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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第108話

~リベール・エレボニア・メンフィル・国境付近~



エステル達が到着する少し前、ハーケン門の内側では王国軍が集結しており、外側ではエレボニアの”蒸気機関”による戦車とエレボニア兵達の大軍が国境に集結しており、そいてそれぞれの軍を率いる将であるモルガン、ゼクスが2人の護衛兵を控えさせて、ある程度の距離をとって対峙した。

「説明してもらおうか!ゼクス・ヴァンダール中将!何故、このような場所に帝国軍の師団がやって来る!?締結されたばかりの不戦条約、よもや忘れたとは言わさんぞ!?」

ゼクスと対峙したモルガンはゼクスを睨んで怒鳴った。

「モルガン将軍……。説明していただきたいのはむしろこちらの方です。」

「なに……!?」

しかし静かに尋ね返したゼクスの言葉にモルガンは驚いた。

「先日より、帝国南部の街で導力器が働かなくなるという異常現象が続いている状態です。そしてそれは、謎の巨大構造物が貴国の湖上に現れてからという確かな報告が届けられています。これは一体どういう事ですかな?」

「……どういう事も何も今、お主が言った通りだ。我々も、突然現れた災厄に混乱しきっている状態にある。」

「どうやらその様ですな。そしてその災厄が帝国領土を侵しているのも事実。ならば、我々がここにいる理由も理解して頂けると思うのですが。」

「おぬしら……我らの弱味に付け込むつもりか?」

ゼクスの話を聞いたモルガンは静かに尋ねた。

「そのつもりはないと一応、言っておきましょう。異常現象に乗じて怪しげな犯罪組織が王国内で跋扈(ばっこ)しているとも聞いています。不戦条約を結んだ同盟国として何とか力になれないか……。帝国政府としてはそのような意向のようです。」

「戯言を……。ならばその戦車は何だ!?蒸気によって動く戦車などわしは今まで聞いたことがない!どうしてそんな代物をこの状況で都合よく連れてきた!?」

「それは……軍事機密と申し上げておく。だが、この戦車があればこそ市民たちの不安を和らげられるし、帰国の窮状を救うことも適かないましょう。どうかご理解いただけませんか?」

「くっ……」

ゼクスの説明を聞いてモルガンが唸ったその時

「……お気遣いとても嬉しく思います。」

「!?」

聞き覚えのある声を聴いたモルガンが驚いて振り返った時、エステル達と共にいつもの学生服ではなく、貴族の服を着たクローゼがモルガン達の背後から現れ、クローゼはモルガンの横に並んだ!



「な……!」

クローゼの登場にモルガンは信じられない表情で驚いた。

(ひ、姫様!?どうしてここに!?)

(モルガン将軍、ご苦労様です。どうかこの場の交渉は私に任せていただけませんか?)

(で、ですが……。それにどうしておぬしらまでいるのだ!?)

クローゼの話を聞いたモルガンは戸惑った後、エステル達を見て尋ねた。

(一応、クローゼの護衛なの。)

(それと、いざという時には仲裁をさせてもらうつもりです。)

(ミントとママはメンフィルの貴族だけど、この場は”遊撃士”として仲裁するつもりだよ。)

(むむ……)

エステルとヨシュア、ミントの話を聞いたモルガンは何も返せず、唸った。

(未熟な私に交渉役は務まらないかもしれませんが……。ですが、王太女としての務めを果たすべき時だと思うのです。どうか……お願いします。)

( ……分かり申した。ですが、いつ牙を剥くか判らぬ軍勢の前です。いざという時はすぐに門に逃れる準備をして下され。)

(……分かりました。)

そしてクローゼが一歩前に出た。

「どうやら交渉相手が変わったようですな。見ればやんごとなき身分のお方とお見受けいたすが……」

「お初お目にかかります。わたくしの名は、クローディア・フォン・アウスレーゼ。リベール女王アリシアの孫女にして先日、次期女王に指名された者です」

「!!こ、これは失礼いたした!自分の名は、ゼクス・ヴァンダール。エレボニア帝国軍、第3師団を任されている者です。」

クローゼがリベール王太女クローディアと名乗り上げるとゼクスは驚いた後、敬礼をして自己紹介をした。

「あなたが……御勇名は耳にしております。」

(あのオジサン、有名なの?)

