英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~帝都への帰還~前篇
―――リベル=アーク崩壊より1ヶ月後――――
グランセル城での祝賀会の後、エステル達を始めとする仲間達がそれぞれ王都を去った頃……帝国大使館にオリビエこと、オリヴァルト・ライゼ・アルノールの姿があった。
~エレボニア大使館・執務室~
「ま、まさか君が……い、いや!あなた様がオリヴァルト皇子殿下であらせられたとは………」
執務室でオリビエと対面して座っているエレボニア大使――ダヴィル大使は驚いた表情でオリビエを見ていた。
「フフ、庶出の私の顔ごとき覚えてなくても無理はないさ。滅多に宮廷に顔も出さなければ社交界に出る訳でもない……少なくとも、出世の役に全く立ちそうもないからねぇ。」
驚いているダヴィルにオリビエは口元に笑みを浮かべて説明をした後、いつもの陽気な様子で答えた。
「は……はは……お戯れを……」
「ハハ、そう恐縮することはない。それどころか大使には大いに感謝したいくらいさ。『少しは帝国人らしくしたまえ』『遊び呆けてないで帰国して働け』だの、
色々と忠告してくださったからねぇ。」
「!い”っ………!そ、それはその……!」
笑いながら言ったオリビエの言葉を聞いたダヴィルはオリビエの正体を知らずに忠告していた過去を思い出し、顔を青褪めさせ、焦りながら言い訳を考えていた。
「……皇子、そのくらいで。大使殿はあくまで常識的な対応をなさっただけでしょう。むしろ隠していた我々の方こそ責められても仕方ありますまい。」
ダヴィルの様子を見たオリビエの横に控えていたミュラーは静かな口調で言った。
「ミュ、ミュラー君。」
「フフ、確かに……ここらで勘弁してあげようか。実際、この一月あまり、貴方は本当に良くやってくれた。」
「えっ……!」
オリビエの話を聞いたダヴィルは驚いてオリビエを見た。
「本国との線密な連携、在留帝国人の安否の確認、国際定期船の運航再開への協力。その他、多岐にわたる案件をよくぞこなしてくれた。本当にご苦労だったね。」
「も、もったいないお言葉……殿下こそ、危険極まる視察、本当にお疲れ様でございました。どうやら此度の一件は本国でも相当な騒ぎになっていた様子。
今では危機が去った事が伝わり皆、安堵に包まれているとか……それもこれも全て殿下のご英断の賜物でしょう。」
「はは……今更おだてる必要はないさ。私はただ、自分が出来る事をやっただけにすぎない。しかも自分の力でではなく、周りの状況を利用する形でね。こう言ってはなんだが
質実剛健な帝国人気質からはかけ離れているかもしれないな。」
ダヴィルの賞賛にオリビエは苦笑しながら答えた。
「はは……失礼を承知で申し上げれば確かにそうかもしれませんな。ですが今回の件に関してはそうした殿下の柔軟な発想が良き結果をもたらしたのでしょう。これからの帝国には……
まさに殿下のような方が必要になるのかもしれませんな。……宰相閣下のやり方とはまた別にして……」
「大使………」
「ほう、てっきり貴方は”鉄血宰相”殿の支持者かと思っていたのだが……やはり貴族たる身にとって宰相閣下の改革路線は反対かね?」
苦笑した後、目を伏せて呟いたダヴィルの言葉を聞いたミュラーはダヴィルから視線を外し、オリビエは意外そうな表情をして尋ねた。
「はは、貴族とは言ってもしがない男爵位でしかありません。オズボーン閣下の改革路線も基本的には指示しておりますよ。ですが……私もいささかリベール(この国)に毒されすぎているようですな。たまに閣下の剛腕ぶりが怖くなることがあるのです。一体どこに……エレボニアという旧き帝国を連れて行こうとしているのかと。」
「……なるほどね。…………………」
ダヴィルの話を聞いたオリビエは真剣な表情で頷いた後、目を閉じて考え込んだ。
「……殿下?」
オリビエの様子を見たダヴィルは不思議そうな表情で尋ねた。
「いや、最後にこのような有意義な話が出来て良かった。今後も諸国の平和のため、尽力してもらえるとありがたい。できればエルザ大使やリウイ大使と協力してね。」
「はは……これは一本取られましたな。確かに、不戦条約以来クロスベル問題は具体的な進展を見せ始めているようです。提唱したのがリベールの上、あのメンフィルも関わっている以上、自分の役割は想像以上に大きい……つまりそういう事ですな?」
オリビエの話を聞いたダヴィルは苦笑した後、真剣な表情で尋ねた。
「フッ、どうやら無用な心配だったようだね。これで心置きなく帝都に戻れるというものだ。」
