英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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外伝~ノルティアの陥落~
同日12:30―――――
~ルーレ市・ログナー侯爵邸~
「閣下!大変です!メンフィル帝国軍並びにクロスベル帝国軍がルーレに侵攻して来ました!!」
「クッ……殿下達や正規軍は”期間”までに貴族連合と決着をつけられなかったか……!状況はどうなっている!?」
慌てた様子で報告しに来た領邦軍の兵士の報告を受け取ったログナー侯爵は表情を歪めた後真剣な表情で尋ねた。
「ハッ!ザクセン山道並びにスピナ間道方面から現れ、ルーレを包囲しました!なおザクセン鉄鉱山の部隊は予めご指示されていた通り降伏した為、既に連中によって制圧されてしまいました!」
「………そうか…………それで向こうは何か言ってきたのか?」
報告を聞いたログナー侯爵は重々しい様子を纏って問いかけた。
「……降伏をするのならば、我々や閣下の命は奪わない事を確約する事を勧告して来ました。……なお、降伏勧告をしてきた12:20から2時間待つとの事です。それ以上を過ぎてしまえば…………」
「……私やノルティア領邦軍を殲滅してでもルーレを制圧するとでも言ってきたのだろう?…………クッ………!」
そして答えを濁す兵士の代わりに答えたログナー侯爵は悔しそうな表情で身体を震わせた。
「……か、閣下……アルフィン皇女殿下よりメンフィルとクロスベルの連合軍が侵攻して来た際降伏する”勅命”をされていますが……いかがなさいますか……?」
「……修理に出した私の”ヘクトル”は直っているか?」
「は、はい……ですが一体何故その件を今…………―――!?閣下、まさか……!」
ログナー侯爵の問いかけに戸惑いの表情で答えた兵士はある事に気付いて血相を変え
「……案ずるな。殿下の”勅命”を無視して、お前達に連中と戦えと指示するつもりはない。」
ログナー侯爵は静かな表情で答えた。
「で、では一体何故”ヘクトル”を……?」
「一つだけ確かめたいのだ。帝国の伝統ある地を奪い取り、新たな主となるクロスベルの”力”を。」
兵士の問いかけに対し、ログナー侯爵は決意の表情で答えた。
~1時間後・ルーレ市近郊・ザクセン山道~
「……後1時間か。エフラム皇子、ログナー侯爵は本当に降伏して来ると思うか?」
1時間後ログナー侯爵の返答を待っていたエイフェリアは懐中時計で時間を確かめた後エフラムに問いかけ
「……さてな。ログナー侯はユーゲント三世への忠誠は決して低くないとの事だったが……果たしてその娘であるアルフィン皇女にはどれ程の忠誠を持っているのかが疑問だな。」
問いかけられたエフラムは静かな表情で答えた後自分達と距離を取った状態で対峙しているノルティア領邦軍を見つめた。
「……自国の領を守って名誉の死を遂げる事がエレボニア皇族達への忠誠と判断し、死兵と化して迎撃して来る可能性も考えられますな。」
「それ以前に内戦を引き起こして皇族達を幽閉した”逆賊”が大人しくアルフィン皇女の”勅命”に従って降伏するとはとても思えないですの!――――あ。」
領邦軍を警戒の表情で睨むデュッセルの言葉に続くようにリューンは答えた後ルーレから現れた機甲兵―――真紅の”ヘクトル”に気付いて声を上げた。
「……どうやら討死する事が名誉であり、エレボニア皇家に対する忠誠と判断されたようですな。」
”ヘクトル”の登場にデュッセルは表情を引き締め
「―――待て。出て来たのは一機だけだ。」
「フム…………こちらにも”ヘクトル”を始めとした”機甲兵”があるのはわかっているだろうから、恐らく戦闘する為ではないと思うが……」
”ヘクトル”が一機だけしか現れていない事に違和感を感じたエフラムは制止し、エイフェリアは真剣な表情でヘクトルを見つめていた。
「―――メンフィル帝国軍並びにクロスベル帝国軍に告ぐ!私の名はゲルハルト・ログナー!エレボニア帝国”四大名門”の”ログナー侯爵家”の当主だ!ルーレを始めとしたノルティアの地を守る領邦軍はアルフィン皇女殿下の”勅命”により、貴殿らに降伏する!だが、それでも私自身は到底納得できない!故に貴殿ら―――いやクロスベル帝国軍に一騎打ちを申し込む!」
