英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第112話
~カレイジャス・ブリッジ~
「ユーシス!?」
「本当によろしいのですか……?御父上の処刑の日を自ら早めるなんて……」
ユーシスの申し出を聞いたリィンは驚き、セレーネは不安そうな表情で尋ね
「ああ……それに戦争回避条約を実行する際、どの道父と兄上の母はメンフィルに引き渡されて処刑されるんだ……ならばせめて父の息子であり、兄上の弟でもある俺が父と兄上の母に引導を渡す。」
「ユーシス…………」
ユーシスの答えを聞いたガイウスは辛そうな表情でユーシスを見つめ
「リウイ陛下。せめて降伏を拒否したクロイツェン州の貴族や兵士達の命は可能な限りで構いませんので奪わないで下さい……!図々しい頼みと承知しておりますが、どうか彼らに御慈悲をお願いします……!」
ユーシスはスクリーンに映るリウイを見つめて頭を深く下げた。
「…………――――いいだろう。アルフィン皇女、アルバレア公爵の息子が自ら申し出たのだから先程の問いかけ―――3日以内にアルバレア公爵夫妻拘束並びにクロイツェン州全土の贈与する事は”是”と判断してよいのだな?」
「…………はい。」
そしてリウイに問いかけられたアルフィン皇女は複雑そうな表情で頷いた。
「ならばお前達にアルバレア公爵に関しての情報を今から提供する。」
「ア、アルバレア公爵の情報……?」
「もしかして――――アルバレア公の居場所等ですか?」
リウイの言葉を聞いたエリオットは戸惑い、エマは真剣な表情で尋ねた。
「ああ―――今回のケルディック焼討ちの件はアルバレア公の独断であり、貴族連合は全く関わっていないとカイエン公から言質を取っている。」
「え…………」
「まさかカイエン公と接触したのですか!?」
「い、一体どうやって……」
リウイの話を聞いたエリスは呆け、ラウラは信じられない表情で尋ね、マキアスは驚きの表情をした。
「以前の帝都襲撃の件等でカイエン公は私兵であるラマール州の兵達を大勢失いましたからね。新たな兵の補充の為に募集していた兵達の中にメンフィル兵がいると言えばわかるでしょう?」
「そ、それって……!」
「スパイだね。」
「まー、”パンダグリュエル”にメンフィル兵を潜入させていたくらいなんだから、今更だよね~。」
シグルーンの話を聞いたアリサは目を見開き、フィーは真剣な表情で呟き、ミリアムは疲れた表情で呟いた。
「―――カイエン公を乗せている飛行艦に通信をしたヒーニアスからアルバレア公達の処分についてカイエン公に尋ねた所このような答えが返されたそうだ。―――『アルバレア公達の”処分”について我々貴族連合は一切介入しない故、”メンフィル帝国の裁量に任せる”』とな。」
「それってもしかして……」
リウイの答えを聞いてある事を察したゲルドは目を丸くし
「……ふーん、ナルホドね。貴族連合はアルバレア公を”切る”つもりなんだ?」
ミリアムは意味ありげな表情でリウイを見つめて問いかけ
「そ、そんな……同じ”四大名門”の当主であられるアルバレア公を切り捨てるなんて……」
エリスは信じられない表情をした。
「十中八九そうだろうな。それとアルバレア公が”アルバレア公爵家”の”権限”を使って貴族連合に許可も得ずにバリアハートに集結させてケルディック要塞の襲撃に向かわせたクロイツェン州の領邦軍の”主力”は先のケルディック要塞襲撃の件で”壊滅”している。現在も残っているのはプリネ達に見逃されて生き残った僅かな主力とバリアハート方面の残留軍だけだ。諜報部隊からの情報によると奴等は今、アルバレア公と共にオーロックス砦に籠っている。正規軍と協力すればお前達でもアルバレア公達の拘束やバリアハート制圧は可能なはずだ。勿論それらの作戦を行う際は正規軍のケルディック要塞の通過も許可する。」
「そ、それは……」
「ふう……練度が劣る残留軍など切り捨てても貴族連合にとっては痛くないってワケですか。随分と思い切った判断をされたようですね、カイエン公は。」
リウイの話を聞いたマキアスは複雑そうな表情をし、サラ教官は溜息を吐いた後真剣な表情をした。
「ついでにわたしたちをけしかけてあわよくば同士討ち狙いとか?」
「―――そこまで悪趣味な事は考えていない。そちらにはリィン・シュバルツァーを始めとしたメンフィルの貴族、皇族の一員や客将達もいる上、メンフィルにとっては”恩人”に当たるゲルドもいるのだからな。何の落ち度もない自国の貴族や皇族を見捨てるような真似はせんし、恩を仇で返すような真似もせん。」
「………………」
ジト目のフィーの問いかけに答えたリウイの話を聞いたゲルドは静かな表情で黙り込み
「それにメンフィルは最優先にやるべき事があるゆえ、アルバレア公達の拘束を様々な理由でアルバレア公と因縁があるお前達に譲ってやることにしたのだ。」
「……ふむ…………」
「メンフィルが最優先にやるべき事……ですか?一体何なんですか、それは?」
リウイの説明を聞いたガイウスは考え込み、ジョルジュは戸惑いの表情で尋ねた。
