魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic1-G移ろいゆく季節~Elder sister~
前書き
Elder sister/姐さん
†††Sideアリサ†††
平和でお気楽だって言われてたミッド北部に数ある陸士部隊、その内の1つである第211部隊に所属してるあたし。いつもはそんなに事件・事故も起きないから毎日毎日デスクワークばっかりだったけど、今日は違う。
「おはよう、アリサ」
「おはよう、クラリス」
同じ陸士211部隊に所属してる同僚、クラリスと隊舎へと続く路の途中で合流した。いつもは出勤中だろうがなんだろうが関係なく食べ歩きしてるクラリスも、今日ばかりは緊張して・・・
「うん。新しく出来たクレープ屋、なかなかやる。常連になってあげよう」
「そうよね・・・。あんたに緊張感を持てって言うのが間違いなのよね・・・。ってゆうか、寝癖くらいしっかり治してきなさいよ」
寝癖の付いた真っ白なセミロングの髪を撫でつけるんだけど、やっぱ櫛やヘアスタイル剤なんかが無いから直んなかったわ。クラリスは口元に付いたクリームをペロリと舐めた後、「私やアリサ、それに航空武装隊も来てくれるから今日の任務は余裕、余裕」そう言った。
「まぁ確かに、今日の捜査は航空隊と合同だって言うけど、どの部隊かによっていろいろと変わってくると思うのよね」
航空武装隊は確かにエリート集団よ。優れた空戦スキルを有してるわ。でも、チーム海鳴として戦ってきたあたしにとっては・・・その、弱いと言うかなんと言うか。武装隊の隊長の魔導師ランクは平均でAで、隊員はB。んで、あたしはAAAとかSとかの連中と全力な模擬戦ばっかりを繰り返してたから、今じゃ陸戦AAA-よ。クラリスだってAAA+だし。
「もしダメそうだったら、私が飛竜を召喚すれば良いし、アリサも一応は空戦できるんだから、ある程度フォローに回れば良い」
「そうなっちゃうのね、やっぱり。そん時はよろしく頼むわよ、クラリス」
「ん」
今日は1日、ある事件捜査に掛かりっきりになる予定。捜査と逮捕をサクッと終わらせても事後処理があるからね、今日だけじゃなくてしばらく事後処理に追われるかもしれないわ。そんな会話をしながらあたし達の所属する隊舎へと到着。エントランスに向かってる中・・・
「あれ? アルメーラ部隊長とヴァン隊長補佐?」
エントランスから出て来たのは、あたし達211部隊の部隊長アルメーラ・ルノー一等陸佐と、部隊長補佐のヴァン・ルノー三等陸佐。共に30代後半の姉弟。その2人がまるで何かを待つようにエントランス前のターミナルに整列した。
「武装隊の人たちの迎えかしら・・・?」
「たぶん違う。いくら武装隊が本局のエリートだからって、佐官がわざわざ出迎えなんて・・・」
「有り得ないわよね、さすがに」
じゃあ一体、誰を待つために隊舎の外にまで出て来たのかしら。その答えは、あたし達がエントランスに着く前に出た。1台の車がターミナルに入って来た。その車は公共交通機関の1つ、タクシー。後部座席のドアが自動で開いて、そこから降りてきた人物を見たあたしとクラリスは「あ・・・!」指差した。
「遠路お疲れ様でした、セインテスト査察官」
「部隊長室にご案内いたします。どうぞこちらへ」
ルノー部隊長たちが待っていたのってルシルだったのね。敬礼をし合ったルシルや部隊長たちが隊舎の中へと入って行った。なるほど。査察官としてやって来たルシルへの心証を良くするためのものだったわけか。
「ルシル、内務調査部の局員として有名だし、仕方ないかも」
クラリスがそう言う。ルシルは査察官として、監査官として、監察官として、この1年少しで功績を何度も上げてる。不正があれば絶対に見つけ出し、不正を働いた連中を確実に罪に問わせる。
(その結果、慈悲無き粛清者なんて恐れられてる始末・・・)
そのうえルシルってば執務官と並ぶエリート役職の1つ、調査官になるための研修まで受けて、未来の最年少調査官ってことでも有名なのよね。ルノー部隊長たちが不正を働いてるとは思わないけど、やっぱ心証を良くしたいって思うんでしょうね。
「ルシルも戦力に加われば、どんな犯罪者であろうと不安なく捕まえれるんだけど・・・」
ルシルがレーゼフェアから受けた呪いは未だに解呪できてないわ。だから創世結界も使えないままだし、左目も失明したまま。やっぱレーゼフェアを斃さないといけないみたいなのよね。まぁ複製なんて使えなくても十分に強いんだけど。
