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とある狭間の光源支配(デイライト):Re

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序章
  超電磁砲と光源支配①

七月十六日、いよいよ夏本番の日差しがきつくなり始めた頃
歩道橋にもたれかかり、缶コーヒーを飲みながら空を見上げる少年がいた


少年の視線の先には空を悠々と泳ぐように飛んでいる飛行船

その飛行船のモニターからは明日の天気予報が映し出されている 

『…』


全てを吸い込むかのような蒼い瞳でじっと空を見上げていたかと思うと、不意に視線を落とした


そして缶の中身が空になったことを確認してから、それを手ごろなゴミ箱へと捨て、歩き出した



―――


少年の名は夜月零
この学園都市に住む高校生である

学園都市とは東京西部に位置する完全独立研究機関のことである

総人口は二三〇万人であり、文字通りその8割を学生が占めている

この学園都市では日々、超能力開発がおこなわれており、それぞれの学校ごとの「時間割(カリキュラム)」にのっとっている


そのカリキュラムを受けた生徒は、一部の例外を除いて、自らの超能力に目覚める

能力の種類はさまざまだ

発電能力や発火能力といった日常的なものから

空間移動という非常に便利な能力

例を上げればきりがないが

実に数多くの能力が存在する
さらにその能力の威力、効果範囲、制御などを測る「身体検査(システムスキャン)」によって

LEVEL0(無能力者)からLEVEL5(超能力者)の六段階に分けられる


零の能力は光学操作系の一種で光源支配(デイライト)と呼ばれている

階級はLEVEL4であり、言わば光を操るスペシャリストである


その光源支配である彼は一人で一体今どこに向かっているのか

頭に派手な花の髪飾りを付けた後輩の顔を思い出しながら、小さく息を吐く


早い話が待ち合わせの場所に向かっているということだ

なんでも自分に会わせたい人がいるという話らしいが

それが誰なのかは教えてくれなかった

彼女曰く「誰もが憧れる素敵なお嬢様」らしい


会ったこともないのによくそんなことを言えるなとその時は思っていたが

その日は特に用事もなく、授業が終われば暇だったのでつい承諾してしまった


しかし彼はここで彼女の言葉を思い出す
「誰もが憧れるお嬢様」

「お嬢様」と言われてまず頭をよぎったのが、常盤台中学である

その中学校にはLEVEL3以上の能力者しかいないお嬢様学校である

さらにそこには学園都市でも七人しかいないLEVEL5が二人もいるのだ

そのうちの一人は零も知っている
知っているというよりも目を付けられているの方が正しいのかもしれない

しかしお嬢様は他にもいるだろうし、自分の知っているそのLEVEL5は到底お嬢様とは思えない


これから会う人物が自分の思い描いている人物ではないと勝手に結論付け、歩みを進める


しかし数十分後


彼は友人の口癖を思い出すことになる



―――



「はぁ~~~~」


柵川中学の一年生、頭に派手な花の髪飾りを付けた少女、初春飾利は盛大な溜息をついた


「酷いです…佐天さん」


「ごめんごめん」


同じく柵川中学の一年生、佐天涙子は全く悪びれる様子なく、謝る。彼女の性格をよく知っている初春はそれ以上何言わず、ただ呆れた視線を送るだけだった


「そういえば、どうだった?身体検査」


「全然だめでした。相変わらずのLEVEL1。小学校のころから、ずっと横ばいです。担当の先生からも“お前の頭の花は見せかけか?その花の満開パワーで能力値でも咲き誇れ!”って…」


