英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第109話(8章終了)
~リベール・エレボニア・メンフィル・国境付近~
「……皇子!一体どういうおつもりか!久々に顔をお見せになったかと思えばこ、このような猿芝居を……!」
「ハッハッハッ。やっぱりバレちゃった?」
ゼクスに怒鳴られたオリヴァルトは本来の口調と笑顔――オリビエの口調と笑顔で悪びれもなく笑いながら尋ねた。
「当たり前ですッ!よもや皇子がリベールでこのような事を企んでいたとは……。しかもメンフィルと手を組んで、このような事を実行するとは……!ミュラー!お前が付いていながら何事だ!」
オリビエに尋ねられたゼクスは怒り心頭の様子で怒鳴った後、ミュラーを睨んで怒鳴ったが
「お言葉ですが叔父上……この男が、俺の言うことなど素直に聞くとお思いですか?」
「ぐっ……」
ミュラーの答えを聞いて唸り、黙り込んだ。
「それに俺も少々、納得がいかないこともある。『ハーメルの惨劇』……今度の一件で初めて知りましたよ。」
「!!!」
さらにミュラーの言葉を聞いたゼクスは顔色を一変させた。
「……やはりご存知でしたか。」
「ハハ、先生があの事件を知らないはずがないだろう?当時からすでに軍の重鎮だったのだからね。」
「………………………………」
ミュラーが呟いた言葉をオリビエは笑いながら指摘し、ゼクスは目を伏せて黙り込んだ。
「いやいや、先生。あなたを責めるつもりはないよ。一部の主戦派が企てただけで、先生たちは一切関与していなかったという話だからねぇ。あまりに酷いスキャンダルゆえ、徹底的に行われた情報規制……。賛成はしかねるが、納得はできる。臭い物にはフタを、女神には祈りを。国民には国家の主義をと言うわけだ。だが……」
黙り込んだゼクスにオリビエは笑顔で言った後、目を閉じて語った後、目をあけてゼクスを見据え
「―――同じような欺瞞を繰り返すことは許さない。」
オリビエは冷たい微笑みを浮かべて答えた。
「……ッ…………」
オリビエの表情を見たゼクスは身体を震わせて驚いた。
「先生、あなたも本当は気付いているはずだ。唐突すぎる蒸気戦車の導入……。そして不自然極まるタイミングでの出動命令……。全ては”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンの描いた絵であることを。……恐らくメンフィル軍の登場も予期していただろう。彼らと交戦する事で戦争の切っ掛けを作ってしまう事すらもね。」
「!!」
「今回の事で確信したよ。彼は間違いなく”身喰らう蛇”と通じている。その事が、帝国にとってどのような影響をもたらすかは何とも言えないが。いずれにせよ、一国の宰相にふさわしい振る舞いではあるまい?」
「………………………………。皇子、まさか貴方は……」
ゼクスは考え込んだ後、重々しい様子を纏わせてオリビエを見た。
「フフ、そのまさかだ。10年前に頭角を現して帝国政府の中心人物となった軍部出身の政治家……。帝国全土に鉄道網を敷き、幾つもの自治州を武力併合した冷血にして大胆不敵な改革者。帝国に巣食うあの怪物をボクは退治することに決めた。今度の一件はその宣戦布告というわけだ。」
「……何ということを。皇子、それがどれほど困難を伴うことであるのか理解しておいでなのか?」
「そりゃあ勿論。政府は勿論、軍の7割が彼の傘下にあると言っていい。先生みたいな中立者を除けば反対勢力は衰え始めた諸侯のみ。さらにタチが悪いことに父上の信頼も篤いときている。まさに”怪物”というべき人物さ。」
ゼクスに尋ねられたオリビエは疲れた表情で答えた。
「ならばなぜ……!」