「ルシルは査察官として来たんでしょ? じゃあ無理よ。というか、 アイツの目の前で無様なことやって、笑われるわけにはいかないわ。しっかり活躍してみせるわよ」
「おー!」
そういうわけで、あたしとクラリスも隊舎へと入って、捜査会議室へ直行。すでに先輩の捜査官たちが何人か椅子に着いてた。朝の挨拶と一緒に敬礼し合って、空いてる席にクラリスと一緒に着く。それから10分ほどして、あたし達211部隊の全捜査官が揃う。さらに・・・
「各員、起立! 本日の捜査に協力していただける第2212航空武装隊の第2班と第3班の隊員各員に・・・敬礼!」
捜査主任のヴィザ・シトロエン一等陸尉が、2212航空隊のメンバーを引き連れて会議室に入って来た。あたしたち捜査官は号令の通りに立ち上がって「よろしくお願いします!」敬礼する。武装隊のメンバー達も「よろしくお願いします!」敬礼返し。
(シグナム・・・)
第2班にはシグナムが居た。ほんの少し前まではヴィータやセレスも居たようだけど、2人揃って別の部隊に異動させられたって聞いてる。まぁさすがに人員が常に足りてない航空武装隊。1つの部隊に、ましてや同じ班にS-やAAA-なんかを集めるのはどうかしてると思うわ。
『今日はよろしく、シグナム』
『ああ。よろしく頼むぞ、アリサ』
シグナム達も席に着いてすぐ、「おはようございます、皆さん」部隊長のアルメーラ一佐と補佐のヴァン三佐、それにルシルまでもが会議室に入って来た。少しざわつく室内だったけど、「静粛にお願いします」ヴァン三佐の一言に静かになった。
「ルシリオン・セインテスト査察官には、本日の捜査に査察官として同行して頂く運びとなった。第211陸士部隊捜査部、恥ずかしい真似は出来ないぞ!」
ヴァン三佐の激励に「はいっ!」あたし達は応えた。あたし個人的にもダサい姿はルシルには見せらんないわ。アイツが海鳴を出てった後から今日までの間に、あたしがどれだけ成長したのかを見せつけてやるわ。
「では捜査会議を始める。約半年と掛けて捜査してきた麻薬密売組織を今日、各地方の陸士部隊とタイミングを見計らって一斉検挙する」
メンバーも揃ったことで捜査会議の始まりよ。会議室前方に大きなモニターが展開されて、あたし達が追ってきた犯罪集団の構成員の顔写真や簡単な経歴が表示されて、あたし達の手元にはソイツらや麻薬の購入者たちのデータが表示されたモニターが展開された。
「危険指定麻薬を違法所持、および販売を行っているこの者たちは、魔導犯罪者のみに高額で販売・提供している。麻薬の効果は、リンカーコアを異常に活性化させ、魔導師本人の魔力限界値を強制的に引き上げさせるというものだ」
すでにその麻薬に手を出して犯罪行為をした魔導犯罪者が別の世界で逮捕・起訴されてる。ソイツらのデータもあって、麻薬の効果には個人差があるんだけど、平均で2ランクアップ。一番効果を引き出させてる奴に至ってはCからAAA-の4ランクアップ。アホか、なんてツッコミを入れたくなるような上がりっぷりだわ。
「しかし、そんな出鱈目な効果を引き出す物が、体やリンカーコアに対してなんの悪影響を出さないわけもなく。本局より取り寄せた捜査資料によれば、使用者の大半は死に至っている。運良く生き延びたとしても臓器移植が必要となるほどに体内が酷く損傷する。魔導犯罪者による犯罪、被疑者本人の死亡が拡大している。その原因を今日、我々は立ち切る!」
もちろん、そんな旨い話があるわけもないわけで。判ってるだけでも死者が23人ときてる。この麻薬による死者の共通点は、リンカーコアが暴走したことによって臓器を焼かれての焼死ね。胸元に穴が開いてるのよ、ポッカリと。
そんな麻薬を売っている奴らが、ここ北部ミラ地方を始めとした各地方に堂々と拠点を構えてる。この検挙は、ミッドだけじゃなくて他の管理・管理外世界にも大きく関わる重大な案件だ。緊張するのも仕方ないわ。ま、クラリスだけはいつも通りののほほんだけど。
「密売組織の中には戦闘魔導師も複数人と居り、調査の結果、ここミラ地方に居るだけでも陸戦魔導師が6人、空戦魔導師が6人の計12人。平均でランクA。当部隊やご協力していただける航空隊の中にはそれ以上の高ランク魔導師が居るため、戦闘に関しては不安は無い。しかし、場所は商店・住宅街となっているため、それを留意して事に当たってほしい」
