英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第12話
リィン達が駅に入ると既にB班のメンバーが駅にいた。
~トリスタ駅~
「あら、皆さん。おはようございます。」
「そちらも出発か。」
「……おはよ。」
「おはようございます。天気も晴れで幸先がいいですね。」
リィン達に気付いたエマ、ガイウス、フィー、ツーヤはそれぞれ声をかけてきた。
「ああ、おはよう。」
「そっちはもう出発するみたいね?」
「ええ、B班のパルム市はここから結構離れていますから。今から出発したとしても夕方近くに到着する見込みです。」
「ふむ、確かにそのくらいはかかるか。」
「たしか帝国で一番南にある町だったよね。」
エマの話を聞いたラウラとエリオットはそれぞれ位置を思い出しながら呟き
「ええ。リベール王国やメンフィル領にもかなり接近している町です。それはともかく……そちらは相変わらずのようですね。」
二人の言葉に頷いたプリネは冷や汗をかいて苦笑しながら互いに背を向けているマキアスとユーシスに視線を向けた。
「………………………」
「………………………」
互いに背を向けている二人は何も答えず黙り込み、二人の周囲は険悪な空気をさらけ出していた。
「ねえ、あれって……」
「ずっと、あの調子なのか?」
二人の様子を見たアリサとリィンは小声でB班の他のメンバーに尋ねた。
「まあ、そうだな。」
「その、思った以上に溝が深いみたいで……」
「実習先で喧嘩をしないか、かなり不安なんですよね……」
「正直、うっとおしい。」
二人の質問にガイウスは頷き、エマとツーヤは不安そうな表情をし、フィーはジト目になって答えた。
「う、うーん……」
「やれやれ、こちらの方ほど簡単には行かないようだ。」
「せめて二人がそれぞれどこかで妥協してくれればよいのですが……」
4人の答えを聞いたエリオットや、ラウラ、プリネはそれぞれ困った表情をしていた。
「そういえば……アリサさん、リィンさんと仲直りできたんですね?」
「べ、別にそんなに仲が悪かったわけじゃ……そもそも仲直りって最近知り合ったばかりだし!」
(フフ、反応が初心でホント、可愛いわね♪)
エマの指摘に慌てている様子のアリサを見たベルフェゴールは微笑ましそうに見つめていた。
「よかったな、リィン。」
「やったね。」
「誤解が解けて何よりです。」
「はは……ありがとう。」
「だ、だからそういう大げさな話じゃないってば!」
ガイウスやフィー、ツーヤに祝福されたリィンは苦笑し、アリサは顔を真っ赤にして怒鳴った!
まもなく2番ホームに帝都行き旅客列車が到着します。ご利用の方は、連絡階段を渡ったホームにてお待ちください。
「……フン。」
「時間だ、行くぞ。」
そして列車が来る放送が聞こえるとユーシスとマキアスはそれぞれホームへと向かっていった。
「……大変そうだけどそちらも頑張ってくれ。」
「あの二人の間を取り持つのは難しいかもしれないけど……」
「ああ、やるだけやってみる。」
「あたしも出来る限りの事はしてみます。」
リィンとエリオットの応援の言葉にガイウスとツーヤは頷き
「そなたたちにも武運を。気を付けて行ってくるといい。」
「互いに良い報告ができるように、私達も頑張りますので、そちらも頑張ってください。」
「初めての特別実習……お互い頑張りましょう。」
「ふふっ、はい。」
「……じゃね。」
ラウラとプリネ、アリサの言葉に頷いたエマとフィーはガイウスと共にマキアスとユーシスの後を追い、到着した列車に乗り込み、リィン達も乗車券を購入した後列車に乗り込んだ。
~列車内~
「えっと、ケルディックまで1時間くらいなのかな?」
「そのくらいのはずだ。先日、トリスタに来る時にちょうど乗り換えたからな。」
「そうか、ラウラの故郷の”レグラム”は確か……」
「ケルディックに乗り換えてバリアハートに向かうのよね?」
「うん、そこから更に列車を乗り継いだ終点になる。はっきり言って僻地だな。」