「フッ、決まっている。彼のやり方が美しくないからさ。」
「!?」
オリビエの答えを知ったゼクスは驚いた。
「リベールを旅していてボクはその確信を強くした。人は、国は、その気になればいくらでも誇り高くあれる。そしてボクの祖国と同胞にも同じように誇り高くあってほしい。できれば先生にもその理想に協力して欲しいんだ。」
「………………………………。……皇子。大きくなられましたな。」
オリビエの話を聞いたゼクスは黙り込んだ後、静かに答えた。
「フッ、男子三日会わざれば括目して見よ、とも言うからね。ましてや先生に教わった武術と兵法を教わっていた時から7年も過ぎた。少しは成長したということさ。」
「フフ……そうですな。……撤退に関しては了解しました。ただし、我が第3師団はあくまで先駆けでしかありませぬ。すでに帝都では、宰相閣下によって10個師団が集結しつつあります。今日を入れて3日……それ以上の猶予はありますまい。……それに恐らくメンフィルも黙ってはいますまい。」
「ああ……心得た。」
「ミュラー。お前も皇子に付いて行け。危なくなったら首根っこを掴んででも連れて帰るのだぞ。」
「ええ、元よりそのつもりです。」
ミュラーの答えを聞いたゼクスは振り返り、エレボニア兵達に指示した。
「全軍撤退!これより第3師団は、パルム市郊外まで移動する!」
「イエス・サー!」
「やれやれ……。これで少しばかり時間は稼げたか。それにしてもホント、ボクって信用ないんだねぇ。」
撤退していくエレボニア軍を見守っているオリビエは溜息を吐いた。
「……当たり前だ、阿呆。正直、ここまで大げさにやらかすとは思わなかったぞ。しかもメンフィルまでも巻き込んで………」
「どうせやるなら派手な方がいいしね~。それに君だって律儀に準備を進めてくれただろう?言わば、甘い蜜を吸い合った相思相愛の共犯者というわけだ。」
「おぞましいことを言うなっ!」
「オリビエっ!」
オリビエとミュラーが歓談している所にエステル達が来た。
「やあ、エステル君。ご苦労様だったねぇ。」
「ご苦労様じゃないわよ!一体、何がどうなっているわけ!?」
「どうしたもこうしたも、まあ、見た通りのまんまさ。帝国内で怪しげな陰謀が進行していたものだからね。ちょっと一芝居をうって出鼻を挫いてやったわけだ。」
「一芝居って……あんたね。」
オリビエの説明を聞いたエステルはジト目でオリビエを睨んだ。
「敵を欺くためにはまず味方からと言うからねぇ。君たちとの本気の交渉を経てあのタイミングでアルセイユが来る……。これが今回、ボクとカシウスさんが考え出したシナリオだったのさ。それとエステル君達とロレントの大使館に行った時、リウイ陛下にも今回の件に載ってもらったのさ。」
「や、やっぱり……っていうか、あの時誤魔化したのはその話だったのね………」
「そうだと思いましたよ。」
オリビエの説明を聞いたエステルは呆れ、ヨシュアは苦笑しながら言った。
「……ま、そういう事だ。」
「全く………もう少しマシな方法を思いつかなかったのか?」
「父さん~っ!?リウイ~っ!?」
そしてそこにやって来たカシウスとリウイをエステルは睨んだ。
「俺を攻めるのは筋違いだぞ。………俺達は少し手伝っただけだ。文句ならあんな茶番を考えたそこの2人に言え。」
「フフ、あなたったら………」
リウイの言葉を聞いたイリーナは微笑んだ。
「そう恐い顔をするな。導力通信で聞いていたがなかなかの交渉ぶりだったぞ。おかげでアルセイユの登場が効果的に演出できたからな。」
「導力通信で聞いてたって……」
「まさか……あのアーティファクトで?」
カシウスの話を聞いたエステルは驚き、シェラザードはオリビエを見て尋ねた。
「おっと、シェラ君。それは言わないでくれたまえ。彼に聞かれると少しばかり面倒だからね。」
