英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第23話
5月29日、実習当日:AM6:30―――
~トリスタ・第3学生寮~
実習当日の朝、目覚めたリィンが1階に降りると既に先客であるマキアスとユーシスがいた。
「…………………」
「…………………」
マキアスとユーシスは互いに背を向けて目にも見えるほどの険悪な雰囲気をさらけ出し
(目にも見えるほどの険悪なオーラを放っているねぇ。あれが原因で足を引っ張らないといいけどね。)
(ああ………)
その様子を見たベルフェゴールの念話を聞いたリィンは疲れた表情で頷いた後二人に近づいた。
「……おはよう。二人とも、早いんだな。」
リィンが声をかけても二人は何も答えず、その場に静寂が訪れたがやがてマキアスが口を開いた。
「―――言っておくが。……君のことだって仲間と認めたわけじゃない。同じ班になったからといって馴れ馴れしくしないでもらえるか?」
「マキアス……」
マキアスの忠告にリィンは複雑そうな表情をし
「フッ……副委員長殿はずいぶん粘着質なことだ。」
ユーシスは嘲笑した。
「なんだと……!?」
(はあ……)
ユーシスの挑発に乗ったマキアスを見たリィンは疲れた表情で溜息を吐いた。
「ふわぁ~……」
「えっと……おはようございます。」
「どうやら、男子は全員揃っているみたいですね。」
そこにA班の女子メンバーがリィン達に近づいてきた。
「委員長、フィー、ツーヤさん……」
「あはは……みんな揃ったみたいですね。早速、出発しましょうか?」
「そうだな……まだ列車の時間はあるけど。」
「フン………別に構わんぞ。」
「……僕も異存はない。」
「あたしも大丈夫です。」
エマの提案にリィン、ユーシス、マキアス、ツーヤは頷き
「……むにゃむにゃ……それじゃあ、れっつごー……」
フィーは眠そうに眼をこすりながら呟き
(激しく不安だ……)
色々な意味で不安を感じたリィンは肩を落とした。その後駅でB班のメンバーと互いの成功を祈り合ったリィン達は列車に乗り込んだ。
~列車内~
「えっと……と、とりあえず実習地のおさらいをしましょうか?」
「そ、そうですね。」
無言の雰囲気に耐えられなかったエマの言葉にツーヤは頷き
「ユーシス、せっかくだから”バリアハート市”についての概要を説明してくれないか?」
リィンはこれから行く場所をよく知るユーシスに尋ねた。
「フン、別に構わないが。――そこの優秀な男に解説してもらった方がいいんじゃないか?貴族の目線で語るより、さぞ批判的で気の利いた説明をしてくれるだろうさ。」
「……くっ……僕がイデオロギーに歪んだ物の見方をしてると言うのか?」
(また、始まった……)
しかしユーシスはリィンの言葉に頷くと同時にマキアスを挑発し、ユーシスの挑発に乗ったマキアスの様子を見たツーヤは疲れた表情をした。
「いや、何しろ入学試験で次席を取っている優等生どのだ。加えて日頃の、脇目もふらぬほどの余裕のない勉学ぶり……さぞ教科書的な知識”だけ”は蓄えているだろうと思ってな。」
「ッ……!」
ユーシスの言葉を聞いたマキアスは唇を噛みしめて立ち上がり
「ちょ、ちょっとお二人とも……!」
「他の乗客の人達に迷惑ですよ……!」
その様子を見たエマは慌て、ツーヤは忠告した。
「…………………―――なるほどな。道理で散々な成績だったわけだ。」
一方リィンは黙り込んだ後静かな表情で呟き
「な、なんだと……!?」
「…………………」
リィンの言葉を聞いたマキアスとユーシスはそれぞれ目を細めてリィンを睨み
「リィンさん……」
「い、一体何を……?」
エマは心配そうな表情で見つめ、二人に対する挑発とも取れる言葉を口にしたリィンをツーヤは戸惑いの表情で見つめた。
「先月のB班の特別実習につけられた評価は”D”………はっきり言って、普通の試験なら赤点ギリギリの落第するかしないかの瀬戸際の点数だ。また同じことを二人とも繰り返すつもりなのか?」
「そ、それは……」
リィンの指摘に反論できないマキアスは言いよどみ
「フン……だからわだかまりを捨てて仲良くしろとでも言いたいのか?」
ユーシスは鼻を鳴らした後リィンを睨んで尋ねた。