「ええっと……その担当の説教にも色々つっこみたいけど…」


そう言いながら佐天は初春の隣に腰を下ろした


「元気だしなよ。大体LEVEL1ならまだいいじゃん。私なんてLEVEL0。無能力者だよ」


佐天の言葉に初春は顔を俯かせた


「でもそんなのは気にしない!あたしは毎日が楽しければそれでオッケー!」


「佐天さん…」


「ほら!コレ聞いて元気出しな!」


そう言って佐天が取り出したのは音楽プレーヤー。イヤホンの片方を初春の耳に付ける。流れ込んできたのは、人気アーティストの新曲だった


その後、そのアーティストの真のファンが何であるかを熱弁され、今日発売のアルバムを買いに行こうと誘われた


「あ、でも…今日は私、白井さんと夜月さんと約束が…」


「白井さんと夜月さんって……風紀委員の?」


「念願叶って御坂さんと会わせてもらえることになったんです!」


きらきらと目を輝かせ、手を胸の前で組みながら初春は言った。その御坂というのが零が想定していた中で、最悪の人物であることを初春は知らない


「学園都市でも七人しかいないLEVEL5。常盤台のエース…御坂美琴さんに…!」


「常盤台のLEVEL5?どうせまた能力を笠に着た、上から目線のいけ好かない奴じゃないの?」


「そんなこと…」


「だってああいう人達って、自分より下の人を小馬鹿にするじゃん?」


この学園都市では能力の高さが全てであるという暗黙の了解がある。佐天の言った通り、高能力者にはそのように能力を鼻にかけたような人間もいる


「しかも常盤台って…お嬢様――「いいじゃないですか!お嬢様!」


「むしろお嬢様だからいいんじゃないですか!」


「――ってアンタ…単にセレブな人種に憧れてるだけなんじゃ…」


「そ…そんなことないですよ」


先程よりもより一層目を輝かせる初春を見て、佐天は呆れたように言った。初春は否定していたが、表情を隠し切れていない


その時初春は、自分達の方へ向かってくる黒髪の青年を見つけた


「あ!夜月さんが来ましたよ!夜月さ~ん、こっちで~す!」


零も声をかけられ、そちらを向く。そんなに大きな声を出さなくても聞こえている、と思っていた

視線の先には風紀委員の後輩である初春と見知らぬ少女がいた

同じ制服を着ていることから、おそらくは友達だろう


『悪いな。待たせたか?』


「いいえ。そんなことありませんよー」


なぜかいつもよりテンションの高い初春を見て一瞬怪訝な表情を浮かべるも、これから憧れのお嬢様に会うのだから当然か、と考え、もう一人の少女の方へ視線を移す


目が会った瞬間、佐天は一瞬ピクリと反応し、若干表情を強張らせる

初対面の人間と会うといつもこうなる。本人に悪気はないのだろうが、切れ長い目と独特のオーラからは近づきがたい印象を相手に与えてしまう


「えっと…こちらは私の友達の佐天涙子さんです!」


「さ…佐天涙子です…!」


そんな様子はおかまいなしに勝手に初春が紹介を始めてしまった。彼女は零と初対面でも臆さなかった数少ない人間の一人である


『夜月零だ…。よろしくな』


「え、あ…はい」


突然手を差し出され、佐天は焦ったように握手する


『悪いな。怖がらせるつもりはないんだ。生まれつきこういう目をしてるんでな。勘弁してくれ』


「い、いえ…そんなことは」


そう言って佐天はあらためて零の顔を見る。先程はよく見れなかったが、今見てみると彼はかなり整った顔立ちをしていることがわかった

しかし会話をしてる中で全くと言っていいほど感情を表には出さなかった


「さあさあ!お互いの自己紹介も済んだことですし、早速行きましょう!」


『そうだな。あまり時間もないみたいだ』


「そうだ!この際佐天さんも一緒に行きましょう!」


「あ、あたしは別に…」


「大丈夫!大丈夫!」


「だ…大丈夫って…。ちょ……ちょっと…!」


佐天が抗議するよりも早く、初春は佐天の腕を掴み、そのまま走っていってしまった

零は一人取り残され、このまま帰ってしまおうかとも思ったが、それはあまりにもこれから会う相手に失礼だろうと考え

小さく息を吐いて彼女達の後を追いかけた 
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