「……何を白々しい。今さら隠したって遅いですわ。」
オリビエが答えた時、ユリアとラッセル博士と共にケビンもやって来た。
「ケ、ケビンさん!?」
「お、おじいちゃん!」
「ユリアさんも……」
ケビン達の登場にエステルとティータ、クローゼも驚いた。
「殿下……。王都での襲撃は聞きました。本当に……ご無事でよかった。」
「ごめんなさい……。心配をかけてしまいましたね。」
心配そうな表情のユリアに見つめられたクローゼは申し訳なさそうな表情で答えた。
「いや~、アルセイユの改造がもっと早く終われば王都の危機にも駆けつけられたんじゃが……。思っていた以上に時間がかかってしまってのう。じゃが、皆無事で良かったわい。」
「そ、そういや……。どうしてアルセイユが空を飛んでやがるんだよ!?」
呑気に語る博士にアガットは尋ねた。
「ひょっとして……『零力場発生器』の大型版なの?」
「うむ、その通りじゃ。お前さんたちに渡したのは大型版を開発するために試作したプロトタイプでな。今までアルセイユに閉じこもってようやく完成にこぎつけたんじゃ。」
ティータに尋ねられた博士は頷いて答えた。
「そうだったんですか……」
「要するに、何もかもが父さんの差し金だったわけね?」
「人聞きの悪いことを言うな。俺はただ、皆が動きやすいようにお膳立てをしただけにすぎんさ。お前たちも自分自身の意志で今まで行動してきたんだろう?」
「そ、それはそうだけど……。そういえば、ケビンさんがどうしてここにいるわけ?」
カシウスに指摘されたエステルは頷いた後、ケビンを見て尋ねた。
「ああ、ぶっちゃけ大聖堂に騎士団本部からの連絡が届いてな。”輝く環”がどういう物で、どうすれば災厄を抑えられるか大体のところが分かってきたんや。それをカシウスさんに話してたらこんな所まで付き合わされてな。」
「ええっ!?」
「”輝く環”の正体……ですか?」
ケビンの説明を聞いたエステルは驚き、ヨシュアは真剣な表情で尋ねた。
「ああ……。”輝く環”っちゅうのはあの浮遊都市そのものやない。都市全体に導力を行き届かせてコントロールする古代遺物らしい。そして、その端末があの”ゴスペル”だったわけや。」
「都市をコントロールする古代遺物……」
「で、でもどうしてそんな物が導力停止現象を?」
「これは推測やけど……”環”は外界に存在する異物を排除する働きを備えてるらしい。この場合、異物っちゅうんは現代に造られた新たな導力器―――すなわちオーブメントってことや。」
「影響範囲内にある異物をことごとく無力化する……。いわば防衛機構といったところか。」
「その可能性は高いじゃろう。そしてそれが本当なら一条の光明が見えてくる。あの巨大さゆえ、都市そのものをどうにかするのは困難じゃが……。都市のどこかにあるという”環”の本体さえ発見できれば対策の立てようもあるはずじゃ。」
ケビンの説明を補足するようにジンが話し、博士も頷いて言った。
「なるほど……そういうことですか。」
「本体を叩いて全てを無力化するというわけですね。」
「た、確かに光明かも……」
博士の説明を聞いたヨシュアとリタは納得した表情で頷き、エステルも頷いた。
「ふむ、いい感じで最終目的が定まってきたようじゃないか。それでは早速、”アルセイユ”であの浮遊都市を目指すわけだね?」
「それを決めるのは”アルセイユ”を所有するリベール王家になりますな。姫殿下……どうかご決断を。」
オリビエに尋ねられたカシウスはクローゼを見た。
「……分かりました。これより”アルセイユ”はヴァレリア湖上に現れた古代の浮遊都市へと向かいます。ユリア大尉、発進の準備を。」
「了解しました!」
