英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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外伝~祝賀会の夜~中篇
~グランセル城・空中庭園~
「モグモグ………世界が違ってもカニタマがあって本当によかった………一日にこんなにもたくさんのカニタマを食べれるなんて、幸せ……」
「フン、馬鹿の一つ覚えのようにそんな高カロリーの物ばかり食べていたら太るぞ。」
テーブル一杯に広げたカニタマが乗った皿に呆れたリオンは幸せそうな表情でひたすらカニタマを食べ続けているソフィに忠告したが
(あの~、メイン料理を二皿だけ食べて、後はプリンやデザートばかり食べてる坊ちゃんも他人の事は言えないと思うのですが……)
「お前は黙ってろ、シャル!」
「私、人間じゃなくて”プロトス1(ヘイト)”だからどれだけ食べても太らないよ?―――あ、ヨシュア。」
シャルティエの指摘を聞くとシャルティエを睨みつけ、ソフィは首を傾げてリオンの忠告に答えた後ヨシュアに気づくとリオンと共にヨシュアに視線を向けた。
「ソフィ、リオンさん。異変解決に加えて復興作業にも力を貸していただき、本当にありがとうございました。」
「フフ、エステルやリベールの人達にはお世話になったから、私は当然の事をしただけだよ。」
「フン、奴等から受けた”借り”を借り続けるというのは気持ち悪いからな。僕はさっさと”借り”を返したかっただけだ。」
ヨシュアに感謝されたソフィは微笑み、リオンは鼻を鳴らして答えた。
「そう言えば父さんから聞きました。リオンさんは王国の客員剣士として、リベールに根を下ろすとの事ですね?」
「……その話を出すな。今思い出しただけでも腹が立つ……!あの男、僕が目を離している隙にマリアンに余計な事を吹き込んだのだからな……!能天気娘といい、親娘そろって僕を振り回すとは、どこまでも面倒な奴等だ!」
(またそんな事を言って……カシウス准将はこの世界では根無し草の坊ちゃんに就職先を用意して頂いた所か、リベール王国を後ろ盾にしてくださった上バルバトスが発見された場合はバルバトス討伐の為に坊ちゃんが自由に行動していいように取り計らってくださったのですから、感謝するべきですよ?)
ヨシュアの話を聞いて忌々しそうに語るリオンにシャルティエは呆れた表情で指摘した。
「フン、非常時の際の戦力として僕とお前の力目当てで僕をこの国に根を下ろさせた奴に何故感謝しなければならない。」
「ハハ……(話には聞いていたけど、本当に剣と会話をしているんだな……)……ソフィは確かイオンさん達と一緒に行動するんだったよね?」
シャルティエと会話をしているリオンを冷や汗をかいて苦笑しながら見守っていたヨシュアは気を取り直してソフィに視線を向けた。
「うん。元の世界――――”エフィネア”に帰る方法を探す為にも古代遺物に関わっているイオン達と一緒に行動をしたら、もしかしたら元の世界に戻る古代遺物や方法が見つかるかもしれないし。何年―――何十年、何百年かかっても元の世界に帰る方法を探すつもりだよ。」
「そうか……ソフィが故郷に戻れるように、僕も女神に祈っているよ。」
「ありがとう、ヨシュア。」
「フン、僕の経験からすれば神や神に関係する奴等に頼るのは大間違いだと思うがな。」
(幾らなんでもエルレイン達とこの世界の宗教と比べるのは色々な意味で間違っていると思うのですが……)
鼻を鳴らしてソフィに指摘するリオンにシャルティエは苦笑しながら指摘した。
「あ、ここにいたのね、リオン。」
その時様々な料理が乗った皿を乗せたグルメカートと共にマリアンが近づいてきた。
「もう……やっぱり思った通り、メインの料理を少し食べて、後はデザートばかり食べているじゃない。ちゃんと栄養を考えて食べないと、大きくなれないわよ?」
