英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第156話
その後艦内を見て回っていると放送が聞こえて来た。
まもなく本艦は、ノルティア州都、”ルーレ市”上空に到着します。飛行場への着陸準備および、下船の準備をしてください。
「もう到着か……あっという間だったな。よし、A班のみんなに声をかけて準備をするか。」
その後リィンはブリッジに向かった。
~カレイジャス・ブリッジ~
「ルーレ飛行場からの着陸許可が下りました。」
「カレイジャス、着陸。すぐに出航できるよう機関は暖めておくがよい。」
「アイ・キャプテン。」
「カレイジャス、着陸態勢に入ります。」
アルゼイド艦長の指示によってクルー達はそれぞれ端末を操作し始めた。
「―――今回の特別実習期間は今日を入れて3日間になるわ。ま、しっかりやって来なさい。」
「”紫電”の”壁”を乗り越えたお前達なら、どのような強敵が相手でも生き残れるだろう。今までの実戦技術、特別実習で得た経験を活かしてこい。」
「はい、教官。」
「全力をつくします。」
サラ教官とレーヴェの言葉にリィンとマキアスは頷き
「B班の方も……くれぐれも気を付けてね。」
「そうだね……オルディスも大変そうだし。」
「全員共に無事でまた会えることをお祈りします。」
「プリネさ―――いえ、マスター……どうかお気をつけて。」
アリサ、エリオット、セレーネ、ツーヤは心配そうな表情でB班を見つめた。
「あはは、何とかなるってー。」
「そうそう。エヴリーヌがいるんだしね、くふっ♪」
ミリアムとエヴリーヌは無邪気な笑顔を浮かべて答え
「心配しないで、ツーヤ。エヴリーヌお姉様もいるから大丈夫よ。」
「フン……まあ、何とかしてみせよう。」
「ふふっ……どうかそちらも気を付けて。」
プリネ、ユーシス、エマはそれぞれ心配するメンバーを安心させる事を口にし
「了解。」
エマの言葉にフィーは頷いた。
「ま、実習が終わったら学院祭のステージの特訓だ。どっちも覚悟しとけよー。」
そして口元に笑みを浮かべて言ったクロウの言葉にリィン達は冷や汗をかいた。
「そ、そうだった……」
「それもあるのよね……」
マキアスとアリサは疲れた表情をし
(うふふ、良い事を聞いちゃった♪後でママ達にも知らせてあげようっと♪)
レンは小悪魔な笑みを浮かべた。
「曲に衣装、編成なんかも一通り決めておくから。」
「トリスタに帰った時にどうか楽しみにしてくれ。」
「ああ、わかった。」
「フフ、そのためにも全員無事で戻らなくてはな。」
エリオットとリィンの話を聞いたガイウスとラウラはそれぞれ頷いた。
「ハッハッハッ、青春だねぇ。」
「特別実習に学院祭……どちらも得難き経験だろう。」
「ま、無理しないくらいには頑張りな。」
「レンも数日間ルーレに滞在する予定があるから、何か聞きたい事があったら遠慮なくレンが泊まっているホテルに訪ねてもいいわよ?―――そこのラインフォルトのメイドさんならレンが泊まっているホテルも知っているわ。」
「女神の加護を―――くれぐれも気を付けるがよい。」
「はい……!」
そしてカレイジャスは着陸してリィン達をルーレに降ろした後離陸してルーレから去って行き、リィン達はシャロンの案内によってルーレ市街の中心部にあるRF本社ビルへ向かい始めた。
~空港内~
「な、なんか屋内をずっと歩いているような気が……」
「太陽の光が全然ないのはちょっと寂しいですね……」
通路を歩いてルーレ市に向かうエリオットとセレーネは不安そうな表情をし
「ガレリア要塞を思い出すな……」
「はは、鉄とコンクリートが多いのは少し似てるかもしれないな。」
「それにブレアード迷宮の暗さと比べたら、このくらい大した事ありませんよ。」
マキアスが呟いた言葉を聞いたリィンとツーヤは苦笑しながら答え
「街の中心は少し先だぜ。ぶっちゃけ、帝都よりも非常識な街だからなぁ。」
「失礼ね……まあ、否定はしないけど。」
クロウの言葉を聞いたアリサは顔に青筋を立てて答えた。
「ん、外に出るみたい。」