それから人員配置などの作戦を立てて、連中が拠点とするマンションのある区画へと移動することになった。まずは局の制服から私服へと着替える。局員が大所帯で移動する様なんて、連中を捕まえに来たってわざわざ教えているようなものだしね。さらに有名な局員(わたしやクラリス、シグナムとか)は変装をすることに。
「まぁ変身魔法じゃなくて良かったわ。あんまし戦闘以外で魔力消費したくないし」
「そもそも私は変装するほど有名なのかも怪しい」
更衣室で私服に着替えて、さらに用意してもらったカツラを被ることに。あたしの自慢の金髪は艶やかな黒髪で隠すことに。クラリスのセミロングの雪のような白髪は真っ赤なロングに。
「あんた、白髪の幼騎兵って恐れられてるの知らないわけ?」
巨大な黒馬アレクサンドロスを駆って車道を疾駆して逃走犯を追跡、そのうえデバイスで薙ぎ払う様を見て、市民は熱狂、犯罪者は震え上がってるって話。非公式ながらファンクラブも在るとか無いとか。そういやあたしの非公式ファンクラブってどうなってんのかしら。憶えてればエイミィ辺りにでも聞いてみよう。
「気にしたことないから判らない」
「ま、あんたも十分有名人だってことを解ってればそれで良いわよ」
「そう。・・・お手洗い済ませたいから先に行ってる」
「ん~」
クラリスが先に更衣室を出て行った。あたしはクラリスほど髪が短くないから、纏めるだけでも苦労するわ。そしてようやく髪を纏めてカツラを被る。ロッカーの扉の内側にある鏡で、黒髪になったあたしの姿を確認。
「なんか似合わないわね、あたしに黒髪なんて。どっちかって言うと、クラリスのカツラみたく赤い方が良かったんじゃ・・・」
けど替えのカツラは無い。しょうがないからそのままで更衣室から出ると、「アリサ」あたしの名前を呼ばれたから振り向くと、「パッと見じゃ誰か判んないわよ、シグナム」ド金髪になっちゃってるシグナムがそこに居た。髪型もポニーテールじゃなくて、ルシルみたくうなじ付近での1つ結びだし。
「似合わんか? まぁ私としても金色は無いだろう、と思ってはいたがな」
「俺は結構イケてると思いますがね、姐さんの金髪も」
「それで髪型をポニーテールにすれば、なかなかかと思います!」
シグナムの後ろに控えてた男女2人がそう言ってフォローするんだけど、「あたし、金髪がダメって言った憶えないんだけど?」似合ってないとは言ってないわよ。というか、「姐さんなんて呼ばせてんの? シグナム」その呼び名に驚いた。
「いや。私が呼ばせているわけではないぞ」
「俺が勝手にそう呼ばせてもらってるんすよ、バニングス陸曹。あ、自己紹介が遅れました。俺、ヴァイス・グランセニック一等陸士っす! 基本的にスナイパー担当で、時々ヘリパイロットを担当してます! んで、こっちが・・・」
「ア、アルト・クラエッタ三等陸士です! 整備士をやってます! あの有名なチーム海鳴の方とお会いできて光栄です!」
「ありがとう。アリサ・バニングス陸曹よ。今日はよろしくね、ヴァイス一士、アルト三士」
「うすっ!」「はいっ!」
ヴァイスはなんかチャラそうだけど、陽気な兄ちゃんみたいな感じで好感が持てるわ。アルトは緊張からか顔を真っ赤にしてて、ちょっとイジリがいがある感じ。でもクラエッタってどっかで聞いた名前よね。どこでだったかしら。
「ヴァイスとアルトは、ヴィータやセレスが居た頃からの部下でな。ヴァイスの狙撃の腕は目を見張るものだ」
「そう言ってもらえると嬉しいっす! そんな姐さんのカッコ良さに惚れましてね。自然と姐さんって呼びたくなっちまったんすよ!」
「へぇ~。シグナムに惚れた、ねぇ~」
なによ、シグナムはシグナムでそう言った想いを向けられてるんじゃない。あたしはシグナムに近付いて「やるじゃない」って、シグナムのお腹を肘でつつく。すると「なんの話だ?」シグナムは小首を傾げた。
「まあまあ。あんたも一応は女の子なんだから、恋愛もしたって良いのよ? はやてはあたしが説得してあげるから。それにヴァイス一士も、応援してあげるわよ? 頑張んなさい」
今度はヴァイスの肩を叩こうとしたんだけど、かなり背が高くて無理だったから口にするだけに留めた。
「いや待て、アリサ。なにか勘違いをしているぞ」
