宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第三部
名誉と誇り
にじゅうに
前書き
ふはははは!
本編だと思っただろう?
残念だったな!
本編だ!
それでは、第三部どうぞ。
3つのロックオンカーソルが、それぞれの対象に重なる。
それを確認した私はトリガーを引き、それに同期して左肩から連続して蒼白い閃光が放たれる。
その流星は蒼い軌道を残し、間違うことなく1匹の小鬼の頭を吹き飛ばし、コンマ数秒遅れて立て続けに2匹の頭を吹き飛ばす。
最後にプラズマキャスターの餌食になった1匹に至っては、上半身がほとんど無くなっている有り様だった。
光学迷彩はそのままに、私が乗っても折れることのない木の枝の上で立ち上がって残骸を眺める。
ヘルメットの中から喉を鳴らし、私は飛び上がって次の作業場所へと移動を開始する。
ヘルメットから流れてくる生態情報を基に、跳ぶ。
木から木へと。
木から地面へ、地面から木へ。
ひたすらに森の浅い場所で作業を続ける。
次に私の視界に飛び込んできたのは、4本腕の熊であった。
先ほどと同じように、ロックオンカーソルを起動させ、腕、体、頭部と順にロックオン。
蒼白い流星は、寸分違わす4本腕の熊でに吸い込まれていく。
腕を吹き飛ばし、胴体に穴を穿ち、頭部を爆散させる。
そんな、お口を動かすだけの簡単なお仕事です。
正確には、口元に生えてる牙だが。
「取り合えずは、こんなものか?」
あの日から既に1週間が経とうとしている現在。私はほぼ無意味だと分かりつつも、こんな作業を続けている。
狩りではなく、“作業”なのだ。
―
あの日、跡形もなく溶け落ちた名前も知らない男、総隊長と呼ばれていた男のあまりにも呆気なく、予想外な結末に私の思考は一旦停止せざるを得なかった。
何故、ヤツがあれを持っていたのか。
ヤツはそれをそれと知った上であのような行動に出たのか、そもそも自害する必要があったのか、何故、エリステインの命を狙ったのか。
ぐるぐると頭の中で回り出す疑問を一度に解決していくのは困難だ。にも関わらず、忙しなく駆け回るシナプスに、私はまずはと液体の入っていた容器を手に取る。
私の予想が外れていてくれと願いつつも、その予想が当たっていることを確信していた。
ヘルメットがスキャンを開始してその成分を調べ、データを照合していく。
それも僅か2、3秒の内であり、弾き出された結果は“黒”。
悪い意味で私の予想は当たってしまったことになる。
『隠滅用溶解液』
主に、我々種族の中でも特殊な戦闘訓練などを経て、専門的にイレギュラーな事態に対応する者達が利用することが多い。
その尤も足る例を上げれば、掃除屋と呼ばれる“クリーナー”が、その星の原生生物達へ与える影響や、我々の存在を隠滅するために用いられることが多くあり、種類も豊富だ。
今回用いられたものは、炭素系生命体に効力がある溶解液で、ほとんど人体にのみ影響を与えていることから察すると、かなり濃度を薄めて製作されたと考えられた。
ということは、恐らく“人間自害用”として作成し、持たされていた可能性が非常に高い。
そうすると、何故そんなことが必要なのか、そもそも待たせたのは誰なのかと、疑問に思うことが増えていく一方であった。
私は空になった瓶に蓋をし、応急処置キットの中へと放り込む。
地面が若干溶解しているのを確認し、無駄だと思いつつもそれをプラズマキャスターを放って地面を抉り、カモフラージュする。
次に私が撲殺してしまった騎士の死体へと歩みより、左手で首元の鎧を掴んで引きずりながら移動し、同じように気を失っている騎士を右手でもって掴んで引きずる。
「あ、あの……、何を」
そこで私はエリステインがこの場にいることを思い出し、さてどうしたものかと、視線を彼女に固定する。
正直、これから行うことは気持ちの良いものではない。彼女の今後の身の振りを考えれば必要なことではあるが、真面目で少々潔癖のきらいがある彼女は間違いなく難色を示す。
そこで自然に、彼女の身の安全を勘定にいれている自分自身に気付き、ヘルメットの中で苦笑いをする。
こうなることが分かっていたからこそ、いまのいままでヒューマン型の、特に地球人と似かよった容姿の生命体には近付かないように心がけていたのだが……。
しかし、今さら言ったところでもう過去に戻ることはできない。
流石にもう、総隊長と呼ばれた男が持っていた物が何なのか理解し、同族の影が見え隠れしている今、うかうかしていることもできなくなってしまった。
居心地悪げにこちらを見つめ返す、何故だか信用しきっている瞳に呆れ半分と、残りはよく分からない想いがない交ぜになった感情半分を持って、私は両手に持ったモノを地面へと落とす。
