英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第27話
~エルベ離宮~
「エルベ離宮……何だか妙に懐かしいな。」
エルベ離宮に到着し、ジンは周囲の風景を見渡して懐かしそうに言った。
「うん……。でも、何だか普通の人もいるみたいなんですけど……」
ジンの言葉に頷いたエステルは周囲に一般人がいる事に戸惑っていた。そしてエステルの疑問にクロ―ゼは答えた。
「普段は市民の方々にも開放している場所なんです。ちょっとした憩いの場所といったところでしょうか。」
「へ~、そうなんだ。言われてみると確かに家族連れとか多いみたいね。」
「迷子というのもああいう家族連れの客の可能性が高そうだな。とにかく、あのレイモンドっていう執事の兄さんを捜してみようぜ。」
「オッケー。」
アガットの提案に頷いたエステルは仲間達と共にエルベ離宮に入って行った。
「はあ、参ったなぁ。そろそろ遊撃士が来るのにどこに行っちゃったんだろ。」
エステル達が離宮に入ると一人の執事が困った表情をして呟いていた。
「あの~。」
「あ、はいはい。どうかなさいましたか……あれっ!?確かあんたたちは……」
遠慮気味に話しかけて来たエステルに気付いた執事はエステル達を見て驚いた。
「よう、久しぶりだな。」
「えへへ、こんにちは。覚えててくれたみたいね。」
「はは、忘れるわけないさ!何といってもエルベ離宮を解放してくれた恩人だからな……。あれ、そちらの君は……」
恩人とも言えるジンやエステルに執事は明るい表情で答えた後、クロ―ゼに気付いた。
「どうかなさいましたか?」
「いや、はは……。そんな訳ないよな。他人の空似に決まってるか。」
「ふふ、ひょっとして恋人さんと間違えました?」
執事の言葉を聞いたクロ―ゼは微笑みながら尋ねた。
「と、とんでもない!えっと、それじゃあ君たちが依頼を請けてくれた遊撃士かい?」
「うん、そうなんだけど……。いったいどうしたの?何か困ってるみたいだけど。」
「それが……その迷子の子なんだけど。」
エステルの疑問に執事は言いにくそうにした後、やがて答えた。
「いきなり『かくれんぼしましょ』って居なくなっちゃってさ……。必死に捜している最中なんだよ。」
「あらら……」
執事の話を聞いたエステルは目を丸くして驚いた。
「す、すぐに見つけるから君たちは談話室で待っててくれ。場所は知ってるだろう?」
「それは覚えているけど……。苦戦しているみたいだしあたしたちも捜すの手伝おうか。」
「え……いいのかい?」
エステルの提案に驚いた執事は尋ねた。
「ま、これも乗りかかった船ってやつだ。ガキの名前と特徴を教えろや。」
「た、助かるよ。白いフリフリのドレスを着て頭に黒いリボンをつけた10歳くらいの女の子だけど……。ちょっと名前は分からないんだ。」
「名前が分からない?」
執事から迷子の情報を聞いたエステルは首を傾げた。
「いくら聞いても『ヒ・ミ・ツ』とか言って教えてくれなくってね……。家族と一緒に来たと思うんだけどそれらしい人も見つからないし……。ほとほと困り果ててギルドに助けを求めたんだ。」
「そ、そうなんだ。でも、かくれんぼといい、わりと元気な女の子みたいね?」
「うーん、元気というか……。おませで、おしゃまな気まぐれ屋って感じかな。大人をからかって楽しんでいるような気もする。」
エステルの推測を聞いた執事は悩みながら答えた。
「うーん、いわゆる悪戯好きの仔猫って感じ?」
「そう、まさにそれだ!はあ~、ホントにどこに行っちゃったんだろ。多分、この建物からは出てないと思うんだけど……」
「ということは、中庭を含めた部屋の全てが捜索対象だな。確かに、かくれんぼにはもってこいの場所かもしれん。」
執事の話を聞いたジンは頷いて答えた。
「僕はいったん、談話室に戻ってあの子のことを待っているよ。見つけたら連れてきてほしい。」
「うん、わかったわ。」
そして執事は談話室に向かった。
「さーて、逃げた仔猫ちゃんを捜してみるとしましょうか。白いフリフリのドレスに黒いリボンって言ってたわね。」