クローゼの指示に敬礼をして答えたユリアは一足早くアルセイユに向かった。
「そして遊撃士の皆さん……。どうか窮地にあるリベールに皆さんの力をお貸しください。恐らく、この件に関しては最後の依頼になると思います。」
「ふふ……そうね。」
「ま、答えは決まっているようなもんだが……」
「ここはひとつ代表者に答えてもらうとしようか。」
「賛成~!」
「ん……代表者?」
クローゼの話を聞き、シェラザード達の会話を聞いたエステルは首を傾げた。
「あのな……エステル。お前の事に決まってるだろ?」
「ええっ!?」
アガットの指摘を聞いたエステルは驚いた。
「ふふ……何を面食らってるんだか。確かに、それぞれ個人的な因縁は持っているけれど……。でも、何だかんだ言ってあたしたちは皆、あんたの旅に付き合わされたようなものよ。」
「その意味では、エステル。お前さんは間違いなく俺たちのリーダーってわけさ。」
「あ、あうあう……」
シェラザードとジンの話を聞いたエステルは緊張して、口をパクパクさせた。
「………栄冠式の時はあれだけ堂々としていたのに、何故、今更そこまで緊張するのかがわからんな。」
「やれやれ……。まだ荷が重いんじゃないか?」
エステルの様子を見たリウイとカシウスは呆れた表情で答えた。
「……そんな事はないよ。どんな時もエステルは前向きに、決して希望を諦めずにいてくれた。その輝きはどんな時でも僕を―――僕たちを導いてくれた。だから……エステルじゃなきゃ駄目なんだ。」
「ちょ、ちょっとヨシュア!」
「えへへ……お姉ちゃん、真っ赤だよ?」
「恥ずかしがることはありませんよ、エステルさん。自分の思いを言えばいいだけなのですから。」
「~~っ~~~~。あーもう、分かったわよ!クローゼの依頼……つつしんで請けさせてもらうわ!必ずや、あの浮遊都市にある《輝く環》を見つけ出してこの事態を解決してみせるから!」
ヨシュアとティータ、イリーナの言葉を聞いて恥ずかしがったエステルは気を取り直した後、答えた。
「ふふ……よろしくお願いしますね。」
「やれやれ……何とか話がまとまったか。これで俺もようやく司令部に戻ることができる。」
「父さん……やっぱり付いてきてくれないんだ?」
カシウスの言葉を聞いたエステルは若干残念そうな表情で尋ねた。
「ああ……悪いな。一時的に撤退したとはいえ帝国軍の脅威は無視できん。ハーケン門だけではなく、海からの侵攻の可能性もあり得る。もちろん王都で起こった”結社”の襲撃も予想できるだろう。この状況で王国軍を留守にするわけにはいかんのだ。」
「うん……わかってる。あたしはあたしで頑張ってくる。ヨシュアとミントと……それからみんなと一緒にね。だから父さんも……倒れない程度に頑張ってね」
「ああ……任せておけ。ヨシュア……お前にはこれを渡しておこう。」
「え……」
そしてカシウスは一通の手紙をヨシュアに渡した。
「これは……?」
「ま、ちょっとした親心さ。男と男の話だからエステルには刺激が強すぎるかな。」
「な、なによそれ……」
「……分かった。後で読ませてもらうよ。」
「ああ、そうするといい。」
「まったくもう……。男っていうのはこれだから。」
ヨシュアとカシウスの様子を見たエステルは呆れて溜息を吐いた。
「まあ、そう拗ねるな。全てのケリが付いたら俺も休暇を取るつもりだ。その時は久しぶりに家でのんびりと過ごすとしよう。その時は、エステル。レナと一緒にまたあのオムライスを作ってくれ。」
「あ……。……うん、任せといて!」
「フフ、その時はミントも一緒に作るね!」
「ああ、楽しみにしているぞ。」
ミントの言葉を聞いたカシウスは笑顔で頷いた。
「そういえば……リウイ達はこれからどうするの?」
そしてエステルはリウイとイリーナを見て尋ねた。
