英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~祝賀会の夜~中篇
~グランセル城・空中庭園~
まずヨシュアは傍のテーブルにいたアガットとティータに近づくと、ティータがアガットに嬉しそうな笑顔で尋ねていた。
「……で、アガットさん。いつ来てくれるんですか?」
「いやだから、あれはだなぁ……」
ティータに尋ねられたアガットが戸惑ったその時、2人はヨシュアに気づいた。
「あ、ヨシュアお兄ちゃん。」
「よう、ヨシュア。お前の方は挨拶回りか?」
「ええ、まあ。お二人は……?」
アガットに尋ねられたヨシュアは頷いた後、2人を見た。
「えっと、その………アガットさん、今度家にご飯を食べに来てくれるって言ってたから……い、いつごろなのかなぁって………」
「そういえば………アルセイユを降りるときにお二人でそんな話をしてましたよね。」
「あ、あれは……その別れ際の挨拶みたいなもんだろ。……遊撃士は結構忙しいからな。実際行けるかどうかなんざ、わかんねっつーの。」
ティータとヨシュアの話を聞いたアガットは否定的な答えを言ったが
「………………ずっと待ってたのに…………」
「うっ…………わ、わぁったよ!……あー、えーと……」
ティータの残念そうな表情を見ると気まずそうな表情になり、そして考え込んだ後、答えを出した。
「げ、月末ならなんとか………確か金曜辺りは空いてたハズだしな……」
「ほんとーですか?えへへ、約束ですよ?」
「お、おう………」
自分の答えを聞いて嬉しそうな表情になったティータにアガットは戸惑いながら頷いた。そしてヨシュアは博士にも挨拶をした後、リシャールに話しかけた。
「リシャールさん……いらしてたんですか。」
「ああ……准将の計らいでね。陛下から正式な恩赦を受けることになったんだ。」
「”結社”による王都襲撃を阻止した功績ですね。おめでとうございます。」
「……いや、正直この身には過ぎたことだとは思うのだが………平和が訪れた以上、私も真っ直ぐに自分の犯した罪を受け止めるべきなのかもしれないな。」
ヨシュアの言葉を聞いたリシャールは静かに首を横に振って答えた。
「リシャールさん……」
「ふふ、そう心配そうな顔をしないでくれたまえ。私は決して陛下の恩義に反するようなことをするつもりはない。ただ、私なりの決着をつけるべきだろう。……そう思うだけだ。」
「……はい。」
そしてヨシュアはカノーネ、シード、モルガン、各都市の市長、エルナンに挨拶をした後、2人で飲んでいるシェラザードとオリビエを見つけて話しかけた。
「シェラさん、オリビエさん。ご無沙汰してます。」
「……ん、ヨシュアか。どう、一緒に飲まない?」
「フフ、共に甘美な杯を傾けようじゃないか。今宵はトコトンつき合わせてもらうよ。君の瞳が揺れるまで……ね。」
「……遠慮しておきます。」
シェラザードとオリビエの誘いにヨシュアは呆れた表情で答えた。
「なによう、こんな時くらい付き合いなさいよね。……あ、そうだ。あんたの正遊撃士祝いもついでにやってあげよっか。そーいや、あんたの分だけまだだったわよねー。」
「……あのシェラさん。その、ルシオラのことは……」
笑顔のシェラザードを見たヨシュアは考え込んだ後、言い辛そうな表情で尋ねたが
「ふふっ……ヨシュアったら、何おねーさんの心配しちゃってるのよ。あんたが気を揉むことじゃないわ。」
シェラザードは微笑みながら答えた。
「フッ、シェラ君の言う通りさ。みな、この事件を通じて様々な思いを抱いたことだろう。だが、今だけはせめて飲んで騒いで浮かれまくるとしようじゃないか!力の限り、精一杯ねっ!」
そしてシェラザードの言葉に頷くようにオリビエも高々と言った。
「は、はあ……」
「……あんたは今に限らず、浮かれ騒いでる気がするけど。でもまあ、そういう事ね。……それよりヨシュア、もう一人で勝手な行動を取るのはやめなさいよね。あんたのいない間のエステルときたら、ホント、見てらんなかったんだから。」
オリビエの言葉を聞いたヨシュアは戸惑い、シェラザードは呆れた表情で言った後、ヨシュアを見て静かな口調で言った。
「……はい。大丈夫です、もうあんなことをするつもりはありませんから。」
「……そ、なら良いわ。」
「ウフフ、従順な顔も良いよ、ヨシュア君。」
そしてヨシュアはかつてエステルと別離した場所で静かに外を見下ろしているカシウスに近づいた。
