英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~祝賀会の夜~後篇
~グランセル城・空中庭園~
「………ヨシュアさん。」
2人を見守っていたヨシュアにある人物――クローゼが近づいて来て声をかけた。
「……クローゼ。大変だったみたいだね……」
「……あ……………えっと、少しだけ……王太女になってから、取材を受けることが多くなってしまって……」
ヨシュアの優しい微笑みを見たクローゼは呆けた声を出した後、苦笑しながら答えた。
「うん。この所、あちこちの雑誌でクローゼの写真を見かけるから。そうじゃないかなって思ってたんだ。」
「あ、あはは………」
「もう少ししたら、取材も下火になると思う。それまでは大変だと思うけど……」
「はい、わかってます。私はもう、決心しましたから。みんなを守るんだって……だから、こんなことくらいで挫けるわけには行きません。メンフィル帝国の次期女帝と言われるリフィアさんや”姫君の中の姫君”と称えられるプリネさん、何の前触れもなく使用人から突如リウイ陛下の正妃になって、世界中の人々が注目しているイリーナ皇妃は私以上に大変な経験をなさっているのですから……それにエステルさんとミントちゃん、それにツーヤちゃんは一般人の出身でありながらメンフィルの貴族……それも”侯爵”にそれぞれの家名の当主になった上、エステルさんとミントちゃんは”遊撃士”。ツーヤちゃんは”姫君の中の姫君”と称えられるプリネさんに直接仕えていて、3人とも話題性がある為、エステルさん達もさまざまな雑誌の取材を受けたと聞きます。みなさんを見習って、私ももっと頑張らないと……」
ヨシュアの言葉を聞いたクローゼは静かに頷いて微笑みながら答えた。
「そうか……やっぱり君は強いな。」
「そんなこと、無いです。本当はいつも、自信があるわけじゃないんです。なのに、いつも無茶ばかりしてしまって……」
「うん、でも………初めて会った時も君はあの孤児院にいて、クラムを守ろうとしていた。……クローゼ、君の強さは本物だと思うよ。」
「あ、あはは……ありがとうございます。……そ、そういえばそんなこともありましたよね。…………」
ヨシュアに微笑まれたクローゼは微笑んだ後苦笑し、考え込んだ。
「(今なら、いいかな………?)…………」
「………クローゼ?」
考え込んでいるクローゼの様子を見たヨシュアはクローゼの様子がいつも違う事に気付き、尋ねたその時
「……あの、ヨシュアさん。………少し、お時間をいただけませんか?お話したいことがあるんです。」
クローゼは決意の表情でヨシュアを見て尋ねた。
「え……えっと……うん、いいけど………」
クローゼの表情を見たヨシュアは戸惑いながら頷いた。
「……こちらに………」
そしてクローゼは静かな足取りでどこかに向かった。
(……気のせいかな……何か怒ってるみたいだけど……えっと、エステルはまだ………)
クローゼの様子に戸惑っていたヨシュアはエステルの姿を探して、最後にエステルがいた場所を見た。そこではエステルとジョゼットが早食い競争をしていた。
(……まあいいか。盛り上がっているみたいだし。……クローゼ……何か怒らせる事でもしてしまったかな……)
エステル達の様子を呆れて見ていたヨシュアは考え込んだ後、静かな足取りでクローゼを追っていった。
ヨシュアがクローゼに近づくと、クローゼはテラスで一人、外を見つめていた。
「……あの、クローゼ。えっと、話って……?」
「…………………………」
クローゼに声をかけたヨシュアだったが、クローゼは何も答えず黙り込んでいた。
「あ、あの………何か気に障ったのなら謝るけど………」
「………………私…………」
ヨシュアの言葉を聞いたクローゼは少しの間黙った後、頬を染めて呟き、そしてヨシュアに振り向いて決意の表情で言った。
「ヨシュアさんのことが好きです。」
「………えっ………?」
クローゼの言葉を聞いたヨシュアは呆けた後、信じられない表情をした。
「…………………」
「え、えっと…………」
「………………」
「その………それって………」
「…………………」
ヨシュアは信じられない表情で尋ねようとしたが、クローゼの真剣な様子を見て肩を落として、答えた。
「ご、ごめん………君の気持ちは……その………嬉しいけど………」
「ふふっ………いいんです、何も言わなくっても。ただ、気持ちに区切りをつけたかっただけですから。」
