英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~帝都への帰還~中篇
~グランセル城・謁見の間~
「―――女王陛下、王太女殿下。今まで本当にお世話になりました。その上”アルセイユ”で帝都まで送って欲しいという図々しい願いを叶えて頂けるとは……このご恩、いつか必ずや何倍にしてお返しいたします。そしてリウイ陛下。”モルテニア”と共に帝都に来ていただき、一時とはいえ我等エレボニア軍を包囲した件を説明していただきたいという私の勝手な願いを聞いて頂き、誠にありがとうございます。このご恩は陛下とイリーナ皇妃の結婚式にて、お2人の未来を祝福する為に最高の演奏をさせていただきます。」
謁見のまで女王達や女王達からは少し離れた場所でメンフィル兵と共に待機しているリウイにオリビエは笑顔を向けてお礼を言った。
「ふふ、とんでもありません。殿下のような国賓を”アルセイユ”でお送りするのはしごく当然の事でありましょう。こちらこそ、殿下には色々とお世話になってしまいましたね。」
「また、機会があったら是非、リベールにいらして下さい。その頃にはエステルさんたちも戻ってきているでしょうし……皆で盛大に歓迎させていただきますから。」
「………別にそのぐらいの嘆願なら、大した事ではないし、こちらとしてもその内説明に使者を送るか、文章を送ろうと思っていた所だから、気にする必要はない。……が、そこまで言うなら俺達の式の際の皇子の演奏……楽しみにさせて頂こう。以前、我が娘プリネや異種族達と共に奏でた演奏も見事なものだったしな。」
オリビエの言葉に女王とクローゼは微笑み、リウイは静かな表情で答えた。
「はは、楽しみにさせて頂こう。それとリウイ陛下。このオリヴァルト・ライゼ・アルノール。今までの中で最高の演奏をさせていただくつもりなので、どうぞご期待下さい。…………そういえば、ファラ・サウリン卿……いや……エステル君たちもそろそろリベールを発った頃かな?」
「いや、今頃ロレントで旅立ちの支度をしている頃でしょう。自分もその時には休暇を頂いて3人を見送ろうかと思っています。……それにその頃には3人目の子供も産まれているでしょうし。」
オリビエの疑問にカシウスが答えた。
「なるほど……ハーメル跡は封鎖されているが私の方で責任を持って、入れるよう取り計らっておこう。カシウスさんは3人に……そしてリウイ陛下。そちらもプリネ姫と”剣帝”レーヴェによろしく伝えて頂きたい。……それとカシウスさん、まだ早いが貴方の新たなご子息もしくはご息女の誕生……この場で祝福させていただきます。……おめでとうございます。」
「……承知した。2人には俺から伝えておこう。……ただし、プリネはともかくレオン=ハルトはリベールより託された重罪人だ。よって、見張りとプリネの世話兼護衛の為にツーヤを付かせてハーメル跡に向かわせていただく。」
「……こちらも承知しました。それとオリヴァルト皇子、私達の新たな子供の誕生の祝福をして頂きありがとうございます。皇子の言葉は妻にも伝えさせていただきます。」
オリビエの言葉を聞いたリウイとカシウスは頷いて答えた。
「なに、あの3人にしてもらった事を考えればそれくらい些細なことだよ。それにエステルくんとミントくん――”ファラ・サウリン”卿や”ルーハンス”卿には何か力になってもらいたい時の前払いの意味も込めている。だから、気にしないでくれたまえ。―――カシウスさんとリウイ陛下にも本当に色々とお世話になった。貴方達の協力がなかったらああも上手く帝国軍の師団を足止めできなかっただろう。」
「………俺達メンフィルは無用な争いは好まぬ。戦争の発展を望まないのはお互い様だろうだから気にする必要はない。」
「フフ……それはこちらの台詞ですよ。それに……もうお気づきかとは思いますがあの展開も想定の範囲内でしょう。かの”鉄血宰相”殿にとっては。」
