英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第13話
宿酒場に到着したサラ教官は店主らしき中年の女性に親しげな様子で話しかけた。
~ケルディック・風見亭~
「やっほー、おばちゃん。」
「おや、サラちゃん。どうしたんだい?例の話は聞いてるけどあんたも来たのかい?」
「ま、最初くらいは付き添うと思ってね。―――こっちがあたしの教え子よ。」
女性と話していたサラ教官は自分の後ろにいるリィン達を紹介する為に視線をリィン達へと向けた。
「おお、そうかい。こりゃまた若い子達だねぇ。」
「―――初めまして。トールズ士官学院1年”Ⅶ組”の者です。」
「よろしくお願いします。」
「うんうん、今回の話はサラちゃんから聞いてるよ。アタシはマゴット。ここの女将をやってる者だ。とりあえず部屋に案内するから付いておいで。」
「は、はい。」
「ありがとうございます。」
「よろしくお願いする。」
そしてリィン達は女性―――マゴットに付いて行き、2階に上がって行き
「それじゃ、よろしく~。―――あ、ルイセちゃん。地ビールとツマミをお願い♪」
「はーい、ただいま。って、サラさん。まだ昼前ですよ~?」
リィン達を見送ったサラ教官は一人酒を楽しみ始めた。
「ほら、ここが今晩、アンタたちが泊まる部屋さ。」
リィン達を部屋に案内したマゴットは扉を開けて部屋を見せた。
「へえ……って。」
「これは……」
リィン達が部屋を見回すと、部屋は5人分のベッドが置かれてあり、また広さのスペースも通常の宿泊部屋の倍だった。
「うん、一夜の宿としては十分すぎるほどの部屋だな。」
部屋を見回したラウラは頷き
「で、でもベッドが5つってことは……」
「え、えっと……」
ベッドが5つある事に気付いたエリオットは不安そうな表情をし、プリネは困った表情をし
「ま、まさか男子と女性で同じ部屋ってことですか!?」
アリサは驚きの表情で声を上げた。
「うーん、アタシもさすがにどうかとは思ったんだけどねぇ。サラちゃんに構わないからって強く言われちゃってさ。まあ、一応二つと三つ、それぞれ並べて置かせてもらったけど。」
アリサの反応がわかっていたかのようなマゴットは苦笑しながら答えた。
「そ、そんな……」
マゴットの答えを聞いたアリサは肩を落とし
「……困ったな。」
「僕達は構わないけど……女の子はそうもいかないだろうし。」
(二人とも草食ね~。男なら普通、喜ぶわよ?うふふ、私が使い魔になったからにはご主人様が肉食になるように”教育”しないとね♪)
リィンとエリオットはそれぞれ困った表情をし、二人の会話を聞いていたベルフェゴールは苦笑した後からかいの表情になっていた。
「―――アリサ。ここは我慢すべきだろう。そなたも士官学院の生徒。それを忘れてるのではないか?」
「そ、それは……」
ラウラの指摘にアリサは反論が見つからず複雑そうな表情をした。
「そもそも軍は男女区別なく寝食を共にする世界……ならば部屋を同じくするくらい、いずれ慣れる必要もあろう。」
「ううっ……わかった、わかりました!―――あ。でも、プリネは大丈夫なの?え、えっと、もし男子と同じ部屋で寝た事が”両親”にばれたらかなりまずいんじゃ……」
ラウラの言葉に肩を落として頷いたアリサはある事に気付いて言い辛そうな表情でプリネを見つめ
「そ、そうだよな……」
「ううっ、もしプリネの”両親”にばれたら、僕達、無事でいられるかなあ?」
プリネの身分をすぐに思い出したリィンは疲れた表情で頷き、エリオットは不安そうな表情をした。
「フフ、前にも言ったように私は特別扱いはしてほしくありませんし、この位の事でお父様達は目くじらを立てませんよ。それに私は既に一生を共にする事を決めた男性と一夜を共にした事が何度かありますから、一緒の部屋で寝る事くらいは平気ですよ?」
「ええっ!?そ、そそそそそ、それってまさか!?」
「おや、最近の学生は進んでいるねえ。」
「”一生を共にする事を決めた男性”って事は、も、もしかして恋人か婚約者………?」
「あのプリネの相手となるとどんな男性なのか、気になるな……」
微笑みながら答えたプリネの口から出たとんでもない発言に一瞬である事を察したアリサは顔を真っ赤にして混乱し、マゴットは目を丸くし、エリオットは信じられない表情でプリネを目を丸くしているラウラと共に見つめ
(もしかして………という事はあの噂は本当だったんだ……)
唯一人察しがついていたリィンは驚きの表情でプリネを見つめた。
「ええ。まあ”結婚は”まだ許されていませんけどね。」
「結婚は駄目で、付き合う事はオッケーってどういう事??」
プリネの答えを聞いたエリオットは首を傾げ
「フフ、その事についてはいつか話しますよ。」
エリオットに尋ねられたプリネは微笑みながら答えを誤魔化した。
「そ、それはともかく…………―――あなた達。不埒な真似は許さないわよ?」
そして気を取り直したアリサはリィンとエリオットを睨み
「あはは、しないってば。」
「……右に同じく。」
睨まれた二人はそれぞれ頷いた。
「うーん、エリオットはともかく、誰かさんには前科もあるし……よし、いっそ寝る時に簀巻きにでもすれば……!」
(水に流したんじゃないのか……)
(あはは、御愁傷様……)
自分を睨んだ後独り言を呟いたアリサの言葉を聞いたリィンは肩を落とし、エリオットは苦笑し
(ふふっ、ご主人様?もし不埒な真似をしたくなったら、私を呼んでもいいわよ?私ならご主人様なら不埒な真似をされたっていいし、私が結界を展開して誰にも迷惑かけられず、存分に不埒な真似をできるわよ?)
