ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第53話 血は人間でしょう?
そして、1日が終わって翌日になる。
大分早い展開だ、と思えるが 昨日のあれは予想以上に濃密な時間だった。
「ううむ… 昨日は、ほんとに酷い目にあった………、今日は大丈夫かな………」
昨日の事を、思い出しながら、深くため息を吐くのはカイトである。
少々重い足取りで 登校していた。
そして暫くしての事。
「おーいっ! カイトーーっ!! おはようっ!」
カイトの背後から、声が聞こえてきた。
随分と聞き覚えのある声であり、正直 カイトにとっては 今は聞きたくない声でもあった。深~く、長~く、ため息をした後にカイトは振り向いた。その顔は、笑顔だったのだが、何処か暗く見える。
月音にとっては、本当に暗く感じていた。笑顔は、笑顔なんですけど……。
「……やあ、 つくね君おはよう。 ……それはそうと、昨日は助けてくれてどうもありがとう……」
確かにお礼を言っている様なのだが、全然そうは見えないのは気のせいじゃないだろう。
完全にお礼? と言う感じじゃ無いのだ。
「うっ…… ごっごめん…… もう許してよ~……」
月音は、もう涙目になってしまった。
どうやら、月音には身に覚えがあった様だ。
カイトがお礼? ではなく………、怒ってるのが。
~昨日 陽海学園~
それは、カイトが盛大に追い掛け回されている時の事。休み時間も無限ではないし、助け舟を出そう。と試みていた。だけど、モカと月音はあまりにも、カイトとその他大勢の女子生徒が、広範囲を走り回るため、手分けして《カイト救出作戦A》を遂行していた。
しかし、運悪く、カイトが逃走している経路は、モカの方ではなく、月音の向かった方ばかりだった為、ただの人間である月音が、女子高生であるとは言え、人間よりは遥かに力のある妖。止められる筈もなく、暴動の女子生徒を止める事等出来ない。
確かにそれは 仕様がない事だ。確かに判る。
だけども、だけど……、追われているカイトの身からすれば、目の前を何度も横切ってるのに、フォローも救いの手も差し伸べず、完全に傍観して楽しんでいる様にも見えたりするのだ。
そして、等々遭遇が、10回目に差し掛かった所、即ち《カイト救出作戦J》にまで突入した所で。
『ちょ、ちょっと皆、落ち着いて………っ』
漸く勇気を出した月音が、女子生徒達とカイトの間に割って入ってきたのだった。
だけど、丁度その瞬間。
《キ~ン~コ~ン~カ~ン~コ~ン~♪》
と休憩時間の終了を告げる鐘の音が、学園に鳴り響いた。正しくは予鈴の鐘の音。
それは、追い駆けっこが終了した証でもある。
『あんっ!! 予鈴だよ……っ!』
『うー、確か次移動教室だったよね??』
『だよー!! もうちょっとでものに出来たかもなのに……』
『カイト君って、ほんと頭も良いし~、更にその上、運動神経もいいなんてぇ…… グフフフ……次は…、次こそは……、ぐふっ、ぐふふふふふ………っ!』
言いながら、女子生徒の集団は割とあっさり解散したのだった。
『え、あ、あれ? あれれ??』
覚悟を決めて、身構えていた月音だったのだが、あっさりと解散した女子生徒たちを見て、拍子抜けだった様だ。いや、心底安堵していたのかもしれない。それなりの暴徒だったから。
『あはは…… 良かった。大丈夫だった? カイト……』
とりあえず、危機は去った、と言う事で、隣で、『ぜぇーぜぇー』と走り続けて息を荒げているカイトに話しかけた。
『つ…つくね!! ……はっ走ってる最中にっ! ……ちらちら! 見えっ…た…』
カイトは、息も絶え絶えだった。
それは当然。確かにギャグっぽいやり取りではあるのだが、当然ながら昼休みも全て消費しオマケに睡魔とも闘っていた(追い回されている時はサスガに忘れていたが)カイトは、体力的というより精神面に深いダメージ!を喰らってたので、本当に予想以上に、息を切らせていたのだ。
『はぁ~はぁ~……すぅぅぅ………、はぁぁ………』
何度か深呼吸を繰り返し、とりあえず息を整えていた。
『だっ だいじょうぶ??』
とりあえず、カイトのその背中をつくねが擦る。
だけど、その返答は。
『……つくね、 お前俺を見捨てたな??? 完全に……』
軽く月音を睨んで話すカイトの姿だった。
『ええっ!? そっ! そんな事無いよ!! だって、あのコ達すごくって……、中々手が出せなくて……』
『いーや! 結構お前とは遭遇したのに!! ってか、何度か目もあった!! でも、手を貸すどころか苦笑しながら見るだけじゃないか!! しかも、最後に止めに入ったのが、予鈴の瞬間、殆ど同時って……、明らかに狙ってんじゃん!!』
痛烈に批判をするカイト。
月音は、本当に別に狙った訳ではないのだ……が、結局の所 実際に見事なタイミングだったから、弁解の余地はない、と言うものだ。
