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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第107話

~グランセル城内・謁見の間~



「先ほど話に出たように全てはカシウス准将の指示でね。王都に危機が訪れることを前もって察知されていたんだ。だが、導力兵器が主武装である正規軍では守りきれそうにない……。そこで白兵戦の経験が豊富な特務兵の投入を決断されたわけだ。」

「無論、服役中の我々を投入するための名目は必要だ。そこで我々は、王都へ護送中に今回の騒動に巻き込まれて、結果的に市街を守った形になる。」

「な、なるほど……。って、どう考えても無理があると思うんですけど。」

「あはは………」

シードとリシャールの説明を聞いて頷いたエステルだったが、呆れて溜息を吐き、ミントは苦笑していた。

「どうやら陛下たちはご存じだったようですね?」

「ええ、この件に関してはカシウス殿と話し合いましたから。後々、様々な批判を受けてしまうとは思いますが国民の安全には代えられません。何よりも、リシャール殿の愛国心をわたくしは信じることにしました。」

ヨシュアに尋ねられた女王は頷いて答えた。

「……もったいないお言葉。」

女王の言葉を聞いたリシャールは感謝した様子で答えた。

「そっか、そういう事なら……。そういえば……あたしたちをお城に呼んだのはその事と関係していたんですか?」

「ええ、それもありますが……。実は、クローディアのことでお伝えしたいことがあったのです。」

「えっ……?」

「……クローゼの?」

「クローゼさん?」

女王の話を聞いて驚いたエステル達はクローゼを見た。

「はい、実は……略式ではありますが、今朝、立太女の儀を済ませました。今の私は、リベール王国の次期女王という身分になります。」

「ええっ!?」

「「わぁ……!」」

「……よく決心したね。」

クローゼの説明を聞いたエステルは驚き、ミントとティータは明るい表情をし、ヨシュアは口元に笑みを浮かべて言った。



「いえ……ただの我がままなんです。エステルさん、ヨシュアさん、ミントちゃん。それから他の皆さんも……。学園のみんなを助けてくださったそうですね。本当にありがとうございました。」

「あ……うん。でも、協力してくれたのはあたしたちだけじゃないわ。アネラスさんたちやジークも助けてくれたしね。」

「そうだよ!ジーク君、凄くカッコよかったんだよ!」

「ピュイ♪」

エステルとミントの言葉に答えるかのように玉座の近くにいるジークは嬉しそうに鳴いた。

「ふふ、そうみたいですね。事件のことを知った時、私は自分に何ができるのかを真剣に考えさせられました。大切な人たちを守るために自分が何を果たせるのかを……」

「それが……王位を継ぐことだったんだね?」

「はい。様々な経験を積んだリフィアさんと違って未熟な私には、王国全てを背負える力も自信もありません。それでも、私が王位を継ぐことで大切な人たちを守れるのなら……。そして、その事が結果的に王国を守ることに繋がるのなら……。―――そう思い至ったんです。」

「そっか……」

ヨシュアの疑問に静かに答えたクローゼの言葉を聞いたエステルはクローゼに近づいて、クローゼの手を握った。

「クローゼ、おめでとう!とうとう自分の道を見つけることができたんだね!」

「エステルさん……ありがとう。でも、まだまだ未熟ですし、自分に何ができるのかも判りません。困った時は……力をお借りしてもいいですか?」

「あはは!そんなの当たり前じゃない!第一、未熟なのはあたしたちも同じなんだし。」

「君が今まで僕たちを助けてくれたのと同じように……必要な時はいつでも力になるよ。」

「ミントやツーヤちゃんもいつでも力になるよ!」

「エステルさん、ヨシュアさん、ミントちゃん……。……本当にありがとう。」

(……自分の愚かさが今更ながらにこたえるな。未来を担う若者たちの可能性に気付くこともなく、あんな事をしでかしたのだから……)

(リシャールさん……)」

エステル達の様子を見て自嘲げに呟くリシャールをシードは静かに見つめた。

(ふふ、何を言っているのです。貴方だって、未来を担う若者のうちに入るでしょうに。)

(陛下……)」

(ご、ご冗談を……)

