ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第55話 女の戦い
それは、翌日の登校時の出来事。
「おっはよーー!! つーくねっ♪」
学園への通学路で、丁度つくねを見つけたモカが勢いよくつくねに飛びついた所である。
モカのスキンシップには遠慮は全く無く周囲の視線も気にしないから、男子としては 色々と赤くなってしまうのである。それは、カイトだって例外ではないのだ。
「わーーーー!! び、びっくりした!! モっ モカさん!?」
背中に飛びつかれたつくね。
それは、突然だったし、何より背中に目がついている! 訳のないつくねは、突然のモカのハグ・スキンシップに驚きを隠せられなかった。モカに抱きつかれた事には当然ながら、恥ずかしかったり、嬉しかったりするのだが……、あまりに突然だった為、そこまで意識することが出来なかった様だ。
因みに、もう一度説明をするが……この場所は 《通学路》である。
当然ながら、モカやつくね以外の学生達もいる訳で……。
「ああああ!!」
「カイトって奴の次はあいつかよ!!」
「なんだーー!! あいつといい、カイトといい、一体モカさんとは、どういう関係なんだよ!? 三角関係か??」
とか何とか、騒ぎ立てるのも無理はない。
モカとは、それ程までに輝いている存在(男子にとっては特に)だから。
そして、学生達は全員人間ではなく、妖怪だから……当然ながら人間には到底出せない殺気や怒気を放っている。つまり、つくねは、大注目を受けてしまったのだ。
「(も、モカさんの 行為はスッゴいうれしいけど…この悪寒をとめてぇーーー! 皆の視線が怖い!! 痛いーっ 睨まれるだけで、殺されそう………!!)」
つくねにとっては、周りの空気は最悪なのだが、『殺されそう!』とまで言わしめる程の殺気を向けられたのだが……、今、つくねには それ以上に気になる事があった。
「(でも……、やっぱりモカさんとは、これからも、もっと仲良くなりたい。 ……だから、この学園でやっていくって決めたんだ!! そっそれに! カイトが、カイトが、モカさんを好きになる前に………)」
そう、現在は つくね自身の眼から見たら、カイトのモカを見る視線は友愛、親愛の類。まだ、友達の域である事は、つくねにも判る。(願望が強い)
カイトの事だって、大切な友達だけど……やっぱりモカの事になれば、負けたくない気持ちも強く出てくる。だからこそ、今の内に、……今後についてを必死に考えていたのだった。
そんな何処か甘酸っぱい青春の1ページ。
2人を、不快な視線で見ていた女子生徒がいた。
「(ちっ……何よ! みんなモカモカって!! ……やっぱり! まずは、あの赤夜萌香をやっつけないと… その為にはさっきの男子生徒を………。確か、つくね…だっけ?)
モカへの対抗心を燃やすのは、くるむである。つくねがカイトに対抗心を向けている強さのゆうに10倍はあろう情念を燃やしつつ、今後の対策を練っている時だった。
「やっぱりモカさんって美人だよね~。うんうん。女の私から見ても凄いわ。性格もとってもいいの! この間だってねぇ、クラスの仕事、手伝ってくれたし」
「そうよね! 私も同じ! でも、モカの彼氏ってあのコなのかな? ん~、そう言えば確か、カイト君とも仲良くしてる感じだったし……現時点じゃ判んないよね」
「うわっ! そうなの?? うー、ずっるーーい! カイト君もけっこういい男だよね?? チラッとしか見てないけど! クラスの中じゃ、ダントツって感じ?」
通りすがりの女子生徒同士の会話が、くるむの頭の中にダイレクトで入ってきた。
いつもなら、考え込んでいる最中だから、スルーしそうな程の大きさの会話なのだが……、彼女にとっての重要キーワードが多すぎる事によって、耳にどころか、頭の中に直接入ってきた気分だ。
