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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第43話空を飛ぶのは案外簡単


アリーside

2025年1月21日、シルフ領・《スイルベーン》

もうすぐリーファちゃんが言った待ち合わせ時間、私達《リトルギガント》は3分ほど前にログインしてきた。竜くんーーーライリュウくんもついさっきログインしてきた。彼のステータスはSAOの時と同じだったらしく、戦闘には差し支えないと本人は言っていたけど、それだと運営にチートキャラだと見なされアカウントを削除される可能性も否定出来ないため最低でも文字化けして使えないアイテムを捨てる事にした。思い出深いアイテムもあったらしく、相当悩んだ末に文字化けしなかった物以外を捨てたから、結構へこんでたなぁーーー

「大丈夫・・・?」

「ああ、幸い《ドラゴンビート》と昔の写真データは生き残ってたから・・・ギリ大丈夫」

《ドラゴンビート》というのは、SAOクリアまでライリュウくんが愛用していた両手剣らしい。その剣を作った鉱石は、SAO時代に《リトルギガント》が倒したイベントボスからドロップした物だった。それを鍛冶屋のリズさんに頼んで強化してもらったのが、《ドラゴンビート》ーーーそんな中、待ち合わせ場所のこの酒場に金髪ポニーテールの《シルフ》の女性プレイヤー、リーファちゃんが入ってきた。それと間髪入れずに、キリトくんもログインしてきた。

「・・・やあ、みんな早いな」

「ようキリト!」

「俺達もさっきインしてきたところだ」

「オレもそこまで経ってないな」

「キリト!早くユイちゃんに会わせてくれや~!」

「キャンディ落ち着いて・・・」

「あたしもさっき来たとこ。ちょっと買い物してたの」

キリトくんの挨拶から始まって、ライト、ミスト、ライリュウくん、ユイちゃんに会いたくてウズウズしてるキャンディ、私、リーファちゃんの順に軽く挨拶をした。買い物かーーー私は《ウンディーネ》だから回復魔法は使えるけど、回復アイテムもしっかり補充しとかないと。

「俺も色々準備しないと。()()()じゃ頼りないし・・・」

「オレも装備揃えないとなぁ・・・この両手剣、全然しっくり来ない」

そういえばキリトくんもライリュウくんも昨日ALO始めたんだよね。それなら装備も初期の物だから、ステータスが高くても《世界樹》まで行くのに困るよね。

「うん。じゃあみんなで武器屋に行こっか。お金どのくらい持ってるの?」

まずは二人の装備を揃えるためにみんなで武器屋に行く事にした。二人はシステムウィンドウを開き、所持金を確認し始めた。ALOの通貨は《ユルド》となっている。二人はその《ユルド》の表示を見てーーー顔を少し青く染めた。もしかしたらSAOの所持金がALOの所持金に還元されているのかも。キリトくんは左胸のポケットに入っているユイちゃんを起こし、出発を伝える。その時キャンディがユイちゃんに飛び掛かろうとしたので、私はそれを阻止する。キャンディってこんなに子供好きだったのねーーー




******




装備を揃えるため武器屋を見に来てから約30分。ライリュウくんもキリトくんも気に入った物が見つかったらしく、早速装備している。キリトくんの装備は、SAO時代に装備していた《コート・オブ・ミッドナイト》という装備を上と下に分けたようだってライリュウくんが言っていた。武器はーーー重くて大きくて、さらに分厚い片手剣、《ブラックプレート》を背中に背負っていた。失礼だと思うけれど、少し吹いてしまった。

「ブハハハハ!相変わらずの黒ずくめ(ブラッキー)だなキリト!!」

「うるせぇよ。お前だって相変わらずドラゴン意識か?《隻竜》殿」

失礼とは思ってないのか、ライリュウくんはキリトくんを小バカにしているように大笑いしている。ところで《隻竜》ってなんだろう?
因みにライリュウくんの装備は右袖がなく、左の袖が長袖になっている薄手の動きやすい鎧。色は赤黒く、左肩にはドラゴンの頭部のようなショルダーアーマーが装着されている。武器は紫色の両手剣、《ドラグヴァンディル》。最初は《ドラゴンビート》を使えばよかったんじゃないかって思ったけど、よく考えたらあれはALOの武器じゃないからあんまり使わない方がいいんだね。それにしても、竜くんやっぱりカッコいいなぁーーー

「アリー!空飛んでくからあの塔に登るってさー!」

「はっ!ごめんなさい、今行く!」

自分の世界って怖いなぁ。周りの声が全くと言っていいほど聞こえなくなるんだからーーー私、顔赤くなってないよね?