「”一騎打ち”だと……?」
「圧倒的有利な立場である俺達がわざわざ一騎打ちに応えた所で、何の利がある!それを説明してもらおうか!」
ヘクトルを操縦するログナー侯爵の言葉を聞いたエイフェリアは眉を顰め、エフラムは拡声器を使って問いかけた。
「ノルティアの統括領主である私が敗れた際ノルティアの貴族達、領邦軍は全員貴殿らに従う命令をノルティア全土に報せを出した!それと一騎打ちの後万が一私が生きていた場合は貴殿らにも大人しく従う!エレボニア帝国制圧後、貴殿らに不満を持つ不穏分子を減らせる事は貴殿らにとっても”利”となろう!」
「……話になりませぬな。ログナー侯爵の命令を聞かない者達もいるでしょうに。……武人としては”一騎打ち”に応えてやりたい所ですが、これは”戦争”。”戦争”にそのような理屈は通りませぬ。」
「というか、考え方がガルムスやベルに微妙に似ていますの。」
ログナー侯爵の説明を聞いたデュッセルとリューンはそれぞれ呆れたが
「……フム。俺も無視して構わんと思うがエイフェリア元帥はどうされる?エレボニア帝国制圧後の分け前ではルーレを始めとしたノルティアの地は貴女達クロスベル帝国になるが……」
エフラムは考え込んだ後エイフェリアに視線を向けた。
「やれやれ……本来こう言った暑苦しい役割はガルムスなのだがな…………―――仕方ない。」
するとその時エイフェリアは疲れた表情で呟いた後表情を引き締めて歩き出し
「エイダ様!?まさか一騎打ちに応えるつもりなんですの!?」
エイフェリアの様子を見たリューンは信じられない表情で尋ねた。
「後々”しこり”を残さない為にも一騎打ちには応えてやった方がいいだろう。リューン、お前にも手伝ってもらうぞ。」
「ハア~……わかりましたの。エイダ様がそう決めたのなら、さっさと片付けますの!」
そしてエイフェリアはリューンと共にヘクトルと対峙した。
「―――聞こえるか、ログナー侯!わらわはクロスベル帝国軍の将の一人、エイフェリア・プラダ!此度のノルティア州侵攻のクロスベル帝国軍を率いる者にしてノルティア州の統括領主になる予定の者だ!」
「な――――貴様のような小娘がクロスベル帝国の将……それもノルティアの統括領主になるだと!?」
エイフェリアの言葉を聞いたヘクトルから信じられない様子のログナー侯爵の声が聞こえて来た。
「貴殿の希望通り、一騎打ちには応えてやる!―――ただし、こちらにも条件がある!」
「何……?その条件とは一体何だ。」
「それはエイダ様の”魔導功殻”であるこのわたくし――――リューンがマスターであるエイダ様と一緒に戦う事ですの!!」
「なっ!?に、人形が喋っただと!?」
エイフェリアの傍で声を上げたリューンに気付いたログナー侯爵は信じられない表情で声を上げた。
「こぉぉらぁぁぁ――――ッ!わたくしは人形ではなく”魔導功殻”ですのっ!よぉぉっく、覚えておきやがれですのっ!!」
するとリューンはヘクトルを睨んで声をあげ
「話が進まないからリューン、今は黙っていてくれ。―――ログナー侯爵!わらわは貴殿のように”機甲兵”を操縦しない代わりにこの身でリューンと共に貴殿と戦う!それが一騎打ちの条件だ!」
エイフェリアは疲れた表情で指摘した後ヘクトルを睨んで言った。
「なっ!?そんな人形と生身でこのヘクトルに勝てると本気で思っているのか!?」
「フッ、そのような鉄屑、ノイアスと比べれば天と地の差の上、わらわ自身が身体を動かして戦った方が機甲兵を操縦するよりずっと戦いやすいのでな!そのような鉄屑を操縦して戦う貴殿のような軟弱者ではない故、わらわに機甲兵は必要ない!」
驚いているログナー侯爵に対し、エイフェリアは口元に笑みを浮かべて挑発した。
「何だと!?―――いいだろう!この”ヘクトル”で纏めて叩き潰してくれる!」
「リューン、援護は任せる!」
「はいですのっ!」
そしてエイフェリアとリューンはそれぞれが持つARCUSで戦術リンクを結んだ後ログナー侯爵が操縦する機甲兵―――”ヘクトル”との戦闘を開始した!
