英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第28話
その後迷子の捜索を再開したエステル達だったが、一向に見つからず執事がいる談話室に一端戻った。
~エルベ離宮・談話室~
「どうだい、見つかったかい?」
部屋に入って来たエステル達に気付いた執事は尋ねた。
「ううん、残念ながら。怪しそうな場所は一通り調べてみたんだけど。」
「も、もしかして……エルベ離宮の外に出ちゃった可能性は……」
エステルの答えを聞いた執事は身を震わせた。
「チッ……。そりゃあ、やっかいだな。」
「うーん、かくれんぼだし、それはないと思うけどな……。普通に行ける範囲内に隠れるのがルールだもん。多分、思いもよらない場所に隠れている可能性が高いわね」
「なるほど、たまには鋭いことを言うじゃねえか。もう少し探してみるかよ?」
エステルの提案に頷いたアガットは尋ねた。
「うん、少し発想を変えて捜してみることにしましょ。さて、早速念のためにこの部屋の怪しい所を調べて………っと。」
アガットの言葉に頷いたエステルはカウンターの下を覗き込んだ。
「えっ………」
「???どうしたんだい?」
カウンターを覗き込み何かを見つけたエステルの呟きが聞こえた執事は首を傾げてエステルに尋ねた。
「あはは………どうしたもこうしたも………」
執事に尋ねられたエステルが苦笑したその時
「ふみゃ~ん……。あーあ、レンの負けね。」
白いフリフリのドレスを着て、黒いリボンを付けた迷子の少女――レンがカウンターから出て来た。
「ええっ!?」
「こんな所に隠れていたのかよ………」
レンを見た執事は驚き、アガットは呆れた。
「うふふ………レンを見つけるなんて、お姉さん、なかなかやるわね♪」
「ふふ~んだ。これでもかくれんぼは得意だったからね!」
レンの称賛にエステルは自慢げに胸をはって答えた。
「いや~、見つかってよかった。えっと君……名前はレンちゃんでいいのかな?」
「ええ、そうよ。レンはレンっていうの。ごめんなさい、秘密にしてて。」
執事の質問にレンは素直に謝って答えた。
「はは、気にしていないよ。でもどうして突然、かくれんぼなんか始めたんだい?」
「だって、遊撃士さんが来てくれるって聞いたから……。一緒に遊ぼうと思ってがんばって隠れていたのよ。」
「あはは、そうなんだ。でも、悪戯はほどほどにしなさいね?でないとお姉さんも怒っちゃうからね?」
レンの話を聞いたエステルは苦笑した後、軽く注意をした。
「はーい。ごめんなさい、お姉さん達。」
エステルの注意に返事をしたレンはエステル達に謝った。
「ま、そいつはともかく……。父ちゃんと母ちゃんはいったいどこに行ったんだ?どうしてこんな場所で1人で遊んでやがる?」
「ジー……」
アガットの質問を聞いたレンは何故か鋭い目つきでアガットを見ていた。
「な、なんだよ?」
レンに見られたアガットは戸惑いながら尋ねた。
「お兄さん、ダメダメねぇ。レディに対する口のきき方がぜんぜんわかってないみたい。」
「ムカッ……」
そして呆れて溜息を吐いているレンを見て、アガットは青筋を立ててレンを睨んだ。
「まあ、レンはレディだしカンダイな心で許してあげるわ。それで、パパとママがどこに行ったかなんだけど……。レンにもよくわからないの。」
「わからない?」
レンの話を聞いたエステルは首を傾げた。
「レン、パパとママといっしょにここに遊びに来てたんだけど。お昼を食べたあと、パパたちがまじめな顔でレンにこう言ったの。『パパたちは大事な用があってレンとお別れしなくちゃならない。でも大丈夫、用が済んだら必ずレンのことを迎えに行くからね。パパたちが帰ってくるまで良い子にして待っていられるかい?』」
「そ、それって……」
レンの話を聞いたエステルは嫌な予感がした。
「ふふっ、レンはもう11歳だから『もちろんできるわ』って答えたわ。そうしたら、パパとママはそのままどこかに行っちゃったの。」