「あー、惚れたっつっても恋愛とかじゃなくて憧れみたいなもんすから・・・。確かに姐さんは美人だし、すげぇ格好良いし、付き合えたら男冥利には尽きるんすけどね。なんつうか高嶺の花なんすよ。だから憧れていられるだけで十分つうか・・・」
「そうなの? ていうか、その言い回しって若干告白入ってるわよね」
「・・・・あ、いや、それは!」
ハッとしたヴァイスがうろたえ始めた。アルトが「先輩、ファイト!」なんて応援し始める。シグナムはただ黙って見守ってるだけ。
「~~~っ! よっしゃ! 姐さん、好きだ! 付き合って下さい!」
「すまん」
「くはっ!?」
ヴァイスの告白に対して即答したシグナム。この流れに持ってったあたしとアルトは、ガックリ肩を落として「ほら見ろ。絶対こうなると思ったぜ」ブツブツ呟いてるヴァイスに、「ナイスファイト」そう言うことしか出来なかった。
「ち、ちなみに断られた理由、聞いてもいいっすか? 外見とかがダメなんすかね・・・?」
「私は外見で人の好き嫌いはせん。それにヴァイス、お前の外見は良い方だと思うぞ。内面も悪くはないと思う。私個人の見解だがな。魔導師としての腕もあり、優秀な部類だろう」
「姐さん・・・。俺、もう・・・それだけで十分っすよ」
「結構良い評価ね。シグナムがそう言うくらいだから、ヴァイス一士は良い人だってことは理解したわ。で? それなのに、どうしてダメなわけ?」
思いの他高評価を出したシグナムにちょっと驚きだわ。でもだからこそダメなのかを知りたい。
「私は主はやての騎士だ。この身も心もあの方に全て捧げた。私の幸せは、主はやてのお側に居続けること。それ以上のものは無いだろう。ゆえに、誰かと付き合うといった恋愛は無用なのだ。すまんな、ヴァイス。私は、お前とは男女の関係にはなれん」
「い、いえ! 誤魔化すことなくハッキリと答えてくれて良かったっす! ありがとうっした!」
なんか予想通りの返答だった。本当にシグナム達ははやて第一主義よね。まぁ、はやてと出会うまでの生き方からすればしょうがないけどさ。
とまぁ、そんなやり取りをした後であたし達は隊舎から出動。捜査車両6台で別々のルートを通って現場近くまで行って、あたしたち第211部隊の捜査官はマンション周辺の路上や喫茶店などから監視するんだけど・・・
「まさかマンションの中に配置されるとは思わなかったわ・・・」
「それほど私たちが頼られてる証拠」
あたしとクラリスは高ランク魔導師と騎士っていうことで、まさかのマンション内に配置された。
『構成員たちが拠点にしているのは10、11階の2フロアとなる。カーテンが閉められているため室内は確認できないが、サーモグラフィで17人居ることが確認できた。10階に10人、11階に7人。捜査してきた中でミラ地方に陣取るメンバーの同数と判明』
しかも被疑者が一番多く居るフロアの真下、9階の部屋だ。で、シグナムたち航空隊員は周辺のビルの屋上に潜んでるし、航空隊のスナイパー組(航空隊所属だからって全員が空戦魔導師じゃないのよね)も周辺のビルから狙ってる。
『各地の陸士隊の突入準備が整うまでは各員、待機せよ』
一斉に検挙しないと組織内で連絡が回って、何を仕出かすか判らない。どうせ碌でもないことに決まってるでしょうけど。そうならないようにタイミングを合わせる。これまで検挙できるチャンスがあったのに、それを不意にまでして今日まで待ってきた。全ては徹底的に連中を捻り潰すため。
『皆、お待たせしました。各地方の陸士隊も準備が整ったとのことです。それでは時間合わせを行います。カウント50! ・・・3、2、1、今!』
今、を合図にカウント数を50秒に設定。あたしとクラリスはカツラを外して防護服へと変身。そして“フレイムアイズ”をファルシオンフォームで起動させる。クラリスは方天戟型アームドデバイス・“シュトルムシュタール”を起動。刺突用の穂先の左右には三日月の形をした刃――月牙が2つ付いてる。石突には鋲がズラリと並んだ六角柱の棍棒。斬って良し、突いて良し、薙いで良し、殴って良しの近接戦特化のデバイスだ。
「ウンテンフォルム」
クラリスは“シュトルムシュタール”を下半分である棍棒だけの形態へと変形させた。フルサイズだけで2mちょいもあるからね。屋内戦の場合、槍部分だけのオーベンフォルムか、棍部分のウンテンフォルムのどちらかにする。そうすることでデバイスが内装に引っ掛からないようにするのよね。
『バニングス、ヴィルシュテッター、スタンバイ』
