英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第110話
~ケルディック~
「プリネ達……忙しそうね。」
「無理もないさ……町がこんな状況になった時にこそ、プリネさん達―――領主の指示が必要なんだから。」
次々と報告を聞いたり指示をしているプリネ達の様子を見たアリサとリィンは複雑そうな表情をし
「あの様子ではとても割り込んで話しかけられませんね……」
「……そうね。あの娘達に話に聞くのは諦めて―――」
そしてエリスの言葉に頷いたサラ教官がリィン達を促したその時
「―――どうやら連絡を受けて駆け付けてきたようだな。」
レーヴェがリィン達に近づいてきた。
「あ、レーヴェ。」
レーヴェの登場にフィーは目を丸くし
「レオンハルト教官…………今回の襲撃は本当に父の……アルバレア公によるものなのか?」
ユーシスは暗い表情でレーヴェに尋ねた。
「ああ―――間違いない。アルバレア公が雇った”北の猟兵”―――奴等の仕業だ。」
「…………ッ…………!……なんということを……!」
「信じられない……」
レーヴェの話を聞いて息を呑んだユーシスは辛そうな表情で肩を落とし、アリサは信じられない表情をし
「”北の猟兵”……!」
「ユミルを襲った猟兵と同じ猟兵ですか……」
リィンとエリスは厳しい表情をした。
「……連中はお前達に協力している”魔女”――――ゲルド・フレデリック・リヒターの予言通り領邦軍による襲撃でメンフィル軍がケルディック要塞の防衛をしている隙を狙って襲撃して来た。」
「……なるほどね。確かに焼討ちといえば彼らの十八番でもあるわ。」
「……くっ…………」
レーヴェの説明を聞いたサラ教官は厳しい表情で呟き、ユーシスは唇を噛みしめた。
「……それで”北の猟兵”達はどうなったの?逃げられちゃったの?」
「ほとんどはメンフィル軍が討ち取るか捕縛し……運良く逃げられた猟兵達は猟兵達の撤退先に待ち構えていたレン皇女が一人残らず討ち取ったそうだ。」
フィーの質問を聞いたレーヴェは静かな表情で答え
「ええっ!?レ、レン姫がですか!?」
「ま、”殲滅天使”なら納得だね。」
「夏至祭やザクセン鉄鉱山の時も平気でテロリスト達を殺していたものね……」
「………………それで捕縛した猟兵達はどうなるのかしら?」
レーヴェの説明を聞いたエリスが驚いている中、納得した様子のフィーの言葉にアリサは不安そうな表情で頷き、複雑そうな表情で黙り込んでいたサラ教官はレーヴェに尋ねた。
「メンフィル帝国政府より捕えた北の猟兵達は近日中にケルディック郊外にて”公開処刑”をしろとの指示が来ている。メンフィル帝国領の焼討ちの罪をその身を持って償わせる事もあるが、ケルディックの民達の怒りを晴らす為にも処刑しろとの事だ。」
「…………ッ……!」
「それは…………」
「まあ、ユミル襲撃に対する”報復”で帝都襲撃やバルヘイム宮爆撃を行ったメンフィルならそのくらいの事もやりそうだね~。」
レーヴェの話を聞いたサラ教官は辛そうな表情で唇を噛みしめ、リィンは複雑そうな表情をし、ミリアムは静かな表情で呟いた。
「……ゲルド・フレデリック・リヒターの”予言”通りになってしまったが、”最悪の事態”――――犠牲者を出す事だけは防げた。その功績を評して状況が落ち着いた後メンフィルはリヒターに”報酬”を与えるとの事だ。……その中には出身不明かつ記憶喪失のリヒターに貴族の爵位を授けるという”報酬”もある。」
「ええっ!?」
「ゲ、ゲルドに貴族の爵位をですか!?」
レーヴェの口から出た意外な話にアリサとリィンは驚き
「……まさかとは思うけどゲルドをメンフィル帝国の所属にしてあの娘の”予知能力”を利用する為じゃないでしょうね?」
「え……」
「確かにゲルドの”予知能力”は洒落にならないくらい的中しているしね~。」
「ゲルドの”予知能力”……使いようによっては戦況すら変える事もできるだろうね。」
厳しい表情でレーヴェに尋ねるサラ教官の質問を聞いたエリスは呆けた声を出し、ミリアムとフィーは真剣な表情でレーヴェを見つめた。
「その点は心配無用だ。”ブレイサーロード”達のようにメンフィル帝国の所属ではないがメンフィル帝国の加護を受けられる”自由貴族”にするつもりとの事だ。」
「じ、”自由貴族”ですか……?」
「そう言えばあの娘達はメンフィルの後ろ盾はあるけど、メンフィル帝国所属の貴族ではなかったわね……」
「……つまりは記憶喪失かつ身元不明のゲルドの後ろ盾になると言う事ですか……」
「確かにメンフィルの後ろ盾があれば、ゲルドの今後の未来は明るいでしょうし、ゲルドを利用しようとする人達も手が出し難くなるわね……」
レーヴェの説明を聞いたエリスは戸惑い、サラ教官は真剣な表情で考え込み、リィンとアリサは複雑そうな表情で呟いた。
「ああ。…………今後はこのような事が起こらぬよう、各領の警戒を強めるとの事だ。―――お前達も改めて心に留めておけ。今起きている事態は間違いなく”戦争”であることを。」
