英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第112話
8月25日――――
~グラウンド~
「さてと、お楽しみの実技テストといきましょうか。君達、準備はいいわね?」
「はい、大丈夫です。」
「いつでも行けるよ。」
「わたくしにとってはこれが初めてのテストになりますね……頑張らないと!」
サラ教官の言葉にリィンとフィーは頷き、セレーネは真剣な表情になり
「くふっ♪速攻で終わらせればいいんでしょ?簡単だね♪」
「エ、エヴリーヌお姉様……」
「お願いですから、ちゃんと連携してくださいね……?」
「……まあ、今の所は全員のARCUSと繋げても問題なかったから大丈夫だとは思うが……」
エヴリーヌの発言を聞いたプリネは冷や汗をかき、ツーヤは疲れた表情をし、レーヴェは静かな表情でエヴリーヌを見つめた。
「やれやれ、1年に編入しても実技ばっかりはラクできそうにねえなあ。一応補習の名目だからバックレることもできないしよ~。」
「先輩……そんなことしたら本気で卒業できなくなりますよ?」
「スキあらば授業は寝ちゃうし、こういう時くらいは本気を出して欲しいわよね……」
クロウが呟いた言葉を聞いたマキアスとアリサはそれぞれ呆れた表情で指摘した。
「ハハ、わかってるっつーの。」
「ねー、聞いた話じゃガーちゃんみたいなのを相手にするんだよね?あ~、わくわくするなー。はやくやろうよ~。」
「ええい、騒ぐな鬱陶しい。」
はしゃいでいるミリアムをユーシスは鬱陶しそうな表情で睨んで指摘した。
「フフ、3人増えたくらいで随分賑やかになったもんね。ま、確かに”戦術殻”を出してもいいんだけど……せっかく新メンバーもいることだし、今回は趣向を凝らそうかしら?」
「趣向……ですか?」
「ふむ、今日はどんな思い付きなのやら。」
「………………」
サラ教官の言葉を聞いたエマは目を丸くし、ラウラは考え込み、レーヴェは呆れた表情でサラ教官を見つめていた。
「フフン、思いつき上等!こういうのは柔軟にやってこそよ!―――というわけでリィン!それに新入り、クロウにミリアム、そしてエヴリーヌ!」
「は、はい!」
「おう。」
「はーい。」
「ん。」
サラ教官に名指しされた4人はそれぞれ返事をした。
「――あんたたち、チームね。」
「え。」
サラ教官の指示にリィンは呆けた。
「残りの11人は、男女に別れてそれぞれチームを組みなさい。ただし、ツーヤかプリネのどちらかは男子チームに入る事。マキアス達副委員長チームとエマ達委員長チーム、そしてリィンたち変則チーム……以上3組で模擬戦をやるわよ!」
「な、なんですかそのチーム名は……!?」
「た、確かにそうですけどそれ以前に……」
「ふむ……なかなか興味深いチームわけだな。」
サラ教官の指示を聞いたマキアスは驚き、エマは戸惑い、ガイウスは考え込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!何で俺達だけ変則チームに……!?しかも人数もどのチームよりも少ないですし!」
その時リィンが慌てた様子で反論した。
「あたしの見立てだとこの3組が実力的に拮抗してるのよね~。男子チームも女子チームも、使う得物やそれぞれの特性から戦力的なバランスは申し分ないし、オールラウンダーのプリネとツーヤのどちらかが入ってもどちらかに傾く事なくバランスはよくなるし。リィンのチームは人数こそ少ないけど、先輩として場数を踏んだクロウとアガートラムを持つミリアムに加えて極めつけは数々の”実戦”を経験したエヴリーヌがいる。人数くらい、ちょうどいいハンデじゃないかしら?」
「なるほど……意外と理に適っているやもしれぬな。」
「むしろエヴリーヌがチームにいる時点で、”反則”に近いと思うがな。」