(『隻眼のゼクス』……帝国でも5本の指に入る名将だ。)

エステルの疑問にヨシュアは静かに答えた。



「しかし以前、殿下のお姿を写真で拝見したことがあるのですが……。お(ぐし)をお切りになられたのですな?」

「恥ずかしながら……立太女の儀を済ませたばかりの身。身に余る重責に立ち向かうための小娘の決意の表れとお考えください。」

ゼクスに尋ねられたクローディアは苦笑しながら答えた。

「いや、しかしそのお姿もとても良く似合ってらっしゃる。改めて……王太女殿下におかれましては誠におめでとうございます。」

「ありがとうございます、中将。」

「して……王太女殿下がどうしてこのような場所に?モルガン将軍と同じように我々に抗議するおつもりですか?」

「いえ……そのつもりはありません。帝国南部の方々もさぞかし不安な思いをなされている事でしょう。夜の闇、寒さ、情報の途絶……。どれも不安をかき立てるのに充分すぎる出来事でしょうから。」

「………………………………」

クローディアの話をゼクスは黙って聞いていた。

「ですが、考えて頂きたいのです。このまま貴国の軍隊が我が国に入ってきた場合の問題を。ただでさえ、貴国以上に全土が混乱しきっている状況です。そこに他意は無いとはいえ、動揺する市民は少なくないはず……。貴国の善意が誤解されてしまうのはわたくし、余りにも忍びないのです。」

「で、ですが……」

「目下、わたくしたちはこの異常現象を解決する方法を最優先で模索しております。また、(くだん)の犯罪組織についても自力で対処できている状況です。不戦条約によって培われた友情に無用な亀裂を入れないためにも……。どうか、わたくしたちにしばしの時間を頂けないでしょうか?」

「…………むむ………………」

クローディアの話を聞いてゼクスが唸ったその時!

「……残念だが、それはそちらの事情でしかない。」

ゼクスの後ろから、エステル達にとって見覚えのある金髪の青年がクローディアのように貴族の服を着て、そしてミュラーを引き連れて現れた!

「……皇子……」

「ここは私が引き受けよう。下がっていたまえ、中将。」

「は……」

そして金髪の青年がゼクスより一歩前に出た。



「……へっ……」

「まさか……」

「冗談だろ……」

「あら?あの方って……」

青年を見たエステルとシェラザード、アガットは信じられない表情をし、リタは首を傾げた後、青年を見た。そして金髪の青年は名乗りを上げた。

「お初にお目にかかる。クローディア姫殿下。エレボニア皇帝ユーゲントが一子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールという。」

「!!!(皇帝の一子って……お、皇子様ってこと~!?シェラ姉、知ってたの!?)」

(し、知るわけないじゃない!てっきり帝国から派遣された諜報員だと思ってたわよ……)

オリヴァルト皇子の名乗りを聞いたエステルは、オリビエと名乗った皇子を見た後、シェラザードに尋ね、尋ねられたシェラザードは信じられない表情で答えた。

「オリヴァルト皇子……名前だけは存じていましたが。」

「フフ、皇子とはいってもしがなき庶子でしかないのでね。公式の場で出ることも少ないから顔を知らなくても不思議はない。そかし、そうは言っても少しばかりショックではあるな。縁が無かったとはいえ、かつての縁談相手の顔くらいご存じかと思ったのだかね。」

「!?(あ、あんですって~!?)」

(えええええ~!?)

(そうか……大佐が進めていた話か。)

さらにオリヴァルトの話を聞いたエステルとミントは驚き、ヨシュアはクーデター事件の事を思い出した。



「そうでしたか……。存じなかった事とはいえ本当に申し訳ありません。」

「まあ、女王陛下の(あずか)り知らぬところで進められていた話とは聞いている。その事は別に気にしていないが……。だが……今回の事態は見過ごせないな。」

「……あ…………」

「クローディア姫。今、帝国本土でどのような噂が(ささや)かれているかご存じかな?」

「……いえ、寡聞にして……」

オリヴァルトの問いかけにクローディアは不安げな表情で答えた。

「ならば、教えてあげよう。彼方に見えるあの巨大構造物……あれが王国軍とメンフィル軍が開発した新兵器という噂だ。」

「!!!」

「『リベール軍がメンフィル軍と協力して、導力を止めてしまう画期的な新兵器を実用化したそうだ。彼らはそれを使って10年前の復讐、そしてメンフィルはそれに乗じてエレボニアの乗っ取りをを企てているらしい』―――こんな噂がまことしやかに流れているのだよ。」

「そ、そんな……。誤解です!わたくしたちはそんな……」

オリヴァルトの話を聞いてクローディアは反論しようとしたが

「ならば……誤解である事を証明できるかね?」

「……っ……」

クローディアは何も答える事ができず、口を閉じてしまった。

「出来ないのであればこちらもそれなりの対応をさせてもらうしかないわけだ。それどころか、噂の通りならば不戦条約を隠れ蓑にした重大な背信とすら言えるだろう。フフ……正当防衛もやむをえまいと思わないかね?」

不敵な笑みを浮かべたオリヴァルトが話したその時!



