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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第十七話 イゼルローン要塞に赴任なのです。

 
前書き
 前話から1年半立ちました。その間どうしていたかって?水面の下では盛んに泳ぎ回っていますが、それが表に出てくるのはもう少し先なのです。 

 
帝国歴482年8月1日――。
自由惑星同盟――。
 この年、自由惑星同盟側にとって、エル・ファシル星域会戦以来の出兵人事が起こっていた。出兵と言っても、大規模ではなく、一個艦隊の出撃であったのだが。
 出兵部隊は第六艦隊司令官ヴィラ・デイマン中将以下15000隻である。なぜ、一個艦隊のみが出撃したかというと、これはありていに言えばパフォーマンスであった。


 エル・ファシル星域奪還作戦はシドニー・シトレ中将率いる第八艦隊の勝利で終わったものの、その後余勢をかって帝国本土へ出撃しようという動きはなかった。ブラッドレー大将が「待った」をかけたし、何よりこの当時同盟の政権担当者が保守的な人で、攻勢をかけるのを良しとしなかったことにある。大艦隊を運用するのには、ただでさえ金がかかるのに、それを戦闘艦隊として派遣するとなると、大規模な予算を割り振らなくてはならない。


 だが、奪還後も回廊付近を中心に局地的な散発戦闘は続いていた。ほぼ2年近くにわたって大規模な会戦はなく、国力は落ち着きを取り戻しているが、それだけにどこかしら怠惰な雰囲気が同盟全体に漂っていた。
 束の間とはいえ、平和が到来すると、民衆の悲しさ、政権への関心は薄れ、地方選挙での投票率は下がり、それが中央政界へも波及してくるのはお決まりの事である。
帝国と違い、同盟においてはこうした支持率を常に気にかけなくては、軍も政治もできないという状況にあった。民主国家の宿命である。
 そこで、同盟側の政治家、軍上層部は同盟において完成した新鋭艦のテスト航海をかね、一個艦隊をいわば「示威行動」として派遣することとしたのである。

 その、ヴィラ・デイマン中将は自由惑星同盟最高評議会の現議長ピエール・サン・トゥルーデのお気に入りであり、さらにヨブ・トリューニヒト国防委員等の次代の有力若手議員ともつながりがある人物である。能力は平凡だが、それだけに自分に見合った任務を着実にこなし、ここまできた人物だった。
 その第六艦隊には、これもヨブ・トリューニヒトらとつながりのあるムーア准将の部隊が加わっており、その参謀長としてシャロン・イーリス中佐が赴任していた。シドニー・シトレ中将率いる第八艦隊には、副官兼参謀としてヤン・ウェンリー少佐が赴任してきており、シャロンは表向き栄典ではあったが、その反動で押し出される形となっていた。

 これには、統合作戦本部長のダニエル・ブラッドレー大将の意向が働いている。最高評議会議長ともトリューニヒトとも距離を置くブラッドレー大将にとっては、第六艦隊の司令官以下の面々の能力については、信用していなかったのである。そこで、シャロンを送り込むことにしたのであった。

 当のシャロンは唯々諾々と赴任していったが、その胸中はいかばかりかとシトレ中将もブラッドレー大将も思っていた。
 このささやかな人事が、後に帝国軍と同盟双方に対して、ある波紋を起こすこととなろうとは、シトレ・ブラッドレー両名には想像もつかぬことであった。





イゼルローン要塞。
帝国歴482年8月17日――。

 ラインハルトとキルヒアイスは幼年学校卒業後の初陣場所であった惑星カプチュランカの戦闘に勝利し、司令官マーテル大佐の推挙を得て、イゼルローン要塞に赴任することとなった。赴任先は駆逐艦ハーメルン・ツヴァイである。ラインハルトは中尉に、キルヒアイスも少尉となっていた。

「キルヒアイス、あれだ」

 軍港でラインハルトが目標の艦を見つけて指さす。

「ええ、あれですね」
「いよいよ宇宙艦隊勤務だ。地上戦と異なるが、俺はこの瞬間をずっと待っていた。ここから始まるのだな、本当の戦いが・・・・」
「はい、ラインハルト様」

 キルヒアイスがうなずいた。二人はハーメルン・ツヴァイに足を向けたが、ふと、ラインハルトが足を止めた。そこかしこを軍人が闊歩しているのは当然として、その中に女性士官が混じっている。