オリビエの言葉を聞いたリウイは静かな表情で答え、カシウスは答えた後真剣な表情で言った。
「…………………」
「えっ…………」
「………そうでしょうね。実際、あの状況でリベールに攻め入るメリットはエレボニアはありませんでした。それも効率が悪いとされる蒸気戦車などの開発や同盟を結んでいるメンフィルがリベールの援軍としてリベールに攻め入ったエレボニア軍を駆逐、そして逆にエレボニアに攻め入るデメリットがあるとわかっていてまで。唯一、あるとすれば………」
カシウスの言葉を聞いたオリビエは目を伏せて黙り込み、クローゼは驚き、女王は真剣な表情で呟き、そして女王の言葉の続きをオリビエが答えた。
「……導力停止現象中も帝国軍が行動できるという事を諸外国に知らしめること。恐らくそれが真の狙いの筈。」
「あ………!」
「フン。”百日戦役”にて”導力”を持たない俺達に大敗をしておいて、よくそんな無駄な事を考えたな。……俺達に勝てる算段でもついたのというのか?」
オリビエの答えを聞いたクローゼは驚き、リウイは不愉快そうな表情で答えた後、考え込んだ。
「その通り……よくお気づきになった。”導力停止現象”というものは諸外国にとっては未知の現象です。今後、同じことが他の場所で起きるかもしれないし、二度と起きないかもしれない。」
「……実際、製造された蒸気戦車は少数だったそうです。ラインフォルト社の工房で通常の導力戦車の部品を流用して組み上げられたとか。」
「つまりそのノウハウは現状では帝国にしか存在しない。そしてこの不透明な状況で蒸気を使った効率の悪い兵器など導入できる余裕は”魔導”という未知なる力を扱うメンフィルという例外を除いてどの国にもない。―――結果的に、帝国軍の潜在的な示唆・抑止能力はさらに高まることになる………まさに戦争を外交の道具としてコントロールしているわけだね。」
「そんな事情があったなんて………やはりわたくしはまだまだ至りませんね。」
カシウスやミュラー、オリビエの説明を聞いたクローゼは驚いた後、暗い表情になった。
「この場合は、かの宰相殿が尋常ではないと言うべきだろう。その発想は、良し悪しは別にして時代の一歩も二歩も先を行っている。フッ、そんな厄介な相手に挑戦状を叩きつけてしまうとは我ながら無謀もいいところさ。」
「殿下………」
「……………」
「まったく……何を他人事のように。」
疲れた表情で答えた後、いつもの調子に戻ったオリビエをクローゼは苦笑し、リウイは静かにオリビエを見つめ、ミュラーは呆れていた。
「……今はご自分の足場を固めることに専念すべきでしょう。ですが、どうかお気を付けて。ご自分の立ち位置だけは決して見失われないでください。」
「……俺とイリーナの式の際には、各領の領主あるいは領主の代理人として領主の跡継ぎ、もしくは領主の親、そして大多数の貴族達が参加する。……その際に自分の足場固めの足しにするといいだろう。……特にこちらの世界で”聖女”と称され、こちらの世界でのそれぞれの宗教の指導者であるペテレーネと我が娘ティア、そして同じくこちらの世界でも名が知られている皇族のリフィア達と親しくなれば、今後の足場固めの役に立つだろう。」
「……わかりました。これで無様を晒すことになれば、わざわざ”アルセイユ”で帝都まで送っていただく甲斐がないというもの。今のお言葉、肝に銘じておきます。そしてリウイ陛下の助言……ありがたく、受け取らせていただきます。」
女王とリウイの助言をオリビエは頷いて答えたその時
「し、失礼します………!」
ヒルダが慌てた様子で謁見の間に入って来た。
「ヒルダさん……?」
「女官長、いかがしました?貴女がそのように取り乱すのは珍しいですね。」
ヒルダの様子にクローゼは不思議そうな表情をし、女王は尋ねた。
「……失礼しました。今しがた、グランセル城に突然のご来客がございまして。それがシルヴァン陛下達のご来客の件を除いて余りに異例だったのでお話中、失礼かと思ったのですが陛下たちのお耳に入れようかと……」