「貴様はこれからどうするつもりだ」
「どう、とは?」
「ヤツが言っていたことを聞いていただろう」
そう言って、地面が抉れて土が剥き出しになっている何もない場所を顎で指す。
「何があるかは私には分からないが、恐らく貴様にとって王都とやらに戻っても良いことはないだろう」
それは理解できるだろ?という風に私は彼女を見つめ返す。その無言の問いかけに、彼女の瞳が揺れるのが分かったが、私はそれを無視する。
「……恐らく、ヤツが最後に自ら命を絶った物、あれは私と同じ種族が渡したものだ」
「っ!」
「貴様らのテリトリーで何かが起ころうとしていることは、私にも分かる。そこに私と同じ種族の者が関わっているだろうことも、今回のことで分かった」
しかし、その目的が分からない。
だが、どう好意的に見積もっても、碌なことにならないことだけは分かっていた。
それはいままで、私たち種族が関与して、幸福を得たものがいないからに他ならない。
未発達な文明に対して、我々の技術を渡し、繁栄していった文明もないわけではない。
しかし、それすらも一時的なものに過ぎず、結果的に運良くそうなっただけのことであり、我々種族は都合良く目的を達成するためにその過程で流された痛みになど頓着するようなことはない。結局は自分達にとって、都合良く狩りを行うことができる土壌を整えることに心血を注ぐ、種族単位で自己中心的なだけある。
なんか、物凄く申し訳ない気持ちになってきた……。
「あれか、土下座でもすれば許してくれるってか」
「なんの話ですか!?」
私は何を血迷ったことを口走ったのだろうか。
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
「は、はあ?」
「……それよりも、だ。どうするつもりだ?」
無理矢理に話を戻した私の言葉に、彼女は一度顔を伏せて思案する。
「少し間を空けて、それから王都へ戻ってみようかと思います」
「それに意味はあるのか?」
「それは……分かりません」
ふむ。
最善とは言えないが、決して悪い判断ではないか。
この場で直ぐに私達が行動したとしても、相手の正体と規模、その目的が不明ないまはどうすることも出来ない。
私がこのまま王都へ同行していくという手もあるにはあるが、無策な状況で2人揃って相手のテリトリーに飛び込むリスクは計り知れない。
私の同族がいる、あるいは何かしらの形で技術提供をしているのは確定的である。
そうなれば、私の持つ技術的なアドバンテージはかなり薄れてしまう。しかも、少なくとも相手はこの国の中核に食い込んでいる可能性すらあるのだから、それを隠れ蓑に何の後ろ楯も持たない私を一蹴しようともするだろう。
「……あの男、総隊長と言ったか。ヤツはこの国でどれ程の権力を持っていたか分かるか?」
「彼の名はフレデリック・バーン・スタインと言って、スタイン子爵領の当主になります」
「あの若さでか?」
「総隊長……スタイン子爵の前当主とその奥様は、3年前に流行り病で亡くなっています。その頃、既にスタイン子爵は騎士団の総隊長を務めてましたから、基本領地経営は文官に任せていたはずです。それでも悪い噂は聞いたことはありませんし、それも合わせて中央からの覚えも良かったと思います」
なるほど。
場合にもよるが、子爵と言えば下級の爵位で、男爵の上にあったと記憶している。
しかし、この3年の間に領地経営も問題なく行い、かつ騎士団を率いていたともなれば、上からの覚えが良かったのも納得だ。
となると、スタインを懐柔したのはそれよりも上の立場の者と考えるのが普通か。
力のある豪商や宮仕えの者である可能性もあるが、それならまだマシな方と言える。
しかし、一番面倒なパターンであれば、宗教関係やアングラな団体といったところか……。
スタインと同じ貴族階級や宗教関係の場合、あーだこーだと策謀を巡らせて、最悪国を巻き込み国家単位で相手をしなければならない可能性もある。
アングラな組織や団体であった場合、まず探し出すまでにそれ相応の時間を掛け、探し出してからも精細な情報を集める必要が出てくる。
七面倒なことこの上ないが、この辺りも今度エリステインから聞く必要があるな。
それならばある程度の冷却期間を置いている間に、向こうから何かしらのアクションがある可能性もあり、手掛かりの一つくらい手に入るかもしれない。
相手さんにも言えることだが、こちらも色々と準備をすることができる。
どちらにせよ、後手後手に回ってしまうのだったら、いまは準備期間としてある程度距離を置いた方が賢明と言えるかもしれない。
まあ、そんなに簡単にことが運ぶとは思えないが……。
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