「お前に褒められても全然嬉しくないけど、ま、味方がどれだけ少なくてもエヴリーヌがいたら勝利は間違いないのは事実だね。」
「フン、少なくともいつもの実習の班分けよりは作為的ではないようだ。」
サラ教官の説明を聞いたラウラは納得し、呆れた表情で自分を見つめるレーヴェの意見に不愉快そうな表情をしたエヴリーヌは不敵な笑みを浮かべ、ユーシスは鼻を鳴らしてジト目でサラ教官を見つめた。
「どこかの誰かさんが面倒事を押し付けられてるってこと以外はね。」
「アハハ、確かに。」
「”その役目”は今までの事を考えると決まっているようなものだしね……」
「???どういう事でしょうか?」
ジト目でリィンを見つめるアリサの意見を聞いたツーヤとプリネは苦笑し、理由がわからないセレーネは首を傾げた。
「ん、誰のことー?」
「そんな気の毒なやつがこの中にいるんだなー。」
「キャハッ、そいつってご愁傷様だね♪」
首を傾げたミリアムの言葉にクロウは棒読みで答え、エヴリーヌは口元に笑みを浮かべ
「……ああもうわかりました!この際、腹をくくります!」
3人の言葉を聞いて冷や汗をかいたリィンは自棄になって答えた。
「フフ、そうと決まればさっそく始めましょうか。まずは――――」
その後リィン達は2チームと戦い、それぞれ協力して勝利した。
「うん、ざっとこんな所ね。最後の模擬戦もなかなかアツかったわね~。」
「人数のハンデがありながら善戦した方だな。」
サラ教官の言葉を聞いたレーヴェは静かに呟き
「はあ、いい勝負だったんだが……」
「あはは……一瞬の隙であそこまで押し切られるなんてね。」
「さすが双子の姉妹ね……二人のコンビネーションに私まで押し切られるなんて。」
最後の模擬戦で敗北したマキアスは溜息を吐き、エリオットとプリネは苦笑していた。
「ふふ、さすがはラウラとフィー、竜の姉妹のツーヤとセレーネってところかしら。」
「フン、戦闘だけなら、2年生たちを入れても上位に食い込むだろうな。」
アリサとユーシスは4人を見つめて称賛した。
「ふふ、今回のはアリサとエマのサポートがあってこそだろう。」
「うん、わたしたちだけじゃあそこまでできなかったはず。」
「ええ。でなければあたしとセレーネだけでプリネさんに勝てませんでしたよ。」
「はい。わたくし達がプリネさんとまともに戦えたのはお二人の援護のお蔭です。」
称賛された4人はそれぞれ謙遜した様子で答え
「ふふ、そう言ってもらえると。」
4人の言葉を聞いたエマは微笑み
「とにかくみんな、よく頑張ったというところか。
ガイウスは静かな笑みを浮かべた。
「それにしてもリィンたち変則チームはやっぱりキモだったわね~。2戦とも勝利を収めるなんてなかなかやるじゃないの。」
「はは、やっぱり先輩達の力が大きいと思いますけど。」
「エヴリーヌが手伝ってあげたんだから当然の結果だね。」
サラ教官の称賛にリィンは苦笑し、エヴリーヌは当然と言った様子で受け取り
「いやー、お前もなかなかのモンだったと思うけど。」
「うんうん、ボクも見直しちゃったかなー。」
クロウとミリアムは感心した様子でリィンを見つめた。
「――やれやれ、相変わらず突拍子もない模擬戦を……」
するとその時ナイトハルト教官が近づいてきた。
「あ……」
「ナイトハルト教官?」
予想外の人物の登場にアリサとリィンは目を丸くした。
「あら、実戦でも連戦なんて珍しくないのでは?実力が拮抗する相手にどう対処するかも兵法のひとつでしょう?」
「それに複数の対人戦は軍の鍛錬でも採用していると思うが?」
「……まあ、否定はしないが。」
サラ教官とレーヴェの指摘にナイトハルト教官は反論せず、静かな表情で頷いた。
「えっと、どうしてナイトハルト教官が?」
「ま、まさかこのまま教官と模擬戦なんて言うんじゃ……」
「あはは、違う違う。次の”特別実習”は、前々回の帝都と同じくちょっと変則的でね~。彼も段取りに関わっているから、こうして来てもらったの。」
