英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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外伝~風の精霊との契約~
依頼をこなし始めたリィン達は魔獣退治の為に街道に出ようとすると、出入り口付近に青を基調とした軍服を身に纏った兵士達がいた。
~ケルディック~
「―――おや、お前達は……?ふむ、このあたりでは見かけない顔だな……何か身分を証明できるものを掲示できるかね?」
自分達に近づいてきたリィン達に気付いた兵士達の小隊長らしき男性はリィン達を見回して尋ねた。
(兵隊……この制服、もしかして。)
「自分達は”トールズ士官学院”の者です。ケルディックには実習で来ていまして。」
「トールズ……あの名門の。」
リィンが名乗り出ると兵士の一人が目を丸くした。
「なるほど、その意匠は確かに見覚えがある。…………申し遅れたな。我々は”クロイツェン州領邦軍”―――このケルディックの治安維持を任されている部隊だ。」
(領邦軍……それって確か。)
(大貴族によって運営され地方の治安維持を行う軍組織……)
(国家正規軍である”帝国軍”とは別系統のいわゆる”準正規軍”だな。)
(クロイツェン州という事は………アルバレア公爵の私兵達ですね。)
領邦軍の小隊長が名乗り出るとアリサ達はそれぞれ真剣な表情で領邦軍を見つめていた。
「ふむ、実習とやらは聞いたことがないが……諸君の学院の卒業生は我が領邦軍にも在籍している。名門の名に恥じぬよう、精一杯やり遂げることだな。」
「………ありがとうございます。まだ未熟な身の上ですが、滞在中はよろしくお願いします。」
「うむ、結構。念の為に言っておくが、余り面倒は起こさぬようにな。」
「気を付けますっ。」
「巡回は以上だ。詰所に帰投する!」
「「ハッ!」」
そして領邦軍の兵士達はその場から去って行った。
「ふう……なんだか緊張したね。」
「でも、クロイツェン州の領邦軍ってことは……」
「ああ……ユーシスの実家、”アルバレア家”が統括しているはずだ。ここケルディックは東部クロイツェン州の北端に位置しているからな。」
「……とにかく、面倒事は起こさないようにしなくてはな。我々は実習に励むとしよう。」
「ええ。――それでは行きましょうか。」
その後リィン達は魔獣退治の依頼を出した依頼人に件の魔獣がいる場所を聞いた後、街道内を探索して依頼の魔獣を見つけ、戦闘を仕掛けた。
~東ケルディック街道~
「みんな、一気に行くぞっ!!」
戦闘開始時リィンの激励によって仲間達は互いの闘志を高め
「エリオット、援護を頼む!」
「うん、任せて!それっ!」
リィンの指示に頷いたエリオットはクラフト―――エコーズビートを発動して自分達に光の膜を覆わせた。
「行くわよ……燃え尽きなさい!―――ファイアッ!!」
そしてアリサは先制攻撃とばかりに導力弓から炎のエネルギーの矢を放つクラフト―――フランベルジュを放ち、放たれた炎の矢は魔獣の巨体に命中した!
「!?―――――!!」
炎の矢が命中した魔獣は驚いた後リィン達に向けて突撃したが
「行くぞ――――鉄砕刃!!」
大剣に闘気を溜め込んだラウラが跳躍して魔獣に叩きつけた。するとその時ラウラと戦術リンクを結んでいるプリネのオーブメントが反応し
「続けて行きます!――――月虹剣舞!!」
ラウラに続くようにプリネは魔獣に詰め寄ってレイピアで美しい舞のような動きで魔獣の腹の部分を滅多斬りを叩き込み
「四の型―――紅葉切りっ!!」
「それっ!!」
プリネの攻撃の最中にリィンが魔獣に詰め寄って抜刀し、更にリィンと戦術リンクを結んでいたエリオットが魔導杖を振るって導力波による弾丸を放って魔獣に命中させた。
「―――――!」
リィン達による集中攻撃を受けた魔獣はその場で暴れ、魔獣の行動に気付いた近距離で攻撃を加え続けていたリィン、ラウラ、プリネは魔獣から離れたが
「―――――!!」
「クッ……!」
「うわっ!?」
魔獣が咆哮をした瞬間に発生した衝撃波をラウラは大剣を構えて防御したが、ラウラの背後にいたエリオットは衝撃波を受けて吹っ飛ばされた!