「……無論、”同盟国”としてあの戦艦――”モルテニア”でお前達が”アルセイユ”で向かうようにあの浮遊都市に向かうつもりだ。……エレボニアの皇子が共に向かうのに、俺達が向かわないわけがあるまい?」
「え……ホント!?」
「ハハ……クーデターの時以上の心強い味方が出来たな。」
「ええ……まさか”覇王”達やメンフィル軍が共に来るなんて、本当に心強いわ。」
リウイの説明を聞いたエステルは表情を明るくし、ジンとシェラザードはリウイ達が共について来る事に心強さを感じていたその時
「余達の事を忘れてもらっては困るぞ!」
「キャハッ♪エヴリーヌもいるよ♪」
「リフィア!エヴリーヌ!聖女様!それにみんなも………!」
なんとエヴリーヌと共にリフィア、ペテレーネ、カーリアン、プリネ、ツーヤ、レン、リスティ、ティア、チキが転移して来た。
「勿論、俺達もいるよ。」
「あ………ウィル!」
そしてウィルとセラウィ、エリザスレインが”モルテニア”の方から歩いて、エステル達に近づいて来た。
「私達もいますよ、エステル殿。」
「フフ、クーデターの時と違って、私も久しぶりに存分に戦わせてもらうわ。」
「サフィナさん!大将軍さんも!」
さらに上空から降りて来たサフィナとファーミシルスにエステルは明るい表情をした。
「リウイ様。ご指示通り、各部隊持ち場に戻らせました。」
「こちらもです、リウイ様!」
そしてシェラとルースがそれぞれ両横からリウイに近づいて来た。
「わかった。予定通り2人共、俺達と共に浮遊都市に向かうぞ。……それとクローディア姫達にも挨拶をしておけ。これから共に戦う戦友になるのだからな。」
「「ハッ。」」
リウイの指示にシェラとルースは敬礼をして答えた後、エステル達を見た。
「……メンフィル帝国正規軍の将の一人にしてファーミシルス様の副官のルースと申します。以後、お見知りおきを。」
「メンフィル帝国機工軍団団長、シェラ・エルサリス。」
ルースは敬礼をして自己紹介をし、シェラは淡々とした表情で答えた。
「ふむ………貴殿が噂に聞く”覇王の狼”ですか。お会い出来て光栄です。」
「……こちらも貴方に会えて光栄です、”剣聖”殿。」
驚いた様子のカシウスに言われたルースは口元に笑みを浮かべて答えた。
「ほう……貴女があの”破壊の女神”か。フフ、まさに”女神”と言われてもおかしくない美しさだね♪もしよければ、ボクの愛の歌を聞いてくれるかな♪」
「……………………」
そしてオリビエはシェラを見てナンパを始めた。ナンパをされたシェラは何も答えず、黙っていた。
「貴様という奴は…………!」
「プッ……!シェラに声をかける男なんて、初めて見たわ~♪」
「ええ………フフ…………エレボニアで恐れられているシェラによくあんな態度で接するわね………」
オリビエの行動を見たミュラーは頭痛がした後、オリビエを睨み、カーリアンは笑いを堪えながら言い、ファーミシルスは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「………言っておくが、シェラは魔導によって誕生した機械人形だ。よって、そいつには感情がない為、そんな事をしても無駄だぞ。」
その様子を見たリウイは呆れた表情で説明した。
「ふえ………!?」
「何と……!これほど人に近い機械人形がいるとは……!(う~む……ぜひ、構造とか調べたいの~。)」
「オイオイオイ…………俺らからしたら、特大のアーティファクトやないか………そんなんを堂々と俺らの前で使わんといて下さいよ………」
リウイの説明を聞いたティータは驚き、博士は驚いた後興味深そうな表情でシェラを見つめ、ケビンは疲れた表情で溜息を吐いた。
