ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第47話領主襲撃
今この場に、少数精鋭の他種族パーティと《火妖精》の戦いに終止符を打とうとする者が現れた。それは、《影妖精》の二人の少年ーーーだった存在。その姿は人間はおろか妖精ですらなくなってしまっている。
片や悪魔。剣の世界を生き抜き、未だ目覚めぬ恋人に再会するために翼を手に入れた《黒の剣士》キリト。その姿はかつて、己を苦しめた青眼の悪魔に近いーーー漆黒の悪魔。
片や竜。剣の世界を滅ぼし、その荒々しく獰猛な剣技によって恐れられていた《隻腕のドラゴン》ライリュウ。その姿は隻腕ではないものの、外見、腕力、戦闘能力、全てが彼の名と同じーーードラゴン。
雄叫びを挙げたーーー謂わば《悪魔キリト》と《破壊竜ライリュウ》は目の前の敵を排除するためにその巨体でーーー怯えた《火妖精》の魔法軍隊に向かって駆け抜ける。悪魔は巨体とリーチを活かし、細長い手の指から伸びた鋭い爪で敵を貫く。その手からは赤い炎ーーー《リメインライト》が現れた。一分以内に蘇生のアイテムや《魔法》を発動すればその場で蘇る事が出来るがーーーそのような余裕は《火妖精》達には存在しない。竜は大きな翼を羽ばたき、飛ぶには狭すぎる洞窟の中を飛び回る。目的地は《火妖精》達の後ろ。その大きな口に何かを溜めている。その口内には黄金のーーー雷の魔弾。それが放たれた瞬間ーーー軍隊の半分が消し飛ぶ。
前には仲間を貪りかじり、長い尻尾を振り回す悪魔。後ろには《魔法》を溶かす鱗に身を包み、大きく鋭い牙で仲間を食いちぎる竜。悪魔と竜の挟み撃ち、逃げ場など存在しない。ほんの数秒間の間に、軍隊は壊滅状態。先ほどまで優勢だった。この男達は《魔法》を駆使すれば取るに足らない敵だったはずだ。なのにーーー何故我々が負ける?理由は簡単だ。それはーーー
【グルゥゥゥゥゥアァァァァァァァ!!!!!】
【ガルルルルルルルゥゥアァァァァァ!!!!!】
この悪魔と竜が強すぎるから。魔法使いのリーダーは恐れをなし、戦場の橋から湖に飛び降りた。だがそこにも竜がいる。この湖に巣くう水竜が。彼は湖に飛び込んだ瞬間、水竜に食われその身を炎と化す。悪魔は残った《火妖精》の男を握り締め、止めをーーー
「キリトくん!そいつ生かしといて!」
彼らののサポートを努めていた《風妖精》の少女、リーファの声に反応し、《火妖精》の男を放す。
「すごかったですねー!」
「むしろスゴすぎてマジでビビった・・・」
「俺、あんなの出来ないかも・・・」
「ホンマやな~・・・アリー。アレとくっついたら毎晩激しいで?体力もつ?」
「段階飛ばしすぎ!/////」
リーファと同じく彼らをサポートしていた仲間が各々の思った事を口に出し、悪魔と竜に駆け寄る。そしてリーファは《火妖精》の男に剣を向けーーー
「さあ、誰の命令なのか説明して貰いましょうか?」
ライリュウside
ーーー何があったんだ?この数分間の記憶が曖昧だ。え~と、確か《サラマンダー》の魔法使い達と戦ってて、それで《幻惑魔法》でーーーそうだ。あいつらコテンパンにしてたんだっけ?急に《サラマンダー》達が小さくなって、それで雷吐いたりあいつらを食ったりしてたんだっけ?それでガルルルルルーーーなんだ?後遺症か何かか?オレ《幻惑魔法》発動中に何してたんだ?何故意識がはっきりしてたら鉱山都市にいて、キリトの左頬にビンタの痕みたいなモンがあるけどーーー聞かないでおこう。
「そういえばさ。サラマンダーズに襲われる前、なんかメッセージ届いてなかった?」
「あ、忘れてた・・・」
「ん?どうしたんガルルルルル・・・」
「いつまでドラゴンになってんだお前」
ライト曰く、どうやらオレは《幻惑魔法》でドラゴンに変身して、ブレスを吐いたり《サラマンダー》達の食ってただけじゃなく、変身解錠の後も唸り声を挙げたりしていたらしい。しかも何も覚えてないってーーーこりゃ暫く封印だな。
しかもオレの知らない間に色々話が進んでいたらしく、今ログアウトしているリーファの友達ーーーレコンだっけか?そいつと連絡するためにリーファも今からログアウトするそうだ。
「あたしの身体よろしく、ユイちゃん」
「はい?」
「パパがあたしにイタズラしないように、監視しててね?」
「了解です!」
「あのなぁ・・・」
ガチで何があったんだ?