『へう!!』
何も言い返せない月音を見て、更に確信したカイト。
『うっがーーー!!! 寝れなかったし、休み時間も潰れた!! もーー、思い出しただけで腹が立ってきたぞ!!! つくねーーっ、もー、めんどー見てやらんもんね! べんきょーも全部、自分で何とかしろーー!!』
何処か子供染みたやり取りだった。……カイトは、完全に学生気分になってしまっている、と言うのはこちらの話である。
そして、カイトが強く思うのは《ハーレム》について。
生前……、ではなく 前世の世界では、数多の男達にとっては はっきり言って夢だ。楽園だ。……と言うより、実際はありえない空想上、その妄想の世界での出来事と考えていたが。今日体験してみて、心底思った。
『(こんなんはいらん!!! 夢なんかじゃないっ! 悪夢だっっ!!)』
砕蔵の様な男子生徒であれば、問答無用で黙らせる事が出来る! と言うものだけど、生憎女の子に手をあげる様な事は出来ない。
行き場の無い怒りを、抑え……てはない。カイトは、プンプン怒りながら立ち去ろうとした時。
『わーーー カイトっ!!! ゴメンってば!!! まってよーー! テスト、やばいんだって、ほんとっ!! あ、謝る、謝るからーーーっ!!』
月音は、後から追いかけてきたのだ。
正直、男に追いかけられて嬉しい男など、いない。……そっちの気がある者以外は、全然。
『(男のハーレムなんざもっといらん!!)』
と言う訳で、カイトも当然ながら、健全な男子生徒。そっちの気など、有る筈もない。
『やかましーわ! もうこれ以上オレに走らせるなーー! 追いかけてくんなーーーっ』
『ごめん、ごめんってーーーーーー!!』
『うるさーーい!! おいかけてくんなー! 近所迷惑だ!!』
そしてその日の学校の時間、いや 自由時間の全て。月音は、カイトの機嫌取りに精を出したそうな。
と言う訳で、無事に教室に帰ったカイトは、机で突っ伏して寝ていると、やや遅れてモカが帰ってきた。
『あははは…、ほんとに大変だったね~カイト!』
『ううむ……何であんなにパワーがあるの? 女子って……。メチャクチャ疲れた……』
『あはは! まっ、女の子は強いって言うからかな??』
モカは、笑顔で答えた。
流石に月音の様に、モカにまで怒ったりは出来ないだろう。本当に良い笑顔だから。
『ううー……、そういえばモカは何してたのさ…… オレが、リアル鬼ごっこしてる時に……』
机に突っ伏したまま訊く。
確か、逃げる間に遭遇したのは、月音だけだったから、モカの姿はなかった。
『うーん、あのね、あまりにも追いかけっこ範囲が広かったからさ、私とつくね、手分けしてカイトを追いかけてたんだ。でも、私の方は運が悪くてゴメンね! 助けられなかったんだよ』
改めて訊くと、モカも追いかけてくれていた様だ。それも、予鈴が終わって、授業開始直前まで。思い出してみると、確かに、モカは授業遅刻ギリギリで、教室に入ってきた筈だったから。
元々、嘘をつく様にも全然見えない。本当の事としか思えなかったから。
『うう~~』
『ん? どうしたの? カイト』
感慨極まった様で、今まで逃げ回っていたカイトだったが、本当に嬉しくって。
『ありがとなっ!! モカっ!』
そう盛大にお礼と共に、モカに抱きついたのだった。
『ひゃっ、っっ!!?』
モカが小さく声を上げた。
そして、それと同時に、いろんな種類の声が上がる。
『!!!』
月音は、完全驚愕の眼差しでこっちを見ていて。
他の生徒達はと言うと。
『ああああ!!!』
『ちょっとーーー!!!!』
『カイト君!!!!!』
『モカさんを!!!』
『殺す…………っ』
クラス中からも一斉に殺気・怒気が上がったのだ
モカとカイト2人に対して、である。
そして、暫く……、と言っても、カイトは、2~3秒ほどでモカを解放した。
クラスの皆の圧力も、それ相応にあったが、何より冷静になってきたからだ。モカの様に美人で可愛らしく魅力的な女の子に抱きついている、と言う事実が、より一層、カイトに羞恥心を生んだのだ。
『っ……、ごめんごめん……何かうれしくなって。……モカは、月音とは、ぜーんぜん違う。すごい違いようだったからな……………』
そう言って月音の方を、カイトは、キッっと睨んだ。
恥ずかしかったのを誤魔化すつもり、でもあった様だ。
月音は、カイトとモカを見て、暫く驚愕していたが…(主にさっきのハグシーンのせいで)カイトの睨み、視線に気付き、両の手を合掌し謝罪のポーズをとっていた。
『いっいや! いいよ? 別に…驚いただけだから……』
モカは、顔をそらせながら話す。
どうやら、顔が赤くなってるのは、モカも同じだった様だ。……自分から抱きつくのには慣れている様だけど、逆は苦手だった様だ。
だが、それだけではなかった。
