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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第三部
名誉と誇り
  にじゅうさん

 エリステインの考えも分かり、スタインが何者であるかが分かったため、いま自身がすべきことを取り合えず行うことにしよう。
 そのため、エリステインの言葉に了解を示し、冷却期間を置いてこちらも備えることを伝えておくと、彼女もそれには賛成の意を示した。

「備えるって、何を備えればいいのでしょうか?」
「貴様が生存していることは、伝わっているのか?」

 質問を質問で返すようで申し訳ないが、これは念のため確かめる必要がある。

「はい。村へ戻った際に何名か残っている部下に伝えましたから」

 あの虐殺の場にいたのは、スタインの部下達で彼女の部下は1人もいなかったとのことだ。
 わざわざ非番の日に森の深くまで訪れるような奇特な輩など、そうそう居ないだろう。

 やっぱりこの子、少しおかしいんじゃないかな……。

 部下といえば、背中を切られた彼女の部下であるが。さて、どうしたものか。
 いまから私がやろうとしていることは、罵倒されても仕方のないことで、それを何の罪もない彼女の部下に行うのは流石の私でも良心が痛む。

「あそこの男はどうする?」

 そう言った視線の先、倒れ伏す彼女の部下をどうするか、私は彼女の判断に任せることにする。親兄弟、結婚でもしていれば、それなりにやらなければならないことはあるだろう。

「彼は、私が連れて帰ります」

 どうせ助力を求められるのだ。私は頷きで承知して、再度地面に放りっぱなしの2つの死体を両手にぶら下げる。

「あの、その遺体をどうするつもりですか?」

 何か良くないことを想像しているのが、手に取るように分かる。

「安心しろ。食べたりしない」
「当たり前です!」

 軽口に付き合えるだけ重畳。

 私は顎で自身の左肩を指して、アームを動かす。

「吹き飛ばすんだよ、頭を」

 この世の終わりのような顔で私を凝視するエリステイン。

「すぐに終わる。ここにいろ」

 それを無視して、私は両手に持ったモノを引きずって森へと歩いていく。

「まっ待って! 待ってください!」

 振り向いて、彼女が私に追い付くのを待つ。

「踵が……」などと言って多少歩きづらそうにしているが、あの瞬間、エリステインは鈍器だったのだ。そう、確かに彼女は鈍器だった。こう、手にぴったりと収まる、なんか良い感じの木の棒的な。小学生の頃とか、それを振り回してなんとかクエストの勇者的な感じで。

「……オオ ユウシャ ヨ シン デ シマウト ハ ナサケナイ」
「やめてください!」

 首があらぬ方向へ曲がってしまっている騎士であったものを、眼前でぶらぶらさせながら呟く私を彼女は叱責する。「不謹慎過ぎます……」と、なんだかとっても不満そうだ。

 確かに!







 森の浅い場所。

 数メートル戻れば、そこはすぐに森と平野との境界である。

 そこまで連れてきた騎士の遺体と、いまだ気を失っている騎士。

 私は適当なところに遺体を置き、プラズマキャスターの照準を合わせると、トリガーを押して頭を吹き飛ばす。
 頭蓋骨が弾ける音と、内容物が飛び散る音。そして、既に物言わぬ遺体に更に鞭を打つ光景に、エリステインも目を背ける。

「……起こすか」

 時おり小さな呻き声を上げる騎士を持ち上げて言う私に、エリステインは眉を寄せて見上げてくる。

「なんだ?」

 責めているつもりは無いが、私の声色は決して機嫌の良いものではない。
 必要なことであると、自分自身納得して行っている行為ではあるが、好き好んでこんな外道な行いをするほど落ちぶれてなどいない。いくら狩猟大好き、戦うの大好きな我々種族であっても、こんな行為は掟や名誉に反する行為であると言ってもいい。
 狩りと戦闘、掟や名誉そのどちらも重きを置いていない私からしてみれば、その想いはひとしおだ。

「……これは本当に必要なことなんですか?」

 そんな私の感情の全ては分からずとも、その声からある程度は読み取ったのだろう。
 彼女は目を伏せ、おずおずと私に問いかけてくる。

「時間稼ぎにもなるか分からんが、念のためだ」

 そう言って、私は持ち上げていた騎士を一度地面へ下ろす。

(ホブ)きな小鬼(ゴブリン)だったか。あの洞窟内で起こっていたことは、全て報告しているのだろ?」
「……はい」
「であれば、同じような死体が転がっていれば、向こうが勝手に色々と推理してくれるだろうよ」

 恐らく、生き残って村へと戻っていたスタインは、面白生物(ガミュジュ)のことも上に報告をしている筈である。
 多少死因は異なるが、頭部がないのは同じだ。あとは報告を受けたものが洞窟内、面白生物(ガミュジュ)、今回の犯人を勝手に紐付けてくれるだろう。
 スタインに関しては、これは遺体すら存在しないのだからどうしようもない。向こうが邪推してくれれば儲けものといったところか。
 あとは、私の船とは反対方向へと自然に誘導するように、この森の生物の死体で道しるべを作ってやればいい。
 かなり単純な工作ではあるが、多少の時間は稼げる。何故ならば、騎士団の総隊長と呼ばれたスタインを含め、混沌獣(ペルトゥール)すら殺した生物がこの広い森林内を闊歩している可能性があるのだから。