女王の言葉を聞いたシードは静かな笑みを浮かべ、リシャールは信じられない表情をした。



「も、申し上げます!」

その時、一人の親衛隊員が慌てた様子で謁見の間に入って来た。

「どうした?市街で何かあったのか?」

「い、いえ、そちらの方は何とか収拾がつきました。猟兵たちもことごとく王都から撤退した模様です。」

「………まさかロレントの方ですか?そちらの方はリウイ陛下達が守ってくれているので、大丈夫だと思ったのですが………」

親衛隊員の報告を聞いた女王は真剣な表情で尋ねた。

「い、いえ。そちらの方もグリューネ門の警備隊の報告によれば………結社の軍勢はメンフィル軍によって全滅させられたそうです。なお、メンフィル軍は猟兵達の捕縛は行わず……一人残らず殺害したそうです。」

「…………そうですか…………………」

「ぜ、全滅!?執行者達には冗談混じりに言ったんだけど、本当に滅ぼしたんだ……」

「さすがはメンフィルといった所か………」

「フフ、だから言ったでしょ?プリネちゃん達は強いって。」

親衛隊員の報告を聞いた女王は目を伏せて静かに頷き、エステルは驚き、ジンは真剣な表情で呟き、リタは可愛らしく微笑んだ。

「………ちなみに戦後処理をしているメンフィル兵達から聞いたそうなのですが………今回の戦いには”赤い星座”と”西風の旅団”の猟兵団が参加していたそうです。」

「なんだと!?」

「なっ……!よりにもよって、その猟兵団を雇うとは………!」

さらに報告を聞いたシードは血相を変え、リシャールも驚いた後、真剣な表情になって呟いた。



「ねえ、ヨシュア。”赤い星座”もそうだけど、その”西風の旅団”とかいう猟兵団も凄い有名なの?」

「ああ。”赤い星座”と双璧をなす大陸最強の猟兵団だよ。」

「ふ~ん。……あれ?でも、さっき”全滅”って言ってたわよね?」

ヨシュアの話を聞いたエステルは頷いた後、親衛隊員を見た。

「はい。……勿論結社の戦死者の中には双方の猟兵団の団員が含まれています。………その中には双方の猟兵団の団長すらも含まれていたそうです。」

「なっ………!あの”闘神”と”猟兵王”を同時に滅ぼしたというのか!?」

「とんでもない話ね………まさか大陸最強の猟兵達が同時に滅ぼされるなんて………」

親衛隊員の報告を聞いたリシャールとシェラザードは信じられない表情をした。

「……双方の団長を討ち取ったのはリウイ陛下、もしくはメンフィル軍の名のある将か?」

そしてシードは真剣な表情で尋ねた。

「は、はい。”赤い星座”の団長は”戦妃”カーリアン。”西風の旅団”の団長は”空の覇者”ファーミシルス大将軍が討ち取ったそうです。」

「そうか……………」

「…………まさかたった一人で彼らを討ち取るなんて………武術大会の時はほとんど手加減したんだろうね。」

「ふんだ!今度戦う時は最初から本気で戦わせるんだから!」

報告を聞いたシードは重々しく頷き、ヨシュアが呟いた言葉を聞いたエステルは鼻を鳴らして答えた。



「それでは、一体何があった?」

そして気を取り直したシードが尋ね直した。

「さ、先ほどハーケン門と連絡が取れたのですが……。国境近くに、エレボニア帝国軍の軍勢が集結し始めているのだそうです!」

「ええっ!?」

「やはり来たか……!」

「……軍勢というのはどの程度の規模なのですか?」

そして報告を聞き、一同が驚いている中エステルが声を上げて驚き、リシャールは表情を歪めて呟き、女王は真剣な表情で尋ねた。

「現時点で集結しているのは1個師団程度のようですが……。ど、どうやらその中に戦車部隊が存在するらしく……」

「なんだと!?」

「ちょ、ちょっと待て!導力停止現象の中でどうして戦車が動かせる!?」

「まさか”結社”と同じ技術を使っているの!?」

さらに驚くべき報告を聞いたシードは声を上げ、アガットは信じられない表情で言い、真剣な表情のシェラザードは言った。

「いえ……どうやら導力機構を搭載していないタイプのようです。観察した限りでは『蒸気機関』で動いているとか……」

「蒸気……機関?」

報告を聞いたエステルは首を傾げた。

「えとえと……内燃機関よりも原始的な蒸気の力を使う発動機だけど……。オーブメントの普及と共にすぐに廃れてしまった発明なの。」