「異例の来客………」
ヒルダの説明を聞いた女王は真剣な表情で考え込んだ。
「ふむ、そろそろ私はお暇した方が良さそうだ。」
「……リベール王家の客なら、俺もこの場は失礼した方がよいだろう。」
「いえ、それが………その方は陛下だけでなく皇子殿下やリウイ陛下にもご挨拶したいと仰っておりまして。
「何……!?」
「……………………」
「俺やオリヴァルト皇子にも………だと?」
退出しようとしたオリビエ達だったが、ヒルダの言葉を聞きミュラーは驚き、オリビエは呆けた表情で考え込み、リウイは眉を顰めて呟いた。
「……ヒルダ夫人、その客人の名前は?」
考え込んでいたオリビエは真剣な表情でヒルダに尋ねた。
「……はい。エレボニア帝国宰相、ギリアス・オズボーンと名乗っていらっしゃいます。」
そして謁見の間に新たな客―――どことなく”覇気”を纏い、いくつもの勲章を付けた”質実剛健”を表しているような黒を基調とした服を着た黒髪の男性――エレボニア帝国の宰相、ギリアス・オズボーンがレクターを伴って入って来た。
「――お初にお目にかかります。エレボニア帝国政府代表、ギリアス・オズボーンと申します。このような形での突然の訪問、どうかお許ししていただきたい。」
オズボーン宰相は女王やリウイ達に会釈をして自己紹介をした。
「………あなたが………」
「……………………」
「……なるほど。貴殿がかの”鉄血宰相”か………」
女王とクローゼは驚いた表情で、リウイは真剣な表情で宰相を見ていた。
「そして我が親愛なるオリヴァルト皇子殿下……ご無沙汰しておりました。1年ぶりくらいでありましょうか?」
一方宰相はオリビエに身体を向けて会釈をして尋ねた。
「……ああ、そんな所かな。しかし宰相。どうも話が見えないんだが……なぜ、一国の宰相たる貴方が何の前触れもなくこちらに?しかるべき経緯を聞かせて頂きたいものだな。」
会釈をされたオリビエは頷いた後、真剣な表情で尋ねた。
「これは失礼……実は先日より東部諸州の視察に出向いていたのですが、予想以上に順調に事が進みまして。いささか余裕が出来たのでこちらに参上した次第なのです。」
「それはそれは……」
「本来ならば殿下のようにまさに『異変』の最中にでも駆けつけたかった所ですが……生憎、南部の混乱もひどくその対応に追われまして。ようやく時間が取れたので思い余って参上させて頂きました。前触れなき無礼をお許しあれ。」
「……なるほど、そういう事情なら是非もない。私のことは気にせず、ご挨拶申し上げるといいだろう。」
「ありがとうございます。それでは……」
オリビエの言葉を聞いて頷いた宰相は一歩前に出て、女王達にもう一度会釈をした。
「……改めまして。アリシア女王陛下、ならびにクローディア王太女殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。この度の異変、貴国にとっては大変な試練であったことでしょう。心からのお悔みと……異変が無事終息
したことのお祝いをここに述べさせていただきます。」
「……あ………丁寧なご挨拶、痛み入ります。」
「こちらこそ、異変が帰国の南部にまで影響を及ぼしたこと、かねてより遺憾に思っておりました。なのに、わざわざ宰相閣下にご足労をおかけしてしまうとは……どうか心よりの感謝とお詫びをお受け取りください。」
宰相に会釈をされたクローゼは呆けた後、気を取り直して微笑みながら答え、女王は静かな表情で答えた。
「なんの、聞けば異変の陰には得体のしれぬ組織が蠢いていたとか。そうとも知らず、ただ貴国の力になりたい一心で軍を動かしたのはあまりに愚かで軽率でありました。さすがに皇帝陛下からもお叱りの言葉を受けたくらいです。」
「まあ………」
「ですが、我が失態もオリヴァルト殿下のはからいで何とか繕われたとのこと……殿下におかれましては心より感謝を申し上げます。それと異変終息の見届け役、まことにお疲れ様でありました。」