リオンの前にある料理がプリンを始めとしたデザートばかりである事を確認したマリアンは溜息を吐いた後リオンに指摘した。
「子供扱いはよしてくれといつも言っているだろう。それよりもボース市長の世話をしなくていいのか?」
「メイベル様にはリラさんがついていらっしゃるし、メイベル様からもせっかくの祝賀会なのだから、将来の伴侶の貴方と過ごすべきだって言われたから大丈夫よ。」
「チッ、あの女市長、余計な気遣いを……」
(アハハ……相変わらず素直じゃありませんねぇ。)
マリアンの話を聞いて相変わらず素直に感謝しないリオンをシャルティエは苦笑しながら見守っていた。
「―――と言う訳で私が貴方の栄養を考えて他のお料理も貰って来たわ。デザートは一旦中断して、こっちの料理を先に食べて。」
「………マリアン。野菜の料理が多いのは僕の気のせいか?しかもニンジンがある料理ばかりの気がするのだが。」
マリアンがグルメカートで持ってきた料理を見て、肉や魚より野菜の料理の比率が僅かに高い事に加えて自分にとって最も嫌いな食べ物であるニンジンが使われた料理ばかりである事に気づいたリオンは大量の冷や汗をかいて表情を僅かに引き攣らせてマリアンに訊ねた。
「フフ、貴方の気のせいよ。はい、口をあけて。嫌いな物は私が食べさせてあげるわ。」
「マ、マリアン!そういう事はせめて二人っきりの時にしてくれ……!人が見ている前でそんな恥ずかしい事ができるか!」
自分に料理を食べさせようとするマリアンの行動に焦ったリオンはマリアンに指摘したが
「あら、私は全然恥ずかしくないわよ?ここにいる私達のお知り合いの方々は私と貴方が将来結婚する関係であることをご存知だし、それに貴方がまだ子供だった頃はこうやって食べさせていたじゃない。」
「それと私の事は別に気にする必要はないよ。結婚したアスベルとシェリアも今のリオンとマリアンみたいなことを頻繁にしているのを見ていたから、私は慣れているし。それよりも私はこの祝賀会に出されているカニタマを残さず食べる事が大切だもの。モグモグ………」
「グッ………!」
(アハハ、無駄な抵抗をせずに観念するべきですよ、坊ちゃん。)
マリアンは聞く耳を持たず、ソフィはリオンとマリアンの様子を気にせずカニタマを食べ続けていた。
「ハハ……(お邪魔のようだし、今のうちに失礼するか……)」
一方その様子を見守っていたヨシュアは静かにリオン達から離れた後、バダックと話をしているルークを見つけ、ルークとバダックという珍しい組み合わせが気になり、二人に近づいた。
「ってな事で結局ナタリアの料理だけは上達しなかったぜ。ガイのお陰で今まで料理をしたことがなかった俺ですらみんなが食えるレベルにはなったのに、ナタリアの料理はティアが匙を投げて諦める程マシにすらならなかったぜ。」
「ぬう………シルヴィアは料理上手な妻であったのだがな………」
「ルーク兄さん、バダックさん。」
ルークの話にバダックが頭を抱えて唸り声を上げているとヨシュアが声をかけてきた。
「お、ヨシュア。」
「久しぶりだな、ヨシュア。」
「……お久しぶりです。本当なら結社がリベールから撤退した後バダックさんのような優秀な遊撃士はすぐにカルバードに戻るべきでしたのに、復興作業にも力を貸していただきありがとうございました。」
「フッ、気にするな。俺は遊撃士としての義務を果たしただけだ。………それにしても改めて思ったがお前の家族とはとても思えないくらい、ヨシュアは礼儀正しいな?お前も少しは見習ってはどうだ?」
「ぐっ………俺だって時と場合によっては、最低限の礼儀は弁えるように気を付けているっつーの!」
ヨシュアに感謝の言葉を述べられたバダックに視線を向けられたルークは唸り声を上げた後答えた。
「……それにしても珍しい組み合わせですね。前から疑問に思っていましたがお二人は古い知り合いなのですか?」
「あ~……まあ、古い知り合いである事は間違っていないんだが………」