申し訳なさそうな表情をしているヨシュアはにクローゼは微笑みながら答えた後、ヨシュアに背を向けた。
「きれいな星空、ですね………」
「あの、えっと…………」
突然話を変えたクローゼにヨシュアは戸惑った後、言い辛そうな表情で尋ねた。
「君がいつから……その………」
「………ヨシュアさん。もし、ヨシュアさんがエステルさんより先に私と出会っていたら………エステルさんとじゃなく……私と………でしたか?」
「……ううん……それは……無いと思うな。……ごめん、クローゼ。」
「……それでいいんです。ヨシュアさんを独占したいって気持ちもウソじゃないんですけど……たとえそうなっても、それは私の求めているものじゃない。……私はやっぱりエステルさんとヨシュアさん……お2人の事が好きですから。」
ヨシュアに謝罪されたクローゼは静かに答えた後、ヨシュアに背を向けたまま微笑んでいた後、ヨシュアに振り返った。
「だから最後に、ヨシュアさんの困った顔を見てみたかったのかな。ふふっ……さっきのヨシュアさんの顔……今までで一番、素敵でした。」
「あ……えっと………クローゼもけっこう人が悪いよね。」
クローゼの言葉を聞いたヨシュアは戸惑った後、呆れた表情で言った。
「ふふ、こんなにはしゃいでしまったのは久しぶりです。」
ヨシュアの言葉を聞いたクローゼは微笑んだ後、ヨシュアに近づいて、ヨシュアに背を向けた状態で横に並んで尋ねた。
「それで……ヨシュアさん、何を悩んでいるんですか?」
「えっ……!?」
クローゼの言葉を聞いたヨシュアは驚いてクローゼを見た。
「ふふ……そのぐらいわかりますよ。私、勘は良い方ですし、さっきも………取材を受けている間もヨシュアさんのことはずっと見てたんですから。」
「……えっと。さすがにそれは照れるんだけど……」
「あ、あはは………」
ヨシュアの言葉を聞いたクローゼは苦笑した。そして静かな口調で言った。
「……ヨシュアさん、何か隠してますよね。また一人で何かしようとか考えてませんか?」
「………はあ、ホント鋭いなぁ………姉さんやレーヴェにも気づかれなかったのに…………………エステルも時々そうだけど……」
「ふふっ、女の子ですから。それにプリネさんも内心気付いていると思いますよ?ヨシュアさんのお姉さんなんですから。……さあ、観念して白状してください。」
溜息を吐いているヨシュアにクローゼは微笑んだ後、真剣な表情でヨシュアを見て言った。
「……悩みって言うほどのことじゃないんだけどね……僕は……そうだな、来月までにはリベールを離れようと思っているんだ。」
「えっ……!?ど、どうして……ですか?もう平和になったのに……」
「うん、平和になったからね。”結社”もリベールからは完全に手を引いたみたいだし、各地の復興も順調だ。……だから、旅に出ようと思うんだ。」
自分の答えを聞いて驚いているクローゼにヨシュアは静かな口調で答えた後、クローゼから視線を外して静かな口調で説明を続けた。
「僕は……今では自分のことを一人の人間として考えられる。もう壊れた人形じゃない。エステルが、みんながそう望んでくれたから……だけど、人間になってしまうと今度は心が痛むんだ。
僕はこれまでに目を覆いたくなるような罪をたくさん犯してきたから。」
「……あ………」
ヨシュアの話を聞いたクローゼはヨシュアの過去――”漆黒の牙”であったヨシュアの過去の話を思い出して声を上げた。
「……だから、その償いをするために。そして本当の意味で強くなるために。僕はこれから、大陸各地を……できれば姉さんがいる世界の大陸をも回ろうと思うんだ。」
「そう、だったんですか………でもそれでは、エステルさんとミントちゃんとは………」
「うん、しばらくは……いや、かなり長い間、会えなくなってしまうと思う。……だから2人にどう伝えらればいいのか迷ってて……」
不安そうな表情で尋ねたクローゼの言葉にヨシュアは静かに頷いて答えた。
「………はあ。ヨシュアさんも……相変わらずですね。」
ヨシュアの答えを聞いたクローゼは溜息を吐いた後、ヨシュアを見た。
「え……?」
「……そんなの、自分の言葉で伝えるしかないじゃないですか。お2人のことを信じているなら、打ち明けて下さい。どんな言葉でもいいんです!自分の言葉で、話して下さい!」
呆けて自分を見ているヨシュアにクローゼは静かな口調で言った後、突然大きな声で指摘した。
「あ……」