「なっ……ななっ……!!」
くるむは、その会話を聞いたその次の瞬間。
「なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
烈火の如く、叫び声をあげた。
当然ながら、いきなりの大声に、周りにいた生徒達の視線が一気にくるむへと集中するが、まるで気にする様子はない。
「(さ、さっきのコだけじゃなく、カイト君も!! もう……、もうっ!!)」
くるむは、盛大に眼前にある大き目の石に、足で思い切り踏みつけると。
「赤夜萌香!! ゆっ…ゆるせなーーーーい!! ぜぇーーったい泣かしてやるんだからぁぁ!!」
そう叫びながらつくねの後を追っていったのだった。
高らかに宣言をした後、暫く経っての事。
最初の勢いとは反比例して、息を殺しつつ尾行。周囲に人がいなくなったのを確認するとくるむは行動開始。
入念に? 立てた計画・作戦通りに事を遂行し、見事つくねに魅惑眼の術を仕掛ける事に成功したのだった。
「(やっふふ~♪ 上手くいったっ♪ やーっぱり彼が特別なだけ、なんだね? うんうん、私の術! ちゃんと使えてる!)」
魅惑眼に掛かった男は、例外なく瞳の色が変化する。表情も虚ろになり、一点しか考えられなくなるのだ。……つまり、くるむの事しか考えられない様になる、と言う事だ。
「(わぁ………、とても……綺麗な瞳……。 あ…れ…? このコに、オレ…抱きつきたく……、なってきた……)」
つくねは、意志も行動も、全く逆らう事が出来ず、くるむの身体を、ぎゅーっと抱きしめた。
「キャーーー♪ 何するの~♪」
くるむは、口では 否定しそうな言葉を言っているのだが、口元は完全に笑っており、笑顔の奥には、策士の表情も出てたりしていた。
この辺りから、つくねは現状の異常に気付く。
「(あ…れ? なにやってんだーーーオレ! か、体の制御がまったくきか………っ)」
身体の異常性に気づきながらも、全く逆らう事が出来ず、そのまま くるむの柔らかな身体を抱きしめ続けるのだった。
そんな光景を――見ている者がいた。
いや、意図して見せつけられたのだ。……そう、くるむは モカに見せつける様に、タイミングを計ってつくねに魅惑眼を仕掛けたのだ。
「(うそ……つくね……?)」
モカは、つくねの血をいつも通り? 吸っていたのだが、流石につくねもしんどくなり(献血量程度とは言え、朝から血を抜かれたから)『飲み物扱いしないで~!』と、つくねに言われてしまい、モカは、それを謝ろうとつくねを追ってきたのだ。
カイトにも、『飲み物扱いはダメ』と言われていたのに……と反省の色も出していた。カイトは、笑ったり、誤魔化したりはしても、つくねの様に 思いっきり逃げたりはしなかったから。だから、つくねに 逃げられてしまった時、反省をしたのだろう。
そして、今 この場面をしっかりと見てしまった。
つくねにとって最悪の瞬間を。つくねも――魅惑眼を使われた、とは言え 本命であるモカに見られてしまい、気が動転してしまう。
「な……な…」
魅惑眼の影響だけではない。上手く言葉が出なくなってしまっていた。
モカも、どうしていいか判らない様子で、暫く動く事も何かを言う事も出来なかったのだが。
「ヒヒ…モテるねぇ だが…女には気をつけろよ~ 少年…」
「ひっ!! だれ!!!」
いつの間にか背後に誰かが来た。そのおかげで動く事が出来たのだが……、さしのモカも突然の驚きを隠せられなく、ビクッっとあわてて振り向いてみると。
「ヒヒヒ……なぁに……、ただの通りすがりさ」
その妖しげな人物は、バスの運転手だった。意味深な言葉を残し、彼は 葉巻を吐き出しながら去っていったのだった。
「(も、モカ……さ、さんっっ!! そ、その、オレ……)」
「やっふふ~~。さーつくね君っ! 向こうでお話しようっ♪」