「おいおい、冗談だろ……」
レンが話し終えるとアガットは疲労感漂う様子で溜息を吐いた。
「えーと……。そんな事情とは思わなかった。どうしよう?保護者を捜すっていう話じゃなくなってきた気がするんだが。」
「うーん……。アガット、いいかな?」
執事の質問にエステルは唸った後、アガットに目配せをした。
「仕方ねえ……。これもギルドの仕事だ。」
「執事さん、心配しないで。この子はあたしたちが責任をもって預かるから。」
「えっ……?」
エステルの説明を聞いた執事は目を丸くした。そしてエステルはレンの方に向いた。
「ね、レンちゃん。お姉さんたちと一緒に王都のギルドに行かない?すぐに、パパとママを見つけてあげられると思うわ。」
「そうなの?でもパパたち、大事な用があるって言ってたのよ?」
エステルの提案を聞いたレンは可愛らしそうに首を傾げて尋ねた。
「大丈夫、大丈夫。絶対に見つけてあげるから。お姉さんを信じなさいって!」
「うーん……。それじゃあレン、お姉さんといっしょに行くわ。よろしくお願いするわね。」
「うん!こちらこそよろしくね。」
「ふう……本当にすまない。その子のこと、よろしく頼んだよ。」
「ああ、任せておきな。よし……とっととギルドに戻るぞ。」
そしてエステル達はレンを連れて離宮を出た。
~キルシェ通り~
レンを連れて周遊道を抜けたエステル達は街道で意外な人物と出会った。
「おや、貴方がたは……」
「あれ……?」
「まあ……。フィリップさん。お久しぶりですね。」
エステル達が出会った人物はデュナンの執事のフィリップだった。
「お久しぶりです。クローディア殿下、エステル様。エルベ離宮に行ってらしたのですか?」
「うん、そうだけど……」
「フィリップさんは王都に御用があったのですか?」
「ええ、公爵閣下のお申し付けで買い物などをしておりました。……ひょっとして離宮で閣下とお会いになられましたか?」
クロ―ゼの疑問に答えたフィリップはエステル達に尋ねた。
「う、うーん、まあね。」
「久しぶりに挨拶をさせて頂きました。」
「……その様子では、やはり心ないことを言われたようですな。誠に申しわけありません。臣下としてお詫び申し上げます。」
苦笑しているエステルとクロ―ゼを見て、フィリップは頭を下げて謝罪した。
「ふふ、とんでもないです。謹慎されていると聞いたので少し心配だったのですが……お元気そうで安心しました。」
「そう言って頂けると助かります。それでは私はこれで……。皆様、失礼いたします。」
そしてフィリップはエステル達に頭を下げた後、エルベ離宮に向かった。
「は~、相変わらず苦労をしょい込んでるわね。あの公爵が小さい時から世話をしているらしいけど……」
「世話役としての経歴は20年以上だそうです。何でも、その前には親衛隊に勤めていたとか。」
「え、そうなの!?うーん、まさに人は見かけによらないわね。」
「………………………………。今のオジサン……タダ者じゃないと見たわ。」
クロ―ゼの説明を聞いたエステルは驚き、レンは唐突に口を開いた。
「へっ……。どうしたのよ、いきなり?」
レンの言葉を聞いたエステルは驚いて尋ねた。
「だって、あんな風に目をつぶって歩けるんですもの。レンにはゼッタイにできないわ。」
「うーん、あれは目をつぶっているんじゃなくて細目なだけだと思うけど……。ちなみに驚いていた時はちゃんと目を見開いてたわよ?」
「あら、そうなの?うふふ、驚いたお顔も見てみたくなっちゃったわ。」
エステルの答えを聞いたレンは無邪気に笑って答えた。
そしてエステル達はレンを連れて、王都のギルドに向かった。
~遊撃士協会・グランセル支部~
「ただいま、エルナンさん……。……あ!」
エステル達がギルドに入ると意外な人物――シード中佐を見つけたエステルは声を上げた。
「あ、エステルお姉ちゃん!」
「おかえりなさい、ママ!」
