英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第106話
~空中庭園~
「ほう……君たちか。」
エステル達が空中庭園に到着すると、既に女王とクローゼは執行者達によって囚われの身だった。
「クローゼ!女王様!」
「クローゼさん!」
執行者達に囚われている2人を見たエステルとミントは血相を変えた。
「ヴァルター!」
「姉さん!」
そしてジンとシェラザードはヴァルターとルシオラを睨んだ。
「エステルさん…………ヨシュアさん……ミントちゃん………」
「皆さん……よく来てくださいましたね。」
一方クローゼと女王は囚われているにも関わらず、エステル達を心配そうな表情で見つめた。
「クソッ……」
「……間に合わなかったか。」
囚われている2人を見たアガットとジンは悔しそうな表情をした。
「あ、あんたたち……一体どういうつもりなの!?クローゼたちを放しなさいよ!」
「フフ、それは無理な相談ね。教授に個人的に頼まれたから。」
エステルの言葉に対し、ルシオラは妖しい笑みを浮かべて答えた。
「きょ、教授に?」
「個人的にということは……『福音計画』には関係ないのか?」
ルシオラの言葉を聞いたエステルは驚き、ヨシュアは真剣な表情で尋ねた。
「フフ、そうよ。各地の通信を部分的に回復させたみたいだけど……。どうやら教授はそれがお気に召されなかったらしくてね。あなたたちの苦しむ姿をもう少し見たいのだそうよ。」
「……っ……!ふ、ふざけんじゃないわよ!そんな事のために王都を襲わせたっていうの!?」
「……あの人らしい。」
「……なんて、悪趣味な人……この魔槍で楽しそうに笑っているであろうその顔を、貫いてあげたいです……」
ルシオラの話を聞いたエステルは怒鳴り、ヨシュアは静かに呟き、リタはこの場にいないワイスマンに怒りを感じていた。
「クカカ………それよりいいのか?今頃、ロレントは火の海だぜ?テメエが大事に思っている母親は今頃どうなっているだろうな?」
そしてヴァルターは凶悪な笑みを浮かべて言ったが
「ふんだ!お生憎様。お母さんはちゃんと守ってロレントまで送り届けたし、ロレントを襲おうとした結社の連中は今頃、メンフィル軍によって滅ぼされているわ!しかもリウイ達も勿論戦っているし、正規軍が出撃しているから、結社の雑魚なんかに後れを取らないわ!」
「ほう………?」
「あら……まさか”剣皇”達が直々出てくるとはね……」
「クカカ。どうせなら、そっちの戦いに参加したかったぜ。」
エステルの話を聞き、ブルブランとルシオラは驚き、ヴァルターは凶悪な笑みを浮かべていた。
「クク……まあいい。教授の趣味は確かに悪趣味だが……浮遊都市の制圧がレーヴェ1人に任されてな。ヒマになったから引き受けたってわけだ。」
「ヴァルター……貴様。」
ヴァルターの話を聞いたジンはヴァルターを睨んだ。
「……話は分かりました。ならば、わたくし1人を虜囚にすれば済むことでしょう。どうかクローディアは解放していただけませんか?」
「いけません、お祖母様!囚われるならば私が……」
「ふむ、確かに教授の注文はどちらか1人だったはず……。さてさて、如何したものか。」
女王の申し出と、女王の申し出を聞いて血相を変えたクローゼの申し出を聞いたブルブランは頷いた後、2人の顔を交互に見て考え込んだ。
「あら、たしか貴方は姫殿下にご執心ではないの?」
「フフ、籠の中の鳥にはいまいち魅力は感じなくてね。まあ、囚われていてもなお輝く気品を見てみたい気もするが……」
ルシオラに尋ねられたブルブランは口元に笑みを浮かべて答えた後、クローゼを見つめた。
「………………………………」
見つめられたクローゼは黙ってブルブランを睨んでいた。
「あ、あんたたち……いい加減にしなさいよね……。そんなこと……絶対にさせないんだから!」
「クク、笑わせるな。仮に人質がいなかったとしても俺たち全員に勝てると思うのか?」
「くっ………カファ……モガ。」
ヴァルターの挑発に乗るかのようにエステルはカファルーを召喚しようとしたが、ヨシュアに手で口を塞がれて召喚を中断した。
(……抑えて、エステル。確かに君の使い魔――特にカファルーやクーを出せば、勝機はあるけど……下手をすればクローゼ達を盾に使われるかもしれない。ここは2人を取り返す隙を窺うしかない。)
(で、でも……)」
「フフ、無駄だヨシュア。あるいは君の隠形なら我らのスキを突けただろうが……」
「そうして姿を見せた状態では私たちの隙を突くのは不可能よ。いくら”漆黒の牙”でもね。」
小声でエステルに何かを言っているヨシュアにブルブランとルシオラは忠告した。
「……そうだね。でも隙を突くのは僕がする必要もなさそうだ。」
忠告されたヨシュアは静かに答えた。
「なに……」
ヨシュアの言葉にブルブランが驚いたその時、突然執行者達の横から一人の男性が斬りかかった!