「おおおおおおっ!!」
ヘクトルは地上にいるエイフェリアとリューン目掛けて拳を振り下ろしたが
「フッ!」
「残念ですの!」
二人はそれぞれ攻撃を軽やかに回避した。
「喰らえ――――剛震突き!!」
「グッ!?」
回避したエイフェリアは闘気を纏った魔導槍による突きをヘクトルの片腕の関節部分に叩きつけ
「たっぷりと喰らいやがれですの!アークス、駆動!」
「小癪な……!フン!」
リューンの魔術―――連射光弾・広範囲による無数の光の魔力弾を受けたヘクトルはリューン目掛けて拳を叩きつけた。しかし―――
「ふふん、”その程度”なら楽勝ですの♪」
「馬鹿な!?ヘクトルの攻撃を受け止めただと!?」
リューンが片手で展開した簡易結界によって攻撃は防御され、普通に考えれば一撃で潰せるはずのリューンに攻撃を受け止められた事にログナー侯爵は信じられない表情で声を上げた。
「魔導の力、思い知るがよい!」
「ががっ!?鎧からの砲撃だと!?」
エイフェリアが魔導鎧から砲撃した威力は控え目だが、射出が通常の数倍は速い砲撃――――加速集中砲撃を受けたヘクトルは怯んだ。
「ぶっっっ潰れろぉぉぉですのっ!リーンカルナシオン!!」
「援護するぞ、リューン!!」
「うおおおおおおっ!?」
その時オーブメントの駆動を終えたリューンがエイフェリアのリンクアビリティ―――ブーストアーツによって威力が増した最高位アーツを発動してヘクトルにダメージを与えた!
「セイッ!」
「グッ!?」
続けてエイフェリアはヘクトルの片足の関節部分に魔導槍を叩きつけ
「まだだっ!起動!!」
「グアッ!?」
魔導槍に仕掛けてある装置を操作して爆撃を起こしてヘクトルを怯ませた。
「崩したぞ、リューン!」
「はいですのっ!隙はぜぇったいに、見逃しませんのっ!―――神槍!!」
「グゥッ!?」
そしてエイフェリアと戦術リンクを結んでいるリューンが魔術による光の槍を放って追撃した。
「エイフェリア元帥は技術者が本職だと聞いていたが……」
「かつて”アヴァタール五大国”に数えられる大国であるメルキアで”元帥”を務めていただけあって、魔導鎧による砲撃を混ぜた武術もなかなかのものですな。それに”魔導功殻”でしたか。一体どのような技術で作られているのやら……」
二人の戦いを見守っていたエフラムはエイフェリアの強さに目を丸くし、デュッセルは感心した様子で呟いた後リューンを見つめ
「メルキアと言えば魔導技術の最先端の大国で有名だが、どうやら遥か昔と比べると技術力は落ちているようだな……」
エフラムは静かな表情で推測した。
「そ、そんな………生身で”ヘクトル”を圧倒するなんて……!?」
「な、何なんだよ、あの女と人形は!?」
「侯爵閣下――――ッ!」
領邦軍の兵士達は二人の強さに信じられない思いを抱えたり、ログナー侯爵を応援していた。
「…………フフッ、あの方達が”赤い星座”や”黒月”、そして”結社”によるクロスベル襲撃時に”六銃士”の方々に助力し、見事撃退した方達ですか……確かにあれ程の使い手が10人以上もいる上、”第四機甲師団”をも圧倒した”六銃士”によって鍛えられた警備隊もいれば、”結社”の猟兵達もそうですが”赤い星座”や”黒月”も返り討ちにあったのも納得ですね。」
一方別の場所から戦いの様子を見守っていたシャロンは静かな笑みを浮かべ
「…………お嬢様達にとってはお辛い結果となってしまいましたわね…………」
そしてアリサやリィン達の顔を思い浮かべて複雑そうな表情をした。
その後エイフェリアは魔導槍や魔導鎧による砲撃を巧みに扱い、リューンは魔術やアーツで援護しながらヘクトルを追い詰めて行った。
「はあ……はあ……はあ……っ!これがクロスベル帝国の”力”か……!」
ヘクトルからは疲弊した様子のログナー侯爵の声が聞こえ
「―――まだやるのか、ログナー侯!?今までの戦いでわらわ達クロスベル帝国の”力”は十分理解したであろう!」
「とっとと負けを認めて降参した方が貴方の身の為ですのっ!」
エイフェリアとリューンはそれぞれログナー侯爵に対し、降伏勧告をした。
「笑止!帝国の資産を凍結し、帝国中の経済に甚大な被害を与えた上ガレリア要塞や我がエレボニア帝国軍を消滅させたクロスベルに誇り高き帝国貴族―――それも”四大名門”の当主の一人である私が例え不利な状況であろうと負けを認める訳にはいかんっ!」
「やれやれ……愛国心や頑固な性格もガルムスに似ているな……」
「案外気があうかもしれませんですの。」
ヘクトルから聞こえて来たログナー侯爵の声を聞いたエイフェリアとリューンは呆れたがすぐに気を取り直して戦闘を再開した。
「粉々になれぃっ!!」
そしてヘクトルは両肩に付いている砲口から砲撃を次々と行い
「リューン、結界を張れ!」
「はいですのっ!」
リューンはエイフェリアの指示によってドーム型の結界を展開して砲撃を防いでいた。
「魔力転換……砲撃開始!!」
「な―――ぐあああああああっ!?」
二人を包む結界に砲撃していたヘクトルだったがエイフェリアが魔導鎧から放った光分子砲撃―――魔力転換砲撃によって片方の砲口が破壊され
「そこだ!―――クリムゾンレイ!!」
「うおおおおおおっ!?」
更に続けて放たれたエイフェリアのアーツによって残った砲口に凄まじい炎のエネルギーが爆発が起こり、両肩の砲口は完全に使い物にならなくなった!