エステル達が帰って来た事に気付いたティータとエルナンに仕事を報告し終えたミントがエステル達を明るい表情で迎えた。
「やあ、エステル君。先日顔を合わせて以来だな。」
「あれれ……。シード中佐じゃない!?」
「そうか、軍の担当者ってのはあんたの事だったのか。レイストン要塞から来たのか?」
「ああ、その通りだ。つい先ほど、警備艇で王都に到着したばかりでね。」
アガットの疑問にシードは頷きながら答えた。
「おや……?そちらのお嬢さんはひょっとして例の……」
エルナンはレンに気付いて、エステル達に尋ねた。
「あ、うん、そうなのよ。ちょっと事情があって連れてきちゃったんだけど……。えっと、レンちゃん。お姉さんたち、少し話があるから2階で待っててくれないかな?」
「あら……。ひょっとしてお仕事の話?」
エステルに言われたレンは首を傾げて尋ねた。
「う、うん……ごめんね。」
「別にいいけど……。お仕事、お仕事ってまるでパパみたいな感じ。レン、そういうのあんまりスキじゃないわ。」
「うっ……………」
頬を膨らませて怒っているレンを見て、エステルは言葉に詰まった。
「あ、あの……。レンちゃんって言ったかな?わたしと一緒におしゃべりでもしない?わたし、レンちゃんのこと色々と知りたいな。」
「ミントも!ティータちゃんと一緒におしゃべりしていいかな?」
そこにレンと同年代のティータやミントがレンに話しかけた。
「あなた達と?(ミント…………ふ~ん、この子がプリネお姉様が引き取った人と同じ”竜”か…………)うーん、そうね。おしゃべりしてもいいわよ。」
ティータとミントの申し出を聞いたレンは、ミントの名前を知り、ある事を思い出した後、返事をした。
「えへへ、ありがとう。それじゃあお姉ちゃん。わたしたち、2階で待ってるね。」
「えっと………今更言うのもなんだけど、ティータちゃん達と一緒におしゃべりしに行ってもいいですか、エルナンさん?」
「はい。報告も終わりましたし、いいですよ。」
「ありがとうございます!行こう、2人とも!」
そしてティータ、ミント、レンの3人は2階に行った。
「はあ……助かっちゃったわ。」
その様子を見送ったエステルは安堵の溜息を吐いた。
「ふむ、どういう事情かは後ほど聞くとしましょうか。まずは、シード中佐の話を先に聞いていただけますか?」
「あ、うん、いいわよ。」
「さっそく聞かせてもらおうじゃねえか。」
そしてエルナンの提案にエステルとアガットは頷いた。
「すまない。こちらも急ぎなものでね。まず、この話は王国軍からの正式な依頼と考えてもらいたい。君たちに、ある件の調査と情報収集をお願いしたいんだ。」
「ある件の調査……?」
シードの依頼にエステルは首を傾げた。
「『不戦条約』は知っているね?実は、その条約締結を妨害しようとする脅迫状が各方面に届けられたんだ。」
シードの説明を聞いた一同は驚いた。
「きょ、脅迫状!?」
「それは……穏やかではありませんね。一体どんな内容なんですか?」
エステルは信じられない表情をし、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。
「……これをご覧ください。」
そしてシードは一通の手紙をエステル達に差し出した。手紙を渡されたエステル達は一通の手紙を読み始めた。
「『不戦条約』締結に与する者よ。直ちに、この欺瞞と妥協に満ちた取決めから手を引くがよい。万が一、手を引かぬ者には大いなる災いが降りかかるだろう。」
「うわ……」
「なるほど、脅迫状だな。内容はこれだけか?」
手紙の内容を読み終えたエステルは呆れ、アガットは頷いた後、尋ねた。
「ああ、これだけだ。そしてお気づきのように差出人の名前も書かれていない。正直、悪戯の可能性が一番高いと思われるんだが……」
「単なる悪戯とは思えない気がかりな要素がある―――そういうわけだね?」
言葉を濁しているシードの代わりに応えたオリビエは確認した。