「それにしても、このイゼルローン要塞は随分と女性が多いな」

 原作と違い、女性士官学校が設立されて4年が過ぎ、着々と第一線に送り込まれる士官は増えていた。 最初は5000人ほどだった入校者も今は一学年1万人を超え、幼年学校に並ぶ勢いである。当初はやはり摩擦などの問題があったりしたが、マインホフ元帥直々の前線視察や、皇帝陛下勅命での厳粛な訓示、また違反者は即刻処刑など厳罰が繰り返された結果、だいぶ女性蔑視の火は下火になったのである。

 表面上ではあるが。

 女性の中では既に大尉になっている者すらもいた。(第一号はイルーナ・フォン・ヴァンクラフトであったが。)それらはイルーナやアレーナを通じてラインハルトもよく知っていることであったが、こうして実地に見ると改めてその実情を思い知る気持ちだった。

「俺たちも、女性に武勲を取られないよう、せいぜい励むとしようか」
「ええ」

 二人は歩みだした。

 30分後、彼らは艦長室で艦長のアデナウアー少佐の面接を受けていた。

「ほう?ラインハルト・フォン・ミューゼル中尉にジークフリード・キルヒアイス少尉か。二人とも若いな。特にミューゼル中尉はカプチュランカでずいぶんと武勲を上げたそうではないか」
「恐縮です」
「卿にはいきなり航海長を務めてもらうが、何事もこのベルトラム大尉に聞くように」

 艦長は傍らに立つベルトラム大尉を手で示した。

「彼は士官学校を優秀な成績で卒業した。私もずいぶんと楽をさせてもらっているよ」
「ベルトラムだ。よろしく」
「よろしくお願いします。大尉」
「よし、では艦内を案内しよう。ついてきてもらおうか」


 ハーメルン・ツヴァイ艦橋上――。
■ ティアナ・フォン・ローメルド少尉 索敵主任
 ふ~。たいくつだわね。フィオはああやって喜々として任務に就いているけれど、私なんか索敵主任だもの、平素はあまり仕事はないのよね。まぁ、最もレーダーなどの通信装置の手入れは欠かしてないけれどね。
 ま、考えてみればフィオと同じ艦に配属されたのはラッキーだったわ。ここに来た当初はなんだか知らないけれど、やたら兵隊に絡まれる日々。それもフィオと私とがぶちのめしたり半殺しにしたりしたから、だいぶ下火になったけれどね。ま、女をなめるとああいうことになるってのよ。それだって私たちは100万分の1も本気で相手してないし。

「みんなそのままで聞くように!!」

 あ、ベルトラム大尉じゃん。・・・・・って、えええええ!?!?
 あそこにいるのって、ラインハルトとキルヒアイス!?あ、向こうも気が付いた。こっち見て目、見開いてる。あ、でもそうかそうよね。原作だともう二人が赴任してくるころ合いだものね。それにしてもアレーナさんも強引よね。マインホフ元帥の力を借りて、半ば私たちを強制的にハーメルン・ツヴァイによこすなんてさ。そりゃ確かに私たちがいれば護衛として役立つかもしれないけれど、原作の時だってラインハルトは見事にクリアしたんだもの。大丈夫だと思うけれどなぁ・・・・。


その夜――自室にて。
■ ラインハルト・フォン・ミューゼル
 驚いた。まさかフロイレイン・ティアナとフロイレイン・エリーセルが赴任しているとは思わなかった。どうも知っている者と勤務するのはやりにくくてしょうがないな。だが、それはそれこれはこれ、だ。軍務に励むとしようか。
 予測していたことだが、やはり俺たちは子供だと思われている。癪に障るがそれが一般の者の思うところだ。俺は別に気にしていない。そのような心情など功績を立てれば見方は変わるものだ。今は経験を積むことに専念しよう。
 艦を見て回ったが、よく手入れされている。訓練が行き届いている証拠だ。だが兵の士気はあまり高くはないな。副長も平素はよく部下たちになつかれているようだが、さて、これが戦場に出れば果たしてどうなるかな・・・・。

