魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic1-H移ろいゆく季節~Knight’s Trial~
†††Sideアイリ†††
久しぶりのマイスターと同じ休み。期間はたったの2日。本音を言えば、2人きりのデートみたいなことをしたかったんだよね。でも今日は、シャルやトリシュっていった騎士たちの昇格試験があって、チーム海鳴のみんなで応援しに行こうって予定を立てたから、「仕方ないよね」諦める。
(それに、はやて達もマイスターと逢えなくて寂しそうにしてるし、今回の休みくらいははやて達にマイスターを譲ってあげよう)
アイリはこの1年ちょっとの間にヴィータに誘われて何度も海鳴市に帰ってるんだよね。マイスターも一応誘うんだけど、何かと理由を付けて断ってくる。マイスター、アイリにも何か隠し事してるみたい。内務調査部の仕事だけで、はやて達やなのは達との関わりを少なくしようっていう理由にはならないと思うんだよね。もっと後ろ暗い事をしちゃってるような、そんな気がする。
「ただいま~」
「あ、おかえりなさ~い!」
ベランダの物干し竿にアイリとマイスターの洗濯物を干してると、ゴミ捨てから旦那様が帰ってきた。アイリとマイスターとのこの夫婦って感じの生活は、アイリの心を毎日満たしてくれるね。ふと時計を見て、「あれ~?」マイスターが部屋から出て3分と経ってたことに驚いた。
「マイスター、外で何やってたの?」
マイスターが2万年と追い続ける仇・“堕天使エグリゴリ”。その1機であり、本局の幹部でもあるリアンシェルトが用意してくれた部屋はなんと最上階の20階。見晴らしも抜群で、人工の夜景とかも想像以上にグッドなんだよね。
んで、ここマイスターとアイリの愛の巣――寮は、廊下にあるダストシュートを使って、出たゴミを地下の集積場に落とす形式なんだけどね。この部屋からダストシュートまで30秒も掛からない。それなのに帰って来るまで3分も掛かった。
「すんすん・・・。香水の匂い・・・」
マイスターの服から微かに香ってくる良い匂いに気付いた。後ろ手で組んで軽快なステップを踏んでマイスターの側に寄って「何してたの?」上目遣いでマイスターを見る。
「ん? あぁ、イスズ一佐と会って話をしていたんだ。ほら、お隣さんのだ」
「ミュー・イスズ一等空佐・・・」
局員って言うよりはホステスって職業の方がお似合いな見た目の、お色気ムンムンな年齢不詳な女の人。所属は確か情報部・諜報室の室長。そんなイスズ一佐は、引っ越して来たばかりはマイスターやアイリにも普通に接してたのに、2週間くらいと経ってたからマイスターへのスキンシップが激しくなってきた。
「またハグされたの・・・?」
「あー・・・、ああ」
「もう! 気を付けてって言ってるのに! もう、もう! マイスターは少し隙を見せ過ぎ! もう少しはしっかりしてよね!」
「いや、まぁ・・・仮にも第1111部隊の上司の1人で・・・って、あ、おい、アイリ!?」
マイスターが何か言い訳めいたことを言ってた気がするけど、アイリは慌ててマイスターとアイリの部屋に行く。そしてアイリの誕生日プレゼントとしてマイスターにリクエストして買ってもらったオーデコロンを鏡台の上から手に取る。リビングに戻って「わっ!? アイリ・・・?」プシュプシュッとマイスターにアイリの香りを振りかける。
「すんすん・・・。うん、これで良しだね♪」
イスズ一佐の香水の匂いがアイリのコロンの匂いで消えたし、マイスターにアイリの匂いが移ったから一石二鳥だね。アイリは満足して、コロンを戻すために部屋に戻ろうとした時、ピンポーン♪ってインターフォンが鳴った。
「こんな朝早くから客・・・?」
「あ、アイリが出るよ!」
マイスターが出ようとしてたから、アイリが先に玄関に向かう。モニターに映ってるのは「はやてとリインだ!」の2人で、『おはようや~♪』笑顔で手を振ってる。アイリは「招くけど良いよね?」一応この部屋の主であるマイスターに確認を取る。
「ああ、構わないよ。それにしてもはやて・・・、俺が信用できないから迎えに来たのか・・・?」
