ロザリオとバンパイア〜Another story〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第54話 夢魔は嫌い?
さて、今日も終わった。
「ん? 何が終わったかって?」
「もちろん授業が、に決まってるじゃん!?」
誰が誰に言っているのだろうか? 色々とツッコミを入れたくなる冒頭だが、それは 生暖かくスルーするのが一番かと思われます。理由をあげるとすれば、今 彼はとても大変だから、である。
事の発端は、昨日の鬼ごっこ騒動だ。そこから、彼は学習に学習を重ねた。授業だから、と言うシャレ? と聞こえるかもしれないが、しっかりと学習したのだ。だからこそ、あまり目立たない様に、それとなく薄く徹した? つもりだった。云わば、自粛モードと言うヤツだ。
そう……、そのつもり、だったらしいのだが、一度目をつけられたら、正直な所、回避する術は判らないのが常だ。
「まっ~てぇ~~~♫」
「今日こそ教えてもらうわ~! もち、君をねーっ!」
「グフッ……グフフフフフフ!」
これは、ごく一部のセリフを抜擢した。
セリフから判る様に、一部は全く変わらないみたいなのだ。
「悠長に言うなーーーっ」
落ち着いてるナレーションとは対極に、必死に走り続け、尚且つツッコミも忘れないのが、彼……カイトである。当然ながら、授業が終わったあと、長い休み時間では、鬼ごっこが始まる。簡単な説明なら、鬼ごっこには至らないのだが、あまりに圧力が強いのと、あまりの数の多さで、逃げざるを得ないのだ。妖の本来の姿をみせるのは御法度、校則違反の筈なのだが、躊躇なく、見せていてる。つまり、人間の身体能力ではなく、圧倒的な妖の身体能力で迫ってくるのだ。
その中には、『グフッ』っと笑う……人? 変わらず参戦してる。
色々と黄色い声援が飛ぶ中なのに、彼女は、ついに不気味な笑みしか言ってない。カイトが、逃げたい気持ち、一番はここにあったのかもしれなかった。
「(もっ 流石に、休み時間ずっと走り回るのはしんどい……、寝れないの辛い……)」
鬼ごっこが続く中で、カイトはそう考え、走りながら宙に指先で図形を描いた、
図形が完成したと同時に、黄色い閃光が場を包み込む。
「………疾風迅雷」
それは、カイトが施した、身体強化《脚力》の補助魔法である。
発生させた雷の電流により、筋組織に強大な力を発揮させる術、と説明しておこう。更に、カイトが発生させた閃光の目晦ましも加えて……。
「あ、あれ?? なんだか、光ったと思ったら……」
「んー でも、……こっちに曲がったと思ったのに…。こっちしか無い様な気がするんだけど……」
「ぐ……むぅ、…油断…したわね」
光の影に隠れつつ、相手の視界の死角へ、死角へと連続して動き続けた為、彼女達の目には 映らなかっただろう。だから、何とか撒くことが出来たのだ。
そして、ある程度進んだ所で、カイトは術を解いた。
「ふう……ここまで来たら大丈夫か、ううむ、最初っからこうすればよかったな…………、睡眠時間、確保しないと、エネルギーがもたん……」
逃げに逃げて、たどり着いた場所は校舎裏。
第一に、休憩時間に生徒が来るような場所じゃなかった為、休憩がてら、カイトは一服するのだった。
「ん。決めた。暫くはこうやって追っ手? を巻くことにしよっと… 何回かすれば流石に諦めてくれるでしょ。妖怪の学園だし……、不思議? な力で撒かれちゃうって事で……』
カイトはそうつぶやくのだが、正直にいえば、『諦めて欲しい……』と言うのが、彼の本音だ。
発動する為には、当然ながら自分自身の力、即ち《魔力》を使う。……いわゆる、ゲームみたいな、《MP》があって、それを消費して使用する訳だ。