「……ヨシュアか。」
「父さん、出席してたんだ。通信では、忙しいからパスって言ってなかった?」
「ああ、忙しいとも。ライフラインの確保に復興物資の輸送……この国が平穏を取り戻すまで、まだしばらくはかかるだろうからな。」
ヨシュアに尋ねられたカシウスは疲れた表情で溜息を吐いて答えた。
「そういえば……エステルとミントとあちこち回ったけど、地域住民の不安を解消するために小さな村にも王国軍やメンフィル軍が駐屯していた。父さんとエステル達らしい指示だと思ったよ。」
「軍は軍で、できる事をやっているというだけのことだ。……あの2人の護衛部隊も今回の復興でも随分助けられた。………帝国や共和国の内政が不透明な上、王国軍の再編も棚上げ状態だが……まあ、たまには気を抜くのも必要なことだろう。ヨシュア、今日くらいは息抜きをしておけよ。」
「父さんこそ、少しは休みをとったらどうだい?母さんやエステル達も心配してたよ。」
「はっは、無用な心配だ。こう見えて、きちんと手は抜いているからな。……それに今日は何と言っても娘と孫娘のドレス姿を見れるという最高の息抜きになったんだ。2人の姿をたっぷりと目に焼き付けておくつもりだ。……それに後数週間したら、新しい家族ができるんだ。遅くとも新しい家族が産まれる数日前には家に帰るつもりだ。」
「そっか。頑張ってね、父さん。」
「ああ。……それよりエステルとミントだが……今回の復興作業で2人の身分が公になってしまった。この意味……わかるな、ヨシュア?」
ヨシュアの言葉にカシウスは頷いた後、真剣な表情でヨシュアを見て尋ねた。
「うん。……平民出身とはいえ、今の2人はあのメンフィル帝国の貴族……それも”侯爵”に皇族に連なる貴族の当主………さらにリベール軍の重鎮の上、”剣聖”――父さんの娘と孫娘だからね。リベールを除いた各国の貴族や商人達は2人と繋がりを持つために、さまざまな手段で接触して来るだろうね。」
「ああ。社交界への招待ならまだいい方で、2人と直接繋がりを持つために縁談も持ってくるだろうな。……例え縁談が来ても俺に来る分は断っておくが………2人に直接来た場合、お前達自身が断れよ?」
「うん、わかっている。……幸いエステル達はリウイ陛下達と親しいしエステル達自身の身分も高いから、相手もそんなに強引に出られないと思うから大丈夫だと思うよ。………正攻法じゃないやり方に関しては勿論、僕が対処する。」
「……そうか。そういえば、今のエステルは貴族だが、お前とエステルが付き合っている事は他のメンフィル貴族達に何も言われなかったのか?」
ヨシュアの話を聞いたカシウスは静かに頷いた後、ある事を思い出して尋ねた。
「……身分の事だね。うん、特に何も言われなかったよ。本国――シルヴァン陛下達を始めとした各領の領主――公爵閣下達はみんなリウイ陛下のご子息、ご息女でエステルの事情も知っている為か、何も言って来ないよ。それに姉さん――プリネとファラ公爵閣下とサウリン公爵閣下が味方になってくれているからね。」
「そうか。ま、俺とレナは勿論賛成だ。……それにしてもエステルの前世の娘と息子であられるファラ公爵閣下とサウリン公爵閣下にはいつかお会いして、エステルの前世がどのような人物であったかを直接話を聞いてみたいな。」
「はは、それならリウイ陛下達に聞けばいいじゃないの?リウイ陛下はエステルの前世を側室として娶った人だし、カーリアンさん達も2人を知っているみたいだし。」
「勿論そうするつもりだが、”子供”としての視点も聞きたいしな。……ま、今回の祝賀会でエステルの前世の話を聞くことも含めてリウイ陛下達に2人と接触できる機会を設けて頂く事を頼んでみるさ。」
そしてヨシュアはカシウスから離れ、次にウィル達に話しかけた。
「ウィルさん、セラウィさん、エリザスレインさん。ご無沙汰してます。」
「やあ。君も挨拶回りかい?」
「はい。……その言い方だとウィルさん達も?」
ウィルに尋ねられたヨシュアは頷いてウィル達を見て尋ねた。
「ええ。リベールもそうですが、カルバード、エレボニアとも今後はメンフィルと通じで付き合って行くことになるでしょう。私達は挨拶を一通り終わらせてようやく、食事を始めた所ですよ。」
「……ま、挨拶回りの時、私の存在を見て驚き、”天使”の私がなんで”人間”の警護をしているかの疑問に答えるのは面倒だったけどね。」
