英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第113話
8月28日―――
~第三学生寮~
(……ん……そうか……今日は実習の……まだ時間はありそうだが……そろそろ起きるか……?夜中に稽古をした上……疲れているのにリザイラが”性魔術”をしてきたから……まだ眠いけど……)
実習日の当日の朝、目覚めたリィンは時計が指す時間を見て起床するかどうか考え込んでいた。するとその時扉が勢いよく開かれ
「ぇ……」
その事に気付いたリィンが呆けて扉を見つめたその時、何とミリアムが跳躍してリィンにのしかかった!
「ぐえっ……」
「朝だよ、アサーッ!ほらほら、リィン!早く起きなくちゃダメだよ!列車が行っちゃうよ~!?」
呻いているリィンに気にせずリィンに馬乗りしたミリアムは何度も身体を上下に動かし
(うふふ、朝から得したわね、ご主人様♪そう言えば、朝の奉仕は今までした事なかったわね♪今度、してあげようかしら♪)
(ふふふ、夜の時よりさぞ慌てるでしょうね。)
(あ、あの~……夜はともかくさすがに朝から”性魔術”をするのはどうかと思うのですが……)
その様子を見守っていたベルフェゴールはからかいの表情になり、リザイラは静かな笑みを浮かべ、二人の念話を聞いたメサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「こ、こら……女の子がはしたな―――うぐっ、鳩尾に……」
「えへへっ!みんなでお出かけかー。うーん、お菓子とか何ミラまでOKなのかなー。そうだ!バナナはおやつに入るのー!?」
「入らない!入らないから!とりあえず降りてくれ……!」
その後着替えたリィンは玄関で待っているA班のメンバーに近づいた。
「来たか。」
「リィンさん、おはようございます。」
「フフ、どうやら散々な目に遭ったようだな?」
「ああ……おかげでバッチリ目が醒めたけど。しかし、よっぽど楽しみで仕方なかったんだな。」
「ふふ、そうみたいですね。」
「ああいう姿を見ていると歳相応にしか見えないな。」
疲れた表情で溜息を吐いたリィンの話を聞いたエマは微笑み、ガイウスは静かに呟いた。
「あれ?セレーネとエヴリーヌさんは?」
「セレーネさんでしたらまだ眠っているエヴリーヌさんを起こしに行ったのですが……」
リィンに尋ねられたエマが階段を見つめたその時
「―――お待たせしました。何とか起きてもらいました。」
「ふあああ~……眠い……何でこんな朝早くに行かなきゃならないの……」
眠そうにあくびをしているエヴリーヌと共にセレーネがリィン達に近づいてきた。
「おはよう、エヴリーヌ。」
「ん……でも、列車に乗ったらすぐ寝るから。」
ガイウスに声をかけられたエヴリーヌは眠そうな様子で目をこすりながら呟き、エヴリーヌの発言を聞いたリィン達は冷や汗をかき
「ふふっ、今のエヴリーヌさん、何だかフィーちゃんみたいですね。」
「フフ、確かにそうだな。」
微笑みながら言ったエマの言葉にラウラは苦笑しながら頷いた。
「それにしても今回は……ラウラの故郷か。」
「レグラム―――霧と伝説の街だったか。」
「ふふ、そこまで大層な街というわけではないが………風光明媚なのは確かだから皆を誘いたいとは思っていた。アリサやフィーたちが来られないのは少し残念ではあるな。」
「ふふっ、そうですね。」
「おっまたせー。」
リィン達が実習地について話し合っていると疲れた表情をしているユーシスと共にミリアムがリィン達に近づいてきた。
「ユ、ユーシス……」
「これはまた……」
肩を落として疲れた表情をしているユーシスを見たリィンは自分と同じような事をされた事を察して表情を引き攣らせ、ラウラは目を丸くし
「……誰かこのガキを何とかしてくれ……」
ユーシスは疲れた表情で呟いた。
「あはは……」
「うんっ、これで揃ったね!それじゃあ、A班、レッツゴー!」
その後寮を出たリィン達は駅で切符を買ってホームに向かおうとしたがある人物が声をかけて来た。
~トリスタ駅~
「うむ、行くみたいだな。」
「え―――」
聞き覚えのある声を聞いたリィンが呆けたその時、ホームからレクターが現れた。
「……!」
「……あ……」
レクターの登場にリィンとエマが驚いている中、ミリアムがレクターに駆け寄った。
「あれれ、レクター?ひょっとしてボクに会いに来たとかー?」
「おお、明後日からオレもクロスベル入りすっからなァ。今生の別れになるかもしれないし、こうして挨拶に来てやったのだ。」
「あはは、そーなんだ。でも、レクターとオジサンが簡単に死ぬわけないじゃん。」
「ま、あのオヤジはともかく俺はか弱いからなー。」
無邪気な笑顔を浮かべるミリアムの言葉にレクターは疲れた表情で答えた。
(誰?)