言うは簡単だが、実際に消費してみると、やはりそれなりのリスクはある。つまり、使い過ぎれば、これまた疲れてしまうのだ。色んな意味で、大変な相手から逃げる為には、より疲れる事をしなければならない、とは皮肉だと思えるが、カイトにとっては丁度良い。――男なら兎も角、扱い方、接し方がよく判らない女の子相手には。
「……まあ、基本的に補助の魔法だし、ハイ、ロウもできる。……そこまで問題はないか。……さーてと、今何時だ……? 次の授業までの時間は……」
カイトは、現在時刻を確認するために、校舎の大時計を確認する為に、移動していると。
「あ…ああ…」
どこからか、声が聞えてきた。
「……ん?(……まさか…、こんなに早く見つかった?)」
カイトは、正直びっくりしてしまった。何故なら、彼女達が進む方向とは真逆に移動し続けたからだ。見つかるにしても早すぎる、と思ってしまったのだ。
だから、カイトは、恐る恐る声の方へ向いてみると。
「だ……、誰か…、誰か、助けて………、手を、手を貸して下さい。急に具合が悪くなって…」
どうやら、自分を追いかけてきてる彼女達とは違った。物凄く安心しつつ、カイトは、急ぎ足で、その足元が覚束無い様子の女子生徒の方へ向かう。
「ん、大丈夫か? 立てる? とりあえず保健室に行くか?」
カイトは、手を差し出す。
その時、はっきりと目の前の女の子の顔を見た。
「(………? あれ? この子は確か…………)」
手を指し伸ばしたまま、カイトはしばし考えていた。
その容姿、見たことあるような気がして不思議に思っていたのだ。学園で見かけた、と言うレベルではなく、昔から知っている。そんな感じがしたのだ。
少々考え事をしているカイトを他所に、女の子はカイトの手をとった。
「………ありがとうございます。私生まれつき体が弱くて……、そ、その…… む……胸が……、発作的に苦しくなって、ぎゅ~って………」
カイトの手を握り、そのまま体をカイトに預ける様に寄りかかり、その豊満な胸を、カイトに思いっきり押し当てるように、と言うか、完全に押し当てた。起伏に富んだ大きな大きな胸が、カイトの腕によって、形を変える。
当然、カイトの腕にやわらかい感触がしっかりと残っている。埋もれている、といえるだろう。
考え事をしていたカイトだったのだが……、流石に直ぐに考え事が吹き飛んだ。
「胸がはちきれそうになるんですぅ~」
彼女は、その行為をやめる気配はなく、今度は、カイトの腕を、挟み込む様にさせつつ、更に近づく。
「ちょっ! ま、まって、近い近いって!!」
当然ながら、こんな経験ほとんど無いのはカイトだ。
「(うわわわ! ちょ、ちょっ やわらかっ…おっきっ…! って、オレな…何考えて…)」
はい。幾らカイトでも、モカに思わず抱きついてしまう事は出来ても、……一応はそれなりに健全な男子なのです。ここまでド・ストレートにされると、無理は無いと思います。
想定外の出来事、射程外から、突然の強力攻撃をされたも同じ感覚だ。――世の男の子にとっては、とても、とても有難い攻撃だけど、カイトにとっては、思わぬ事が起きたも同然だったから、気が動転してしまった。
「うふふ… 照れちゃって可愛い…」
彼女は、慌てふためくカイトを見つつ、更に胸を押し当てながら、上目使いで見上げた。
「君…、 1組の御剣怪斗君ですね…? カイト君…わたしの目を見て………」
「え!」
カイトは、言われるがままに、その子の目を見た。
「私は黒乃 胡夢です。 ………これから、仲良くしてくださいね? カイトくん………」
彼女……、事 《くるむ》は、そう言いながらカイトの目を見つめ続けるのだった。
それは、当然、全ては計算通り、計画通りに進行している。
色仕掛けで カイトに油断をさせつつ、自分の虜にする為に、くるむが仕掛けた術なのだ。
そう、もしも――月音であれば、いや 月音に限らず、男子であれば誰もが掛かってしまう程の代物だろう。……だが。
