英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第56話
~温泉郷ユミル~
「ふふ、それにしてもセリーヌとも再会できてよかったです。あとはⅦ組のこれからのこと、しっかりと考えないといけませんね。」
「ああ、頼りにしているぞ、委員長。」
「そう言えば……郷の雑貨屋でアレも買わないと。」
「?アレって何よ?」
エマが呟いた言葉が気になったセリーヌは尋ねた。
「ふふ、セリーヌには内緒。ちょっと必要な物があって。」
「(よくわからないけどなんだか楽しそうだな……委員長の買い物か。ちょっと興味があるけど……」委員長、何か買い物があるなら俺も付き合ってもいいか?郷で買えるものならおすすめを紹介できるかもしれないし。」
「リィンさん……ふふ、よろしくお願いします。あ、セリーヌは待っていて。今回は私とリィンさんだけで大丈夫だから。」
「はあ?……何よ、感じ悪いわね。」
その後リィン達は若干拗ねるセリーヌを置いてあるものを買いに雑貨屋に訪れた。
「ふふ、ありました。ちょうどいい色みたいです。」
「それって……毛糸か?委員長、編み物なんてやるんだな?」
商品棚にある毛糸を手に取るエマの様子を見てある事を察したリィン達は不思議そうな表情で尋ねた。
「はい、故郷にいた頃はよくやっていたんです。セリーヌと再会したら簡単なマフラーでも贈ろうかと編んでいたんですが……あと少しのところで毛糸がなくなってしまって中断していたんです。」
「へえ、そうだったのか。だったら最後の作業はうちのリビングでするといい。内緒で完成させてセリーヌを驚かせないとな。」
「ふふ、それじゃあお言葉に甘えさせていただきます。」
こうしてリィンはエマを実家のリビングに案内し……その後、一緒に暖炉で暖まりながら編み物に付き合うことになった。
~シュバルツァー男爵邸~
「~~~~~~♪」
(控え目でこういった事もできる事といい、シュリに似ていてますます可愛いワネ♪)
リビングにある暖炉の近くでエマが手際よく編み物をしているとその様子をヴァレフォルは興味ありげな表情で見つめ、リィンが紅茶を持ってきた。
「委員長、紅茶を淹れてきたよ。って……へえ、なかなかうまいものだな。」
「ふふ、ありがとうございます。毛糸もセリーヌに似合いそうな蒼色にしてみたんです。」
「うん、なかなか似合いそうだ。これは完成が楽しみだな。はは、それにしても……委員長とセリーヌって仲がいいよな。」
エマとセリーヌのやり取りを思い出したリィンは微笑ましそうに見つめた。
「そ、そうでしょうか?一緒にいるといつも憎まれ口ばっかり叩かれるんですけど。」
(むしろワタシとももっと”仲良く”して欲しいワ♪)
苦笑しながら答えたエマの答えを聞いたヴァレフォルは目を輝かせた。
「そういうところも含めてさ。ここだけの話、委員長がいない間セリーヌも随分心配していたみたいだ。素直に口には出さないけどいつだって委員長を気にかけていたよ。」
「そうでしたか……セリーヌが。ふふ、彼女とは生まれた時からの付き合いなんです。”魔女”の修行を始めた時も”使い魔”としてずっとそばにいて……私にとっては姉でもあり、妹でもあるような間柄ですね。」
リィンの説明を聞いたエマは昔を懐かしむかのように微笑みながら答えた。
「へえ、なんだか羨ましいな。俺なんかはついエリゼとエリスに気を遣ってしまうんだが……委員長とセリーヌなら何でも言い合えそうだな。」
「アハハ………いまだに隠し事なんかはされてますけど。でも……そうですね。少なくとも”姉さん”よりは……」
エマがふと呟いた言葉を聞いたリィンは”蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダを思い出し、クロチルダを良く知る為にエマに尋ねた。
「クロチルダさん……彼女は委員長にとってどういう人なんだ?本当の姉妹ってわけじゃないみたいだけど。」
「えっと……正しくは”姉弟子”になりますね。魔女としては凄まじく優秀で、沢山の人に響く歌声も持っていて……私にとっては憧れの存在でした。禁を犯して故郷を出て行った今も………とても追いつける気はしません。」
「委員長……とにかく、委員長なりに頑張っていけばいいさ。」
「私なりに……?」
リィンの言葉を聞いたエマは目を丸くして不思議そうな表情をした。
「クロチルダさんに色々聞きたいのは俺も同じだ。でもそのためには、そのマフラーみたいに少しずつ進めていくしかないと思う。だから……頑張ろう、委員長。俺達と一緒に。」
「リィンさん……ふふっ、そうですね。ありがとうございます。なんだか少しだけ、目の前が開けたような気がします。」
その後完成したマフラーをセリーヌに届け……憎まれ口を叩きつつも嬉しそうに尻尾を振るセリーヌに二人は苦笑した。
~温泉郷ユミル~
「ふふ、セリーヌもマフラーを喜んでくれたみたいでよかったです。恥ずかしがってつける気はなさそうですけど。」
