英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第109話
ケルディック焼き討ちの報を受けたリィン達は、そのまま全速力でケルディックへと直行し―――ユーシスとサラ教官を含む数名で降りて、町の様子を確かめて見る事にしたのだった。
同日、14:20――――
~ケルディック~
「あ……」
「そ、そんな……ケルディックもユミルのように―――いえ、ユミルより酷い事になるなんて……」
「あんなに賑やかだったケルディックが………」
多くの建物や家が破壊されたり焼き尽くされた跡が残っているケルディックの惨状を見たリィンやエリス、アリサは辛そうな表情をし
「大市もかなり被害を受けているみたいね。」
サラ教官は厳しい表情で呟いた。
「…………馬鹿な…………」
するとその時ユーシスが肩を落として辛そうな表情で声を上げた。
「……とにかく、色々回って町の様子を確かめてみよう。駐留していたプリネさん達やオットー元締めにも話を聞いてみないと……」
その後町の様子を見回り始めたリィン達は礼拝堂のベッドに寝かされている見知った人物がいて立ち止まった。
~ケルディック礼拝堂~
「そんな………ルイセさんまで……」
「…………ッ…………すみません、この子の容態はどうなんですか?治療の手は足りていますか!?」
かつての特別実習でお世話になった宿酒場で働いている娘がベッドに寝かされているのを見たリィンは信じられない表情をし、唇を噛みしめたサラ教官は厳しい表情で娘の傍にいる娘の家族と思われる人物達に尋ねた。
「あ、ああ……教区長様が処置はしてくれたんだけど……頭を強く打ってて……助かるかわからないって……」
「!!」
「そ、そんな……!」
娘の容態を知ったサラ教官は目を見開き、エリスは悲痛そうな表情をし
「おおルイセッ……目を覚ましてくれ――――!!」
娘の父親は涙を流しながら声を上げた。
「………………」
「……そう言えば、サラ教官は以前からお知り合いだったんですよね。」
「……仕事でこの町に来た時はいつも”風見亭”を使っていたからね。でも……残念だけれど何もしてあげられそうにないわ。行きましょう……今は状況を見極めないと。」
「はい……そうですね……」
「………………」
サラ教官の言葉を聞いたリィンは辛そうな表情で頷き、ユーシスは真剣な表情でベッドに寝かされている重傷者たちを見回した。するとその時扉が勢いよく開かれ、慌てた様子の癒しの女神の司祭と思われる女性が部屋に入って来た。
「患者はこちらですか!?」
「あ、貴女は……っ!」
「ティア様!一体どうしてこちらに……!?」
女性の登場に驚いた傷の手当て等をしていたイーリュンのシスターや神官達は驚きの表情で女性に駆け寄った。
「領主であるプリネさん達から事情を聞き、彼女達から要請を受けて急ぎこちらに来たのです!それで患者達の状態はどんな状況ですか!?」
「は、はい……!」
女性に尋ねられたイーリュンのシスター達は女性に様々な報告をしていた。
「あれ?どこかで見た顔ね……」
「イーリュンの司祭みたいだけど……」
一方女性を見たアリサとフィーは不思議そうな表情をし
「んー、見た事があって当然だと思うよ~?あの人、帝国史の教科書にも乗っているくらいの有名人だし。」
「え……」
ミリアムが呟いた言葉を聞いたエリスが呆けたその時
「ゼムリア大陸のイーリュン教を総括している神官長にしてメンフィル皇女の一人でもある”癒しの聖女”――――ティア・マーシルン・パリエよ、彼女は。」
サラ教官が静かな表情で呟いて女性を見つめた。
「え……じゃあ、あの方がイーリュン教のティア神官長ですか……!?」
「あのペテレーネ神官長と双璧を為す”ゼムリア二大聖女”の一人に称えられている方がどうしてこちらに……」
サラ教官の言葉を聞いたリィンとエリスは驚きの表情で女性――――ティアを見つめ
「………ティア神官長も口にしていた通り、恐らくティア神官長にとって家族に当たるプリネ達経由で今回の件を知って、プリネ達に重傷者の手当てを頼まれてきたのだろう。」
