英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第55話
郷を見回る前に実家を見回っていたリィンは書斎にいるアリサを見つけて声をかけた。
~シュバルツァー男爵邸~
「アリサ……?何をしているんだ?」
「その、工具の場所をおば様に聞いたらここにあるとおっしゃったから。ちょっと導力バイクを整備してあげようと思ってね。」
「導力バイクの整備、できるのか?」
導力バイクがジョルジュ達によって創られた物であり、通常の導力機械の整備とは異なる事を知っていたリィンは不思議そうな表情で尋ねた。
「まあ、エンジン周りの整備くらいならできると思うわ。アンゼリカさんの大切なバイク……後輩の私が万全にしておいてあげないとね。」
「(俺も手伝った方がいいかもしれないな。)アリサ、よかったら俺にも手伝わさせてくれないか?先輩からバイクを譲り受けた者としての、役目でもあると思うから。」
「リィン……ふふ、そうね。だったら二人でやりましょう。せっかくの導力バイク、ベストな状態にしてあげないとね。」
そして二人は導力バイクの整備を始めた。
「うん、導力エンジン周りはこれで問題なさそうね。そのうち走行テストも兼ねて再整備の必要はありそうだけど……あ、可動部にもちゃんとオイルを差してあげないと。」
「はあ、すごいな。アリサが導力関係に強いのはわかっていたんだが。まさかここまでちゃんとした整備ができるなんて。」
導力バイクの整備を手際よくしているアリサをリィンは感心した様子で見つめていた。
「まあ、あくまで応急的な処置だけどね。士官学院で何度か見せてもらっていたし。」
「いや、十分すごいって。以前、ノルドの実習でも導力車の故障原因を見抜いたり、迫撃砲の型番を言い当てていたし……さすがラインフォルト社の令嬢――――って片付けるのはちょっと浅慮に思えて来たな。たゆまぬ努力の結果だろうな。」
今までの経緯でアリサが見せたアリサが持つ導力関係の知識を思い出したリィンは苦笑しながらアリサを見つめた。
「ふふ……確かに導力関係は士官学院に行く前から猛勉強していたわね。RFの人間である立場を利用して各部署の工場を見学させてもらったり、工科大学の授業に参加したり。独学なりに、やれるだけんことはやってきた自信はあるわ。」
「……何となく努力の理由はわかる気はするな。やっぱり、イリーナ会長への対抗心みたいなものか?」
「まあ、身も蓋もないことを言ってしまえばね。……父様が亡くなって母様は”家族”を省みなくなった。挙句、お祖父様を追い落としてRFグループ会長にまで上り詰めてしまって……私はそんな母様の鼻を少しでも明かしたかったのかもしれない。」
リィンに図星を言い当てられたアリサは当時の自分を思い返しながら答えた。
「……そうか。それで……少しは鼻を明かせたのか?」
「……いいえ、全然ね。この内戦で母様が行方不明になって、それどころじゃなくなってしまったし。でも―――今はみんなと。とことん前に進むと決めたから。前の実習で母様に言った、自分の道を示すという約束を果たすためにもね。」
「アリサ……」
導力バイクの整備を終えたアリサが立ち上がるとリィンはアリサの頭を優しく撫でた。
「え……」
(うふふ、さすがご主人様♪釣った魚にもちゃんと餌を与え続けているのもご主人様の良い所よね♪)
(つ、”釣った魚”って……)
(ふふふ、だからこそご主人様に惚れた女性は皆、ご主人様が新しい未来の伴侶を増やして怒っても、結局最後は許しているのではないですか?)
(フフ、そうかもしれないわね。)
(いいな~、アリサ。頭を撫でてもらうのって凄く気持ちいいんだよね~。)
呆けているアリサを見たベルフェゴールの念話を聞いたメサイアは表情を引き攣らせ、リザイラの念話を聞いたアイドスは微笑み、ミルモは羨ましそうな表情をしていた。
「はは、一生懸命にやってて頭に雪が積もってたからさ。……俺も、負けていられない。絶対にこの内戦を乗り越えて、自分の道を見つけてみせる。一緒にがんばろう、アリサ。」
「リィン…………」
リィンを見つめたアリサの脳裏にふとある出来事が思い浮かんだ。
そんなに泣かないで……ほら、これで元気だしなよ。
ぐすっ……雪でできたうさぎちゃん……?
ほら、頭に雪が積もってるよ。だいじょうぶ、僕が君を郷まで送り届けるから。しっかりついてきて。
う、うんっ……!