■ ジークフリード・キルヒアイス
 まさかフロイレイン・ローメルドとフロイレイン・エリーセルのお二人がいらっしゃるとは思わなかったが、これは心強い。聞けば赴任してまだ3か月ほどのようだが、早くも古参少尉のような雰囲気を漂わしている。しかし、女性士官の軍服を初めて見たが、あれは誰がデザインしたのだろう?やたら刺繍がしてあったけれども。
 艦上の雰囲気はお二人を除いては、やはりラインハルト様には冷たい。それはラインハルト様もよく理解して居られていて、気にするなとおっしゃってくださる。そうだ、まずは武勲を建てて皆に認めさせることにしよう。


 8月27日ハーメルン・ツヴァイは第237駆逐隊の一員としてイゼルローン回廊の哨戒任務に就くこととなった。


数日後――。

■ フィオーナ・フォン・エリーセル少尉 通信主任
「定時連絡をキッシンゲンⅢに伝達」

 ラインハルトの声がするわ。私も仕事しなくちゃね。

「了解。定時連絡をキッシンゲンⅢに伝達します。時刻0900。・・・・異常なし、通信完了。なお、次回の定時連絡は1100の予定です」
「ご苦労」

 うん、いい感じだと思うわ。まだまだ若いけれど、ラインハルトは指揮官に、ううん、全軍の将帥に向いていると思う。そういうところは教官と同じかな。
 それに先日、やっぱり原作と同じようにアラヌス・ザイデル伍長の洗礼を受けて、その時に命懸けで弟さんを救ったと聞いたわ。艦が急に傾いたのは、その時艦橋にいたティアナが見ていたけれど、副長が意図的に前艦との距離を縮めさせたから。やはり副長はラインハルトのことを面白からず思っているのだわ。

「なぜ平民を命懸けて助けた?」

 ザイデル伍長の問いかけに、ラインハルトはこう答えたそうね。

「貴族だろうが平民だろうが、同じ人間に変わりはないんだろう?」

 そう答えられたと後でザイデル伍長が教えてくれました。私たちに、その・・・あの・・・、やっつけられた後でザイデル伍長ったらすっかり私たちに心服していたようなの。でもね、ザイデル伍長、私たちなんかよりラインハルトのほうがずうっと優れているのよ。


艦内下士官食堂――。

 ラインハルト、キルヒアイス、アラヌス・ザイデル伍長、ロルフ・ザイデル二等兵、そしてフィオーナ・フォン・エリーセル少尉とティアナ・フォン・ローメルド少尉がささやかな席を設けていた。お題目はむろん助けられたロルフのお祝いとそれを助けたラインハルトへの感謝の席だった。

「親父が町工場を経営していましてね、私もロルフも腕だけは器用だったんですよ。で、俺は工業化の高校、こいつは何を思ったんだか美術科に入っちまいましてね。でもね、いずれは徴兵で兵隊にとられちまう。どうせならってんで俺は軍に入って工兵科を志願したんです。うまくすりゃ前線に出なくてもいいし、将来退役すれば、その助けにもなる。私は、親父の工場を継ごうと思ってましてね。ところが、何の因果かいきなりの最前線勤務と来た。おまけに弟のロルフまでここに来ちまった。軍としてはいきな計らいもしたつもりでしょうがね、イッペンに戦死しちまったら、誰が年老いた両親の面倒を見るんですか!?」

 だんだんとロルフの口ぶりが激してくる。聞いていると、兵士一人一人の苦悩が伝わってくる口ぶりだ。彼はしまいには涙さえ流した。

「わかりますか!?中尉殿、少尉殿!俺たち兵士だって家族がいるんです!!一人一人生きているんです!!今後の人生もある!!俺たちだって兵士だ。そりゃ戦場にでれば働きますよ。だからこそ、俺たちは死ななくていい場面で死にたくなんかない。俺たちに欲しいのはね、ただ後方にいて命令する立場の人間じゃない。兵士一人一人のことをわかって、それを考えてくれる人がほしいんです!!」
「わかった。卿、いや、君たちのことを良く聞かせてほしい。一人一人のことを」

 ラインハルトは言った。意外な言葉にアラヌス・ザイデル伍長は目を見ひらく。

「いいんですかい?つらい話になりますよ」
「いいんだ。私は一人一人のことを聞いたうえで、その辛さを覚悟したうえで、私はあやまたず命令を下す。そのために聞かせてほしいんだ」
「ラインハルトの言う通りだわ」