「ふふ、すぐに見つかりそうな外見ですね。どんな子なのか楽しみです。」
エステルの言葉に頷いたクロ―ゼは微笑みながら答えた。
「とりあえず一通り建物の中を捜してみるぞ。」
アガットの提案に頷いたエステル達はさまざまな部屋に入って、迷子を捜したが見つからず、そしてある部屋に入った時、意外な人物に出会った。
~エルベ離宮・客室~
エステル達が部屋に入る直前、豪華な衣装を着た男性――デュナン公爵が部屋をせわしなく歩いていた。
「遅い!遅すぎる!フィリップめ……。雑誌とドーナツを買うのにどれだけ時間をかけているのだ!」
その時扉が開く音がし、デュナンは振り返った。
「これ、フィリップ!私をどれだけ待たせれば……」
デュナンは部屋に入って来た人物を自分の執事――フィリップと思い、注意をしたが
「へ……」
「あ……」
入って来たのはエステル達だった。デュナンを見てエステルとクロ―ゼは唖然とした。
「そ、そ、そ……そなたたちはああ~っ!?」
一方エステル達を見たデュナンは信じられない表情で声を上げた。
「なんだぁ?この変なオッサンは。」
デュナンの事を知らないアガットは首を傾げた。
「デュナン公爵……。こんな場所にいたんだ。」
「小父様……。その、お元気ですか?」
デュナンを見たエステルは意外そうな表情をし、クロ―ゼは言いにくそうな表情で尋ねた。
「ええい、白々しい!そなたたちのせいで、そなたたちのせいでな……。私はこんな場所で謹慎生活を強いられているのだぞっ!」
クロ―ゼに尋ねられたデュナンはエステル達を睨んで怒鳴った。
「うーん、あたしたちのせいって言われてもねぇ……。リシャール大佐の口車に乗った公爵さんの自業自得だと思うんだけど。」
「ま、謹慎程度で済んで幸運だったと思うことですな。他の国なら、いくら王族と言えど実刑は免れんでしょう。」
「くっ……。フ、フン……。確かに陛下を幽閉したことがやり過ぎであったことは認めよう。リシャールに唆されたとはいえ、それだけは思い止まるべきだった。」
エステルとジンの指摘を受けたデュナンは反論がなく、意外にも殊勝な態度で答えた。
「あれ、なんだか殊勝な台詞ね?」
デュナンの態度にエステルは意外そうな表情で尋ねた。
「フン、勘違いするな。私は陛下のことは敬愛しておる。君主としても伯母上としても非の打ちどころのない人物だ。」
エステルの疑問にデュナンは胸を張って答えたが、すぐにクロ―ゼを睨んで言った。
「だが、クローディア!そなたのような小娘を次期国王に指名しようとしていたのはどうしても納得がいかなかったのだ!」
「………………………………」
デュナンに睨まれたクロ―ゼは何も返さず黙っていた。
「ちょ、ちょっと!聞き捨てならないわね!クローゼは頭が良くて勉強家だし、人を引き付ける器量だってあるわ!公爵さんに、小娘とか言われる筋合いなんて……」
「……エステルさん、いいんです。」
クロ―ゼの代わりに怒っているエステルをクローゼは制した。
「前にも言ったように私は……王位を継ぐ覚悟ができていません。小父様が不快に思われるのも当然と言えば当然だと思います。」
「クローゼ……」
「ふん、殊勝なことを。昔からそなたは、公式行事にもなかなか顔を出そうとしなかった。知名度でいうなら、私の方が遥かに国民に知れ渡っているだろう。すなわちそれは、そなたに上に立つ覚悟がないということの現れだ。」
「………………………………」
デュナンの厳しい言葉にクロ―ゼは何も返さず黙っていた。
「聞けばそなた、身分を隠して学生生活を送っているそうだな。おまけに孤児院などに入り浸っているそうではないか。そんなことよりも、公式行事に出て広く国民に存在を知らしめること……。それこそが王族の役目であろう!」
「……それは………」
デュナンの指摘にクロ―ゼは辛そうな表情をした。
「………………………………。あたしは王族の役目とかぜんぜん詳しくないから……。ひょっとしたら公爵さんの言うことも一理あるかもしれない。」
「わはは、当然だ。」
唐突に言い出したエステルの言葉を聞いたデュナンは笑いながら胸をはった。