「どうかお任せ下さい。わたくしも、今後の殿下のご活躍、楽しみにさせていただきますぞ。」
「フッ、ありがとう。………そうそう、有意義な話を聞かせてくれたお礼にとっておきの情報を教えておくよ♪」
「とっておきの情報?……一体それは何なのですかな?」
オリビエの言葉を聞いたダヴィルは不思議そうな表情で尋ねた。
「メンフィル大使――”英雄王”リウイ陛下には側室が複数いらっしゃるが正妃の座は空いていて、ある女性が正妃となる話はもう知っているだろう?」
「はい。何でもあの”姫君の中の姫君”―――プリネ姫に幼い頃より仕えていた女性だとか。リベール復興の際に民の為に率先して復興作業を手伝った事や傷ついた民達の傷を癒していった事から、”聖皇妃”と称されているそうですが……それがどうかしましたか?」
「フッ、その”聖皇妃”の家名は知っているかい?」
「?何でもリウイ陛下の初代正妃の家名――”テシュオス”家の者だという情報ですが、それが何か?」
オリビエに尋ねられたダヴィルは不思議そうな表情で尋ねた。
「実はそれって世間を欺くためのメンフィル帝国が考えた偽りの情報だよ♪」
「ハ……?い、偽り……!?なぜメンフィルがそのような事を……!?」
「そりゃ、クロスベル問題がより複雑な事になるし、”聖皇妃”自身や”聖皇妃”の家族が自分達の事を伏せる事をのぞんだからそうだよ。」
「クロスベル問題の……?イリーナ皇妃の本当の名とは一体……?」
「……イリーナ・マグダエル。………それが彼女の旧名さ。」
「なっ!?マ、マグダエル………!?まさかクロスベル市長、ヘンリー・マグダエルの縁者なのですか!?」
オリビエの話を聞いたダヴィルは驚いた後、信じられない表情で尋ねた。
「その通り。ちなみにイリーナ皇妃はヘンリー市長の孫娘だ。」
「………………………確かにその情報が公になれば、クロスベルの状況はひっくり返りますな………しかしなぜ、ヘンリー市長はその情報を伏せる事にしたのでしょうな……?せっかくメンフィル……それも皇帝の後ろ盾を得られたというのに………」
「それはヘンリー市長に聞いてみないとわからないね。……ちなみにこの情報は極秘だから、誰にもしゃべらないでくれよ?」
「ハハ、言われなくとも誰にも話しませんよ。……それに話した所で我々、そしてカルバードの両国が不利になるだけですし。」
オリビエの言葉にダヴィルは苦笑しながら頷いた。その後オリビエはミュラーと共に退出して、自分が泊まっている部屋に戻った。
~エレボニア大使館・客室~
「フフ……リベール恐るべしだね。まさか帝国貴族からあのような言葉が聞けるとは。」
「ああ、もう少し頑迷な御仁と思ったのだがな。確かにこの空気には人を変える力があるようだ。」
自分が泊まっている部屋にミュラーと共に戻ったオリビエは窓の外を見ながら呟き、オリビエの呟きにミュラーは静かな笑みを浮かべて頷いた。
「フフ……そういう君こそ柔らかい表情をすることが多くなったじゃないか。少なからず影響を受けてしまったようだね。」
「フッ……いささか不本意ではあるがな。そういうお前の方はもう少しこの国の品位と節度を見習ってほしかったのだが。まったく柔らかいところだけを際限なく伸ばしおって………」
「フフ、それがボクの唯一ともいえる武器だからね。あの”鉄血宰相”に少しでも対抗できるだけの。」
呆れた様子で語るミュラーにオリビエは口もとに笑みを浮かべた後、真剣な表情で答えた。
「…………………」
オリビエの言葉を聞いたミュラーはオリビエから視線を外して黙り込んだ。そしてオリビエは真剣な表情でミュラーに尋ねた。
「………段取りに変化は?」
「今の所、全て順調だ。宰相閣下は3日前、東部諸州の視察旅行に出発した。それと入れ違いに、お前は明日、”モルテニア”と共に”アルセイユ”で帝都に帰還する。各方面への根回しも万全の状態だ。」
お前の帰国は間違いなく華々しいものになるだろう。」
「妨害要素は?」
「情報局の四課が多少動きを見せているくらいだ。”アルセイユ”や”導力停止現象”の状況でも動けたメンフィルの戦艦――”モルテニア”や”覇王”リウイ陛下や”破壊の女神”シェラ将軍が絡んでいる以上、慎重になっているのかもしれんが………それ以上に、放蕩皇子の取るに足らない見世物ごときと侮られている可能性が高いな。」
「ま、実際そうだしね~。だが、例え見世物でもここから始めるしか道はない。ならばせいぜい華々しく踊らせてもらうだけのことさ。」