ガックリ肩を落とすマイスターを横目で見て苦笑いしつつ、「はやて、リイン。いま開けるね」モニターの側にあるキーを押して、マンション1階のエントランスゲートの開閉を行う。あとはエレベーターでここ20階にまで昇って来てもらうだけ。
「アイリ。とりあえず、出掛ける準備をしておこう」
「はーい!」
マイスターと一緒に部屋に戻ってお出かけ用の服に着替える。まずは家事用のエプロン、それにパジャマとして着てるネグリジェを脱いで、替わりにロングワンピースにカーディガンを着て、つばの広い帽子――キャペリンを被る。そしてマイスターはTシャツにジーンズ、それにジャケットって服装に着替えた。
それから少しして、またピンポーンとさっきとは音の高さが違うインターフォンが鳴った。この音はこの部屋の玄関ドアに備え付けられたものだ。
「はいはーい!」
アイリは玄関ドアのロックを外して、「いらっしゃーい!」ドアを開けてはやてとリインをお出迎え。
「お邪魔しま~す♪」「お邪魔しますですぅ~♪」
はやてとリインが靴を脱いで部屋に上がる。本来は土足で上がる形式の部屋なんだけど、短かったけど日本の八神邸での暮らしが気に入ったアイリが土足厳禁にしようって、マイスターにお願いしたんだよね。はやてとリインと「おはよう」って挨拶を交わして、2人をリビングへ案内。
「ルシル君。おはよう♪」
「おはようです!」
「おはよう、そしていらっしゃい、はやて、リイン。お茶でも飲んでいくか?」
マイスターがキッチンに向かってポットを掲げて見せてそう訊くと、「う~ん、とぉ~っても嬉しいお誘いやけど・・・」はやてが渋った。珍しいね。
「早い内にザンクト・オルフェンに行った方が良いかと思うですよ、ルシル君。シグナム達やなのはさん達はすでに向かってるですし」
リインがそう言った。シグナム達が居ない理由はそれなんだね。マイスターは「行くの少し早くないか?」時刻を確認した。今は午前7時20分。今から次元港へ向かってミッド北部行きの便に乗って、次元港からザンクト・オルフェンまでの移動を考えても、シャルの試験は後の方だから少し早いかも。
「シャルちゃんだけを応援するならちょう早いかもやけどな。そやけど、応援するべき友達がわたしらには他に居るやろ?」
ウィンクしてマイスターにそう言うはやてに、「そうか、トリシュも試験を受けるんだったか」マイスターは思い出したかのように1人の名前を口にした。トリシュ、トリシュタン・フォン・シュテルンベルクは、マイスターがオーディンって名乗ってた頃、シュテルンベルク家の当時の当主、エリーゼとの間に生まれたって言う子供の子孫の1人だね。ちなみに兄にパーシヴァルって人も居て、2人揃ってマイスターにそっくり。でも髪や瞳の色はエリーゼのものを受け継いでる。
「アリサさんは、クラリスさんの応援もしたいと言ってたですよ」
「そうゆうわけで、シャルちゃんだけやなくて他のみんなも応援しようってことにしたんよ」
「判った。トリシュやクラリスにも世話になったことがあるし、彼女たちの応援もしよう」
「異議な~し」
というわけで、アイリ達は本局の次元港へと出発。バスに揺られて到着した次元港から船に乗ってミッドチルダの次元港へと向かう。その道中、はやてがこれまで直接会って会話できなかった鬱憤を晴らすかのようにマイスターに話題を振りまくる。
「そんでな。リンディ提督がアースラを降りることになって、クロノ君が新しく艦長になるんやって」
「あー、それはメールで見たよ。クロノもとうとう艦長職に就くんだな」
「そうやね~。それとな、昨晩なのはちゃんから連絡もらったんやけど、ユーノ君が無限書庫の司書長に就任するるってゆう話は聞いてる?」
「ああ、もちろん。直接逢える余裕が無かったから、クロノとユーノにはすぐにお祝いのメールを送ったよ」
マイスターがそう言った瞬間、はやてとリインの表情がカッチカチの笑顔で固まった。マイスターはそれに気付かずに「俺も同じ男として負けていられないよな」格好いい声色で決意するんだけど・・・
(気付いて、マイスター! はやてとリインの表情を!)