 私はそのように彼女に告げて、再度男を持ち上げる。

「でも、うまくいくのでしょうか……」
「うまくいかなくても、それはそれで構わない。それ自体が目的ではないからな」

 そう、誘導することが目的ではないのだ。
 そこに引っ掛かって貰えれば御の字。ある程度の時間稼ぎと、相手がどのような行動にでるのかが、一番重要でなのである。
 もし、我々種族と接触を持っているこの国の者が耳にすれば、当然、同族の耳にも入ることだろう。うまくそいつが引っ掛かれば良し。というか、そんな生き物がこの森にいるのに、行動しない同族はいないと私は考えていた。
 合わせて、もし同族が動けば、それを成したのが同族であると相手も気が付くはずだ。
 最悪な事態としては、既にそれが露呈しており、対策を立てられていることであるが、そうなってしまったらもう、真っ正面から迎え撃つほかない。

 その際にエリステインを守りながら戦えるのか、という難題はあるが……。

 その問題は、私が彼女にこちら側の装備を持たせ、ある程度の対抗手段を備えてやればいい。

 もうなんだか、この地に降り立ったときと大分軌道が変わってしまって、修正が掛けられないところまでハマってしまった感がある。

 もうヤダ。お家帰りたい……。

「そういう訳だ。同族がこの件に絡んでいる可能性がある以上、こちらにもそれなりの時間が必要だ」
「そう……ですか。でも、それだとあなたに全ての疑いが掛かることにもなりますよ?」
「それについては仕方のないことだ。そもそも私は人族(ヒューマン)ですらないのだからな……。だから私がやることに納得しろ、とは言わん。……割り切れ。生き残りたいならばな」

 そう言って、話はここまでと私は暗に仄めかして、手に持った男を揺する。

 さあ起きろ。

 今すぐ起きろ、シャキッと起きろ。

 プレートメイルのガシャガシャと鳴る音に紛れて、男が呻き声を上げる。
 不快そうに眉間に皺を寄せ、ひく付く瞼。その様子に、私は覚醒が近いことを察して更に腕に力を込める。
 より一層大きく、プレートメイルが鳴り響き、男はハッとした様子で瞳を開ける。

「んなっ! なんだぁ?!」
「良い夢は見られたか?」

 揺らすのをやめ、ズイッと顔を近付ける。

「うひゃぁああ!」
「失礼なヤツだ」

 顔面を蒼白にし、涙目で私を見返す瞳には、ありありと恐怖の色が見て取れた。更に辺りを見回して、ここが森の中で、かつ味方の1人もいないと分かるや、その体全体から絶望が滲み出してきた。

「それで。何故、彼女の命を狙った」

 まるで子供のように震える男に、私は猶予を与えることなく問いかける。

「し、知らねぇ! おおお俺はただ、スタイン総隊長に命令されて……。う、嘘じゃない! 信じてくれ!」
「……ヤツを支援しているのは誰だ」
「知らない!」

 私は男によく見えるよう、プラズマキャスターを一発、手頃な木へと打ち込む。
 無惨に幹に穴を空け、横倒しになるその木を認めた男は、私の左肩にどんなものが乗っているのか理解できたことだろう。
 バキバキと音を立てながら倒れていく木を凝視し、男は壊れた蛇口のように股間を濡らす。

「本当だっ! 本当に知らないんだ! この女を殺せば報酬は弾むって、騎士隊の幹部に推薦してやるって! それで、それで……」
「下種が……っ!」

 憤怒の声を漏らしたのは、エリステインであった。
 確かに、そんなことで殺されそうになっては幾つ命があっても足りない。
 間違いなく、この男の知らない、もっと上の存在からスタインが請け負った仕事なのだろう。
 しかし、この国は目立った争いもく、平時であれば軍に所属する兵などは武勲を上げることが難しい。それはつまり、なかなか出世ができないと言うことに繋がり、自然、給料も上がらない。
 ある程度の野心がある者であれば、そんな甘い言葉にもコロッと騙されてしまうのは、避けられない。

 正直、理解など微塵もできないが、これも長く続いた平和の弊害かと思う。国からみればミリ単位の戦争というものかもしれない。

「本当に知らないんだな?」
「本当だ、俺はなにも知らない! 知らないんだよ!」

 スタインが言っていたことは本当だった訳か。

 まあ、あまり期待はしていなかったが。

 涙と唾液を垂れ流し、震えながら必死に命乞いをしている男から手を離す。
 地面に強く尻を打った男は、小さく短い悲鳴を上げて後ずさり、余りにも無様なその姿を視界に納めながら、私もエリステインも微動だせずに男を見下ろす。

 もう、この男に用はない。
 私はエリステインの肩に手を回して、船へ戻るように促して、私も男から視線を切る。

 踵を返して森へと進んでいく姿に、男は見逃されたとでも思ったのだろう。一目散に森の切れ目へと走り出した。

 同時、私の左肩アームが動き、適当な位置まで走らせた男目掛けてプラズマキャスターを放つ。

 その音に反応したエリステインの肩がビクリと揺れたが、彼女が振り向くことはなかった。

私はそれをに反応を示すことなく、確かな手応えを感じたまま歩みを進めた。
  
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