「多分そうだろうね~。”癒しの聖女”もプリネ達と同じメンフィルの皇族だし。ちなみにあの人は”英雄王”の最初の子供らしいよ~?」
「ええっ!?じゃあ現メンフィル皇帝にとっては姉に当たる方なの!?」
ユーシスの推測を聞いたミリアムは静かな表情で頷いて説明し、説明を聞いたアリサは驚きの表情でティアを見つめた。するとその時イーリュンのシスター達に指示を終えたティアはリィン達に近づいてきた。
「すみません、そちらの方の治療を始めますので通して頂けませんか?」
「は、はい。すみません。」
ティアの言葉を聞いたリィンは仲間達と共にティアに道を譲った。
「聖女様ッ!お願いです!娘を……ルイセを助けてください……っ!」
「お願いしますっ!姉ちゃんを助けてください!」
ティアが娘のベッドに近づくと娘の父親は懇願する表情で息子と共にティアに頭を下げ
「全力を尽くさせていただきます。」
ティアは決意の表情で答えた後娘の状態を軽く調べた。
「……治療魔術より蘇生魔術の方が効果があるかもしれませんね……――――イーリュンよ、彼の者に御慈悲を……!――――聖なる蘇生!!」
ティアがその場で強く祈りを捧げて全身から魔力を解放すると淡い光が娘を包み込み、光が消えると娘はうっすらと目を開けた。
「う……ん……?」
「あ……っ!」
「嘘っ!?」
「おお、ルイセ……!よかった、目が覚めたんだな!?」
「姉ちゃん!?」
目を覚ました娘にリィン達が驚いている中、娘の家族たちは涙を流しながら娘を見つめた。
「おとう……さん……?ロビン……?それにサラさん……やⅦ組の皆さんも……どうして……?」
「お前の見舞いの為に皆さん、来てくれたんだ!」
「そう……なんだ…………ありがとう……ござい………………」
家族の言葉を聞いた娘は再び眠りについた。
「ルイセ!?」
「目を覚まして、ルイセちゃん!」
それを見た父親やサラ教官は慌てたが
「―――まだ体力が完全に回復しきっていない為、眠りについただけです。そちらの方の状態を見る限り峠は既に越えていますでの安心してください。」
「そ、そうだったんですか……ありがとうございます、聖女様!このご恩、一生忘れません!」
「ったく、それならそうと先に言ってよね。一瞬焦ったじゃない……」
ティアの説明を聞くとそれぞれ安堵の表情で溜息を吐いた。
「それでは私は他の患者の治療がありますので、終わったらまた状態を確かめさせて頂きます。」
そしてティアは他の患者の許に向かい、治療をし始めた。
「まるで”奇跡”でしたね……」
「ん……さすが”癒しの聖女”の二つ名を持っているだけはあるね。」
呆けた様子でティアを見つめるエリスの言葉にフィーは頷き
「”治療”はイーリュン教にとって専門分野よ。この場は専門家である彼女達に任せてあたし達は他の場所を見て回りましょう。」
「……そうですね。」
その後町の見回りを再開したリィン達は焼き尽くさせ、滅茶苦茶にされた大市を見て絶句した。
~ケルディック・大市跡~
「あ………」
「内戦の状況でありながらもあんなに栄えていた大市が……」
「ひ、酷い……!」
「……滅茶苦茶だね。」
「……………………ッ!」
破壊尽くされた大市跡を見たリィンやエリス、アリサは悲痛そうな表情をし、フィーは辛そうな表情で呟き、サラ教官は怒りの表情で身体を震わせ
「…………ッ……!」
「ユーシス……」
唇を噛みしめて辛そうな表情で拳を握りしめるユーシスの様子に気付いたミリアムは悲しそうな表情でユーシスを見つめた。
「お主達も来ていたのか……」
その時オットーが部下を連れてリィン達に近づいてきた。
「元締め!ご無事で何よりです……!」
「怪我とかしていない?」
オットーを見たリィンは安堵の表情をし、フィーは心配そうな表情で尋ねた。
「うむ……お蔭様で命だけは何とか助かった。じゃが大市が…………」
「元締め…………」
肩を落としている様子のオットーを見たアリサは悲しそうな表情をした。