「ああ……。脅迫文が届けられた場所だ。まずはレイストン要塞の司令部。続いて飛行船公社、グランセル大聖堂、ホテル・ローエンバウム、リベール通信社。そして帝国大使館、共和国大使館、グランセル城、エルベ離宮。全部で10箇所だ。」
「そ、そんなに!?………ってあれ?10箇所??一つ、足りないような………?」
シードの説明を聞いたエステルはある事に気付き、尋ねた。
「ああ、言い忘れた。済まない。正確にはある一箇所に同じ手紙が2通届いたんだ。」
「へっ?それってどこ??」
「……………グランセル城だ。」
「あ、あんですって~!?」
「どうして2通も届いたんでしょうか………?」
シードの話を聞いたエステルは声を上げて驚き、クロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。
「それなんですが…………一枚はリベール王家宛に届いて、もう一枚は………シルヴァン皇帝陛下宛に届いたんです。」
「えっ!?何故、シルヴァン皇帝陛下宛がグランセル城に………?」
シードの説明を聞いたクロ―ゼは驚いて尋ねた。
「その事なんですが…………先ほどシルヴァン皇帝陛下、カミ―リ皇妃がファーミシルス大将軍率いる親衛隊の一部隊とメンフィル軍の一部隊、そして竜騎士団の一部隊と共にグランセルに到着しました。」
「あ、あんですって~!?」
「えっ………!?もう、来られたのですか!?確かまだ、来日の詳しい日は知らされていないはずですが………」
シードの話を聞いたエステルは驚き、クロ―ゼは信じられない表情で尋ねた。
「ええ。皆さんが戻って来る少し前に王国軍が一時、一般市民達にグランセル城までの道を開けさせ、シルヴァン皇帝陛下達をグランセル城に向かえ入れた所です。詳しい話はシード中佐。お願いします。」
驚いているエステル達に説明したエルナンはシードに先を促した。
「はい。………メンフィルは最初、ファーミシルス大将軍を使者として女王陛下にシルヴァン皇帝陛下達が王都に来られた事と王都にあるさまざまなホテルに滞在する事を伝えに来たので、それに驚いた女王陛下は急いでヒルダ夫人達に部屋の用意をさせて、シルヴァン皇帝陛下達を城に向かえ入れたのです。………その影響で城は今、シルヴァン皇帝陛下達の歓迎の準備に追われている所です。」
「そう…………なんですか。…………シルヴァン皇帝陛下宛の脅迫状はいつ、届いたのですか?」
「それが………シルヴァン皇帝陛下達が城に入城して、少ししてから届いたのです。」
クロ―ゼの質問にシードは少しの間言葉を濁した後、答えた。
「なるほど……。ただの悪戯にしちゃ狙ってやっている上、大規模だな。軍が気にするのも無理はない。………しかし、飛行船公社に七耀教会、ホテルにリベール通信か……。一見、条約締結には関係なさそうな所に見えるがな。」
シードの話を聞き終えたアガットは真剣な表情で頷いた後、シードに尋ねた。
「ところが厳密に言うと全く関係がないわけじゃない。まず飛行船公社は帝国・共和国関係者を送迎するチャーター便を出す予定でね。同じくホテルもすでに関係者の宿泊予約が入っている状況だ。さらに大聖堂のカラント大司教は女王陛下から条約締結の見届け役を依頼されているそうだし……。リベール通信は不戦条約に関する特集記事を数号前から連載している。」
「うーん、どこも何らかの形で条約に関わっているってことね。いったい何者の仕業なのかしら。」
「フム……。これは一筋縄ではいかないね。国際条約である以上、妨害しようとする容疑者は色々と考えられるだろう。」
「そうだな。カルバードかエレボニアの主戦派、或いはメンフィル皇家に恨みを持つ者……。もしくは4国の協力を歓迎しないまったく別の国家の仕業か……」
シードの話を聞き、エステルの言葉に頷いたオリビエとジンは考え始めた。
「……もちろん王国内にも容疑者は存在すると思います。」
「そして……最悪の可能性が『結社』ね。」