「ご苦労様です。……ウィルさん達はやはり故郷に帰るんですか?」
セラウィとエリザスレインの答えを聞いたヨシュアは頷いた後、ウィル達に尋ねた。
「ああ。本当はもっと導力技術を学びたい所だけど、俺は”領主”だからそんなに長い間ユイドラを空けられないしね。本格的な技術は他の工匠やセティ達に学んで来てもらうつもりだよ。」
「セティ……前に話に聞きましたが確かウィルさん達のご息女でしたっけ?」
ウィルの答えを聞いたヨシュアは考え込んだ後、尋ねた
「ええ。私とウィルの愛娘のセルヴァンティティ――セティ……他にはシャルティの娘のシャマーラ、メロディアーナの娘のエリナも腹違いですが私にとって可愛い娘達ですよ。」
「近い内セティ達にはこちらの世界に来てもらって、大使館でこちらの世界の常識を学んで貰った後ある都市の警備機構が数か月後に立ち上げるという部署で色々学んでもらうつもりだ。遊撃士のサポートも考えたけど、遊撃士とはまた違った視点で学ぶのもいいしね……もしよければ、3人に出会ったら、気にかけてやってくれないかな?」
「それは構いませんが、ある都市とはどこですか?”警備機構”という言い方からして、王国中の都市ではないでしょうが……」
「………クロスベル市の”警察”が立ち上げる”特務支援課”。リウイの正妃のイリーナさんの祖父――ヘンリー市長を通じて、そちらの部署のサポートを3人ができるように手配してもらったよ。」
「クロスベルの”特務支援課”………わかりました。仕事でクロスベルに行って、3人に出会い、困っている時があれば、力になります。」
「ええ、お願いします。」
そしてヨシュアは次の人物――ジンに話しかけた。
「おう、ヨシュアか。」
「……ジンさん。復興作業にも力をお借りしてしまいましたね。本当に助かりました。」
「はっはっは。いいって事よ。これも遊撃士としての仕事の一つだからな。……だが、俺もそろそろ国に帰るとするか。共和国の内政も決して安定してるとは言えんからなぁ……それにヴァルターを師匠の墓の近くに埋めてやらねぇとな……」
お礼を言うヨシュアにジンは笑って答えた後、寂しい笑みを浮かべて答えた。
「……まさかヴァルターがメンフィル軍の闇討ちによる最後を遂げるとは思いませんでした。……確か話によるとヴァルターは猟兵を装ったメンフィル兵に誘導されて……」
「………その後”覇王の狼”――ルース将軍が麻痺毒を塗った矢をヴァルターが油断している隙を狙って、ヴァルターに命中させ、ヴァルターの戦闘力を奪い、そして部下達に止めを刺させた……と聞いている。同じ”武人”として戦う事もできずに討ち取られたヴァルターが哀れと思ったよ……」
「……あの、ジンさん。メンフィルの事は恨んでいるんですか?」
遠い目をしているジンにヨシュアは言い辛そうな表情で尋ねた。
「いや………ヴァルターは”結社”の”執行者”。メンフィルは”結社”を敵対視しているから、これもヴァルターの運命と思っているよ。敵将を味方に被害もなく討ち取るのには効果的な作戦だしな………もしかしたら、いつかメンフィル軍に討ち取られる日が来るかもしれないとも思っていたし……な。」
「……ジンさん………」
そしてヨシュアはジンから静かに離れ、女王やユリアにミュラー、エレボニア、カルバード大使に挨拶をした後、ケビンに話しかけた。
「……ケビンさん?まだリベールにいらしたんですか。」
「ああ、ヨシュア君もお呼ばれしとったんか。……どう、楽しんどる?オレの経験上、こーゆうトコではたらふく食っとかな後悔するで?」
不思議そうな表情で尋ねてきたヨシュアにケビンは笑顔で尋ねた。
「……ケビンさん、ありがとうございました。もしケビンさんがリベールを訪れていなかったら……僕は………」
「ああ、気にせんでええよ。オレのしたことなんて、ほんの些細なことやからね。……見たとこ顔色もええし、後遺症も収まったみたいや。恩とかそんなんは、もう忘れてくれてええよ。」
静かな表情でお礼を言うヨシュアにケビンは苦笑しながら答えた。
「………ケビンさん、もしかして貴方は………」
そしてヨシュアは言い辛そうな表情で何かを言いかけたが
「………ヨシュア君。オレはそろそろ、帰らなあかんけど……またどこかで、会えたらええな。」
ケビンが続きを制するように静かな表情で言った。
「……ええ、そうですね。」
ケビンの答えを聞いたヨシュアは静かな笑みで頷いた。そしてヨシュアは今度はミントとツーヤに近づいた。