はやてとリインは目の笑ってない笑顔を浮かべて、ギギギ、って擬音が合いそうな感じでマイスターの方を見た。そしてようやく「あ・・・」マイスターが気付いて固まって、流れるように居住まいを直した。
「なあ、ルシル君」
「っ!・・・はい。なんでしょうか、はやてさん」
「わたしらへのメールは後回しにして、クロノ君やユーノ君へのお祝いメールは即送信ってどうゆうことなんかなぁ?」
どうしよう。アイリ、今すぐこの場から逃げ出したい。あぁ、でももうそろそろ到着するから席を立つことは出来ないし。
「いや、その、あー・・・」
「・・・ま、まさか! ルシル君、ちょう逢わへん内に女の子より男の子の方が好きになってしもうたん・・・!?」
「待て、待ってくれ、はやて。それ以上はいけない。誤解されるから」
少し前に女の子と間違われてナンパされたこともあって本気でうろたえるマイスターが『助けてくれ、アイリ』思念通話で助けを求めてきた。
『無理』
愛おしいマイスターからのヘルプだったけど、こればっかりは『マイスターの自業自得だと思うんだよね』って伝える。だからしっかりと叱られてもらおう。するとマイスターは『・・・あぁ、そうだな。自業自得だ』折れて、はやてとリインの方に体を向けて頭を下げた。
「すまなかった。本気で謝る。これからはちゃんと返信もする。だから許して下さい」
「・・・ルシル君。ホンマに忙しいんならしゃあないよ、正式な局員の忙しさはわたしもまだ判ってへんから。そやけどほとんどが既読スルーってゆうのだけは勘弁してほしい。みんな心配してるんよ。もしかして体を壊してるから返信できへんのかなぁ~って」
「一応アイリからある程度話を聴けますけど、やっぱりはやてちゃんやリイン達は、ルシル君から直接聴きたいんですよ」
はやてだけじゃなくリインにまでそう言われて、「ごめんなさい」マイスターはボッコボコ。はやてとリインは顔を見合わせて、「はい」硬かった表情も崩して優しい微笑みを浮かべた。マイスターもホッとして、「俺からもちゃんとメールするから。その時は返信、お願いします」って告げた。
「うん、こちらもお願いします」
「です♪」
そうしてアイリ達はミッド北部の次元港に到着。そこからバス移動して、ベルカ自治領ザンクト・オルフェンの中央部アヴァロンにある聖王教会本部を目指す。
†††Sideアイリ⇒はやて†††
「おーい、こっち、こっち~!」
聖王教会本部に到着したわたしとルシル君、それにリインとアイリ。そんなわたしらに大手を振って出迎えてくれてるんは「セレスちゃん!」やった。ついさっきメールで、先に試験会場へ移動することになったから、わたしらのための案内役を1人置いてく、って送られてきたけど。まさかセレスちゃんやったなんて。
「会場へは私が案内するから、付いて来てね」
ボーイッシュな私服姿のセレスちゃんが手招きして、教会本部の奥へと歩き出した。わたしらも続いて歩き出す。教会本部の奥には教会騎士団の詰め所や訓練施設が設けられてるそうや。
「そう言えば、セレスさんは昇格試験を受けないんですか?」
わたしの肩に座るリインが先を歩くセレスちゃんにそう訊いた。セレスちゃんは騎種別に考えるとシャルちゃんとおんなじ剣士に当たる。シャルちゃんとセレスちゃんの闘いかぁ。きっとすんごいんやろうなぁ。
「やっぱり強いシャルさんとはぶつかりたくないですか?」
「え? あはは。確かにイリスは強いし、絶対切断のスキルを使われたらかなり苦戦するだろうけど、私がイリスより下だなんて思ってないよ。私はパラディンには興味ないから試験を受けないの♪」
セレスちゃんがそう言うてニッと歯を見せて笑った。そんなセレスちゃんに「フィレス一尉と離れ離れになるしな」ってからかい調にルシル君が言うた。セレスちゃんは、お姉さんであるフィレス一尉が隊長を務める蒼薊騎士隊ブラウ・ディステルの隊員や。
「そっかぁ。セレスちゃん、お姉ちゃん大好きっ子やもんなぁ~♪」
