英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第80話
~夜・サンクト地区~
「見送り、ありがとうな。しかしまさか、エリスが皇女殿下の友達は思わなかったよ。」
「……知りません。はあ、本当に姫様ときたらどこまで本気なのかしら……」
「あの、エリス?」
リィンの疑問に答えず、エリスはアリサ達を見回して頭を下げた。
「―――ご足労いただき、誠にありがとうございました。それでは皆さん、お気をつけてお帰りくださいませ。」
「ええ、ありがとう。」
「案内、感謝する。」
「ふふ、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。―――それで姉様やリフィア殿下達は本当に泊まっていかなくてよいのですか?姫様やオリヴァルト殿下は王宮に客室を用意させると仰っていましたが……」
アリサ達に会釈をしたエリスはリフィア達を見つめた。
「うむ。明日来るはずの皇女の突然の訪問でエレボニア皇家を混乱させたくないしな。」
「エヴリーヌはどっちでもいいし。」
「……混乱させたくないのなら、最初からこんな事をしないで。―――それではエヴリーヌ様、大使館へお願いします。」
「ん。―――転移。」
そしてリフィア達はエヴリーヌの転移魔術によってその場から消えた。
「ベルフェゴールやリザイラで慣れているとはいえ、相変わらず転移魔術って訳がわからないよな……」
「でも、使いこなす事ができれば滅茶苦茶便利だろうね。飛行船や鉄道を使わず、一瞬で目的地につけるんだから。」
「………………」
疲れた表情で答えたマキアスの言葉にフィーは答え、エマは真剣な表情でリフィア達をが消えた場所を見つめ
「リフィア殿下か………話に聞いていた以上に皇族として相当な変わり者のようだな?」
「え、えっと……とても賑やかな方ですね。」
ユーシスの言葉を聞いて冷や汗をかいたセレーネはプリネとツーヤを見つめ
「フフ、よく言われます。」
「……少しは大人しくしてほしいんですけどね……」
プリネは苦笑し、ツーヤは疲れた表情で答えた。
「―――それでは私はこれで失礼します。」
そしてエリスはアリサ達に会釈をした後女学院の中へと入り
「あ……」
その様子をリィンは呆けた表情で見守っていた。
「はあ……」
「………………」
「どんまい。」
「あはは……でもエリスちゃんの気持ちもわかるよ。」
「ふふ、まさか殿下からあんなお誘いをされるとはな。」
エリスが去った後疲れた表情で溜息を吐いた様子をアリサはジト目で見つめ続け、フィーは静かに呟き、エリオットとラウラは苦笑した。
「いや……それって俺のせいか?」
二人の言葉を聞いたリィンは数時間前の出来事を思い出した。
~数時間前・聖アストライア女学院・聖餐室~
「――そうそう、忘れてました。実はリィンさんにひとつお願いがあるんです。」
「え……」
「ひ、姫様……?」
「……?」
「ほほう、例の件か。」
アルフィン皇女の申し出を聞いたリィンは呆け、エリスとエリゼは戸惑い、オリヴァルト皇子は興味ありげな表情をした。
「ふふ、そうです。―――わたくし、明日の夏至祭初日、帝都庁主催の園遊会に出席するんです。マキアスさんのお父様に招待されているのですけれど。」
「え、ええ……自分も話だけは伺っています。」
「マーテル公園のクリスタルガーデンで開かれるというイベントですよね。」
「確かそのイベントにはリフィアお姉様とレンも招かれていると聞いておりますが……」
アルフィン皇女の説明を聞いたマキアスとエリオットは頷き、プリネはアルフィン皇女を見つめた。
「ええ……それでお願いなのですが。リィンさんに、ダンスのパートナーを務めていただきたいんですの。」
「!?」
「「!!!」」
(あら♪なんだか面白い話になってきたわね♪)
(ふふふ、ついに人間の王族まで惹きつけましたか。)
アルフィン皇女の申し出を聞いたリィンは驚き、エリゼとエリスは血相を変え、ベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をしていた。
(そ、それって……!?)
