英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第24話
バリアハートに到着後、リィン達が列車を降りると突如何者かが声をかけてきた。
~”翡翠の公都”バリアハート市・駅構内~
「ユーシス様!」
声を聞いたリィン達が立ち止まると駅員たちが慌てた様子でリィン達の先頭にいるユーシスに近づいて一礼した。
「ユーシス様!お帰りなさいませ!」
「お久しぶりでございます!」
(す、すごいですね……)
(さすがは四大名門の本拠地、と言った所ですか……)
ユーシスに声をかける駅員たちの様子を見たエマとツーヤは驚き
(フン、駅員総出でわざわざお出迎えとは……)
(いかにもVIPって感じ。)
マキアスは呆れ、フィーは静かな表情で呟いた。
「―――今回は士官学院の実習で戻ってきただけだ。過度な出迎えは不要と連絡が行っているはずだが?」
一方駅員達の態度や行動が気に喰わないのかユーシスは目を細めて駅員たちを睨み
「いやいや!そうは言われましても。」
「公爵家のご威光を考えればこれでも足りないぐらいで。」
「ささ、お荷物をどうぞ。」
「ご学友の方々も預からせていただきます。」
睨まれた駅員たちはユーシスの注意があってもなお、特別扱いしようとしていた。
「…………………」
そして駅員たちの態度を見たユーシスが不愉快そうな表情で黙り込んだその時
「――ああ、その必要はない。」
青年の声が聞こえてきた。
「……え……」
「ル、ルーファス様!?」
「な……」
そしてリィン達や駅員たちが声が聞こえた方向を見つめると執事と共に外套を羽織った貴族の青年がリィン達に近づいてきた。
「あ、兄上……!?」
「え……」
「……………」
「親愛なる弟よ。3ヶ月ぶりくらいかな?いささか早すぎる再会だがよく戻ってきたと言っておこう。」
ユーシス達が自分の登場に驚いている中、青年はユーシスを見つめて微笑んだ。
「……はい。兄上も壮健そうで何よりです。」
「そして、そちらが”Ⅶ組”の諸君というわけか。」
「は、はい。」
「自分達のクラスのこともご存知でしたか……」
「ああ、弟からの手紙に書いてあったからね。――ルーファス・アルバレア。ユーシスの兄にあたる。まあ、恥ずかしがり屋の弟の事だ。私という兄がいることなど諸君には伝えていないだろうがね。」
そして青年―――ルーファスは自己紹介をした後苦笑しながらリィン達を見つめた。
「あ、兄上!」
ルーファスの言葉を聞いたユーシスは慌て
(ユーシス、遊ばれてる。)
(あのユーシスさんが慌てるなんて、珍しいですよね。)
(信じられない……この傲岸不遜な男が。)
その様子を見たフィーとツーヤは目を丸くし、マキアスは信じられない表情で見つめていた。
「さて、立ち話もなんだ。このまま諸君の宿泊場所まで案内させてもらおうか。」
「!兄上……まさか?」
「フフ、外に車を停めてある。改めて―――ようこそ翡翠の公都”バリアハート”へ。歓迎させてもらうよ、士官学院”Ⅶ組”の諸君。」
そしてリィン達はルーファスの好意によって宿泊場所までリムジン車で送られる事となった。
~車内~
「なるほど……今回の実習の課題を。」
ルーファスから説明を受けたリィンは頷き
「ああ、父の代理として私の方で一通り取り揃えた。まずは受け取りたまえ。」
ルーファスはリィンに実習内容が書かれてある封筒を手渡した。
「―――確かに。」
「しかしこれも女神の巡り合わせというものか。シュバルツァー卿のご子息が私の弟の級友となるとはな。」
「……?」
「父をご存知なのですか?」
ルーファスの話を聞いたユーシスは不思議そうな表情をし、リィンは目を丸くして尋ねた。
「―――メンフィル帝国領ユミルの領主、テオ・シュバルツァー男爵。その昔、ユミルがまだ帝国領だった頃帝都近郊で開かれた鷹狩りでご一緒させてもらった。その折に、狩りの作法や心構えを一通り教わってね。もう10年前になるか……今も壮健でいらっしゃるのか?」
「はは……はい。相変わらずの狩り道楽ですが。」
「フフ、それは重畳。―――そちらはかの”蒼黒の薔薇”の異名で世を轟かせているルクセンベール卿ですな?」
リィンの話を聞いて笑顔で頷いたルーファスはツーヤに視線を向け
「―――ご挨拶が送れ、申し訳ございません。メンフィル帝国プリネ皇女付き専属侍女長兼親衛隊隊長ツーヤ・ルクセンベールと申します。」
視線を向けられたツーヤは会釈をした。
「ハハ、私如きにそんな丁寧な挨拶はいりません。もし身分の事を気にしておられるのなら、爵位の事を考えれば当主でもない私と比べれば”伯爵”の爵位を既に承っているルクセンベール卿の方が上ですよ。」
ツーヤに会釈をされたルーファスは苦笑しながら答えた。
「……お心遣い、感謝いたします。」
「……先月のケルディックの件は本当に申し訳ないと今でも思っています。父上の暴走を知っていれば、止めていたものを……私があの件を知ったのは事が起こってからでしたので……」