「ですぅ♪」
「あぅ。まぁそういうわけで、私は昇格試験は受けないってこと」
照れた表情を浮かべたセレスちゃんが歩幅を大きくしてズンズン先を行くから「照れへんでええのに~♪」わたしらも早足で追い駆ける。そんで教会本部の奥にある訓練施設に到着する。五角形状に並ぶ5棟のドームが渡り廊下で繋がってるってゆう巨大施設や。
「5棟中4棟のドームには環境に合わせた訓練用シミュレーターが設置されてるの。えっと、今の時刻なら第1クッペルで、受験者たちの宣誓式がやってるね。こっち」
セレスちゃんの案内で第1クッペル(ドームってゆう意味やな)に向かって、騎士のレリーフが掘られた木製の両開き扉を外側に向かって開ける。弧を描く廊下を歩いて、ドーム中央に入るための木製扉を開けて中に入る。
アリーナのように観客席があって、シスターや神父さん達がフィールドに当たる空間の方を見てる。そこには老若男女問わず百数十人と整列してた。よう見れば「シャルちゃん、トリシュ、それにクラリスとアンジェリエも・・・!」わたしらの親友の姿もあった。
「おーい! はやてちゃん、ルシル君、リイン、アイリ!」
「あ、なのはちゃん!」
わたしらを呼んでくれたんはなのはちゃんやった。シグナム達も一緒に席に座ってる。わたしらも「おーい!」って手を振り返しながらそっちに向かおうとすると、「じゃあ、私はここでバイバイね」ってセレスちゃんが急にそんなことを言うた。
「ん? セレスは見ていかないのか?」
「予定が空いてたら私も観たかったんだけどね。今日は、お姉ちゃんとショッピングなの♪ 休みがようやく合ったんだ。だから今日はお姉ちゃんとの時間を大切にするの♪」
満面の笑顔なセレスちゃんはピースサインを作って、「またね!」みんなに手を振ってからスキップしながら帰ってった。そんなセレスちゃんとお別れして、わたしらはみんなの元へ。そんでわたしらも席に着いて、フィールドに整列してるシャルちゃん達を見る。騎種別に並んでるようで、シャルちゃんら剣騎士が並ぶ列の人数は他の列に比べて倍近い。
「あ、ルミナとパーシヴァルさん、それにシスター・プラダマンテも居るな」
騎種別に並んでる列の前方に設けられてる円卓にルミナ達、それに知らん人ら含めて8人が着いてる。
「あの人たちがパラディンなんだって。ルミナちゃんだけ小さいから結構目立つよね」
「現役パラディンで10代はルミナだけみたい」
ルミナ以外はみんな大人の人で、20代は確かパーシヴァルさんとシスター・プラダマンテだけ。他の人はみんな40~50歳くらいのおじさんなんやけど、一目で普通やない実力を持った騎士やって、こんな遠く離れたところからでも感じるほどの雰囲気を纏ってる。
「ついさっき、今回の昇格試験についての説明がシスター・プラダマンテからあったんだけど、思ってた以上にハードよこれ」
「騎種別の試合ってことは聴いてたんだけど、まさか2週間かけての総当たり戦だなんて」
アリサちゃんに続いてすずかちゃんがそう話してくれた。シャルちゃんからは試験の期間なんて聴いてなかったから「そうなん!?」ちょう驚き。2週間、14日間かぁ。今のわたしらならその内の約半分が休みやから、また応援に来られるな。
「総当たり戦の勝ち星で順位を決めて、最終日前日にそれまでの試合で獲得した勝ち星によって序列を決定。んで、1位だった奴が晴れてパラディンへの挑戦権を得られるっつうわけみたいだな」
「しかし。佇まいだけで強者と判る連中が居るな。・・・試合たい・・・!」
「あちゃあ。シグナムの発作が始まったですよ」
「にゃはは・・・」
シグナムは戦って競い合うってゆんが好きな子やからなぁ。でも確かに見ただけで強いって騎士が大勢居る。受験者の人たちを眺めてると、一斉に移動を始めてここ第1クッペルから出て行き始めた。
「試合会場に行くんやな。わたしらも・・・ってあれ? みんな、どうしたん?」