くるむは、ここぞとばかりにつくねの腕を取って自分の腕を絡ませ、まるで恋人の様に……この場を後にするのだった。
モカは、あの運転手のおかげ? で動ける事が出来る様になったのだが、つくねの事を追ったりせず、そのまま教室の方へ戻っていき、力なく教室の前の廊下で壁にもたれかかった。
「まるで…恋人みたいだったな… あんなにくっついて… やだ…、私なんでこんなにショックに……」
この時、モカはつくねの言った、『オレは食料じゃない!』と言う言葉を思い出していた。
「私、何だかダメだな…… 何で血を吸いたくなっちゃうんだろ………。 あ……、もしかして… カイトも…そう思ってるのかな……。血、吸おうとしたんだし……。ぅ…… 自分が分からなくなってきたよ………」
心にズキリッっと痛みを感じながら、1人で必死に考えていた。
大切な友達である事に嘘偽りは無い。だけど、吸血は、吸血鬼にとっては本能の様な物だ。……つまり、つくねの言う通り、食料だと言われても、決して否定はできないんだ。モカにとっては、そんなつもりは無い。……だけど、律する事が出来なかった。
その時だった。
『おい… お前落ち込んでる場合か…… 狙われているぞ』
「え!? なっ何?誰??」
モカは、先ほどと同様に、いきなり声が聞えて一瞬パニックになるが、直ぐにそれは収まる事になる。
「あなた… バンパイアなんですってね? 一部じゃ噂ですよ? 赤夜萌香さん」
声がもう1つ聞こえてきたから。聞き覚えのある声が、階段上から声が聞こえてきたのだ。
そこにいたのは、くるむだ。
「あなた! さっきつくねといた! いつの間にそこに…」
「………」
くるむは、モカの問いに返事をせず、階段下へ飛び降りた。
「うおお! 可憐だ!」
「よっしゃああ! 見えたァァァ!!」
「モカさん以外にこんなコがッ!!」
「胸!! でかーーー!!」
くるむもモカも、男子生徒には絶大なる人気を誇る学園のアイドルだと言っていい存在だ。故に2人が揃う場面に遭遇すれば……、生徒達が湧きに湧くのも無理はないだろう。
だが、いつもなら 視線を集める事に ある種の快感に似たものを感じていたくるむだったのだが、今日は、何処か冷ややかだ。
「(……ふんっ! 男ってやっぱしそんなもんなんだよね! ………やっぱり、あの人だけが、特別……だって事かな)」
周囲の視線に、少し不快感を感じながらも、とりあえず 先ずは目的を果たそう、やる事をやろう、とモカの方へ近付いていった。
「私は夢魔の黒乃胡夢 ―――あなたをやっつけに来たの」
大勢の前で、盛大にカミングアウトするくるむ。
ここまで清々しく、宣言したのは 猫目先生の『ここは、妖怪の為の学園でーーすっ!』と言う話以来初かもしれない。
「え……ちょっと 自分の正体を明かすのは校則違反じゃ………(あ、でも…私もつくねとカイトにバラしちゃったし… でもあれは学校外で…)」
モカもあまりの事に動揺をしてしまうのだが、以前の自分の事を考えて、一瞬矛盾を感じていたのだが、くるむから すかさず追撃が来た為、考えを遮断されてしまう。
「我慢できないのよ! あなたは私の大いなる「計画」の邪魔する最悪に目障りな女だわ!」
モカに敵意を向けたくるむは、指をびしっ と、モカに突き付けた。
それはまるで、某ゲームの『異議あり!!』や、某アニメの『犯人はお前だ!!』の様な勢いとポージングである。
そして、突き付けられた当の本人は何のことか判らず、ただただ困惑する。
「え?? ……計画??」
計画、と言われてもモカ自身には全く身に覚えの無い事だ。それを唐突もなく言われても理解する事が出来ない。
「……わかんない様なら説明したげるわ!」
くるむは、戸惑うモカを見て、にやりと笑うと高らかに計画についてを 説明した。
それはなんと!