本部に連絡を入れる。あとはカウントが終わるのを待つだけ。静かに時間が過ぎるのを待って、あたしとクラリスの間に展開されてるカウントを刻むモニターに表示された秒数が10秒を切り、「3、2、1・・・!」そして0となったその瞬間、ガシャァン!と上階から窓ガラスが一斉に割れる音が聞こえてきた。
(まずは両フロアに向けて催涙ガス弾を撃ち込む)
本局技術部の特製だからその効果は折り紙つき。本部から『マンションより飛び出した敵空戦魔導師6名を視認! 航空隊は追撃を!』そう連絡が入った。催涙ガスの効果から逃れようとした連中はまず間違いなく外へと飛び出す。敵空戦魔導師が空に上がるのは作戦の内。シグナムたち航空隊が潰す。
『陸戦魔導師3名を視認! スナイパー班、撃ちます!』
敵陸戦魔導師は愚かにも普通に出口から脱出したようで、周辺のビルからの狙撃できっと全滅されるでしょうね。残り3人はどっから逃げるかしら。そう考えた直後、ドッカーン!と天井が爆発を起こして崩れ落ちてきた。
「ホントに床を壊して階下に降りてくるなんて。シトロエン捜査主任の読みは良く当たる」
「同意するけど、今はそんなこと言ってないでブッ倒すわよ!」
「おー!」
「え?」
「ここにも局員が・・・!」
「くそが・・・!」
床をぶち抜いて降りて来たのは残りの3人。デバイスは一般的な杖型のストレージ。連中があたし達に気付いてデバイスを向けてくるけど、「遅いわよ!」あたしはすでに連中の懐にまで飛び込んだ後。
「はいっ、はいっ、はいっ!」
あたしは“フレイムアイズ”を振るって、連中が握ってるデバイスをその手から弾き飛ばしてやったわ。あたしとしてはこの程度のことは特別じゃないんだけど、「速ぇ・・・!」連中からしてみれば早技らしい。でもま、これであたしの仕事は終わったわ。あとは任せたわよ、クラリス。
「これまで悪さをして甘い蜜を吸ってた。これは自業自得だからしょうがないよね」
「「「ヒィ・・・!」」」
あたしと入れ替わるようにクラリスが突っ込んで来て、「いっぽ~ん」1人を“シュトルムシュタール”でぶん殴った。ソイツは「うごふっ!?」豪快に吹っ飛んで、窓ガラスを突き破って外へ。さらに「にぃ~ほ~ん」逃げだそうとしていた2人目もぶん殴り、ソイツは壁に叩き付けられて行動不能。
「待っ、と、投こ――」
「さ~んほ~ん」
クラリスは“シュトルムシュタール”の先端を、何かを言い掛けた3人目の腹にねじ込むように打ち込んで、「おげぇ・・・!?」盛大に唾液やら何やらを吐きだしたソイツは崩れ落ちた。
「・・・クラリス。やりすぎよ」
「そう? コイツらはこれ以上に酷い事をやってきた。この程度の痛みすらまだまだ足りてないよ」
そう言って気を失ってる2人を蔑みの目で見下ろすクラリス。あたしは「ほら。手錠を掛けて、連行するわよ」クラリスの肩を叩いて、ソイツらに手錠を掛けた。それから本部に被疑者2名を確保したことを連絡を入れて、マンションから出たんだけど・・・
「何か騒がしい?」
「何かあったのかしら」
護送車へと移送されてく被疑者たちの側に居る同僚の捜査官たちとは別に、捜査車両付近に居る捜査官や武装隊員たちの様子が少しおかしい。移送担当の捜査官に2人を引き渡したあたしとクラリスは、「シグナム」一番近かったシグナムとヴァイスに声を掛けた。
「アリサ、ヴィルシュテッター」
「どうもです、騎士シグナム。グランセニック一士、お疲れ様です」
「うすっ! お疲れ様っす!」
「ヴァイス一士たちもお疲れ様。で、何かあったの?」
本題に入ると、「それがですね。漏れがあったらしいんすよ」ヴァイスがそう答えた。さらに・・・
「確保した17人の内、14人は組織の人間だったようなんすけど、他3人が客だったみたいで」
そんなあってほしくない情報が伝えられた。検挙した結果、17人を逮捕。だけどその内の3人が客。じゃあ、組織の人間である残り3人は今どこに居るわけ?ってことになる。
「今、他の捜査官たちが周囲を探索しているが、まだ見つかってはいないようだ」
「かなりヤバい展開です。漏れがあったとなると、その漏れの3人は一体何を仕出かすか」
4人で唸る。状況は限りなくレッド。そういうわけで、あたしとクラリスも付近を捜索するためにシトロエン捜査主任に申し出ようとした時・・・
「非確保だった3名を発見しました!」