「……それが……好きな女の子と自分を親と呼んでしたってくれる娘に対する男の子の……父親の義務でしょう?」
「………うん……君の言う通りだ。本当に僕は……ダメなヤツだな。こんな単純で当たり前のことも気付かないなんて……」
クローゼに微笑まれたヨシュアは考え込んだ後、静かな笑みを浮かべて頷いた。
「ふふ、そこがヨシュアさんの余手さんたる由縁ですから。……そういうところも含めて好きでしたけど………」
「……っ……だから、からかわないでよ………」
「うふふ……大丈夫、お2人ならきっとわかってくれますから。それに……お2人なら……」
呆れている様子のヨシュアの指摘を聞いたクローゼは微笑んで静かな口調で答えようとしたその時
「ヨシュア~!」
「パパ~!」
エステルとミントの声がした。
「あ、いたいた。ヨシュア、ほらこれ!ジョゼットのゴーグル。フフン、戦利品としてブン取ってやったわ!!」
「ママったら、凄い食べっぷりだったんだよ~!」
そして2人は嬉しそうにヨシュア達に近づいて来た。
「えっと……楽しんでいただけているようで何よりです。」
「エステル、後でちゃんと返しときなよ。」
自分達に近づいて来た2人を見たクローゼは苦笑し、ヨシュアは呆れた表情でエステルに指摘した。
「ええ~~~~っ……どーしよっかなぁ~……?……って………あ……あれ………?」
ヨシュアの言葉を聞いて自慢げに胸を張って考え込んでいたエステルだったが、ヨシュアの隣にいるクローゼに気付いて戸惑った。
「えっと……ええっと……あ、あの……ク……クローゼ……?」
「も、もしかしてミント達、来てはいけないときに来ちゃったの……?」
クローゼを見たエステルとミントは言い辛そうな表情でクローゼを見つめたが
「くすっ………私、そろそろ戻りますね。……エステルさん、ミントちゃん。ヨシュアさんはお返しします。」
「へ……?」
「ふえ……?」
クローゼの言葉に2人が驚いている中、クローゼは静かな足取りで3人から離れようとしたが
「クローゼ……」
ヨシュアの声を聞いたクローゼは足を止めた後、首を傾げてヨシュアを見た。
「こんな時に何て言ったらいいのかわからないんだけど……ありがとう。今夜、この場所で君と話すことができて……本当に良かった。」
「………あ………ふふ………どういたしまして。それでは……みなさん、よい夜を。」
ヨシュアの言葉を聞いたクローゼは呆けた後、優しい微笑みを浮かべて言った後、3人から離れてどこかに向かった。
「え、ええっと……あ、あのー………あ、あのさ、ヨシュア。……えーっと、クローゼと……そ、その…………何の話をしてたの?」
「は、はう~………聞きたいような、聞きたくないような………」
クローゼのヨシュアに対する気持ち、そして2人きりで話していた状況を思い出したエステルは顔を赤らめて恐る恐る尋ね、ミントは声を上げた後、複雑そうな表情をしていた。
「うん、ちょっとね……活を入れられた、のかな。」
「そ、そうなんだ。ふーん………」
「あれ?」
ヨシュアの答えを聞いたエステルはクローゼが去った方向を見つめ、ミントは首を傾げた。
(……この5年間、エステルは僕の事を信じてくれていた。ミントも出会って1年もたっていないのにそれでも僕を信じてくれていた。僕も………僕も2人の事を、同じように信じているから………
「……活??」
優しげな微笑みを浮かべて考え込んでいるヨシュアに気づかず、エステルはヨシュアの言葉を思い出して驚いた表情でミント共にヨシュアを見た。
「……エステル、ミント。君達に……聞いて欲しいことがあるんだ。」
「……え………」
「ふえ……?」
ヨシュアの言葉に驚いた2人だったが
「………うん、なに?」
「何をミント達に聞いてほしいの~?」
すぐに気を取り直して、それぞれ優しい微笑みを浮かべて尋ねた。
「うん……実はね……」
ヨシュアが答えようとしたその時、何かが上がる音がして、3人が空を見上げると、夜空を輝かすかのように花火が連発していた。
「わあ……綺麗……!」
「わっ、花火……!すっごいキレイ!」
ミントとエステルがはしゃいでいる中、また新たな花火が夜空に打ち上げられた。
「あ、ほらまた……」
「わ、わ、わあ……!」
2人は次々と打ちあがる花火にはしゃいでいた。そして花火が終わった頃にヨシュアは口を開いた。
――……あのね、エステル、ミント…………………――
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