「あ、あのあの。私、ティータ・ラッセルって言います。シェラ団長さんは”魔導”について、よく知っているんですか?」
そしてティータは遠慮気味にシェラに尋ねた。
「……知っていますが、機密情報の為、黙秘します。」
「はう~………そうですか………やっぱり、メンフィルに留学するまで我慢するしかないのかな………」
シェラの答えを聞いたティータは肩を落としたが
「”魔導”を知りたいのかい?それだったら、俺もある程度なら知っているけど。」
「ふえ!?」
「何じゃと!?」
ウィルの言葉を聞いたティータは驚き、博士は血相を変えてウィルを見た。
「俺も”工匠”という職業柄、”魔導”技術で色んな物を作ったりするからね。ある程度は知っているから、それでよければ教えるよ。」
「ほ、本当か!?」
「わあ………!」
ウィルの話を聞いた博士とティータは表情を輝かせた。
「ただし、その代りにオーブメント技術について知っている限りの事を教えてくれることが条件だよ。」
「フフ、”工匠”としての依頼料代わりですね。」
「ハア………頭が痛くなって来るわ………」
ウィルの話を聞いたセラウィは微笑み、エリザスレインは呆れた表情で溜息を吐いた。
「そんなもんでよければ、いくらでも教えるぞ!」
「交渉成立……だね。」
博士の答えを聞いたウィルは笑顔で頷いた。
「ドキドキ……ワクワク………」
「フフ、ティータちゃんったら、凄く輝いているよ。」
「うん、そうだね。」
「機械好きなのは相変わらずだね。」
「うふふ、それでこそティータね♪」
目を輝かせてウィルを見ているティータを見たミント、リタ、ツーヤ、レンは微笑んでいた。
「リスティもまた力を貸してくれるんだ!ありがとう!」
「はいです~。リスティ、エステルの為に頑張ります~。」
エステルにお礼を言われたリスティはほのぼのとした様子で答えた。
「フフ、ありがとう。……それとチキも久しぶりね。また、異世界の商品を一杯持って来てくれたの?」
「はい………もしよければ………ここで……見て行きますか………?」
「ハハ、さすがにそれは遠慮しておくよ。向こうに着いてから見せてくれればいいから。」
チキの言葉を聞いたヨシュアは苦笑しながら言った。
「それにしても”ゼムリアの二大聖女”と言われるお二人が揃って、力を貸して頂けるなんて思いもしませんでしたね。」
「あの………何度も言っていますが、”聖女”という呼び方はやめて下さい……本当に恥ずかしいのですから……」
「ティアさんのおっしゃる通りです、クローディア姫………私達は当然の事しかしていないのですから……」
クローゼの言葉を聞いたティアとペテレーネは恥ずかしそうな表情で言った。そして気を取り直したペテレーネはシェラザードを見た。
「それにしても……まさかシェラザードさんと一緒に戦う日が来るとは思いませんでした。」
「あたしもです、師匠。時間がある時でいいのでまたご教授お願いできますか?」
「フフ、私で出来る事なら構いませんよ。」
シェラザードの頼みにペテレーネは微笑んで答えた。
「あの……ティア様。」
一方その横ではクローゼがティアに話しかけていた。
「何でしょうか、クローディア姫。」
クローゼに話しかけられたティアはクローゼを見た。
「その……恐れ多いと思うのですが、後で時間のある時にイーリュンの治癒魔術を教えて頂いてもよろしいでしょうか……?」
「構いませんが……クローディア姫は魔術が使えるのですか?」
「はい。冷却魔術を少し。」
ティアに尋ねられたクローゼは頷いて答えた。
「わかりました。浮遊都市に到着してからでしたら、構いませんよ。」
「え……本当にいいのですか?その……私はティア様と違い、戦う事もあるのですが……」
ティアの返事を聞いたクローゼは驚いて尋ねた。