「は、恥ずかしがってないわよ!まったく、余計なことに体力を使って……ちゃんと休まないと承知しないわよ?」
「ふふ、わかっているわ。」
「(はは、二人とも嬉しそうだな。せっかくだし、一緒にどこかで休憩しようか……?)そういうことなら、二人とも。一緒に足湯にでも行かないか?午後までは時間もあるしいい休憩になると思うんだが。」
エマとセリーヌの様子を微笑ましそうに見守っていたリィンは二人に提案した。
「あ、いいですね。」
「アタシは遠慮しとくわ。二人でゆっくり浸かってきなさい。」
「ふふ、わかったわ。……それではリィンさん、行きましょうか。」
その後二人は足湯に向かい、それぞれの足を温泉に浸からせて休んでいた。
「はあ、いい気持ちですね……それに、やっぱりセリーヌの言ったとおりみたいです。」
「というと?」
「どうやらユミルの温泉には、霊力の回復を促進する効果があるみたいなんです。たぶん、霊脈が近いおかげで精霊の加護があるんだと思います。」
「へえ、そうだったのか。はは、ヴァリマールが入れるような風呂があればよかったな。」
エマの説明を聞いたリィンは冗談半分で言った。
「あはは、確かにそうですね。……あっ?」
するとその時エマの眼鏡が湯気によって曇った。
「えっと、委員長。眼鏡が曇ってるぞ?」
「は、外すのを忘れていました……!」
エマは慌てた様子で眼鏡を外した。
「ふう……」
「はは……そんなに慌てることはないと思うけど。でも委員長…………」
リィンは真剣な表情でジッとエマを見つめ
「リ、リィンさん?そんなにまじまじと見つめられると、その……」
リィンに見つめられたエマは頬を赤らめて恥ずかしそうに視線を逸らした。
「いや……前々からちょっと思ってたんだが。実はそんなに視力は悪くないんじゃないのか?」
「あはは……気付いていたんですね。はい、多少ぼやける程度で……魔女の術で補えばほとんど問題にならないくらいです。」
「そういえば、学院祭のステージでも掛けていなかったのに振り付けが完璧だったよな。でも、だったらどうして眼鏡をかけているんだ?」
眼鏡をかける意味があまりないエマの行動を不思議に思ったリィンはエマに尋ねた。
「この眼鏡は……私の”魔女”としてのあり方の象徴みたいなものなんです。『魔女とは歴史の影に潜み使命を全うすべき者……他者に自分の”素顔”を見せれば情に流され使命が揺らぐ危険もある。』……そんなふうに、小さい頃から婆様に教わっていましたから。」
「委員長の”おばあちゃん”か。なんていうか……思っていたよりも厳しい人みたいだな?」
「ふふ、仕方ないと思います。婆様は私達”魔女の眷属”の”長”にあたる大魔女……魔女の使命を正しく導く責任があるお方ですから。私もヴィータ姉さんも、魔女の修行を始めてからは随分厳しく躾けられましたね。」
昔を懐かしむかのようにエマは目を閉じて静かな笑みを浮かべた。
「そうなのか……」
「でも姉さんは禁を犯して故郷から出奔してしまって……婆様はそんな姉さんを捕まえて、罰を与えようとしているみたいで。……私はただ、会って話が出来ればいいんです。姉さんがあの日、どうして故郷を出て行ったのか、それさえ聞ければ……」
「委員長……」
「あはは……ちょっと甘すぎるかもしれませんけど。それに、この眼鏡もそろそろ外した方がいいのかもしれませんね。じゃないと、いつまでもリィンさんたちに隠し事をしているみたいで……」
複雑そうな表情で考え込んでいるエマを見たリィンは少しの間考え、そして答えを口にした。
「委員長がそうしたければそれでもいいさ。眼鏡を外した姿も、結構似合っていると思うしな。」
「えっ……」
リィンの言葉を聞いたエマは顔を赤らめ
(あら♪次はその娘かしら♪)
(ふふふ、どうやら彼女もいつものように”無自覚”で将来の”妻”にしようとしていますね。)
(リ、リィン様……昨夜クレアさんとアリサさんにあれほど説教をされたのに、全然懲りてないじゃないですか……)
(まあ、”天然”に幾ら言っても無駄だと思うわよ?)
(ムッ……ついにエマに手を出す気ね!?後であの使い魔にも忠告しとくべきね。)
ベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をし、メサイアは冷や汗をかいて疲れた表情をし、アイドスは苦笑し、ヴァレフォルは警戒の表情でリィンを睨みながらセリーヌに忠告する事を決めた。
「でも忘れないでくれ。眼鏡を外そうが外すまいが……―――魔女であろうがなかろうが。委員長が俺達の委員長であることは変わりはないんだから。」
「リィンさん……ふふっ……ありがとうございます。」
その二人は他愛ないおしゃべりをしながらゆっくり温まったのだった。
そして午後になると全員”鳳翼館”に集まり、これからの方針についての話し合いを始めた…………
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