「エリオット、大丈夫か!?」
「うん、何とか……いてて……」
「今回復します。―――闇の息吹!!」
傷を負ったエリオットを見たプリネは治癒魔術をエリオットに放ち、一方魔獣は再び咆哮を上げようとしたが
「2度も同じ手は喰わないわよ!ファイアッ!!」
「―――――!?」
大きく開けた口にアリサが放った炎の矢が命中して爆発し、悲鳴を上げてその場で暴れた。
「唸れ、炎の風よ!―――熱風!!」
そしてリィンが発動した魔術によって魔獣は炎の竜巻に呑みこまれ
「今だ、ラウラ!」
「任せるがよい!「アルゼイドの秘剣……喰らうがいいっ!!ハァァァァァァァ……!」
リィンの呼びかけに頷いたラウラは大剣に闘気を纏わせて光の大剣に変化させ
「奥義!洸刃乱舞!!」
炎の竜巻に呑みこまれている魔獣に向かって突撃して大剣を振るって闘気の渦を発生させ
「――――――!!??」
闘気の渦に呑みこまれた魔獣は悲鳴の咆哮を上げながら消滅し、多くのセピスを落とした!
「よし―――やったか。」
「な、何とか勝てた………」
戦闘を終わらせたエリオットは安堵の溜息を吐いてリィン達と共に武器を収め
「……『戦術リンク』が無かったらプリネ無しの状態では厳しかったかもしれないわね……”ARCUS”……悔しいけどそれなりに見込みはあるみたいね。」
先程の戦闘を思い出していたアリサは複雑そうな表情で呟いた。
「?悔しい?」
アリサの言葉が気になったリィンは首を傾げて尋ねたが
「あ、ううん、気にしないで。とりあえず退治したことを農家の人に伝えた方がいいわね。」
「ああ、そうだな。」
(アリサさんの実家を考えると……”ラインフォルトグループ”が関わっている事に何か関係がありそうね……)
アリサは答えを誤魔化し、アリサの様子をプリネは静かな表情で見つめていた。
「えへへ……喜んでもらえるといいけどね。」
リィンの言葉にエリオットは嬉しそうな表情で頷いたが
「…………………」
ラウラは真剣な表情でリィンを黙って見つめていた。
「ラウラ、どうしたんだ?」
ラウラの視線に気付いたリィンは不思議そうな表情で尋ねたが
「いや……何でもない。行くとしようか。」
「ああ……?」
答えを誤魔化したラウラの言葉に首を傾げながら頷いた後、依頼人に報告する為に歩き出した。
その後依頼人からお礼に卵や果物をいくつかわけてもらったリィン達は町に戻る為に街道を歩いているとプリネが立ち止まった。
「あら。この気配は。」
「?どうしたの、プリネ?」
プリネの様子に気付いたアリサはリィン達と共に立ち止まって尋ね
「……あの草陰になにかいるな。」
「も、もしかして魔獣……?」
何かの気配に気付いたリィンは草陰を見つめ、リィンの言葉を聞いたエリオットは不安そうな表情をし
「いや……敵意はないようだ。」
リィンと同じように気配を感じ取っていたラウラは首を横に振って答えた。すると草陰から妖精のような姿をした小人が現れてリィン達に近づいてきた。
「へ……」
「わわっ!?」
「よ、妖精??」
「まさかケルディックに伝承上しか存在していない妖精がいるとは……」
自分達に近づいてきた小人を見たリィンは呆け、エリオットは驚き、アリサは戸惑い、ラウラは目を丸くし
「―――いえ。その妖精は古の時代より生きている私達の世界の風の精霊族です。」
(わあ~。パズモ以外の風の精霊なんて初めて見たよ♪)
(……?この気配……どこかで感じた事があるような?)