「……昔、ルークと俺は色々とあってな。時には剣を交えて争う事もあったな。」
「お、おい!」
ヨシュアの質問を誤魔化して答えたルークだったがバダックの答えを聞くと焦った表情をした。
「え………お二人がですか?」
「うむ。まあお互いに和解して、今はこのように落ち着いた関係になっているがな。」
「(二人の間に一体何があったのか少し気になるな……)……そう言えば先程ルーク兄さんの口から出た人物―――ナタリアさんでしたか?その人の事について話が盛り上がっていましたけど……」
「げっ!き、聞いていたのかよ……」
ヨシュアの指摘を聞いたルークは表情を引き攣らせた。
「……ナタリアとは俺の娘だ。」
「え……バダックさん、結婚されていたんですか!?」
バダックの口から出た驚愕の事実に驚いたヨシュアは驚きの表情でバダックを見つめた。
「うむ……様々な複雑な事情によって俺は妻と娘を失ってしまったのだが………どうやら娘は奇蹟的に生きていたようでな。それでルークはナタリアと親しい関係であってな。お互い忙しい身でゆっくり話すような機会は今までなかったが、こうしてゆっくり生き別れた娘の事を教えてもらえる機会ができたから、娘の事を色々と教えてもらっていたのだ。」
「そんな事情があったんですか………その、バダックさん。生き別れた娘さんに会いに行こうとは思わなかったのですか?」
バダックの説明を聞いたヨシュアは複雑そうな表情でバダックに訊ねた。
「……ナタリア―――いや、メリルは育ての両親に愛情を注がれて立派に成長し、既に結婚もしているとの事だ。今更本当の父親が姿を現せばメリルやメリルの周りの者達を混乱させて、下手をすればメリルが築いた幸せな家庭を崩壊させてしまうかもしれん。娘が生きて幸せになっている……それがわかっただけでも、俺は十分満足している。」
「バダックさん………」
「……………」
バダックの答えを聞いたヨシュアは辛そうな表情をし、ルークは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「……ヨシュア、”家族”は大切にするのだぞ。”家族”を顧みないものは決して幸せになれん。」
「……ご忠告ありがとうございます、バダックさん。その言葉、ずっと覚えておきます。」
その後二人から離れたヨシュアはイオンとアリエッタを見つけ、二人に近づいた。
「イオンさん、アリエッタさん。お二人もまだリベールにいらしていたんですね。」
「ええ。まだやり残していた事がありましたので。まあ、今日の昼にようやく終わりましたから、明日にはアルテリアに戻る事になるのですけどね。」
「そしてその後は、すぐに次の任務、です。総長、人使いが荒い、ですから。」
「まあまあ……」
自分の後にジト目になって答えたアリエッタをイオンは苦笑しながら諫めていた。
「………イオンさん、姉さんの事、本当にありがとうございました。僕達と何の関係もないのに、姉さんの為に古代遺物まで使って蘇生してくれた事、今でも感謝しています。」
「フフ、気にしないでください。僕は聖職者……いえ、人として当然の事をしただけですし、貴方達と縁がある彼女を味方にする事ができれば貴方と”剣帝”を”結社”から抜けさせて、あわよくばこちらの味方にする事もできるという打算もありましたから、僕に感謝する必要はありませんよ。僕はある意味、彼女を利用していたんですからむしろ貴方に謝罪すべきです。」
「イオン様………」
申し訳なさそうな表情でヨシュアを見つめるイオンをアリエッタは心配そうな表情で見つめた。
「……それでも僕は貴方に感謝しています。貴方が姉さんをこの世に呼び戻してくれたのは事実なのですから。もし僕の協力が必要な事態があったら、いつでも言ってください。いつでも力になります。」
「……心強い言葉、ありがとうございます。もしその時が来ればお願いします。」
