー》のユージーン将軍はまだ二人の事を疑っている。
「たった二人、大した装備も持たない貴様をにわかに信じる訳にもいかない」
そう言ってユージーン将軍は背中の鞘から剣を抜いたーーー《魔剣グラム》。この世界に一本しか存在しない、謂わばーーー《伝説級武具》。
「俺の攻撃を30秒耐えきったら・・・キリト、貴様を大使として信じてやろう」
「随分気前がいいな」
ユージーン将軍の標的、偽りの大使キリト。30秒あの男の攻撃を耐えきったら嘘が通る。領主を救えるかもしれない。だがそれに納得出来ていない少年がいる。
「ちょっと待てや。まずはオレが相手になる。オレに勝てなきゃ大使の・・・《スプリガン》の大将の首は取れねぇぞ。キリト、先にオレにやらせろ」
偽りの大使の護衛、ライリュウが口を挟む。彼は自分が対象外にされたのが勘に障ったのだろう。ここで、ユージーン将軍からの疑いの目が強くなる。
「さっきから気になっていたが、護衛人の貴様。護衛人が大使に向ける言葉遣いではないのではないか?」
そう。大使に対する護衛人の話し方。大使と護衛とは謂わば主従の関係である。大使が主。それを守り、付き従う護衛は従。彼の口調は主というより友達に対する口調であった。それもそのはず。何故なら彼らはーーー
「大使も護衛も名義以外の意味はない・・・我々は友だ!上下関係など存在しない!!」
友なのだから。その言葉にユージーン将軍は小さく笑みを浮かべーーー
「おもしろい!ならば俺と幹部以外の《サラマンダー》全員を相手してみろ!勝てば相手をしてやる」
「いいねぇ・・・やってやるよ!」
したっぱ《サラマンダー》を纏めて倒せば、という条件付きで相手を受ける。その条件をライリュウは飲み、ユージーン将軍は左手を上げ部下達に突撃命令を出した。その左手が降ろされーーー
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
雄叫びを挙げながら一斉にライリュウに斬りかかった。
「皆さん、なるべく離れて頂けますか?ちょっと危ないんで♪」
ライリュウはそう言って自分以外の妖精達を後ろにさげる。
「心臓飛び出ないように口塞いでろよ?」
その言葉は驚かそうとしている訳ではなく、大袈裟すぎると本当にそうなってしまうからだろう。《サラマンダー》達がライリュウを囲むように斬りかかり、ライリュウの姿が見えなくなりーーー《サラマンダー》達がリメインライトとなった。
『何ィィィィィィィィィィィィ!?』
「なっ・・・!?」
「す、凄いネ・・・」
「ライリュウくんって何者・・・!?」
《シルフ》と《ケットシー》の戦士達が絶叫し、サクヤが短く目の前の事態を信じられないような声を挙げる。アリシャ・ルーも驚きのあまり『凄い』としか言えず、リーファはライリュウを怪物のように認識してしまった。彼の怪物ぶりをキリトとアリー達《リトルギガント》は『今さらだな』と片付ける。それほどまでに彼はーーー
「肩慣らしにもならねぇな!!」
強いのだから。
「ザコどもが・・・それでも《サラマンダー》か!《スプリガン》風情に負けやがって!!」
「あ?」
ここに一人、死んでいった《サラマンダー》達をザコ呼ばわりする男がいた。紫色の長髪を侍のマゲのように束ね、赤いマントが付いた鎧を着た腰に刀は挿す男ーーー《サラマンダー》の侍、村雨という男。彼の一言が、ライリュウにただならぬ感情を沸き上がらせた。
「おいアンタ。いくら負けたからって、仲間にそんな言い方ないんじゃないか?」
「ふん!ザコ種族の《スプリガン》などに負けるような奴はザコだ。ALO最強種族の《サラマンダー》の面汚しだ。気遣う必要などない」
ライリュウは仲間にこのような言い方をするこの男に、怒りが芽生え始めた。対する村雨は『ザコ種族』と見下している《スプリガン》に負けた《サラマンダー》達を傷つけるような言葉を発する。リメインライト化したプレイヤーの意識は一分ほどはその場に残る。それが分かっているのか、あっさりと仲間を切り捨てるような事を口走った。その瞬間、ライリュウの怒りはーーー頂点まで達した。
「おい。《サラマンダー》の将軍さんよお。勝負の内容なんだけどよ・・・アンタとそこのクソ侍VSオレとキリトのタッグバトルにしないか?」
「なんだと?」
「それならアンタもキリトと戦えるし、オレもそのクソ侍をぶった斬れるってもんだ・・・いいだろ?」
ライリュウの発言は自殺行為のような物だろう。ALO最強プレイヤーのユージーン、そして幹部の村雨。この二人を纏めて相手するのは無謀なチャレンジャーでしかない。その勝負を承諾すればユージーンは元々対戦を望んでいたキリトとも戦える。ライリュウは最強のプレイヤーと、ただ気に入らない侍を斬る事が出来る。それは互いにとってーーー
「・・・俺達を同時に相手するか。おもしろい!」
「交渉成立、だな」
ウィンウィンな条件だろう。
「キリト。オレはあの侍を重点的にやる。アイツ・・・」
「お前の嫌いなタイプって訳か」
空に浮かぶ《スプリガン》と《サラマンダー》。黒と赤の四人の男達。《シルフ》と《ケットシー》、そして《リトルギガント》の面々が見守る中で、この最強クラスの戦士達の戦いの火蓋が切って落とされるーーー
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