椅子から立ち上がるわたしとルシル君とリインとアイリ。そやけどシグナム達は座ったままや。とここで「あ、ごめんなさい、はやてちゃん。伝え忘れました」シャマルが謝って、みんなが移動せぇへん理由を教えてくれた。
「丘陵地帯・・・?」
「はい。試験会場となる場所は、ここよりさらに奥に広がる丘陵地帯の指定区画となるそうです。どんな悪地でも十二分に戦えることが出来るように悪環境の中で訓練するようでして。街中での戦闘を念頭に置いた訓練は他のドームのシミュレーターを使うそうです」
「そうなんか~」
シャルちゃんら受験者が居らんくなったフィールドにモニターが複数展開される。映しだれてるんは、戦場となると思われる丘陵地帯。今は誰1人としえ映ってへんそのモニターを眺めながら待つこと数分、「良かったぁ! まだ始まってない!」元気な声が出入り口の方から聞こえてきた。すごい聞き憶えのある声や。
「セレスちゃん!」
「エオスじゃない!」
「え? あ、アリサ!」
「すずか! なのは達も一緒なんだ!」
ザンクト・ヒルデ魔法学院の制服を着たセレスちゃんとエオスちゃんやった。そういや2人は、トリシュとは学年が上がってからもクラスメイトやったな。そんな2人と「久しぶり~♪」挨拶を交わしながら、わたしらの座る席に迎え入れる。
「あのさ、ユーノの司書長就任の祝賀パーティを開きたいんだけど・・・」
「みんなも参加してくれないかな・・・?」
セレネちゃんとエオスちゃんからの提案にわたしらチーム海鳴は顔を見合わせて、「もちろん!」参加することを伝える。とゆうよりは「にゃはは。私たちもその話を前からしてたんだ♪」なのはちゃんの言うように、わたしらもお祝いするためのパーティを開こうって話してた。もちろん、クロノ君の艦長就任祝いもするつもりや。
「「ありがとう♪」」
それからお祝いパーティのスケジュールを話し合って決めてると、「始まるようだぞ」ルシル君がモニターを指差した。モニターそれぞれに対峙してる騎士たちが映しだされてる。その内の2つに「お、早速トリシュとクラリスが試合うんだな」わたしらの友達が映った。
「モニターに名前や所属してる騎士隊、それに騎種や今のクラスが出るんやね」
「トリシュちゃんとクラリスちゃんの相手は揃ってBクラス1位かぁ・・・」
金水仙騎士隊ゴルト・アマリュリス所属、トリシュタン・フォン・シュテルンベルク。Aクラス3位。騎種は弓騎士。対するのは黒篝火花騎士隊シュヴァルツェ・ツュクラーメン所属のBクラス1位の弓騎士。そんで20歳くらいの男の人や。
翠梔子騎士隊グリューン・ガルデーニエ所属、クラリス・ド・グレーテル・ヴィルシュテッター。Aクラス3位の騎乗騎士。対するのは灰芍薬騎士隊グラオ・ペオーニエ所属のBクラス1位の騎乗騎士。こっちはクラリスとあんま歳の変わらへんくらいの女の子や。
「シャルにも言えるけど、トリシュやクラリスもすんごい強いのにそれでもAクラスの1位じゃないんだよね」
アリシアちゃんがポツリと漏らした。この1年ちょっとで仕事をこなす時間が増えて、ミッドで仕事をした際は時々、海鳴市に帰ることなくシャルちゃんの家に泊まることが何度かあった。その際に何度もトリシュ達と模擬戦を行った。だからその強さは身に沁みてる。そんなトリシュ達より強い騎士(パラディンを除く、な)がまだ居ることに驚きや。
「試合開始のカウントが始まったです!」
モニターのど真ん中に表示されるカウント。5秒からカウントが始まって、0になった瞬間、試合開始や。トリシュは手にしてた弓型のアームドデバイス・“イゾルデ”の魔力弦を引いて、魔力矢4本を指に挟むようにして作り出す。
すると相手の騎士はすかさず右手を突き出したうえでシールドを展開、トリシュに向かって突進した。トリシュはそれに構わずに3本の矢を射出。3本はそのままシールドに着弾して爆発。黒煙が発生して、2人の姿が煙に包まれて見えへんくなった。と思えば、四方八方に魔力矢や光線が放たれて、黒煙を吹き飛ばした。
