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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第157話

全ての課題を終えたリィン達が依頼者に依頼された品物を渡して外に出ると既に日が暮れかけていた。



~夕方・ルーレ市~



「もう夕方か……けっこう時間がかかったね。」

「はあ、無理もないだろう。かなり大掛かりだったからな。」

「街中を歩いた上、鉱山の中も歩き回りましたものね……」

「今までの特別実習で一番歩き回ったかもしれないね……」

エリオットの言葉を聞いたマキアスとセレーネは疲れた表情で答え、セレーネの言葉を聞いたツーヤは苦笑した。



「ふふん、一通り依頼は片付けられたしいいんじゃない。これで母様より一足先に戻ることができそうだわ。」

「はは、そうだな。」

「ノリノリだね。」

自慢げに胸を張っているアリサを見たリィンは苦笑し、フィーはジト目になった。



「ん……?」

少し歩いて何かに気付いたクロウはある場所をジッと見つめ

「どうしたの?」

「いや、あっちの方が何かザワついてねぇか?」

「あ。」

「な、なんだ?」

「これは下層の広場からか?」

「行ってみましょう!」

その後下層で睨みあっている領邦軍と鉄道憲兵隊を見つけたリィン達は下層に急行したが領邦軍がエスカレーターを封鎖していた為、回り道をして下層に向かった。



「っ……!」

「まずいね。」

「ええ……」

下層に降りたアリサは状況を見ると息を呑み、フィーの言葉にツーヤは重々しい様子を纏って頷いた。



「―――ルーレ市の治安維持は我々ノルティア領邦軍の役割だ!貴公ら余所者がこれ以上、大きな顔をしないでもらおうかっ!」

「……お言葉だが、我々は正規の手続きを踏んで任務を遂行している。それに鉄道網が発達し、人、ミラ、情報の流れが膨大になった現在……広域的な治安維持を行えるのは我々”鉄道憲兵隊”だけだろう。」

「―――そちらの方こそ邪魔しないでもらおうか!」

領邦軍の隊長に睨まれた鉄道憲兵隊員達はそれぞれ反論した。



「こいつら……」

「隊長……!もう我慢できません!」

鉄道憲兵隊員達の反論を聞いた兵士達は鉄道憲兵隊を睨み、兵士の一人は悔しそうな表情で隊長を見つめ

「―――まあ、そう逸るな。いかに宰相直属の部隊とて、戦力集中でさえなければ烏合の衆だ。」

隊長は落ち着いた様子で答えた後ある方向に向いて合図をするとなんと装甲車が街中に現れた!



「うわあっ……!?」

「そ、装甲車!?」

街中に現れた戦車を見た市民達が混乱している中、戦車は砲口を鉄道憲兵隊に向け、上層に護衛のメンフィルの親衛隊長や隊員と共にいるレンは下層の様子を見守っていた。

「レン様、いかがなさいますか?ご命令とあらば、ホテルに待機している一個小隊がすぐに駆けつけてこられますが。」

「―――今は待機でいいわ。ただし領邦軍が砲撃を開始すれば、レンが”パテル=マテル”と一緒に介入するからいつでも動けるようにしておいて。」

「御意。」

「さて……どうなるかしらね?」

護衛の兵士に指示を出したレンは小悪魔な笑みを浮かべて下層を見下ろしていた。



「しょ、正気か!?」

「これだけの大都市の中でそんなものを持ち出すとは!」

一方領邦軍の凶行に鉄道憲兵隊は信じられない表情で声を上げ

「笑止ッ!武は(くに)を守るためにあるもの!先日現れたというテロリストにも我らならば後手に回ったりはせぬ!市民の諸君、どうか安心して欲しい!謎のテロリストどもが跋扈する今、真の意味でルーレを守れるのは”ノルティア領邦軍”だけである!こやつらは所詮、地に足を付けぬ余所者!あまり信用せぬ方がよかろう!」