リィンとアリサに尋ねられたラウラは頷いた後故郷の牧歌的な景色を思い浮かべて苦笑した。
「フフ、ロレントも良い勝負だと思いますけどね。」
「”ロレント”?」
ラウラの言葉に微笑むプリネの言葉を聞いたエリオットは首を傾げ
「確かリベール王国の都市の一つ……よね?」
アリサは自分が覚えている知識を思い出しながら尋ねた。
「はい。幼い頃からロレント郊外にある大使館で育ちましたからロレントは私にとって第二の故郷と言ってもおかしくありませんから。」
「あ。そう言えばロレント市はメンフィル大使館やアーライナ教の大聖堂がある事で有名よね。」
「へえ……意外だなあ。お姫様なんだからてっきりメンフィル帝国のお城で育ったのかと思っていたけど。」
プリネの話を聞いてある事を思い出したアリサは目を丸くし、エリオットは不思議そうな表情で尋ねた。
「ふふっ、確かに礼儀作法等様々な勉強は城で習いましたけどお父様とお母様は基本、大使館に住んでいますから、城と同じくらいの頻度でロレントにある大使館に住んでいましたので。それにしても……フフ、ラウラさんの故郷が僻地である事を考えると不思議な共通点がありますね。」
「共通点?」
微笑むプリネの言葉に訳がわからないリィンは首を傾げて尋ねた。
「皆さんはリベールの”剣聖”―――カシウス・ブライト准将は知っていますか?」
「えっと、確か”百日戦役”でエレボニア帝国軍を追い払ったリベールの”英雄”、だよね?」
「私も勿論知っている。剣の腕も父上と互角と言われるほどの武人で、また戦略眼も優れている勇将と聞いている。」
「……俺も勿論知っている。剣の道に関わっているなら必ず聞く名だし、何より俺と同じ八葉一刀流の剣士であり、”皆伝”を頂いている方だからな。」
「リベールにそんな凄い人がいるんだ……でも、その人がラウラの故郷が僻地である事とどう関係があるのかしら?」
プリネの質問に答えたエリオット、ラウラ、リィンの説明を聞いたアリサは目を丸くした後尋ねた。
「そのカシウス准将の実家がロレント市なんです。カシウス准将と同じくらい剣士として有名な”光の剣匠”―――アルゼイド子爵が納められている領地も僻地という事なのですから、不思議な偶然だと思いませんか?」
「なるほど………」
「確かに凄い偶然ね……」
プリネの説明にラウラは頷き、アリサは目を丸くした。
「はは、僻地っていうなら俺の故郷も大概だけど……たしかケルディックと言えば交易地として有名だったよな?」
「うん、『大市』がある場所って昔から知られているみたいだね。」
「実習前のおさらいとして一応、確認しておきましょうか。交易地ケルディック―――帝国東部、クロイツェン州にある昔から交易が盛んな町ね。帝都と大都市バリアハート、更には貿易都市クロスベルと結ぶ中継地点としても知られているわ。」
「このあたりは昔から大穀倉地帯としても有名だ。農作物全般からバリアハート特権の宝石や毛皮、大陸諸国からの輸入品まで……一年を通して開かれる大市では様々なものが商われているらしい。」
「それは凄そうだな……」
「ええ……町としてもかなり栄えているのでしょうね。」
「うーん、ちょっと楽しみかも。」
アリサとラウラの確認の説明にリィンとプリネは目を丸くし、まだ見ぬ未知の土地にエリオットは嬉しそうな表情をした。
「まあ、ただの旅行で済むのなら気が楽なんだけど……サラ教官の事を考えると全然安心できないのよね……」
「ううっ……それを言わないでよ。」
「この『特別実習』が始まるまで色々と驚かされましたものね……」
疲れた表情で溜息を吐いたアリサの言葉を聞いたエリオットは不安そうな表情をし、プリネは苦笑していた。
「『特別実習』か……何をさせられるんだろうな。士官学校である以上、厳しいものが想像できるけど。」
「まあ、そうでなくてはわざわざ出向く甲斐がない。せいぜい楽しみにしておこう。」
「う、うーん……」
「とりあえず、到着したら宿に立ち寄ろう。そこで実習内容を記した封筒を受け取る手筈のはずだ。」