ミュラーの説明を聞いて疲れた表情で頷いたオリビエだったが、静かな笑みを浮かべて言った。
「……そうだな。」
オリビエの言葉にミュラーが頷いたその時、ドアがノックされ、声が聞こえてきた。
「―――皇子殿下。夜分遅くに失礼いたします。帝都からの連絡が届いたのですが、いかがいたしましょうか?」
「そうか………わかった、入ってきたまえ。」
「……失礼します。」
オリビエの返事を聞いた声の主――スーツ姿の赤毛の青年が部屋に入って来た。
「やあ、レクター。今日は姿を見なかったからどうしたのかと思ったよ。」
「それが朝から色々と連絡業務が続きまして。明日、お発ちになってしまうのに挨拶にも伺うことができずに本当にもうしわけありませんでした。」
オリビエに尋ねられた青年――レクター書記官は静かな表情で答えた。
「フッ、気にすることはないさ。……しかしそうだな。何だったらこのまま朝まで3人でしっぽりと………」
レクターの答えを聞いたオリビエはいつもの調子で話そうとしたが
「それで書記官、帝都からは一体なんと?」
ミュラーが無視してレクターに尋ねた。
「皇子殿下からのご下達、確かに承りましたとの事です。ただ、王都から帝都まで半日足らずで到着できる上、リウイ陛下とシェラ将軍までいらっしゃるとは想定していなかったらしく………今、慌てて明日の式典の準備や
皇帝陛下並びに他の皇族の方達を可能な限り帝都に帰還させ、それぞれのスケジュールを組み直しているようですね。」
「なるほど、さすがに”アルセイユ”の速度やリウイ陛下達の突然の来訪は常識外か。」
「シクシク……ま、それはともかく何とか舞台は整いそうだな。フフ、せいぜい明日は皆の度胆を抜くような衣装を用意するとしようか。白い褌一丁に、ギラギラ光るスパンコールのコートだけとか。」
無視されたオリビエは嘘泣きをした後、楽しそうな表情で答えた。
「…………………」
はは、それは確かに物凄いインパクトでしょうね。自分も同行していたら是非とも拝見したかったです。」
オリビエの言葉を聞いたミュラーは青筋を立てて黙り、レクターは笑いながら答えた。
「書記官………」
「フッ、若いのに随分見どころがあるじゃないか。どうだい、レクター。君も一緒に”アルセイユ”で帝都に帰るというのは?そろそろ王国での仕事も終わりなんだろう?」
レクターの言葉を聞いたミュラーはレクターから視線を外し、オリビエは口もとに笑みを浮かべて尋ねた。
「はは……”アルセイユ”には心惹かれますが次の仕事が控えておりまして。お気持ちだけ頂戴させていただきます。」
「おや、それは残念だ。まあ『次の仕事』もせいぜい頑張ってくれたまえ。」
レクターの答えを聞いたオリビエは意味ありげな視線でレクターを見て言った。
「ありがとうございます。それでは私はこれで………」
そしてレクターは部屋を退出した。レクターが退出した後、ミュラーは静かな表情でオリビエを見て尋ねた。
「二等書記官、レクター・アランドール。……やはり宰相の手の者か?」
「十中八九、間違いないだろうね。徒歩でハーケン門を通過し、この大使館位赴任したのは一月前。ちょうどボク達が”アルセイユ”で浮遊都市に向かったのと同じタイミングだ。それが偶然であるはずがない。」
「……だろうな。考えられるとすれば情報局の人間あたりか………良かったのか?今まで放置しておいて。」
「そこはそれ。宰相閣下の出方は知っておきたかった所だしね。いずれ彼からの報告を通じて何らかのアクションがあるはずだ。東部諸州の視察が終わった後……多分2週間後といったところかな。」
「ふむ、そこまで狙っていたのか。わかった、ならば俺の方もそのつもりで備えるとしよう。」
オリビエの答えを聞いたミュラーは感心した後、静かな笑みを浮かべて言った。
「ああ、よろしく頼むよ。」
ミュラーの答えを聞いたオリビエは頷いた後、窓の外を見て何かに気付いた。
「ほう………」
「なんだ、どうした?」
「いやなに……月が出ていただけさ。それも見事な満月だ。」
そして2人は窓から夜空を見上げた。
「リベールの月もこれで見納めか………少々惜しい気もするがな。」
「フフ、君にもようやく雅趣のなんたるかがわかってきたようだね。まあ、せいぜい頑張ってまた見に来れるようにしよう。お互い、生きている内にね。」
「フッ、そうだな。」
そして翌朝、オリビエとミュラーはグランセル城にて女王達や、まだグランセル城に残っていたリウイに見送られようとしていた…………
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