「……………………」
そしてレーヴェの忠告にユーシスは辛そうな表情で黙り込んだ。その後町の見回りを再開したリィン達は町の出入り口で揉めている様子の声を聞き、それが気になって出入り口に近づくとそこにはメンフィル兵達相手に必死に何かの嘆願をしている様子のクレイグ中将やナイトハルト少佐、そしてクレア大尉に背後には鉄道憲兵隊や第四機甲師団所属の軍人達がいた。
「クレイグ中将!?それにナイトハルト少佐も………!」
「それにクレアもいるね~。何しにケルディックに来たんだろう~?」
クレイグ中将達を見たリィンは驚き、ミリアムは不思議そうな表情で首を傾げた。
「どうか頼む!せめてもの償いに我々にも町の復興を手伝わさせて頂きたい!」
「……今回の焼討ちがアルバレア公によるものとは言え、エレボニア帝国の”罪”である事を理解しています。どうか我らに償いの機会を与えて頂きたい……!」
「……私達が信用できないのは重々承知しています。それでもそこを曲げてせめて復興だけでも手伝わさせて下さい。お願いします……!」
クレイグ中将やナイトハルト少佐、クレア大尉はそれぞれ見張りのメンフィル兵達に頭を下げたが
「必要ない!お前達エレボニア帝国正規軍によるケルディック復興の許可は下りていない!早々に自分達の陣地へ戻られよっ!!」
メンフィル兵は怒りの表情でクレイグ中将達の嘆願を断った。
「ならば臨時領主の方々のどなたでも構いませんので面会の許可をお願いします!面会の際には面会する私達全員は武装を解除する事も確約します!」
「そんな言葉を信用できるか!二度のユミル襲撃に飽き足らず今回の所業を起こしたお前達の事だ。大方、隙あらば皇女殿下達に危害を加えるか人質にでもするつもりなのだろう!」
クレア大尉の嘆願に対してメンフィル兵は怒りの表情で怒鳴り
「我々正規軍はそのような卑劣な行為は絶対にしない!」
メンフィル兵の言葉に対し、ナイトハルト少佐は真剣な表情で叫んだ。
「あ………………」
「ケルディック焼討ちの件を知って復興の手伝いに来てくれたようですが……」
「”エレボニア帝国”に”焼討ち”をされたから、その相手の言葉を信じられないんだろうね~。」
「そ、そんな……クレア大尉達は本気で復興を手伝いたいって思っているのに……」
「……メンフィルが正規軍の言葉を信じられないのも無理ないわ……向こうからすれば正規軍と領邦軍の両方が”エレボニア帝国軍”という見方でしょうからね…………」
その様子を見ていたリィンやエリスは辛そうな表情をし、ミリアムは複雑そうな表情で呟き、アリサは悲しそうな表情をし、サラ教官は辛そうな表情をし
「……そして頑なに正規軍の復興の手伝いを断り続けるのも全ては焼討ちを指示したアルバレア公のせいだろうね。」
「…………くっ…………」
フィーが呟いた言葉を聞いたユーシスは辛そうな表情で身体を震わせていた。
「これは一体何の騒ぎですか!?」
するとその時サフィナが護衛の兵達を連れてその場に現れ
「あの人はツーヤとセレーネの義理のお母さんの……」
「あ……サフィナ元帥!」
サフィナの登場にフィーは目を丸くし、リィンは驚いた。
「げ、元帥閣下!?お疲れ様です!」
「も、申し訳ございません!我らが不甲斐ないばかりに閣下自らに足を運んで頂くとは………!」
一方メンフィル兵達は驚いた後サフィナに敬礼し
「お前達の責任でない事は理解しているから気にする必要はない。それで……エレボニア帝国の正規軍の方々がケルディックに何の御用ですか?ケルディックがこのような状況になった為、補給は御遠慮して頂きたいのですが。」
サフィナは厳しい表情でクレイグ中将を見回して尋ねた。
「そのような厚かましい事をするつもりは一切ございません!アルバレア公が雇った猟兵共によるケルディック焼討ちの件を知り、エレボニア帝国が貴国に対して犯した”罪”に対するせめてもの償いに町の復興に参上した所存でございます!どうか我らにケルディック復興の助力の許可をお願いします!」
「復興の際町に入る場合は我々は武装を貴国にお預け致します。どうか我々にエレボニア帝国の罪を償わせて下さい。」
「お願いします!」
クレイグ中将達はそれぞれ頭を深く下げた。
「貴方達の気持ちは良くわかりました。――――しかし、先程復興の為に他のメンフィル帝国領を守護している兵達が到着した所です。貴方達の手を借りる必要はない上、貴方達がケルディックの復興を手伝えば治安維持の支障にも出ますので双龍橋にお帰り下さい。これはケルディックの領主―――いえ、メンフィル帝国としての”命令”です!」
「そ、そんな……!?」
サフィナの口から出た非情な答えを聞いたリィンは辛そうな表情をし
「…………………承知しました。………………お騒がせをしてしまい、申し訳ございませんでした…………――――双龍橋に戻るぞナイトハルト、クレア大尉。」