領邦軍の隊長は声を上げた後市民達に演説した。

「くっ……」

「……この焙り方は……」

その様子を見た鉄道憲兵隊は焦った様子で唇を噛みしめた。



「くっ……もっともらしい事を。」

「で、でも……いくらなんでも街中で装甲車なんてムチャだよ!」

「くっ、どうしたら……」

領邦軍と鉄道憲兵隊の様子を見守っていたマキアスは唇を噛みしめ、エリオットは不安そうな表情をし、アリサは考え込み

「―――どちらも正式な軍組織。学生に介入できる相手じゃない。だが、万が一衝突が起きたら全力で周りの人を避難させよう。」

考え込んでいたリィンは自分達ができる事を口にした。



「っ……わかった。」

「チッ、しゃあねえか。」

「できるとしたらそのくらいかもね。」

「ええ……せめてどちらかが退いてくれればよいのですが……」

リィンの判断にアリサ達と共に頷いたセレーネは不安そうな表情をした。

「……?―――!!……最悪、鉄道憲兵隊、領邦軍、メンフィル軍による三つ巴の戦いが起こる事も想定してください。」

周囲を見回した際、上層にいるレン達を見つけたツーヤは目を見開いた後重々しい様子を纏って呟いた。

「ええっ!?ど、どういう事、それ!?」

ツーヤの言葉を聞いたアリサは驚き

「―――上層を見て下さい。」

「上層……?――――あ。」

ツーヤが見つめている方向をつられるように上層を見たリィンはレン達に気付いた。



「あ、あの人って……!」

「―――”殲滅天使”。」

「そ、そう言えば今日の夕方くらいにRFの本社を訪ねるようなことを仰っていましたよね……?」

レンを見たエリオットは驚き、フィーは真剣な表情で呟き、ある事を思い出したセレーネは不安そうな表情をし

「あ、ああ……多分商談が終わった後の帰りだと思うけど……」

「後ろには3人ほどしか護衛はいないが、皇女なんだから最低でも1個小隊くらいは連れているだろうな。残りの連中はどっかに待機してんのか?」

「ああ………多分、ホテルか郊外に待機していると思うんだけど……」

セレーネの言葉にマキアスは戸惑いの表情で頷き、クロウの推測を聞いたリィンは真剣な表情で考え込んだ。

「レンさんの事ですから、衝突が始まれば”自分の身を守る為”を口実にして介入する可能性が高いと思います。下手をしたら先程カレイジャスで話に出て来た超巨大人形兵器―――”パテル=マテル”で領邦軍、鉄道憲兵隊全てを制圧させるかもしれません。カレイジャスの処女飛行も終えていますから”パテル=マテル”をルーレの遥か上空に待機させ、レンさんの指示に応じてすぐに駆けつけられるようにしてあるかもしれませんし。」

「そ、そんな事になったら町が滅茶苦茶になるし、国際問題に発展するわよ……!?」

ツーヤの推測を聞いたアリサは表情を青褪めさせて答えた。

「―――今からでも遅くない。レン姫の所に向かって―――」

そしてリィンが提案したその時

「―――仰る通りです。」

聞き覚えのある女性の声が聞こえ、声を聞いたリィン達は声が聞こえた方向を見つめた。

「領邦軍には領邦軍の鉄道憲兵隊には鉄道憲兵隊のそれぞれの”役目”がありましょう。」

「あ……」

「この声……!」

声を聞いたリィンは呆け、アリサが驚いたその時、駅の出入り口にクレア大尉がいた。



「クレア大尉……!」

「き、来てくださったんですか……!」

クレア大尉の登場に鉄道憲兵隊は明るい表情をし

「ご苦労様でした。後は引き受けます。」

「は!」

「イエス・マム!」

クレア大尉の指示に鉄道憲兵隊は敬礼をして答え

「あら……フフ、中々面白い展開になってきたわね。」

上層にいるレンはクレア大尉の登場に目を丸くした後興味ありげな表情をし

「あ、あれが噂の……」

「”氷の乙女(アイスメイデン)”……」

領邦軍の兵士達は驚きの表情でクレア大尉を見つめていた。



「―――お役目、ご苦労様です。一昨日、帝国政府経由で我々の調査・警戒活動の実施が通達されているはずですが……そのような車両まで持ち出して不都合がありましたでしょうか?」

