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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第49話《隻腕の竜神》

ミストside

ここでーーーこの空で今、二つの種族の四人の剣士が剣を交えている。
片やサラマンダー。《伝説級武器(レジェンダリー・ウェポン)》の《魔剣グラム》を振るうサラマンダー将軍、ユージーン。部下よりも強さを優先し、敵味方関係なく威圧する侍、村雨。
片やスプリガン。デスゲームとなった初代バーチャルMMOをクリアした《二人の英雄》。心に光を宿した漆黒の衣に身を包んだ少年、キリト。そのキリトと肩を並べた数少ない男、あのデスゲームに終止符を打った隻腕の少年、ライリュウ。
そんな強者だけが立つ《空》という戦場で、スプリガン二人はーーー

「はあぁぁぁぁぁ!!」

「ぐっ!!」

「ふん、ザコがっ!!」

「うおっ!?」

防戦一方、押されている。
ユージーンの《魔剣グラム》の斬撃を防ごうとキリトはガードしようと剣を前に出すがーーー《魔剣グラム》がそれをすり抜ける。《魔剣グラム》には《エセリアル・シフト》という、剣や盾で受けようとしても非実体化してすり抜けていくエクストラ効果が存在する。《魔剣グラム》と化け物染みた戦闘力、ユージーン将軍が最強と呼ばれる由縁だ。
村雨の刀による強力な斬撃をライリュウは両手剣でギリギリ防ぐ。村雨は何よりも強さを求めているだけあって、戦闘力はかなりの物だ。それに対し腕力のバケモノみたいなライリュウはSAOの時のような技のキレを感じない。あいつ、一応SAOじゃ両手剣を使っていたがーーー武器が合わないのか?それとも隻腕で戦っていたから、両手剣本来の使い方が出来ないのか?

「この程度の実力の奴を相手に全滅するとは・・・全くもって情けない奴らだ!」

村雨は先ほどライリュウに敗北したサラマンダーのプレイヤー達の事を言っているのだろうか。そう言いながらグッと握っている深紅の刀でーーーライリュウの剣を真っ二つに斬り裂き破壊する。さらなる追撃の突きのライリュウはなんとか回避し、左手でシステムウィンドウを操作し、アイテムストレージから別の武器を取り出す。取り出したのはーーー

「見たことない剣だな・・・リーファは見たことあるか?」

「いや、初めて見るよ。少なくとも店売りじゃないと思う・・・」

「ドラゴンを模した・・・両手剣?」

シルフの領主のサクヤさんがリーファに質問するが、彼女は知らないと答える。ケットシー領主のアリシャ・ルーさんもライリュウの持つ剣を知らない様子。それもそのはず、あの剣は元々ALOの武器じゃないのだから。
鍔がドラゴンの横顔のようになっていて、額から海賊の剣のような大きな刃の伸びた両手剣ーーー《ドラゴンビート》。ライリュウがSAOで振るっていた、文字化けしていたアイテムの中で生き残っていた剣だ。
ライリュウはその剣を村雨に向けて振るうがーーー

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「素晴らしい武器だが・・・使いこなせなければ何も変わらん!!」

「ガハァッ!」

力が上手く込められていないのか、村雨に防がれ右脇腹を斬り裂かれる。《ドラゴンビート》の攻撃力は凄まじい物だが、使いこなせていなければ宝の持ち腐れでしかない。SAOで使用していた剣が、ALOで主に牙を剥く。

「ライリュウくん・・・」

「アイツが一対一(サシ)で苦戦するなんて・・・」

「キリトもこのままじゃアカン・・・って何やっとんのやアイツ!?」

ライリュウを心配しているアリーは不安の色を隠せず、ライトは一対一(サシ)で戦っているも同じ状況でライリュウが苦戦している事を信じられずにいる。キャンディはキリトの戦況を確認しようとして、驚愕の声を挙げる。
キリトは高速飛行でユージーン将軍から距離を取り、《幻惑魔法》で作られたーーー煙幕を放つ。それはあまりにも広範囲だったため、俺達の立つ場所をも覆い被せてしまう。そんな中で、リーファの剣が紛失するという事態もあったが、そんな事を気にしている場合じゃなかった。

「時間稼ぎのつもりかぁっ!!」

ユージーン将軍が《魔剣グラム》で煙幕を振り払い、視界が明るくなった瞬間ーーーキリトの姿が消える。

「いないよ!?」

「まさかアイツ、逃げたんじゃ・・・」

「そんな訳ない!!」

アリシャさんがキリトが消えた事に驚き、ケットシーの男が逃げたのではないかと疑い始めた事にリーファが怒鳴る。俺達だってそう思ってる。キリトは強者との戦いに尻尾巻いて逃げたすような奴じゃーーーないと思った時、ボトッと何かが落ちてきた。それは、赤黒い鎧の袖に通っているーーー