プリネは冷静な様子で答え、プリネの身体の中にいるペルルは興味ありげな表情で小人―――風の精霊を見つめ、フィニリィは首を傾げた後風の精霊を見つめた。
「ええっ!?」
「ほう……異世界ではこのような存在も普通に存在しているとは……」
「し、しかし……何故その精霊族がゼムリア大陸にいるんですか??」
「さあ……それは私にもわかりません。」
プリネの説明を聞いたエリオットは驚き、ラウラは興味ありげな表情で風の精霊を見つめ、リィンに尋ねられたプリネは不思議そうな表情で答えた後風の精霊を見つめながら答えた。
「……………」
そして風の精霊はアリサの周囲を飛び回りながらアリサを見つめ
「な、何?私に何の用なの??」
風の精霊に飛び廻られたアリサは戸惑っていた。
「―――少し待ってくださいね。――フィニリィ!」
プリネは風の精霊の意思を知る為に精霊族の王族種であるフィニリィを召喚した。
「フィニリィ、そちらの風の精霊の方が何故アリサさんの周りを飛び廻っているのかを聞いてもらえませんか?」
「わかりましたわ。―――そこの貴女、名はなんというのです?我が名はフィニリィ。セテトリ地方の”光燐の谷”を守護する”精霊女王”ですわ。」
「……………?」
プリネの指示に頷いたフィニリィが風の精霊に話しかけると風の精霊は首を傾げてフィニリィを見つめた後フィニリィと精霊でしかわからない言葉で念話や会話をした。
「………そう。覚えのある気配がするとは思いましたけど”リスレドネー”の者でしたか。という事はまさか、この周辺の空間にリザイラが”領域”を作っているのですか?」
「…………………」
フィニリィの質問に風の精霊は首を横に振ってフィニリィに念話を伝え
「なるほど………要するに貴女は気まぐれで”領域”を出てきただけですか。」
念話を伝えられたフィニリィは呆れた表情で溜息を吐いた。
(え、えっと……何を話しているのか、全然わからないね……)
(ああ……)
(というかあの小さい妖精は全然喋っていないのに、どうしてわかるのよ??)
(一体どういう会話内容なのだ?)
一方その様子を見守っていたエリオットは冷や汗をかいて苦笑し、リィンとアリサは疲れた表情で呟き、ラウラは興味ありげな表情で風の精霊とフィニリィを見つめた。
「フィニリィ。それで結局その方は何故アリサさんの周囲を飛び廻っていたのですか?」
「正直余りにもくだらない理由ですわ。その精霊―――ミルモ・メネシスはそこの人間から美味しそうな果物の匂いがしたから、匂いにつられて出てきたそうですわよ。」
プリネに尋ねられたフィニリィは呆れた表情で答え
「へ?果物の匂い??」
「あ………もしかしてさっき貰った葡萄の事かしら?」
フィニリィの答えを聞いたエリオットは首を傾げ、アリサは依頼人からお礼としてもらった果物の一部である葡萄を一房荷物から取り出した。
「……………!」
アリサが葡萄を取り出すと風の精霊―――ミルモ・メネシスは目を輝かせてジッと葡萄を見つめ
「ふふっ、そんなに欲しいのならちょっとだけわけてあげるね。はい。」
ミルモの様子を微笑ましそうに見ていたアリサが葡萄の粒を一粒取って差し出すとミルモは葡萄の粒に飛びついて一心不乱に食べ始めた。
「ふふっ、可愛いわね。」
「ふむ、まさか伝承で出てくる存在をこうも間近で見れるとは。」
「何だか微笑ましいね。」
「ああ。こうして実物を見るとまるで絵本の中から出てきたみたいだな。」
(そう言えばエステルさんと契約していた”昇格”する前の古神に連なる風の精霊―――パズモは林檎が好きだけど……もしかして古神に連なる風の精霊族は果物が好物なのかしら?」
葡萄の粒を一生懸命に食べているミルモの様子をアリサ達は微笑ましそうに見つめ、自分にとってかけがえのない友人に力を貸している使い魔の事を思い出したプリネは興味ありげな表情でミルモを見つめていた。
「………♪」
葡萄を食べ終わったミルモは笑顔をアリサに向け
「ふふっ、喜んでくれたようね。」
笑顔を向けられたアリサは微笑んだ。
「あら……貴女、本気でその人間と契約する気なんですの?」
するとその時ミルモの意思を唯一知る事ができる人物であるフィニリィは目を丸くし
「え……け、”契約”!?そ、それって……」
「俺とベルフェゴールやプリネさん達のように……って事か?」
フィニリィの言葉を聞いたアリサは驚きの表情でリィンやプリネを見つめ、リィンは目を丸くしてフィニリィに尋ねた。