そしてイオンとアリエッタから離れたヨシュアはアーシアとフレンに話しかけた。
「アーシアさん、フレンさん。ご無沙汰しています。」
「あら、ヨシュアじゃない。」
「もしかして挨拶回りか?」
「ええ。……………」
フレンの言葉に頷いたヨシュアは二人をジッと見つめ、ヨシュアの視線を不思議に思ったアーシアはヨシュアに訊ねた。
「?そんなにジッと私達を見つめているけど、私達に何か聞きたい事でもあるのかしら?」
「いえ……こうして改めて見ると二人は本当に仲が好いなと思いまして。」
「まあ、俺達はペアで仕事をする事が多いからな。お前達の目からはそう写ってもおかしくねぇな。」
アーシアの疑問に答えたヨシュアの答えを聞いたフレンは苦笑しながら答えた。
「えっと……これを機会に聞いておきたいことがあるのですけど、いいでしょうか?」
「ん?何を聞きたいんだ?」
「もしかしてお二人は付き合われているのですか?」
「へ………付き合うって、俺とアーシアがか?」
「はい。」
「「……………」」
ヨシュアが自分達が恋人同士の関係である事を疑っている事を知った二人は少しの間黙り込んだが
「フウ……もしかしてシェラザードかエステルあたりが邪推していたのかしら?」
「アハハ……まさにその通りです。」
我に返ったアーシアは呆れた表情で溜息を吐き、アーシアの推測にヨシュアは苦笑しながら肯定した。
「ハハハハハッ!俺がアーシアと付き合っているって……それは絶対ありえねえって!と言うかこんなおっかない女、絶対嫁の貰い手がいねえと思うぞ。」
一方フレンは腹を抱えて笑った後口元に笑みを浮かべて答えたが
「へえ~……まさか私の事をそんな風に思っていたなんてね………今度貴方の婚約者さんに会った時に、私が貴方の発言によって傷ついた事や色々なありえるかもしれない嘘を吹き込んであげましょうか?」
「ちょっ、それは卑怯だろ!?俺が悪かった事を認めるから、それだけは勘弁してくれ……!」
しかし膨大な威圧を纏って微笑むアーシアの答えを聞くと慌て始めた。
「え……フレンさんには婚約者がいらっしゃっているんですか?」
「ああ。美人で飯も美味い、性格は天然、止めはシェラザードですら霞む程のスタイル抜群の最高の女だぜ!」
驚いている様子のヨシュアにフレンは自慢げな様子で答えたが
「私は正直、貴方みたいな鈍感で失礼な男性には勿体なさすぎる女性だと常々思っているのだけどね。彼女と幼馴染で昔から親しい関係じゃなかったら、貴方、絶対振り向いてもらえなかったわよ。」
「そこ、余計な一言は止めるように。というか俺は幼い頃からヨシュアみたいにハーレムの片鱗を見せている上、女の気持ちにまるで気づかない弟みたいな鈍感野郎じゃねえぞ。」
静かな表情で指摘したアーシアに疲れた表情で反論し
「何でそこで僕が出てくるんですか……」
フレンの反論を聞いたヨシュアは疲れた表情で指摘した。その後二人から離れたヨシュアはカリンとレーヴェがいるテーブルに近づいた。
「……2人とも、久しぶり。」
「………ああ。”異変”終結以来だから、数週間ぶりだな。」
「フフ、元気そうで何よりだわ。」
ヨシュアに話しかけられたレーヴェは静かな表情で頷き、カリンは微笑みながらヨシュアを見つめた。
「……?えっと……何で姉さんはまだシスター服を着ているの?”異変”の件が落ち着いたら、イオンさん達とは別れてリベールに住むことを決めたって聞いているけど……」
未だシスター服を身に纏っているカリンを不思議に思ったヨシュアはカリンに訊ねた。
「だって、王族の人達が開いた豪華なパーティーに着ていけるような服、私は持っていないもの。シスター服だったら、正装にもなるから着てきたのよ。」
「ハハ……そんな事、別に気にしなくていいのに。招待状にも服装は普段着ているような服でいいって、書いてあっただろう?」
カリンがシスター服を身に纏う理由を知ったヨシュアは苦笑しながら指摘した。