「フッ!」
しかしブルブランが攻撃を防いだ!
「えっ……!?」
突然現れた男性を見たエステルは驚いた。
「やあ、みんなご苦労だったね。―――陛下、殿下。遅くなって申し訳ありませんでした。」
男性――シードは口元に笑みを浮かべて答えた。
「わあ……!」
「シード中佐……」
「……よく来てくれました。」
シードの登場にティータは明るい表情をし、クローゼは驚き、女王は微笑んだ。
「ほう……”剣聖”に連なる者か。」
「カカ、惜しかったな。後少しで俺達の隙が作れただろうに。」
シードの登場にブルブランは驚き、ヴァルターは笑いながら言った。
「ああ、正直ショックだよ。まさか今の打ち込みが返されてしまうとはね。」
「クク、いいねえ。せっかくだから俺たちとこのまま遊んでいくかよ?」
「いや、遠慮しておこう。自分はあくまで囮に過ぎないからね。」
「なに……」
「!!!」
シードが呟いた言葉にヴァルターとルシオラが驚いたその時!
「ピューイ!」
何とジークがルシオラに突進した!
「……っ……」
ジークの攻撃に気付いたルシオラは後ろに跳んで、回避し、さらにシードの反対方向から現れた黒い軍服姿の男性がルシオラとヴァルターに武器である刀を何度も抜刀して攻撃を仕掛けて、女王達から引き離した!
「チイッ……」
男性の攻撃を一太刀浴びてしまったヴァルターは舌打ちをした。
「ハアッ!!」
「くっ……」
さらにその様子を見ていたブルブランの隙を狙って、シードがブルブランに一太刀浴びせ、ブルブランを女王達から引き離した!
「間に合ったか……」
そして男性は安堵の溜息を吐いた。
「あ、貴方は……」
「おいおい……」
「ウソでしょ……」
「「えええええ~っ!?」」
「なんとまあ………」
「?どなたなのでしょう?」
男性を見たクローゼとアガット、シェラザードは信じられない表情をし、ミントとティータは声をあげ、ジンは呆けた表情をし、唯一人男性の正体を知らないリタは首を傾げ
「リ、リ、リ……リシャール大佐っ!?」
男性――クーデター事件を起こし、懲役中だったリシャールの登場にエステルは声を上げて驚いた。
「はは……久しぶりだ、エステル君。いや……”ファラ・サウリン”卿とお呼びすべきかな?今の私は、階級を剥奪された服役中の国事犯にすぎない。大佐と呼ぶのは止めてくれたまえ。」
エステルの言葉に応えるかのようにリシャールは苦笑しながら答えた。
「や、止めてくれたまえって……」
「リシャール殿。……お久しぶりですね。」
リシャールの言葉にエステルが呆れている中、女王は微笑みながら言った。
「……陛下と姫殿下も壮健そうでなによりです。すでに准将から話は聞いておられるとは思いますが……。どうか一時の間、この逆賊たちに御身を守らせて頂きますよう。」
「ふふ、もちろんです。」
「よろしくお願いしますね。」
「……ありがたき幸せ。」
女王とクローゼの返事を聞いたリシャールは笑顔で頷いた。
「も、もう何がなんだか……」
「僕たちが知らない間に事態が動いていたみたいだね。」
リシャールの話を聞いたエステルとヨシュアは苦笑していた。
「”剣聖”を継ぐ2人……。それに”漆黒の牙”と腕利きの遊撃士達か。」
「ふふ~んだ……それだけじゃない事を忘れていない?大佐の登場で頭が鈍ったのじゃないかしら?」
ブルブランが呟いた言葉を聞いたエステルは勝ち誇った笑みを浮かべて言った。
「何………?」
エステルの言葉を聞いたブルブランが驚いたその時!