「(これは……、確か、魅惑眼? 確か――夢魔が得意としている魅惑、幻術……、か)」
カイトの脳裏にはそれが浮かぶ。
受け継がれた彼の能力には、まだ特典があったのだ。
それは、《知識》
魔法を操る為に、必要な知識は全て脳裏に刻まれており、大体を理解する事ができる。《根源の妖》と分類されている彼の能力故に、自然界から生まれた力、そこから様々な、多種多様な力に、まるで樹が成長を続け、枝を分け、広がっていく様に発展していった力。それらを、カイトは読む事ができるのだ。
だからこそ、その術を受けて、直様感知できた。
そして、それとほとんど同時に、目の前の少女が、いったい誰なのか、それも理解する事が出来た。
「(……黒乃、胡夢……って、ああ。なる程。そう言う事、か。彼女もこの学園に入学をしていたんだったな。……ん。彼女の事も、忘れてなくて良かったかな)」
カイトは、くるむの魅惑を受けながら、悠長にそんな風に考えていたのだった。
そして、更にもう1つの能力は彼に備わっている。幻術や洗脳の類は、一切受け付けない力。自分自身の自動魔法の1つ《精神堅牢》。
力が備わってから、それなりに彼も勉強を続けたのだ。沢山使える能力を得ても、その1つ1つを理解していないのであれば、宝の持ち腐れ、なのだから。
勿論、万能と言う訳ではなく、この防護魔法には、発動条件がある。
それは、術者の精神面が万全ないし、ある程度の余力があるときに限る、と言う事。自分自身を上回る力では無いと言う事、だ。
非常に便利な力だが、過信をしないように、と心がけたりもしている。
――――何が起きてもおかしくない世界にきているから
そして、当然だが 圧倒的に違和感を感じているのは、カイトよりも違和感を感じているのは、くるむの方だ。
「(え………、なんで? 私の魅惑眼は完璧のハズなのに………? なんで、かからないの……?)」
違和感、と言うよりは、驚愕、と言った方が正しい。
そのくるむの正体は、先にもあったが、夢魔だ。
魅惑といった幻術を操る統べに長けた妖であり、その力には自信も持っている。これまでにも、くるむうは、何度か学園内の生徒に試し続け、学園内に限っては、百発百中の精度にまで向上していたのだ。
だが、この目の前の男は……、《御剣怪斗》という男は、魅惑眼を受けても、考え事? をしているだけで、何もしてこない。
くるむが仕掛けたのは、『あまりの魅力に精神のコントロールが効かず、自分自身に思わず抱きついてしまう』と設定してる魅惑の術。なのに、カイトは一切動く気配が無かった。
始めは、頬を赤くさせて、慌てていたのにも関わらず、今はそういった気配も見えない。
「(……い、いったい、なぜ?? なにが……)」
そのくるむの表情を見たカイトは、直ぐに察した。
彼女にしてみれば、術をかけ続けているのに、全く反応がないのだから、当然といえばそうだろう。
「(あ……、気付いたみたいだな。オレに効いていない事が。 ……うん。まぁ、これだけ時間がかかったら当然かな? ……で、でも 正直 腕のは―――あれだけど………///)」
カイトは、軽く息を吸い込むと……、腕に当たってていた感触は必死に忘却しようとしつつ。
「くるむ………ちゃん、だったかな? さ、早く保健室へ行こう。次の授業も担任にいえば判ってくれるだろう。オレが言っておくよ」
カイトは、そう言うと、呆然としているくるむの手を握り(まだかなり照れくさかったが……)連れて歩き出した。
だが。
「ちょっ ちょっとまって!!」
慌てて、それを止めるのはくるむだ。
「ん? どうかしたのか?」
あくまで、不思議そうにくるむを見つめた。何をされているのか、全て判っているのに、意にも返していないのは、少々やり過ぎたか? とも彼は思っていた。