「でも、これだけは言えるわ。クローゼは今、悩みながらも答えを出そうと頑張っている。少なくとも、謹慎を理由に何もしてない公爵さんよりもね!」
「な、なにィ!?」
しかしエステルの言葉を聞いたデュナンは驚いた。
「それに公爵さん。リベールにとって救世主であり同盟国でもあるメンフィルの元・王様のリウイに学園祭の劇で酔っぱらっていた公爵さんが何をしたか覚えてる~?」
「そ、それは…………!」
さらに続けたエステルの言葉を聞いたデュナンは学園祭の事を思い出して顔を青褪めさせた。
「後、確か公爵さん。あたし達と最初にルーアンのホテルで会った時、あたし達を追い出したでしょ?」
「ぐっ………そ、それがどうした?」
勝ち誇った笑みを浮かべているエステルに尋ねられたデュナンは唸った後尋ねた。
「あの時、あそこにいたのはあたしとヨシュア、エヴリーヌだけでなく、リフィアとプリネがいたんだよ~?リフィアとプリネ………王族の公爵さんなら、ピンと来る名前でしょ?」
「リフィアとプリネ…………?………………ま、まさか!!現メンフィル皇帝唯一の直系のご息女にして次期後継者と言われるリフィア皇女と”覇王”と”闇の聖女”のご息女のプリネ皇女か!?」
エステルにある人物の事を尋ねられたデュナンは少しの間考えた後、信じられない表情で答えた。
「正解~♪あの時の公爵さんのふるまいを2人はしっかり見ていたからね~♪特に次のメンフィルの王様になるリフィアの前で、王族としてあんな態度を見せちゃってよかったのかな~?それと公爵さんは知らないかもしれないけど、学園祭の件はクロ―ゼが公爵さんに代わって一人でリウイに謝ったんだよ?公爵さんの言う通り、クロ―ゼは他国の王族に自分の事を知ってもらったし、クロ―ゼのした事の方が公爵さんと比べれば王族として何倍も立派じゃない♪」
「ぐ、ぐぬぬぬ………!」
勝ち誇った笑みを浮かべているエステルに反論が見つからないデュナンは唸りながらエステルを睨んだ。
「エステルさん……。……あの、デュナン小父様。私は今、エステルさんのお手伝いをさせて頂くことで自らの道を見出そうとしています。私に女王としての資格が真実、あるのかどうなのか……。近いうちに、その答えを小父様にもお見せできると思います。ですからそれまで……待っていただけないでしょうか?」
自分を庇うエステルを見てクロ―ゼは凛とした表情でデュナンを見て言った。
「ぐっ……。ふ、ふん、馬鹿馬鹿しい。ええい、不愉快だ!とっとと部屋から出ていけ!」
「言われなくても!」
デュナンの言葉を聞き鼻を鳴らしたエステルは仲間達と共に部屋を出ようとしたが振り返ってデュナンに尋ねた。
「……あ、その前に。ここに白いドレスを着た女の子がたずねてこなかった?」
「なんだそれは……。わたしはここにずっとおる!そんな小娘など知らんわ!」
「あっそ、お邪魔しました。」
「……失礼しました。」
そしてエステル達はデュナンがいる部屋を出た。
「まったく……。なんなのよ、あの公爵は!自分のことは棚に上げてクローゼをけなしてさ!」
「いえ、小父様の非難も当然と言えば当然だと思います。王族としての義務……それは確かに存在しますから。」
デュナンの部屋を出た後、憤っているエステルをクロ―ゼは宥めた。
「で、でも……」
「ふむ、共和国では選挙で大統領が選ばれますからな。王族の義務というのは自分にはピンと来ませんが……。だが、あの公爵閣下の場合、悪い知名度が高まってしまった。もはや、彼が貴女よりも次期国王にふさわしいと考える者はリベールには存在せんでしょう。」
「それは……確かにそうなのかもしれません。ですが、私の覚悟については小父様のおっしゃる通りです。」
ジンの言葉に頷いたクロ―ゼだったが、すぐに辛そうな表情に変えて答えた。
「クローゼ……」
「私、ここで小父様とお会いできて良かったです。改めて、私に足りない部分について気付かせていただきました。」
「そっか……。よし!迷子探し、再開しようか?」
「はい。」
そして気を取り直したエステル達は迷子の捜索を再開した…………
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