 ティアナが静かに言葉を添えた。

「私たちはただ上に立つだけの士官じゃない。上に立った以上は部下たちに対して責任を背負うことになる。そのことを一度だって私は忘れたことはないわ」

 ティアナが静かに、だが意志の強いまなざしで言った。

「あなたたちのことはこれまでも色々と聞かせてもらいましたけれど、私ももう一度聞きたいです。じっくりと」

 フィオーナも真摯に言った。



数日後――。

 ハーメルン・ツヴァイは僚艦とともに、アルトミュール恒星系に差し掛かっていた。
 原作であれば、ラインハルトはこと通信や索敵に関しては注意怠りないよう喚起するところだが、フィオーナもティアナもそのあたりのことは心得ている。二人とも前世では上級将官まで務めたのだ。軍隊の規模や機械などが違うとはいえ、基本的な考え方は同じこと。二人はそれをよく承知しているのである。さらに、原作ではアルトミュール恒星系は自由惑星同盟艦隊の強襲を受けた場所として知られており、そのため二人とも特に警戒を厳にしていた。


 そして――。ついにその時がやってきた。


「左舷レーダーに反応!!イレギュラーではないわ!敵です!!砲撃来ます!!」

 ティアナが叫んだ。

「回避!!」

 ラインハルトが叫んだその直後、第237駆逐隊は猛烈な同盟軍艦隊の強襲に会い、ハーメルン・ツヴァイ機関部に被弾、出力が低下した。同時に艦橋司令席付近で爆発が起こり、吹き飛ばされた艦長が転げ落ちて倒れた。いち早い発見の知らせにもかかわらず、回避が間に合わなかったのは、航宙主任がすぐに動かなかったからである。これが致命的となった。

「艦長!!・・・軍医を!!」

 ラインハルトが抱き起すが、ひどい重傷だ。

「医療部員、艦長が負傷された。至急艦橋へ!」

 キルヒアイスが医療室に伝達する。

「こ、航海長・・・!!君が、指揮をとれ・・・・!!」

 弱い、だが必死の声は、艦橋にいた全員に届いていた。がっくりと首を落とした艦長にキルヒアイスが呼び寄せた医療班たちが駆けつけ、艦長をタンカに乗せた。ラインハルトはそれを見届けると、立ち上がり、宙域をにらんだ。次の瞬間彼は航宙主任のもとに走り寄っていた。

「エメリッヒ少尉、本艦取舵一杯!!」
「えっ!?しかし、他の艦は面舵を取っておりますが――。」
「二度言わせるな!!取舵一杯!!」
「しかし――」
「エメリッヒ!!」

 ティアナがエメリッヒをにらんだ。さっき緊急回避をさっさとエメリッヒがしていればこんなことにはならなかったのにと言いたい全開オーラを出している。

「僚艦に緊急連絡!!転柁を中止し、本艦に後続せよと伝えろ!!」
「はい!!」

 フィオーナがいち早く通信を送る。

「何をしている!?取舵だ!!」

 ラインハルトが呆然としているエメリッヒを叱咤する。

「エメリッヒ!!」

 ティアナが声を上げた。

「この艦橋の指揮権は今は航海長にあるわ。命令に従いなさい!!」

 エメリッヒにしてみれば、ティアナの言葉を聞くのは癪だったが、正論である。加えてティアナ・フィオーナの着任初日に手を出して返り討ちにされたこともあり、苦手意識を持っていたので、素直に従うことにした。さらに、先ほどの回避指令をすぐに実行できなかった弱みもある。

「わ、わかりました・・・・。本艦取舵一杯!!!」

 ハーメルン・ツヴァイは僚艦と航路を別にし、ただ一隻で取舵を取って別行動を行い始めた。
 そこにベルトラム大尉やデューリング中尉等が入ってきた。

「状況はどうなっている?」
「左舷下部に被弾、機関出力低下、艦長が負傷され、小官が指揮を執っております。なお、それ以外の被害状況の報告は今のところありません」
「艦長の負傷状況は?」