そしてリィン達はようやく外に出た。
~黒銀の鋼都・ルーレ~
「な、なにこれ……!」
「街が……上の方にも?」
「何と言うか……不思議な街ですわね……」
「ツァイスにちょっとだけ似ていますね……」
ルーレの街並みを見回したエリオットとマキアス、セレーネは驚き、ツーヤは興味ありげな表情になった。
「これが鉄鋼と重工業によって発展して来た巨大導力都市……”黒銀の鋼都”ルーレよ。」
「……確かに非常識かも。」
「人口20万……ちょっとした小国の首都並みだったか。」
アリサはリィン達に説明し、フィーはジト目で呟き、クロウは懐かしそうな表情で街を見回し
「前に来たときよりも大きくなっているような……えっと、RF本社ビルは確か上層の方でしたよね?」
リィンは自分の記憶のルーレと今のルーレを見比べた後シャロンに尋ねた。
「ええ、そちらに見えるエスカレーターを登った先です。改めまして―――”黒銀の鋼都”ルーレへようこそ。どうか皆様の特別実習が実り多きものになりますように。」
そしてリィン達はシャロンの案内によってRF(ラインフォルトグループ)本社ビルに続くエスカレーターに乗った。
「う、動く階段………こんなの帝都にもないよね。」
「階段が勝手に動くなんて不思議ですわ……」
「フフ、あたしも最初は驚いたよ。」
エスカレーターにエリオットとセレーネは驚き、セレーネの様子を見たツーヤは苦笑し
「ああ、確か『エスカレーター』だったか?」
マキアスはアリサに確認した。
「ええ、元々はリベールの工房都市が最初みたいだけど。ラインフォルトの技術者が対抗心を燃やして造ったみたいね。」
「いわゆる技術者根性か。」
「ハハ、大人げねぇな。」
「あれって……」
リィン達がエスカレーターについて話し合っている時、ふと後ろへと振り向いたフィーは一際巨大な建物に魅入った。
「な、なんだあれは……!?」
「ずいぶん変わった形をした建物だけど……」
「たしか……あれは建物じゃなかったよな?」
「ええ、導力ジェネレーターね。」
「導力じぇねれいたぁ?」
「一体どういうものなのですか?」
初めて聞く言葉にフィーとセレーネは首を傾げた。
「ルーレには大規模工場が多いため、大量の導力が必要とされています。その場合、各工場で導力を生み出すより、巨大なジェネレーターから分配した方が効率よく導力を生み出せるのですわ。」
「そ、そうなんですか……」
「技術の進歩というのはこれほどの物だったのか……」
(魔術研究所にある”魔力炉”のようなものか……)
シャロンの説明を聞いたエリオットとマキアスは驚き、ツーヤは真剣な表情で考え込んでいた。そしてエスカレーターを昇り終えたリィン達はラインフォルトグループの本社ビルに到着した。
~ラインフォルトグループ・本社ビル~
「うわぁ……」
「とても大きな建物ですわね……」
「うん………ツァイスの中央工房とも比べ物にならないよ……」
「建物自体は雑誌で見た事はあったが……」
「さすが天下のRFグループの本社だね。」
「はは……俺も前にルーレに来た時はちょっと目を疑ったかな。」
「ま、大きいのは認めるけどクロスベルにできたオルキスタワーの方が上ね。あっちは40階立ての超高層ビルだし。」
本社ビルにリィン達が驚いている中、アリサは説明を捕捉した。
「ああ、ガレリア要塞から見えたあの……」
「通商会議の会場となった場所か。」
「お姉様は確かそちらの建物に入ったことがあるのですよね?」
「うん。屋上からの眺めはとてもすごかったよ。」
「なんだなんだ、ずいぶん謙虚じゃねぇの。実家の事だから素直に誇っときゃいいだろ。」
「べ、別に私は……」
クロウの指摘にアリサは複雑そうな表情で言葉を濁した。
「ふふ、それでは中に入りましょうか。」
その後リィン達は本社ビルに入り、エレベーターでイリーナ会長がいる23階に向かった。
~RF本社ビル・23F・会長室~
「会長、失礼します。お嬢様とⅦ組の方々をお連れしました。」
「通して頂戴。」
「はい、それでは。」
イリーナ会長の許可を得たシャロンは扉を開け、リィン達は会長室に入ってきた。
(うわ~……!)