「しっかりせーや、恋する乙女♪」

「ふぇっ!?////」

赤くなってた!キャンディにバレてた!今ので絶対もっと顔が赤くなってる気がする、今ので竜くんにおかしな物を見るような目で見られてーーーそんな心配はないみたいだった。ライトに飛び方を教えてもらってるライリュウくんを見ると、変な心配をしていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
空を飛ぶのに塔の上に登るのは、《世界樹》までの長距離を飛ぶから、高度を稼ぐために塔のてっぺんから出発するのが一番得策。早速みんなで塔の中のリフトに乗り込み、てっぺんまでーーー

「リーファ!」

『ん?』

「む・・・」

後ろから突然リーファちゃんに声をかけるプレイヤーが現れた。緑色の長髪を後ろに束ね、リング状の冠を被った《シルフ》の男性プレイヤー、シグルド。そしてそのパーティの同じく《シルフ》の男性プレイヤー二人だった。
彼は種族の政治とかに真面目に取り組む重役のプレイヤーでもある。でも、私達はこの人の事があまり好きじゃないーーー

「こんにちは、シグルド」

「パーティから抜ける気なのか?リーファ」

「うん。まあね・・・」

「残りのメンバーに迷惑が掛かるとは思わないか?」

「パーティに参加するのは都合の付く時だけで、いつでも抜けていいって約束だったでしょ?」

「だがお前は俺のパーティの一員として既に名が通っている。理由もなく抜けられては、こちらの面子に関わる」

シグルドさんは、パーティメンバーをアイテムのように認識しているような節がある。それが気に入らない。
この場に威圧による静寂が訪れる。どうにかこの空気を変えようと思っても、シグルドさんに抗言するような人物は、《シルフ》には一人もーーー

「仲間はアイテムじゃないぜ・・・」

「一人抜けて悪影響受けるような面子ってなんなんだよ?」

いた。《シルフ》じゃないけど、このSAO生還者(サバイバー)の二人の英雄の《スプリガン》、キリトくんとライリュウくんがいたーーー

「なんだと?」

「他のプレイヤーをアンタの大事な剣や鎧みたいに、装備にロックしておく事は出来ないって言ったのさ」

「メンバーが一人抜けたなら、そいつの分も働けばいいだけだろ?一人抜けたら困る面子(ツラ)なら、懐にでもしまっとけよ」

「貴様ら・・・」

二人がシグルドさんにそう言ったら、彼は腰に差してある剣に手を掛けた。

「クズあさいの《スプリガン》風情が付け上がるな!どうせ領地を追放されたレネゲイドだろうが!」

私達がこの人の事が嫌いなもう一つの理由、それは他種族を自分達より格下だと見下しているところ。私とキャンディとミストがシルフ領にお世話になる時にも、このシグルドさんは「レネゲイドのお前達を飼ってやるんだ、ありがたく思え」って言われたのは流石にすごく腹が立った。だから今、竜くんをバカにしているこの男を許すような思考は持ち合わせていない。

「失礼な事言わないで!彼らはあたしの新しいパーティメンバーよ!」

「何!?リーファ!お前も領地を捨てて、レネゲイドになる気なのか!」

「・・・ええ、そうよ!あたし、ここを出るわ!」

「悪いなシグルド、オレもシルフ領抜けるわ。アンタのやり方見てると、ずっと吐き気がしてたんだ」

「俺もそうしよう。アンタの理屈では、クズあさいの《スプリガン》風情は要らないんだろ?」

「ウチらもサヨナラや」

「長い間大変お世話になりました。このご恩は5分ほどは忘れません」

リーファちゃんのレネゲイド化宣言により、ライト、ミスト、キャンディに私は溜まってた感情を吐き出し、シルフ領とはサヨナラする事を伝える。そしたらシグルドさんーーーシグルドはついに剣を抜く。

「小虫が這い回るぐらいは捨て置こうかと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎたな。ノコノコと他種族の領地に入ってくるからには、斬られても文句は言わんだろうな・・・?」

小虫ーーーそろそろ本気でこの人の事をひっぱたいてやりたくなってきた。私も女の子だからそんな乱暴な事したくないけどーーー好きな人の事をここまで悪く言われたら、流石に仕方ないよね。そう思っていたらーーー

「フゥ・・・」

「うっわ、ビックリするぐらい小物wwwww」

キリトくんは溜め息をつき、ライリュウくんはシグルドのあまりの小物っぷりに口に手を当てて隠す気もない笑い声を挙げている。その態度が勘に触ったのか、シグルドは剣を強く握る。