(お、皇女殿下の将来の相手になるかもしれないっていう……!?)
(さ、さすがにそれはマスコミの憶測だろうが……)
信じられない表情をしているエリオットとアリサの小声を聞いたマキアスは疲れた表情をし
(……当然、そういった風に捉えられる可能性もあるな。)
ユーシスは真剣な表情でアルフィン皇女を見つめていた。
「ま、待ってください!その、自分にはあまりに大役すぎると言いますか……!それに俺達―――シュバルツァー男爵家がエレボニア帝国貴族に”裏切り者”として相当嫌われている事はご存知でしょう!?」
一方リィンは慌てた様子でアルフィン皇女を見つめた。
「ふふっ、そんなことはありませんわ。外国の貴族とは言え、シュバルツァー家は皇族とも縁のある家柄ですし、長女のエリゼさんは若輩ながらリフィア殿下の専属侍女長という大役を務め、メンフィル皇家の方達から信頼を寄せられていると聞いています。こう言っては失礼ですが、ユーシスさんにお願いするよりも角が立たないとも思いますし。」
「なるほど………それは確かにそうでしょうね。いや、なかなか面白い選択だと思いますよ。」
「ユーシス、あのな………」
アルフィン皇女の説明を聞いて納得するユーシスを見たリィンは呆れた後再びアルフィン皇女を見つめた。
「―――その、不調法者で殿下のダンスのお相手などとても務められるとは……」
「あら、エリスやエリゼさんに頼まれてダンスの練習を付き合ったと聞いてるのですけど……?一通りのステップは軽やかにこなせるとか?」
「まあ……!そうなんですか、お兄様?」
「うっ……」
「~~~っ~~~……!」
「………………!」
アルフィン皇女の答えを聞いたセレーネは表情を引き攣らせているリィンに微笑み、エリスは頬を膨らませてジト目のエリゼと共にアルフィン皇女を見つめた。
「でも、そうですよね……こんな唐突なお願い、あまりに不躾ですよね……それにわたくしごとき小娘など興味も湧かないでしょうし……」
「いえっ、そんな……!」
(やっぱ、オリビエの妹だね。)
(血は争えんという事か……)
残念そうな表情で肩を落とすアルフィン皇女を見たリィンは慌て、エヴリーヌとリフィアは呆れ
「ヒューッ、さすが我が妹。なかなか攻めるねぇ~。」
「ひ、姫様!オリヴァルト殿下も……!――――!そ、そうです!姫様、私達はメンフィル帝国の貴族です。他国の皇女である姫様のダンスのお相手を兄様が務めてしまうと、メンフィル皇家や貴族の方々にいらぬ反感を買ってしまいます。」
からかっているオリヴァルト皇子の様子を見たエリスは慌てた後すぐに気を取り直してアルフィン皇女の提案を阻止する為に自分の推測を口にしたが
「そんな事くらいで、余達は気にせんぞ。シュバルツァー家がエレボニア皇家と縁のある家である事はわかっておるし、国家間の関係修復の為にもちょうどよいじゃろ。」
「フフ、確かにそうですね。」
「エレボニア皇族であるアルフィン皇女とメンフィル帝国の貴族であるリィンさんがダンスをしたという出来事が知られれば、確かに国家間の関係修復に役立ちますね……」
「リ、リフィア殿下!プリネ姫にルクセンベール卿も……!」
「余計な事を言わないでくれるかしら……?」
リフィアやプリネ、ツーヤの発言を聞いて再び慌て、エリゼは膨大な威圧を纏って微笑んでリフィアを見つめ
「ぬおっ!?」
「ヒッ!?何で火に油を注ぐような事を言うの!?」
エリゼに微笑まれたリフィアは表情を引き攣らせ、エヴリーヌは悲鳴を上げた後リフィアを非難し
「ハッハッハッ!リフィア殿下達のお許しも出たんだから、遠慮なく務めたらどうだい?」
「い、いえ!で、ですから俺には大役過ぎます……!」
声を上げて笑った後からかいの表情で自分を見つめるオリヴァルト皇子の言葉を聞いたリィンは慌てていた。