(さすが会長室、大した眺めじゃねーの。)
(でも、この部屋の主である方は後ろの眺めは全く気にしていないようですが……)
部屋に入ったエリオットは驚き、イリーナ会長の後ろにある巨大な窓ガラスから見える景色を見たクロウは感心し、セレーネは戸惑いの表情で仕事をしているイリーナ会長を見つめた。
「―――”カレイジャス”の帝都とルーレお披露目は成功。ウチからの公式発表は明日まで控えておきなさい。―――それで問題ないわ。すぐにでも始めて頂戴。社内のインサイダー取引には徹底的に目を光らせておくこと。―――もしもし。イリーナ・ラインフォルトです。特別列車については了解です。何とか工場を急がせましょう。―――クロスベル関連株が急騰?いいからそのまま保持しなさい。ただし来月上旬までが限度。そのタイミングで全て売却を。―――特別列車の影響でメンフィルに提示した列車砲に取り掛かれる時期が遅れそう?わかったわ。今日の15:30までに製造に取り掛かれる具体的な時期から完成時期を計算して私の端末に送って。本日16:30に本社に来訪されるレン皇女にその事も了承してもらうように交渉をするわ。」
イリーナ会長は片手で端末を操作しながら、もう片方の手には何かの資料を手に取って資料の内容を頭に入れながら、耳につけたイヤホンで様々な人物と通話をして次々と交渉をしたり指示を出したりしていた。
(す、凄いな………幾つもの指示を同時に。)
(ああ、トワ会長もそのあたりは凄かったけど……)
(さらにプロって感じだね。)
(わ、わたくし達、お忙しいところをお邪魔して本当によかったのでしょうか……?)
(イリーナ会長の秘書であるシャロンさんがあたし達を連れて来たんだから大丈夫だよ……)
「………………」
リィン達がイリーナ会長の仕事っぷりに驚いている中、アリサはイリーナ会長に近づいてジト目で見つめ続けた。
「さて―――」
するとその時仕事に一区切りついたイリーナ会長は立ち上がってリィンに近づいた。
「お互い時間もないでしょうし、前置き抜きで行かせてもらうわ。これを。」
「へ……」
「は、はい。」
慌てた様子でイリーナ会長から特別実習の課題の内容が入っている封筒を渡す様子を見守っていたアリサは呆けた声を出した。
「夕食は一緒に取れると思うから積もる話はその時にでも。シャロン、後はお願い。」
「かしこまりました。いつ頃お戻りになりますか?」
「夜の7時には戻るわ。招待客にはナイトクルーズでも楽しんでもらいましょう。」
「それは素敵ですね。では、そのように手配します。」
「母様―――いい加減にして!私のことはともかく士官学院の理事のくせに……どうしてそこまで無関心なの!?」
リィン達に必要最低限の事を伝えてシャロンに指示をした後退出しようとしたイリーナ会長を見たアリサは声を上げて怒鳴った。
「アリサ……」
「ま、まあまあ。落ち着いて……」
「アリサさんのお母様もお忙しいのですから仕方ないですよ……」
アリサの様子を見たリィンは心配そうな表情をし、エリオットとセレーネはアリサを諌めようとしていた。
「ああ、忘れていたわ。」
その時イリーナ会長は振り向いてリィン達を見つめ
「え……」
イリーナ会長の突如の行動にアリサは呆けた。
「無事に実習を終えたければ領邦軍と鉄道憲兵隊には近寄らないようにしなさい。侯爵家の方も同じ……立ち寄る必要もないでしょう。あくまで学生らしく常識の範囲で頑張りなさい。――――以上。」
イリーナ会長はリィン達に忠告をした後歩き出し
「行ってらっしゃいませ、会長。」
シャロンは頭を下げてイリーナ会長を見送った。
「は~……すっげえ母ちゃんだなぁ。」
「軍隊の女将校みたい。」
「アハハ……(カノーネ大尉にちょっと近い人かも……)」
「何と言うか……さすがはRFグループの会長を務められているだけはあるな。」
その様子を見守っていたクロウは呆け、フィーが呟いた言葉を聞いたツーヤは冷や汗をかいて苦笑し、マキアスは感心していた。
「ああもう……だから戻って来たくなかったのよ。………ちょっと引いたでしょ?」
肩を落として溜息を吐いたアリサはリィン達を見つめた。
「いや、そんな事はないさ。」
「僕達の安全を考慮したアドバイスもしてくれたしね。」
「ええ。忙しいながらも理事としての義務を果たしていますわ。」
「はあ……もういいわ。……ここで熱くなったらあの人の思う壺だろうし。」
リィン達の慰めの言葉を聞いたアリサは溜息を吐いた後呟き
「え。」
アリサが呟いた言葉を聞いたリィンは目を丸くした。
「シャロン。こちらも日没までには戻るわ。客室と夕食の準備はお願い。私達の荷物も頼んだわね。」
「ふふっ、かしこまりました。それでは皆様―――気を付けて行ってらっしゃいませ。」
その後荷物をシャロンに預けたリィン達は特別実習の課題を確認した後、課題の消化の為に行動し始めた。
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