******
リーファがログアウトしている間に、オレ達は色々買い揃えておく事にした。オレ達と言っても、みんな買いたい物がバラバラだから分かれて買い物をしてる。キリトはリーファをユイちゃんとキャンディに任せて得体の知れない紫色の肉の串焼きを買いに行ったり、ライトとミストは武器やら回復アイテムやらを買いに。今考えたらユイちゃんとキャンディを一緒にしたらユイちゃんが危ないような気がする。やっぱ戻ろうかなーーー
「ライリュウくん!この髪飾りどう思う?」
「う~ん、似合ってるけど・・・アリーのイメージとはちょっと違うかな?」
「そこは『可愛い』とか言うところだよ?」
「は、はぁ・・・」
残念だが今はアリーの買い物に付き合っているため、戻れない。アリーの買いたい物というのはアクセサリー。それも特にステータス上昇の効果もないただの飾り物。アリーが手に持って髪に付けずにかざしている髪飾り、デザインは悪くないけどーーーアリーのイメージじゃないって言ったらなんか注意された。『どう思う?』って言われたから正直に感想言ったのにーーー
「ライリュウくんは何か買わないの?」
「オレは・・・特にないかな。少なくともこの店には」
ステータス上昇みたいな効果があるアクセサリーならまだしも、特に何もないと装備枠が無駄に埋まっちまうし。それよりーーー
「ユイちゃん大丈夫かな・・・キャンディが一緒だと心配だ」
「・・・ライリュウくんって、もしかしてロリコ「チガウ。全力で否定する」・・・だよね」
オレは別にロリコンじゃない。SAOで出会って、2、3日一緒に過ごしてーーーオレが、キリトとアスナさんからユイちゃんを奪ってーーー
「・・・ところで竜くん」
「仮想じゃその名前で呼ぶのは・・・誰もいないし別にいいか」
「一応二人っきりだしね」
オレ達《リトルギガント》はSAO時代、ギルドホームの中や自分達だけの空間では本名で呼び合う事にしていた。当時、いつもキャラネームで呼び合ってると本当の名前すら忘れてしまうかもしれないと思ってーーーそういう決まりを作った。
「竜くんって・・・SAOで彼女さんとかっていたの?」
「は?」
彼女ってーーー恋人って事だよな?SAOで出会った女性プレイヤーって言ったら、シリカとかリズさんとかアスナさんとかだな。シリカは妹分で、リズさんは怖い姉御って感じで、アスナさんはキリトの奥さんだったしーーー
「・・・いないな」
「ホントに!?」
いないなって言ったらスゴイ顔を近づけてきたーーー別にオレ、恋愛感情とか覚えた事なかったしーーーそういえばあの時ーーー
「なあ。あの夜の事なんだけど・・・」
「あの夜って?」
「その・・・《笑う棺桶》に襲われた夜の事・・・」
あの時、亜利沙が言ってた言葉がなんなのか、今まで絶対に聞けないって思ってたからずっと記憶の奥底にしまってたけどーーー生きてたなら聞ける。
「転移の瞬間に言ってた事「ライリュウ!アリー!行くぞ!」・・・」
まだ何も聞けてないのにライトが早急に出発すると言い出してきた。しかもどこか焦りのような感じもするけどーーーどうしたんだ?