(ミリアムさんとお知り合いのようですが……)
(何者だ……?)
(……帝国情報局のレクター・アランドール大尉だ。)
(ノルドの地に現れた人物だな。共和国軍との交渉を成功させて戦争を防いでくれたそうだが……)
レクターの事を知らないエヴリーヌ達にリィンとガイウスはそれぞれ説明し
(ふん………”子供たち”の一人、”かかし男”だったか。)
(こうして改めて見ると諜報関係者には見えませんね……)
目を細めてレクターを睨むユーシスと共にエマが戸惑いの表情でレクターを見つめていると、会話を終えたレクターがリィン達に話しかけた。
「ま、怪しさてんこ盛りだろうが精々普通に付き合ってやってくれ。迷惑をかけたら遠慮なくお尻ペンペンとかしていいぜ。」
「は、はあ……」
「その、とりあえず仲良くさせていただいてます。」
「レクターじゃあるまいし、迷惑なんてかけないってばー。ボク、イイ子だもん。」
「イイ子は銀色のデカイのを所構わず出したりしないんだよ。ったく、どれだけもみ消しやら情報工作をやってると思ってんだ?」
「あれ、そーだっけ?」
レクターとミリアムの会話を聞いたリィン達が冷や汗をかくと、放送が入った。
まもなく1番ホームにケルディック経由、バリアハート行き旅客列車が到着します。ご利用の方はそのままホームにてお待ちください。
「大尉殿、すみません。」
「俺達はこれで失礼する。」
「おお、頑張れよ~。それとオレのことは一応”書記官”って呼んでくれや。帝国政府に所属する二等書記官でもあるんでな。」
「そ、そうでしたか……」
「そんな下らない事、どうでもいいし。」
「エ、エヴリーヌさん。」
「それでは書記官殿、失礼する。」
「クロスベル土産、よろしくねー。」
そしてリィン達は列車に乗り、駅から去って行った。
「はは、聞いていた以上に面白いクラスみたいだな。……ま、オレの時みたいに楽しんでくれたら何よりだぜ。」
リィン達を見送ったレクターは昔を懐かしむように何かを思い出していた。
「―――”鉄血の子供達”。ずいぶん仲のよろしい事で。」
するとその時サラ教官がレクターに近づいてきた。
「っと、怖いお姉さんに見つかっちまったぜぇ。そんじゃ、オレはここで。」
サラ教官の姿を見たレクターは背を向けて去ろうとしたが
「――待ちなさい。何かあたしに渡すものがあるんじゃないの?」
「……クク……”紫電”のバレスタイン。あんた、士官学院じゃなくて情報局に再就職しないか?今の給料の倍は出せると思うぜ?」
サラ教官の発言を聞いて口元に笑みを浮かべて振り向いた。
「……………………フン、そんなとこに再就職するくらいなら帝都で復活した遊撃士協会支部に舞い戻った方がよっぽどマシよ。」
レクターの言葉を聞いたサラ教官は厳しい表情で睨んだ後鼻を鳴らして不愉快そうな表情で答えた。
「やれやれ、馴れ合うつもりはないってことか。」
「当然。時間の無駄は嫌いなの。とっととよこしなさい。」
そしてレクターはサラ教官にファイルを渡した。
「―――現時点で判明している”帝国解放戦線”のメンバーだ。幹部連中も一部判明している。」
「なるほど。一応、礼は言っておくわ。」
「礼ついで”英雄王”―――いや、メンフィル帝国は何の為に”姫君の中の姫君”と”蒼黒の薔薇”をよりにもよって”通商会議”の時期に”特務支援課”と関わらせる事や”六銃士”の動きとかを教えてもらいたいんだがね?」
「そんな事、あたしが知る訳ないでしょう。”剣帝”にでも聞けば?」
レクターのボヤきに答えたサラ教官は背を向けて去ろうとしたが、レクターが呼び止めた。
「それと―――クレアからアンタに伝言だ。」
「……聞こうじゃない。」
「『彼らの狙いの本命は”クロスベル市”にあり……それと連動して、深刻な事態が帝国内で起こる可能性があります』―――だとさ。」
そしてレクターは重々しい様子を纏って仲間からの伝言をサラ教官に伝えた。
ページ上へ戻る