「あ、パパ!」
「お久しりぶりです、ヨシュアさん。」
「久しぶり、ツーヤ。相変わらずミントとは仲がいいね。」
ヨシュアに気付いたミントは嬉しそうな表情をし、ミントと同じように胸元を開いた青と黒を基調としたドレスを着ているツーヤは会釈し、ヨシュアは2人の様子を微笑ましい様子で見ていた。
「フフ、だってミントとツーヤちゃんはお互いの事がわかる親友の中の親友だもん!」
「もう、ミントちゃんったら………」
嬉しそうな表情で言うミントにツーヤは苦笑していた。
「………そういえばツーヤには一度お礼を言うべき事があったんだ。」
「あたしにお礼ですか?一体何なんでしょう?」
「………プリネ―――姉さんをいつも守ってくれてありがとう。」
「フフ、その事ですか。あたしにとってマスターは大切な”パートナー”ですから言われなくても守りますから、お礼なんていいですよ。」
ヨシュアにお礼を言われたツーヤは上品な仕草で微笑んで答えた。
「そっか。……後2人に聞きたい事があるんだ。」
「何?」
「何でしょう?」
ヨシュアの言葉を聞いた2人は首を傾げた。
「2人はレーヴェの事……まだ許せないかな……?」
「「……………………」」
ヨシュアの言葉を聞いた2人は複雑そうな表情で黙り込んだあと、やがて口を開いた。
「ミントは少しは許しているけど、それでも完全には許せないよ………孤児院を焼いた人達を指揮していた人だし………それにパパと違って、自らの意志で指揮していたし……ね。」
「……マスターが幸せになるためにあの人が必要なのは頭では理解しているんですが、それでもあたしもミントちゃんと同じ答えです、本当にマスターの伴侶でいいのかと認めるべきなのか迷っています………」
「…………………あの。僕が頼むのは筋違いかもしれないけど、これからのレーヴェの態度を見てくれないかな………?それでレーヴェが許せるようになったら、できれば許してほしい。」
「……わかった。パパの頼みだし、いいよー。」
「……どの道あたしはリウイ陛下、シルヴァン陛下よりあの人の監視を申し付けられているので、あの人の行動を見て、あの人の本当の性格を見極めるつもりです。」
「そっか。ありがとう。」
2人の答えを聞いたヨシュアは頷いた後、今度はプリネとレーヴェがいるテーブルに近づいた。
「……2人とも、久しぶり。」
「………ああ。”異変”終結以来だから、数週間ぶりだな。」
「あら、ヨシュア。もしかして挨拶回りをしているのかしら?」
話しかけてきたヨシュアにレーヴェは静かに頷き、プリネは尋ねた。
「うん。……そのドレス姿、凄く似合っているよ、姉さん。」
プリネの問いに頷いたヨシュアは優しい微笑みでプリネの姿を褒めた。プリネの姿は肩をさらし、胸元を開き、胸元の真ん中には赤いブローチを付けている自分の髪の色のような夕焼け色と白のドレスだった。
「フフ、ありがとう、ヨシュア。でも今の私は”皇女”なんだから、似合っていないと恰好が着かないわ。」
「俺は”生前”のカリンでも似合っていると思うぞ?」
「もう、レーヴェったら……」
「(……2人とも、以前以上に親しくなっているな……この様子なら近い内、結婚する日が近いかもしれないな……)……そういえば、レーヴェを祝賀会に呼ぶなんて、アリシア女王陛下も思い切った事をしたね。」
2人の様子を微笑ましい様子で見ていたヨシュアはある事を思い出して、言った。
「……ああ。本来なら牢屋に入っていてもおかしくないはずなのに、最後の戦いでは手を貸したという理由で俺にも招待状が来たのは正直、驚いた。……俺の罪状の事といい、アリシア女王の慈悲には恐れ入る。」
ヨシュアの言葉にレーヴェは静かに答えた。
「”一定期間の世界追放”。そして追放されている間は異世界の国である私達、メンフィルがレーヴェを預かる事……ね。罪としては最高の罪かもしれないけど、私としてはレーヴェが以前のように近くにいるから嬉しいわ。」
「………まあ、”覇王”達からは厳しい目で見られているがな……」
嬉しそうな表情をしているプリネにレーヴェは苦笑しながら言った。
「ハハ……今の姉さんはリウイ陛下達の娘――メンフィル皇女……しかもあの”姫君の中の姫君”だからね。色々苦労するかもしれないけど、僕は応援しているよ、レーヴェ。」
「……そうか。」
ヨシュアの言葉にレーヴェは静かな笑みを浮かべて頷いた。