(ノリノリだね。)
(帝国の皇族というのはここまで愉快な方々だったか。)
(さ、さすがにかなり例外だと思うんですけど……)
一方その様子を見守っていたフィーとガイウスは静かに呟き、エマは表情を引き攣らせた。
「ああ、なるほど。―――ひょっとしてもう、心に決めた方がいらっしゃるとか?それとも既にお付き合いをなさっている方がいるとか……」
「「!!」」
「……!」
アルフィン皇女が呟いた推測を聞いたエリゼとエリス、アリサは顔色を変えた。
「フフ、実際のところ、そこら辺はどうなんだい?」
「いえ、何と言ったらいいのか……(困ったな、どういって辞退すればいいか……)」
そしてオリヴァルト皇子に問いかけられたリィンが答えに困ったその時
「うふふ、付き合っている訳じゃないけど、私達はご主人様のお仕えしているから、ご主人様は女には困っていないわよ♪」
「ふふふ、むしろ別の意味で女性に困っているでしょうけどね。」
「ベ、ベルフェゴール!?リ、リザイラ!?」
ベルフェゴールとリザイラがリィンの傍に現れ、リィンは表情を引き攣らせた。
「おおっ!?こ、これは……!フフ、やるじゃないか♪既にこんな美しいレディ達を侍らせているとは……!さすが我が妹、目の付け所が良いね。」
「ふふっ、そうですか?でも、そうですわよね……お二方ともとても綺麗で羨ましいスタイルをなさっていますから、わたくしのような小娘には見向きもしませんわよね……」
二人を見たオリヴァルト皇子は目を輝かせた後口元に笑みを浮かべてアルフィン皇女を見つめ、アルフィン皇女は微笑んだ後二人を見て肩を落とした。
「うふふ、睡魔の女王たるこの私に容姿やスタイルで勝とうなんて、甘すぎるわよ、お嬢ちゃん♪」
「ふふふ、ベルフェゴールは睡魔の女王にして”七大罪”の一柱を司り、そして私は”精霊王女”。ご主人様にはそれぞれの皇族である私達が常に傍にいますから、今更皇女に声をかけられた所で、特に驚く事ではないと思いますが?」
「ちょっ、ベルフェゴール!?リザイラ!?」
それぞれからかいの表情でアルフィン皇女を見つめる二人の言葉を聞いたリィンは慌て
「ほう?あの者達が報告にあった”七大罪”の一柱と”精霊王女”か……」
「へえ、二人ともかなりの力を持っているね。」
リフィアとエヴリーヌは感心した様子でベルフェゴールとリザイラを見つめた。
「ふふっ……―――わかりました。”今回”は諦めます。」
慌てているリィンの様子をおかしそうに見つめていたアルフィン皇女は意外な答えを口にした。
「えっ……」
「…………ぁ………………」
「ですが来年はわたくしも妹さんと同じ16歳――――正式に社交界にデビューするので考えていただけると嬉しいです。」
そしてアルフィン皇女は誰もが見惚れるような可憐な笑顔を浮かべてリィンを見つめた。
~現在~
「よかったわね~、リィン。皇女殿下にあそこまで気に行ってもらえるなんて。」
「フッ、あのままお受けすれば良かったじゃないか。瓢箪から駒ということも将来あり得るかもしれんぞ?」
ジト目のアリサに続くように、ユーシスは口元に笑みを浮かべてリィンを見つめて言った。
「いや、あり得ないから。―――多分、友人の兄に興味を持たれただけだろう。本気という感じでもなかったし、妹込みでからかってるだけさ。」
「うーん、確かにそんな感じはしたけど……」
「ですが……それだけでもないような。」
「それはあたしも思いました。」
「フフ、少なくともお兄様とダンスをしたい事は本音だと思いますよ?」
「そうですね……リィンさんをダンスのパートナーにしたいのは偽らざる本音でしょうね。」
リィンの答えを聞いたエリオットやエマは考え込み、エマの推測にツーヤは頷き、セレーネとプリネはリィンに微笑んだ。