「そ、それは……」

クレア大尉の指摘に反論できない領邦軍の隊長は口ごもった。



「―――訂正しておきますが、我々は”地に足を付けぬ余所者”では決してありません。”鉄道網”という帝国全土をカバーする大動脈を通じて、いかなる地にも速やかに部隊を派遣……必要とあらば各地に散る全部隊を数時間以内に集結する事ができます。それが鉄道憲兵隊の誇りであり、矜持(きょうじ)でもあります。」

「そうなのか……」

「確かに帝国時報でも活躍をよく見かけるけど……」

クレア大尉の説明を聞いた市民達は戸惑いの表情で互いの顔を見合わせた。



「クレア大尉……すごいタイミングだな。」

「あ、相変わらずの頭脳明晰ぶりというか……」

「今の演説で市民達の心を一気に持っていかれましたね……」

「へえ、中々いい女じゃん。」

クレア大尉の演説の様子を見守っていたリィンは驚き、アリサは疲れた表情をし、セレーネは呆け、クロウは感心した様子でクレア大尉を見つめた。



「くっ……」

「我々とて、テロの脅威を前にして領邦軍と争うつもりはありません。そちらはそちらで、我々は我々の役割分担をすれば良いだけの事……そうではありませんか?」

唇を噛みしめて自分を睨みつける領邦軍の隊長にクレア大尉は静かな表情で問いかけた。

「だ、だがそれは……」

そして領邦軍の隊長が答えを濁したその時

「―――ならば複数の場所で何かあったらどうするつもりかな?」

聞き覚えのある青年の声がクレア大尉に問いかけた。



「あ――――」

クレア大尉が聞き覚えのある声を見つめたその時、エスカレーターからルーファスが降りて来た。



(ルーファスさん……!)

(ユーシスのお兄さんだ。)

(一体何故ルーレに……)

(ま、またとんでもないタイミングで現れたな。)

ルーファスの登場にリィンは驚き、フィーとツーヤは目を丸くし、マキアスは表情を引き攣らせた。



「こ、これはルーファス様!もうお帰りでしたか!」

「ああ、侯爵閣下には引き止めていただいたのだが外せない用事があってね。これにて失礼させてもらう。」

「………………」

敬礼する隊長に答えるルーファスの様子をクレア大尉は真剣な表情で見つめ

「アルバレアの御曹司……」

「貴族派きっての貴公子か……」

鉄道憲兵隊はルーファスを警戒した。するとその時ルーファスはクレア大尉に近づいて恭しく礼をした。



「フフ、初めまして。クレア・リーヴェルト大尉。噂はかねがね聞いている。」

「……恐縮です。ルーファス・アルバレア様。」

「ルーファスで構わない。どうやら私が何故、ルーレに来ているのか―――いや、”どうやって”ルーレに来たのかが不思議なようだな?」

「…………っ………!」

ルーファスの問いかけにクレア大尉は唇を噛みしめた。



「あらゆる鉄道網は君達の監視下にある―――かといってルーレ空港に私が訪れた気配もない。答えは簡単―――アルバレア家の専用飛行艇で来ただけさ。もっとも停泊させたのはルーレ郊外の街道外れだがね。」

「あ………………………………」

ルーファスの説明を聞いたクレア大尉は呆けた後真剣な表情でルーファスを見つめた。

「死角というものはあらゆる所に存在するもの。君達も、あまり自分達の優位性を過信せぬことだ。”六銃士”とメンフィルに不意打ちされた”情報局”と同じ徹を踏みたくないのならばだが。」