 ラインハルトを無視しながら、ベルトラム大尉が軍医に尋ねる。

「予断を許さない状況だ。すぐに医療室に」

 医療班たちがタンカを運び出す中、ベルトラム大尉が航路図を見て愕然となった。

「どうして当艦だけが別航路をとっている!!」
「ミュ、ミューゼル中尉の命令です!!」

 エメリッヒ少尉が上ずった声で答える。

「ミューゼル中尉の!?・・・わかった。以後は私が指揮を執る。回頭して旗艦に続け!!」
「お待ちください!!」

 ラインハルトが叫んだ。

「これは明らかに意図された奇襲です。同盟軍は小惑星帯に潜み、わが方を待ち伏せしておりました」


ハーメルン・ツヴァイ艦橋
■ フィオーナ・フォン・エリーセル少尉
 そう、待ち伏せよ。でも、考えてみればこれはおかしなこと。たかが4隻の駆逐隊に対してどうして戦艦や巡航艦数十隻が伏せているの?哨戒艦隊ならともかく、これは明らかに小戦隊編成だわ。
 理由はともかく、目的は私たちを一隻残らず葬り去ること。となると、アルトミュール恒星系に何か秘密が・・・・?それとも、第237駆逐隊そのものが目的なのかしら・・・・。
 私が考えていると、激昂したベルトラム大尉がラインハルトに指揮権を移乗しろと詰め寄っているのが見えた。仕方ないわね。掩護しなくては。

「副長!!」

 私の声に副長が振り向く。

「なんだ!?こんな時に!!何かあったのか!?」
「ミューゼル中尉の指示は的確でした。本艦は最後尾にあります。今回頭すれば敵の砲火の真っただ中を横断することとなり、危険です。しかも出力が低下している現状ではなおさらです」
「貴官までミューゼル中尉を支持するか!?」

 だめね、完全に感情的になっている。

「私は現状の判断が正しいと申しているにすぎません」
「同じことだ!!」
「バカじゃないの!!!正しい判断にどうしてケチをつけるわけ!?」

 あっ!!ティアナ!!!何言ってるの!?駄目じゃないの!!ここは前世じゃないんだから、私たちは一介の少尉に過ぎないのよ。もう!!

 ベルトラム大尉の顔が沸騰寸前に達していた。これ、下手したら抗命罪か何かで処分かしら・・・。

「航海長!!レーダーに異常反応!!!」

 その時、ティアナがレーダー反応を見て、叫んだ。ということは・・・・。

「報告は私にしろ!!」
「いや、ローメルド少尉、私が聞く」
「どっちでもいいわよ。右舷回頭した味方艦隊の反応が、消失!!原因は、味方艦隊前面及び側面に出現した敵の別働隊よ」

 なっ!!という表情をベルトラム大尉がしている。彼が絶句している間にティアナはラインハルトに意見しだした。

「航海長、進言をしてもいいかしら?」
「何か?」
「このまま小惑星帯の中に入り、敵をやり過ごし、そこで機関の応急処置を行うというのは?」
「ローメルド少尉の意見は正しい。エメリッヒ少尉、本艦を小惑星帯の中に回航」

 ハーメルン・ツヴァイはその艦首を小惑星帯の中に向けた。

「水雷長」
「な、何か?」
「機雷に自動信管を付けて、放出、最大出力で爆発させろ」
「そ、そんなことをしたら――!!」
「偽装だ。この艦が爆沈したと敵を欺くためだ」
「だ、だったら一発じゃ無理だ。三発同時に放出して爆発させないと・・・・」
「それでいい。やってくれ」
「・・・・・・・」

 水雷長デューリング中尉は無言で、汗をふきふきラインハルトに言われた通りの作業を素早くやってのけた。数秒後、派手に爆発した機雷を背に、ハーメルン・ツヴァイは小惑星帯の中に逃げ込みつつあった。

「エリーセル少尉。ローメルド少尉」
『はい。』
「通信をオフにして、パッシブ機能のみに切り替えろ。レーダー出力も最低限に絞り、近接レーダーのみに切り替えろ」
「もうしています」
「こちらも今したところよ」

 私は微笑んだ。ティアナもだ。ラインハルトはちょっと意外そうだったが、すぐにうなずいて見せた。ハーメルン・ツヴァイは無事に小惑星帯の中に入ったところで、ラインハルトはベルトラム大尉に向いた。

「指揮権を返上いたします」
「受理する。・・・キルヒアイス少尉」

 ベルトラム大尉は早速キルヒアイス少尉を呼び寄せた。何をしようとしているのかはだいたい想像がつくわ。

「ミューゼル中尉、エリーセル少尉、ローメルド少尉を拘束、営倉に入れろ。三名は反逆行為があったと判断し、要塞に戻り次第軍法会議に処する。・・・異論はないな」
「はっ」