「しかし心臓に悪いというかこっちもハラハラしたぞ……オリヴァルト殿下も噂以上の方だったしな。」
「ふふ、確かに。」
「”聖魔皇女”達同様面白いヒトだったね。」
「あの方が俺達”Ⅶ組”の産みの親か。」
「あの軽妙さはともかく改めて気が引き締まったな。それ以外にも気になる情報を色々と教えてくれたし。」
マキアス達がオリヴァルト皇子の印象についての感想を言い合っている中、リィンは真剣な表情でアリサ達を見回した。
「ええ……私達の親兄弟、関係者たちの思惑……」
「フン、それについてはキナ臭いとしか思えんがな。」
「……確かに。」
「サラ教官の経歴もちょっと驚きだったよね。遊撃士かぁ……最近見かけなくなったけど。」
「A級遊撃士といえば実質上の最高ランクの筈だ。当然、フィーは知っていたのだな?」
「ん……猟兵団の商売敵としても有名だったし。何度か団の作戦でやり合ったこともあるかな。」
ラウラの質問にフィーは頷いて答えた。
「そ、そうなのか……」
「ハ、ハードすぎるだろう……」
「遊撃士と言えば………バリアハートで私達を助けてくれた遊撃士の方達を思い出しますね。」
「”ブレイサーロード”達か。当然、奴等も相当高ランクなのだろう?」
フィーの話を聞いたリィンとマキアスが驚いている中、ある人物達の事を思い出したエマの言葉に頷いたユーシスはツーヤを見つめた。
「ええ。3人共A級遊撃士で、特にエステルさんとミントちゃんはS級遊撃士の候補にもあがり、二人とも最年少S級遊撃士になるのではないかと言われているほどです。」
「え、S級遊撃士?」
「確か遊撃士の最高ランクはA級だったはずだが……」
ツーヤの答えを聞いたエリオットは戸惑い、マキアスは不思議そうな表情をした。
「S級はA級の上のランクで、非公式のランクなんです。大陸全土でたった3人しかいなく、国家に大きく関わる事件の解決をした者にのみ与えられるランクで、かつては遊撃士であった”剣聖”カシウス・ブライト准将はS級遊撃士でした。」
「ええっ!?ゆ、遊撃士の中にそんな凄い存在がいたんだ……!」
「しかもかのカシウス卿がそのS級遊撃士とは……」
「ま、確かに”ブレイサーロード”達は”リベールの異変”を解決した立役者だから、候補にあがっていてもおかしくないね。」
「”百日戦役”で活躍した”剣聖”。”リベールの異変”で活躍した”ブレイサーロード”と”黄金の百合”。まさに親娘揃って”英雄”の一家だな。」
プリネの説明を聞いたエリオットとラウラは驚き、フィーは納得した様子で呟き、ユーシスは考え込む動作で呟き
「わ、私達、凄い人達に助けてもらったんですね……」
「あ、ああ……という事はまさかサラ教官もそのS級遊撃士の候補にあがっていたんだろうか?」
信じられない表情をしているエマの言葉にマキアスは疲れた表情で頷いた後考え込んだ。
「―――さすがのあたしでもアリオスさんやエステル達みたいに国家に大きく関わる事件を解決した事はないからS級候補には挙がらなかったわよ。」
するとその時サラ教官がリィン達に近づいてきた。
「サラ教官……!」
「い、いつの間に……!」
「やれやれ、あたしの過去もとうとうバレちゃったか~。ミステリアスなお姉さんの魅力が少し減っちゃったわねぇ。」
驚いているリィン達にサラ教官はウインクをした。
「いや、そういう魅力は最初からなかったような……」
「むしろレオンハルト教官の方がそういう魅力を放っているな。」
「サラ、図々しすぎ。」
「なんですってぇ~?」
マキアスやユーシス、フィーの指摘にサラ教官がジト目になったその時
「クスクス……皆さん、こんばんは。」
クレア大尉がサラ教官の隣に並んだ。
「クレア大尉……」
「ふむ、これはまた珍しい組み合わせだな?」
「レオンハルト教官は一緒じゃないのか?」