「そういえば、ヨシュア。私のドレス姿を褒めてくれたようだけど、あなたはもう着ないの?」
「え”!?な、何を言っているの、姉さん。」
プリネの言葉を聞いたヨシュアは驚いた後、焦った様子で尋ねた。
「あら……忘れたのですか、”ヨシュアさん”。私はあなたの姉――”カリン”であり、メンフィル皇女――”プリネ”でもあるんですよ?だから、”プリネ”の時の思い出――学園祭でのヨシュアのセシリア姫の姿も勿論、覚えているわよ?フフ、あの時のヨシュアのドレス姿……凄く似合っていたわ♪また、着てくれないかしら?」
ヨシュアの様子を見たプリネは微笑みながら答えた。
「ね、姉さん……!それは勘弁して……!僕にとっては二度と思い出したくない出来事なんだから……」
プリネの言葉を聞いたヨシュアは焦りながら言った後、溜息を吐いた。
「フッ。その割には役にはまっていたと思うがな。」
「レーヴェ!?まさか、見ていたの!?劇が始まる前、レーヴェの気配を一瞬感じたけど……」
「ああ。最も俺は気配を最大限に消していたから、劇をしているお前では気付かなかったがな……まあ、”覇王”には気付かれたが。」
「そ、そんな……姉さんだけでなく、レーヴェにまで見られたなんて……はあ………最悪だ………」
レーヴェの答えを聞いたヨシュアは肩を落として溜息を吐いた。そしてヨシュアはクルツ達やドルン達にも挨拶をした後、言い争いをしているエステルとジョゼットに近づいた。
「へー、パーティーに参加したと言ってもたった1回なんだ。やっぱりボクの方がパーティーに相応しいよね。何てったって、ドレスを着て社交界を渡り歩いていた事もあるんだからさ!」
「な、何よっ。あたしが参加したパーティーはメンフィルの皇族達が集まったパーティーだから、ボクッ娘が今まで参加したパーティーとは比べ物にならないんだから!あたしは数じゃなくて、質なのよ!それにあたしはボクッ娘と違って、今みたいにドレスを着て、社交界を渡り歩く時がこれから一杯あるかもしれないんだから!ボクッ娘が経験した数なんて、あっという間にぬくわよ♪」
勝ち誇った笑みを浮かべているジョゼットにエステルは言い返した。
「な、なんだとおっ!?」
エステルの言葉を聞いたジョゼットはエステルを睨んだ。
「……あ、あのさ、2人とも。一応公の場なんだから、そういう喧嘩はどこか別の所でしてくれないかな……?特にエステルは今はメンフィルの”侯爵”の一人なんだろう?君に位をあげたシルヴァン陛下達……というよりメンフィルの恥になる真似はよした方が……」
その様子を見たヨシュアは遠慮気味に仲裁しようとしたが
「「ヨシュアは黙ってて!!」」
「……ハイ…………」
エステルとジョゼット、2人同時に睨まれて黙った。
そしてヨシュアはリウイやリフィア達――メンフィル帝国の関係者達の所に向かった。
「……それにしても、本当にお前の”今の家族”の名前を伏せる事でいいのか、イリーナ。お前の”今の旧名”を公にすれば、お前の祖父の苦労も減ると思うが……」
「………はい。お祖父さまとも相談しましたが、やはり伏せる事にしました。……確かにあなたの言う通り、私の”今の旧名”を公にすれば、クロスベルの状況も変わるかもしれませんが、やっている事は結局両国と変わりません。だから、お祖父さまやクロスベルの事は気にしないで下さい、あなた。お祖父さまも『こちらの事は気にする必要はない。お前は自分の幸せだけを求めなさい。』とおっしゃっていましたし……」
「……そうか。”今”はよい家族を持ったものだな……」
「あら。”以前”の家族――エクリアお姉様やセリーヌお姉様も素晴らしい家族でしたよ?」
「……………」
イリーナの言葉を聞いたリウイが複雑そうな表情をしていたその時、自分達に近づいて来た人物――ヨシュアに気づいた。
「ん?お前は……」
「あら、ヨシュアさん。どうしたのですか?」
「……お久しぶりです、リウイ陛下、イリーナ皇妃。リベール各地の復興の兵達の出兵、ありがとうございました。……それにお二人とも先頭に立って、積極的に復興を手伝ったとも聞いていますし……」
「その事か。……同盟国として当然の事をしたまでだ。」
「ええ。私達は自分達のできる事をしたまでです。」
ヨシュアにお礼を言われたリウイは静かに答え、イリーナは微笑んだ。
「そういえば……プリネの話だと、あいつの前世の弟がお前だったな。……ラピスとリンが転生した人物――エステルの伴侶がプリネの前世の弟とは奇妙な縁だな……」