 キルヒアイスは一切顔に色を出すことなく即座に従う。そうよ、キルヒアイス少尉。あなたがいてくれなくてはどうしようもないもの。私たちはラインハルトに対して協力する姿勢を見せなくてはならないから、あえて副長に抵抗して見せたけれど。あなたはラインハルトを助けなくてはならないのだから・・・・。


 ハーメルン・ツヴァイ 営倉――。
■ ティアナ・フォン・ローメルド少尉
 ラインハルト、フィオ、私の三人は営倉に監禁された。というかいいわけ?男女三人をこんなところに押し込めて。しかも私たち美形だし。あ~いいのか。ラインハルトはこういうことにまだ奥手だものね。

「二人には迷惑をかけてすまない」

 珍しくラインハルトが素直に謝ってくる。あ、違うか。原作と違う環境で育ったものね。アレーナさんやイルーナ教官が一緒に育てたんだものね。

「いいえ、構いません。航海長のご判断は正しいものでしたから」

 フィオいいわね~。敬語使えて。私は駄目。そんなんだから度々訓告を受ける羽目になるのよね。

「気にしないでよね。私たちだってまだ死にたくはないんだから」
「それにしても、どうして敵はアルトミュール恒星系で私たちを待ち伏せていたのでしょうか?哨戒艦隊にしては編成が戦隊規模でした」
「アルトミュール恒星系は特に資源などの発見が報告されていない。また、艦艇などを隠すにはうってつけかもしれないが、それは一時的なものだ。アルトミュール恒星は恒星風が吹き荒れ、ひとたびそれが発生すれば小惑星全体に影響する。資源があったとしても採掘は難しい。秘密裏に何かを建造するにしても、長期的に何かできるような場所ではないだろう」

 流石はラインハルト。よく勉強しているようね。

「ということは、私たちを待ち伏せていたということ?」
「我々とは限らない。ここアルトミュール恒星系付近を通過することは、双方の艦艇にとって日常茶飯事だ。いつぞや帝国の艦艇に返り討ちにされた仇を返そうと潜んでいたとしても不思議ではないがな」

 冗談めかしていうラインハルトに私たちは笑った。だが、笑いながら私は思った。

(狙いは・・・たぶんラインハルトだったのだわ。そうでなくてはこれほどまでに分厚い包囲陣を敷くことはないはずだもの。でも、誰が・・・・?)



同盟軍哨戒艦隊 旗艦 アウグスタス
■ シャロン・イーリス中佐 哨戒艦隊参謀長
 最初の機会が到来したわ。この機会を利用してラインハルトを仕留めなくては。奇襲に成功したにもかかわらず、ハーメルン・ツヴァイを仕留めそこなったのは、大きな失敗だったけれど、まだチャンスがあるはずよ。現在艦隊を四方八方に散らしてハーメルン・ツヴァイを捜索中。OVAなどを見ている限りはラインハルトはアルトミュール恒星系小惑星帯の中に潜んでいるのだけれど、具体的な場所がどこまでかはわからない。


 しかも、あちらには転生者たちが味方しているのだから、裏をかかれるかもしれない。地道に、探し出すしかないわ。


 お生憎様ね、イルーナ、アレーナ、フィオーナ、そしてティアナ。前世から転生したのは、あなたたちだけではないのよ。ヴァルハラでのあの時、とっさに後をつけてあの泉に飛び込んだのは正解だったわね。私までも転生できてしまったのは、あのヴァルハラでの神々の悪戯なのか偶然か。
 どうしてラインハルトを狙うか?それはね、あなたたちがラインハルトを守る側だから。前世では私とあなたたちは敵対関係にあったわ。その因果は転生程度では断ち切れないほど深いものなのよ。だからなのね、私が自由惑星同盟に生まれたのは。
 原作では自由惑星同盟は将官レベルに関して帝国に劣っていたけれど、私がいる限りそうはさせないわ。芽は若いときに摘み取っておかなくては、それが立派な大木に成長してからでは切り倒せなくなってしまう。
 悪いわね、ラインハルト。恨むならこんなことをしでかしたヴァルハラの神々、そしてイルーナたちをうらみなさいな。
 
 

 
後書き
 前世からの因縁というものは、時には死を超越するほどしぶといのです。 
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