「あたしの本意じゃないけどね。それとレーヴェの奴は明日の夏至祭に来るメンフィル帝国のVIPの護衛の関係で今はいないわ。―――知事閣下の伝言を伝えるけど明日の実習課題は一時保留。代わりに、このお姉さんたちの悪巧みに協力する事になりそうね。」
「え。」
「悪巧み……ですか?」
サラ教官の説明を聞いたリィン達はそれぞれ目を丸くして互いの顔を見合わせた。
「ふう………サラさん。先入観を与えないでください。その、実は”Ⅶ組”の皆さんに協力して頂きたい事がありまして。知事閣下に相談した所、こういった段取りとなりました。」
サラ教官の言葉に溜息を吐いたクレア大尉がリィン達に説明すると、鉄道憲兵隊が使用している装甲車が近くに到着した。
「さあ、どうぞお乗りください。ヘイムダル中央駅の司令所にて事情を説明させて頂きます。」
そしてリィン達は装甲車に乗り込んでヘイムダル中央駅の司令所に向かった。
同日、21:30―――
~鉄道憲兵隊司令所・ブリーフィングルーム~
「テ、テロリストっ!?」
クレア大尉から事情を聞いたマキアスは信じられない表情で声を上げた。
「ええ、そういった名前で呼称せざるを得ないでしょう。ですが目的も、所属メンバーも、規模と背景すらも不明……名称すら確定していない組織です。」
「ま、まるで雲を掴むような話ですけど……」
「―――ノルド高原において紛争を引き起こそうとした”あの男”ですね。」
「あ……」
「……ヤツか。」
「…………」
「確かリィンさん達が相対して逃げられたと聞いていますが……」
「”G”―――”ギデオン”だったわね。」
リィンの言葉からノルド高原に特別実習に行っていたメンバーはかつての出来事を思い出した。
「……そなた達がノルドの地で出くわしたという男か。」
「確かにテロリストとしか言いようがないかも。」
「そ、それが明日の夏至祭初日に何かを引き起こすと……?」
「ええ、我々はそう判断しています。帝都の夏至祭は3日間……しかも他の地方のものとは異なり、盛り上がるのは初日くらいです。ノルドの事件から一ヶ月……”彼ら”が次に何かするならば明日である可能性が高いでしょう。」
「ま、あたしも同感ね。テロリストってのは基本的に自己顕示欲が強い連中だから。そのギデオンって男がわざわざ名前を明かした以上、本格的に活動を開始するはずよ。」
クレア大尉の意見にサラ教官は真剣な表情で頷いて説明を続けた。
「最初は水面下で密かに同志と武装を整える……そこから派手に決起して一気に動くのはテロの基本。」
「……なるほど。」
「………………」
フィーの説明を聞いたリィンは真剣な表情で頷き、セレーネは不安そうな表情をした。
「そ、それで私達にテロ対策への協力を……?」
「ええ、鉄道憲兵隊(T・M・F)も帝都憲兵隊(R・M・P)と協力しながら警備体制を敷いています。ですが、とにかく帝都は広く、警備体制の穴が存在する可能性は否定できません。そこで皆さんに”遊軍”として協力していただければと思いまして。」
「ま、帝都のギルドが残ってれば少しは手伝えたんでしょうけどね~。」
クレア大尉の話に続くようにサラ教官は疲れた表情で答えた。
「ええ……それは確かに心強かったとは思いますが。……あの、サラさん。遊撃士協会の撤退に鉄道憲兵隊は一切関与していないのですが……」
サラ教官の言葉を聞いたクレア大尉は説明をしたが
「そうかしら?少なくとも親分と兄弟筋はいまだに露骨なんだけどね~。」
「それは……」
サラ教官の指摘に言葉を濁した。
(や、やっぱり色々と因縁がありそうだね……)
(ああ……ギルド絡みの話だったか。)
「ま、その兄弟筋も今はクロスベル方面で忙しそうだし。」
「!」
エリオットとリィンが小声で話し合っている中に指摘したサラ教官の言葉にクレア大尉は顔色を変えた。