案の定、くるむからは、疑惑が帰ってきた。
「なんで……何も言わないの? あなた。……あなたは、私が術を使って あなたを操ろうとしてたのわかってるんでしょ……?」
魅惑眼を、何らかの方法で、防いでいるのはカイトだ。相手の精神に直接暗示をかける故に、鈍感だから、とか そういったどこかの漫画でありそうな天然系で、防げる様な術ではない。
だから、くるむは、全て明らかに分かっている筈なのに、その事に関しては、全くといって追求してこないのが不思議だった様だ。
「……ああ、それはそうだな。正しいよ」
困惑しているくるむの方へと、カイトは完全に体を向きなおして説明をした。それらしい理由は必要だろう。……彼女と言うひとを知っていると言う事は別にしても。
「……あれだ。こんな学園だ。他人をいきなり信用できなくて、魅惑眼を使ったのかもしれないだろ? ………まぁ、本気で操ってやろうとしたのかもしれないけど、絶対にそうも言えない。だからとりあえず、最初に言っていた方、『苦しい』って言っていた方を信じてみただけだよ。そこから先は、なる様になれ、って感じだ。……それに」
カイトは、そこまで言うと 笑顔を見せて、くるむに言った。
「それに、君は魅惑眼使わなくたって、十分魅力的だし、そもそも悪い子には見えない、っていうのが一番だ」
「え……、え、え………ッ!!? ……………///」
カイトの言葉に、完全に次に色々と聞こうとしていた言葉を失ったのは、くるむだった。
くるむは数多くの男子生徒を虜にしてきたが、初対面で、ましてや術にかかってない状態の男子にここまで言ってくれたのは初めてだったのだ。
「(みんな、みんな、………かわいい! っとか、胸がっすごい!! っとか言ってるだけであんまり内面を見ているような感じがしなかったけど彼は……、彼は………)」
カイトの言葉には、それだけには思えなかったんだ。
『悪い子には見えない』と言った時、はっきりとそう感じた。
くるむ自身は、別に容姿だけで寄ってきただけだったとしても、悪い気がする訳ではない。そもそも、魅惑眼を利用している時点でお門違いだとも思える。
使い続ける理由は、そうやって数多くの男を魅惑し『運命の人』を見つけることが彼女の最終目的なのだから。だから、身も心も結ばれるのはその後で良かった。我武者羅に、最初は沢山沢山作るつもりだったのだ。その考えが、霧散してしまう気持ちだった。
「(っっ!! だ、だめっ! い、今は、赤夜萌香をやっつける事が重要! と、とりあえずっっ!! 今は、今はっっ!)」
慌てて、精神を整えるくるむ。
彼とはこのままで終わりたくはない。確かに術にはかかってないから、難しいと思える。でも、それでも くるむは、《カイトとはその後ゆっくりと付き合ってみたかった》
もしかしたら、この人が『本当の運命の人』なのかもしれなかったから。
「あ、ああっ、ごっ ごめんね!!? な、何かすっきり治っちゃったみたいだからもう良いよ!! あっ わたし、用事 思い出したからまた後でね!? カイトくんっっ!!」
くるむは、そう言いうとほとんど同時に、まさに脱兎の如く勢いで、この場から姿を消したのだった。
ぽつん―――、と残されたのはカイトだ。
「ん……? んんん。オレ、何か変なこと言ったかな? ……生前も、そうだけど、あんまし女の子と付き合ったこと無いからよくわからん……。教えてくれなかったし…………」
この場にいて、一部始終を目撃している人がいたとしたら、口を揃えていうだろう。
『超鈍感!!』
と。最早それはスキルである事は間違いなく、《当然》なのである。
それに、生憎ここには彼しかおらず、くるむもいない為、誰にも何もツッコミは受ける事は無かった。
そして、その後 カイトも時間を確認して自分の教室へと戻っていくのだった。
ページ上へ戻る