《陽海学園ハーレム化計画》
なるものだった。
その壮大なる計画を訊いて、流石の 美少女loveな男子達も若干……、いや、結構引いていた。男子だけでなく、女子もいたから、と言う理由もあるだろう。
「計画は完璧だったのに… すぐに、みんなが私に夢中になるはずだったのに……」
くるむは、最初は笑みさえ浮かべていたのだが、段々、体を震わせていき。
「赤夜萌香ッ!! この学園の男達は私じゃなくあなたに夢中になっちゃったのよ!!! オマケに、入学早々に彼氏2人~っとか噂されちゃって!! (怒) ぜ~~~ったい、許せないわっ!! 私が女の魅力で負けるはず無いのに!!」
くるむは、モカに思いっきり顔を近づけ、至近距離でにらみつけた。
「(逆恨みだ……)」
「(すっげ……、ここまで来たら、ある意味…)」
「(うん……ここまでくると清々しいかも…)」
呆れるを通り越して、感心してしまうのは、周囲である。
その間も、くるむとモカは、火花を散らしながらにらみ合う。……と言うより、くるむがモカに一方的に睨んでいた。
「だから、私はあなたを やっつけて私のほうが優れている事を証明する事にしたのよ! ……そこで、まず! あの青野月音君をあなたから奪う事でね! ……そして、その次は御剣怪斗君っ!!(本命!!)」
「ええええ! そんなっ やめて! つくねとカイトは関係ないじゃない!!」
押されっ放しだったモカだが、流石に自分のせいで、2人が巻き込まれてしまうのは我慢出来なかった様で、関係ない、と言うのだが、くるむの追撃は終わらない。
「さっき、つくね君にも、カイト君にも近付いてみたけど……、彼らってとってもいい香りがするのね? 特につくね君のほう。 ……まるで、人間のように」
くるむの言葉を訊いて、ギクッ!! と、そんな感じの擬音が一瞬聞えたような気がした。間違いない。的中してしまっているのだから。
「あなた、彼の『血』 そんなにおいしい? あなたは彼を「食糧」として利用してるわけだ? それで、カイト君は何!!?? あなたは、カイト君も何かに利用しようとしてるのかしらね? ひっどい女! あははは! 2人を奪られた時のあなたの顔…見物だわ。さいてーな女だもんっ! 直ぐに2人とも 呆れて離れていくわよ」
そこまで言い終えたくるむは、怒りの表情がまた変わり、高らかに笑っていた。
どうやら、既に勝ち? を確信してるように。
「ちがっ… そっそんな…利用だなんて… 私は…」
モカは、自身も今日まさに、気にしていた事を公然と言われてしまった為、モカはかなり動揺してしまった。その時。
教室の扉が、がらっ と開く。
「ふぁぁぁ………。ううーん…うるさいなぁ 何の騒ぎ??(折角追っかけがいないのに………)」
そこからは、眠そうに目を擦っているカイトが顔を出し、そして、更に廊下、モカの後ろからは。
「モカさーーん!!」
走って駆け寄ってくるつくねがいた。
「「!!」」
まさかのタイミングで役者が揃った。言い争いの中心、渦中の人物だと言っていい2人が、殆ど同時に。
「(修羅場)」
「(うん…修羅場だな…)」
周りの生徒が言う通り、まさに修羅場だ。息が詰まりそうになる修羅場、である。
周囲の生徒たちは、なぜこんな空気になってしまったのかは、理解できる。……だが、今まさに遭遇したカイトには、何が起こっているのか判らない。
ただただ、妙に注目されている事と……、明らかに、空気が重くなってしまっているのが判る。嫌でも判ってしまう。
「(………えええ!? な、何、この空気……?? え、えと……モカと、くるむ……? 女の子同士の……いざこざ……?? え、えっと……オレこういうのはちょっと……)」
一瞬で、その空気の悪さを感じ取ったカイトは、死線? ではなく、視線を浴びているのもお構いなく、ジリジリと後ずさりをする。扉をゆっくりと、1mmずつ 閉じようとした時だ。
「モカさん! さっきはゴメン! 急に逃げちゃって…」
やや遅れて場に入ってきたつくねはモカに謝罪をしていた。どうやら、空気を感じ取ってない様だ。モカの後ろから駆け寄ってきたから、と言う理由で。
それを見たカイトは、心の中で軽くガッツポーズをする。
「(っ! よ、良かった! つくねもいる! ここは適任者が一番だ! きっと、全てを収めてくれる(てきとー) よしっ、全部つくねに任せよう! そうしよう!)」
カイトは、この空気にお構いなく、それでも必死に冷静を装いながら。
「あー、眠いなー おー、 つくねじゃんー。まだ、休み時間だしー。授業始まったら起こしてなー。べんきょー見てやったんだしー それくらいしても、罰あたんないってーー(棒)」
言い終えると殆ど同時に、カイトは、扉をパタンッと閉じた。返答を訊いてないのだが――、ちょっと我慢できなかった様子である。
「え?? あ? うん。 わかった。………??(………カイト、 何かいつもと違うくない…?)」
つくねも、きょとんとしていたが、もうカイトは、教室の中へと消え去ってしまった為、訊く事は出来なかった。
そして、見事? 脱出できたカイトは 盛大にため息を吐いていた。
「(こう言うの……女子同士の………って、ほんとダメなんだ。生前も色々と巻き込まれて大変だったから―――。耐性をアップ! なんて、そんなご都合な補助魔法はもって無いし……)」
自分の席にまで戻ると、カイトは安堵の表情を浮かべながら 机に突っ伏すのだった。
因みに、眠たかった、と言うのは本当の事だったのである。
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