『(あ、あれー、な、なんだろ……、何だか、カイト…… 懐かしい感じがした………? き、気のせい?? わ、わかんないよーーー……)』
そう、モカは記憶にない感情があったのだ。
カイトに抱きつかれた時……、まったく覚えていないのだが、その感触に、温もりに、何かを感じたのだった。
でも、そんな事判る筈もないカイトはと言うと、ただただ 黙っているモカを見て。
『(なーんか気まずい……)』
そうとだけしか、考えてなかった。
そこで、話題を変える事にした。
『あ! そーだ。今度さ。お礼はするよ? モカだけは、だけだけど』
『ううーーー、ほんとに、許してよ……』
月音は、更に落ち込む。随分と強調されていた様だから。
『えっ!? ほんとっ??』
考え込み、顔をそらせていたモカが振り返った。
顔を、ぱぁぁぁっと明らめながら。
『ああ! 良いぞ。オレに出来る事なら、なんでもな』
カイトが、そう頷く。……これが失敗だったと知らずに。
モカは、満面の笑みを浮かべて、要求? するのはただ1つだけである。
『じゃ、血を吸わせてっ♪♪ カイトのもっ♪』
と言う事だった。
そう、モカは吸血鬼。十字架に吸血鬼とは、ミスマッチも良い所だが、間違いなく吸血鬼なのである。
欲しいものなど、自ずと決まっていると言うものだ。
『げげっ!!』
そして、対照的に、カイトは一気に血の気が引いていた。
改めて、納得するカイト。
『(そうだった………!! こんな事言ったらこう返されるに決まってんじゃん…)』
後悔先に立たず。と言うものだった。
そして、モカは、血の事に関しては、非常に行動するのが早い。
『じゃ…早速………うふふっ♪』
頬を仄かに、モカの鮮やかな桃色の髪の様に染めながら、迫ってきた。
『(っ!? そ、そうだ!)つくねっ!!』
カイトは、咄嗟に、月音の右手を引っ張って、自分とモカの間に配置。完全に、生贄とする事にしたのだ。
それは、ナイスプレイ! なのである。モカが好きなのは、正真正銘人間の血液なのだから。カイトの事が気になるのは……、恐らく、彼がバグの様な物、前世が人間だから、と言う理由なのだろう。
だけど、完全純血? である月音であれば、十分なのだ。
『え、ええっ!? ちょっ!! か、カイト!?』
『(これで許す!!)』
『ええええ!! そ、そんな……っ、お、オレだって疲れて……』
何とか月音も回避をしようとするのだが。
『あれ? つくねだ? う~ん…………」
素早い動きでつくねを前に出した為、モカにはいきなり月音が、目の前に現れたように見えた。
『さ、モカ。オレのおごりだ! どーぞ! ぜ~ったい美味しいって♪』
『ちょおっ!?おごりって何っっ!?』
当然、生贄に差し出された月音は、狼狽えるのだが、関係ない。大きな貸しがあるから当然の結果である。
『うーーん……、カイトのも欲しかったけどなぁ… っっ!! ああ~、でも、やっぱりつくね……いい香り……えいっ♪ いただきますっっ♡」
香りに誘われて、モカは月音の首筋に かぷっ ちゅうううううぅ~ っと。
『いてええええええぇえぇ!!!』
最終的に、月音の血を差し出して、終了したのだった。
~回想終わり~
「って、回想ながいよ!! それにっ、回想見て? 思い出さいたよ! 確か、カイト、許す!! っていったじゃん! そういえばさ!」
月音が素早く突っ込んできた。
しかし、カイトも負けてはいない。
「んんー? じゃあ、つくね。約1時間だ。昼休みの時間全部、全力で走って逃げ回るのと、モカに抱きつかれるサービス付き、献血程度の血を吸われるの……どっちがしんどいか試してみるか? オレは別に良いぞ??」
カイトは、宛ら見事なまでのクロス・カウンターの如く返した。
「ううーーそっそれは…」
当然、回避する事などできもせず、KO! 月音は、また肩を落としてしまっていた。
それを見て、カイトは堪えきれなくなった様で、大声で笑いだした。
『ははははは! あー面白かった。そうだな。つくね、結構からかって面白かったし、そろそろ許そうかなぁ、……まぁ、友達だし」
カイトが、そう言う……、瞬く間に、月音の表情が明るくなる。
復活が随分と早い気がする。
「やっぱ楽しんでたの?? もう、ひどいやカイト……。 でもよかった!!じゃあ明日の実力テストの事だけど、ここがわからなくて……」
と、月音の要求はよく判った。
だけど、正直 面白さも半減。あっという間に立ち直った月音を見て カイトのとった行動は。
「じゃ!! もう行くわ……」
スタスタスタっと、さっさと先へと歩いて行ったのだ。
完全に無視して。
「ええええっっ! ま、待ってよ~~~!!」
月音は、驚きながらも笑いながらカイトを追いかけたのだった。
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