「そこまでは言ってないさ。そもそも、あんな経緯で選ばれた俺達”Ⅶ組”だ。立場も違えば考え方も違う。お互い、どうしても譲れない事だってあるだろう。だけど―――それでも数日間、俺達は紛れもなく”仲間”だ。」
「リィンさん……」
「………そうですね。」
(フフ、そういう熱い台詞をサラッと言える所も私は結構好きよ♪)
リィンの発言を聞いたエマは目を丸くし、ツーヤは静かな笑みを浮かべ、ベルフェゴールは微笑んだ。
「フン……何を言いだすかと思えば。」
「冗談じゃない!誰がこんなヤツと―――」
一方肝心の二人はリィンの言葉に同意しない様子であったが
「”友人”じゃない、同じ仲間と同じ目的を共有する”仲間”だ。さらに露骨に言ってしまえば―――今回、アリサやガイウスたちB班に負けない為の”仲間”じゃないか?」
「へ……」
リィンの口から出た予想外の言葉にマキアスは呆けた。
「リ、リィンさん?」
(―――なるほど。負けず嫌いな二人の性格をよくわかっての発言か……)
「……勝敗にこだわるタイプだとは思わなかったが。」
一方エマは戸惑い、リィンの言葉から二人の負けず嫌いな性格を利用している事を察したツーヤは感心し、ユーシスは意外そうな表情でリィンを見つめた。
「生憎、勝ち負けが気にならないほど達観してるわけじゃないからな。委員長やマキアス、ユーシスたちの成績が良い事や俺と大して変わらない年齢でありながらプリネさん―――メンフィル皇族の親衛隊長に抜擢され、皇族から爵位までもらえたツーヤさんの実力は羨ましいし……―――この間の教官との勝負だって正直、悔しくて仕方なかった。」
「あ……」
「リィンさん……」
リィンの説明を聞いたエマとツーヤは呆け
「それは……」
「……フン……」
自分が足を引っ張った事を理解しているマキアスは複雑そうな表情をし、ユーシスは鼻を鳴らして目を伏せた。
「実際、サラ教官の実力は圧倒的だったと思う。どんな経歴かは知らないけど相当、実戦経験があるんだろう。だけど、もし俺達3人がもう少し連携できていれば……ARCUSの戦術リンクが使えれば一矢を報いることはできたはずだ。」
「「……………」」
リィンの説明を聞いたマキアスとユーシスはそれぞれ黙り込んで考え込んでいた。
「――そうだね。」
するとその時今まで眠っていたフィーが突如起きてリィンの意見に同意した。
「確かにサラは強いけどそれは”戦い方”が上手いから。もし、リィンたちが連携できてサラの猛攻を何とか凌げれば……勝つことは無理だとしても”負けない”ことはできたと思う。」
「フィーちゃん……」
「確かにあの時連携していれば、結果が変わっていた可能性は十分に考えられますね……」
「……そっか。」
「…………………」
「…………………」
フィーの言葉にリィン達はそれぞれさまざまな思いを持った。
「……実際、アリサさん、ラウラさん、エリオットさん、プリネさんは前回と同じ班ですし……ガイウスさんならどなたでも合わせてくれそうですね。」
「チームワークは心配なさそう。」
「何者かの妨害もある程度なら大丈夫でしょうね。」
「ああ……万全の態勢で特別実習をやり遂げるだろうな。下手をしたらダブルスコアくらい評価に差をつけられるかもしれない。」
そしてエマたちの意見にリィンが頷いたその時
「わかった―――もういい!」
マキアスが怒鳴ってリィン達の会話を制止し、席に座り直してリィンを睨んだ。
「そこまで言われたら協力するしかないだろう!?」
「合わせるつもりはないが……負け犬に成り下がる趣味は持ち合わせていない。」
「それじゃあ……」
マキアスとユーシスの言葉を聞いたリィンが二人を見つめたその時
「今回の実習が終わるまでは少なくても休戦する……!君もそれでいいな!?」
マキアスは頷いてユーシスに答えを促し
「フン、いいだろう。そんくらいの茶番に耐える忍耐力なら発揮してやろう。」
「ぼ、僕の方こそ……!」
対するユーシスも同意した後再びマキアスと睨み合いを始めた。
(やれやれ……)
(ま、まあ少なくても一緒に行動できそうですし。先月よりは遥かに実習として成立しそうです。)
(ちょっとだけ安心。)
(本当に助かりました……)
(どんな実習だったんだ……?)