「フン。ならばこちらも同盟国として”それなり”の対応をさせてもらうぞ。」

「!?」

どこからか聞こえてきたゼクスが驚いたその時!

「ちゅ、中将!」

慌てた様子の帝国軍士官がゼクスの所に来た。

「どうした!」

「ハッ、そ、それが………メンフィル軍が我等の背後に現れ、こちらに向かって進軍して、ある程度の距離をとった状態で停止しました!」

「!!!」

報告を聞いたゼクスが血相を変えたその時

「フフ、久しぶり……と言った所かしら。」

さらに不敵な笑みを浮かべたファーミシルスは親衛隊、そしてサフィナ率いる竜騎士軍団と共に上空からゆっくりと降りてきて、滞空した!

「!!”空の覇者”ファーミシルス大将軍………!それに竜騎士(ドラゴンナイト)まで……!」

ファーミシルス達の登場にゼクスが顔を青褪めさせたその時

「………全軍、停止。」

「全軍、停止!」

さらに機工軍団を率いたシェラとメンフィル正規軍を率いたルースがエレボニア軍を挟み撃ちするかのように、ある程度の距離をとって、エレボニア軍の両横に現れた!

「!!は、”破壊の女神”シェラ将軍に”覇王の狼”ルース将軍………!」

シェラとルースの登場にゼクスはさらに顔を青褪めさせた。

「ちゅ、中将!上を!」

「今度は何だ……なっ!?」

何かに気付いた士官の言葉を聞いたゼクスが上を見上げると、巨大な漆黒の戦艦がゆっくりと降りてきて、エレボニア軍より距離をとった場所で着陸した!

「な、な、な………!」

「ふ、ふええええええ~!?」

「なんて大きさだ………”グロリアス”と大して変わらないんじゃないか……?」

巨大戦艦の登場にエステルは口をパクパクさせ、ティータは驚いて声を上げ、ヨシュアは信じられない表情をした。そして甲板にリウイ、イリーナが大勢のメンフィル兵達を連れて現れ、そしてファーミシルスとサフィナはリウイとイリーナの傍に降り立った!



「は、”覇王”リウイ皇帝陛下まで………!(い、いかん………!囲まれた上、メンフィルの名のある将がここまで勢ぞろいしているとは………!この状況では皇子を逃がす事すら難しいぞ………!)」

そしてゼクスは今にも倒れそうな表情をした。

「………これはこれは。まさかこのような所でお会いするとは思いませんでした。”英雄王”リウイ皇帝陛下。それにメンフィルの名のある将の方々も。お初にお目にかかります。エレボニア皇帝ユーゲントが一子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールと申します。」

一方オリヴァルトは一切動じず、堂々とした様子で自己紹介をした。

「……メンフィル大使、リウイ・マーシルン。こちらこそ、こんな所で滅多に公式の場に出ない貴殿と会うとは思わなかったぞ。……それとクローディア姫。先ほど立太女の儀を済ませた事を聞かせてもらったが………この場にはいない我が息子、シルヴァンに代わり祝福させてもらおう。我が孫娘リフィアもいずれはメンフィルの女王となる者。いつかお互いが即位した時、同じ女王同士として親しくしてやってくれ。」

「きょ、恐縮です…………それより陛下。これはどういう事ですか?これではまるでエレボニアを攻撃するかのような態度でございますが………」

リウイの話を聞いたクローディアは戸惑いながら答えた後、不安げな表情で尋ねた。

「私からもお尋ねしたい………まさか、”大陸最強”の称号を持つ大国が真っ先に締結されたばかりの不戦条約を破ろうとお考えなのですか?そしてその戦艦は何ですか?今のリベールの状況で”導力”は使えないはずですが。」