「……その件はもう気にならないで下さい。私やプリネ姫自身は気にしておりませんし、それにこちらとしても兵達を貴国の領に侵入させ、あまつさえアルバレア公爵家にとって重要な収入源であるケルディック地方を取り上げる形になってしまって、私やプリネ姫個人としては申し訳ないと思っております。」
重々しい様子を纏って頭を下げたルーファスの言葉を聞いたツーヤは静かな表情で答え
「いえ、お二人が気に病む必要はございません。本来ならアルバレア公爵家が取り潰しになってもおかしくない出来事なのに、内密に穏便ですませていただいたのですから。今アルバレア公爵家がこうして無事でクロイツェン州を治めていられるのも貴女達―――メンフィル帝国の寛容さのお蔭です。」
「……………」
対するルーファスも静かな表情で謙遜した様子で答え、ユーシスは目を伏せて黙り込んでいた。
「先月の件にて父上もメンフィル帝国に手を出せばどうなるのか思い知っているでしょうから、どうか安心して”特別実習”に取り組んでください。」
「……わかりました。お言葉に甘えて、そうさせて頂きます。」
「―――そしてそちらはレーグニッツ知事のご子息だな?」
ツーヤとの会話を終えたルーファスはマキアスを見つめ
「!……ええ。ご存知でしたか。」
見つめられたマキアスは驚いた後静かな表情で頷いた。
「最近、帝都の公式行事などで何度か顔を合わせていてね。立場の違いはあるが……色々と助言をしてもらっている。これも何かの縁だろう。今後とも弟をよろしく頼むよ。」
「そ、それは………その、前向きに検討させて頂きます。」
「フフ、結構。そちらの可憐な諸君もよしなに。さぞ、弟の学院生活に潤いを与えてくれているのだろうな。」
「きょ、恐縮です。」
「それほどでも。」
「……兄上。俺のことはいいでしょう。それよりも……まさか宿泊場所というのは……」
クラスメイト達に挨拶する様子のルーファスを見たユーシスは呆れた後真剣な表情でルーファスを見つめた。
「フフ、愚問だな。我らの実家たる公爵家城館に決まっているだろう?」
「そ、それは……」
ルーファスの予想通りの答えを聞いたユーシスは複雑そうな表情をしたが
「―――と言いたい所だが、好きにせよとの父上の言葉だ。街のホテルに部屋を用意させた。その方が”実習”とやらに心置きなく集中できるだろう?」
「……ふう……ええ、正直助かります。」
ルーファスの答えを聞き、安堵の溜息を吐いた。
(……?)
(何かあるみたいですね……)
(……………)
実家に泊まらない事に安堵している様子のユーシスを見たリィンは不思議そうな表情をし、エマは小声で呟き、マキアスは真剣な表情で見つめた。
「さて―――短い間だったが楽しい時間もそろそろ終わりだ。諸君の宿が見えてきたぞ。」
そしてリィン達を乗せたリムジン車はホテルに到着した。
~ホテル・エスメラルダ~
「―――送っていただいてありがとうございました。」
「ホテルの手配まで……本当にお世話になります。」
「なに、気にすることはない。本来ならば今宵、饗応の席を用意したかったのだが……あいにくこれから、帝都に出向く用事が入ってね。」
「帝都へ……飛行船で行かれるのですか?」
ルーファスの話を聞いてある事が気になったユーシスは尋ねた。
「父上の名代でね。フフ、この兄がいないのがそれほどまでに寂しいのかな?」
「ふう……ご冗談を。」
ルーファスにからかわれ、呆れた表情で溜息を吐いたユーシスを見たリィン達はそれぞれ脱力し
「ハハ、無愛想な弟だがよろしくやって欲しい。―――女神の加護を。実習の成功を祈っているよ。」
脱力したリィン達を面白そうに見ていたルーファスは車に乗り込んでその場から去って行った。
「……ルーファス・アルバレア。貴族派きっての貴公子という噂は耳にしたことがあったが……」
「何と言うか………すごくできた方みたいですね。」
「ああ、下級貴族である父への配慮もしてくれたし。」
「それに平民のマキアスさん達に対しても丁寧な物言いで接していましたしね。」
「それにユーシス、なんだか弟っぽかった。」
ルーファスが去るとマキアスを筆頭にリィン達はそれぞれルーファスと出会った時の感想を言い合い
「……フン。妙なところを見られたな。しかしこのタイミングで兄上が不在になるとは……少々、誤算だったな。」
ユーシスは鼻を鳴らした後静かな表情で呟いた。
「え……?」
「どういうことだ?」
「……こちらの事だ。すぐにチェックインして実習の課題を始めるとしよう。」
リィンとマキアスの疑問に答える事無くユーシスはホテルの中へと入って行った。
「お、おい……?」
「とにかく荷物を置こうか。」
「そ、そうですね……こんな高級そうなホテル、気後れしちゃいますけど。」
「あたしもこんな高級ホテル、初めてですよ……」
「れっつごー。」
そしてユーシスに続くようにリィン達もホテルの中に入って行った。
ページ上へ戻る