エマやフィー、ツーヤの小声の言葉を聞いたリィンは疲れた表情で溜息を吐いた。
「―――では改めて、俺の方からざっと説明するぞ。これから向かう”バリアハート”は東部クロイツェン州の中心都市になる。人口30万……それなりの大きさの都市と言えるだろう。周辺に広がる丘陵地帯では毛皮となるミンクが多く生息し……領内にある七耀石の鉱山からは良質な宝石が採れることでも有名だ。」
「宝石と毛皮が特産品というのはかなり有名ですよね。」
ユーシスの説明を聞いたエマは頷き
「確か、それを加工する職人街もあるんだろう?」
ある程度の知識を知っていたリィンは確認の意味を込めて質問した。
「街の南に”職人通り”がある。腕利きの職人たちが腕を振るっている場所だ。」
「ユイドラみたいなところですね……」
ユーシスの説明を聞き続けているツーヤは目を丸くして呟き
「ユイドラ……かの”匠王”が治めている職人の街か。”職人通り”とは言ってもさすがに街全体が職人で溢れているユイドラとは比べものにならないだろうがな。」
ツーヤの呟きを聞いてある事を思い出したユーシスは静かな表情で呟いた。
「……帝都にも、バリアハート産の宝石を扱っている専門店があったな。もっぱら貴族や富豪相手らしいが。」
「わたしには縁がなさそう。」
マキアスは真剣な表情で呟き、フィーは興味がなさそうな表情で呟いた。
「―――そしてもう一つ。そこの男も言っていたがバリアハートは基本的に”貴族の街”であるという事だ。」
「そうだったな……」
「でも、人口に占める貴族の割合が多いわけでもないんですよね?」
「ああ、だが先程の職人街から領邦軍の大規模な詰所……大聖堂のある中央広場から大型飛行艇客船のための空港まで……全てが公爵家を中心とした貴族社会のために造られてきたと言っても過言じゃないだろう。」
「なるほど、それで……」
「バリアハート市の様々な施設に貴族の影響力があるから、”貴族の街”というわけですね。」
ユーシスの説明を聞いたエマとツーヤはそれぞれ頷き
「フン、自分の実家のことを冷静に評価できているじゃないか?」
マキアスは鼻を鳴らした後呆れた表情でユーシスを見つめた。
「事実は事実だからな。お前も、いつもの貴族批判は大通りなどでは控えておくことだ。領邦軍の巡回兵あたりにしょっ引かれたくなければな。」
「い、言われなくたってその程度の分別はわきまえている!」
「まあまあ、ユーシスさんはマキアスさんの為にも忠告してくれているのですから、そんな目くじらを立てなくても……」
「あはは……」
「……やれやれ。」
ユーシスの忠告を聞いてユーシスを睨んだマキアスの様子を見たツーヤは宥め始め、エマは苦笑し、フィーは呆れ
(まあ……この調子で何とかやって行けそうかな?)
リィンは若干の安堵感を覚えながら二人を見つめていた。
そして列車はバリアハートに到着した。
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