そして続くようにオリビエも真剣な表情で尋ねた。

「まずこの戦艦に関しては貴殿等、エレボニアと同じ答えと言っておこう。我等メンフィルは不戦条約を結ぶ以前より同盟を結んでいたのだ。盟友として同盟国の危機に駆けつけて、当然であろう?それに元々我等は導力とは異なる技術をもっており、それを利用してようやく完成した戦艦だ。……勿論導力でも動くようにしてあるがな。」

「フム。噂に聞く”魔導”とやらですか。では、クローディア姫と私の質問に答えてもらいたい。…………メンフィルはエレボニアを侵攻しようとしているのですか?」

リウイの話を聞いて頷いたオリヴァルトは続けて尋ねた。

「その疑問は貴国の態度次第だと言っておこう。」

「ほう………?どういう事ですかな?先ほど中将も答えたように私達は同盟国として、”善意”そして正当防衛の為にこちらに参ったのですが。」

リウイの言葉を聞いたオリヴァルトは目を細めてリウイを見て尋ねた。

「……先ほどクローディア姫も言っていたように、貴国とリベール王国が終戦をしてまだ10年しか経っていない。それだけの年月しか経っていないのに完全に信用されていると思っているのか?例え”善意”だとしても、リベールの民達はどう受け取るだろうな?」

「フム………例え私達に”義”があっても、そう答えるのですか?」

「ああ。もし、貴国の軍がこれ以上進むというのであるならば………」

オリヴァルトの疑問に頷いて答えた後、片手を上げた。すると!

「―――全軍に通達、第一戦闘準備。繰り返す――」

「弓隊、構え!」

なんとシェラ率いる機工軍団の兵士達は魔導砲を構えたシェラの指示に従うかのようにそれぞれが持つ武器を構えて、唸りにも似た騒動音を徐々に高め、ルース率いる正規軍はクロスボウを構えたルースの号令によって弓を矢に番えて引き絞った!

「リベールの盟友として、盟友を守る為、”正当防衛”をさせてもらおう。」

そしてリウイは不敵な笑みを浮かべて答えた。



「(ま、不味い……!いくら戦車があるとはいえ、”破壊の女神”率いる機工軍団相手では塵と化してしまう……!)お、皇子!ここは私達に任せ、御身はお逃げ下さい!」

その様子、特に魔導軍団の様子を見たミュラーは過去の戦いで自分が率いた軍がシェラ率いる機工軍団によって戦車ごと大勢の部下達が塵と化した事を思い出して、血相を変えてオリヴァルトに警告したその時

「いい加減にしなさいよ!」

なんとエステルが怒鳴り、クローゼの前に出た!

「エステル……!」

「マ、ママ!?」

「お、お姉ちゃん!?」

エステルの行動を見たヨシュアとミント、ティータは驚いた。

「さっきから聞いてれば勝手なことをペラペラと!オリビエだってこっちの事情は大体分かってるんでしょ!?どうしてそんな意地悪なことばかり言うわけ!?それとリウイ!あんた今の状況をわかってて、なんで火に油をそそぐような真似をするのよ!?」

「エ、エステルさん……」

エステルの話を聞いたクローディアはエステルを心配そうな表情で見つめた。

「おや……何だね君は?私のことを知っているようだが、どこかのパーティで会ったかな?」

「へっ……」

しかしオリヴァルトの言葉を聞いたエステルは呆けた声を出し

「いや、貴族にしてはいささか品位に欠けるな……。ふむ、どこからどう見ても庶民の娘でしかないようだ。で、何者なのだね?」

「言っておくが俺もお前の顔は知らんぞ。」

「……上等じゃない。あくまでシラを切るわけね。そっちがそのつもりならあたしだって考えがあるわよ?(特にリウイ!あんたはあたしが爵位をもらった瞬間を見ていて、あたしが”メンフィル貴族”って事を知っているくせに………!後で覚えてなさい~!……けど、今メンフィル貴族として名乗っても、誤魔化されそうね……だったら、”遊撃士”として名乗り上げるだけ!)」

「ほう……?」

「……何を言うつもりだ?」

怒りを抑えた風に語ったエステルの言葉を聞いたオリヴァルトとリウイは興味深そうな表情でエステルを見た。



「あたしの名前はエステル・ブライト!リベール遊撃士協会に所属するA級遊撃士よ!あくまで中立の立場からこの問題に介入させてもらうわ!」

「エステルさん……」

「ほう……遊撃士だったのか。(A級遊撃士といえば大陸でも有数の遊撃士じゃないか。フフ……エステル君もやるものじゃないか。)」

「………(この短期間でA級にまで上り詰めるとは………血は争えんという事か。この様子ならS級になる日が近いのかもしれないな………)中立の立場からというがこの状況で何をするつもりだ?」