「ライリュウの左腕!?」

そう言った瞬間に左腕はポリゴンとなって砕け、俺達は村雨に腕を落とされたライリュウで見る。
村雨の顔は勝利を確信したような表情になり、ライリュウの顔は痛みに震えながらもーーーニッと口角を上げて笑っている。

「何がおかしい?」

「いや、別になんもねぇよ。ただ・・・」

村雨は腕を斬り落とされても尚笑っているライリュウに質問しーーー

「ただやっと・・・
























本気出せるからな!!」

ライリュウは右手に握る両手剣《ドラゴンビート》で、村雨を斬る。
その戦いっぷりは、この場にいる全員を驚かせるのには充分な物だった。筋力パラメータが高ければ両手剣を片手で持つ事が可能なのはみんな知っている。だがライリュウはーーーそんな話で片付けられるレベルじゃない。

「テュール・・・!?」

「テュール?」

突如サクヤさんが発した言葉に、ライトが聞き返す。

「サクヤ、テュールって確か・・・北欧神話の軍神だったよね?」

「軍神?」

「テュールは隻腕でありながら強大な戦闘力を誇り、軍神と恐れられていた」

「隻腕の軍神・・・」

リーファの言葉にアリーが聞き返し、サクヤさんが代わりに答える。
テュールとは隻腕で片腕のない神だったが、軍神と恐れられるほどの戦闘力を誇る神だそうだ。確かにそう思えるな。両手でなければ持ち上げられない大剣を右へ左へと軽々と振り回し、村雨を斬り刻むライリュウを見たら嫌でもそう思える。アイツはSAOでテュールになっていたのかもな。

「だが、彼の戦闘スタイルは・・・」

「ドラゴンを模した剣や鎧、獰猛な獣のような気迫。そしてテュールのような戦闘力・・・」

「名付けるとしたら・・・」

そんな物は決まっている。ドラゴンの剣、ドラゴンの鎧、獣のような覇気、そして隻腕。これほどの特徴を持っていたら、嫌でもこの名前を思い付く。あの男の名はーーー

『《隻腕の竜神(テュールドラゴン)》・・・!!』

その名が最も相応しいだろう。

「やっぱコレが一番しっくり来るぜ」

「片手で両手剣を?そんな邪道で俺に勝つつもりか!」

ようやく自分の戦闘スタイルを掴んだ事で調子を取り戻した。村雨が発した『邪道』という言葉にライリュウは顔を近付かせーーー村雨の顔が驚愕の色に染まる。何か吹き込まれたのか?

「ふぅ~・・・おい、そこの・・・ネコミミのお兄さん。誰が逃げたって?キリトは敵前逃亡するような腰抜けじゃねえぞ。ホレ、見てみろ」

ライリュウはそう言って空を見上げる。その視線の先を俺達全員が見据えーーー

「キリトくん!!」

アルヴヘイムの太陽を背に急降下するキリトを認識する。
リーファはキリトの再登場に喜び、キリトと戦っていたユージーン将軍は《魔剣グラム》を構え突撃する。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

キリトの片手剣《ブラックプレート》の突きをかわし、ユージーン将軍の《魔剣グラム》がキリトの首をーーー斬る寸前に先ほどリーファからくすねた長刀で弾く。
その戦闘スタイルは、かつてキリトがSAOにて修得し、ALOにて失なわれたユニークスキルーーー二刀流。話で聞いただけだが、その手数と速さによる斬撃はあの世界の神を打ち破る勇者の力。その威力はーーー連続で胴を斬り刻まれているALO最強(ユージーン将軍)を見れば一目瞭然。

「さて、キリトも本気になった事だし・・・こっちも終わりにするぜっ!!」

「しまっ、グアァァァァァァァ!!」

キリトの戦況を見て、ライリュウは決着を着けるために村雨を前に蹴り《ドラゴンビート》で胸を貫く。そしてその状態で飛び上がりーーー

「キリトォーーーーーーッ!!」

「ライリュウゥーーーーーーッ!!」

ユージーン将軍の胸に二本の剣を突き刺すキリトの下まで突っ込み、互いの名前を叫びーーー互いの敵をぶつけ合った。その影響で真っ赤に燃える大爆発が起き、そこからーーーサラマンダーの赤いリメインライトが落ちてくる。それ即ちーーー

「見事!見事!!」

「凄い!ナイスファイトだよ~!!」

「よっしゃぁ!!流石ライリュウとキリトだ!!」

「勝ったで!アリー、二人が勝ったで!」

「うん!もう凄いなんて言葉じゃ片付けられないよ!」

勝者、キリト&ライリュウ。
紫色の扇子を開き祝福の言葉をかけるサクヤさんを筆頭に、アリシャさん、ライト、キャンディ、アリーが二人の勝利に感情を高ぶらせる。俺も二人は強いと思う。俺達なんかよりもずっとーーー

「俺もあの二人みたいに・・・」

俺もあの二人みたいに強くなれたら、俺もあの空中で固い握手を交わす二人のように強くなれたら、未来をーーー俺の愛しい女性(ヒト)を救えるのかな。
 
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