(そんな非常識な事、絶対にしないから。)
ベルフェゴールの念話を聞いたリィンは疲れた表情で念話を送り返した。
「さ、話がまとまったところでこれを渡しておこうかね。」
そしてマゴットはリィンに封筒を渡した。
「士官学院の紋章……」
「『特別実習』とやらの具体的な内容というわけか。」
「ああ、そう聞いているよ。それじゃあね。何か困ったことがあったらアタシに言っとくれ。
リィン達に声をかけたマゴットは部屋から出て行った。
「……とりあえず、中身を見てみない?」
「そ、そうだね。」
「よし――開けるぞ。」
リィンが封筒を開けると実習内容が書かれていた。
「………………………」
内容を読み終えたリィンは黙り込み
「こ、これが特別実習……?」
「な、なんかお手伝いさんというか何でも屋というか……」
アリサとエリオットは戸惑い
「一応、魔獣退治なども入っているようだが……」
(どう考えても遊撃士のやる内容ね。)
ラウラは考え込み、プリネは苦笑していた。
「―――なるほど。そういう事だったのか。」
その時何かに気付いたリィンは呟き
「ど、どうしたの?」
「何か心当たりがあるの?」
リィンの呟きを聞いたアリサとエリオットは戸惑いの表情で尋ねた。
「いや……とりあえずサラ教官に確認してみよう。こういう疑問に答えるために付いて来てくれたみたいだし。」
「ふむ、道理だな。」
「へ、部屋の件も含めて問い詰めてやらなくっちゃ!」
「アリサさん、根に持っていますね……」
そしてリィン達はサラ教官に尋ねる為に一階に降りて探し回るとカウンターで地ビールを飲んでいるサラ教官がいた。
「んくっ、んくっ、んくっ……ぷっっはああああッ!!この一杯の為に生きてるわねぇ!」
「完全に満喫してるし……」
「しかもまだ昼前なんですけど……」
(フウ。シェラザードさんでも、ここまで酷くはなかったと思うのだけれど……)
サラ教官の様子をリィンとアリサは呆れた表情で見つめ、プリネは疲れた表情で溜息を吐いた。
「あら君達、まだいたの?あたしはここで楽しんでるから遠慮なく出かけちゃっていいわよ?」
「も、もう!勝手に纏めないでください!何なんですか、『特別実習』の内容って!?」
「思っていたよりもハードじゃなかったのは安心したんですけど……」
「んー、まあそうね。とりあえず、必須のもの以外は別にやらなくていいわよ?全部君達に任せるからあとは好きにするといいわ。」
「ふむ………」
(私達を試しているのか、それとも酔っているからなのか……どちらなのかしらね?)
アリサとエリオットの疑問に答えたサラ教官の答えを聞いたラウラは考え込み、プリネは苦笑していた。
「だ、だからそうやっていい加減なことを言わないで―――」
そしてアリサが怒りの表情で反論しかけたその時
「いや……―――そうした判断も含めて『特別実習』というわけですか。」
何かを察していたリィンが尋ねた。
「え。」
「ど、どういうこと??」
「うふふん……」
リィンの答えにアリサは呆け、エリオットは驚き、サラ教官は酔っぱらった様子で身体を揺らしていたが
「―――実習期間は2日間。A班は近場だから明日の夜にはトリスタに戻ってもらうわ。それまでの間、自分達がどんな風に時間を過ごすのか……せいぜい話し合ってみることね。」
今まで酔っぱらっていたとは思えない程真面目な表情に戻してリィン達を見つめて答え、その後リィン達は宿を出た。
「……ねえ。いったいどういう事なの?」
「どうやら何か気付いているみたいだけど?」
「ああ、それは……」
アリサとエリオットに尋ねられたリィンが答えかけたその時
「―――先日の自由行動日。そなたがどう過ごしたのかと関係があるといった所か。」
ラウラが答えの続きを口にした。
「え……」
「あら……」
「この前の自由行動日って、リィンはたしか……」
「―――ご明察。ちょうどあの日も、今回みたいに生徒会からの依頼を回されたんだ。旧校舎地下の調査なんていうハードなものもあったけど……他の依頼は、どちらかというと簡単な手伝いや手助け程度だった。」
「それって……」
「……さっきの依頼と同じパターンってことだね。」
リィンの話を聞いたアリサとエリオットはそれぞれ目を丸くした。
「一通りこなしてみると学院やトリスタの街について色々理解できたことが多かった。多分、目的の一つにはそういったものもあると思う。」
「……なるほどね。実際、この町についても本で読んだ知識くらいしか知らないわけだし……」
「そういった依頼を通じて見えてくることもありそうだね。」
「うむ、帝国はとにかく広い。その土地ならではの実情を自分達なりに掴むというのは得難い経験になるだろう。」
「その土地の真実を知りたければ自分の足で確かめろ……そういう事ですね。」
リィンの説明を聞いたアリサ達はそれぞれ納得した様子で頷いた。
「ああ、俺もそう思ってさ。サラ教官の思惑はともかく……まずは周辺を回りながら依頼をこなしていかないか?」
「―――わかった。乗ってやろうじゃない。」
「えへへ、ちょっとワクワクしてきたかな。」
「フフ、そうですね。」
「それでは行くとしようか。」
その後リィン達は”依頼”をこなす為に動き始めた。
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