同僚から報告が入った。でもその後の内容で、あたし達は凍りついた。あたし達の拠点検挙を知ったその3人は街中で子供を人質にしてビル内に立てこもり、今し方捕まえた連中を解放するように条件を出してきてる、とのことだった。
「とにかく、配置し直しだ! 総員、現場へ急行!」
「人質の身の安全を最優先! 絶対に傷つけてはなりません!」
そういうわけで、あたし達は捜査車両に乗り込んで現場まで直行。その途中、車内で現場の映像を観る。空きビルの4階のベランダに男3人と幼い女の子3人が居て、男たちは女の子たちの首に腕を回して魔力ナイフを突き付けてる。
「うそだろ、おい・・・なんの冗談だよ、こりゃ・・・! ラグナ・・・! だって今日は、お袋や友達と買い物に行くって・・・!」
ヴァイスが頭を抱えて狼狽し始めた。あたしがシグナムに視線を移すと、「右端の少女、ヴァイスの妹だ」そう教えてくれた。狼狽するのは当然だった。人質にされてる女の子の1人が、ヴァイスの妹だったのだから。
そして現場に到着して・・・
「スナイパー班は指定の位置にて待機! 航空隊は対象ビルの屋上にて待機! 陸戦部隊は隠密にビル内部へ突入、4階にて待機!」
指示通りにあたし達は動く。スナイパーの1人であるヴァイスは「待ってろ、ラグナ! 必ず助けてやるからな!」血相を変えて指定のビルへ向かって走って行った。そしてシグナムも「また後でな」他の空戦魔導師たちと一緒に移動。あたしとクラリスも、ビル内に突入するために移動開始。
(ルシル・・・)
前線本部である指揮通信車両に乗ったままのルシルは、うちの部隊長や捜査主任と一緒にモニター監視。こう言っちゃホントに悔しいんだけど、アイツが出れば冗談みたいにすぐに片付くんでしょうね。
「アリサ、急いで」
「ええ!」
クラリスや同僚たちと一緒にビル内に突入。その間にも外の様子を見られるように小型モニターを展開しておく。被疑者3人はあたしたち局員が集まって来ているのが判ったみたいで、なんか大声で叫んでるみたい。
「いつ人質に手を出すか判らない今、さっさと位置に着いた方が良いわね」
「早く泣いてるあの子たちを安心させてあげたいね」
捜査主任がネゴシエーター(交渉人資格があるしね)として交渉を開始したのがモニターに映し出される。その間にあたし達は所定の位置に陣取り、突入の合図を待つ。ちなみにあたしとクラリスは、被疑者の居る部屋の出入り口のドア前で待機。あとはヴァイス達スナイパーが被疑者の武装なり本体を狙撃して、あたし達は人質を救出、航空隊が外から被疑者を確保すれば事件解決よ。
『これよりスナイパー班による狙撃が開始される。各員、突入準備!』
モニターに映る被疑者3人はピリピリしていて、捜査主任の交渉や説得には全く耳を貸してないわね。大人しく投降すれば、痛い目に遭わずに済んだのに。
『こちらスナイパー班。撃ちます!』
ヴァイスとは違うスナイパーから連絡が入った直後、スナイパー3人からそれぞれ魔力弾が発射されて、1人、2人と胸を撃ち抜いていって無力化したけど、「っ・・・!?」誰かの1発だけが、最悪なことにヴァイスの妹って言うラグナの左目に着弾した。
「こちらバニングス! 突入します!」
指示を待たずにドアを開けて室内に突入する。一直線にベランダまで駆けて、「て、テメェ・・・!」ラグナを人質にしてた男が魔力ナイフをあたしに向けてきた。あたしがどうにかする前に・・・
「ていっ!」
背後からそんな声が聞こえたと同時、あたしの脇を高速で何かが通り過ぎて行った。ソレはクラリスのデバイス・“シュトルムシュタール”だった。ソレは高速で男の顔面に直撃して、鼻血やら歯やらを撒き散らしながらベランダの向こうへ消えてった。落ちたソイツの確保は外の同僚に任せて・・・
「被疑者の確保をお願いします! あなた達、大丈夫!?」
ぶっ倒れてる被疑者の確保を同僚たちに任せて、あたしは泣いてる女の子2人の側へ駆け寄る。ラグナ以外の子は鼻を啜りながら頷くことで応えてくれた。でも「ラグナ!」は意識を失ってるようで、ぐったりとベランダの壁にもたれかかってる。左目からは血が溢れ出ていて、かなり酷い損傷を負ってることが判る。
『ラグナ! ラグナ! ラグナ! すまない、俺、俺は・・・!』
ヴァイスから通信が入る。そうか、ヴァイスが誤射してしまったのね。あたしは「左目を大きく損傷してるわ! 医療班!」本部に連絡を入れて医療班を待機させてから、ラグナを横抱きに抱え上げる。
「「ラグナちゃん!」」