「あら、”ステラ”として貴方達と一緒に行動していた普段の服装でもあるのだから、間違ってはいないでしょう?それにイオン様達に保護されてから結構な頻度で着ていたから、愛着があるのよ。」
「フッ、これで”チャクラム”―――暗殺者が扱うような武装を得物としていなければ、まともなシスターになるだろうな。」
「失礼ね。チャクラムは星杯騎士団に伝わっている特殊な武装よ?」
「ハハ……そう言えば姉さんが扱っている”チャクラム”や”法術”はやっぱりイオンさん達から?」
頬を膨らませてレーヴェに指摘するカリンを苦笑しながら見つめていたヨシュアはある事を訊ねた。
「ええ、私が習得している”法術”はイオン様達から習って、”チャクラム”での戦い方を含めた戦いの基礎はイオン様達の”上司”の方から習ったのよ。」
「イオンさん達の……”上司”?確か”星杯騎士団”はイオンさんを含めた12人の”守護騎士”に率いられているという話だけど………」
「―――――”守護騎士”第一位にして”星杯騎士団”総長”紅耀石”アイン・セルナート。その方がイオン様達の上司よ。」
「ええっ!?」
「ほう……まさかかの”紅耀石”に師事をしてもらっていたとはな。道理で、俺や他の”執行者”達相手にまともに戦えた訳だ。」
カリンに戦い方を教えた人物に驚いたヨシュアは声を上げ、レーヴェは興味ありげな表情をした。
「フフ、アイン様の鍛錬はスパルタで凄く厳しかったけど、今でも感謝しているわ。そのお陰で”結社”のような裏世界の人達が相手でも最低限の身の守りはできるようになったのだから。」
「ハハ……………そういえば、レーヴェを祝賀会に呼ぶなんて、アリシア女王陛下も思い切った事をしたね。」
「……ああ。本来なら牢屋に入っていてもおかしくないはずなのに、最後の戦いでは手を貸したという理由で俺まで参加するように言われた時は正直驚いた。……俺の罪状の事といい、アリシア女王の慈悲深さには恐れ入る。」
ヨシュアの言葉にレーヴェは静かな表情で頷いて別の場所で取材を受けているアリシア女王に視線を向けた。
「”王国軍で王国を傷つけたその力を振るい、リベールの守護者としてリベールを守り続ける事”……だったね。確か解散した”情報部”を改めて結成した部隊―――”特務部”の将校として、中尉待遇で王国軍に入隊したんだったよね?」
「ああ。俺の事を知った他の部隊に移籍した元”情報部”の者達も俺の指揮下に入る事を強く希望している事を理由に”特務部”への異動願いを出したと聞いている。俺は奴等を騙していたというのに、物好きな奴等だ……」
「レーヴェ………」
ヨシュアの話に頷いて静かな表情で語るレーヴェをカリンは静かに見守っていた。
「それだけレーヴェが慕われている証拠だよ。そう言えば姉さんはこれからどうするの?仕事は見つかったの?」
「実はアリシア女王陛下からクローディア王太女殿下の御付きのメイドをしないかってお誘いがあってね。やりたい仕事はまだ見つけていなかったし、それにアリシア女王陛下直々のご厚意だし、引き受ける事にしたの。」
「え……姉さんがクローゼの!?」
カリンがクローゼ御付きのメイドになる事を知ったヨシュアは驚いた。
「とは言ってもヒルダ女官長にメイドとして鍛えられて、女官長から王太女殿下御付きのメイドとしての合格を貰えるまでは見習いメイドとしてお城で働く事になるのだけどね。」
「そうなんだ………それにしてもどうして女王陛下は姉さんをクローゼ御付きのメイドに誘ったんろう?クローゼ御付きのメイドなら、既にシアさんがいるのに。」
「―――恐らくカリンがヨシュアの姉である事からカリンが信頼できる人物かつ戦闘能力がある事から、非常時にメイドでありながらクローディア王太女を守る事ができる人物だからだろうな。加えて俺にクローディア王太女殿下―――リベールに忠誠を誓わせ続ける為の楔にもなる。俺への罪状もそうだが、アリシア女王がカリンをクローディア王太女御付きのメイドに誘ったのは間違いなく”剣聖”カシウス・ブライトの入れ知恵だろうな。」