クロ―ゼも真剣な表情で王国内にも犯人がいる可能性がある事を言い、エステルは『結社』の可能性がある事も指摘した。
「で、軍としては俺たちに何を調べさせたいんだ?」
「君たちにお願いしたいのは他でもない……。脅迫状が届けられた各所で聞き込み調査をして欲しいんだ。具体的には―――エルベ離宮とレイストン要塞を除いた8箇所だ。」
「飛行船公社、グランセル大聖堂、ホテル・ローエンバウム、リベール通信社、帝国大使館、共和国大使館、そしてグランセル城ですね。」
シードの依頼を確認するようにクロ―ゼは場所を言った。
「フッ、どこも制服軍人が立ち寄ると目立ちそうな場所だね。情報部を失った今、聞き込みをギルドに頼るのも無理はないかな。」
「恥ずかしながらご指摘の通りだ。そして新しい司令官殿の方針でギルドに回せそうな仕事は片っ端から回せとのことでね。それを実践させてもらったよ。」
オリビエの指摘にシードは苦笑しながら答えた。
「まったくもう……。父さんも調子いいわねぇ。」
「ケッ、いかにもオッサンの言い出しそうな台詞だぜ……」
シードの話を聞いたエステルとアガットは呆れた。
「ふふ、君たちに依頼したのはあくまで私の一存さ。この度、条約調印式までの王都周辺の警備を一任されてね。警備体制を整えるためにはなるべく多くの情報が欲しいんだ。どうか引き受けてもらえないかな?」
「う、うーん……。引き受けたいのは山々なんだけど。もう一つ、片付けなくちゃいけない事件が起きちゃって……」
「先ほどのお嬢さんの件ですね。かいつまんで説明していただけませんか?」
そしてエステル達はエルナン達にレンの事情を説明した。
「なるほど……。それは放っておけないな。しかし、あんな年端もいかない子供を置き去りにするとは……」
「うん………なんとか見つけてあげたいんだけど………」
シードの言葉にエステルは心配そうな表情で頷いた。
「ふむ、そうですね。何かの事件と関わって娘さんを巻き込まないようにしたのかもしれない可能性があるかもしれません。しかし、それでしたら一石二鳥かもしれませんよ?」
「へっ?」
「話からするとどうやらレンさんのご両親は外国人でいらっしゃるようですね?なら、大使館やホテルなどに問い合わせた方がいいでしょうね。」
「あ、なるほど!」
エルナンの提案にエステルは明るい表情をした。
「どちらも脅迫状が届けられた場所ってわけか。あと、飛行船公社にも乗船記録があるはずだぜ。」
「王国軍も、各地に通達を回して親御さんの捜索に協力しよう。関所を通ったのなら分かるはずだ。」
「ありがとう、シード中佐!」
「ふふ、どうやらこのまま話を進めても良さそうですね。具体的な調査方法と分担はこちらに任せて頂くとして……。やはり、調査結果の報告は文書と口頭がよろしいですか?」
話が上手く進んでいる事に明るい表情をしたエルナンはシードに確認した。
「ああ、盗聴を避けるためにも導力通信は使わないでほしい。実は本日から、エルベ離宮に警備本部が置かれる予定でね。ご足労かとは思うがそちらにお願いできるかな?」
「うん、わかった。それじゃあ、調査結果の報告はエルベ離宮に直接届けるわね。」
「よろしく頼むよ。」
そしてエステル達はシードを見送った後、エステル、ジン、オリビエ、クローゼが両国の大使館とグランセル城、リベール通信社を回り、アガットがそれ以外の場所を1人で調査するという分担になり、ミントはエステル達が留守にしている間に一般の依頼が来た際、そちらの対応をする為にギルドに待機となった。
「それじゃあ、あたしたちはちょっと出かけてくるわ。ミント、ティータ、レンちゃん。悪いけどお留守番頼むわね?」
「それなんだけど……。レンはティータ達と一緒にお買い物に行くことにしたわ。」
「へっ!?」
レンの言葉にエステルは驚いた。
「ご、ごめんね、お姉ちゃん。レンちゃんがどうしても百貨店に行きたいらしくて……」
「ミントも誘われちゃって、つい………」