「フフ、世の中は広いようで意外と狭い証拠ですね。」
ヨシュアを見て呟いたリウイの言葉を聞いたイリーナは上品に笑った。
「………姉さんの事、これからもよろしくお願いします。」
「言われなくとも。あいつは俺にとっても大事な娘だからな。」
「勿論私にとっても、プリネは恩人であり、大事な臣下の娘でもありますから。」
ヨシュアに頭を下げられた2人はそれぞれ口元に笑みを浮かべて答えた。
「あの……先ほどお2人の会話が聞こえて少し気になったのですが……イリーナ皇妃はクロスベルと何か関係があるのでしょうか?」
「聞いていたのか。………イリーナ、どうする?」
ヨシュアの疑問を聞いたリウイはイリーナを見て尋ねた。
「そうですね………ヨシュアさん。私の旧名は訳あって伏せる事にしたのですが、エステルさんの恋人のあなたならいずれ知ると思いますし、話しても構いませんが、その代り他言無用でお願いできますか?」
「はい。」
「………私の旧名ですが……”イリーナ・マグダエル”です。”マグダエル”の名に聞き覚えはありませんか?」
「”マグダエル”。…………………!!まさか……!クロスベル市長の縁者の方なんですか!?」
「ええ。私はクロスベル市長――ヘンリー・マグダエルの孫娘にあたります。」
驚いているヨシュアにイリーナは静かな様子で答えた。
「………なるほど………確かに現クロスベル市長の縁者がメンフィル皇家――しかもリウイ陛下に嫁ぐなんて事が世間に知れ渡ったら、クロスベルの状況も大きく変わりますね……だから、伏せる事にしたんですか?」
「ええ。公にすればお祖父さまはメンフィル帝国という後ろ盾を得て、カルバード、エレボニアの両国の圧力に対抗できるのですが、お祖父さま自身、それをよしとしませんでした。……お祖父さま自身、そのやり方をよしとしないのもありますが、嫁ぎ先であるリウイ達に迷惑をかけたくないという親心があったのかもしれません。」
「そうだったのですか………ヘンリー市長も、アリシア女王陛下のような素晴らしい為政者なのですね。」
「ええ。私にとって自慢の祖父です。」
ヨシュアの言葉にイリーナは微笑んだ。そしてヨシュアは次にリタに何かを聞いているセオビットの所に向かった。
「……主と別れて、ナベリウスと一緒にずっと”冥き途”の門番をしていますが、今までその2人はこちらには来ていません。セオビットさんのお父さんは”魔人”とはいえ、元は”人間”なんですよね?でしたら、もし死んだのなら魂が私達の所に来るはずです。勿論亜人族の魂も来ていますから、エルフの方の魂も来ていますがセオビットさんが尋ねた特徴の方は来ていません。」
「……そう。なら、2人とももしかしたら、まだ生きているかもしれないという事ね……」
リタの答えを聞いたセオビットは複雑そうな表情をしていた。
「あら?ヨシュアさん。」
そしてリタは自分達に近づいて来たヨシュアに気づいた。
「やあ、2人とも。今は挨拶回りをしている所だけど……珍しい組み合わせだね。”グロリアス”での行動を見る限り、セオビットはレンとエヴリーヌと親しかったように見えたけど……」
「……この娘が死した魂が集まると言われる”冥き途”の門番だって事を思い出してね。少し知りたい事があったから、聞いてみただけよ。」
ヨシュアの疑問にセオビットは静かに答えた。
「知りたい事?一体何なんだい?」
「……私の両親の事よ。」
「実はセオビットさんは”この時代”の方ではなく、本来なら数百年前にいるはずの方なんです。」
「え!?じゃあ、どうやって今の時代――”未来”に来たんだい!?」
リタの説明を聞いたヨシュアは驚いて尋ねた。
「異世界のあなたに言ってもわからないと思うけど、私達の世界には”転移門”という別の場所へ一瞬に移動できる装置があってね。その装置の調子がおかしくなって、今の時代に飛ばされたのよ。」
「そうだったんだ……じゃあ、両親もいなくなった君を心配しているだろうね。」
セオビットの話を聞いたヨシュアは心配そうな表情をしたが
「………それはないんじゃないかしら。」
「え?」
寂しげな笑みを浮かべたセオビットの言葉を聞いたヨシュアは呆けてセオビットを見た。
「私の父親――イグナートは自分以外を”駒”として見ていたし、それは私も同じ事。私自身を見てもらう為に多くの戦場で活躍していたけど、結局私を見る目は変わらなかったしね……」
「えっと……セオビットのお父さんって一体……?」