「パズモ、永恒、テトリ、ニル、クーちゃん、カファルー!!みんな、出て来て!!」
エステルは自分と契約している使い魔達全員を召喚した!
(”嵐の守護精霊”、パズモ・メネシス!”守護”を名乗る精霊として、これ以上貴方達の好きにはさせないわ!)
(堕ちた者共よ……我等に挑めば、その喉………喰いちぎってくれる!)
「え、えとえと………元・神殺しの使い魔として頑張ります!」
「フフ、エステル達に加えて、ニル達相手に勝てると思っているのかしら?」
「クー!」
「グオオオオオオオ――――ッ!!」
パズモ、永恒、テトリ、ニルはエステル達の周囲に現れ、クーとカファルーはエステル達の背後で鳴声や雄たけびをした!
「クク………テメエらか。しかも以前より増えている上、以前よりさらに強くなっているようじゃねえか………!」
「ふ、ふふ……す、少し遊びすぎたかしら。(レーヴェや博士の報告では聞いていたけど、何よあの化物達は!?あんなの相手はさすがに無理よ!?)」
「クッ…………」
パズモ達の登場にヴァルターは不敵な笑みを浮かべていたが、ルシオラは心の中でカファルーとクーを見て自分達では勝ち目がない事を悟り、それを顔に出さないようにはしていたが、それでも冷や汗をかいて引き攣った笑みを浮かべていた。また、ブルブランは表情には出さなかったが、クーやカファルーがさらけ出す自分たち人間では敵わない”超越した存在”の気配を感じて冷や汗をかいていた。
「フッ……こちらとしては助かったがね。ちなみに市街の方も既に手は打たせてもらったよ。」
「えっ……!?」
リシャールの言葉にエステルが驚き、そして仲間達と共に市街地の方を見た時
~グランセル市街地~
「これより人形兵器と猟兵団の掃討を始める!市民の保護、及び正規軍の支援は最優先で行いなさい!」
「イエス・マム!」
なんとカノーネ率いる元情報部の特務兵達が市街地で交戦を繰り広げていた。さらに
「………どうなっているんだ?我等以外にもリベール軍を援護する集団がいるようだが………」
メンフィル兵達が王都に現れ、状況を見て戸惑っていた。
「隊長、いかがなさいますか?」
「………我等の任務は王都を襲う結社の者達の掃討と市民の保護、及びリベール正規軍の支援並びにエステル様とミント様の支援。目の前の集団と連携を取り、任務を達成するぞ!なお、市民の保護、及び正規軍の支援は最優先で行え!エステル様とミント様の護衛部隊の者達は竜騎士達も向かったように王城に向え!恐らくお二人はリベール王家の方達の救助の為にそちらにいる!」
「ハッ!」
そしてメンフィル兵達もまた特務兵達と同じように交戦を始めた。メンフィル兵達の登場に驚いた特務兵達だったが、自分達の援護をしている事に気付くと、メンフィル兵達と共に交戦を繰り広げ始めた!