「ああ、そうだったわね。しかしさっきの駅といい、妙に準備が良すぎるような……」
リィンの言葉に頷いたアリサがある事に気付いてジト目になったその時
「―――それだけ士官学院も君達に期待してるってこと。」
サラ教官がリィン達に近づいてきた。
「へっ………」
「サ、サラ教官……?」
「……どうも朝から見かけないと思ったら。」
サラ教官の登場にリィン達は目を丸くした。
「Ⅶ組A班、全員揃ってるみたいね。ちゃんと仲直りもして、まずは一安心ってとこかしら?」
「って、見ていたかのように言わないでくださいっ!」
「あはは……」
「フフ……」
サラ教官の言葉に突っ込んでいるアリサの様子をエリオットは苦笑し、プリネは微笑ましそうに見つめていた。
「その、どうして教官がここに?俺達だけで実習地に向かうという話だったんじゃ?」
「んー、最初くらいは補足説明が必要かと思ってね。宿にチェックインするまでは付き合ってあげるわ。」
「そ、それは助かりますけど………」
「でも、どちらかというとB班の方が心配のような気が。」
「サラ教官がこちらに同行しているという事はレオン教官があちらに同行しているのだろうか?」
サラ教官の説明を聞いたアリサとエリオットは戸惑い、ラウラは尋ねた。
「あー、あいつは”別の仕事”があるから同行していないわ。ったく、幾ら何でも過保護すぎじゃないかしら?」
ラウラの質問に疲れた表情で答えたサラ教官は呆れた表情でプリネに視線を向け
「アハハ……では何故私達A班の方に?現状ですとB班に教官が同行すべきかと思いますが。」
視線を向けられたプリネはサラ教官の意味ありげな言葉や表情からレーヴェが陰で自分を護衛している事を察し、苦笑しながら答えを誤魔化した後尋ねた。
「えー、だってどう考えてもメンドクサそうだしー。それにほら?現役の親衛隊長のツーヤが何とかしてくれるかもしれないし?まあ、あの二人が険悪になりすぎてどうしようもなくなったらフォローに行くつもりだけど♪」
そしてサラ教官の答えを聞いたリィン達は脱力し
(険悪になるとわかっててあの班分けにしたみたいね……)
(完全に確信犯だな……)
(確かに隊内の不和を防いだり解決する事はその隊を率いる隊長の役目ですけど……さすがにあの二人の場合は難しいと思うのですが……)
アリサとリィンはそれぞれ呆れた表情で疲れた表情をしているプリネと共にサラ教官を見つめた。
「ま、あたしの事は気にしないで話を続けてちょうだい。ちょっと徹夜続きでね~。悪いけど寝かせてもらうわ。」
「え――――」
「……………すーっ……すーっ……」
そしてサラ教官は近くの席に座って眠り始めた。
「ね、寝ちゃった!?」
「只者ではないな……」
すぐに眠り始めたサラ教官を見たエリオットは驚き、ラウラは呆れ
「とても士官学校の教官に見えないんですけど……」
「まあ、普段の私生活も色々と問題がありますからね……」
ジト目のアリサが呟いた言葉を聞いたプリネは苦笑し
「ま、まあ教官のことは気にしないでおこう……(駅に到着したらちゃんと起こさないとな。)」
リィンは苦笑しながらサラ教官を見つめていた。そしてリィン達が談笑して数十分後、列車はケルディックにかなり近づき始めた。
「あ……」
「うわあ……!」
「綺麗……」
「ええ……もしかして収穫期でしょうか?」
「うん、見事だな。秋播きのライ麦がちょうど実りを迎えたらしい。」
リィン達は窓の外から見える景色に少しの間見惚れていた。
「麦って秋に実だけかと思ったけど……」
「このあたりは温暖で土地も肥沃みたいだからな……でも、まるで絵みたいな風景だ。」
リィン達が窓の外の景色を見つめていると列車内の放送が入った。
本日はクロスベル方面行き、”大陸横断鉄道”をご利用頂きありがとうございます。次はケルディック、ケルディック。バリアハート方面にお越しの方は次でお乗り換えとなります。
「そろそろ着くみたいね。」
「一応、サラ教官を起こしておくか……」
その後サラ教官の起こしたリィン達は列車が駅に到着すると列車から降りて宿に向かい始めた。
~交易町・ケルディック~