「それは………」
「もう、レーヴェったら。ボースでの”竜事件”や”異変”の罪を減刑してもらえた上、好待遇のお仕事まで用意して頂いたのだから、そんな言い方をしなくてもいいじゃない。」
レーヴェが推測したカリンがクローゼ御付きのメイドに誘われた真の理由を聞いたヨシュアが複雑そうな表情をしている中、カリンは呆れた表情で溜息を吐いた後真剣な表情で指摘した。
「フッ、”剣聖”の思惑に利用されているのだから、このくらいの愚痴は許せ。」
「全くもう………あ。メイドで思い出したけど、ヨシュア。もう女装をしないのかしら?」
「え”!?も、もう女装はしないのかって……僕は女装をしたことは一度もないよ、姉さん。」
カリンの口から出た自分にとっての永遠に封印しておきたい忌まわしい過去の話を出されたヨシュアは表情を引き攣らせた後誤魔化そうとした。
「フフ、誤魔化しても無駄よ。”ステラ”としてエステルさん達と一緒に行動をしていた時、エステルさんからヨシュアが劇で姫役を務める為に女装をした事やレーヴェ達の目を盗んでアリシア女王陛下に面会する為にメイドになった話も聞いているわよ♪」
「………………(何でそんな余計な事を姉さん―――いや、家族でもない知り合いに話したんだよ、エステル……!)」
カリンの話を聞いて自分にとっての黒歴史をカリンに教えたエステルをヨシュアは心の中で恨んだ。
「ほう。まさかあの頃にそんな事をしてアリシア女王と密会をしていたとはな。フッ、劇の件を考えると、さぞ本物のメイドに見えただろうな。」
「レーヴェ!?まさか、見ていたの!?劇が始まる前、レーヴェの気配を一瞬感じたけど……」
そしてレーヴェが劇を見ていたような事を口にするとヨシュアは信じられない表情でレーヴェを見つめた。
「ああ。最も俺は気配を最大限に消していたから、劇の役に夢中であったお前では気付かなかったがな。」
「そ、そんな……、レーヴェにまで見られていたなんて……はあ………最悪だ………」
レーヴェの答えを聞いたヨシュアは肩を落として溜息を吐き
「それで今度はいつ女装をするのかしら♪」
「女装なんて、2度としないよ!」
からかいの表情で自分を見つめるカリンに疲れた表情で答えた。その後ケビンやジン、ドルン達とクルツ達に挨拶をしたヨシュアは言い争いをしているエステルとジョゼットに近づいた。
「へー、やっぱりその程度なんだ。やっぱりボクの方がパーティーに相応しいよね。何てったって、ドレスを着て社交界を渡り歩いていた事もあるんだからさ!」
「な、なによっ。あたしだってドレスくらい着たことあるんだからね。ネコ被りの生意気ボクっ娘に言われたくないわね。」
「な、なんだとおっ!?」
「……あ、あのさ、2人とも。一応公の場なんだから、そういう喧嘩はどこか別の所で…………」
エステルとジョゼットの口喧嘩を見たヨシュアは呆れた表情で二人を諫めようとしたが
「「ヨシュアは黙ってて!!」」
「……ハイ…………」
エステルとジョゼット、二人の睨みによって黙り込まされた。
「……大体、挨拶は済んだかな。話し込んでいる人もいたから、後でもう一度回った方がいいだろうけど……」
挨拶回りを終えて、独り言をヨシュアが呟いたその時、ヨシュアの背後からナイアルが忙しそうに駆け回っていた。
「おっ、いたいた。ドロシー、次は軍関係者だ!……オラ、急げ!」
「せんぱ~い……なんだか……おなかがタポタポしてきました~………ううっ、気持ち悪いですぅ……」
「……ガブ飲みばっかしてるからだろ。オラ、もたもたするな!」
「は、はぁい……」
忙しそうに駆け回るナイアルとドロシーをヨシュアが見守っていると二人と入れ替わるようにある人物がヨシュアに近づいてきた。
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