驚いているエステルにティータとミントは申し訳なさそうな表情で答えた。
「あら、心外ね。ティータとミントも、ぬいぐるみとか見てみたいって言ってたじゃない。」
「あう……。レンちゃんったらあ。」
「むう……3人の秘密って、さっき言ったばかりじゃない~。」
口元に笑みを浮かべて答えるレンにティータは無邪気に笑い、ミントは頬を膨らませて答えた。
「う、うーん……。いつレンちゃんのパパたちの情報が入るか分からないから待ってて欲しいんだけど……それとミントはあたし達がいない間、入って来た依頼の対応をお願いしたいのだけど……」
「ジー……」
「「じー……」」
エステルの言葉を聞いたレン、ティータ、ミントの3人は恨めしそうな目線でエステルを見た。
「うっ……。トリプルでその目はズルイわよ。」
「いいんじゃねえのか?ティータが付いてりゃ買い物くらい大丈夫だろ。」
「それに2人の護衛としても、ミントさんがちょうどいいと思いますしね。」
3人に見られたエステルは弱めの抵抗をしたが、アガットやエルナンは賛成の様子だった。
「うーん……それもそっか。ミント、ティータ、レンちゃん。あたしたちも夕方には戻るからそれまでには戻ってきなさいよ?それに王都は広いから、迷子にならないよう気を付けるように。」
「はーい!」
「うん、まかせて♪それじゃあレンちゃん、ミントちゃん。さっそく出かけようか?」
「ええ、もちろんよ。お姉さんたち、またね♪」
そして3人はギルドを出た。
「ふふ、すぐに仲良くなっちゃったみたいですね。」
「うん、さすがに年齢が近いだけはあるわね。まあ、ミントは正確に言えば違うんだけど。でも、レンちゃんとティータ、ミントの組み合わせかぁ。微妙に不安なトリオね。」
3人の様子を微笑ましい様子で見送ったクロ―ゼの言葉に頷いたエステルは呟いた。
「あら、どうしてですか?」
「いや、だって……。ティータって押しに弱そうだし。レンちゃんに色々と振り回されそうな気がしない?ミントも元気が良いから、レンちゃんと一緒に振り回しそうな気がするのよね………普段は良い子だけど、まだ子供のようなものじゃない。」
「確かに……」
エステルの話を聞いたクロ―ゼは苦笑しながら頷いた。
「そういやエルナン。あの子の両親の名前はちゃんと聞き出せたのか?」
「ええ、何とか。クロスベル自治州に住む貿易商のご夫妻のようですね。名前は、ハロルド・ヘイワーズとソフィア・ヘイワーズだそうです。」
「クロスベルの貿易商、ハロルド&ソフィア夫妻っと……。うん、手帳にメモしたわ。」
アガットに尋ねられて答えたエルナンの話を聞いたエステルは手帳にメモをした。
「こちらもオーケーだ。脅迫状の調査と合わせて聞き込みを始めるとするか。」
「打ち合わせ通り、エステルさんはエレボニア・カルバード大使館とグランセル城、リベール通信社を当たってください。各大使館については、ジンさん、オリビエさんに協力をお願いします。」
「フッ、任せたまえ。」
「要するに、大使さんに紹介すりゃあいいわけだな。」
エルナンに言われたオリビエとジンは頷いた。
「グランセル城については殿下、お願いします。エステルさんに、しかるべき方を紹介してあげてください。」
「はい、分かりました。………ただ、シルヴァン皇帝陛下達と会えるかは保証できませんが……」
「シルヴァン皇帝陛下達に関しましては今は前と違って、リフィア殿下達がいる訳ではありませんから仕方ありません。シルヴァン皇帝陛下達は可能ならばでいいですので。リベール通信社については、言うまでもなくエステルさん自身が一番の適任ですね。」
「うん、ナイアルに聞いてみるわ。」
エルナンに言われたエステルは頷いた。
「残りの大聖堂、飛行船公社、ホテル・ローエンバウムですが……。アガットさんにまとめて調査をお願いします。」
「ああ。その方が効率がいいだろう。」
「それじゃあ、レッツ・ゴー!」
そしてエステル達は調査を開始した…………
ページ上へ戻る