「今はヤバイっすよシグさん。こんな一目のある所で、無抵抗の相手をキルしたら・・・」

シグルドの右隣に立っている青いバンダナを頭に巻いた《シルフ》の男がシグルドにそう言い、シグルドが周りのプレイヤー達を見回す。システム的にはおかしくないけれど、流石に全く抵抗していない相手をPKしたら、シグルドの立場が危うくなる。その事に気づいたシグルドは舌打ちをして剣を鞘にしまう。

「精々外では逃げ隠れる事だなリーファ、ライト。今俺を裏切れば、近い内に必ず後悔する事になるぞ・・・」

「オレに至っては、元々アンタのパーティじゃないんだけどな」

シグルドとライトがそう会話を交わし、シグルドは二人の仲間を引き連れてこの塔を去った。

「ゴメンね、妙な事に巻き込んじゃって・・・」

「本当にスマン」

「いや、オレとキリトは別にいいけど・・・」

「いいのか?領地を捨てるって・・・」

『あぁ~・・・』

リーファちゃんとライトの謝罪にライリュウくんとキリトくんが、領地を捨てていいのかと聞いてきたため、少し返答に困ってしまう。それからリーファちゃんは二人の背中を押して、リフトに乗らせる。私達も当然ついていく。さて、あの絶景を見に行きますかーーー




******




塔を登って、そこから見えた景色はーーー

「すごい眺めだな・・・空が近い、手が届きそうだ!」

「ホントにすげぇよ!こんな景色、VR世界じゃないと見れねぇよ!まさしく絶景だなぁ!」

手が届きそうな青い空、白い雲、風にたなびく緑の草原。キリトくんもライリュウくんも大絶賛、私も好きな景色なんだよねーーー

「でしょ?この空を見てると、ちっちゃく思えるよね。色んな事が・・・」

そうリーファちゃんが言い、空に手を伸ばしーーーその空を掴もうとするように手を広げる。

「いい切っ掛けだった、いつかここを出ていこうと思ってたの」

「オレもだ。なんつーか、どうしても大組織みたいなのは苦手でな。本当に信頼出来る奴数人でいいんだ」

「そうか、でも、なんだか喧嘩別れみたいな形にさせちゃって・・・」

「別れとしちゃあ、アレはどうかと思ったけど・・・」

「どっちにしろ穏便には抜けられないさ・・・」

リーファちゃんとライトは、元々いつかシルフ領を抜けるつもりだったらしく、丁度よかったらしい。キリトくんとライリュウくんがシチュエーションがどうだったかと言って、ミストがフォローを入れる。

「なぁ、レネゲイドってなんなんだ?」

「領地を捨てたプレイヤーはレネゲイド・・・脱領者と呼ばれ、蔑まれているそうだ」

「なんでキリトが知ってんだ?」

「ウチらが教えたんや」

「そっか、だからみんな種族バラバラだったのか」

ライリュウくんの質問にキリトくんが答え、彼がそれを知っている理由をキャンディが話す。ライリュウくんもシルフ領に《シルフ》じゃない私とキャンディとミストがいる理由を理解したようだった。

「よかったのか?」

「うん、それはよかったんだけど・・・」

キリトくんの問いにリーファちゃんがそう答え、少し浮かない顔を見せるーーー

「なんでああやって、縛ったり縛られたりしたがるのかな?せっかく羽があるのにね・・・」

この世界は妖精の世界。妖精にはいかなる物にも縛られる事のない、自由な羽がある。その自由を縛る組織という物は羽ばたく事を許さない。だったら、この羽にはなんの意味があるのだろうーーー

「複雑ですね、人間は」

「ユイちゃん」

今までキリトくんの胸ポケットの中でおとなしくしていたユイちゃんが突然ポケットの中から出てきて、キリトくんの右肩に乗る。

「人を求める心を、あんな風に表現する心理は理解出来ません」

「求める?」

「・・・つまり?」

「私なら・・・」

ユイちゃんの言葉にリーファちゃんとライリュウくんが反応し、ユイちゃんがーーーキリトくんの右頬にチュッとキスをする。私達はそれに少し驚いてしまう。キャンディに至っては少し気絶しかけていた。

「こうします♪とてもシンプルで明確です!」

人を求める気持ちを伝えるのがーーーキス?確かに恋愛感情を表現するならそれが一番効果的だけどーーーそれすごく勇気がいるんだよ?