「なに……大したことはやっていないさ。それに陛下や殿下、そしてこちらのカシウス准将やリウイ陛下達にも色々と助けていただいたからね。」
宰相の言葉を聞いたオリビエは女王達に視線をやった後、答えた。
「ほう………」
オリビエの言葉を聞いた宰相は感心した声を出した後、まずカシウスに視線を向けた。
「……お初にお目にかかる。リベール王国軍准将、カシウス・ブライトと申します。」
「フフ、貴公の高名は我が帝国にも響き渡っている。こうしてお目にかかれて光栄だ。」
「こちらこそ……名高きオズボーン閣下にお目にかかれて光栄に存じます。しかし、よもやこれほどまでに大胆な行動力がおありだとは……どうやら閣下への評価を改める必要がありそうですな。」
宰相に視線を向けられたカシウスは目礼をした後、疲れた表情で答え、そして真剣な表情で宰相を見て言った。
「なに、こちらも異変に際しての王国軍の対応には驚嘆させられた。いかなる事態にも対応しうる柔にして剛を体現した組織運用……図体ばかり大きい我が軍には望むべくもない理想の形と言えよう。」
「はは、ご謙遜を。かの名高き帝国軍情報部局は閣下自らの肝いりであるとか……その方面での立て直しが急務な我が軍にとっては羨ましい限りです。」
「ハハ……お互い無い物ねだりというわけか。」
「いやはや、そのようですな。」
苦笑している宰相に対し、カシウスは笑顔で答えた。
「そういえば………少し気になったのだがこの場に貴公のご息女や孫娘はこの場にはいないのか?」
「…………!」
「「……………」」
「……なぜ、そこで私の娘達の話が?」
宰相の言葉を聞いたクローゼは驚いた後、表情には出さないように心の中で青褪め、オリビエとリウイは真剣な表情で宰相を見つめ、カシウスは警戒した様子で尋ねた。
「なに……一般市民出身でありながらあのメンフィル帝国の……それも皇帝陛下達の信頼があり、そして若年でありながらも”侯爵”や貴族の当主に授爵されたファラ・サウリン卿とルーハンス卿とは一度お会いして、個人的に話をしたかったのだが……この場にいると思い、期待したのだが……どうやら私の思い違いのようだったな。」
「……私の娘と孫娘――エステルとミントは確かにメンフィルの貴族ですが……私の娘達はどの国にも仕えていません。あえていうなら国を問わず全ての民の為にその権力を奮う”自由騎士”ならぬ”自由貴族”といった所ですかな。あの娘達は”遊撃士”なのですから。」
「……なるほど。確かにその2人が所属する組織としては適しているな………しかし遊撃士協会も恐れ入る。それほどまでの人物達を特別扱いせずに所属させているのだから……」
「ハハ……それはやはり遊撃士協会の規約の一つ――『国家権力に対する不干渉』があるからかもしれませんな。」
「確かに………」
苦笑しながら言ったカシウスの言葉に宰相は頷いた後、今度はリウイに視線を向けた。宰相がリウイに視線を向けると同時にリウイと宰相………お互いから”覇気”がさらけ出された!
「………っつ…………!」
「…………………」
(”鉄血宰相”と”覇王”の邂逅か………)
(まさかこの2人が邂逅する場面を見る時が来るとはね………)
(ああ。……だが、こうして傍で感じるとやはり、リウイ陛下の方が格上だな。)
リウイと宰相がさらけ出す覇気を感じたクローゼは雰囲気に圧され、女王は静かな瞳で見つめ、カシウスやオリビエ、ミュラーは真剣な表情で2人を見つめていた。
(フ~ン……あの男がかの”魔王”か。確か魔王は不老不死って話だったよな………見た目からしてかなり若いじゃねえか………あの見た目で孫もいる年をとっくに超えているとか信じられねえな………”大陸最強”と謳われる強さや卓越した政治能力を持ち、不老不死だなんて反則過ぎだろ………さて………オッサンはどうやって、”魔王”の上を行く気なのかな?)