「チャンスですの!邪悪なる者達を焼き払う清浄の炎よ、今ここに来たれ!――――贖罪の神炎!!」
そして結界を解いたリューンは両手から魔法陣を展開して最高位の魔術を発動し
「ガアアアアアア―――――ッ!?」
高火力の魔術を受けたヘクトルは怯むと共に地面に膝をついた!
「これで止めだ!リューン!」
「はいですのっ!神槍の一撃、受けやぁぁぁっがれですのぉぉぉっ!!」
互いのARCUSから強い光を放ちながらエイフェリアはリューンの光の魔力の加護を受けた魔導槍を構えてその場で突きを放った!
「「グングニル!!」」
魔導槍から放たれた光の道はヘクトルの両足の関節部分を貫いた!
「ぐわああああああっ!ば、馬鹿な……!?グハッ!?」
二人が放った協力技――――グングニルによって両足の関節部分が破壊されたヘクトルは地面に倒れた!
「こ、侯爵閣下―――!?」
「クッ……!閣下はやらせん!総員、とつ――――」
地面に倒れたヘクトルを見た領邦軍の兵士達は慌てた様子でエイフェリア達に攻撃仕掛けようとしたが
「――――止めろ!」
「え…………」
ヘクトルから聞こえて来たログナー侯爵の制止の声を聞いて中断した。
「はあ……はあ…………私の負けだ。これよりノルティア州全土は……メンフィル・クロスベル連合軍に……降伏する……っ!総員、武器を捨てよ……っ!」
「こ、侯爵閣下……」
「ううっ…………」
ログナー侯爵の指示を聞いた領邦軍の兵士達はそれぞれ戦意を無くして肩を落としたり悔し泣きをし始め
「ユーゲント皇帝陛下……申し訳…………ございません……でした…………!…………うおおぉぉぉっ………………!」
そしてヘクトルの操縦席ではログナー侯爵が号泣していた。
「―――これでノルティア州は我ら連合軍が完全に掌握した事になりますな。」
「ああ。一戦もせずに制圧等正直拍子抜けだが、双方死者を出さずに決着をつけられるのであれば越したことはない。」
その様子を見守っていたデュッセルとエフラムは静かな表情で呟き
「ふふん、わたくし達にかかればちょちょいのちょいですの♪」
「全く何故わらわがこのような暑苦しい事を…………―――まあよい。行くぞ、リューン。制圧後にせねばならぬことが山ほどあるからな。とっととそれを済ますぞ。」
リューンは得意げに胸を張り、疲れた表情で溜息を吐いたエイフェリアは気を取り直してリューンに視線を向けた。
「はいですの♪あ、わかっているとは思いますけど完全に状況が落ち着くまで研究や開発はしてはいけませんの!」
「…………も、勿論そのくらいの事は理解している。」
「果てしなく怪しいですの……」
自分の言葉に対し、冷や汗をかきながら視線を逸らしたエイフェリアの様子をリューンはジト目で見つめた。
「さ、さて。行くぞ、リューン!」
「あ~っ!誤魔化したですの!エイダ様、いつも言っていますように……」
そしてリューンはエイフェリアに小言を言いながらエイフェリアと共に自軍の陣営へと戻って行った。
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