「おいおい、マジかよ!どうして特務兵とメンフィル兵がいきなり現れやがるんだ!?しかも”結社”の手先を攻撃しているみたいだが……さらに協力しあっているようにも思えるが………」
特務兵とメンフィル兵が交戦を繰り広げ始める一方、茂みでドロシーと共に隠れていたナイアルは驚いていた。
「うふふ、メンフィルの兵士さんはリベールの為に駆けつけてくれたんじゃないですか~?特務兵さんはきっと反省して助けに来てくれたんですよ~♪こういうのって汚名挽回っていうんでしたっけ?」
「あのな………他国の兵がそんなあっさり助けに来るわけないだろ……それに汚名を挽回してどうする……。それを言うなら汚名返上だろ。ああ、もうどうでもいい!せっかくカメラが使えるようになったんだ!約束の時間が来るまで撮って撮って撮りまくれ!」
「アイアイサー!」
そしてドロシーはナイアルの指示によって、交戦の様子をカメラで撮りまくっていた。
~空中庭園~
「わわっ……。猟兵達が押されてる!?」
「ああ、さすがだね。」
「ヘッ……やるじゃねえか。」
「しかもメンフィルの兵士さん達と一緒に戦っているよ!」
市街地の様子を見たエステルは明るい表情で驚き、ヨシュアは頷き、アガットは感心し、ミントは嬉しそうに見ていた。
「エステル様!」
「ミント様!」
さらに数名の竜騎士達が上空からエステル達の横に飛竜を滞空させた。
「あ!」
「もしかして、ミントとママの護衛部隊の兵士さん!?」
竜騎士達の登場にエステルは驚き、ミントは尋ねた。
「ハッ!ツァイスに在留している正規軍と共に参りました!他の者達も正規軍と共に市街地で交戦を繰り広げています!また、お二人の護衛部隊の内、各1個小隊ほどはこちらに急行しています!」
「そう………よく来てくれたわね!」
さらなる援軍の登場にエステルは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「ふむ、メンフィル兵の登場はさすがに予想外だったが、どうやら味方と見ていいだろう。………さて、どうする。”身喰らう蛇”の諸君?この戦力差で我々とやり合うつもりはあるかな?そちらが時間をかければかけるほど、メンフィル兵や特務兵達がこちらに向かってくるぞ?」
メンフィル兵達の登場に驚いたリシャールだったが、あまり気にせず、執行者達を睨んで尋ねた。
「……チッ……調子に乗りやがって………」
「………退きましょう。この戦力差では私達が敗北するのは目に見えているわ。」
「ふむ、そうだな。我らは機を逃したのだ。これ以上拘るのはいささか美しくなかろう。」
リシャールの言葉を聞いたヴァルターは舌打ちをし、その様子を見たルシオラは忠告し、ブルブランはルシオラの言葉に同意した。
「女王陛下と姫殿下の確保も可能ならばという条件よ。ヴァルター、ここは退きましょう。」
「フン……仕方ねえな。」
ルシオラの言葉を聞いたヴァルターは鼻を鳴らして答えた。そしてブルブランはステッキを構え、ルシオラは鉄扇を構えてヴァルターと共に消えようとしていた。
「それでは諸君……我々はこれで失礼しよう。だが次なる試練は君たちの前に控えている。気を抜かないようにしたまえ。」
「次なる試練……」
「な、なによそれ!?」
「ふふ……すぐに分かるでしょう。それでは皆様、ご機嫌よう。」
そして執行者達は消えた。
「あ……!」
「退いてくれたか……」
執行者達が撤退した事にエステルは驚き、ヨシュアは安堵の溜息を吐いた。
「ふむ、これで猟兵どもも市街から撤退を始めるだろう。予想外の戦力がいる事だし、できれば捕えたい所だが贅沢は言うまい。」
「うん……って、それよりも!どうして大佐がこんな場所にいるわけ!?服役中じゃなかったの!?」
リシャールの呟きに頷いたエステルだったが、ジト目でリシャールを睨んで尋ねた。
「だからもう大佐ではないんだが……まあいい。」
「とりあえず今はこの混乱を収めることが先決だ。君たちも手伝ってくれないか?」
エステルの疑問を聞いたリシャールは溜息を吐いたが気にせず、シードは尋ねた。
「う、うん……それはもちろん。」
「まずは消火と怪我人の手当てをする必要がありそうですね。」
こうして……”結社”による王都侵攻作戦は辛くも食い止められた。エステル達は、軍の部隊、メンフィル兵達と共に消火と混乱する市民へのフォローに回り、そして一通り落ち着くと謁見の間に集まった……………
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