「ええ。そこの人間から、普通の人間と比べると優しさを強く感じて心地良いそうですから、”契約”したいそうですわ。」
「ええっ!?」
フィニリィの説明を聞いたアリサは驚き
「なるほど……さすが精霊だな。」
「ちょっ、リィン!?と、突然何を……」
納得している様子のリィンの言葉を聞いたアリサは驚きの表情でリィンを見つめた。
「今朝も言ったと思うけどアリサは以前の授業の時に俺が当てられた時にこっそり答えを教えてくれようとしたり、俺と仲直りをするきっかけを作ろうとしたんだろう?あんな事があったのに、そこまでしてくれるなんて、普通の人と比べると優しいと思うぞ。」
「な、なななななななっ!?」
リィンの言葉を聞いたアリサは顔を真っ赤にして慌て出し
「リ、リィンさん……」
「き、聞いている方が恥ずかしくなってくるね……」
「う、うむ。今の発言で勘違いする女性がいてもおかしくないぞ。」
(あら♪鈍感に加えて無意識で女を褒める事ができるなんて、大発見ね♪うふふ、この調子だとすぐにハーレムを無意識で築くんじゃないかしら♪)
プリネやエリオットは表情を引き攣らせ、ラウラは頬を赤らめてエリオットの言葉に頷き、リィンの身体の中にいるベルフェゴールはからかいの表情になった。
「全く……―――それと一つ伝え忘れましたけど、ミルモは契約する代わりにある条件を守ってほしいと言ってますわよ。」
その様子を呆れた表情で見つめていたフィニリィはアリサに視線を向け
「じょ、条件??」
フィニリィの言葉を聞いたアリサは首を傾げた。
「時々でいいそうですから、葡萄を自分に分ける事……それだけですわ。」
「へ……た、たったそれだけでいいの??」
フィニリィが口にした条件が余りにも簡単な事に呆けたアリサはミルモを見つめ
「………♪」
見つめられたミルモは嬉しそうな表情で頷いた。
「それだけでいいそうですわ。全く……食べ物につられるとはリザイラは精霊達に一体どういう教育をしているのですか。」
ミルモの意思を伝えたフィニリィは自分が知るある人物の姿を思い浮かべて呆れた表情で溜息を吐き
「え、えっと本当にそれだけでいいのならお願いするわ。」
アリサは戸惑いの表情で頷いてミルモを見つめた。
「…………♪」
アリサの返事を聞いたミルモは笑顔をアリサに向けた後アリサの周囲を飛び廻った後、アリサの身体の中へと同化した。
「ど、どう、アリサ?」
その様子を見守っていたエリオットはおずおずと尋ね
「不思議……頭の中にこの娘―――ミルモの名前が響いてきたわ。」
「身体に異常はないのか?」
アリサの答えを聞いたラウラは尋ねた。
「ええ。えっと確か、リィンやプリネは召喚する時は召喚する人の名前を呼んでいたわよね?―――ミルモ!」
そしてアリサはミルモを自分の傍に召喚し
「これからよろしく……で、いいのよね、ミルモ?」
「……♪」
戸惑いの表情でミルモを見つめ、見つめられたミルモは笑顔で答えを返した。
「おめでとう、アリサ。」
「うむ。精霊に好かれるとは滅多にない事だと思うぞ?」
「そうだね。B班のみんなもこの事を知ったらきっと驚くだろうね。」
「ふふ、よかったですね、アリサさん。」
「アハハ……でも、リィンやプリネが契約している使い魔達と違って、この娘は戦えないと思うのだけれど……」
リィン達に祝福されたアリサは恥ずかしそうな表情で笑った後、苦笑しながらミルモを見つめた。
「見た目が小さいからと言って、精霊を侮ってもらっては困りますわ。―――ミルモ。自分の主に貴女の持つ力を少しだけ見せてあげなさい。」
アリサの言葉を聞いたフィニリィは真剣な表情で答えた後ミルモに視線を向け
「……………」
視線を向けられたミルモは頷いた後、両手を光らせた。すると両手から空気の塊を数個発生させて近くの木に放った。すると空気の塊が命中した木は命中した部分が破壊され、支えを失った木は地面に倒れた!
「なっ!?」
「ええっ!?」
「う、嘘っ!?」
「ほう……」
ミルモの魔術攻撃を見たリィン達は驚き
「今のは大気系魔術よね?」
「ええ。下位大気系魔術――――”空気連弾”ですわ。ミルモ、今度は風の精霊らしく、竜巻が起こせる事を見せてあげなさい。」
魔術の正体がわかっていたプリネに尋ねられて頷いたフィニリィはミルモに指示をした。
「……………!」
そしてフィニリィの言葉に答えるかのようにミルモは頷いた後全身に魔力を纏って両手を掲げた。すると巨大な竜巻が発生して、そして少しの間その場で回り続けると竜巻は消えた!