「あの……遊撃士協会の事で思い出しましたが、もしかしたら遊撃士の方達が夏至祭初日に帝都に来るかもしれません。」
「!?」
「どういう事かしら、それは?」
プリネの話を聞いたクレア大尉は驚き、サラ教官は不思議そうな表情をした。
「エステルさん達と手紙のやり取りをしているのですが……以前の手紙で時間があったら、帝都の夏至祭に行くみたいなことを書いていましたので……」
「あ~、あの娘達か。”観光目的”で帝都に来るのなら別に問題ないわよねぇ?」
「………………そうですね。非常時が起こった際には市民の避難誘導を率先して実行するでしょうから、もし明日帝都に訪れていたら心強い存在ですね。」
プリネの説明を聞いて納得した後口元に笑みを浮かべたサラ教官に見つめられたクレア大尉は静かな表情で頷いた。
(……クレアさんでしたか?今の話を聞いて素直に喜んでいるようには見えないのですが……)
(……色々と複雑な事情があるのよ。)
クレア大尉の様子を見て不思議そうな表情をしているセレーネの疑問にツーヤは静かな表情で答えた。
「―――どうかしら、君達。特別実習での活動内容として受けるも断るも君達の自由よ。断った場合、当初の予定通り知事閣下から課題を回してもらうわ。夏至祭絡みの細々とした依頼は色々とありそうだしね。」
サラ教官の問いかけを聞いたリィン達は互いの顔を見合わせて頷き
「――――Ⅶ組A班、テロリスト対策に協力させていただきます。」
「同じくB班、協力したいと思います。」
リィンとアリサが班を代表して宣言した。
「……そっか。」
「ありがとうございます、皆さん。それと一つだけよろしいですか?そちらの少女は何者でしょうか?」
「あ、それはあたしもさっきから思っていたわ。どういう事なのか説明してもらえるかしら?」
「実は――――」
クレア大尉とサラ教官の疑問にリィンはツーヤと共に説明した。
「なるほど……それにしてもベルフェゴール、リザイラ、そしてセレーネ(その娘)全員が王族って、リィン……あんたの女運は一体どうなっているのよ。」
「いや、そんな事を言われても……偶然としか言いようがないかと。」
呆れた表情のサラ教官の指摘にリィンは困った表情をし
「……ちなみに、セレーネさんを共に行動させても戦闘が起こった際、大丈夫だったのですか?」
「ええ。今日の実習課題の魔獣退治の時にも活躍してくれました。」
「腕力はあまりないが、後方からの魔術による支援は非常に助かったな。」
「うん。セレーネがみんなを回復してくれるおかげで僕の負担も減ったし、セレーネがみんなを回復している間に僕が攻撃に移れる時もあったしね。」
「さすが竜だね。幼くても戦力として十分だよ。」
「えへへ……」
クレア大尉の疑問に答えるかのようにA班のメンバーからの称賛の言葉を聞いたセレーネは恥ずかしそうな表情になった。
「……ま、話を聞く限りその娘の心配はしなくてもいいんじゃない?リィンは勿論、ツーヤも守ってくれるでしょうし、確かリベールで起こったクーデター事件の際はまだ幼かったミントやツーヤもエステル達と一緒にクーデター事件解決に貢献したって聞いているし。」
「……そうですね。セレーネさん、でしたね?”Ⅶ組”でもない貴女にこんな事を頼むのはずうずうしいとは思うのですが……もしよろしければ手伝って頂けますか?」
サラ教官の言葉に頷いたクレア大尉はセレーネを見つめ
「はい!わたくしの力でよろしければ、お貸しします!」
見つめられたセレーネは力強く頷いた。
「ありがとうございます。では早速、担当して頂く巡回ルートについての説明を……」
そしてクレア大尉はリィン達に説明をし始めた。
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