「変則的、ですか……?」
「なにやら思わせぶりだな。」
「ま、ちょうどいいからこのまま実習地の発表と行きましょうか。」
そしてサラ教官はリィン達に実習地のメンバー表を配った。
『8月特別実習』
A班・リィン、ラウラ、エマ、ユーシス、ガイウス、ミリアム、エヴリーヌ、セレーネ
(実習地:レグラム)
B班・アリサ、フィー、マキアス、エリオット、クロウ、プリネ、ツーヤ
(実習地:ジュライ特区)
※2日の実習期間の後、指定の場所で合流すること
「これって……」
「ちぇ、プリネと一緒じゃないんだ……」
メンバー表と実習地を見たアリサは目を丸くし、エヴリーヌはつまらなそうな表情をし
「A班の”レグラム”は確かラウラの故郷だっけ。」
覚えのある場所を見たフィーはラウラに視線を向けた。
「ああ……クロイツェン州の南部に位置する湖畔の町だ。年中濃い霧に包まれ、多くの伝承が残る中世の古城などもある。」
「……中世の古城……」
ラウラの説明を聞いたエマは目を丸くして考え込んでいた。
「ふふ、休暇をとっていたら二度手間になるところだったな。」
「はは、確かに。それと、こっちの”ジュライ特区”っていうのは……」
「確か、帝国最北西の海岸にある旧自由都市の名前だな。帝国政府の直轄地だったはずだ。」
「あー、あそこかあ。8年前くらいにオジサンが併合した場所だねー。」
リィンの疑問に答えたクロウの説明を聞いて何かを思い出したミリアムは無邪気な笑顔を浮かべ、ミリアムの発言を聞いたリィン達は冷や汗をかいた。
「ミ、ミリアムちゃん……」
「もうちょっとオブラートに包んだ方がいいと思うのですけど……」
エマとツーヤは困った表情でミリアムを見つめ
「オジサンっていうと………」
「まあ、あの”鉄血宰相”のことなんだろうな……」
エリオットに視線を向けられたマキアスは複雑そうな表情で答え
「まったく……もう少し歯に衣を着せることを覚えろ。」
ユーシスは呆れた表情でミリアムに指摘した。
「なんでー?別に気にしないけど。」
「ミリアムさんじゃなくて、私達が気にするんですよ……」
「アハハ……」
首を傾げているミリアムにプリネが説明し、セレーネは苦笑していた。
「ふむ、とにかくどちらも気になる場所のようだが……この最後の一文はなんだ?今までにはなかったものだが。
「『※2日の実習期間の後、指定の場所で合流すること』……確かに、今までこんなことが書かれたことはなかったわね。」
「サラ教官、これは……?」
クラスメイト達が今まで見た事のない文章に注目している中、リィンが代表して尋ねた。
「フフ、それについてはナイトハルト教官とレーヴェの二人から告げてもらおうかしら。」
「心得た。」
「了解した。」
サラ教官に視線を向けられた二人はそれぞれ頷いてリィン達の前に出た。
「―――マーシルンとルクセンベールを除いた諸君には各々の場所での実習の後、そのまま列車で合流してもらう。合流地点は帝国東部―――”ガレリア要塞”だ。」
「”ガレリア要塞”……!」
「共和国側に備える帝国正規軍の一大拠点……」
「通常の実習をこなした後で、そんな場所にいくんですか……!?」
ナイトハルト教官の説明を聞いたリィン達は顔色を変えてナイトハルト教官を見つめた。
「あくまで特別実習の一環としてな。”ガレリア要塞”では自分も実習教官として合流する。無論、あの場所ならではの特別なスケジュールをこなしてもらう予定だ。」
「特別なスケジュール……」
「へー、なんか面白そう!」
「面白がるな。」
嬉しそうな表情をしているミリアムにユーシスは呆れ
「ハハ、参加早々からハードな実習になりそうだぜ。」
「めんどくさいのじゃなきゃいいけど。」
「ついていけるかどうか、心配です……」
クロウは苦笑しながら答え、エヴリーヌはつまらなそうな表情で呟き、セレーネは不安そうな表情をした。