「へえぇ……ここがケルディックかぁ。」
「同じ商業都市のボース市とはまた違った風景ですね……」
「のんびりした雰囲気だけど結構人通りが多いんだな。」
初めて見る風景にエリオットやプリネ、リィンは目を丸くしていた。
「あちらの方にある大市目当ての客だろう。外国からの商人も多いと聞く。」
「なるほど、帝都とは違った客層が訪れてるのね。」
「ちなみに特産品はライ麦を使った地ビールよ。君達は学生だからまだ飲んじゃダメだからね~。」
ケルディックの景色を珍しそうに見回している中、サラ教官は勝ち誇った笑みを浮かべてリィン達を見つめた。
「いや、勝ち誇られても。」
「別に悔しくありませんけど……」
サラ教官の勝ち誇った笑みを見たリィンとアリサは呆れた。
「さてと、それじゃあ早速、今日の宿を案内してあげるわ。と言ってもすぐそこなんだけど。」
「あ、はい。」
「お願いします。」
「それでは行きましょうか。」
そしてリィン達はサラ教官を先頭に歩き始めた。
「”紫電”の君に麗しき”姫君の中の姫君”の君――――こんな所でお目にかかるとは。フム、何やら興味深い雛鳥達を連れていたが……フフッ、彼らはかの”ブレイサーロード”や我が好敵手、そして”特務支援課”の諸君のように、私の”挑戦”を受ける資格がある者達へと成長してくれるのかな?」
その様子を白を基調としたスーツを身に纏う青年が興味深そうな表情で見つめた後いつの間にか自分の背後に現れた人物へと話しかけ
「――さてな。やけに覚えのある気配がすると思っていたが……―――やはりお前だったか。”怪盗紳士”ブルブラン。」
話しかけられた人物―――レーヴェは目を伏せて答えた後静かな表情で青年―――ブルブランを見つめた。
「フフ、”環”の件……いや、仮初めとはいえこの私がいたそうだから、”影の国”以来と言った所かな?”剣帝”レオンハルト――――いや、レーヴェ。」
見つめられたブルブランは振り向いてレーヴェを見つめて尋ね
「やはり”結社”は”影の国”の情報は既に手に入れていたか………――それよりどういう風の吹き回しだ。いつも付けていた仮面はどうした?」
ブルブランに見つめられたレーヴェは真剣な表情で呟いた後素顔を現しているブルブランを見つめて尋ねた。
「フッ、今の私はこの陰謀渦巻く帝国のしがない男爵さ。貴族として社交界に出るのならば仮面は失礼だろう?」
「…………………」
ブルブランの嘘くさい説明を聞いたレーヴェは何も答えず目を細めてブルブランを見つめ
「―――まあいい。俺達に仇名すつもりがないのならば、お前が帝国で何をしようと関係はない。邪魔をしたな。」
やがて溜息を吐いた後ブルブランに背を向けた。
「フフ、”漆黒の牙”共々元気そうで何よりだよ。”蒼の深淵”も君がこの帝国に……しかも自分の近くにいると知ったら、喜ぶのではないかい?」
「――生憎ながらあのような毒婦、こちらから願い下げだ。」
「ハハ、相変わらず厳しい男だ。そんな厳しい男を射止めた”姫君の中の姫君”の君もさすがと言った所か。」
「…………………」
ブルブランの言葉を聞いたレーヴェはブルブランが元々プリネに興味があった事を思い出し、振り向いてブルブランを目を細めて見つめた。
「フフ、そう睨まなくても”剣帝”を敵に回してまでかの姫君を狙うつもりはないし、”環”の件にて私は一度敗北している。にも関わらず懲りずに狙う等、余りにも無粋すぎる事だ。私が今ここで君と居合わせたのは唯の偶然さ。――では、私はこれにて失礼する。また会う時を楽しみにしているよ。」
レーヴェに見つめられたブルブランは静かな笑みを浮かべてその場から去り
「……奴個人の趣味か”結社”の次の”計画”の為に帝国に居座っているのか、どちらかわからないが………―――俺達に仇名すなら斬るだけだ。」
去って行くブルブランを見つめながら呟いたレーヴェは再び背を向けてその場から去って行った……………
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