一方レクターは興味深い視線で2人を見ていた。そして宰相はリウイに会釈をした。
「………お初にお目にかかります。”大陸最強”の称号を持つ”英雄”にして王の中の王――”英雄王”リウイ皇帝陛下。」
「……今の俺は皇帝の座から退き、隠居している身だ。だから、そうかしこまる必要はあまりないぞ。」
「ハハ……隠居とはご謙遜を。陛下のご高名は我が帝国にも轟かせております。」
「フン………大方”百日戦役”にて数多くのエレボニア兵達の命を奪い、いくつかの領を占領した”魔王”と言った所か?」
宰相の言葉を聞いたリウイは不敵な笑みを浮かべて宰相を見て尋ねた。
「これは手厳しい。……ですがそれは陛下の政の手腕や陛下ご自身のご活躍を知らない者達がそう騒ぎ立てるだけです。占領した元我が帝国領での政治に陛下自身が兵達を率いて、兵達を鼓舞する戦……まことに見事でございます。特に此度の異変ではかの”闘神”と”猟兵王”を同時に討ち取り、”西風の旅団”を壊滅させ、此度の戦で参加した”赤い星座”の猟兵達も殲滅したと聞きます。陛下達の勝利をこの場で祝いの言葉を捧げさせていただきます……かの猟兵達に勝利した事……見事でございます。」
「………貴殿の祝いの言葉、受け取っておこう。」
「そういえば祝いの言葉で思い出しましたが、陛下には別の意味でもう一つお祝いすべき事がありましたな。」
「……………………」
宰相の言葉を聞いたリウイは遠まわしにイリーナの事を指している事に気付き、真剣な表情で宰相を見た。
「………私や我が皇帝陛下は陛下達の結婚式に招待されていない為、この場にて我が皇帝陛下の代わりにお祝いの言葉を申し上げます。”聖皇妃”イリーナ・テシュオス皇妃とのご婚約……おめでとうございます。イリーナ皇妃にもよろしくお伝えください。」
「……我が正妃、イリーナにも貴殿の言葉を伝えておこう。」
「………どうぞ、よろしくお伝え下さい。それと婚約で思い出したのですが、我が帝国の第1皇子と貴国の姫君の一人――”姫君の中の姫君”――プリネ姫の婚約の提案をその場で使者に断りの言葉を告げた事で、宮廷内が驚いた件を思い出しました。……プリネ姫は今も特定の男性はいらっしゃらないのですから?もしいらっしゃらないのなら、よろしければもう一度我が帝国の第1皇子とのご婚約をご再考して頂きたいのですが……」
「……残念ながらプリネもようやく自分の伴侶を自分自身で見つけたところだ。今はその者が本当にプリネの伴侶として相応しいか、親として観察している所だ。……よって、貴国の提案はこの場で断らせて頂こう。」
宰相に尋ねられたリウイは静かな表情で答えた。
「ほう……かの”姫君の中の姫君”の心を動かす男性が現れるとは……ふむ、それなら仕方ありませんな。」
リウイの言葉を聞いた宰相は驚いた表情をした後、気を取り直して頷いた。そして話が終わったのを見計らったオリビエが宰相に尋ねた。
「……ところで宰相。この後、どうするつもりかな?あいにく私は、今日をもってリベールを暇するつもりなのだが。」
「ええ、存じ上げております。何でも、名高き”アルセイユ”に乗船し、メンフィルの戦艦――”モルテニア”と帝都に凱旋なさるのだとか……」
「ふむ……さすがに耳が早い。」
「私もご一緒させていただければ……と、お願いしたい所なのですが。あいにくこの後、他の予定が入っておりましてね。殿下とは別に、私も午後にはリベールを発たなくてはなりません。」
「まあ……今宵の晩餐には是非とも招待させていただくつもりだったのですが。」
オリビエと宰相の会話を聞いていた女王は驚いた表情で呟いた。
「ハハ、どうかお気遣いなく。不躾なる来訪者には過ぎた餐応というものでしょう。ですが、船が来るまでいささか時間がある様子……よろしかったら殿下。しばしお時間を頂けませんか?………個人的に色々とお話ししたい事がありますゆえ。」
女王の言葉に宰相は苦笑した後、不敵な笑みを浮かべてオリビエを見て尋ねた。
「……………っ…………」
「…………フッ…………」
「…………………………」
宰相の言葉を聞いたミュラーは苦い表情をし、レクターは口もとに笑みを浮かべ、クローゼは不安そうな表情をしていた。
「……そうだな。いいだろう。私も貴方と個人的に話がしたいと思っていた所でね。」
一方オリビエは考え込んだ後、宰相を見て答えた。
「フフ、それは偶然ですな。」
オリビエの答えを聞いた宰相は口元に笑みを浮かべて頷いた。
「……よろしければ部屋を用意させましょう。女官長、よろしくお願いします。」
2人の様子を見た女王は静かな表情で申し出、ヒルダを見て言った。
「……かしこまりました。」
女王の言葉にヒルダは頷いた。
そしてオリビエたちは客室の一室に案内され、ミュラーを扉の前を守らせて、オリビエは部屋で宰相と対面し、会話を始めた…………
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