エステルの言葉を聞いたクローゼは驚いてエステルを見つめ、オリヴァルトは心の中で笑っていたが表情に出さずに答え、同じく心の中で感心していたリウイは尋ねた。

「あの浮遊都市がリベールの兵器じゃないことをここではっきりと宣言するわ!『支える籠手』の紋章に賭けて!」

「ほう……大きく出たものだ。確かに遊撃士協会の発言には無視できぬ影響力があるが……。果たしてその宣言にどれだけの根拠があるのかね?」

エステルの宣言を聞いたオリヴァルトは感心した様子で答えた後、尋ねた。

「根拠も何も、あたし達がこの目で見てきたことだもの。浮遊都市を出現させたのは今もリベールで暗躍している”身喰らう蛇”という結社よ。あたし達は、王国軍として彼らの陰謀を止めるために戦ってきた。何だったら、詳細な報告書を帝国政府に提出したっていいわ。」

「ふむ……。そのように言われては少々考えざるをえないが……。どうやら肝心な事が抜け落ちているのではないかな?」

「え……」

堂々と語ったエステルだったがオリヴァルトの指摘の言葉を聞き、驚いた。

「仮にその結社とやらが犯人だったとして……この異常現象を止める方法が果たして君たちにあるのかね?」

「そ、それは……」

オリヴァルトの疑問にエステルは答えられず、黙ってしまった。

「ないのであれば、我々としてもてをこまねいているつもりはない。幸い、蒸気戦車に搭載しているのは火薬式の大砲でね。あの浮遊都市を落とすにはもってこいだとは思わないかね?」

「じょ、冗談でしょ!?大砲なんかで、あの巨大な都市を落とせるはずないじゃない!」

オリヴァルトの言葉を聞いたエステルは反論した所を

「フン。そんな物使わなくてもこの戦艦――”始まりの方舟”モルテニアの飛行能力と火力、そして魔導軍団の火力があればあの浮遊都市に近づき、落とすのは容易だ。それでも落とせないというのなら、空を飛べる兵達をあの浮遊都市に潜入させて、内部から破壊してやる。……よって貴殿等がわざわざ出向く必要はないぞ。」

リウイが鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべて答えた。

「…………どうあっても、私達を阻むと言うのですか?」

リウイの話を聞いたオリヴァルトはリウイを睨んだ。

「お、皇子…………」

その様子をゼクスは表情を青褪めさせた状態で見た。そしてオリヴァルトはエステルの方に振り向いて言った。



「いずれにせよ……一つ、確実に言えることがある。君達には、我々の善意と正義を退けるだけの根拠も実力もないということだ。」

「くっ……」

「………………………………。ならば……証明すれば宜しいのですね?」

オリヴァルトの言葉を聞いてエステルが唸ったその時、クローディアが静かに進み出て尋ねた。

「ほう……?」

「この状況にあってあの浮遊都市を何とかする可能性を提示できれば……。わたくし達にしばしの猶予を頂けるのですね?そしてメンフィルもエレボニアに攻撃を仕掛けないのですね?」

「ふむ、そうだな……。一時的ではあるがそうせざるを得ないだろう。」

「……エレボニアがこれ以上進まぬと言うのであるならば、この場は退こう。」

クローディアの言葉を聞いたオリヴァルトとリウイは頷いた。

(お、皇子……!?)

一方その様子を見守っていたゼクスは驚いてオリヴァルトに小声で言った。

(落ち着け、中将。不戦条約を結んだ相手に当然の礼儀というものだろう。それに証明できれば、だ。)

(し、しかし……それでも目の前のメンフィル軍はどうなさるおつもりですか?)

(心配ない。ここは私に任せておけ。)

(……は………)

ゼクスを納得させたオリヴァルトはクローディアを見て言った。

「それでは……。君たちが可能性を提示できたら一時的に撤退することを約束しよう。『黄金の軍馬』の紋章と皇族たる私の名に賭けてね。」

「エレボニアが退けば、俺達も退く事を誓約する。誇り高き”闇夜の眷属”を統べる皇族にして、メンフィル帝国初代皇帝たる我が名に賭けて。」

オリヴァルトとリウイが宣言したその時!