他の子があたしとラグナに駆け寄ってきた。ラグナちゃん、か。おそらくこの子たちが、ヴァイスの言ってたラグナの友達なのね。あたしは「お医者さんに診せてくるから、先に行くわね」そう伝えてからベランダから飛び降りた。飛行魔法を発動して、ササッと地上に降りる。
「バニングス陸曹、こちらへ!」
医療班の医務官に声を掛けられて、あたしはそっちに向かって走る。そして救急車両に乗り込んで、ラグナをストレッチャーに横たえさせた。医務官を筆頭に救命士たちがすぐに止血やらの処置を開始。それを見守ってると、「ラグナ!」ヴァイスがやって来た。
「あのっ! 俺の魔力弾が当たって! 非殺傷設定っだったんす! 治りますよね!?」
救急車両に乗り込んで医務官に掴み掛ろうとするヴァイスを「落ち着け、ヴァイス!」シグナムが引き止めた。ヴァイスは「くっ・・・! お願いします! 治してやってください!」車両から降りて土下座した。
「・・・たとえ非殺傷であっても、子供の眼球は柔らかく繊細な部位ですので、非殺傷の魔力弾でも直撃とあっては失明は免れないかと・・・」
「っ!! 失・・・明・・・? あぁ、ああ・・ああ・・・あぁぁぁぁあああああ・・・ああああああああああああっ!!」
非情な宣告が下された。それを聞いたヴァイスがハッと顔を上げて、両手で頭を抱えて悲痛な叫び声を上げた。だけど、まだ諦めるには早いわ。
「アイツなら・・・! ルシルならきっと・・・!」
救急車両から飛び出したあたしは、本部へと向かって走る。その途中で、ひとり現場を歩くルシルを発見。あたしは「ルシル!」の名前を呼んで、アイツの元に走る。
「あぁ、バニングス陸曹。お疲れ様です。事後処理に混ざらなくても良いのですか?」
するとルシルはチラッとだけあたしを見ては他人行儀にそう言って、別のところへ向かって歩き出そうとした。だから「待ちなさいよ!」引き止める。
「なんですかバニングス陸曹。僕はそれほど暇ではないんですが」
「はあ? 僕ぅ? ふざけてんじゃないわよ! あんた、ずっと事件のこと観てたんでしょ! だったら民間人に負傷者が出たことも判ってんでしょ!」
「あぁ、ヴァイス・グランセニック一等陸士の誤射。酷いものでしたね。撃たれた子も可哀想に」
ルシルはそれだけを言って、また立ち去ろうとした。あたしの怒りボルテージは臨界点近くまで行った。なんでそこまで判っていながら、思っていながら、そんな他人事みたいでいられるのよ。
「それだけ!? 言うことはそれだけなわけ!? マジでふざけてんなら承知しないわよ! アンタなら治せんでしょ! だったらなんで放っておくのよ!」
肩を掴んで無理やりあたしの方に振り向かせたら、「はぁ・・・。ふざけているのはどっちだ?」ものすごい怒りオーラを放ったルシルがそう言って、「っ・・・!」あたしの手を振り払った。
「な、なによ・・・」
「ふざけているのは・・・君だ、アリサ・バニングス陸曹。何故解らない」
「・・・?」
あたしの何がふざけてるわけ?って言い返そうとしたら、「セインテスト査察官!」ヴァイスがルシルの側に駆け寄った。
「頼んます! 俺の妹が、俺の不注意で左目の視力を失いそうなんす! セインテスト査察官なら治せると聞きました! お願いします! どうか、この通りっす!」
90度まで頭を下げたヴァイス。それでもルシルは「無理だ」簡潔に断った。あたしの怒りボルテージがとうとう臨界点突破して、「いい加減にしなさいよ、ルシル!」アイツのネクタイを引っ掴んでやった。
「・・・俺は査察官としてこの場に居る。君は捜査官としてここに居る。俺たちは医務官じゃない。医務官になんの話も通さず、捜査官である君が、査察官である俺を、プロの医務官の意向を無視して、勝手に医療行為をさせようというのか?」
「「っ!」」
「アリサ。俺たちは管理局員なんだよ。組織に属する人間だ。部署や派閥、そう言ったものに縛られるのが当たり前。個人の意思だけで好き勝手に動くことは許されない立場なんだよ。いい加減解れ、アリサ。俺たちはもう、あの頃とは違うんだ」
反論できなかった。あたし達には立場がある。陸士部隊は縄張り意識が強い。地上本部は次元航行部が嫌い。そう言った確執を見てきた。あたしは両拳をギュッと握りしめて・・・そのまま黙った。
「じゃ、じゃあ! 医務官たちから応援要請が入れば、査察官が治療を行ってくれるんすか!?」