「す、すごいAIね・・・《プライベートピクシー》ってみんなそうなの・・・?」

「こいつは特にヘンなんだよ・・・」

「キリト・・・一発殴ってええか?」

「嫌ですけど!?」

キリトくんは恥ずかしさからなのか、ユイちゃんを胸ポケットに強引にしまい、何故かキャンディの怒りを買ってしまった。
実は昨日、キリトくんからユイちゃんとの関係を教えてもらった。SAOであの《血盟騎士団》副団長のアスナさんと結婚して、アインクラッド第22層の村の外れに家を買い、そこに住んでいたそうだった。そしてある日突然、森の中で道に迷っていたユイちゃんを保護した。あの子の正体はSAOプレイヤーの精神ケアを行う人工知能、《メンタルヘルスカウンセリングプログラム》。保護した時は記憶をなくし、精神年齢が赤ちゃんのようだったので、二人をパパとママと呼んでいた。キリトくんとアスナさん、そしてユイちゃんは血の繋がり、人間かAIかも関係なく、SAOで素敵な家族になった。

「リーファちゃーん!」

「あ、レコン」

「誰だアレ?」

「《シルフ》のレコンだ。リーファの現実(リアル)の友達らしい」

塔のリフトからリーファちゃんの名前を叫ぶ声が響いた。緑色のショートヘアーで、小柄な《シルフ》の少年、レコン。昨日酒場に向かう途中で会ったけどーーーライリュウくんはライトにツボを押されて寝てたから知らなかったんだよね。そのレコンくんが「酷いよー!」と叫びながらこちらへ駆け寄ってくる。

「一言声掛けてから出発してもいいじゃない!」

「ゴメーン、忘れてた」

「見送りに来てくれたの?」

完全にリーファちゃんに忘れられてたレコンくん。私は見送りに来てくれたのかと聞いたら、「そうじゃないです」と速答された。リーファちゃんがパーティを抜けたと聞いたレコンくんがそれを確かめに来て、その場の勢い半分だけどねとリーファちゃんが答える。レコンくんに「あんたはどうするの?」とリーファちゃんが聞いて、レコンくんが「決まってるじゃない!」と言って腰の後ろの鞘に納めている短剣を抜き、空に掲げーーー

「この剣は、リーファちゃんだけに捧げてるんだから!」

「えぇ~、別に要らな~い・・・」

「なんだその剣、ナマクラじゃねーか」

「なんて事言うんですか!」

決意表明をリーファちゃんがバッサリと切り捨て、ライリュウくんがレコンくんの剣をナマクラ扱いして、レコンくんがそれに怒る。
ライリュウくんはSAOで色々なモンスターや武器を見てきたからそう思うだろうけどーーーそれとこれとは話が別だよ?今のレコンくんのセリフ、私一度でいいから言われてみたいよーーー
























『この剣は、亜利沙だけに捧げてるんだからな!!」

『竜くん・・・!!/////』
























「はうっ!?/////」

「アリーお前いきなりどうした!?」

なんて事を想像してしまったのかしらーーーいや、これ最早妄想でしかないよ。考えただけで恥ずかしい!/////

「暫く中立域にいると思うから、何かあったらメールでね!」

「アリー、出発だってよ」

「え!?あ、うん・・・!」

どうしよう、変な妄想のせいで全く話を聞いてなかった。おまけにキャンディがすごいニヤニヤ顔で私を見てる。何があったのか聞こうとしたらーーー「それなら何妄想してたのか教えてくれはる?」って言うに違いない。多分私が知る(すべ)はないと思う。
私達は飛び立つために背中に各々の羽を出す。リーファちゃんとライトは緑。キャンディは赤。私は水色。ライリュウくんとキリトくんとミストは黒の羽を羽ばたかせる。背中に仮想の骨と筋肉があると想定して、力強く、早く羽ばたく。これが左手で補助コントローラーを操作する以外の飛行方法、随意飛行のやり方ーーーアレ?そういえばライリュウくん、まだ一度も飛んだ事なかったよね?さっきライトに教えてもらってたけどーーー大丈夫かな?

「ライリュウくん、飛び方分かる?」

「おう、ようするに・・・」

私の質問にライリュウくんはそっけなく返答し、塔から飛び出してーーーえ!?

「こういう事だろ!」

『えぇーーー!?』

飛んでいる。それも補助コントローラーもなしに随意飛行で、完璧に。私ALOを始めて4ヶ月になってからやっと飛べるようになったのにーーー

「空を飛ぶのって、案外簡単なんだなーーーー!!」

彼のゲーマーとしての才能(センス)が恐ろしいーーー
 
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