「その言葉、しかと聞きましたぞ。」

突然、聞き覚えのある男性の声がどこからか聞こえて来た。

「い、今の声は……!」

「ひょっとして……!」

男性の声を聴いたエステルとシェラザードは驚いた表情をし

「ああ……間違いない。」

「おいおい、マジかよ!」

ジンは確信を持った表情で頷き、アガットは信じられない表情をし

「わあ………!」

「ふふ、まさかここで現れるとは思いませんでしたね。」

「……父さん。」

ミントは明るい表情になり、リタは可愛らしい微笑みで呟き、ヨシュアは静かに呟いた。すると上空からアルセイユが降りてきて、メンフィル帝国の飛行戦艦――”始まりの方舟”モルテニアの隣に着陸した。



「これが現時点で我々が提示できる可能性です。どうぞじっくりとご覧あれ。」

そして甲板にいたカシウスが言った。

「父さん……!」

「お祖父ちゃん……!」

カシウスの登場にエステルとミントは明るい表情をして、カシウスを見た。

「カ、カシウス・ブライト!?」

一方ゼクスは驚いた表情でカシウスを見た。

「ゼクス少将、久しぶりですな。おっと……今では中将でしたか?」

「そんな事はどうでもいい。ど、どうしてこんな所に……。それよりもその船は何なのだ!?どうしてこの状況で空を飛ぶことができる!?」

「それは国家機密と申し上げておきましょう。貴国がどうして蒸気戦車を保有しているのかと同じようにね。」

「ぐっ……」

「ふむ……。これが噂の”アルセイユ”か。そして貴公が、かの有名なカシウス・ブライト准将なのか?」

カシウスの指摘を聞いて苦々しい表情で唸ったゼクスとは逆にオリヴァルトは全く動じていない様子で尋ねた。

「お初にお目にかかります、殿下。何やらどこかでお会いした事があるような気もいたしますが……」

「奇遇だな、准将。私もちょうど同じ事を感じていたところでね。」

「それはそれは……」

「まったく……」

そして2人は口元に笑みを浮かべた後

「「ハッハッハッハッハッ。」」

同時に笑顔で笑った。

「ハア…………下らん。」

「フフ…………」

一方その様子を見守っていたリウイは呆れた表情で溜息を吐き、イリーナは微笑んでいた。



「お、皇子!」

その様子を見たゼクスは信じられない表情で叫んだが

「クローディア姫、エステル君。私も誇り高きエレボニア皇族だ。先ほどの約束は守らせてもらおう。すぐにでも、この付近から帝国軍の全部隊を撤退させる。」

オリヴァルトは気にせず、言った。

「オリビエ……」

「……感謝いたします。」

オリヴァルトの答えを聞いたエステルは明るい表情をし、クローディアは微笑んで答えた。

「……エレボニアが退くなら今から貴国の軍の背後にいる我が軍を退かせよう。……サフィナ、ファーミシルス。頼む。」

「「ハッ!」」

リウイの指示に敬礼をして答えたサフィナは飛竜を空へと舞い上がらせて、同じように空へと舞い上がったファーミシルスと共にエレボニア方面に飛び去った。

「全軍撤退!各部隊の将達は兵を率いてそれぞれの持ち場まで移動しろ!」

「ハッ!」

そしてエレボニア軍を挟み撃ちにしていたメンフィル軍もリウイの号令によって去って行った。また、上空にいた飛行部隊は次々と”モルテニア”に降り立ち、中に入って行った。

「ふむ……しかし、そうだな……。可能性を示されただけでは我が帝国市民も納得すまい。ここは一つ、私自身がアルセイユに乗せてもらって視察するというのはどうだろう?」

「お、皇子ッ!?」

撤退していくメンフィル軍を見た後、提案したオリヴァルトの言葉を聞いたゼクスは信じられない表情をした。

「ふむ、皇子自らの視察とあらば帝国政府も納得しましょう。如何です、クローディア殿下?」

オリヴァルトの提案を聞いて頷いたカシウスはクローディアを見て尋ねた。

「勿論、願ってもないことです。リベールとエレボニアの友情もさらに固く結ばれる事でしょう。歓迎いたします。オリヴァルト皇子殿下。」



カシウスに尋ねられたクローディアは優しい微笑みを見せて答えた……………
 
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