「ああ。その時は全力で、グランセニック一士、君の妹の目を治す」
ルシルがそう言ったことで、あたし達はすぐにルシルを連れて救急車両へと戻る。途中シグナム達に、何とかする、って意味を乗せた頷きを見せて、先に事後処理に向かってくれるよう伝えた。そしてルシルを外に待機させたうえで、あたしは医務官たちにルシルの治癒魔法のことを説明した。死んでさえいなければどんな怪我でも治せる魔法、コード・エイルのことを。
「ティファレト医務官やシャマル医務官から聞いてはいたが、本当にそんなことが可能なのか?」
「はいっ。実際に何度か目にしてますから!」
必死にアピールする。正直ルシルのコード・エイルの治癒力は聞いただけじゃ信じられないレベルのもの。だから言葉だけじゃ信じてもらえないこともある。けど、「チーム海鳴のバニングス陸曹がそう言うなら・・・。お願いしましょう!」あたしからのアピールってことで、OKを貰えた。
「ありがとうございます! ルシル、お願い!」
「失礼します」
車外に居るルシルを呼ぶと、ルシルが医務官たちに一礼しながら入って来た。そして医務官たちからラグナの左目の症状を聴いて、「判りました。それなら問題なく行けそうです」ルシルは左手でラグナの左目を覆った。
「女神の祝福」
冷たい色なのにどこか温かなサファイアブルーの魔力光がラグナの左目を包み、車内に満ちた。ルシルは「角膜OK、水晶体OK・・・」何かブツブツ呟きながら魔力を放出し続けて、そして・・・
「ふぅ。施術完了。あとは眼科医にでも診てもらってください」
眼球の修復を終えたことを告げた。医務官たちがすぐさまラグナの眼球を診て「すごい!」口ぐちにルシルを称賛した。
「あ、ありがとうございます、セインテスト査察官! 俺、俺・・・このご恩はぜってぇ忘れません!」
ボロボロ泣き崩れるヴァイスがルシルの左手を取ってお礼を繰り返す。でもルシルは「妹の目が治ったからと言って、君の誤射が帳消しになるわけじゃない」そんな酷い事を言って返した。
「んなっ!? ちょっ、あんた、今それ言う必要ないでしょ!?」
何でこの1年ちょっとでそんなに意地悪、というか性格が悪くなったのよコイツ。あたしはまたルシルに掴みかかろうとしたんだけど、「いいんす、バニングス陸曹!」ヴァイスが制止してきた。
「セインテスト査察官の方が正しいっすから。自分のミスで妹を傷つけた責は負います」
ヴァイスがキッと真剣な表情になってルシルにそう言うと、アイツは頷いて「彼女の目に何か異常があれば連れて来てくれ。俺が責任を負う」それだけを言って立ち去ってった。
それからラグナは、念のためにということで病院へ搬送されることになって、ヴァイスや彼女のお母さんが付き添いで救急車両に乗り込んだ。後でヴァイスから聞いたんだけど、ヴァイス達のお母さんや他の子たちのお母さん2人は、ショッピング中に突然被疑者たちに殴られて、その拍子に転んで出来た隙にラグナや他の子たちが連れ去られた、とのことだった。
「何はともあれ、これで解決ね」
「バニングス陸曹! 今日は本当にありがとうございました! 陸曹が居なかったら、査察官や医務官を説得できずにラグナは失明して、俺もきっと壊れてた・・・」
先に事後処理を始めてるクラリスやシグナム達と合流するために現場に戻る最中、ヴァイスがこれまた深く頭を下げてきた。
「気にしないで良いわ。あたしのやりたいようにやっただけだし。だからお礼は結構よ。あぁ、あとアリサで良いわ。シグナムの部下っていうなら、これからもちょくちょくお世話になるでしょうし」
「っ! 格好良い・・・! 了解っす、アリサ姐さん!」
「ぶはっ!? は、はあ!? 姐さんって、何よ急に!」
「アリサ姐さんの、シグナム姐さんに負けず劣らずの格好良さに俺、惚れたっす! だから今日からは、アリサ姐さんと呼ばせてもらいます!」
「やめてぇぇぇぇーーーーー!」
これ以降あたしはヴァイスから、アリサ姐さん、って呼ばれるようになった。
後書き
ボン・ディア。ボア・タルデ。ボア・ノイテ。
今話はアリサ回となりました。ヴァイスの妹への誤射事件の時に、アリサやシグナムも一緒に居たと言う設定にし、グランセニック兄妹と関係を持たせました。あと何気にアリサとヴァイスにフラグ立て。上手く行くかは判りません(笑
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