「相手の騎士のデバイス、トリシュのデバイスと同様に近接戦にも対応できるようだな」
「トリシュちゃんは双剣形態にしないで、あくまで弓矢として扱っているわね」
「大量の矢による中距離物量作戦か」
「あ、相手の騎士も弓矢としてデバイスを使い始めたよ!」
トリシュちゃんの魔力光であるサファイアブルーと、相手の魔力光である黄緑色による魔力矢の応酬が始まった。まるでギリシャのロケット花火祭りみたい。
「負けんじゃないわよ、クラリス!」
アリサちゃんが応援するんはクラリス。アリサちゃんと同じ陸士部隊に所属してて、陸士訓練校では相棒やったって子や。わたしがクラリスと初めて会うたんは神器回収の時や。あん時は大きな黒い馬・アレクサンドロスを召喚してたんやけど・・・
「ステュムパリデスやな」
全長3m近い巨大な鳥・ステュムパリデスを召喚してる。シャルちゃん家での模擬戦で一度相手にしたけど、半端な空戦スキルやと手も足も出ぇへんと思う。何より純粋な対魔力攻撃耐性があることもあって、おそらく一個武装隊を相手にしても勝てるやろうな。
「わぁ♪ ペガサス!」
「初めて見たぁ♪」
「綺麗・・・!」
相手の騎士が召喚したペガサスになのはちゃん達が歓声を上げる。わたしも「次元世界には幻想がホンマに現実に居ってすごいなぁ!」って歓声を上げる。竜も居ればペガサスも居るような世界。それが次元世界。地球やと完全に伝説上の生き物やしな。こうゆう新しい発見が出来るのがホンマに楽しい。
そんでクラリス達は空戦を繰り広げて、すれ違いざまにデバイスで相手を直接討ちに行ったり、召喚した使い魔同士による攻撃を打ち合ったりと、ド派手な攻防を繰り返す。
「相手の方も強いけど、やっぱクラリスとトリシュの方が上ね」
「戦技教導官としてはどうだったりする? なのは」
「えっ!? えっと、うん。トリシュちゃんとクラリスちゃんの方がやっぱり動きが洗練されてる。トリシュちゃんはパラディン全員を師事してるからかな。普通に強いよ。クラリスちゃんも、使い魔のステュムパリデスの方が圧倒的だし、クラリスちゃん自身も強い」
アリシアちゃんからの質問になのはちゃんが答えてく。そんで、なのはちゃんやわたしらの予測通りトリシュとクラリスの2人は無事に勝利を収めた。向こうには聞こえてへんやろうけど「おめでとう!」と一緒に拍手を送る・・・んやけど、他の見学者であるシスターや神父さんは何もせぇへんかったから、わたしらちょう浮いてるかも。
「気にするな。大切な友達の勝利を祝うのに何を躊躇う必要がある」
ルシル君がわたしらにそう言うて一際大きな拍手の音を出した。そうやね。何も変なことやあらへんのやから。わたしらはまた拍手して、トリシュとクラリスの勝利を祝った。それから色んな騎士たちによる1対1の試合を観てく。そんでもう1人の友達の試合が始まる頃になった。
「アンジェリエの試合が始まるわ」
アンジェリエ・グリート・アルファリオ。所属は紫唐菖蒲騎士隊プルプァ・グラディオーレ。Bクラスの1位。シャルちゃん達に比べるとちょう遅れてる感じやな。騎種は打撃騎士。デバイスは旗型のアームドデバイス・“ジークファーネ”。その戦い方は、マーチングバンドのカーラーガードみたく旗を棍のように振り回しての打撃が主や。
「昨日の内にシャルちゃん達に応援メールを送ったから、その応援メッセージを励みにして勝ってほしいね」
「メッセージと一緒に念を送ってやったわよ」
「あー、アリサの念は強そうだよね」
「今からでも遅くないから、念を送ろうか!」
モニターに映るアンジェリエに向かってみんなで両手を翳して、「ファイトォー! アンジェリエ~!」念を送る。そしてアンジェリエは、相手の白雪中花騎士隊ヴァイス・タツェッテ所属の、メイス型のデバイスを携えるAクラス3位の男性騎士と試合開始。
「頑張れー!」
「負けんじゃないわよー!」