******
『領主を襲撃!?』
さっきまで買い物タイムだったが今はそんな事を言ってられる状況でもなくなってしまった。再びログインしてきたリーファーーーもとい現実で連絡を取っていたレコン曰く、《スイルベーン》で会ったシグルドが《シルフ》を裏切り、敵対していた《サラマンダー》と内通していたらしい。その目的は《ケットシー》と同盟を結ぶため極秘に中立域に出ている《シルフ》の領主、サクヤと《ケットシー》領主アリシャ・ルーを襲う事。
「それで、40分後に《蝶の谷》を抜けた辺りで《シルフ》と《ケットシー》の領主の会談が始まるの」
「なるほど。幾つか聞いていいかな?《シルフ》と《ケットシー》の領主を襲う事で、《サラマンダー》にはどんなメリットがあるんだ?」
リーファが会談の開始時間を教えてくれたところで、キリトがリーファに質問をする。確かになんのメリットもなかったら二種族の領主を襲撃するなんて事、最強種族《サラマンダー》でもやろうとはしない。
メリットその1。厄介な二種族の同盟を邪魔して、《シルフ》側の情報漏洩により《ケットシー》の信用を失う。最悪の場合、同盟はおろか《シルフ》と《ケットシー》の全面戦争にも発展する。
メリットその2。領主を討てば、領主館に蓄積された資金の三割を入手出来る。さらに10日間街を占領、税金を自由に掛けられる。さっきの戦闘で情報を吐かせた《サラマンダー》の男曰く、《世界樹》攻略のために金が入り用な《サラマンダー》には、こんなチャンス滅多にないーーー
「《世界樹》の上に行きたいなら、キリトくんとライリュウくんは、《サラマンダー》に協力するのが最善かもしれない・・・」
突然、リーファがそんな事を言ってきた。オレ達にリーファ達をーーー強いて言えば、翼達を見捨てろって言うのか?
「《サラマンダー》がこの作戦に成功すれば、万全の体制で《世界樹》攻略に挑むと思う。《スプリガン》の君達なら、傭兵として雇ってくれるかも・・・」
確かに《サラマンダー》が領主を奇襲、殺害すれば《世界樹》攻略は夢じゃないかもしれない。覚えてないけど、オレ達《スプリガン》の《幻惑魔法》で大暴れすれば戦闘面ではマイナスにはならないと思う。でもそれだとーーー
「だから、今ここであたしを斬っても・・・文句は言わないわ・・・」
「所詮、ゲームなんだから何でもありだ。殺したければ殺すし、奪いたければ奪う」
リーファの発言に対し、キリトはそう言った。ライト達はそれに驚くが、分かってるはずだ。キリトはーーー
「そんな風に言う奴には、嫌ってほど出くわしたよ。一面ではそれも事実だ。俺も昔はそう思っていた」
本心からそんな事を思う奴じゃないって事は。
「でもそうじゃないんだ。仮想世界だからこそ、守らなきゃならない物がある。俺はそれを大切な人に教わった」
この世界で欲望に身を任せれば、その代償は現実の人格へと返っていく。プレイヤーとキャラクターは別人なんかじゃない。一心同体の存在なんだ。
「俺達、リーファの事好きだよ。俺は友達になりたいと思う」
オレもそう思う。そう思うからこそーーー
「例えどんな理由があっても、自分の利益のためにそういう相手を斬るような事は・・・俺は絶対にしない」
そんな事したら、自分が自分でなくなっちまうからーーー
「キリトくん・・・ありがとう」
「ごめん。偉そうな事言って・・・悪いクセなんだ」
「いや。結構カッコよかったぜ?」
「キリトの言葉は、本質を突いていたと思うぞ」
「ホンマやで?随分なポエマーやな・・・アンタ女の子やったら惚れてたで?」
『そっち!?キャンディそっち!?』
何故かキリトを茶化すプチイベントが始まり、キャンディのレズッ娘が発覚。なんかの冗談じゃないかと思ったけどーーーマジだ。マジだった。これは本気でユイちゃんが危ない。
とにかく今は領主の会談に《サラマンダー》が来る前に着かないといけない。でもこの人数だしーーー
「みんな。ライリュウの肩に掴まれ」
『え?・・・うん、分かった』
「・・・へ?」
何言ってんのキリト?みんな何オレの肩に掴まってんの?オレに何をさせる気ーーーまさか、キリトお前ーーーオレにアレを使わせる気か?