「……ご忠告。ありがたく頂戴いたします。」

ルーファスの忠告を聞いたクレア大尉は疲れた表情で頷いた。



「さあ、両者とも撤収したまえ。卿らも―――その無骨な車両は下げることだ。でなければ商談の為にメンフィルからはるばるルーレに来訪されている民思いのメンフィルの姫君が民の為に口を出してくるかもしれないぞ?」

「え……―――!!」

ルーファスの忠告を聞いた隊長は呆けた後ルーファスが視線を向けた上層部―――メンフィル兵と共にいるレンに気付いて目を見開き

「メ、メンフィル兵……!?」

「何故ルーレに……!?」

「それにあの菫色の髪の少女は確か……―――”殲滅天使”……!」

「あ、あんな子供が……!」

「…………………」

領邦軍や鉄道憲兵隊がレン達の存在に驚いている中、クレア大尉は真剣な表情でレンを見つめ

「うふふ…………」

兵士達に注目されたレンは上品な微笑みを浮かべながら手を振っていた。



「―――いかなる時も領邦軍は優雅かつ果敢であるべし―――そうではないか?」

「は、その通りであります!―――撤収!装甲車も下げろ!」

「イエス・サー!」

そしてルーファスの指摘に敬礼した隊長は装甲車と共にその場から撤収し、クレア大尉も鉄道憲兵隊と共に撤収した。



(………………………)

(なんとか衝突は避けられましたか……)

その様子を見守っていたリィンは真剣な表情で黙り込み、ツーヤは安堵の表情をした。



「フフ、奇遇だな。」

その時ルーファスがリィン達に近づいて声をかけた。

「は、はいっ!」

「せ、先日はどうも……」

「フフ、固くなることはない。確かに父の代理で侯爵閣下と話をしにきたのは確かだがね。」

「あ……」

「……なるほど。色々話されたみたいですね。」

「フフ、難しい時期だからね。”カレイジャス”の盛り上がりに乗じてこっそり来たわけだ。西のオルディスもそうだが、何が起きてもおかしくない状況だ。残りの3日間―――せいぜい大人しく”特別実習”に撤するといいだろう。私としても―――君達の学院祭の出し物は見たいからね。」

「……っ……!」

ルーファスの忠告を聞いたリィンが表情を引き締めたその時、ルーファスは領邦軍の兵士達と共にその場から去って行った。



「はああああっ……」

「やれやれ……ありゃあ、ユーシス坊やとは格が違うな。」

「すごいオーラだったかも。」

「ああ……前に会った時は貴族ながら良くできた人物と思ったが……」

「貴族派きっての貴公子……改めて実感できたかもしれない。」

「……あのような威圧、わたくしやお母様では出せませんわ……」

「……そうだね。」

「……………そろそろ日も暮れるしやっぱり今日は切り上げましょう。このルーレで何が起きてるのか……母様なら知ってるかもしれない。」

ルーファスの感想をリィン達がそれぞれ言い合っている中真剣な表情で黙り込んでいたアリサは気を取り直して提案した。



「そうか……確かに。」

「ルーレの領主であるログナー侯爵の動き……それと鉄道憲兵隊の動きだな。」

「装甲車まで持ち出すのはさすがにヘン。」

「確かに……何かが水面下で起きてるのかも。」

「そのあたりの事を夕食時に聞き出そうってか。」

「アリサさんのお母様なのですから、きっと教えてくれるでしょうね。」

「……そうだといいけど。」

「ええ―――これから実家に案内するわ。といっても、RF本社ビルに戻るだけなんだけど。」

仲間達の意見に頷いたアリサは複雑そうな表情をした。



「へ……」

「それって……」

「ひょっとしてアリサの実家というのは……」

「……本社ビルの24Fと25F。最上階のペントハウスがラインフォルト家の住居になるわ。」

その後リィン達はアリサの案内によってアリサの実家―――RF本社ビルの24Fに向かった。






 
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