その直後から相手と真正面からのど突き合い。アンジェリエは“ジークファーネ”を振るって、薙ぎや突きによるコンビネーションを繰り出す。そやけど相手はAクラス3位、しかも男の人であり、メイスって完全な打撃武器型のデバイスでもあることで、アンジェリエを力尽くで弾き返しては攻めに転じる。
「まずいな。動きが読み切られている」
「アンジェリエの動きは決して悪くはねぇ。管理局に入れば優に武装隊の隊長になれるってレベルだ」
「教会騎士団のレベルの高さがよく判るよね」
「さすがは戦闘に特化した魔法体系。強い人がゴロゴロ居る」
他のモニターに映ってる騎士たちの試合。どれもこれも高レベルの戦闘で、もし万が一管理局と教会騎士団が衝突したら管理局が負ける、そう思えるほどや。
「おお! アンジェリエ、やっと旗を開いた!」
朱色に輝く魔力で出来た旗がバサッと開いた。硬軟・広狭自在の魔力旗で攻防を行う。それがアンジェリエの本来の戦術や。硬くしては魔力刃として斬撃を繰り出して、柔らかくしてはメイスを絡め取って無力化、そんで素手や蹴りでの攻撃。押され気味やった戦況を互角に戻した。そやけど・・・
「あー! 負けたぁぁぁーーーー!」
相手の騎士の方が一枚上手で、アンジェリエが惜敗した。握手してお互いの健闘を称えるアンジェリエ達にわたしらは「ナイスファイトー!」拍手を送った。そんでとうとう我らが大親友シャルちゃんの出番や。
朱朝顔騎士隊ロート・ヴィンテ所属。Aクラス4位、騎種は剣騎士。イリス・フライハイト。対するのは桃茉莉花騎士隊ローザ・ヤスミーン所属、Aクラス3位。武器は双剣。順位で言えばシャルちゃんより上や。
「頑張れー!」
「シャル! 負けるなぁー!」
「前回の試験からどれだけ強くなったか見せてやんなさい!」
「まぁ前回の試合の時は応援に来られなかったけど」
「というか、教えてくれなかったよねシャル」
「あぅ~。私が撃墜されて入院してたから・・・」
「さすがに応援に来て、なんて言えないか・・・」
騎士昇格試験は3年に一度行われるらしくて、前回の試験はちょうどなのはちゃんが入院してた時期や。そやけど今回はチーム海鳴勢揃いってこともあって、わたしらの応援にも熱が入る。
「シャルちゃん、頑張ってな・・・!」
モニターに映るシャルちゃんの勝利を強く願う。そんでカウントが始まって、0になった瞬間、シャルちゃんと相手の騎士が同時に地を蹴った。そっからはいつも通りに強いシャルちゃんの見せ場。直接斬撃や中・遠距離からの斬撃と戦況に合わせて切り替えて、相手の騎士の反撃を許さへん。
「決まったな」
ルシル君が微笑む。シグナムとヴィータも「ああ」って同意した。シャルちゃんは陸戦でも空戦でも相手を圧倒して、「おお! 勝った!」見事に撃破。みんなでハイタッチしながらシャルちゃんの勝利を喜び合って、「おめでとー!」拍手を送った。
後書き
ゴーオンダイン。ゴットクヴェルト。
今話は教会騎士団の昇格試験をお送りしました。正直必要だったのか私自身でも判らないものでしたが、5千文字ほどまで書いてやり直すのも面倒なのでそのまま執筆続行。結果このような話になりましたとさ。
次話はどうしましょうね~。祝賀パーティか、コミック版STRIKERS1巻のレリック回収か。どちらにしろ、今話の昇格試験の続きはやりませんね。結果だけを後の話の中にぶっ込んで行きます。
イラストですが前作のボス、終極テルミナス(完結編ではルミナ)、始原プリンキピウム、永遠アエテルニタス、大罪ペッカートゥムを投稿しました。
次はレヴィ/リヴィア・アルピーノ、嫉妬レヴィヤタン、色欲アスモデウス、フェンリルを投稿し、一旦イラスト投稿と休止します。
夏はもう汗やら小さい虫やらと戦わなければならず、イラストを描くのに適した季節ではないので。冬からまた再開します。
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