「そんじゃ先生、アレ、お願いします」
「MAJIDESUKA・・・」
『???』
キリト、お前は鬼か何かなのか?アレの危険性はよく知ってるよな?冗談だと言ってくれーーー
「何してんだ?早く頼むぜ」
本気だ。キリトの奴、《幻惑魔法》で悪魔になってたらしいしーーーコイツ、本物の悪魔だ。
「あーもう!しょうがねーな・・・!耐えてくれよ。オレの脳、オレの身体・・・
《オーバーロード》!!」
悪魔の頼み事、それはオレの脳の活性化能力《オーバーロード》。目に見える物全てがスローモーションになり、一時的に神のスピードを手に出来る力。地面を割るほど強く踏み込み、駆ける。洞窟の中に猿のようなモンスターが沸くがーーー全部が沸く前に突破。そのまま前方にーーー光を認識。みんなが振り落とされていない事を確認してーーー飛び上がる!
『何があったの!?今何があったの!?』
頭が痛い、みんなの声が普通に聞こえるーーー《オーバーロード》終わったか。
「さっすがライリュウ!速かったなぁーーー!!」
この野郎いつか絶対ぶっ殺してやるーーー
「みんな・・・俺が乗せようか?」
「あ?ミスト出来んのか?」
突然ミストが乗せるとか言い出してきた。乗せるってどうやってーーーそれは、呪文を唱え異形の存在になったミストを見たら自然と納得出来てしまった。
黒い羽毛に身を包み、腕は翼となり、足は木に停まる事も出来るような形状・大きさに変化、目は赤くなり口はーーークチバシへと変化。今のミストの姿はーーー
「大鴉!!すっげえ!!」
巨大な大鴉。それも、オレ達6人を乗せてもまだまだスペースが空くぐらいの大きさ。しかもすごく速い。これなら間に合うかもしれない。
そう思ってたら、目の前に風を固めてベールのように纏っているような塔がーーー否、大樹が見えた。この妖精の世界のどこからでも見える大きな樹、オレ達の最終目的ーーー《世界樹》。
「リーファ。領主会談の場所ってのはどの辺りなんだ?」
「そうね。え~っと・・・北西のあの山の奥よ!」
「残り時間はどれくらいあるの!?」
「20分」
キリトがリーファに会談の場所がどこにあるかを聞き、リーファが大きな山を指差す。アリーが会談が始まるまでに残されている時間を聞いて、リーファが答えたのはーーー20分。
「ミスト!20分までに行けるか!?」
大鴉になったミストーーー命名《大鴉ミスト》のスピードが頼りだ。だから出来るだけコイツに距離を縮めて貰わないとーーー
【アホォォォォォ!!アホォォォォォ!!】
「『余裕だぜ!!任せてくれ!!』・・・だってよ」
「そうか。バカにしてたらどうしようかと思ったぜ」
確かにカラスだから『アホォォォォォ!!』って鳴くかもしんないけど、今この真剣な時に『アホォォォォォ!!』なんて言われたらマジでぶちギレてた。マジで落としてやろうかと思ってた。
それより、必ず戦闘になるだろうから少しでも脳を休めないとーーー
「みんなゴメン。さっきのですごい頭痛でさ・・・少し寝かせてくれ。仮眠程度で大丈夫だから」
「全くしょうがないな・・・無茶な《オーバーロード》使い方しやがって」
お前のせいだよキリト。
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