「一国の”王”よ。……けど普段は自らを強化する魔術の研究ばかりしているわ。政治もしていたけどリベールやメンフィルと違って、最悪と言ってもおかしくない政治よ。」
「……一体どんな政治をしていたんだい……?」
セオビットの話を聞いたヨシュアは真剣な表情で尋ねた。
「策謀を巡らして、戦争を仕掛け他国に侵略し、そして侵略した国の宝や財産を根こそぎ奪い、王族達は処刑、そして民を奴隷として扱い、さらには侵略した国や攫ってきた姫君を魔術の実験として犯していた最悪の”暴君”よ。」
「…………………………」
セオビットの説明を聞いたヨシュアは信じらない表情で黙っていた。
「……母――シルフィエッタ・ルアシアは真偽は定かではないけどイグナートが納める国、”ザルフ・グレイス”に戦を仕掛けたエルフ国――”ルア・グレイスメイル”の姫君で、戦で敗北した祖国を守る為、シルフィエッタは父の元に来て、父の魔術の研究の為に犯されていたのよ。……で、その結果孕んで産んだのが私という訳。」
そしてセオビットは皮肉気に笑って説明をし終えた。
「えっと………ゴメン……君の出生がそんな壮絶とは知らず、安易に聞いちゃったみたいで………」
「ふふっ……別に気にする必要はないわ。以前の私はそんなの全然気にしていなかったし……」
「……じゃあ、”今の”セオビットさんは両親の事はどう思っているんですか?」
謝るヨシュアにセオビットは口元に笑みを浮かべて答えたが、リタがある事を尋ねた。
「ふふっ……痛い所をついて来るわね………そうね………父の事は振り向いてもらう為にいくら努力しても無駄だとわかったし今の私にはリウイ様がいるからもう、どうでもいいわ。今思えば、なんであんな男に振り向いてもらうために努力していたのか、今の私には過去の私を理解できないくらいよ……逆に今まで蔑ろにして来た母――シルフィエッタがもし今も生きているのなら今まで邪険にしていたことを謝って……シルフィエッタ――”母様”自身が許してくれるのなら、本当の”母娘”として接したいわね……今思えば、母様は憎んでいる男に無理やり犯され、孕んで嫌々産んだ娘である私に対して、憎しみの言葉を一つもぶつけずに一応親らしい事をしていたし………」
「………………」
「セオビットさん………」
寂しげな笑みを浮かべているセオビットに2人はかける言葉もなく、セオビットを見ていた。そしてヨシュアは静かに離れ、カーリアン達の元に向かった。
「あら、ヨシュアじゃない♪どうしたのかしら?」
「こんばんは、カーリアンさん、大将軍。今は挨拶回りをしている所です。」
「そう。……その謙虚さの一部でも見習ってくれないかしら?」
ヨシュアの答えを聞いたファーミシルスは頷いた後、嘲笑を浮かべてカーリアンを見た。
「ちょっと……誰の事を言っているのかしら?」
「フン。そんな事もわからないなんて、所詮ただの戦闘にしか役にたたない馬鹿ね。」
「なんですって~?」
ファーミシルスの言葉を聞いたカーリアンはファーミシルスを睨んだが、ある事を思い出してヨシュアを見た。
「そういえば、プリネと付き合っている男………レーヴェだっけ?あいつから話を聞いて思い出したけど、あんたとレーヴェ……以前私達が”教団”の拠点を潰す時、私達を隠れて見張っていた2人だったそうね?」
「……ええ。結社の指示で本来なら僕達が”教団”の拠点を潰すために来たんですが、先に貴女達がいましたから……様子見の為に隠れて見張っていたんですが……貴女達には意味がなかったですし……あの時は驚きました……隠行が得意な僕の気配すらも気付いたんですから……」
「フフ、まあ私達でないと気づけないほど、見事だったわよ。自分の力を誇りなさい。」
「……ありがとうございます。」
ファーミシルスの言葉を聞いたヨシュアは静かに頭を下げた。そしてヨシュアはリスティやチキ、サフィナ達に挨拶をした後、リフィア達の元に向かった。
「む?ヨシュアか。どうした。」
「やあ、リフィア、エヴリーヌ、レン。今、今までお世話になった人たちに挨拶回りをしている所なんだ。」
「ふ~ん……めんどくさい事をしているんだね。」
「……お前は少しはヨシュアの性格を見習ってほしいものなのだがな……レンは今回の祝賀会でちゃんと挨拶回りをしていたぞ?」
「うふふ、リフィアお姉様に褒められちゃった♪」
ヨシュアの話を聞いて答えたエヴリーヌの言葉を聞いたリフィアは呆れ、レンは口元に笑みを浮かべた。