「―――ああああああっ!?」
幼い日の出来事を思い出したアリサは突如声を上げた。
「!?ど、どうした!?」
「お、思い出したの!9年前の家族旅行でユミルに来たあの時……私、誤って一人で雪山に迷い込んでしまって!そこで男の子に会って、郷まで送り届けてもらった……!あれ、間違いなくあなただわ!」
(あらあら♪とても素敵な事実が発覚したわね♪)
(ふふふ、二人の場合だとむしろ過去にそのような出来事があってもおかしくないですね。)
(まあ……フフ、それがお二人の”運命の出会い”だったかもしれませんね。)
(そうね………そして再会して結ばれるという素敵な”運命”が待っていたようね。)
アリサの話を聞いたベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をし、メサイアとアイドスは微笑ましそうに見守っていた。
「言われてみれば、なんとなく覚えがあるような……その翌年くらいに例の事件もあって、記憶も曖昧になっていたし……その、じゃあ……俺達、本当に昔会っていたのか?」
「そ、そうかも……怖い思いでだったからか、私もすっかり忘れてたけど……」
二人は黙り込んだ後やがて苦笑し始めた。
「……はは。なんて偶然だ。運命……なんていうにはちょっと恥ずかしいけど。」
「フフッ、そうかしら?あの時出会った私達はそれぞれの”道”を見つける途中で再び出会って、将来結ばれる事になったんだから、”運命”だと思うわよ?その……私、リィンがあの時の男の子だって思い出した時、凄く嬉しかったわ……」
「ア、アリサ……」
頬を赤らめたアリサの言葉にリィンが顔を真っ赤にしたその時
「リィン……ん……大好き…………ちゅ……れる……」
(アリサ……)
(えへへ、二人は相変わらず仲良しだね~。)
アリサはリィンと深い口付けを交わし、その様子をミルモは嬉しそうに見守っていた。
「そ、その、改めてになるけど、これからもよろしくお願いするわ。」
「あ、ああ……こちらこそ!」
その後、照れた心地になりながらも協力して導力バイクの整備を済ませ……一緒にシュバルツァー男爵の書斎に工具を戻したリィンは郷の見回りを始め、雑貨屋にいるシャロンを見つけるとシャロンの行動が気になり、声をかけた。
「シャロンさん、買い物ですか?」
「ええ、皆様が鳳翼館で話し合われるとのことですし、厨房をお手伝いしようかと。それと、所用で出かける奥様の代わりに、男爵閣下のお食事の準備もありまして。」
「なるほど……それは助かります。」
「…………”怪盗紳士”や”神速”に加えて”劫炎”まで現れた状況……結社の動きは気になりますが、わたくしは皆様と共にありますわ。どうか、Ⅶ組として悔いのない決断をしてくださいませ。」
現在の状況を改めて思い返したシャロンは真剣な表情でリィンに激励の言葉を送った。
「シャロンさん……ありがとうございます。なんとかみんなで考えてみます。」
「ふふ、応援していますわ。」
「(それにしても父さんの食事か……俺も手伝ってみるかな?)これから父さんの食事を用意するみたいですけど、俺にも手伝わさせてもらえませんか?その、今のうちに少しでも親孝行をしておきたいですし。」
「リィン様……ふふ、男爵閣下もさぞお喜びになりますわ♪それでは買出しを済ませて厨房に参りましょうか。」
リィンはシャロンと共に屋敷の厨房に向かい……ルシア夫人が所用で出かけている間に、シュバルツァー男爵の食事作りを手伝うのだった。
~シュバルツァー男爵邸~
「へえ、作るのはユミル風のボルシチですか。野菜もたくさん採れますし身体が温まりそうでいいですね。」
「ふふ、それにお肉のタンパク質は男爵閣下の怪我の回復にいいはずですわ。では、リィン様はお野菜のカットを。わたくしはその間にお肉の下ごしらえとスープの味付けをしておきますわ。」
「ええ、了解しました。」
そして二人は手分けして食事を作り始めた。
「~~~~~~♪」
「(……なんだかこうしていると本当に穏やかだよな。第3学生寮でのシャロンさんを思い出すというか……実は結社の執行者なんてのも本当じゃないような気がして……)痛つ………っ!」
鼻歌を歌いながら料理をしているシャロンを見ながら野菜を切っていたリィンは余所見をしていた為、包丁で指を切ってしまった。
「まあ、リィン様。いかがなさいましたか?あらあら、大変ですわ。指を切ってしまわれて……」