「!あんた、確かアルバレア公の……!どの面を下げてこの町に来たんだよっ!?あんたの父親のせいでケルディックが……!」
その時ユーシスに気付いた部下はユーシスを睨んで怒鳴り
「………ッ……………!」
部下の言葉を聞いたユーシスは辛そうな表情で肩を落とし、あまりの辛さによって謝罪の言葉すら口から出て来なかった。
「やめるのじゃ。彼はあの件に一切関わっておらん……アルバレア公の息子とは言え、ルーファス卿と違い貴族連合にも所属していない彼に当たるのは筋違いじゃ。」
「元締めは何とも思わないんですか!?アルバレア公に命を狙われていたんですよ!?」
「え……」
「何ですって!?」
「一体どういう事ですか!?」
制止をするオットーに指摘した部下の話を聞いたアリサは呆け、サラ教官は厳しい表情で声を上げ、リィンは血相を変えて尋ねた。そして部下やオットーはアルバレア公に依頼された猟兵達がケルディックを焼き討ちした理由やオットーを狙った理由を説明した。
「…………馬鹿な………………」
「ユーシス…………」
話を聞き終え、肩を落として暗い表情になっているユーシスを見たリィンは辛そうな表情をし
「そ、そんな……!それって……!」
「完全に逆恨みだね。」
「というかアルバレア公爵はホントに何を考えているんだろ~?こんな事をしたらメンフィルが絶対に黙っている訳がないのに。」
「はい……ユミルの件に対する”報復”ですらあれ程の事をしたのですから……」
怒りの表情をしているアリサの言葉にフィーは真剣な表情で呟き、ミリアムの疑問に頷いたエリスは重々しい様子を纏って呟いた。
「それにしても猟兵達に狙われていたのによく助かりましたね……メンフィル兵に守ってもらったのですか?」
一方ある事が気になっていたサラ教官は驚きの表情で尋ねた。
「いや―――危ない所を遊撃士が駆け付けてくれて猟兵達を無力化してくれたのじゃ。確か名前はアガット殿じゃったな。」
「アガットさんがですか……!?」
「――――”重剣”のアガット。リベールからの応援でケルディックに来ている話は聞いていたけど……」
「”重剣”……リベールの遊撃士の中でもトップクラスの実力を持っている事は知っていたけど、たった一人で猟兵達を制圧できるほどの実力を持っているんだ。」
オットーの話を聞いたリィンは驚き、サラ教官とフィーはそれぞれ真剣な表情で呟いた。
「その……元締め。”大市”はどうなるのですか……?」
その時アリサが不安そうな表情で尋ねた。
「ありがたい事にも領主様達から猟兵達に滅茶苦茶にされた品々の損害金は勿論、破壊された店や建物、そして家の修繕費も全てメンフィル帝国が負担するとの申し出があったから、時間をどれだけかけてでも大市を……ケルディックを復活させるつもりじゃ。命を失った者がいなかっただけ、良しとするべきじゃろう。」
「そうですか……」
「ユミルの件同様犠牲者が出ていなかった事が不幸中の幸いでしたね……」
「さすが民には優しいメンフィルだね。」
オットーの話を聞いたリィンとエリスは安堵の表情をし、フィーは明るい表情をした。
「俺は絶対にアルバレア公を許さねえ……!エレボニア帝国領だった頃は重税で俺達を散々苦しめておいて、メンフィル帝国領である事を受け入れた俺達に対してこの仕打ちだ……!あんな奴、早くメンフィルに処刑されちまえばいいんだ!」
「……………………」
「ユーシス…………」
怒りに震えている様子の部下が叫んだ言葉を聞いたユーシスは辛そうな表情で肩を落とし、その様子をミリアムは心配そうな表情で見つめた。その後オットー達と別れたリィン達はプリネ達を探して見つけた。しかし領主であるプリネやレン、サフィナは勿論の事、ツーヤも自分達を囲む多くの兵士達や市民達からの報告や嘆願を熱心な様子で聞いた後次々と指示をしていた為、プリネ達に近づける雰囲気ではなかった。
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