「……ハッ。」
「……はい。サフィナ元帥閣下、このような状況になってもなお、私達の事も気遣って頂き、本当にありがとうございます………」
クレイグ中将達は肩を落とした様子でその場から去って行った。
「サフィナ元帥閣下!どうしてクレア大尉達の申し出を断ったのですか!?」
「アルバレア公が……エレボニア帝国がメンフィル帝国に対して犯した罪を自分達が償いたいというクレア大尉達の気持ちは本物なんですよ!?それなのにどうして……!」
クレイグ中将達が去り、サフィナが戻ろうとするとサフィナ達に近づいたリィンとアリサがそれぞれ真剣な表情で反論した。
「……彼らは領邦軍と違い、貴族連合の代わりに自分達がエレボニア帝国が犯したメンフィル帝国に対する罪を償おうとしている気持ちはわかっています。―――ですが、彼ら正規軍の復興を断る事はメンフィルの為でもあり、彼らの為でもあるのです。」
「え………それは一体どういう事なのですか?」
サフィナの答えに呆けたエリスは戸惑いの表情で尋ねた。
「……彼らがケルディックの復興をする事でエレボニア帝国に怒りを抱いているケルディックの民達もそうですが、いつまで経っても終結しない内戦に怒りや不安を抱いている難民達が彼らに理不尽な暴力を振るう可能性も考えられます。彼らの暴力に対し、正規軍は自分達の立場を考えると抵抗する事もできず、彼らの怒りが収まるまで暴力を受け続けるしかありません。民達が罪を犯さない為にも……そして正規軍が理不尽な暴力を受けない為にも彼らの復興を断ったのです。後はクレア大尉……でしたか。鉄道憲兵隊には彼女を始めとした女性の軍人もいるのですから、最悪彼女達はケルディックの民達や難民達によって強姦される可能性も十分に考えられます。皇族の一人として……そして同じ女性としてそのような暴挙を防ぐためにも彼らの申し出を断ったのです。」
「!!それは…………」
「確かにその可能性はあるだろうね~。」
「ん……自分達の町を滅茶苦茶にしたアルバレア公――――エレボニア帝国に市民達が怒りを抱いていない訳がないし。」
「…………くっ…………」
「……………………」
サフィナの説明を聞いて目を見開いたリィンは血相を変え、ミリアムの言葉にフィーは頷き、ユーシスは唇を噛みしめて身体を震わせ、サラ教官は重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「……彼ら正規軍ができるのは落ちる所まで落ちたエレボニア帝国の信頼を一秒でも速く取り戻す為にもまずは内戦を終結させる事でしょうね。それでは私は仕事がありますので失礼します。」
そしてサフィナはリィン達から去って行き
「……エレボニア帝国がメンフィル帝国の信頼を取り戻すのに一体どれほどの時間がかかるのでしょう……?」
「んー、メンフィルはリベール程寛容じゃないと思うから最低でも10年以上……下手したら数十年以上はかかるかもね~。」
「……そうね。信頼は落ちるのは一瞬だけど、回復するには莫大な時間がかかるでしょうしね……」
「……………………」
エリスの疑問にそれぞれ答えたミリアムとサラ教官の言葉を聞いたユーシスは辛そうな表情で黙り込んだ。その後リィン達がカレイジャスに戻る為に仮説空港の近くまで来るとある人物が仮説空港から現れた。
「――――リィン!」
「はあはあ……おとんやおかんは……トランはどこや!?」
「ベッキー……」
「艦で待ってるよう言っておいたでしょう?」
カレイジャスの船員となった一年の平民の士官学院生―――ベッキーの必死の表情を見たリィンは複雑そうな表情をし、サラ教官は真剣な表情で問いかけた。
「こ、故郷がこないな事になって、じっとしてられるわけないやろ!?おとんたちは……元締めは無事なんか!?」
「っ……」
ベッキーの言葉を聞いたユーシスは辛そうな表情で視線を逸らした。
「………ご家族は礼拝堂の方で無事でいるのを見かけた。オットー元締めは猟兵達に滅茶苦茶にされた大市跡にいるのを見かけた。」
「そ、そんな……大市が…………くっ!!」
リィンの話を聞いて表情を青褪めさせたベッキーは唇を噛みしめて町の中へと走り去った。
「あ……」
「ベッキーさん……」
その様子をリィンとエリスは心配そうな表情で見つめ
「……仕方ないわ。あたしたちは一足先に艦に戻るとしましょう。今後のこと………よく話し合っておかないとね。」
「…………ああ。」
サラ教官の言葉にユーシスは重々しい様子を纏って頷いた。
こうしてリィン達はケルディックをメンフィル軍やプリネ達に任せ、その場を後にした。犠牲者は出なかったとは言え多くの人々が被害に合い、焼かれたケルディックの惨状にいまだ気持ちの整理がつかないまま……ベッキーが戻ってくるのを待ってからカレイジャスを発進させたのだった。
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