「…………………」
ミルモが発生させた竜巻を見たリィン達は口をパクパクさせ
「今のは大気系中級魔術、”大竜巻”ね。」
「ま、風の精霊ならできて当然ですわ。」
プリネが呟いた言葉を聞いたフィニリィは冷静な様子で頷いた。
そしてミルモはアリサに近づいて、街道で出会った魔獣達との戦闘の際にできたアリサの掠り傷を片手から淡い光を放って治癒した。
「嘘っ!?傷が……!」
「―――治癒系魔術、”癒しの息吹”ですね。ふふっ、よかったですね、アリサさん。攻撃、回復と両方の魔術を扱えるんですから。」
「ア、アハハ……こんな小さな身体をしているミルモがこんなにも強いんだから、私もミルモに相応しい”主”になる為にもっと頑張らないとね。よろしくね、ミルモ。」
プリネに微笑まれたアリサは冷や汗をかいて苦笑した後ミルモに微笑み
「………♪」
アリサに微笑まれたミルモは笑顔で頷いた。その後リィン達は再び町へと向かい始めた。
(ねえ、フィニリィ。一つ聞きたい事があるのだけど。)
リィン達と共に歩いているプリネは念話でプリネに自分が疑問に思っている事を尋ねた。
(なんですの?)
(先程アリサさんが契約した精霊―――ミルモとの会話で”リスレドネー”や”リザイラ”という言葉が出てきたけど……)
(ああ、その件ですか。”リスレドネー”は”リザイラ”が管理している精霊領域で、”リザイラ”は”精霊女王”へと昇格する以前の私と同じ――――”精霊王女”ですわ。)
(”精霊王女”………しかも”領域”を管理しているという事は相当の力を持っているわね。)
(ええ。あの者がその気になれば天候を嵐へと変える事もできますし、大地の精霊に呼びかけて地震を起こす事も可能ですわ。加えてあの者は人間達が自然を破壊し続ける事で今後自然がなくなって行く事に危機感を抱いていて、確か人間を嫌っているはずですわ。)
(え。ちょっと待って。その”リスレドネー”にいるミルモがこのゼムリアにいるという事はその”精霊王女リザイラ”も……!)
(ええ、ミルモの話ではこの国の近くにある自然に溢れた土地の辺りに自らの領域を同化させて、自然を破壊し続ける人間族の国―――つまりこの国の侵攻に備えて、その時を待っているそうですわ。)
(!?かなり不味い状態じゃない!詳しい場所は聞けなかったの!?)
フィニリィの口から出た想定外の話にプリネは血相を変えて尋ねた。
(さすがに詳しい場所の地名などは人間族の国に詳しくない精霊であるミルモにはわかりませんわ。ですがミルモの話ではリザイラは自分の領域を同化させている土地に住む者達に関しては見逃すと言っていたそうですわ。何でもその者達は自然の恵みに感謝し、自然と共に生きる者達だそうですから。その土地について心当たりはないのですか?)
((自然の恵みに感謝し、自然と共に生きる人間族で、しかもエレボニア帝国付近………一体どこの事かしら?)それでフィニリィ。精霊王女リザイラはいつ頃、このエレボニア帝国に侵攻するのかは聞いていないの?)
(その事に関してはミルモ自身も知らないそうですが………リザイラの様子やリザイラ自身の口がした言葉からしてそう遠くない未来だそうですわ。まあ、精霊にとっての時間間隔は人間と比べると非常に長いですから、最低でも数十年後ぐらいの話だと思いますが……)
(そう………(エレボニア帝国自身の事だから私は干渉できないし、第一そんな夢物語のような話、話してもオリヴァルト皇子やミュラー少佐以外は誰も信じないでしょうね………お父様に事情をお話して、せめてオリヴァルト皇子の耳に入るようにはしておく事……それが私のできる唯一の事ね。後は今後の『特別実習』に向かう地方で運よくリザイラ様とお会いして、何とか説得できればいいのだけど……))
フィニリィの説明を聞いたプリネは真剣な表情で考え込んでいたが
「プリネ?どうしたの?そんなに難しい顔をして。」
「いえ、何でもありません。」
アリサに話しかけられ、すぐに気を取り直してリィン達と共に町に戻って行った。
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