首を傾げているエステルにティータは慌てた表情で説明した。



「……そんな物で動く戦車などどの国も保有しているはずがない。導力戦車と比較するとあまりに経済効率が悪いからな。」

「ならば答えは一つ……。秘密裏に帝国内で製造されていたわけですな。」

「そ、それって……」

リシャールとジンの話を聞いたエステルは真剣な表情になり

「……この事態を見越していたということか。では、結社の連中が言っていた『次なる試練』というのは……」

「ええ……恐らくこの事だと思います。そして彼らは、今度の事件で王都を人質に取ってしまった。」

シードが呟いた推測にヨシュアは頷いた。

「その気になればいつでも王都を狙える……そういう意図もあったわけか。」

ヨシュアの話を聞いたリシャールは皮肉気な笑みを浮かべて言った。

「加えてもう一つ……。恐らく父は、あなたの存在を隠し札として考えていたはずです。緊急事態が発生した時に自分の代わりに派遣できるとっておきのジョーカーとして。ですが、そのカードはすでに切られてしまいました。」

「………………………………」

そしてヨシュアの推測を聞いたリシャールは唖然とした表情になった。

「”身喰らう蛇”……そこまで狙っていたのか。」

ヨシュアの推測を聞いたシードは重々しい雰囲気を纏わせて呟いた。

「……お祖母様。どうか私をハーケン門に行かせてください。」

「ええっ!?」

「クローゼさん!?」

「クローゼ……」

そして決意の表情のクローゼの申し出を聞いたエステルとミントは驚き、ヨシュアは信じられない表情で見つめた。

「ここで動かなかったら私たちを逃がすために負傷した小父様たちに申し訳が立ちません。必ずや、お祖母様の代理として帝国軍との交渉を成し遂げてみます。」

「……分かりました。不戦条約が締結されたとはいえ、リベールとエレボニアの間の天秤はいまだ不安定と言えるでしょう。今回の事件は、さらに大きな揺り戻しにつながりかねません。後1度、メンフィルに無条件での救援要請はできますが……もしメンフィルとエレボニアがぶつかり合う事になったら、リベールも巻き込まれるでしょう…………その天秤のバランス取り……どうかよろしく頼みましたよ。」

「……はい!」

女王とクローゼが話し合っている中、エステル達はお互いに目配せを行い、そしてエステルが申し出た。



「あの……。だったら、あたし達も一緒に付き合ってもいいですか?」

「え……」

エステルの申し出を聞いたクローゼは驚いた。

「王太女殿下をハーケン門まで無事、送り届けさせて頂きます。」

「それと万が一、戦争が起こりそうになったら出来るだけの協力はしてやるぜ。」

「無論、ギルドの規約により戦争には協力できませんが……」

「中立的な立場からの仲裁なら幾らでもさせてもらいましょう。」

「戦争を起こしたくない気持ちはみんな一緒だもの!」

「あたしとミントはせっかく貴族の位を持っているから、それを利用して力になってあげたいけど……そんな場面で両国とは直接関係のない国の貴族のあたしとミントが出ても、余計にややこしくなるから今は”遊撃士”として力になるわ!」

「皆さん……」

「ふふ……。願ってもないことです。どうかよろしくお願いします。」

ヨシュア達の心強い申し出を聞いたクローゼは明るい表情をし、女王は微笑んで答えた。

「はい!」

「どうかお任せください。」

女王の言葉にエステルとヨシュアは力強く頷いた。

「……エステル君、ヨシュア君。”結社”の動きに関しては我々に任せておいてくれたまえ。」

「例え、報告にあった巨大人形が王都に現れても対処できるよう万全の体勢を整えておくつもりだ。」

「2人とも……」

「よろしくお願いします。」

そしてリシャールとシードの心強い言葉を聞いたエステルは明るい表情をし、ヨシュアは頭を下げた。



こうしてエステルたちはクローゼたちを護衛しながら一路ハーケン門を目指した。王都に援軍に来たエステルとミントの護衛部隊である竜騎士達の力を借り……できる限りの早さで空を飛んでハーケン門に向かい、そして到着した………………


 
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