「やだよ、めんどくさい。大体エヴリーヌは”客将”なんだから、そんな事をする必要はないでしょ?」
「……”客将”といえど、挨拶回りは必要だぞ?……まあいい。それよりヨシュア。エステルから別離した時の罰……余達は忘れていないぞ?」
エヴリーヌの答えを聞いたリフィアは溜息を吐いた後、不敵な笑みを浮かべてヨシュアを見た。
「えっと……できれば、お手柔らかにお願いしたいんだけど……駄目かな?」
リフィアの言葉を聞いたヨシュアは冷や汗をかいて尋ねた。
「フフ、大丈夫だ。そんな大した事ではないし、今与える訳ではないからな。」
「キャハッ♪ま、その時を楽しみにしていたらいいよ♪」
「うふふ、リフィアお姉様にヨシュアの罰を聞いたけど、素敵な罰よ♪レンはその時が来るのを楽しみに待ってるわ♪」
「ハハ………(い、一体どんな罰なんだろう……?)」
リフィア達の話を聞いたヨシュアは冷や汗をかきながら、苦笑していた。そしてヨシュアは次にペテレーネとティアの元に向かった。
「そうなんですか……お母様は”幻燐戦争”の頃から変わらない方だったんですね……」
「ええ………共に戦場を駆け巡って、兵士の方達の傷を治癒した仲……でしょうか?私にとってティナさんは数少ない友人でした……」
「フフ……お母様もペテレーネ様の事は自分にとって大切な友人だとおっしゃっていましたよ。」
「……そうですか……」
ヨシュアが2人に近づいた時、2人はそれぞれ微笑みながら会話をしていた後、ヨシュアに気づいた。
「あら、ヨシュアさん。」
「……ペテレーネさん、ティアさん。”異変”や復興作業で傷ついた人達をそれぞれの宗教の最高指導者であるお二人自ら率先して、魔術を使って傷を回復していたと聞きます。……リベールの為にありがとうございました。」
ペテレーネに声をかけられたヨシュアは静かに頭を下げてお礼を言った。
「あ、あのヨシュアさん。私達は当然の事をしたまでですし、私達はあくまでゼムリア大陸のそれぞれの宗教の指導を任せられているだけで、最高指導者だなんて、そんな恐れ多い身分ではありませんから……私は本来、単なる司祭の一人ですし……」
「私もティアさんと同じですよ、ヨシュアさん。……確かにアーライナ様は異世界で宗教を広める事に成功した事をお褒めになられていましたが、それでも立場は以前と変わらず、アーライナ様より新たな力を授かり、ゼムリア大陸の宗教の指導を任されただけですよ。」
ヨシュアの言葉を聞いた2人は苦笑しながら答えた。
「お2人はこれからも変わらずそれぞれの活動を?」
「ええ……傷ついた方達を癒す……それがイーリュンの信徒である私がすべき事なのですから……」
「……私も以前と変わらず、リウイ様とイリーナ様の傍に仕え、そして神官長としてアーライナ様の教えを広げるのが私の役目ですから……そういえばヨシュアさんはプリネにとって前世の弟でしたね。」
ヨシュアの言葉に2人は静かに頷き、ペテレーネはヨシュアに尋ねた。
「はい。……こんな事を言うのはおかしいかもしれませんが、姉さん――プリネを産んで下さってありがとうございます。お蔭で姉さんと生きて再会できました。」
「……プリネは私にとってリウイ様と出来た念願の可愛い娘です。そんな娘が誰かの喜びとなってくれるだけで、あの娘を産んだ身として、嬉しい限りです。……これからも仲良くしてあげて下さい。」
「……はい。」
ペテレーネの言葉にヨシュアは静かに頷いた後、2人から離れた。
「……大体、挨拶は済んだかな。話し込んでいる人もいたから、後でもう一度回った方がいいだろうけど……」
挨拶回りを終えて、独り言をヨシュアが呟いたその時、ヨシュアの背後からナイアルが忙しそうに駆け回っていた。
「おっ、いたいた。ドロシー、次はいよいよリウイ陛下とイリーナ皇妃だ!……オラ、急げ!」
ナイアルの怒鳴りに答えるかのようにドロシーがよろよろとナイアルに近づいて来た。
「せんぱ~い……なんだか……おなかがタポタポしてきました~………ううっ、気持ち悪いですぅ……」
「……ガブ飲みばっかしてるからだろ。オラ、もたもたするな!」
「は、はぁい……」
そして2人はどこかに向かった。そしてヨシュアが2人を見守っていると、ある人物がヨシュアに近づいて、声をかけて来た………
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