「メンフィルが最優先にやるべき事とはこれよりノーザンブリアに戦争を仕掛け、ノーザンブリア自治州を制圧して自国領とする事だ。」
「な――――」
「ええっ!?メ、メンフィルがノーザンブリア自治州に戦争を仕掛ける!?」
「せ、戦力が違いすぎるよ………」
「そもそも相手は”国”ではなく”自治州”なのですから、戦いにすらなりませんね……」
「……一体何故そのような事を?」
リウイの口から出た予想外の話にサラ教官は絶句し、エリオットは驚き、トワは表情を青褪めさせ、トマス教官は複雑そうな表情をし、ガイウスは真剣な表情で尋ねた。
「ユミル襲撃とケルディック焼討ちに対する”報復”だ。故郷を護る為とはいえ、2度もメンフィル帝国領に手を出した挙句焼討ちまで行った卑劣な奴等の事はアルバレア公達の件同様メンフィル帝国としては許せん。金の為に平気で卑劣な行為に走る”北の猟兵”どもはメンフィルが”排除”する。」
「は、”排除”って……!」
「……ッ……!そんな事をすれば猟兵達が養っている家族たちはどうなると思っているんですか!?それにあいつらだって、仕方なく猟兵をやっているんですよ!?」
「教官……?」
「………サラ………」
リウイの話を聞いてある事を察したアリサは表情を青褪めさせ、怒りの表情で怒鳴るサラ教官を見たリィンは不思議そうな表情をし、フィーは複雑そうな表情をした。
「ノーザンブリアの民達はメンフィルが”保護”する。作物も育たない土地の上領土の大多数は塩の大地とは言え、ノーザンブリア自治州は広大だからな。メンフィルならば塩だらけになった大地を様々な方法で活用できる。大国である我らメンフィルの加護を受ければ少なくても飢死や栄養不足による病死はしまい。家族の為に心を殺し、死地に向かう奴等からすれば家族が大国の加護を受けて他の仕事にありつけ、裕福になるのならば本望であろう。」
「…………ッ!!ならば猟兵の連中もメンフィル軍に所属させてやればいいではありません!”猟兵”としての長年の経験を持つ連中はメンフィル軍にとっても利益になると思われます!」
「……そこまで言って”北の猟兵”達を庇うのならば、サラ・バレスタイン。奴等を庇うお前自身もアルバレア公達の拘束並びにメンフィルへの引き渡しに積極的に協力し、メンフィルに貢献しろ。その代わりにメンフィルに降伏した北の猟兵どもに関しては命は助けてメンフィル帝国軍の何らかの部隊に所属させてやる。」
「元よりそのつもりです!その代わり降伏した猟兵達の命は奪わないで下さいよ!?」
リウイの取引に対してサラ教官は怒りの表情で答え
「安心しろ。我らメンフィルはエレボニアと違い、一度結んだ約束は破らん。」
「クッ…………!」
「………………」
エレボニアを全く信用していないリウイの発言を聞いたラウラは唇を噛みしめ、アルフィン皇女は辛そうな表情で黙り込んだ。
「では俺はこれで失礼する。此度に関しては”常任理事”の一人として、お前達の成功を祈っているぞ―――――」
そしてスクリーンからリウイの姿が消えるとその場は静寂に包みこまれた。
「……やれやれ、虫のいい話ね。」
やがてセリーヌが静寂を破って呆れた表情で溜息を吐き
「………………これ以上、父に愚行を繰り返させるわけにはいかない。父――――アルバレア公並びにアルバレア公夫人の拘束……改めてお前達に頼む。どうか協力してもらえないか?」
重々しい様子を纏って黙り込んでいたユーシスはリィン達を見つめて頭を下げた。
「あ…………」
「ユーシス……」
「―――もちろんだ。力を合わせて止めてみせよう……!」
―――こうしてリィン達はアルバレア公爵夫妻を拘束するための作戦を練る事になった。
そもそも、アルバレア公爵夫妻の拘束並びにメンフィルへの引き渡しは”戦争回避条約”にサインした時点で実行する事が義務付けられており……リィン達は第四機甲師団と鉄道憲兵隊の動きと連動する形で二人を逮捕することにした。
結果―――以下のような作戦が急ぎ立案された。まず、バリアハート北部の防衛線を第四機甲師団が攻め―――同時に鉄道憲兵隊が迂回して南部を急襲することでオーロックス砦からの増援を引き出す。
そして、その隙を突いてリィン達がカレイジャスで砦を急襲―――なるべく被害を出さない形で制圧し、アルバレア公を拘束し、その後ユーシス並びにアルフィン皇女の命令によって領邦軍を降伏させてバリアハートを制圧、バリアハートの公爵邸にいるアルバレア公夫人を拘束し、ケルディックのプリネ達に二人の身柄を引き渡し、ユーシスとアルフィン皇女によるクロイツェン州全土のメンフィル帝国への降伏宣言並びに降伏命令を行う――――そういった段取りとなった。
そんな中、ジョルジュと共に補強した機甲兵用ブレードの最終調整が行われ―――さっそく今回の作戦に投入し、実戦データを取る事になった。
そして翌日―――作戦を決行する日がやって来た。
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