リィンの様子に気付いたシャロンはリィンに近づいて血を流しているリィンの指に視線を向けた。
「……はは、すみません。ちょっと考え事をしていて。大丈夫です、そんなに深くありませんから。」
「いけませんわ。すぐに血を止めませんと。じっとしていてくださいませ。」
シャロンの言葉にリィンが首を傾げたその時シャロンはリィンの指を自分の口に咥え込んだ。
「あむっ。」
「シャ、シャロンさん!?(う、うわ……)」
(ふふふ、昨夜あの軍人の”全て”を奪って何度も彼女の身体を貪った上、自分の将来の”妻”の一人にしたばかりだというのに”この程度”で慌てているとは、ご主人様の感覚は相変わらず理解できませんね。)
(ご主人様の初心な所はいつまで経っても直らないのが可愛くて素敵よね♪)
(クスクス……だからこそ今の状況になったのかもしれないわね。)
(ア、アハハ……た、確かにアイドス様の推測は一理あるかもしれませんね……)
シャロンの行動に慌てているリィンの様子をリザイラとベルフェゴールは微笑ましそうに見つめ、アイドスの推測を聞いたメサイアは冷や汗をかいて苦笑していた。
「はい、これで大丈夫ですわ。」
「シャ、シャロンさん。いくらなんでもそれは……」
「ふふ、どうかいたしましたか?絆創膏を持ってきますからそちらのお部屋でお待ちください♪」
リィンが焦っている様子を面白がるかのようにシャロンは微笑み
(からかわれているな……多分。ふう、心臓に悪いというか。)
自分がからかわれている事に気付いたリィンは疲れた表情をした。その後別室でシャロンの手当てを受けた。
「これでばっちりですわね。あとはわたくしに任せてリィン様は休んでいてくださいませ。」
「ふう、すみません。お役に立てなくて。」
「ふふ、いえいえ。とても助かりましたわ。アリサお嬢様の幼い頃を思い出してなんだか懐かしい気分になれましたし。お嬢様も転んでヒザをすりむいては、泣きながらわたくしの名前を呼んでくださったものですわ♪」
「はは……微笑ましいですね。(アリサは恥ずかしがりそうだけど。)確かラインフォルト家には7年ほど前にいらしたんですよね?」
シャロンの話を聞いて思わずその光景を思い浮かべて苦笑したリィンはある事を思い出して尋ねた。
「はい、旦那様―――お嬢様のお父上がお亡くなりになってからでしたわね。雇っていただいたイリーナ会長には、感謝してもしきれませんわ。わたくしに”メイド”という道を与えてくださった恩人ですから。」
「それじゃあ……ラインフォルト家に来てからメイドを始めたんですか?それ以前は――――あ。」
シャロンの話を聞いたリィンは驚いた後シャロンの正体を思い出して気まずそうな表情をした。
「……ふふ、そうですわ。わたくしはそれまでずっと”執行者”としてのみ動いていました。最初にラインフォルト社へ来たのも、結社に与えられた使命の一つとして……そこでイリーナ会長と出会い、ヘッドハンティングされまして。それからはメイドと執行者の二足のわらじになりますわね。」
「結社の人間をスカウトって……イリーナ会長って、やっぱり只者じゃありませんね。」
「クスクス……会長だけでなくヨシュア様を引き取り、”光”の道へと導いたカシウス様とエステル様……そしてあのレーヴェ様をも”光”の道へと導いたプリネ様も只者ではありませんわよ?」
「た、確かに言われてみれば……」
シャロンの話を聞いたリィンは自分が知る元執行者達―――ヨシュアやレーヴェ、二人を結社から抜けさせた人物達を思い出して冷や汗をかいた。
「話を戻しますがイリーナ会長のおかげでわたくしは、ようやく自分の道を見つけられました。もはや後戻りはできない身ですが、それでも……」
「シャロンさん……」
「ふふ……何でもありませんわ。とにかく、これから何があろうとわたくしの愛と献身は揺るぎませんわ。ラインフォルト家のメイドとしてだけではなく、Ⅶ組のみなさんのために誠心誠意尽くさせていただきますから♪」
「……はい、よろしくお願いします。俺達もそれに応えられるよう、精一杯頑張らせてもらいます。」
その後、シャロンは手早く料理の下ごしらえを済ませ……結局ルシア夫人が戻ってくるまでできる限りの手伝いだけしてからその場を後にしたリィンは郷の見回りに戻り、宿酒場にセリーヌと共にいるエマに話しかけた。
ページ上へ戻る