「確かに私のような信仰による魔術は無理ですが、秘印術なら可能です。……私の教えた魔術で一人でも多くの傷ついた方を癒すおつもりなのでしたら、喜んでお教えしましょう。」
「ティア様……ありがとうございます……」
ティアに微笑まれたクローゼもまた、微笑んで答えた。
「………あの、プリネ。」
「?何でしょうか、ヨシュアさん。」
ヨシュアに尋ねられたプリネは不思議そうな表情で尋ね返した。
「君は…………えっと…………ごめん。何でもないよ。」
「?はあ…………?」
何かを言いかけたが、結局言うのをやめてしまったヨシュアを見てプリネは不思議そうな表情をした。
「………そういえばヨシュアさん、エステルさんが持っていたハーモニカは返してもらったのですか?」
「うん。」
「フフ、そうですか。エステルさんに貸してもらって、使った事がありますけど、本当に大事にされているのですね。」
「え……プリネ、このハーモニカで何か曲を吹いた事があるのかい?」
プリネの言葉を聞いたヨシュアは驚いてハーモニカを取り出して尋ねた。
「ええ。ヨシュアさんも知っている”星の在り処”ですよ。」
「…………………………………」
プリネの答えを聞いたヨシュアは呆けた表情でプリネを見た。
「……………あの、プリ……」
そしてヨシュアは考え込んだ後、決意の表情で何かを言いかけたが
「ヨシュア~!そろそろ行くわよ~!」
「俺達も行くぞ、プリネ。」
エステルとリウイがそれぞれ2人を呼びかけた。
「わかりました。では、ヨシュアさん。浮遊都市で。」
「あ………」
リウイ達と共に行くプリネをヨシュアは名残惜しそうな表情で見つめていた。
「?どうしたの、ヨシュア?」
ヨシュアの様子に気付いたエステルは首を傾げて尋ねた。
「……何でもない。僕達も行こうか、エステル。」
「うん。(あっちゃ~……もしかしてタイミングが悪い時に話しかけちゃったかな~……)」
内心自分の行動を少し後悔していたエステルだったが、顔には出さずヨシュアと共にアルセイユに向かった。そしてアルセイユとモルテニアは同時に離陸し、そして浮遊都市に向かって飛び去った。
「………………………………」
「いいのか……カシウス?そんなに心配ならば行っても良かったのだぞ?」
浮遊都市に向かって行くアルセイユとモルテニアを見送っているカシウスにモルガンは言った。
「いや、いいんです。例のワイスマンという男……。思っていた以上に危険極まりない。私が同行していた場合、恐らく手段を選ばないでしょう。」
「確実に抹殺してくるか……。……やれやれ。お前も随分買われたものだな。リウイ皇帝陛下達より警戒されているとは。」
「まったく、えらい迷惑ですよ。ですが、逆にそこに付け入る隙が出てくるでしょう。……それにリウイ殿を含めたメンフィルの名のある将が勢ぞろいしている上、かなりの数のメンフィル兵達を連れて行ってるようですから、大丈夫でしょう。」
モルガンの言葉にカシウスは溜息を吐いて答えた。
「虚実入り混じった読み合いか……。まあ、敵もさすがに”覇王”達が来る事は予想外だろうな。……”鉄血宰相”の方はどうだ?」
「あちらもあちらでやっかいな御仁ですが……。まあ、こちらがこれ以上隙を見せなければ大丈夫でしょう。」
「ふむ、そうか……。全ては”アルセイユ”とリウイ皇帝陛下の一行にかかっているというわけだな……」
「ええ……」
モルガンの言葉に頷いたカシウスは空を見上げた。
(……女神達よ……。あの子たちの足元をどうか照らし出してくれ……。この大いなる空の下……自らの道を見つけられるように。)
そしてカシウスは心の中で祈った…………
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