「………………」
「……どうした?」
一方目を閉じて黙り込んでいるエリオットに気付いたガイウスは尋ねた。
「う、ううん、何でもないよ。それよりさっきプリネとツーヤの名前はなかった事が気になったんですが……」
尋ねられたエリオットは答えを誤魔化した後ナイトハルト教官を見つめた。
「―――マーシルン、ルクセンベールの二人に関してはB班での”ジュライ特区”での実習後”クロスベル自治州”にて”特別実習”をしてもらう。なおその際は俺も実習教官として合流する。」
「”クロスベル自治州”……!」
「”西ゼムリア通商会議”が開催される場所ですね。」
ナイトハルト教官の代わりに答えたレーヴェの説明を聞いたリィンは驚き、エマは静かに呟いた。
「しかも時期を考えると”通商会議”の真最中だぞ……?」
「フム……一体どういう事だろうか?」
「ねーねー、二人はクロスベルで何をするの?」
ユーシスは目を細めて首を傾げているラウラと共にレーヴェを見つめ、ミリアムは無邪気な様子で二人に尋ねた。
「私達は”特務支援課”の皆さんと行動し、”支援要請”のお手伝いをする事になっているんです。」
「”特務支援課”って朝に聞いたクロスベル警察の部署じゃないか!?何で二人がそんな所に……」
「あら、あなた達、”特務支援課”の事を知っているの?」
プリネの説明を聞いて驚いているマキアスの様子を見たサラ教官は目を丸くした。
「ええ。今朝色々と話が弾んであたし達が話したんです。」
「前にサラが話していたわたし達のパクリをやっている警察の部署でしょ?」
「フィ、フィーちゃん……」
「時期を考えたら”Ⅶ組”の方が真似していると思うのですが……」
ツーヤの説明を聞いて確認したフィーの言葉を聞いたエマは冷や汗をかき、プリネは苦笑した。
「なお、”特務支援課”は”通商会議”をする場所である”オルキスタワー”の警備にも関わる為、二人と俺は彼らと共に”オルキスタワー”の警備に関わる事になっている。―――今回二人の実習地がクロスベルになったのは常任理事の一人であるリウイ陛下の意向でもある。」
「ええっ!?」
「プ、プリネ達が”通商会議”の警備をするなんて、信じられない……」
「リウイ陛下が……」
レーヴェの説明を聞いたアリサは驚き、エリオットは信じられない表情をし、ガイウスは目を丸くし
「それにリウイ陛下の意向という事は……」
「フン、大方メンフィル帝国の思惑だろう?」
複雑そうな表情をしたマキアスは鼻を鳴らして真剣な表情になったユーシスと共にプリネとツーヤを見つめた。
「―――否定はしません。ですがこの件に関しましては事情を全て知るオリヴァルト皇子も承認済みです。」
「へー、そうなんだ……」
「ま、この”Ⅶ組”を立ち上げた人が許可したんなら、別に問題ないんじゃないのか?」
静かな表情で答えたプリネの説明を聞いたミリアムは目を丸くし、クロウは呑気に呟いた。
「フフ、とにかく気を引き締めておきなさい。それと、ガレリア要塞ではあたしも合流するつもりだから。かわいい生徒たちが、頭の固~い軍服のお兄さんにイジメられたりしないようにね。」
「……自分はカリキュラムを逸脱した理不尽なしごきをする予定はない。どこかの気分屋な教官と一緒にしないでもらいたいものだ。」
からかいの表情で言ったサラ教官の発言を聞いたナイトハルト教官は呆れた表情でサラ教官を見つめた。
「む……」
ナイトハルト教官の言葉を聞いたサラ教官はナイトハルト教官と睨み合い、その様子を見たリィン達は冷や汗をかいて呆れ
(はあ、なんだか先が思いやられるな……)
リィンは疲れた表情で溜息を吐いた。
そして数日後、新たなメンバーを加えた”特別実習日”が来た………!
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